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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)453号・昭47年(ワ)3297号 判決

主文

原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告が請求原因として主張する一ないし五の事実は当事者間に争いがない。

したがつて、(イ)号装置が本件登録実用新案の技術的範囲に属することは当事者間に争いがないところである。

二そこで、先使用の抗弁について判断する。

補助参加人がオンレーター、高圧ポンプ等の化学機械の製造販売を目的とする会社であること、手塚幸平が昭和四〇年二月頃原告会社を訪れたこと、原告会社では当時被告ら主張の方法で飴を製造していたこと、補助参加人の従業員二名が原告会社に行き飴のたき上げ温度、その粘度等に関する資料を集めたこと、手塚幸平が同年五月頃訴外伊藤寿と一緒に原告会社工場に赴き、オンレーターでたき上げた飴を成型器に注入することの可否につき確認したこと、補助参加人と訴外会社との契約条件がその目的物を除いて被告ら主張のとおりであること、黄金糖連続製造装置の概要が被告ら主張のとおりであること及び右装置について被告ら主張のとおりの問題点が発生したので、その後これをその主張のとおり改良したこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがないところ、右事実に<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

すなわち、

(一)  オンレーター、高圧ポンプ等の化学機械の製造販売を目的とする会社である補助参加人は、昭和四〇年初め頃、古くからの取引先である訴外豊田通商株式会社から原告に納入するための飴連続製造装置の開発依頼を受けた。

そこで、補助参加人の技術部長である手塚幸平らは、まず、同年二月頃、原告会社工場を見学して原告における飴の製造方法を確認した。

それによると、原告においては当時泥飴を銅製の鍋に入れて加熱し、水分を蒸発させて適度の濃度にたき上げ、これを鍋から手作業で一定の飴型に流し込み、一定時間そのまま冷却固化させ、固化した後に手作業で飴型をひつくり返して飴をたたき落すという方法により飴を製造していた。

したがつて、補助参加人としては原告らの要請する飴連続製造装置を開発するには泥飴を常に一定の濃度にたき上げ、これを順次自動的に飴型に注ぎ込み、一定時間に冷却固化させる工程を連続的に行わせる必要があつた。

そこで、前記手塚幸平らは、右の工程のうち飴を一定の濃度にたき上げる部分は補助参加人において製造しているオンレーターを使用し、飴型はコンベア状に並設して移動させ順次これにたき上げた泥飴を充填機により充填することとし、右コンベアと充填機とは同一のモーターで駆動して連動させるという基本的な構想を抱いた。

そして、前記手塚幸平らは、同年三月頃、原告から原料の提供を受け、また、訴外タクマクレイトンサービス株式会社所有のボイラーと補助参加人の製造にかかる加熱オンレーターを使用して原告会社代表者らの立会の下に飴のたき上げテストを行つた結果、右加熱オンレーターのほかに蒸発オンレーター(濃縮オンレーター)をも使用すれば、前記構想のうちオンレーターを使用して原告らの要求する黄金色の水分の少ない飴をたき上げることができるとの一応の見通しが立つた。

次いで、補助参加人の従業員山田宏一は、同僚の木村某と一緒に、同年四月頃、原告会社工場に赴き、オンレーターによつて飴をたき上げる温度、その間の時間、色の変化、充填機により成型器に注入できる温度の限界、成型器に注入後の冷却時間、成型型器裏金をはずす時期等に関する資料集めを行つた。

その結果、飴を摂氏一七五度までたき上げて約一分間放置するとその色は原告の要求する黄金色にはならず赤茶色となること、これを成型器に注入して室温で約二五分間放置するとそれから容易に抜けること、たき上げた飴を充填機でピストン式に成型器に注入する場合には糖化現象が発生すること、たき上げた飴をノズルの先端から約一〇センチメートル離れた成型器に注入する場合には落下に要する時間は約一秒であること、飴は摂氏一〇〇度前後までは十分に流動性を保有していること、充填可能な最低温度は摂氏一一〇度前後であること等の事実が判明した。

更に、前記手塚幸平は、同年五月頃、補助参加人の取引先であり、当時主として化粧品製造用の充填機を製造していた無妙工業こと伊藤寿と一緒に原告会社工場に赴き、原告における飴の製造方法を見学して、オンレーターでたき上げた飴を充填機で注入することの可否につき確かめた結果、充填機による充填が可能であるとの目途がついた。

