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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)769号 判決 1978年4月24日

原告 関西製綱有限会社

右代表者代表取締役 窪田治郎吉

右訴訟代理人弁護士 中元勇

亡谷崎都留子訴訟承継人被告 谷崎雅弘

右訴訟代理人弁護士 松隅忠

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.被告は原告に対し、別紙第三建物の表示記載の建物の別紙第四建物平面図の一階平面図の「谷崎都留子居室」約九・九一平方メートル(約三坪)及び「朝日海運事務所」約一六・五二平方メートル(約五坪)から退去し、別紙第一土地の表示記載の土地の別紙第二土地平面図の(イ)(ウ)(エ)(オ)(サ)(ケ)(イ)を順次に結ぶ直線で囲んだ部分二〇七・七四平方メートルを明渡せ。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

3.仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.原告は訴外上野振浩(以下単に「上野」という。)に対し、次の債権を有していた。

(一)原告が昭和三二年七月頃上野に対しヘンプロープ五〇〇屯を売った売買残代金三二一万円及びこれに対する昭和三二年八月三〇日から右支払ずみまで一か月一分の割合による遅延損害金

(二)原告が上野に対して昭和三二年七月現在有していた損害賠償債権一五〇〇万円。これは、上野が原告に対し右同日までにヘンプロープ三〇〇屯の製造引渡しを注文しながらこれを受領しなかったために生じた損害賠償請求権であり、これに対する昭和三二年九月一日以降支払ずみまで一か月一分の割合による遅延損害金の支払義務を含む。

2.訴外谷崎友積(以下「友積」という。)は、昭和三三年七月右債務を上野と併存して引受ける旨約した。

3.別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、上野の所有であるが、その所有名義は友積であり、その管理処分権限は同人に付与されていた。

4.原告は、昭和三三年七月、前記債権の回収を確保するために上野及び友積との間に本件土地につき代物弁済の予約を締結し、大阪地方法務局今宮出張所昭和三五年一〇月五日受付第二五四二九号を以て右代物弁済予約を原因とする所有権移転登記の仮登記手続を了した。

5.友積は、昭和三七年九月二日死亡し、その妻である亡谷崎都留子と訴外谷崎啓子(以下「啓子」という。)が相続人であったが、谷崎都留子はその相続分を放棄したところ、啓子のみが相続人となり同人は本件土地につき大阪法務局今宮出張所昭和三九年一月一三日受付第四七〇号を以て右相続を原因とする所有権移転の登記手続を了し、被相続人の債務を承継した。

6.上野及び啓子はその債務を弁済しないので、原告は昭和四二年九月二一日到達の書面で本件土地につき代物弁済の予約を完結する意思表示をした。

7.原告と啓子間には、昭和四二年一〇月五日、本件土地につき、仮登記に基づく本登記手続をなす旨の裁判上の和解が宇治簡易裁判所で成立(同裁判所昭和四二年(イ)第一〇号事件)し、この時上野も同裁判所に出頭し和解をした。

8.谷崎都留子は、本件土地上に存する別紙目録記載の建物に居住することによって右土地の別紙第二土地平面図の(イ)(ウ)(エ)(オ)(サ)(ケ)(イ)を順次結んだ部分を占有していたところ、同人は昭和五一年三月三一日死亡し、被告がその権利義務一切を承継した。

9.よって、原告は被告に対し、本件土地の所有権に基づき、別紙目録記載の建物からの退去と同目録記載の本件土地の明渡しを求める。

二、請求原因に対する答弁

1.請求原因1の事実中、何んらかの債権が存在した事実は認めるが、その額は争う。

2.同2の事実は否認する。

3.同3の事実は認める。但し、友積に管理処分権限はない。

4.同4の事実は認める。但し、抵当権設定の約定であった。

5.同5の事実中、友積が死亡した事実及び啓子に登記されている事実は認め、その余の事実は否認する。

6.同6の事実は認める。

7.同7の事実中、原告主張するとおりの和解がなされた事実は認める。

8.同8の事実は認める。谷崎都留子が居住していた建物の所有者は訴外河尻康人であり、同人から使用貸借して居住することによって、原告主張の本件土地を占有しているのである。

