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大阪地方裁判所 昭和52年(ヨ)5699号 決定 1977年12月27日

申請人

乾昇

右訴訟代理人弁護士

松本正一

橋本勝

被申請人

全大阪金属産業労働組合

右代表者執行委員長

小林康二

右訴訟代理人弁護士

小林保夫

原田豊

大川真郎

豊川義明

右当事者間の昭和五二年(ヨ)第五六九九号違法行為差止請求仮処分申請事件について、当裁判所は申請人の申請を理由があると認めたので申請人に保証として金五〇万円を昭和五三年一月七日迄に立てることを条件として次のとおり決定する。

主文

被申請人は自らもしくは組合員をして、申請人の肩書住所地所在の住居に多数で押し掛けて次のような行為をし、もしくはさせてはならない。

1、申請人に面会を強要すること。

2、同住居近辺において「乾昇は直ちに出てこい」「乾昇は大照金属つぶしをやめろ」「乾昇は団体交渉に応じろ」等のシュプレヒコールを声高に反覆連呼すること。

3、大照金属株式会社の倒産につき住友金属工業株式会社に責任がある旨の演説を行なうこと。

4、同住居の垣根に横断幕をかけたり、組合旗を突きさしたり、立看板をたてかけたりすること。

5、インターフォンのボタンを連打すること。

6、その他これらに類する行為で、申請人の私的生活の平穏を害するような一切の行為。

(裁判官 河原和郎)

仮処分命令申請書

申請の趣旨

被申請人は、申請人に面会を求めたり、申請人の住居近辺において、「乾昇は直ちに出てこい」「乾昇は大照金属つぶしをやめろ」「乾昇は団体交渉に応じろ」等のシュプレヒコールを高音で反覆連呼したり、大照金属株式会社の倒産につき住友金属工業株式会社に責任がある旨の演説を行ったり、佇みもしくは徘回したり、垣根に横断幕をかけたり、組合旗を突きさしたり、立看板をたてかけたり、インターフォンのボタンを連打する等、申請人に不快感を与えるような一切の行為をしてはならない。

申請費用は被申請人の負担とする。

との裁判を求める。

申請の理由

一、当事者

申請人は、住友金属工業株式会社(以下住友金属という)の代表取締役社長であり、伊丹市高台三丁目二五番地に居住している。

被申請人は、大阪地区の中小企業に雇用されている労働者でもって組織されている、いわゆる合同労組である。

二、大照金属の倒産をめぐる紛争

大照金属株式会社(以下大照金属という)は、清算中の会社である(昭和五二年二月一八日解散、同一二月一二日特別清算開始決定―疎甲第一号証参照)。

大照金属は住友金属との請負契約に基づき、管材の皮剥加工、鉄道車輛の車軸、車輪の機械加工を行っていたのであるが、ドルショック、オイルショックの影響を受けて業績が悪化し、しかも先行好転が望めないので、解散にいたったものである。

大照金属の従業員は、被申請人である全大阪金属産業労働組合に加入しており、これまで大照金属と被申請人との団体交渉によりその労働条件が決定されていた。

被申請人は、大照金属が経営不振に陥り、解散のやむなきにいたったのは、住友金属が大照金属に対する受注を減少させたためであると主張し、住友金属以外の受注先のない大照金属は、住友金属に支配されており、従って住友金属は大照金属の従業員の使用者であるとの主張を前提に、住友金属に対し団体交渉の申入をなし、これが拒否されるや、大阪府地方労働委員会に不当労働行為救済の申立を行った(疎甲第二、三号証参照)。住友金属は、大照金属とその従業員の労働関係を支配しうる立場にはなく、労働組合法上の使用者に該当しないことはいうまでもないが(疎甲第四号証参照)、現在、労働委員会において住友金属との関係では、使用者性の有無が最大の争点となって審理が継続している(大照金属と被申請人との間でも、従業員の解雇の効力をめぐって紛争が発生している)。

三、被申請人の違法行為

被申請人が右の主張を住友金属に対して行い、また労働委員会で立証活動を行うことについては、申請人はとやかくいうつもりはない。住友金属は被申請人に対し、被申請人の主張を受け容れることができない旨を再三にわたって説明している(疎甲第五、六、七号証参照)。

被申請人の主張が容れられないからといって、住友金属の代表取締役社長である申請人の自宅にいわゆるデモをかけ、申請人に面会を求め、「乾昇は直ちに出てこい」「乾昇は大照金属つぶしをやめろ」「乾昇は団体交渉に応じろ」等のシュプレヒコールを、拡声器を用いて高音で反覆連呼したり、大照金属の倒産につき住友金属に責任がある旨の演説をくり返して行い、また住居付近において多数の組合員が佇みもしくは徘回したり、申請人宅の垣根に横断幕をかけたり、組合旗を垣根に突きさしたり、立看板をたてたり、インターフォンを連打するがごとき行為は、労働組合の行為として社会的に認容される範囲をはるかに逸脱しており、違法不当なものというほかない。

被申請人のかかる行為は、昭和五二年四月三日より同年一二月一八日まで延二三回にわたり、主として日曜日の午前中に、執拗に行なわれている(疎甲第八、九号証、検疎甲第一、二号証参照)。

特に一〇月九日以降は毎日曜日に行なわれており、これは、申請人およびその家族に不快感を与えるいやがらせ以外の何ものでもない。申請人を名指してのシュプレヒコールは、申請人の人格に対する侮蔑であり、平穏な住宅街において七三フォーンに達するシュプレヒコール及び演説による騒音は(疎甲第一〇号証参照)、申請人の家族ならびに隣人の家庭生活を破壊する「音の暴力」である。被申請人がかかる違法行為を行なっている日曜日の午前中約二時間は、事実上外出することも不可能であり、申請人ならびにその家族は極めて不快な思いをしなければならず、被申請人の行為は、申請人ならびにその家族の人格に対する違法な侵害といわなければならない(疎甲第一一、一二号証参照)。隣人に対しても同様のことがいいうる(疎甲第一三~一六号証参照)。

四、結論

申請人ならびにその家族が、被申請人のかかる行為を受忍しなければならない法律上の根拠はない。被申請人のかかる行為は、申請人ならびにその家族に対する人格権の侵害である。

被申請人は毎日曜日かかる行為を行なうことを公言して憚らないのであって(疎甲第九号証の二のうち七、八、一一、一二頁参照)、今後、年末年始を控えてかかる行為が行なわれるにいたっては、申請人の社会的地位から予想される多数の訪問客へも、その影響が及ぶといわなければならない。

よって、被申請人のかかる違法不当な行為を差止めるため、本申請に及ぶ次第である。

疎明方法(略)

昭和五二年一二月二三日

申請人代理人 松本正一

同 橋本勝

大阪地方裁判所

第一民事部御中

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