かくして前記手塚幸平らは飴続製造装置の開発に必要な資料を蒐集し、これらのデーターを基礎として机上計算を行つてオンレーターの大きさ、成型器及びその裏金の各コンベアの長さ、冷却装置の構成、充填機の構造、成型器及びその裏金の構造等を決定した。

そして、右手塚幸平の指揮監督のもとに設計担当者が、黄金糖連続製造装置の配置図(丙第二号証)及びフローシート(丙第第三号証)、成型器(丙第四号証の一)、成型器裏金(丙第四号証の二)の各製造設計図を同年六月中旬頃までに、また、その後充填機ノズル、バルブ本体、プランジヤー等充填機関係の製造設計図(丙第七ないし第一三号証)をそれぞれ完成させた。

ところで、右成型器の設計図によると、成型器は上下を開放した飴菓子型と通気孔とを交互に多数並設したものとなつている。

それは、一方では前記手塚幸平らとしては成型器をダイカストにより製作する方針であつたから鋳造品の肉厚をできるかぎり均一にするために飴菓子型と飴菓子型との間に空間を設ける必要があると考えていたが、他方前記伊藤寿が飴菓子型中の飴を急激に冷却させるとの見地から飴菓子型と飴菓子型との間に通気孔を設ける必要を助言してくれたこともあつて、右のような成型器を考案したのである。

(二)  このようにして飴連続製造装置の開発に成功した補助参加人は、昭和四〇年六月一五日、訴外豊田通商株式会社との間で同人が別紙(三)図面及び同説明書記載の飴剤成型部装置を含む黄金糖連続製造装置二式を製作して右訴外会社に対し次のとおりの条件で売り渡す旨約した。

(1)  装置の概要

原料溶解槽で原料を溶解して原料受槽に送り、受槽の摂氏一〇五度の原料糖液をタンク及び新設タンクにより連続的に取り出し、加熱オンレーターに圧入して摂氏一七五度まで加熱して着色を起させ、次いで濃縮オンレーターに送つて水分を蒸発させて0.02パーセント以下に下げ、更に充填機に送り、充填機で一個五グラムの型に流し込み、コンベア上で冷却固化させた後、自動的に作用する打落装置によつて固化した飴を型より抜いてコンベアで包装機に送り込む装置。

本件契約の対象には、原料受槽液位警報器及び出口弁切替装置、糖液定量送液装置、糖液加熱装置、糖液濃縮装置、充填機及び冷却コンベア、飴送りコンベア、計器及び操作スイツチ盤、戻し槽及び排水槽、現地工事がそれぞれ含まれるが、ボイラー、冷凍機、溶解槽、受槽成型器、その裏金等は原告において準備したものを前記黄金糖連続製造装置に取り付ける。

(2)  代金 一式当り一、〇〇〇万円

(3)  受渡期限 昭和四〇年八月三一日

(4)  受渡場所 大阪市住吉区墨江西八丁目一九番地株式会社瀬戸口製菓所

(5)  受渡方法 納入場所据付試運転完了渡し

(6)  製品条件

(イ) 飴の色は淡黄色であること、但し、サンプルを原告より提出し、それと比較する。

(ロ) 飴に泡のないこと。

(ハ) オンレーターは摂氏一七〇度から一八〇度まで加熱できること。

(ニ) 飴の水分は0.02パーセント以下であること、但し、原料配合は砂糖三〇キログラム、水飴4.5キログラム、水七キログラムとする。

(ホ) 飴にバリのでないこと。

(ヘ) 飴一個当りの重さは五グラムにすること。

(ト) 飴には結晶の入らないこと、但し、約一ケ月後には結晶するものとする。

そして、補助参加人は右契約の目的物のうち充填機及び冷却コンベアの製作を前記無妙工業こと伊藤寿に依頼し、糖液加熱装置、糖液濃縮装置等は自ら製造した。

他方、原告は右契約において自らの責任で準備することになつていた溶解槽及び受槽の製作を訴外浅部築炉工作所に、冷房装置の製作を訴外伊丹金属工業株式会社にそれぞれ依頼するなどしたほか、成型器及びその裏金の製作を訴外帝国ダイカスト工業株式会社と訴外甲斐製作所に依頼した。

