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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)1003号 1986年5月12日

原告

岸田英彦

右訴訟代理人弁護士

岡田義雄

浦功

浅野博史

上野勝

村田喬

被告

株式会社大阪木村コーヒー店

右代表者代表取締役

前川祐幸

右訴訟代理人弁護士

中務嗣治郎

勝部征夫

岸憲治

岩城本臣

今口裕行

右中務嗣治郎訴訟復代理人弁護士

西村誠一

村野譲二

主文

1  原、被告間において、原告が被告との間の雇用契約上の従業員たる地位にあることを確認する。

2  被告は、原告に対し、金二三〇〇万〇六九二円および昭和六〇年二月一日以降毎月二五日限り月額金一九万四二二〇円の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

5  この判決は、2項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文1項と同旨。

2  被告は原告に対し、金二八七九万八七四一円および昭和六〇年二月一日以降毎月二五日限り、金二二万七〇二〇円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告会社は、頭書肩書地に本社、大阪支店を設け、尼崎、堺、京都、彦根、岡山、福山、広島、松山の各地に出張所を、尼崎に工場を各置き、主として、コーヒー豆の焙煎粉砕をして、喫茶店、マーケット、百貨店等に販売をするとともに喫茶店営業に要する砂糖、缶詰類、バター等の販売を行う会社であり、従業員約八〇名を擁している。

(二) 原告は、昭和四四年三月一日被告会社に雇用され、販売課員としてコーヒーや喫茶材料の喫茶店、レストラン等への配達、集金業務に従事し、その後昭和四六年春頃、販売課主任となり、さらに同四九年被告大阪支店新設に伴い同支店販売二課所属となったが、担当業務は従前と同様であった。また、原告は、昭和四四年九月に結成された大阪木村コーヒー店職員労働組合(後に、総評全国一般労働組合大阪地方連合会大阪木村コーヒー店労働組合と名称を変更、以下、「組合」という)に結成と同時に加入し、その後同四八年八月、組合の副執行委員長に就任した。

なお、その後、被告会社においては、同五二年三月一四日、大阪一般労働組合同盟大阪木村コーヒー店労働組合(以下「別組合」という)が結成された。

2  被告会社は、昭和五一年二月九日付をもって原告を懲戒解雇したと主張して同日以降原告の就労を拒否し、雇用契約上の原告の従業員たる地位を争う。

3  しかしながら、原告には被告から懲戒解雇に付されるような所為はなかったのであるから被告の懲戒解雇権は発生せず、仮にそうでないとしても、後記再抗弁欄主張のとおり、懲戒解雇権の濫用若しくは不当労働行為として懲戒解雇の意思表示は無効であり、かつ、被告は、右懲戒解雇権の不発生若しくは無効の事情を知りながら、或いは少くとも、原告及び関係者から誠実に事情を聴取するなどして使用者として信義則上あるべき誠実な態度でのぞめば右事情は容易に知りえたはずであるのにこれを怠り、右懲戒解雇が有効であるとの主張に固執して、前項記載のとおり原告の就労を拒否し、もって、被告の責に帰すべき事由により前項同日以降の原告の就労を不能に帰せしめた。

4  未払賃金等

(一) 被告会社における賃金支給日は毎月二五日であり、原告の月額給料は、昭和五一年二月九日当時、一二万〇七二〇円であった。

(二) 原告の昭和五一年二月分から同六〇年一月分までの月額賃金(但し、交通費を除く)は、別紙(略)(一)賃金等一覧表(1)(以下「別表(1)」という)及び別紙(二)賃金等一覧表(2)(以下「別表(2)」という)の各A表記載どおりで、その合計は一九三九万六九六〇円である。

すなわち、被告会社においては、原告所属の組合と被告との間で毎年春開かれる賃金引上げについての団体交渉で基本給の増額(ベースアップ、定期昇給、評価部分のアップ)と諸手当の増額が決定され、これがその年度の四月から実施されてきたが、昭和五一年四月以降の原告の賃金引上げは次のとおりである。

(1) 昭和五一年度

賃上げ額 一万一三〇〇円(前年度基本給の従業員平均一〇・二%、内訳、ベースアップ分五・六三%の五〇〇〇円、定期昇給分一・七五%、評価分二・八二%の四六九〇円)

諸手当の増額 二〇〇〇円

(2) 昭和五二年度

賃上げ額 一万〇九九〇円(前年度基本給の従業員平均九%、内訳、ベースアップ分五・一八%の五一一〇円、定期昇給分一%の一〇〇〇円、評価分二・八二%の四八八〇円)

諸手当の増額 一〇〇〇円

(3) 昭和五三年度

賃上げ額 七八九〇円(前年度基本給の従業員平均五・九三%、内訳、ベースアップ分三・五七%の三七五〇円、定期昇給分〇・九二%の一〇〇〇円、評価分一・四四%の三一四〇円)

諸手当の増額 三〇〇〇円

(4) 昭和五四年度

賃上げ額 八四六〇円(前年度基本給の従業員平均六%、内訳、ベースアップ分三・三%の三七三〇円、定期昇給分〇・八九二%の一〇〇〇円、評価分一・八一六%の三七三〇円)

諸手当の増額 一〇〇〇円

(5) 昭和五五年度

賃上げ額 一万一〇一〇円(前年度基本給の従業員平均七・三七%、内訳、ベースアップ分四・三三%の五〇〇〇円、定期昇給分〇・八五%の一〇〇〇円、評価分二・一九%の五〇一〇円)

諸手当の増額 二〇〇〇円

(6) 昭和五六年度

賃上げ額 一万四四四〇円(前年度基本給の従業員平均九%、内訳、ベースアップ分五・七〇八%の七〇九〇円、定期昇給分〇・七九%の一〇〇〇円、評価分二・四九五%六三五〇円)

諸手当の増額 二〇〇〇円

(7) 昭和五七年度

賃上げ額 一万三一一〇円(前年度基本給の従業員平均七・五%、内訳、ベースアップ分四・七二五%の六二五〇円、定期昇給分〇・七三六%の一〇〇〇円、評価分二・〇三九%の五八六〇円)

諸手当の増額 一〇〇〇円

(8) 昭和五八年度

賃上げ額 七八〇〇円(ベースアップ分一律五〇〇〇円、定期昇給分一律一五〇〇円、評価分従業員平均一三〇〇円)

諸手当の増額 一〇〇〇円

(9) 昭和五九年度

賃上げ額 七八〇〇円(ベースアップ分一律五八〇〇円、定期昇給分一律一〇〇〇円、評価分従業員平均一〇〇〇円)

諸手当の増額 五〇〇円

従って、原告の昭和五一年四月以降の賃金は引き上げられ、昭和五九年四月以降の原告の月額賃金は基本給二〇万三五二〇円と諸手当二万三五〇〇円の合計二二万七〇二〇円となったものというべきところ、そうとすると、原告の昭和五一年二月分以降同六〇年一月分までの月額賃金合計は前記のとおりとなる。

なお、被告会社は原告の就労を拒否し、同人の勤務評価を不可能ならしめているから、右各年度の賃上げのうち評価部分については従業員平均の賃上げ率、賃上げ額によるのが相当であり、他に適当な方法はない。

(三) 原告の昭和五一年夏以降同五九年冬までの夏季、冬季各一時金ないし後記一時金相当損害金は、別表(1)と別表(2)の各B表記載のとおりで、その合計は八三五万三五二一円である。

すなわち、被告会社では、夏季、冬季各一時金の支給について、これまで被告会社と組合との団体交渉により、その都度従業員平均として基本給の何か月分を支給するかその支給率を決定してきたところ、昭和五一年以降同五七年までの夏季、冬季、及び同五九年夏季各一時金支給について被告会社と組合との間に一時金支給に関する協定が締結され、その各支給額は、従業員平均として、基本給に別紙(四)一時金対照表(以下「別表(4)」という)(一)中の「月数」欄記載の各月数を乗じて算出された別表(1)B表各末行及び同表(2)B表中昭和五九年夏季分記載のとおりであった。また、昭和五八年夏季、同年及び五九年各冬季各一時金については、協定が未締結であるが、被告会社は、別組合との間では一時金につき、昭和五八年夏期は基本給の平均二・七八か月分、同年冬期は前同二・九六か月分、同五九年冬期は前同二・七か月分の各協約を妥結し、組合員以外の従業員に対し右同額を既に支給済である。被告会社は組合との間の未締結は、被告会社が組合を差別する意図により誠実に団体交渉をしないためであるところ、右差別意図なかりせば、右各一時金については、少くとも、右別組合との各協定同率の一時金協定が妥結したであろうことは明らかであった。なお、一時金支給率は、一律部分と査定部分に区分されているが、原告は従業員平均の査定を受けるものと考えざるをえないので、基本給に平均支給率(月数)を乗じて具体的一時金額を算出したものである。

(四) 被告会社においては、就業規則上従業員の自宅から被告会社までの交通費の実費(通勤手当)が支給されることになっているところ、原告は昭和五一年二月九日以降就労を拒否されてはいるが、被告会社に対し就労の意思を明示しており、出社もしているのであるから、交通費の請求権があるというべきところ、原告の昭和五一年二月九日以降同六〇年一月末までの交通費は、別表(1)同(2)の各C表記載のとおりで、その合計は、一〇四万八二六〇円である。

(五) 以上(一)ないし(四)の合計額は二八七九万八七四一円となるところ、被告会社は、原告に対し、以下のいずれかの原因に基づき、右合計金を支払う義務を有するというべきである。

(1) 賃金請求中、解雇当時の賃金額部分及び、爾後組合との間で昇給協定妥結済分のうち一律昇給額部分、一時金請求中、組合との間で一時金協定妥結済分のうち一律支給額部分及び交通費について。原告は雇用当初において、当時及び爾後の昇給及び一時金協定妥結により定められるべき賃金債権を有していたものであるところ、被告会社の本件解雇による原告の就労不能は前記のとおり被告会社の責に帰すべき事由によるものであるから、原告は、民法五三六条二項に基づき、右賃金請求権を取得する。

(2) 解雇後の昇給、一時金請求中、協定既妥結分のうち、査定分について。使用者の裁量に基づく査定権の行使によって始めて発生すべきものであるとしても、被告会社の本件解雇行為は、原告の査定を受ける利益を侵害したものであり、また、被告には、右解雇にあたり、前3項記載の故意若しくは過失があるから、結局故意又は過失に基づく不法行為を構成する。かつ、そして、右解雇なかりせば、原告は少くとも従業員平均の査定をうべかりしであったことが明らかであるから、原告は不法行為に基づく逸失利益の損害賠償として、民法七〇九条に基づき、右各査定部分額相当金額の請求権を取得した。

