大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)2324号 判決 1977年10月28日

原告

山本明義

被告

野口運輸株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自、原告に対し、金六二二万六八一三円およびうち金五六七万六八一三円に対する昭和四八年五月一七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その二を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告に対し、金一七九四万四五二六円およびうち金一六四四万四五二六円に対する昭和四八年五月一七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四八年五月一七日午後八時五〇分頃

2  場所 兵庫県西宮市川西町、県道高速神戸・西宮線上

3  加害車 普通貨物自動車(登録番号神戸一一あ一〇八〇号)

右運転者 大前政美

4  被害者 原告

5  態様 訴外山本義弘が小型乗用自動車(助手席に原告が同乗)を運転して本件道路を西宮方面から芦屋方面に向けて進行中、同一方向に進行していた大前政美運転の加害車が左後方より接近し、二度にわたり右山本運転車の左側部に接触したゝめ、山本車は中央分離帯に接触し、ハンドル操作の自由を奪われたまゝ本件道路左側のコンクリート壁に激突し、原告が負傷した。

二  責任原因

被告野口運輸株式会社(以下単に被告会社という)は訴外大前政美運転の加害車両の所有者、被告山本このゑは訴外山本義弘運転(原告同乗)車両の所有者で、いずれも自己のために右各自動車を運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条によつて、本件事故で原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷 右大腿骨骨幹部骨折、左足内顆骨折

(二) 治療経過

入院

昭和四八年五月一七日から同年八月一六日まで九二日間

同年一一月二四日から昭和四九年一月二七日まで六五日間いずれも西宮市立中央病院通院ならびに自宅療養

昭和四八年八月一七日から同年一一月二三日まで

昭和四九年一月二八日から昭和五一年三月九日まで

(三) 後遺症

右下肢約三センチメートル短縮(後遺障害等級一〇級七号該当)

右股関節の著しい機能障害(同一〇級一〇号該当)

右下肢一八・五センチメートル、右臀部七センチメートルの創瘢痕

右大腿筋萎縮、筋力低下。左足背前足部の知覚鈍麻。右後遺障害のため、軽度の右跛行、正座困難、階段昇降困難、右下肢冷感等の状態が続いている。

右後遺障害等級は併合して九級に相当するものと考える。

2  治療関係費

(一) 治療費

金二〇万五九五八円

(二) 入院雑費 金四万七一〇〇円

入院中一日 三〇〇円の割合による一五七日分

(三) 入院付添費 金一八万八四〇〇円

入院中家族が付添い、一日一二〇〇円の割合による一五七日分

(四) 通院交通費 金四万三四〇〇円

3  逸失利益

(一) 休業損害

原告は事故当時二〇歳、大阪学院大学商経学部三年生で、右大学卒業見込時である昭和五〇年四月以降は就職の予定であつた。然るに昭和五〇年四月から昭和五一年三月九日までの一一か月間は本件事故のため就業できなかつたのであるが、昭和五〇年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計「旧大、新大卒」二〇~二四歳の平均給与額は年間一四四万六五〇〇円であるから、原告は少くとも一三二万五九五八円の得べかりし収入を失つた。

(一、四四六、五〇〇円÷一二×一一=一、三二五、九五八円)

(二) 後遺障害による逸失利益

昭和五一年度の平均賃金は金一五一万八八二五円を下らない(昭和五一年度賃金センサスは未発表であるので昭和五〇年度の平均賃金を一・〇五倍した)から、昭和五一年三月一〇日以降昭和五二年三月九日までの一年間の後遺障害(その労働能力喪失率は三五%である)による逸失利益は金五三万一五八八円となる。

(算式 一、五一八、八二五円×〇・三五=五三一、五八八円)

昭和五二年三月一〇日以降の逸失利益

原告は、昭和五二年三月一〇日現在二四歳であるから、その就労可能な六七歳までの四三年間、毎年右割合による得べかりし利益を失うことになる。

而して、昭和五二年度の平均賃金は金一五九万一一五〇円を下らない(昭和五二年賃金センサスは未発表であるので、前記昭和五〇年度の平均賃金を一、一倍した)。そこで年五分の割合によるホフマン係数により現価を求めると金一二五九万二一二二円となる。

(算式 一、五九一、一五〇円×〇・三五×二二、六一一=一二、五九二、一二二円)

従つて、右後遺障害による原告の逸失利益は金一三一二万三七一〇円となる。)