右帝国ダイカストは、成型器及びその裏金を製造するに際しては、前記補助参加人が作成した製造設計図を基礎として、成型器については上下を開放した飴菓子型と通気孔とを交互に多数並設したものとするという基本的な構成を変更することなく、ダイカスト専門業者の立場から材質を青銅鋳物(BC)からアルミニウム合金ダイカスト一種(ADCI)に変更したり、通気孔の右上と左下の各部分に押出し装置を設けたりして最終的な設計図(承認願図、甲第一二号証)を作成したうえでこれらを製作して原告に納入した。

その後、補助参加人は右契約にもとづいて昭和四〇年九月頃から前記黄金糖連続製造装置の据付工事を開始し、同月末頃にはこれを完成させ、前記のとおり原告が準備した成型器、その裏金などを取り付けて試運転を行つた。

それによると、原告が右契約において要求する飴の含水量よりは多いけれども、製品として販売できる飴菓子が全製品の六、七割程度できたので、原告はそれ以来これらを製品として市場に販売しはじめた。

しかしながら、右のとおり飴の含水量は未だ多かつたし、また、不良品がかなりの割合で発生したほか、成型器から固化した飴が抜けにくい等の問題点があつた。

そこで、前記手塚幸平らは昭和四〇年六月初めに工場長として原告会社に入社した訴外勝村茂夫とも協議してこれらの問題点を次のとおり改良していつた。

その第一点は、蒸発水を排出するクーラーが機能しないことが原因で濃縮オンレーターにおいて水分が十分に蒸発しないことである。

したがつて、被告ら主張のとおり右クーラーを取りはずして蒸気排出フアンを取り付けたり、濃縮オンレーターの出口調圧弁を除去して糖液を充填機に送る配管を太くしたり、濃縮オンレーターと充填機との過程にフアンを取り付けたりした。

その第二点は、成型器内の飴が十分に冷却されないこと及び成型器内での飴の脱水が十分でなかつたことが原因で成型器から固化した飴が容易には抜けないことである。

ところで、成型器の飴を冷やす方法としては、当初、コンベア上にトンネルを設け、その中に冷凍機で冷却させた冷たい空気を送つていたが、右のとおりの欠点があつたので、この方法を中止した。

そして、右の方法に代つてコンベアの長さを延長することとし、成型器コンベアについては一二メートル延長して約三五メートルに、裏金コンベアについては2.2メートル延長して6.7メートルにした。

また、右の問題点を解消させるために飴打落装置を改良した。

以上の問題点のほかに、充填機関係において、ホツパーの容量が小さすぎること、充填機とコンベアとがうまく連動しないこと及び充填機、ホパー内の古い飴が固まるために充填機が作動しないことなどの問題点が発生したが、これらの点はホツパーの容積を大きくしたり、充填機プランジヤーの穴を改良したり、充填機及びホツパーの掃除を完全にすることによつて解決された。

さらに、前記手塚幸平らは翌昭和四一年三月末までの間に濃縮オンレーター上部の蒸発蒸気出口孔や同オンレーター蒸発蒸気の浄化槽を設置したり、スチーム配管の仮配管を本配管に変更するなど細部に亘つて追加工事を実施して前記黄金糖連続製造装置についての問題点をほぼ全部解消させた。

(三)  他方、被告会社は、前記飴連続製造設置の販売に努めていた補助参加人より昭和四二年七月一七日右装置の見積書の交付を受けて高温処理飴の製造計画に着手した。被告会社は、翌昭和四三年三月一九日には訴外吉嶺汽罐工業株式会社から右装置に必要な最高使用圧力一平方センチメートル当り一六キログラムの「よしみね水管式ボイラー」一基の見積書を受領し、同月末頃これを買受けた。

かくして被告会社は昭和四三年七月二〇日補助参加人との間で同人が別紙(二)図面及び同説明書記載の飴剤成型部装置を含む飴連続製造装置一式を製造してこれを次のとおりの条件で被告会社に売り渡す旨約した。