(3) 一時金請求中、協定未妥結期分のうち一律支給分について。前記のとおり、被告会社と組合間に協定が妥結しないための不支給状態は、被告会社が別組合との差別意図若しくは組合弱体化を意図して、誠実に団体交渉を遂げないためであるから、右未妥結状態は被告会社の組合及び組合員に対する不当労働行為なる故意又は過失に基づく不法行為を構成すべく、かつ、右不法行為なかりせば、組合との間で、少くとも別組合と同率の一時金協定の妥結をみることは明らかである。また、査定部分については前(三)末段のとおりである。したがって、組合員たる原告は、右不法行為に基づく逸失利益の損害賠償として、民法七〇九条に基づき、別組合との妥結協定同率の一律支給分相当金額の請求権を取得した。

5  よって、原告は被告に対し、雇用契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、昭和五一年二月以降同六〇年一月末までの間の未払賃金一時金、交通費、及び賃金、一時金相当損害金合計二八七九万八七四一円並びに同六〇年二月一日以降毎月二五日限り、月額二二万七〇二〇円の賃金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3の事実は否認する。

3(一)  同4(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実のうち、原告の賃金引上げ額が原告主張の額であること、原告の昭和五九年四月以降の基本給、及び月額賃金合計額が原告主張額であることは各否認し、各年度の賃上げのうち評価部分については従業員平均の賃上げ率、賃上げ額によるのが相当であり他に適当な方法がない旨の主張は争い、その余の事実はいずれも認める。

原告の昭和五一年二月分以降同六〇年一月分までの賃金は、別紙(三)賃金対照表(以下「別表(3)」という)(二)記載のとおりであり(基本給の計算方法は同別紙の「基本給の算出方法」どおりである)、右同期間の原告の賃金合計額は一七二六万六六八〇円となるので、この限度で認める。

(三)  同(三)の事実のうち、原告の昭和五一年夏以降同五七年冬までの各夏冬、同五九年夏の各一時金額、同合計額が原告主張金額であること、未妥結の原因、別組合同率協定が妥結したであろうことは、すべて否認し、査定部分につき原告が従業員平均査定を受けるものと考うべき主張は争い、その余はすべて認める。原告の既妥結季分の一時金は別表(4)(二)欄記載のとおりであるので、この限度で認める。また、昭和五九年冬季一時金については、組合との間で協約が未妥結であるが、原告以外の組合員に対しては一律本給比例部分に当る基本給の二・一六か月分を仮支給している。

(四)  同(四)の事実のうち、原告が就労意思を明示し、出社もしていること、主張交通費額の合計額が原告主張金額であることは、いずれも否認し、その余は認める。なお、原告は昭和五一年二月九日以降出勤しておらず、被告会社に交通費支払義務はない。

4  同(五)、同5の各主張はいずれも争う。

三  抗弁

1  被告は、昭和五一年二月九日、原告に対し被告の就業規則四四条、四五条に基づき懲戒解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という)をした。

2  懲戒解雇事由は次のとおりである。

(一) 原告は、被告会社が営業用車両の給油を行っていた天満石油株式会社(以下「天満石油」という)天神橋給油所において、被告会社と同様に、代金後日払いのいわゆる伝票買いの方法により自己の所有車両にガソリンの給油等を行ってきたところ、ガソリン代等の支払いを免れ、その分を被告会社に負担させようと企て、昭和四八年三月三〇日から同四九年三月三一日までの間、右給油所において原告個人所有車両に給油等をなすにあたり、右伝票買いのための伝票に個人所有車両のための給油等であることを明示せず、ただ被告会社名、車両番号及び購入者氏名欄に「岸田」とのみを記載し、天満石油をしてあたかも被告会社が伝票買いをなすものと誤信させて、別紙(五)不正給油等一覧表(以下「別表(5)」という)記載のとおり、前後七回にわたり、ガソリン合計二〇一・四リットル、一万三九八〇円、オイルその他合計八二〇〇円、以上代金合計二万二一八〇円相当の給油等を受け、その結果、天満石油をして右誤信に基づき右代金を被告会社に請求させ、そして、原告個人所有車両の給油等の代金とは知らない被告会社をしてその支払をなさしめ、もって、原告は、右代金の支払を免れ、被告会社に右代金を負担させて被告会社に同額の損害を与えたものであり、これは、就業規則四五条一号、四四条七号に該当する(以下、本解雇事由事実を「不正給油事件」という)。

(二) 原告は、

(1) 被告では、かねて掛売りでは代金回収の不能となる例がしばしばであり、大不況下にあって事務の合理化の必要があったため、昭和五〇年八月一八日以降従業員に対する商品の掛売りは一切禁止され、以後すべて被告の定める手続に則った現金引換えの方法によることに決められ、本社、大阪支店内でその旨周知徹底されて原告もこれを知悉していたにもかかわらず、昭和五〇年一二月六日午後五時一〇分頃、コーヒー一〇キログラム、リプトン紅茶二・二六キログラム入り二缶を、右手続に則った現金引換えの方法によることなく購入搬出しようとした。

(2) また、社員買い制度は、従業員の特典として、その日常の消費に供する範囲内において原価に近い低廉な価格で商品を購入できるとするもので、したがって転売目的で商品を購入することは社員買い制度の趣旨を逸脱するもので被告に対する著しい背信行為というべきところ、転売の目的で右のとおり大量の商品を購入搬出しようとした。

(3) さらに、前同日時、被告の商品のスポングミル一台を社員買いをなすに必要な伝票作成手続も一切とらずに、被告会社外へ不法に搬出しようとした。ものであり、原告の右各所為は就業規則四五条七号、同条一号、四四条九号に該当する(以下、本解雇事由事実を「不正持出し事件」という)。

(三) 被告会社においては、一般顧客に対する商品販売の形態として現金売りと掛売りの二形態があり、右現金売りは大別すると、(1)喫茶店等の得意先口座をもつ相手に販売する場合(以下「得意先売り」という)、(2)被告会社の店頭で顧客に販売する場合(以下「会社店頭売り」という)、(3)得意先の従業員等の個人に販売する場合(以下「得意先個人売り」という)の各形態があるが、現金売りの場合はいずれにしても、商品と引換えに販売代金が入金するのであるから、販売課員としては納品日に直ちに被告会社に代金の入金手続をとる義務があり、右現金売りの管理は、相手方の不特定性、不定期少量性、当然の現金引換性に照らし個々の社員を信頼して、主任職の統括に委ねられていたところ、原告は、被告会社の販売課員及び主任として販売代金の集金や会社店頭売りの業務に従事してきたが、被告会社の右主任に対する信頼を裏切り、現金売りの管理面のチェックの手薄な盲点をつき、昭和四八年二月から同五〇年五月までの間、前後三七回にわたり、別紙(六)売上金着服一覧表(以下「別表(6)」という)記載のとおり、現金売りの方法で商品を販売し、同表の「領収日」欄に記載の各日に、これに対応する同表の「売上金額」欄に記載の各金員を集金しているにもかかわらず、集金代金をそのまま着服横領して結局入金せず(同表の<1>、<6>、<7>、<15>ないし<18>、<20>、<24>ないし<26>、<34>ないし<37>うち、会社店頭売りは<1>、<17>で、うち<1><7>は原告自身当初着服を認めたもの)、また、集金日よりかなり遅れて、特に店頭売りについては即座に入金すべく、またそれができるのに拘らず、遅れて入金し(同表の<1>ないし<5>、<8>ないし<14>、<19>、<21>ないし<23>、<27>ないし<33>、うち、会社店頭売りは<1>ないし<5>、<8>ないし<13>、<17>、<19>、<21>、<22>、<23>、<28>)、この間右各集金を自己のために流出し、以って、少くとも右別表未入金欄記載合計金一万六七二五円を着服横領し、かつ、右同表売上金額全額について集金当日に入金手続をとるべき義務に違反したものであり、右行為は就業規則四五条一号、同四四条三号、及び同四五条四号に該当する(以下、本解雇事由事実を「売上金着服事件」という)。

(四) 原告は、

(1) 三、四日前に、安原弘部長より販売拡大戦略のための販売地区全域の地図の作成(以下「地図作成」という)を命じられ、少くとも昭和五一年一月二八日中に提出しなければならなかったが、同日午前、グリーンフェリーに商品を同日午前中に至急配送しなければならないとの理由をもうけて、右地図作成業務を中断して外出しようとしたところ、これを発見した右安原より急ぐ配送なら他のものにさせるから地図作成を続けるよう指示されたにもかかわらず、右業務指示を全く無視して外出し、右配送もしていないという不可解な行動をとり、

(2) 前記(1)の外出後一〇分~二〇分後の午前一〇時半頃に被告会社の事務所に戻るや突然「これから組合活動に入る。」とだけ言うと「組合活動のため」と記載された通告書を前記安原の机の上に放り投げて右事務所を出たきり同日は全く就労しなかった。

ものであり、原告の右各所為は、就業規則四五条二号に該当する(以下本件解雇事由事実を「業務命令違反事件」という)。

(五) 補充的懲戒解雇事由

被告会社は、昭和四八年頃から収益が悪化し、同五〇年の決算では損失を計上することとなり、被告会社ではこの経営危機を乗り切るため、同年に機構改革と経営陣の刷新を行ったが、さらに、営業部門を強化するため、直接取引先と接触する第一線の営業員から、営業担当地区の取引先、市場の動向や同業他社の動きなどを含めた担当地区の実情の報告を求めるとともに、担当者から営業に対する種々の意見や提言を求めること、さらに、担当地区に対する営業計画の把握と理解のうえに適切な営業指導と援助を行うことを目的として、従来、営業員が毎日提出していた日報「業務報告書」に替えて、営業員に対し、新たに「地区別検討表、地区別報告書」(以下「検討表」という)の提出を求めることにし、同年九月度から営業員より右各報告がなされるようになった。しかし、原告は、組合の承諾なしに右検討表を実施したとして、その実施の撤回を要求し、被告会社の誠意ある説得も一切聞こうとせず、しかして、一部組合員(営業員)から同年一〇月分の右検討表が提出されない状況になり、被告会社の努力にもかかわらずその後も営業員の一部には右検討表提出の指示に従わないものがあり、原告も、被告会社の再三にわたる提出の指示にもかかわらずこれを提出せず、同五一年一月一九日にはやむなく戒告の処分をなして反省を求めたが、以後も右検討表を提出しなかった。そのため、被告会社再建の計画は大きく後退し、原告の担当する営業地域の実態と市場の動向は被告会社の計画に反して何一つ把握できない状況となった。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実のうち、被告会社が営業用車両の給油を行っていた天満石油天神橋給油所において、原告が被告会社と同様に代金後日払いの伝票買いの方法によりその個人所有車両に給油等を行っていたこと、原告が昭和四八年三月三〇日から同四九年三月三一日までの間、右給油所においてその個人所有車両に給油等をなすにあたり、伝票に被告会社名、車両番号、原告の姓のみを記載して、別表(5)記載のとおりの日時、品目、金額による代金合計二万二一八〇円相当の給油等を受けたこと、天満石油が右代金を被告会社に請求し、被告会社がこれを支払ったことは認め、その余の事実は否認する。