4  慰藉料 金二五一万円(後遺障害分一三一万円を含む)

入院一五七日、通院二年余に及ぶ治療の間原告は大学を休学し、事実上退学の状態となつていること、後遺障害の程度は自賠責後遺障害別等級九級相当と考えられるので、右金額が相当である。

5  弁護士費用 金一五〇万円

四  損害の填補

原告は次のとおり支払を受けた。

自賠責保険金 一〇〇万円

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

1  被告山本このゑ

請求原因第一項のうち、大前政美運転車両が、左後方より接近し「二度」にわたり、訴外山本運転車両の左側部に「接触」したとある「二度」「接触」の部分を否認する。

この点は三度衝突したものである。

同第二項中、訴外山本運転にかゝる車両が被告山本の所有であることは認めるが、同被告に自賠法三条の責任があるとの点は否認。

本件事故は大前政美の故意犯罪である。

同第三項については、入・通院の事実、原告が事故当時二〇歳、大学三年生で、昭和五〇年四月就職の予定であつたことは認めるが、その余は不知。

同第四項(損害填補)の事実は認める。

2  被告野口運輸株式会社

本件交通事故発生の事実は認める。

被告会社の責任原因事由を認める。

原告が自賠責保険金一〇〇万円を受領した事実は認める。

その余はすべて争う。

第四被告らの主張

(被告山本)

一  原告の受傷は、自招行為によるものであるから、何人に対しても損害賠償を請求し得ないものである。

1 事故当日名神高速はストのためから空きとも言える程すいていた。

原告と訴外山本は、右のような状態の高速道路を小型乗用車(以下小型車という)を適当に運転しながら楽しんでいるうち、大前運転のトラツクに追いついたところがトラツクは道路の中央を走り小型車が追い抜くのを妨害した。そのトラツクの速度は時速約七〇キロメートルである。そこで小型車は追い抜くためにライトでトラツクに合図をしたが、トラツクは全然これに応じなかつた。のみならず、小型車が右に行くと右、左へ行くと左へと相変らず小型車の進路妨害を続けた。西宮の名神の終点で小型車は前に出たが、トラツクからは運転手がバールを持つて降りてきた。そこで大前と山本らはなじり合つていたが、車もつかえてくるので、互いに高速道路の外へ出て話しをしようということになり、小型車が甲子園の方へ先に下りると、トラツクは阪神高速の方へ入つてしまつた。

2 訴外山本と原告は、トラツクにしてやられたと腹を立て、このままでは腹の虫が納まらぬ、追つかけてやつつけようと意見がまとまり、トラツクを追いかけた。この時、原告は「あいつら半殺しにしてやる」といきまいていた。しばらくして阪神高速上で小型車はトラツクに追いつき、平行に並んだところで、原告が窓から顔を出して大声でいろいろとトラツクをのゝしつた。

3 そうこうしているうちに、小型車はトラツクの前に出られたので、訴外山本と原告は、トラツクの進路妨害をすることで意見が一致し、トラツクの直前で急ブレーキをかけた。そのためトラツクの前部は小型車の後部左側に衝突してしまい、その反動で小型車はセンターのガードレールに衝突したが、これは大したことはなかつた。進路妨害に怒つたトラツクは、小型車の後方から直ちに衝突してきたが、これも大したことはなかつた。

4 さらに現場近くでトラツクは前よりも強く小型車の左後部に当つてきた。このため反動で小型車は左寄りにしつ走し、南側端の道路壁に激突し、小型車の二人は負傷した。この時の両車の速度は時速約八〇キロメートルである。

5 従つて、直接的にはトラツクが故意に小型車の後部に衝突したゝめ、本件事故が発生したとはいえ、そこまでに至る過程をみれば、小型車の二人は勿論、トラツクの運転手も事故による負傷を覚悟の上で、常識外れの「けんか」をしていたのであつて、その結果の負傷である。たまたま、原告はハンドルを握つていなかつたが、原告は小型車の運転者と同視すべき者または少くとも「運転の補助に従事する者」と言える。

たとえ、そう言えないとしても、自招行為による受傷であるから、何人に対しても損害の賠償を求めることは許されない。

殊に小型車に同乗してトラツクと「進路妨害ごつこ」をしていたのであるから、訴外山本に対する関係では、事故が発生しても損害を請求しないとの「危険同意」があつた関係とみるべきである。