9.同9は争う。

理由

一、請求原因一項の事実、すなわち、原告が訴外上野に対し、その主張するとおりの債権を有していたかどうかにつき、争いがあるので、この点につき判断するに、<証拠>を総合すれば、右事実は認めることができ、右認定に反する証人上野振浩の証言は採用しない。

二、請求原因二項及び三項の事実、訴外友積が右上野の債務を引受ける旨の契約をした事実は、これを認めるに足る的確な証拠がない。

しかしながら、本件土地が元上野の所有であることは、当事者間に争いがないのであるから、原告がこれを承継取得したかどうかにつき、以下検討をすゝめる。

三、請求原因四項の事実、すなわち、原告が、前記一で認定した金銭債権の満足を確保するために、訴外上野との間にその所有の本件土地につき、昭和三五年七月五日、代物弁済の予約を締結し、これを原因として、所有権移転請求権保全の仮登記がなされた事実は、当事者間に争いがない。これにつき、被告は抵当権を設定する旨の約定であった旨抗争する。しかしながら、成立に争いない乙第四号証に「担保設定条件」として、原告が本件土地の登記済権利証を預る旨の記載があることだけから、抵当権設定の約定を認めることは困難であり、右争いない事実と成立に争いない甲第三号証の一(登記簿謄本)を併わせ考えれば、原告と訴外上野間には、原告主張の日に仮登記担保契約に基づく法律関係が成立した事実が認められる。

四、請求原因五項、友積が原告主張の日に死亡した事実は当事者間に争いないが、同人が原告に債務を負担していた事実は、前記二で判断したとおり認められない。しかして、その相続人である啓子について債務を承継するいわれはない。

そこで、原告と右啓子間の法律関係はさておき、以下、原告と本件土地の所有者である上野間における仮登記担保関係について、検討をすゝめることとする。

五、訴外上野が原告に対し、昭和四二年一〇月五日、本件土地につき、原告主張の代物弁済予約の完結の意思表示を原因とする所有権移転本登記手続をすることを承諾した事実は、当事者間に争いがない。そうすると、少なくとも、右の時点で、原告の上野に対する代物弁済予約完結の意思表示はなされている、と認められる。

しかしながら、仮登記担保権者の、予約完結の意思表示により取得した目的不動産に対して有する権利の法的性質が、被担保債権の担保目的実現のためのものであること、右担保権者が、清算手続をするまでは所有権を確定的に取得しないことは、いずれも今や確定した見解である。

しかるに、<証拠>によれば、本件土地の坪当りの価格は、予約完結の意思表示のなされた時点で坪当り五〇万円以上、全体の三一九坪で一億五九五〇万円以上であることが認められるのに(右認定に反する成立に争いない甲第一三号証の一、窪田治郎吉の調書中、坪二〇万円であるとの記載部分は右採用した証拠に対比し採用しない)、他方、原告が上野に対して有する債権は、その主張自体によっても元本一八二一万円とこれに対する昭和三二年八月から同四二年九月までの年一割二分の割合による遅延損害金のみであり、成立に争いない右甲第一三号証の一(窪田の調書)によっても五〇〇〇万ないし六〇〇〇万円以上の債権が存在した事実は認められない。右事実によれば、原告主張の被担保債権と本件土地の価格が合理的均衡を失していることは明らかである。

そうすると、原告は、本件土地のより具体的な適正評価額を証明し、もし、これが債権額を超過すればその超過額を清算金として所有者上野に支払い、超過額がなければ、そのことを通知するなど清算の意思を明らかにするのでなければ、右土地の所有権を確定的に取得しえない筈である。

けれども、かゝる事実についての主張事実はなく、又右事実は本件証拠によってもうかがえない。

六、仮登記担保権者は、目的不動産の不法占有者に対しては、直ちに明渡を求めることができる、と解することも可能である(最判昭和四九・一〇・二三・一四八一頁)が、しかし、被告が、担保目的不動産である本件土地上に存在する訴外河尻所有の建物を借りて、右建物に居住することによって、右土地を占有している事実は、弁論の全趣旨によって当事者間に争いがないし、被告を右不法占有者と同一視することも適当でない。

七、以上のとおりであるから、原告に本件土地の所有権が移転した事実は、その証明が十分でなく、原告の本訴請求は棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 砂川淳)

<以下省略>

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