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大阪地方裁判所 昭和51年(わ)2571号 判決 1979年7月31日

主文

被告人鄭一郎を懲役二年に

被告人鄭沢一を懲役五月に

被告人横山多計治を懲役一年二月に

処する。

この裁判確定の日から、被告人鄭一郎に対し五年間、被告人横山多計治に対し三年間、被告人鄭沢一に対し二年間それぞれの刑の執行を猶予する。

訴訟費用(証人加柴一郎に支給した分)は被告人三名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人鄭一郎、同鄭沢一の両名は、法定の除外事由がないのに、被告人横山多計治、及び分離前の相被告人李商學と共謀のうえ、大阪府、京都府及び兵庫県の各知事ほかその区域を管轄する市町村長の許可を受けないで、別表<省略>記載のとおり、一八二回にわたり、大阪府茨木市島一、九八四番地の一所在の土地(約一、六五〇平方メートル)において、株式会社六基ほかから工作物の除去に伴つて排出されたコンクリート片、ブロツク片などの産業廃棄物、古木材などの一般廃棄物、もしくは右両者の混合物を代金を徴して収集したほか、別表<省略>記載のとおり、三〇四回にわたり、株式会社須藤工務店ほかから依頼されて、同社らの施工する京都府綴喜郡八幡町大宇八幡荘小字柿谷一四番地所在のくずは工事現場などから排出された前同様の産業廃棄物、一般廃棄物、もしくは右両者の混合物を代金を徴し運転手を使用して車両で収集したうえ、いずれも右土地まで運搬し、もつて、産業廃棄物及び一般廃棄物の収集、運搬を業として行つた。

第二  <省略>

第三  <省略>

(法令の適用)

(1)  被告人鄭一郎、同鄭沢一の判示第一の所為につき

それぞれ包括して廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和五一年法律第六八号附則二条二項によりその改正前のもの。以下同じ。)二五条、七条一項、一四条一項、刑法六〇条(いずれも懲役刑を選択)

なお、被告人鄭沢一の弁護人は、「収集を業として行なうもの」とは、文字どおり事業主として収集業を営むものをいうのであり、刑法犯の「営利の目的をもつて」(刑法二二五条など)とことなり、「営業的であり」「反覆継続して利益をうる目的で」あり、かつ営業主体者であること要する、つまり、右法律七条、一四条の許可を受ける義務の存するのは、営業責任者であることが明瞭であり、その従業員まで許可をうけなければならないものでない、したがつて、右第一のうち、被告人鄭沢一が被告人鄭一郎の従業員としてその指示のもとに従事した昭和五一年六月二九日以前の行為についてその責任はない旨主張する。

なるほど、関係証拠によると、弁護人主張の期間中、被告人鄭沢一は、実兄の被告人鄭一郎に雇われ、給料をもらつて働いていたことは事実であるが、しかしながら、実兄の被告人鄭一郎が肩書住居にある事務所を中心に営業外交、売上管理などの仕事を担当したのに対し、被告人鄭沢一は事務所から遠隔な本件土地(いわゆる捨て場)に常駐してその現場を委されていたものであり、右捨て場の管理、搬入されてくる廃棄物の引受け、代金の受領などについては全面的に責任をもつなど被告人鄭一郎に協力してその業務の重要部分を分担していたものであり、現場責任者ともいえる立場にあつたものと認められる。そしてこれを構成要件的にみれば、前記土地(捨て場)において、被告人鄭沢一が反覆、継続してなした廃棄物の収集などは、まさに構成要件該当の実行行為そのもの、もしくは犯罪の完成にとつて重要な行為であり、それを客観的にみる限り、幇助犯と評価することもできないものである。被告人鄭沢一は、単に従業員であるとの一事をもつてその責任を免れることはできない。

なお付言するに、右法律七条一項、一四条一項にいう「業として行なう」というのは、同法律の目的などにてらし、反覆継続の意思をもつて一定の行為を行うことを意味し、それが営利の目的をもつてなされることは必ずしも必要でなく、また、相手から対価を受けたか否かも問わないものと解すべきものである。この意味で、弁護人所論のように限定的に解釈するのは相当でなく、たとえ従業員であつても、右の要件を充足する場合は、その責任を問われることがあるというべきであり、このことは同法律二九条が「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人又は人の業務に関し、第二五条から前条までの違法行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する」旨規定し(いわゆる両罰規定)、使用人、その他の従業員が、使用者の指示、命令などの有無に直接かかわりなく二五条違反の行為をする、例えば、無許可で廃棄物収集などを業として行い、使用人その他の従業員それ自体が、七条一項または一四条一項に違反する場合をも予想していることから容易に窺知される。

そして、使用者がすでにその許可をえている場合、その許可の範囲内で使用人その他の従業員が許可なく義務に従事しうるからといつて、このことから直ちに当該許可の目的(規制の必要性)などをはなれて、使用人その他の従業員であれば、使用者も許可をうけていない全くの無許可の場合にも、許可なく業務に従事しても、何ら規制の対象とならないとする解釈を導くこともまた許されないのである。弁護人の前記主張はいずれにしても採用するに由ない。<以下、省略>

(鈴木之夫)

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