以上のとおりであるから、原告は小型車の保有者である被告山本に対しては勿論、トラツクの運転者、その保有者に対しても損害を請求し得ない関係にある。

二  右の主張が認められないとしても、小型車の二人の関係は、好意同乗関係であり、損害の算定にあたつては十分この関係を考慮さるべきである。

三  さらに、小型車内では訴外山本と原告とは意思の合致をみて、トラツクとけんかをしたのであるから、相当の過失相殺をすべきものである。しかる時、原告が受領済の強制保険金以上に同人が取得すべき損害はない。

(被告会社)

本件事故は、山本車が大前車の進行を妨害し、後には双方とも、追い抜きや、ランプの点滅を繰り返しているうちに接触事故を起したものである。従つて、原告にも山本車の無謀運転を制止しなかつた過失があるから、損害の算定にあたり相応の過失相殺がされるべきである。

第五被告らの主張に対する原告の答弁

一  被告山本の主張一の1は認める。

2については、訴外山本と原告が阪神高速へ向つたトラツク(大前車)を追つたことは認める。阪神高速道路上で、山本車が大前車に追いつき併進し、追い抜こうとした際、左側走行車線を走つていた大前車が右に接近してきたので、原告は大前に向つて「危ない」と怒鳴つたが、その余は否認。

3については否認。山本車は大前車の進路前方に出ていない。山本車が大前車を追い抜こうとした際、大前車が右に接近し、山本車の左側部に接触した。そのため山本はハンドル操作の自由を奪われ、走行車線に入つてしまつたのである。

4は認める。大前車は走行車線に入つてきた山本車に再度接触したのである。

5は争う。

本件事故は、大前車を追い抜こうとした山本車に対し、大前が重過失によつて、大前車を山本車に接触させたため発生した。而して訴外山本義弘には、大前車が接近してきた際、自車を減速することにより接触を避け得たにも拘らず、漫然同一速度で進行した過失があつた。

二  原告は業務として運転者の運転行為に参与し、これを補助する者でないから、「運転の補助に従事する者」とは言えない。

三  本件事故は、先ず大前車が山本車に接近し、接触したために発生したもので、訴外山本義弘にとつても自招行為による事故と言えず、まして、全く運転行為をしておらず、具体的運行について支配を及ぼす立場になかつた原告にとつては、到底自傷行為による受傷とは言えない。

四  被告山本は、原告と訴外山本義弘との間に、損害賠償を請求しないとの「危険同意」があつたと言う。しかし右両名の間には、大前政美に対する感情の一致があつたとはいえても、訴外山本義弘の具体的運転行為について意思の一致はなかつた。従つて、右両名の関係がいわゆる「好意同乗」であることは認めるが、本件事故における原告と訴外山本の地位を一体化し、一〇〇パーセント原告の「他人性」を阻却し、あるいは「運行供用者性」を認めて、原告が被告山本に対して損害賠償を請求し得ないと断ずることは不当である。

五  同被告の主張二については、原告と訴外山本の関係が、いわゆる「好意同乗」関係にあることは認める。

六  三の「過失相殺」については争う。前述のとおり、訴外山本には大前車が接近してきた際、自車を減速しなかつた過失があるが、同人の過失は、同人と原告との関係においても、被告会社と原告との関係においても、原告の過失とみることはできないもので、本件事故発生につき原告には何らの過失もない。

証拠〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因一(事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない(但し、被告山本このゑとの間にあつては、二度加害車が山本車に接触したとの点を除く)。さらに成立に争いのない乙第七、第一二号証によれば、事故発生場所は県道高速神戸・西宮線下り二・九キロポスト先路上であることが認められる。

第二責任原因

請求原因二の事実については、原告と被告会社間においては、争いがなく、訴外山本義弘が運転していた車両(登録番号泉五五ち九六〇八号)が被告山本の所有であることは、原告、被告山本間にあつても争いのないところ、成立に争いのない乙第一二、第一三、第一七号証および証人山本義弘の証言によれば、被告山本は、訴外山本義弘の母親で、同人と同居しており、右義弘は昭和四八年一月二五日に自動車運転免許を取得して以来、同被告所有名義の自動車には時々乗つていたこと、本件運転車両(山本車)も同被告が購入して間がなかつたので、ならし運転のつもりで、義弘が友人の原告を助手席に同乗させてドライブしていたとき、本件事故となつたことが認められる。