(二)  同(二)(1)の事実のうち、原告が主張日時に主張の物品を現金引換えの手続方法によらないで購入しようとしたことは認め、その余の事実は否認する。事実の誤認が著るしい。被告会社の大阪支店長であった前記安原部長が昭和五〇年八月一八日以降従来なされていた掛売りを廃止し現金伝票で購入するよう指示したことはあるがその目的は事務の合理化のためチェックオフ手続の廃止に止まり、それ以上の即日現金払いとかの手続を指示するものではなく、さらに同支店のみに対する指示であり、全社的に社員買いのルールを変更したものではない。

同(二)(2)の事実のうち、原告が転売目的でコーヒー及び紅茶を購入しようとしたことは否認する。

同(二)(3)の事実は否認する。

(三)  同(三)の事実のうち、被告会社において商品販売形態として、現金売りと掛売りの二種があり、前者に被告主張の三種の場合があること、原告が主張業務に従事してきたこと、原告が別表(6)のうち<16><20><24>を除くその余の場合について、同表「領収日」欄記載の日に同表「得意先欄」欄記載の客に対し、同表「売上金額」欄記載の金額相当商品を現金売りの方法で販売したことはいずれも認め、その余は否認する。特に、原告は別表(6)「領収日」欄記載の各日に同対応「売上金額」欄記載の各金員を集金していないし、同表<1><7>に関する被告主張を認めたこともない。

(四)  同(四)(1)の事実のうち、安原部長より原告が地図作成を命じられたこと、主張日時に原告が主張理由を告げて外出しようとしたこと、これに対し、安原が主張内容の指示をしたが原告が地図作成をやめて外出したことは認めるが、その余は否認する。

同(四)(2)の事実は認める。右に認めた原告の行動が被告主張就業規則条項に該当する点は争う。

(五)  同(五)のうち、被告会社が昭和五〇年に機構改革と経営陣の刷新を行ったこと、被告会社が同年一〇月に検討表制度の導入をはかり、これに対し、組合が事前協議なしに検討表制度を実施したとしてその撤回を要求し、原告及び一部組合員が同月分以降の検討表を提出せず、原告は、そのため被告会社から、主張日時に戒告処分を受けたが、その後も提出しなかったことは認め、その余は否認する。

五  再抗弁

1  懲戒解雇権の濫用等

仮に原告に何らかの落度があったとしても、本件懲戒解雇処分は、次項記載の背景、いきさつによる被告会社、組合間の激しい対立のさ中にあって、前川祐幸部長(現代表取締役)や前記安原らが、原告に対し感情的に対処し、これをきらって、粗探し的に、事実を歪曲ないし誇張して解雇理由を捏造して、なされたものであって、各解雇事由についても、以下の事情が存し、いずれも原告に不正行為の故意なく、或いは天満石油側に問題が多かったり、上司である前川、安原らが感情的に追及対立するのみで原告との対話もなかった事情を総合考慮すれば、原告のみを一方的に非難することは許されず、本件懲戒解雇処分は社会的相当性を逸脱しており、懲戒解雇権の濫用に該当し、無効である。

(一) 不正給油事件について

原告が個人所有車両に給油等をする際、その伝票に個人所有車両のためのものであることを明示しなかった点において原告に何らかの落度があるとしても、右伝票の作成は本来天満石油においてなすべきものを、同石油の店員の依頼で便宜原告が天満石油に代って記載していたものに過ぎないうえに、もともと伝票には注油車輛を区別特定するために車番が記載されているのであるから、天満石油としては、後日給油代金等を請求するにつき右「個人」の便宜的記載がないならば、本則にかえって車番により請求先を判別することは容易であったのに、偶々同石油内の従業員の不正にからみ、右判明を怠たり誤って被告会社に請求したのであるから、この点天満石油に責任があるというべきであるし、さらに、被告会社としても天満石油からの請求書を正しくチェックしていれば原告所有車両分が誤って請求されていることが容易に発見し得たものである。

よって、右のように落度が軽微である事情、及び、そもそも被告会社の損害は直ちに原告に求償しさえすれば補てんしうる性質のものであることも考え合わせると、本件ガソリン不正給油の件をもって懲戒解雇事由の一つにあげること自体が相当でない。

(二) 不正持出し事件について

仮に、右事件の三点の物品購入を即日現金引換の方法によらなかった点に原告の落度があったとしても、安原の指示以後にも現金引換の方法によらないで社員買いをしている者が多数いたのに、その者らについては格段問題とされていない。また、社員買い制度は、原価ではなく被告会社も薄利とはいえ社員買いで利益を得ていたのであり、過去において、購入量の制限はなかったし、また、本件類似の多量購入例があるのに、格別に問題とされたことはなく、本件は、原告が、当時正月前でもあり兄弟らから分けてくれるように頼まれていたため割安となることもあるので多量に購入しようとしたものであって、家族や知人に便宜を図ってやることは誰にでもあることで格別禁じられてはいなかったのである。以上のところより、独り原告のみを問責するのは不公平である。

(三) 売上金着服事件について

原告が販売した商品のうち帳簿上未入金となっていることについて不分明な点があるとしても、原告は、被告主張の昭和四八年二月から同五〇年五月までの二年三か月余の期間中、二七〇〇万円以上の集金をし、しかも多数回にわたる少額取引の繰り返しであるから、若干の過誤は不可避であろうし、これも記帳ないし伝票処理上のミスである可能性も大きく、また、被告会社は昭和五〇年七月に現金売り分を含めて多額の不良債権を処理しているが、その際原告については問題はなく、却って、被告会社は本件解雇直前原告の集金関係についてのみ調査して粗探しをしていることからして、原告を非難することはできない。

(四) 業務命令違反事件について

(1) 被告会社は、昭和五一年一月当時、原告の解雇理由を作り上げる目的で原告を随時別室に呼び出し、事情聴取の名目で追及し、片や原告担当の得意先を回って原告の不正行為の調査をなしていたところ、右都合のため、原告を社内にとどめておくための口実として、本件以外に過去及び本件の後にも例が全くなく、しかも作らせながら現実に利用した形跡のないような本件地図を、作成期限作成目的を示すことなく、右同月一二日の事情聴取後、その都度その日になって命じていたものであるから、業務命令と評価するに価せず、もともと、緊急性も必要性もなかったものであった。他方、原告は、当時三地区(Cブロック)担当の主任であったため指揮下の配達担当者の業務代行をも主任業務の一つとしており昼間のグリーンフェリーへの商品配達はC地区では一つだけ離れた位置の大阪南港事務所へなしていたため、従来から、輩下の配達担当者井上の代行をしばしばなして来たところ、当日も右井上より不都合のため代行を依頼されて、従前例のとおり、承諾して、安原にその旨告げて配達に出ようとしたところ、右事情を知らない安原は、感情的になり前記地図作成を命じて、さらに原告より一方的に配達車の鍵を取り上げてしまったものである。

(2) 当時、組合は毎水曜日の夜職場集会をもっていたうえ、被告会社との対立が激化し、原告の解雇も予想されていたため、原告は、当日前記配達代行後、上部団体との協議等同日夜の職場集会の準備のための必要な組合活動を行う予定であり、他方、従来、被告会社においては、就業時間中の組合活動が許容され、慣行化していたところ、前同日、安原の対応のため配達が不可能になったため、予定どおり、同人に対し口頭で組合活動をなす旨通告し、さらに書面で同旨の通告をなしたうえで組合活動のために外出したものである。

(3) 以上の事情に照らせば、原告が地図作成命令に服さず、その後外出したことが、万一、被告主張の如く業務命令違反職務放棄に該当するとしても、およそ、懲戒解雇事由の一つとするに価しないものである。

(五) 補充的懲戒解雇事由について

組合は、検討表制度導入がノルマを営業員に強要する新たな労働強化を目指すものとして反対し、組合の代議員会の決定により事前協議協定による協議を申し入れたが、被告会社がこれを拒否したため、組合員に対し検討表の提出を一時保留するよう指示し、原告も、これに従ったものであって、原告の検討表提出留保は正当な組合活動として行われたものであるから、懲戒理由の違法性が阻却される。

また、検討表を巡る労使間の紛争は昭和五四年三月二二日大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という)において和解が成立して、原告を除く他の組合員に対する検討表不提出を理由とする懲戒処分が撤回されて解決済みであるから、原告についても懲戒処分は撤回されたものと考えるべきである。さらに、もともと昭和五〇年当時被告会社はその業績が悪化していたわけでもなく、検討表制度を導入しなければならない必要性、緊急性はなかった。

2  不当労働行為

以下の事情を総合すれば、本件懲戒解雇処分は、何ら正当な理由がないにもかかわらず、被告会社が、組合副委員長として組合の中心人物であった原告の組合活動を嫌悪し、原告を企業外に放逐しひいては組合の団結を侵害しその弱体化を狙ってなしたものであり、労働組合法七条一号、三号に該当する不当労働行為として無効である。

(一) 被告会社は、訴外株式会社木村コーヒー店(本社東京、以下、訴外会社という)とは形式的には別法人として存在し、同系列の会社ながらも販売地域、範囲を異にする会社として併存していたが、昭和四九年以降訴外会社の代表者が被告会社の代表者を兼務し、両者は一本化して被告会社は訴外会社の関西支社としての機能を担うようになったところ、昭和四四年七月に訴外会社に企業内労働組合が結成されたのに続き、同年九月、訴外会社の指示に基づき被告会社の職制によって本件組合が結成された。

(二) 組合は、結成当初いわゆる御用組合であったが、昭和四八年八月原告らが新役員に就任して以降被告会社に対し権利主張するようになり、同年冬一時金、同四九年春闘において従来にない高額の回答を被告会社から引き出したが、これに驚いた被告会社は同年五月末原告を彦根へ転勤させるなどして組合弱体化を試みたものの、組合の抵抗で実現しえずに終ったため、被告会社は一層組合を敵視するようになり組合対策を図るようになった。