(1)  目的物

原料を配合して溶解したものを加熱、濃縮し、これを充填機で型込し、冷却させるまでの工程であつて、原料定量ポンプ装置、加熱オンレーター装置、蒸発オンレーター装置、充填機及びコンベア装置、計器及び操作盤、現地工事及び試運転立会調整を含むものである。

(2)  代金 二一〇〇万円

(3)  代金支払方法 契約時、補助参加人工場出荷時、同工場出荷後一ケ月以内の三回に分割して各七〇〇万円宛を支払う。

(4)  引渡日

第一系列 同年一〇月三一日

第二系列 同年一一月一五日

(5)  引渡場所 大阪市東区一二軒町一七の四 被告会社工場据付渡し

成型器及びその裏金については、原告が前記黄金糖連続製造装置を買受けた場合と同様に被告会社において準備することになつていたので、被告会社は訴外株式会社神戸製鋼所にその製作方を依頼した。

右訴外会社は、前記帝国ダイカスト工業株式会社と同様に補助参加人が作成した図面(乙第四号証の一、二)を基礎としてその製作承認用図面(乙第七号証の一、二)を同年一〇月一日に作成した。

また、被告会社は同年九月中旬頃には本件飴連続製造装置の配置図(乙第五号証)を補助参加人より受領した。

以上の各事実が認められ、証人勝村茂夫の証言及び原告会社代表者の供述中、右認定に反する部分はその余の前掲各証拠に照らしてたやすく措信できず、甲第一八号証の一、二もいまだ右認定を左右する証拠とは解しえないし、他には右認定をくつがえすに足りる的確な証拠はない。

また、別紙(二)、(三)各図面及び同説明書の記載によると、同記載の飴剤成型部装置は(イ)号装置と同一のもので、本件考案の構成要件をすべて具備していると認められる。

右認定の事実によると、前記手塚幸平は補助参加人が訴外豊田通商株式会社より飴連続製造装置の開発方を依頼されて以来、飴の色、その含水量等飴自体に関する条件についても責任を負担したうえ、補助参加人の従業員山田宏一、訴外無妙工業こと伊藤寿らをその補助者として使用して右装置の開発に必要な色々な資料を蒐集し、これらのデーターを基礎として机上計算を行ない、成型器、その裏金等右装置の各部分の製造設計図を作成し、昭和四〇年六月中旬頃には本件考案を含む右装置についての考案を完成したものと認められる。

もつとも、前掲勝村茂夫の証言及び原告会社代表者の供述によると、右本件考案が完成した直前である昭和四〇年六月初めに原告会社に入社した訴外勝村茂夫が前記黄金糖連続製造装置が原告会社に納入されて試運転が行われた後に右装置の実施上の問題点を解決するうえで相当な役割を果したこと及び右手塚幸平らが前記データーを蒐集するに際して本来オンレーター等の化学機械の製造販売を業とする補助参加人と異なり長年に亘り飴の製造販売に従事してきた原告会社代表者らから飴の温度と着色の関係等飴自体の性質に関して適切な助言を得たことが認められるけれども、未だ右事実のみでは前記認定の手塚幸平が本件考案を考案したとの事実をくつがえすことはできない。

しかして、被告会社は右認定のとおり本件考案の出願日である昭和四三年一〇月一二日以前に前記飴連続製造装置に特有な設備の一つである高圧ボイラーを購入し、次いで補助参加人との間で別紙(二)図面及び同説明書記載の飴剤成型部装置を含む右装置につきいわゆる製作物供給契約を締結したうえ、成型器、その裏金の製作方を訴外株式会社神戸製鋼所に依頼し、同所においてその最終設計図を完成させていたものである。

したがつて、被告会社は、本件実用新案登録出願に係る考案の内容を知らないで自らその考案をした前記手塚幸平から補助参加人を介して昭和四二年七月中旬頃知得して、本件登録実用新案出願の際、現に前記被告会社工場において本件考案の技術思想と同一の別紙(二)図面及び同説明書記載の飴剤成型部装置の使用の準備をしていたのであるから、本件実用新案権について先使用による通常実施権を有するものというべきである。

それ故、被告ら主張の先使用の抗弁は理由がある。

三そうすると、その余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求はすべて失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(大江健次郎 小倉顕 北山元章)

別紙(一)〜(三)<省略>

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