而して、右事実によれば、被告山本は本件事故当時、右山本車を自己のために運行の用に供していた者といえる。従つて被告らはいずれも自動車損害賠償保障法三条により、本件事故で原告が被つた損害を賠償する責任がある。

第三損害

1  受傷、治療経過等

成立に争いのない甲第一、第四号証および原告本人尋問の結果によれば、つぎの事実を認めることができる。

原告は、本件事故により、右大腿骨骨幹部骨折、左足内顆骨折の傷害を負い、受傷当日(昭和四八年五月一七日)から同年八月一六日までの間と、同年一一月二四日から昭和四九年一月二七日までの間、いずれも兵庫県西宮市の西宮市立中央病院に入院(この間受傷翌日に観血的整復固定術、金属プレートで固定。昭和四八年一一月二二日に金属プレートが折損したため同月三〇日再手術(髄内釘固定術)、昭和四八年八月一七日から同年一一月二三日までの間および昭和四九年一月二八日から昭和五一年四月二六日までの間はいずれも同病院に通院して治療を受けた。

而して、右最終通院時における症状としては、右下肢の短縮、外旋位にて跛行、右下肢筋力の低下で階段の昇降困難、右膝の屈曲制限で正座不能、駆け足もできない、和式トイレが使えない、あぐら位にも大腿痛、右下肢に冷感、左足背にしびれ、疼痛がある。他覚所見ないし検査結果では、右大腿筋萎縮(軽度)、大腿周計右五五センチメートル、左五六・五センチメートル、下腿周計右四一センチメートル、左四二センチメートル、脚長右八三・五センチメートル、左八六・五センチメートルと約三センチメートルの右下肢短縮がある。

股関筋の屈伸、外転、膝の伸展、屈曲などの筋力は右4と低下している。股、膝関節の運動制限はつぎのとおり。股関節は外転二〇度、外旋四〇度内旋〇度、開排四五度(以上いずれも他動右)。膝関節(他動右)一二〇度(股関節伸展)。手術瘢痕は右大腿外側に長さ一八・五センチメートル、幅は最大一センチメートル、右臀部に長さ七センチメートル、大腿骨内にキユンチヤー髄内釘残存、右下肢冷めたい。左足背前足部に知覚鈍麻。レントゲン線上内顆の転位癒合(軽度)がある。

右髄内釘は昭和五三~四年頃には除去の見込であり、その後にあつては右足の力も幾分強くなることが予想される。

2  治療関係費

(一)  治療費

成立に争いのない甲第二号証および原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故による受傷治療費として、前記西宮市立中央病院に金二〇万五九五八円(この内訳入院治療費一七万二六七七円、室料差額(二回目の入院中)一万七八五〇円、外来治療費一万一二三一円、文書料四二〇〇円)を支払つたことが認められる。

(二)  入院雑費

原告が一五七日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日三〇〇円の割合による合計四万七一〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三)  入院付添費

成立に争いのない甲第一号証および原告本人尋問の結果と経験則によれば、原告は前記入院期間中付添看護を要し、その間母親が付添い一日一二〇〇円の割合による合計一八万八四〇〇円の損害を被つたことが認められる。

(四)  通院交通費

原告本人尋問の結果およびこれにより成立を認めることができる甲第三号証によれば、原告は前記通院のため合計四万三四〇〇円の通院交通費(一往復四六〇〇円のタクシー代八回分と同じく四三〇〇円一回、退院時のタクシー代二三〇〇円)を要したことが認められる。

3  逸失利益

(一)  休業損害

原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨ならびに経験則によれば、請求原因三(損害)3(一)(休業損害)の事実を推認することができるから、原告は本件受傷治療のため、少なくとも金一三二万五九五八円の収入を失つたとみることができる。

(二)  症状固定後の後遺障害による逸失利益

原告本人尋問の結果によれば、同人は昭和五一年五月頃から就職し、職務内容は荷物の運搬とセールスで自身で自動車の運転もしていること、昭和五二年六月当時で月収一〇万くらいを得ていることが認められるところ、原告は若年(昭和二八年一月二九日生)であり、就職して日も浅く、自己の現在の身体状況との関連において、その職業選択の可能性、職場環境をも含めその環境(ないしは状態)への習熟、適応も相当程度期待し得ること、さらに前記認定の後遺障害の部位、程度(それは手と足というようなものではなく、障害を残す部分の労働機能にかなり緊密な関連性があるものといえる)、労働基準監督局長通牒昭和三二、七、二基発第五五一号による「労働能力喪失率」等を綜合考慮すると、原告は右後遺障害のため、昭和五一年三月一〇日から本件事故当時一般に就労可能と考えられていた満六三年までの四〇年間平均してその労働能力を二〇%程度喪失するものと認めるのが相当であるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金六二六万一二〇四円となる。