(三) 組合は、その後同四九年冬一時金闘争において戦術を強め従来は行ったことのない時限スト、腕章闘争等を行ったが、翌五〇年の春闘を控えた被告会社は春闘に歯止めをかけるため同年三月既に解決済みの右四九年冬一時金闘争における争議権行使等に関して組合三役に対し戒告処分を行ったが、組合は、被告会社の組合攻撃の執拗さを看取して上部団体となるべき総評全国一般労働組合大阪地方連合会(以下「全国一般大阪地連」という)への加盟の方向を具体化し、同五〇年四月右上部団体への加盟を決議する代議員会を開催しようとしたが、これを事前に察知した被告会社は露骨な妨害活動を行ったものの、全員出席のもとに一致して上部団体への加盟を決議し、同年五月組合は上部団体に正式加盟して組合の名称も総評全国一般大阪地連大阪木村コーヒー店労働組合に変更して後は、被告会社は上部団体に入るような組合は組合と認めないと発言して右変更名称を使用せず旧名称で組合を表示するなどして上部団体へ加盟したことに対する嫌悪感を隠さなかった。

(四) 訴外会社は、同年四月中頃、被告会社を訴外会社の関西支社として位置づける同年五月一日付の新しい社内組織とこれに伴う新人事を発表し、組合潰しを主たる目的にして訴外会社の前川総務部次長(現被告会社代表取締役)及び安原事業本部地方支店長をそれぞれ被告会社の取締兼営業部長として送り込んだ。そして、右前川は、尼崎出張所における就任挨拶において「今の組合は組合のことばかりやっている。そういう組合は潰す。組合三役を解雇する。裁判では負けるかもしれないが、その間金をためておけばよい。その間に組合を潰せばよい。」などと発言した。

(五) 被告会社は、前記前川、安原らの人事移動と同時に、従来尼崎営業所長であった組合の平野委員長に対し、営業所を出張所に格上げするとともに、同出張所長への昇格を命じた。ところで、営業所長は非管理職で組合員資格を有しているのに、出張所長となると管理職となり、非組合員となるもので、右昇格命令は組合の弱体化を狙ったものであること明らかであり、平野委員長はこれに応じず、以後出張所長代行として組合員資格を維持している。

(六) 昭和五〇年春闘は、前記のような状況の下で紛糾し、被告会社は組合の正当な教宣活動や腕章着用闘争に対して次々と警告書等を発したが、組合の全国一般大阪地連との連携強化、大阪地労委の斡旋により同年五月三〇日、同年度賃上げは妥結し、同時に前記(三)の組合三役に対する懲戒処分と右警告書の撤回、並びに「今後被告会社は労働協約、諸協定、約束を遵守する。会社は今後不当労働行為をしない。会社、組合双方は諸案解決のため労使協議を基本として行い、そのため事前協議を十分尽す。」旨の協定(以下、「本件事前協議声明」という)を締結し、被告会社の組合弱体化攻撃に歯止めをかけた。

(七) 被告会社は、右のとおり、その組合弱体化攻撃が思惑通りに進まないため、訴外会社と同じような従業員の個別管理による労働強化を目的として、同年六月、営業車の走行状況を含めて営業員の仕事を毎日細かく報告させて営業員の行動をチェックしようとする「運行表」の作成を義務付けようと試みたが、組合の反対で一か月間のみ実施しただけで終った。

(八) 被告会社は、右のとおり「運行表」の導入を実現できなかったので、同年一〇月、新たに前記の検討表制度の導入を図ったが、組合は右制度はノルマを各営業員に強要するものであり、新たな労働強化を目指すものとして反対し、本件事前協議声明等に基づき被告会社に事前協議を要求した。しかし、被告会社はこれに応じないばかりか、組合の反対を無視して各従業員に用紙を配り、同年一〇月分を一一月一八日までに提出するように要求し、その後同年一一月七日に団体交渉が開催されたものの被告会社は検討表は業務上の問題であって組合との協議事項ではないと主張して一切の話し合いを拒否した。そこで、組合は組織決定において、組合員に対し被告会社との話し合いがつくまでその提出を一時留保するように指示したが、被告会社が昭和五一年一月に検討表不提出について警告書等を発して同表の実施を強行しようとしたので、組合は、右措置に強く抗議したところ、被告会社は組合に対し、検討表実施強行を続けるか否か検討し、その結論が出るまで同表不提出者に対する懲戒処分をしない旨確認した。

しかるに、被告会社は同年一月一九日、突然、原告を含めた検討表不提出の組合員に対し、同表を三か月(昭和五〇年一〇月ないし一二月度)にわたって提出しないことを理由に戒告処分を行い、組合活動を理由に懲戒処分をなすというあからさまな不当労働行為をあえてなした。

(九) また一方、被告会社は昭和五〇年一二月頃から原告の解雇事由を作り出すため、同人の粗探しを行い、そして、翌五一年二月七日組合分裂を目的として従業員に対する土曜休日の割当てを一方的に変更し、さらに、同月九日原告を本件懲戒解雇処分に付した。

(一〇) 被告会社は、同年二月以降も前記地区別検討表の提出を保留している組合員に対して減給処分を行い、経済的に追い込んで組合からの脱退を迫り、さらに、組合の批判グループに働きかけて同年三月一四日第二組合たる別組合を結成させ、しかも、同年春闘については別組合を著しく優遇するなど露骨な組合間差別を行い、このような状況下の同年六月九日、被告会社は組合の岡部書記長と井上代議員を解雇した。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1冒頭の主張は争う。

(一) 同1(一)の事実はすべて否認する。

(二) 同(二)の事実のうち、現金引換の方法によらないで社員買いをしている者が多数いたこと、原告主張の購入目的は否認し、その余の点は争う。

(三) 同(三)の事実のうち、原告が二七〇〇万円以上集金していたこと、昭和五〇年七月の不良債権処理の中に現金売り分が含まれていたことは否認し、その余は争う。

(四) 同(四)の事実のうち、(1)の、原告が安原に対し、グリーンフェリーに商品配達に出かける旨告げたこと、(2)の口頭及び書面で組合活動を行う旨通告したことは認め、その余の点は否認する。なお、グリーンフェリーに配達する商品は大阪南港に夜間停泊するフェリーに積み込むものであり、至急の配達を要することはありえないし、また、就労時間の組合活動は、これを禁止した被告会社・組合間の労働協約一一条に反する違法なものである。

(五) 同(五)の事実のうち、組合が主張理由により検討表制度導入に反対し、組合の決定により事前協議を申し入れたこと、組合が右表提出の一時保留を指示し、原告もこれに従ったこと、主張日時に大阪地労委で和解が成立したこと、はいずれも認めるが、その余は否認する。

2  抗弁2冒頭の主張は争う。

(一) 同2(一)の事実のうち、被告会社と訴外会社が一本化して、被告会社が訴外会社の関西支社としての機能を担っていることは否認し、その余は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、原告が昭和四八年八月に組合の副委員長に就任したことは認め、その余の点は否認する。

(三) 同(三)の事実のうち、被告会社が組合の昭和四九年冬一時金闘争におけるビラ貼り及びストライキに関して就業規則、労働協約違反を理由に組合三役に対し戒告処分を行ったことは認め、右一時金闘争におけるストライキ等が解決済みであったこと、被告会社が組合の全国一般大阪地連への加盟行動に対する妨害活動を行ったこと、被告会社が上部団体に入るような組合は組合と認めないと発言して上部団体加盟に対し嫌悪感を示したことは否認し、その余の事実は不知。

(四) 同(四)の事実のうち、前川、安原が訴外会社より被告会社に取締役兼営業部長として出向したことは認め、その余の事実は否認する。

(五) 同(五)の事実は否認する。

(六) 同(六)の事実のうち、被告会社が組合の昭和五〇年春闘における組合活動に対し警告書を発したこと、同年五月三〇日に同年度の賃上げが妥結したこと、被告会社が昭和五〇年三月になした組合三役に対する戒告処分及び右警告書を撤回したこと、被告会社が「諸案解決のため労使協議を基本として行い、そのため事前協議を十分尽す。」旨の声明を発表したことは認め、その余の事実は否認する。なお、右声明は、すべての事案について事前協議をするという趣旨のものではなく、当時懸案となっていた諸事項について今後も継続協議するということに過ぎないものである。

(七) 同(七)の事実のうち、営業員に対し「運行表」の作成提出を求め、一か月間実施されたことは認め、その余の事実は否認する。

(八) 同(八)の事実のうち、被告会社が営業員に対し検討表の作成提出を求め、また各営業員に所定の用紙を配って昭和五〇年一〇月分を同年一一月一八日までに提出するよう求めたこと、組合が検討表についての労使間の協議を求め、同年一一月七日に労使協議が開催されたこと、被告会社が検討表未提出者に対し警告書を発したこと、昭和五一年一月一九日原告を含めて未提出者に対し譴責処分に付したことは認め、その余の事実は否認する。

(九) 同(九)の事実のうち、昭和五一年二月九日に本件懲戒解雇処分をなしたことは認め、その余の事実は否認する。

(一〇) 同(一〇)の事実のうち、被告会社が同年二月以降地区別検討表未提出者に対し懲戒処分をなしたこと、同年六月九日に岡部及び井上を解雇したことは認め、その余の事実は否認する。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1、2、抗弁1の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件懲戒解雇事由の存否について

1  不正給油事件について

(一)  抗弁2(一)の事実のうち、被告会社が営業用車両の給油を行っていた天満石油天神橋給油所(以下「本件給油所」という)において、原告が被告会社がなすのと同様に代金後日払いの伝票買いの方法によりその個人所有車両に給油等を行ってきたこと、原告が昭和四八年三月三〇日から同四九年三月三一日までの間、右給油所においてその個人所有車両に給油等をなすにあたり、伝票に被告会社名、車両番号、原告氏名のみを記載して、別紙(5)一覧表記載のとおり七回に亘りガソリン合計二〇一・四リットル、一万三九八〇円、オイルその他合計八二〇〇円、以上代金合計二万二一八〇円相当の給油等を受けたこと(以下「本件給油」という)、天満石油が右代金を被告会社に請求し、被告会社がこれを支払ったことは当事者間に争いがない。

(二)  ところで、被告は、原告が故意に右天満石油をしてあたかも被告会社が伝票買いをするものと誤信させ、右誤信した天満石油をして被告会社に給油等の代金を被告会社に請求させて被告会社に原告個人所有車両の給油等の代金を支払わせてその代金の支払いを免れた旨主張し、証人前川祐幸は、(ア)昭和五一年一月一九日の朝礼時に原告が極めて不自然な態度をとっており、(イ)本件についての天満石油の従業員の弁明では、原告が会社用務だから会社に請求をまわすよう指示している、(ウ)原告は給油係より、被告会社へ請求するために必要な顧客コード番号の記載のある伝票を受領しながら、何らの処置をとっていない、(エ)昭和五一年一月に原告は一年間の給油代としてわずか一万五〇〇〇円余の請求しか受けていないのに、残代金が被告会社へ請求されていないか確かめもしていない。の四点に基づき、本件は原告が被告会社に自己の給油代金を支払わせようと意図して故意になしたことが明らかである旨証言するので、以下検討する。