(算式年収一四四万六五〇〇円×〇、二×二一、六四二六=六二六万一二〇四円)

4  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は金二二〇万円とするのが相当であると認められる。

第四過失相殺

(原告と訴外山本義弘との関係および本件事故発生までの経緯)

成立に争いのない乙第五ないし第一〇号証、乙第一二、第一四、第一六、第一八号証に、証人山本義弘の証言、原告本人尋問の結果を綜合すると、つぎの事実が認められる。原告(事故当時二〇歳三か月)と訴外山本義弘(昭和二六年五月二二日生、事故当時二一歳一一か月)とは、高校三年生以来の友人で共に大阪学院大学に進学し、どちらも自動車運転免許をもち、日頃から義弘の車で、あるときは原告の用意する車で一緒にドライブする仲であつたこと、ところで事故発生当夜も、被告山本の主張一の1に掲記のような事情で西宮の名神高速の終点まで(この間一キロメートル弱)きたのであるが、訴外山本の方は大前運転のトラツクがしつこく進路妨害したということで気を悪くしており、一方大前(事故当時二二歳七月)の方でも山本が徒らにライトをまぶしくして自分にいやがらせをしたという気があつて、互いに譲らず、なお話を続けようということになつて、先ず山本車が料金所を出ると、暫らく後に続いていた大前車が途中から前に出ていつの間にか阪神高速に入つてしまつた。

このことに立腹した原告と訴外山本の両名は、なおも執擁にどうでも大前に謝まらせようということで、再び大前車を追跡することになり、阪神高速道(高架式、上下各二車線に完全に分離された自動車専用道路)に入り、これに追いついた後、時速約八〇キロメートルで走行し、大前車の前に出て同車を停めようとしたが、一人で静岡まで仕事に行つての帰り道でトラブルを生じ、これ以上山本らとつき合わされて帰りが遅れては困ると考え、相手にならずに帰途についていた大前としては、訴外山本運転車が自車を追越そうとしていることには気づいていたが、前に出られて走行を妨害されるようなことがあつては困ると考え、山本車を自車の前に出さないようにしようと、走行車線と追越車線をまたぐようにして、徐々に山本車の方に(右に)寄つて行つた(この頃原告から大前に罵声をあびせたが、大前はこれには気付かなかつた様である)ところ、加速して大前車の横を通り抜けようとしていた山本車と接触、この衝撃で山本車は中央分離帯のブロツクに接触しそうな状態で約四〇メートル走り、この間に左寄りに走ろうとハンドルを切つて追越車線(幅員三・五メートル)から走行車線(幅員は同じ)に入りかけたところで、再び左後部付近に大前車右前部が衝突、この衝撃で山本車は走行線を超え左側壁に衝突し、原告、山本の両名が負傷した。

証人山本義弘の証言のうち、「阪神高速に入つた大前を追いかけていく時原告が半殺しにしてやると言つていた。」「原告は私にトラツク(大前車)の前につけろとか追越せとか言つていた。」との各供述部分は前掲各証拠および弁論の全趣旨に徴してたやすく信用できない。

前記認定の事実によれば、本件事故の発生については原告にも、挑発ともいうべき執擁な追跡を差控え、大前車と併進状態となつた折にも罵声等あびせず、山本に減速方を申出る等して、予測される大前とのトラブルを防止すべきであるのに、却つてこれに加担した過失が認められるところ、前記認定の訴外山本、同大前の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の三五%を減ずるのが相当と認められる。

被告山本のその余の主張(抗弁)はいずれも理由がないものと認める。

第五損害の填補

請求原因四の事実は、当事者間に争いがない。

よつて原告の前記損害額から右填補分金一〇〇万円を差引くと、残損害額は金五六七万六八一三円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金五五万円とするのが相当であると認められる。

第七結論

よつて被告らは各自、原告に対し、金六二二万六八一三円およびうち弁護士費用を除く金五六七万六八一三円に対する本件不法行為の日である昭和四八年五月一七日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例