まず、前項争いない事実に加え、(証拠略)、証人前川の証言及び原告の本人尋問結果(一、二回)(但し、いずれも後記措信しない部分を除く)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告会社では従来より会社業務に従業員の自家用車を使用することが一切禁止されており、会社業務用には、修理時の代車を除きすべて、統一色彩塗りで社名ブランドを大書した会社所有ライトバン車が使用され、その給油取引は、昭和四八年以前より継続的取引関係にある近隣の本件給油所において、右車輛を使用する従業員が随時なし、代金支払いは、毎月定った日締で一箇月分の請求書が被告会社に届けられて、銀行振込みの方法によりその支払がなされていた。他方、被告会社では自家用車による通勤は禁止されておらず、本件当時、原告、岡部朗、後記石飛邦夫総務課長(以下「石飛」という)が自家用車で通勤をし、その給油取引を被告会社の場合と同程度の割安の便宜があるため、本件給油所となし、その代金請求は、一箇月毎の集計による個人宛請求書が被告会社の原告らの手許へ届けられてなされていた。

(2) 当時の本件給油所での給油時の伝票処理手順は、以下のとおりであった。伝票には納品書、請求書、受取書の各表示で、右同順に三枚一綴りの複写式伝票が使用され、被告会社の前記業務用車輛の際は、本件給油所の給油係従業員(以下「給油係」という)が、まず、表面納品書伝票に日付、販売品名、数量を各欄に記入し、ついで運転手に交付し、運転従業員が、右伝票の買受社名欄に被告会社名を、車番欄に当該車番を、署名欄に担当運転従業員氏名を、各自署して返却し、給油係は、更に記載することなく右の状態の納品書伝票を分離して右運転従業員に交付する手順がとられていた。次に、原告ら被告会社従業員の個人所有車輛の際は、前記のとおり個人宛請求書も被告会社へ届けていたため、運転手が前同記載手順の外に、買受け社名欄には被告会社名を記入すると共に個人用であることの趣旨の「個人」記載を追記する手順がとられ、右「個人」記載は、給油係より、請求書を被告会社分と原告ら従業員個人分に仕分けする際の便宜のためにするものとして依頼されていたものであった。

ついで本件給油所では、残った請求書、受取書の二枚綴り、伝票の、顧客ナンバー欄に、予め決められた顧客別のコード番号と単価、金額欄を記入して請求書伝票が天満石油本社に送付され、本社で右コード番号により機械処理され、一箇月毎に集計され、買上げ日、品目、代金、車番等を一覧表にした一箇月分の請求書が作成され、これに前記請求書伝票をそえて各顧客に請求され、受取書伝票のみが最終的に天満石油に残されていた。

(3) 原告は、本件給油所で、被告会社業務用車、個人用自家用車のいずれのときも、前項記載手順に一応従った伝票記入をなして来たが、本件給油の七回(<証拠略>)の外、少くとも昭和四九年三月一一日の個人用給油の際(<証拠略>)にも、前記「個人」記載を欠落した伝票記載をなしたところ、右のうち、本件給油の七回については天満石油により被告会社用として同社に請求がなされた。また、原告の本件給油当時個人用平均給油代金は約一万円前後であり、原告もその旨を把握していた。

(4) 本件給油所においては、昭和四八年四月からマネージャーとなった生野喜一郎が、同四九年ころから現金払い客の金員の着服をし始め、また、原告らの請求書及び納品書伝票を天満石油本社に送付せずに店に隠して置き、送付した分については未払い報告をするなど不正な処理をしており、その関係で、原告に対しても、同年ころ、天満石油から過大な金額の請求があったり、全く請求がなされなかったりそのまま放置されたりしたところ、原告はこれに抗議したり、被告会社に対し天満石油からの請求が従前どおり正確になされているか否かを確めたりして、結局同年一二月一五日、四万三二九六円を支払うなどしていた。ついで、本件給油所において、同五〇年末に至り、生野の不正行為が発覚し、請求もれとなっていた原告らの伝票が発見され、原告に対し追加請求がなされたが、原告は天満石油と協議の上で、同五一年一月に、同四九年一二月分及び同五〇年一、二月分の三箇月の残額合計ということで、合計一万六〇四〇円を支払った。

(5) 被告会社において、その営業用車輛の給油代金のチェックを一人で行っていた総務課長石飛は、前記のとおり、原告同様自家用車で通勤し、本件給油所で給油していたが、長期にわたり、その代金を会社に請求するように本件給油所に指示し、自ら天満石油からの請求書をチェックする立場にありながら、その立場を悪用して被告会社に一〇数万円の給油代金を支払わせたほか、多額の不正行為をなしていたことが発覚し、昭和五一年一月一六日付で被告会社から懲戒解雇された。

(6) 被告会社において、同月一九日の朝礼において、石飛課長が、未払金の着服横領及びガソリン代の不正給油の件で懲戒解雇された旨発表されたが、その直後、前川業務部長(現在、代表取締役)が原告を呼びとめたところ、原告は、同人の顔を見るなり「ああガソリンの件ですね。領収書があるから、今持ってきて見せますよ。」と言って、自分が保管していた(4)記載の五一年一月付の一万六〇四〇円を天満石油に支払った旨の領収書を持って行った。前川部長は、他の件で呼びとめたのにもかかわらず、石飛課長をガソリンの不正給油等で懲戒解雇した旨発表した直後に自らガソリンの件を切り出した原告の態度などに不審を抱き、早速、天満石油から被告会社に宛て送られて保管されている請求書及び伝票を精査したところ原告の自署にかかる同人所有車の車番伝票による本件給油の代金を被告会社が誤って支払っていたことが判明した。そこで、同月二一、二日ころ、前川部長らが、原告を呼んで事情を聴取したところ、原告は、天満石油本件給油所で個人所有車両に給油する際には、「個人」なる旨伝票に併記する旨答え、ついで、「個人」記載のない本件給油の各伝票を示して詰問されるや黙りこんでしまった。

以上のとおり認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はなく、(証拠判断略)。

(三)  ところで、前認定のとおり伝票に特に車番をしかも顧客本人に記載せしめる趣旨は買受人特定の資料の一つに予定されていることは明白であって、他方、前認定の「個人」記載依頼の趣旨、目的が顧客コード番号記入時の被告会社用、原告ら従業員個人用の仕分けを専ら右「個人」記載の有無のみによるためである旨の了解ないし合意が原告ら従業員と本件給油係の間にかわされていたことを認めるに足る証拠はないので、この点と前(一)(二)項判示事実関係(特に前項(2)(3))を総合すれば、被告会社による本件各給油代金の支払い結果(以下「被告会社の過誤払い」という)は、原告の「個人」記載の欠落に端を発し、本件給油所従業員が、請求書伝票に顧客コード番号を記入するに際し、伝票の車番等その余の記載事項の入念な点検を怠り、買受会社名欄記載のみによって被告会社用と区分して右番号を記入し、ついで、被告会社において、石飛が請求書の明細、及びその添付の請求書伝票の車番の入念な点検を怠った、二個の事務処理懈怠の競合により生じたものと推認すべきである。そして、また、前認定のとおり石飛の執務懈怠は恒常的なものとしても本件給油所従業員の執務懈怠が本件給油当時恒常的なものであったことを認めるに足る証拠もないので、右天満石油及び被告会社総務課の懈怠の競合(以下「落度の競合」という)は偶発的現象であったというべきである。

(四)  そこで、本件各給油時に原告が被告主張の悪意の狙いにより故意に「個人」記載を欠落させたもの、若しくは各給油時に右記載の欠落がその後の被告会社の過誤払いを招来するかも知れないことを認識ないし予見しながら、右違法結果を認容して、「個人」記載を欠落させたものであるかにつきみる。

まず、前(一)(二)判示の事実関係によれば、 (1) 原告は給油係から特に「個人」記載を求められていながら欠落させた。(2) 給油の都度右記載の欠落した納品書伝票を持ち帰っているのだから、容易に気付きえたのにその追完を天満石油に申し出た形跡がない。(3) 昭和四八年四月分二回は合計八五七四円(別表(5)の<2><3>)は平素の原告の平均的給油代金に照らし高額であるから、この不請求事実より、被告会社への過誤請求に気付きえた。(4) 前(二)(6)の不自然な行動、を、綜合すれば、逆に当初から、然らずとするも、右四月分の代金請求時期後の前同年五月以降の給油(別表(5)<4>ないし<7>)からは、原告は「個人」記載欠落が被告会社の過誤払いを招来するかも知れないことを認識し、さらにこの予見に基づき爾後の被告会社の過誤払いをあわよくばと狙い或いは認容して「個人」記載を欠落させたのではないかと疑われないではない。

しかしながら、他方、(ア) 原告が給油の都度、納品書伝票を爾後に几帳面に点検するなり、代金請求まで整理保存していたこと、原告が「個人」記載を欠落すれば、本件給油所で、請求書に顧客コード番号を記入するときに、前記の給油車輛の外観上の明白な相違や車番を考慮することなく当然に被告会社コード番号を記入してしまい、或いは請求おくれ分は事務処理等の都合により天満石油側に停滞する余地はありえず、当然に被告会社へ伝票が送付されているものと認識していたこと、原告が当時生野が杜撰な執務をなしていたこと或いは石飛が請求書明細を恒常的に怠っていたことを知っていたことは、いずれもこれを認めるに足る証拠がない。(イ) かえって、前(二)認定事実関係によれば、車番を顧客に記入せしめる趣旨が買受人特定資料の一つであり、給油係としては、「個人」記載もれがあっても、給油車輛の特色ある外観を想起したり、直ちに原告に問い合せたり、被告会社、原告とも常得意先のため当該伝票と従前の残存同種受取書伝票の車番照合により、原告個人用の一応の判別は容易であったのであり、このことは原告ら個人用給油者と給油係双方にとって容易に知りうることであったと推認できるのであり、「個人」記載のみにより区分する旨の了解が認められないことは前示のとおりであるから、「個人」記載は給油係の便宜のため以上に出でず、したがって原告自身も「個人」記載の欠落が顧客コード番号の区分過誤を容易に招来するものと認識していたといえるかは極めて疑わしい。(ウ) 原告に被告主張の悪意、若しくは結果の認識ないし予見、これに基づく認容ありとすれば、わざわざ結果発生の障害になるような自己個人の車番をもれなく記載している点は矛盾を感ぜしめ、また、右個人車番を記入して、なお、かつ被告会社の過誤払いは落度の偶発的競合の末始めて生じうるという本件違法結果の発生機序の特徴下にあって、右結果発生を故意に狙い、或いは認容して「個人」記載を欠落させたものならば、当初から全部といわないまでも相当多数の給油につき「個人」記載欠落をなし若しくは、おそくとも本件給油<3>の代金請求時期後である昭和四八年五月以降の給油につき、それまでに比し、一挙に右記載欠落が増加せねば、およそ右狙い、或いは認容の成果が期待できないところ、証人前川の証言によれば、同人が昭和四八年から三箇年分の原告個人買いの全受取伝票を天満石油から借り受けて精査したことが認められるに拘らず、本件給油の七回及び昭和四九年三月一一日(<証拠略>)の外に、「個人」記載欠落伝票がそれ程多くあったり、昭和四八年五月頃以降特に増加したことを認めるに足る証拠もない。(エ) 飜って、前記の被告会社の過誤払い発生の偶発的機序の特徴下にあって、原告がしかも、右発生障害となる個人用車番をもれなく記載しつつ、一方で「個人」記載を、しかも別表(5)で明らかなように、一年間に七回の間歇的に、自ら自由にならない偶発的違法結果の発生をわざわざ狙ったり、認容するという、特異な非違行為をなすべき、いかなる理由、動機が原告に存したのか証拠上不明である。(オ) 前(二)(6)の原告の行為の不自然さについては、天満石油の関係で残代金のないことから直ちに被告の会社の過誤払いのないことにならないのは明らかな道理であるから、原告が故意に被告会社に過誤払いをさせたのならば、わざわざ自己の非違行為の有効な弁明となりえないことを先走って言い出して、自己に対する注目を誘発するような愚行を敢えてなすとは経験則に照らし考えられず、むしろ、後記認定のとおり、当時、原告は、検討表不提出問題、不正商品持出し事件、集金着服事件の各嫌疑により、虎視眈々と解雇を狙われていると痛感していたため、自分は石飛のように個人用給油を全部被告会社へ請求することを指示するような非違行為をせず、このとおり個人分を天満石油に支払っている旨わざわざ先まわりして弁明しようとしたものに過ぎないものとみられ、不自然さは右の限度以上を出でず、被告主張のように原告の悪意に関連づけられるものでもない。

以上のとおりで、右(ア)ないし(オ)の事情に照らせば、冒頭の(1)ないし(4)から、直ちに、原告が、当初から、若しくはおそくとも、昭和四八年五月以降「個人」記載の欠落により被告会社の過誤払いが発生することを認識ないし予見し、さらに、右認識に基づき、右違法結果を狙い、或いは認容して「個人」記載を欠落させた事実を推認することはできない。そして、他に右推認するに足る証拠はない。よって、(一)冒頭の証言は採用できず、同所の被告主張は理由がない。

(五)  ところで、前(二)認定の事実関係によれば、本件給油所の従業員が、原告ら被告会社従業員個人用給油には自己の便宜上とはいうものの、特に「個人」記載を求め、原告らがこれを了承したのであるから、右記載を欠落すれば、給油所の従業員が右了承に頼り切って判別を過まるであろうこと、被告会社総務課で石飛が請求書明細を入念に点検しないこと、したがって、右記載欠落のため被告会社の過誤払いが発生することも原告にとって予見できないことではなかったと推認しうるところである。そして原告は本来、従業員として雇用関係に基づき、使用者たる被告会社に対し可及的に損害を与えないように配慮すべき注意義務を負っているというべきである。したがって、原告が本件各給油所において、伝票に「個人」記載を欠落し、因って被告会社に本件過誤払いを生じたことは原告の右注意義務違反に基づく過失によるものというべきである。

(六)  ところで、成立に争いのない(証拠略)によれば、被告会社の就業規則四五条一号は、懲戒処分事由の一つとして「第八条、第九条及第四十四条に該当し、その情状が重いとき」と規定し、同規則四四条七号は、「故意又は過失により業務の能率を阻害し、業務の遂行を妨げ、又はその他の理由により会社に損害を与えたとき」と規定していることが明らかであるところ、前項判示のとおり、原告が本件各給油に際し、本件給油所の従業員の要請に反し、納品伝票の買受会社名欄に「個人」記載を欠落させ、因って被告会社に本件給油代金合計二万二一八〇円の過誤払いをなすに至らしめた行為は、右四四条七号の「過失により会社に損害を与えたとき」に該当するものというべきである。

つぎに、前記のとおり、本件給油係が「個人」記載を要請したのは、一面、原告ら従業員に被告会社との取引単価同様の割安と月毎一括請求書を被告会社へ届けてなすことの便宜をはかることの代償的性格を有するものともみられるので、原告の前記「個人」記載欠落行為は給油係の信頼を裏切るものであるのみならず、被告会社の従業員のゆえに享有できた被告会社からの便宜供与に対する一種の忘恩的側面をもつというべく、さらに、原告本人の尋問結果(一、二回)によれば、原告本件解雇までに、被告会社より「個人」用給油代金混入による過誤払いの指摘を受けながら、素直に反省して即刻弁償する等の前記従業員としての配慮義務をつくすことをしなかったことが認められる。以上の事情に照らせば、原告の右過失に基づく伝票上、「個人」記載欠落により被告会社に本件給油代金の過誤払いを招来せしめた行為は、前記就業規則四五条一号の「その情状が重いとき」にも一応該当するというべきである。

よって、抗弁1は右限度で理由がある。

2  不正持出し事件について

(一)  抗弁2(二)(1)の事実のうち、原告が昭和五四年一二月六日午後五時頃、コーヒー一〇キログラム、リプトン紅茶二・二六キログラム入り二缶(以下「本件コーヒー」「本件紅茶」という)を現金引換えの方法によらないで購入しようとしたことは当事者間に争いがない。

つぎに、成立に争いのない(証拠略)、前掲証人前川、証人安原弘、同加藤小夜子の各証言と弁論の全趣旨を総合すれば次の事実が認められる。

(1) 被告会社では、従業員の特典として従業員は同社取扱い商品を一般小売価格より低廉な価格で購入することができるとする制度(以下「本件社員買い」という)を設けていて、従来、この制度により従業員が商品を購入した場合、その代金の支払は毎月の給料からチェックオフされる方法でなされ、いわゆる掛売りの方法がとられていたが右購入量については限度量の指定その他の制限は特に明示的になされていなかった。

(2) 昭和五〇年八月頃被告会社大阪支店長安原弘(以下「安原」という)は、当時被告会社がコーヒー業界の不況に対処するため種々努力研究を続けていたなかで、社員買い制度で従来の掛売り伝票で後日代金をチェックオフによる事務処理を廃止し、すべて現金売伝票により、現金引換え方法に変更すれば、伝票や帳簿の整理、チェックオフ手続等社員買いのため事務処理に要する時間が短縮でき、これにより一か月実働六時間程度の時間の節約できることを発見し、右変更を決定した。

(3) そこで安原は、同月一五日、本社従業員及び大阪支店従業員合同の朝礼において出席従業員に対し、事務の省力化を目的として同年八月一八日以降掛売りを廃止し、現金伝票で購入するよう訓示し、あわせて、八月一八日から従業員の掛売りを一切禁止してすべて現金伝票にて現金引換えで買い上げ願う旨を記載した同月一五日付「情報伝達票」を大阪支店従業員に回覧してその旨を指示した。

(4) 原告は右同伝達票を閲読しており、大阪支店においては右八月一八日以降、右指示に従って、本件社員買いがされるときは、現金伝票にてなされ、しかも概ね現金引換えによる方法でなされることとなり、従来のチェックオフによる購入代金の支払方法は廃止された。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

そして右認定事実によれば、原告は、社員買いについて定められた現金引換えの方法によらないで被告会社の商品の購入搬出しようとしたものというべきある。

(二)(1)  次に、抗弁同(2)の転売による利ざや稼ぎ目的による本件社員買い制度の悪用の主張につき以下検討する。

一般に商品を製造販売している企業が、その従業員の特典として、その取扱い商品を一般小売価格に比してかなり低廉な価格で販売する制度(社員売り又は社員買い制度)を設けていることは周知のところであって、右制度の趣旨に照らせば、特に規定がなくとも、右目的を超えて、従業員が第三者に転売して利益を得る目的で社員買い制度を利用して商品を購入することは、右社員買い制度の本来の趣旨を逸脱し企業にとって許容しがたいものであることは自ずから明らかであり、前掲証人前川の証言によれば、被告会社の本件社員買い制度も右と同趣旨のものと認められる。

(2)  ところで、被告は、原告が本件コーヒー、紅茶を転売目的で買った旨主張し前掲証人前川、同安原は、「原告は伝票作成者島袋に対し、本件紅茶の伝票につき、買受人として、普通不特定の店頭客や、得意先の店員等口座を持たない者が買ったように装い転売するため、右の場合に使用する「ウエ」とタイプすることを指示している点、また、本件コーヒー、紅茶は、個人消費用としては、大量にすぎ、加えて、原告の弁明である正月用にしてはいかにも早やすぎる一二月六日に買っている点より利ざやかせぎの転売目的は明らかである」旨さらに右代表者は「原告が右両品の買受け伝票日付を先日付の同月八日にするよう島袋に掲示して、商品の二重持出しをはかった疑がある」旨証言するので以下にみる。

(ア) たしかに、成立に争いない(証拠略)、前掲証人前川、証人加藤(旧姓島袋)小夜子の各証言によれば、社員買いはいつでもでき、しかもコーヒー、紅茶は風味が落ちるため余り多量買わないものであるのに、原告が本件で社員買いしようとした本件コーヒー、紅茶ともに一回分としてはほとんど例をみないほど多量であって、右紅茶は業務用に販売されているものであり、伝票作成に当って、担当者加藤(旧姓島袋)は、右両品とも売買日付欄を商品持ち出しの一二月六日付でなく「一二月八日」と、紅茶の買受人欄を原告名でなく「ウエ」と、各タイプし、右「ウエ」が前記証人等供述どおりの場合に使用されるものであることが認められ、右認定を覆すに足る証拠もない。

(イ) しかしながら、他方、(証拠略)、前掲証人前川、同加藤、証人小西利彦の各証言、及び原告本人(一回)の各尋問結果と弁論の全趣旨によれば、社員買い伝票は一品毎に起票することとなっており、加藤は伝票作成タイプ担当であるが、昭和五四年一二月六日当時タイプミスをなすことはめずらしいことではなかったところ、同日、退社時刻である午後五時直前頃、同女は土曜日のため月曜日(一二月八日)付の納品書伝票のタイプを作成していたところ、途中に原告より本件コーヒー、紅茶の社員買いを告げ伝票作成を依頼され、急遽、その伝票タイプにかかったため、伝票の発行機の日付をそのままにセットしたまま、本件コーヒー、紅茶の伝票を打ってしまい、紅茶の「ウエ」は同様にタイプミスをしてしまったもので、右いずれも原告の指示によるものではないこと、右両品の伝票は伝票番号が連続しており、両伝票ともに社員買いの分類記号(「04―A」)が買主欄に打たれ、コーヒーの方にはこれにつづいて、原告名が正しくタイプされ、しかもこのタイプを打った起票係加藤が、原告が右両品を社員買いをしたことを現認していたこと、買受伝票に対する買受人のサインは常に必ずなされていた訳でなく、原告は後刻ミルを買うことにしたときに、買受け全品の伝票にサインを一挙にするつもりでいたこと、本件社員買い制度では、社員及びその同居家族の消費用に限るものではなく、社員が、その親族や親しい友人の便宜に供することも禁じられていなかったこと、原告は自家用通勤で持ち帰りが容易であり、その都度少量づつ買うのを面倒がって、従来から比較的多量に社員買いしていたもので、本件コーヒーは一キロ毎真空包装で長期保存にたえる豆であったこと、がそれぞれ認められ、右認定に反し、「ウエ」を原告が指示したとする前掲各証言部分は、紅茶の伝票にも、同じ箇所に社員買い符号がタイプされているから、右証言のいうように不特人の買受けを装うことができない点に照らし、措信できず、その余は右事実に反する前提に基づく憶測の域を出ず、同じく採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠もない。

(ウ) 右(イ)の事実関係に加え、前示の本件社員買い制度では、量の規制までなされていなかった点に照らせば、前記(ア)の事実関係から直ちに、原告が利ざや稼ぎの転売目的で本件社員買い制度を悪用して、本件コーヒー、紅茶を購入したことを推認することはできず、他に右事実を認めるに足る証拠もない。また、右(イ)の事実関係によれば、社員買い符号のある連続番号の本件コーヒー、紅茶の伝票を照合し、これをタイプし、右社員買いを現認している加藤に当たれば、右両伝票の日付が二日ちがい、紅茶の買受人名義が「ウエ」名義となっていても、後日被告会社が右両品を原告が社員買いしたことを判断するのに困難はないことが推認されるので、到底右(ア)の事実関係から、原告が二重持出しを計った疑いをもちえないところである。

よって、利ざや稼ぎ目的の転売に関する被告主張は理由がない。

(三)(1)  つぎに、被告は、原告が本件コーヒー、紅茶を社員買いしようとした際、スポングミル一台を、被告会社内から不法に持ち出そうとした旨主張し、前掲証人安原、同小西、同前川は右主張に沿う証言をなすので以下検討する。

成立に争いのない(証拠略)、前掲証人安原、同加藤、同小西の各証言、原告本人尋問結果(一回)(以上いずれも後記信用しない部分を除く)と弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(ア) 原告は、前同日退社時刻直前に、配達より帰社して大阪事務所において、入金手続をなす際、傍の起票係加藤に本件コーヒー、紅茶の社員買い伝票を依頼しつつ、「スポングミルのいいのあるかな。」と気に入ったのがあれば買う趣旨の発言を残して、同事務所奥の倉庫部分へ商品を取りに行き、同二階で家庭用スポングミルと本件紅茶をダンボール箱に入れて、大阪事務所の方へもどる途中で、偶々背後から同所へ入って来た安原に見とがめられ、代金未払いで社員買いして帰る途中であることを説明したが、なおも安原より不信の態度で詰問されたうえ伝票の検閲を求められ、二人とも興奮して声高かに応答しつつ、大阪事務所の加藤のところへ赴いた。加藤は、本件コーヒー、紅茶の次に伝票一枚をタイプした後、発行機を消灯して、帰り仕度をしていた。

(イ) そこで、安原は、加藤の示した本件コーヒー、紅茶の伝票をみて、紅茶の買受人表示が「ウエ」となっており、スポングミルの伝票のないことに気付いて更に「果して原告が加藤に指示して虚偽伝票を作らせた」ものと不信感を強め、加藤に確めることなく、「君が買ったのではない、ミルの伝票もないではないか。」と更に興奮立腹して、感情的に激しい剣幕で原告を詰問しだした。

(ウ) 原告は、右安原の態度に呼応して、加藤に「ミル今買ったよな。」「伝票あるよな。買うと言ったろ。」と、連呼したところ、加藤は、先刻の伝票発行依頼時の原告の発言と相俟って、原告がスポングミルをも併せて社員買いするため倉庫より持ち出して来て、その伝票発行を暗に促していることに気付き、二人の激しい興奮に動転しつつ、あわてて、「スポングミル、スポングミル」とつぶやきながら、単価表を調べつつ、家庭用小型スポングミルの伝票(<証拠略>)を作成したが、動転していたため単価表を誤読して営業用大型ミルの単価を記入してしまい、二人の前にさし出した。なお、スポングミル大型は営業専用で、家庭用小型より、はるかに大きく、外見からも判別が容易にできるものである。

(エ) 原告は、なおも、安原が「金はいつ払うのか。」「現金払って持出すのが普通じゃないか。それに伝票も発行していないし。」「信用できるか。」「まして主任の身で。」等と、激しく詰問を続けたところ、原告も感情的になり「いちいちそんなこと言わんでもいいよ。毎月、月給で天引されてるじゃないか。」と応答していたが、立腹の余り、「そんなに言うなら買わんでもいいよ。キーコーヒーの品物なんか買うか。」と叫んで、右三品の伝票をまるめて、ゴミ箱にたたきこみ、居合わせた同僚岡部に、右三点の商品を倉庫にもどさせた。

(オ) 本件紛争の経過のなかで、原告は、本件スポングミルの伝票が商品持出し前に予め作成されていなかったことに関し、弁解を変遷させ一貫性がない。

以上のとおり認められ、右認定に反し、スポングミルを事前に窓ごしに見せられた旨の前掲加藤原告本人の供述部分は、安原にとがめられない限り、およそその必要性がない事柄であり、具体性にも欠け、前認定のミルの伝票を打たずに退社仕度をしていた加藤の態度とも矛盾し、到底信用できず、原告が加藤の方に寄ろうともせず、ミル入りのダンボール箱を持ったまま退社しようとしていた旨の、前掲証人安原の証言部分は、前掲証人加藤の証言及び原告本人の供述部分に照らし、俄かに採用できない。そして、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(2)  右認定の事実関係によれば、たしかに、原告の本件スポングミルに関する態度は疑わしい面がないではない。

しかしながら他方(ア)前示のとおり、原告はスポングミルと同時に持ち出したコーヒーと紅茶については事前にわざわざ加藤に社員買いの伝票を作成させているのであるから、スポングミルのみを不正に持ち出そうとしたものと考えるのは、特段の事情のないかぎり、不自然不合理というべきところ、かえって、(証拠略)と弁論の全趣旨によれば、スポングミルが本件コーヒーや紅茶と較べて格別高額なものとはいえず、もし、原告が不正に持ち出そうとすれば、当時の時間帯、商品管理状況からしてスポングミルばかりでなく、本件コーヒー、紅茶についても十分可能であったと思われること、前記改正社員買い手順は、特に代金引換えの点で従業員に遵守されていなかったことが各認められ、他に右特段の事情を認めるに足る証拠もない。(イ) 前(1)判示の事実関係と(証拠略)によれば、原告の前記弁解の関心事は、むしろ、主任職でありながら改正社員買い手順(予め買受品を申し出て、その伝票発行を受け、検品の上商品引渡を受ける)を履践しなかったことを取りつくろう点にあったように見受けられる。(ウ) 原告がもし盗み出すつもりならば、前認定のように、予め加藤の面前でよい物があればスポングミルを買う趣旨の発言をしない筈と考えられる。

以上の(ア)ないし(ウ)の事情に照らせば、前(1)項認定の事実関係から直ちに原告が本件スポングミルを社員買い手続をとらずに不正に持ち出そうとした旨の被告主張事実を推認することは到底できず、したがって、右主張に副う、前掲安原らの各証言部分は、不信感による根拠不十分な憶測の域を出ず採用できず、他に、右被告主張を認めるに足る証拠はない。よって、右被告主張は理由がない。

(四)  ところで被告会社就業規則四五条一号の規定は、前示のとおりであり、(証拠略)によれば、同就業規則四五条七号には懲戒処分事由の一つとして「会社の許可を受けずに会社の商品を持出し、又は持出そうとしたとき。」と、同四四条九号には「会社の指示、または上長の指図に従って業務の処理をなさないとき。」と、各規定されていることは明らかである。そして、前掲(二)、(三)説示のとおり、原告が本件コーヒー、紅茶、スポングミルを持ち出そうとした行為は、いずれも会社が制度として認める社員買いをしようとしたもので、転売目的によるものでもないので、本件コーヒー、紅茶、スポングミル全部については、代金支払いと引換え方法でなく、スポングミルについては、事前の伝票発行手順を履践していない点で会社の定めた社員買いの手続に違反する瑕疵があるにはあるが、故意に不正領得しようとしたものではなく、かつ、右瑕疵が手続面における、しかも致命的な重大なものでない点に照らせば、右原告の三点の持出し行為は、右就業規則四五条七号には該当せず、ただ、右二点の手続上の瑕疵のゆえに、同四四条九号には該当するものというべきである。そして、前認定の、原告が主任である点、原告の安原に対する態度が感情的に終始し、自己の非を認めようとしなかった点などを総合すれば、その情状は軽いとはいえず、かろうじて、同四五条一号には該当するものというべきである。

よって、被告の抗弁(二)は、右限度で理由がある。

3  売上金着服事件について

(一)  抗弁2(三)の事実のうち、被告会社の一般顧客に対する商品販売に現金売りと掛売りの二形態があり、前者には、得意先売り、会社店頭売り、得意先個人売りの三種があること、原告が販売主任として昭和四八年三月から同五〇年五月までの間、販売代金の集金、会社店頭売り業務に従事して来たもので、その間、別表(6)のうち<16><20><24>を除くその余の場合につき、同表「領収日」欄記載の日に、同「得意先」欄記載の顧客に対し、同「売上金額」欄相当金額の商品を販売したことは当事者間に争いがない。

(二)  次に、被告は、原告が別表(6)のすべてにつき、同表「領収日」欄記載の日に同「売上金額」欄記載の金額を集金(以下「本件集金」と、各個を例えば「集金<1>」という)しているに拘らず、<1><6><7><15>ないし<18><20><24>ないし<26><34>ないし<37>につき、その全部又は一部の同表「未入金」欄記載金額を全く入金をせず、同表<1>ないし<5><8>ないし<14><19><21>ないし<23><27>ないし<33>につき入金手続を同表「入金おくれ」欄記載の期間をおくらせた旨主張し、前掲証人前川、証人佐藤勇司各証言中には、現金売りでは即日集金するのが建前であり、この建前は厳守されており、納品書控には現金売りを示す「現収」押印があり、特に別表(6)記載の「店売り」表示の会社店頭売りでは、客がわざわざ現金持参で来訪して代金引換え売買をなすのであるから右建前が守られない筈がない旨の、右被告主張に副う部分があり、右各証言がその根拠とする別表(6)各集金対応根拠乙号証のうち、(証拠略)は前掲証人前川の証言及び弁論の全趣旨により成立が認められ、その余の右根拠乙号証の成立は争いがなく、そして、たしかに、右成立に争いない事実と前掲別表(6)のうち<16>、<20>、<24>、を除くその余の各集金について、各対応の根拠乙号証によれば、いずれも原告の捺印又はサインがあり、そのうち、納品書控である先順位枝番各証(<26>については<証拠略>)、には「現収」押印があり、右納品書控及び<30>以後の各対応乙号証には区分「6」宛名「ウエ」記載があり、同別表<1>ないし<5>、<8>ないし<13>、<17>、<19>、<21>ないし<23>、<28>各対抗乙号証のうち入金伝票である後順位枝番各証には原告作成の「店売」「店」の記載があり、同別表<1>ないし<5>、<8>ないし<14>、<19>、<21>ないし<23>、<27>ないし<33>の各対応根拠乙号証各日付によれば、<29>を除く、その余は、納品日付と入金日付を対比すれば、その間に同別表入金遅れ欄記載どおりの間隔があり、<29>対応根拠乙号証日付を対比すれば同じく領収日付と入金日付の間に同別表主張の間隔があることが認められる。

(三)  そこで、まず、右各証拠から、原告が別表(6)主張の日に本件各集金自体をなしたことが認められるかにつき以下検討する。

(1) まず伝票処理手順についてみる。

(証拠略)、前掲証人佐藤の証言、同原告本人尋問の結果(二回)によれば、次の事実が認められる。

(ア) 原告は、昭和四八年から同五〇年六月頃まで被告会社大阪支店販売二課の営業担当者として喫茶店、レストランへのコーヒー等の販売、集金業務に従事していたが、当時被告会社では、伝票の処理上販売区域を六つに区分し、原告は「2」地区(大阪府の東部地域)を担当し、なお、「5」地区は担当区域外の地方の取引先、「6」地区は地域割りとは無関係に、特定得意先店舗以外の不特定多数の取引口座のない現金取引を指し、また右「6」に分類する客は顧客の名前が分らない会社店頭売りの場合だけではなく、掛売り得意先やその従業員個人に現金取引で販売する得意先個人売りの場合もこれに分類されていた。

(イ) 取引種別については、掛売り口座で毎月特定日締めにより集計して特定日に集金する掛売りと、現金口座の存否にかかわりなく、代金引換を建前とする掛売り以外の取引(以下「現金売り」という)の二種があり、昭和四九年九月頃までは右両取引とも同一の出庫伝票、納品書控伝票、納品書伝票、請求書(兼領収書)伝票及び物品受領伝票の五枚からなる一括複写の伝票が用いられ、現金売りと掛売りの区別は現金売りの場合には納品書控伝票の発行時に起票係が「現収」のスタンプを押すことによってなされていた。

(ウ) 起票処理については、取引先から注文があると、注文控(「レジャー」といわれていた)が作成され、これに基づき起票係が伝票を作成することになるが、注文客が、特定の取引(掛売り、現金売り、とも)口座のある得意先の場合には、伝票に店名、前記区域番号が明記されるほか発行年月日、商品の内容、金額等が記入され、ついで現金売りの場合は納品書控伝票に「現収」のスタンプが押され、また会社店頭売り、得意先個人売りの場合は、宛先として不特定多数を意味する「ウエ」又は「(特定客別)ベツ」と区分は六地区を意味する「6」と、記入されるが、さらに、販売地区担当者の地域内の店の個人に販売した場合には、その旨を明らかにし、入金集計の便宜のためその地区番号(たとえば、原告の場合であれば二地区であるから「2」と、例乙一六号証の一等)を付することになっていた。

(エ) 配達処理については、起票係によって作成された伝票は、各配達担当者別におかれ、そのうち出庫伝票と納品書控と、その余に分離され、各配達担当者は取扱者を特定するためこれにサインのうえ当日配達予定商品を揃え、出庫伝票は出庫担当部署へ、納品書控は売上集計と記帳のため経理課へそれぞれ回付される。そして、配達担当者は右商品と残りの伝票(納品書、請求書、物品受領書)を携帯して配達することになるが、現金売りの場合は請求書に予じめ「領収」のスタンプを押して領収証兼用の伝票にして集金にそなえておく。取引先では物品受領書にサインをもらい(納品書は右受領書と共に会社へ持ち帰り入金手続後破棄伝票箱に入れることが多い)、その場で代金を受領できたときには右「領収」スタンプのある請求書兼領収証を取引先に交付し、現金売りであるのにその日に代金の支払を受けえない場合は、担当者が伝票を保管し、後日集金する。

(オ) 集金処理については、担当者はその日の集金分をまとめて、あるいは個々に入金伝票を自ら作成するが、入金伝票(<証拠略>)には、現金売りの場合のうち取引口座を持つ得意先の場合は、掛売りの場合と同様に店名、伝票番号、入金額を記入し、得意先個人売りのときのように取引口座のないものについては、記入方法につき明確な指定なく「店売」または「個人」、「上」などと表記し、伝票番号と入金額を記入する扱いとなっていた。右入金伝票は経理課において日付毎の現金残高表としてファイルされ、さらに計算係によって得意先別売上帳に記帳され、売上集計がなされ、得意先個人売りの場合は、各配達担当区域毎に一括して集計されることになっており、例えば、二地区は便宜上B地区とも呼ばれて「B殿」と題された雑口(諸口)口座(<証拠略>)に記帳されることになっていた。

以上のとおり認められ、証人前川、同佐藤の各証言中認定に反する部分は、右原告本人の供述に照らし、採用し難く、他にこれを左右するに足る証拠はない。

(2) 「現収」押印の意味と、争いある販売の事実の存否についてみる。

前項(1)(イ)(ウ)のとおり、納品書控伝票の「現収」押印は現実に集金があったことを表示する趣旨のものではない。よって、前掲証人前川の証言中、右「現収」印を本件集金の根拠の一つとする点は到底採用できない。

ついで、別表(6)の<16>、<20>、<24>、の販売を原告がなしたか否かにつきみるに、前認定(1)(ウ)(オ)の事実関係に加え、(証拠略)、及び前掲証人前川、同佐藤の各証言、同原告本人(一、二回)尋問結果の一部によれば、同別表<16>の「タツミ」は本来掛売り客であり、右伝票区分記載(「6」でない)からみれば現金売りでなく(後記認定のとおりキャンセルの可能性もあり)、本来現金売り集計のB殿勘定に記入すべきものでないのに、同勘定に記帳され未集金となっており伝票帳簿の記載が一貫していないこと、右同表<20>の「シマオ」は、納品書控に「現収」押印がない点及び同人は昭和四八年末頃被告会社に準じ社員売り扱いをなしていたトリコロールの社員と思われるところ、右伝票の価格が安すぎるところから社員売りとみられる点より、掛売りと推定されるので、右伝票区分「6」は記帳ミスであり、B殿勘定に入るべきでないのに記帳され未集金となっていること、右同表の<24>の「福亭」(現金売り口座持ち客)への伝票に原告のサインがないこと、がそれぞれ認められ、右認定に副わない趣旨の前掲証人佐藤、同前川の各証言部分はにわかに措信しがたい。

そうだとすると、右同表の右<16>、<20>、<24>、対応の根拠乙号証記載から直ちに、右三件で被告が主張する日に、主張内容の現金売りを原告がなしたことを到底推認できず、他にこれを推認するに足る証拠もない。

よって、まず、被告の別表(6)の集金<16>、<20>、<24>についての主張は理由がない。

(3) 本件集金中会社店頭売りについてみる。

被告は、別表(6)の本件集金<1>ないし<5>、<8>ないし<13>、<17>、<19>、<21>ないし<23>、<28>は会社店頭売りであって、これは即時代金引換え売買方法によっているから取扱者は必ず伝票発行時に集金をしており、伝票記載は区分宛名は「6」「上(担当者地区番号)」とし、入金伝票上「店売り」と記載する旨主張し、たしかに前掲乙号証のうち別表(6)各集金対応根拠書証のうち納品書控に「6」区分が入金伝票に原告が「店売」「店」記載をなしていることが明らかであり、前掲証人前川は右被告主張に副う証言をなしている。しかしながら、他方、

(ア) (証拠略)、同証人佐藤の証言、原告本人尋問の結果(一回)によれば、被告会社は社屋に一般顧客販売用施設はなく、一般客がわざわざ会社まで買いに来る例は殆んどなく、せいぜい日に三人位で、その受付け、起票依頼、入金、商品渡し処理は居合わせた者がなすこととなっており、女子事務員がなすことが多く、担当地区を持ち配達集金に出て社内に滞在することが少ない原告が応対したことは少ないことが認められるところに照らせば、別表中被告主張会社店頭売りの頻度は多過ぎるものといわざるを得ず、不自然の感を免れない。

(イ) 前記(1)(ウ)のとおり、得意先個人売りの場合には、前記被告主張と同じ区分、宛名、(「6」「上(担当者番号)」)記載がされるところ、前記(1)及び前記(ア)認定事実関係及び後記認定によれば、得意先個人売りのときにも即日商品引換え集金ができない場合がかなりあり、また、得意先個人売りの場合は買主が誰であるかは被告会社に残る伝票上は一切表示されず、起票時に起票係と、その後は地区担当者のみが知っているだけであるから、入金集計の便のみならず集金の責任を明確にする便からも担当者地区番号を付することはむしろ必要であろうが、会社店頭売りの場合は、即座に集金入金手続が済まされるのであるから、右担当者地区番号を付記する必要と実益が見当らない。

(ウ) (証拠略)、原告本人の尋問結果(二回)及び弁論の全趣旨によれば、得意先個人売りの注文は直接当人が会社店頭に来るのではなく、掛売り、現金口座売りと同様予め電話によるのが一般であり起票係は配達の前日ないし当日の朝、予めの全注文を各担当者毎の注文控により作成するものであり、したがって伝票番号は当然に得意先個人売り注文、掛売注文を問わず連続したものとなるに比し、他方配達に出る営業担当員は朝出発して夕方帰社するのが通例であるから同一日に配達ともともと数少ない会社店頭売りの処理をなすことはほとんどありえず、しかも右会社店頭売り処理の伝票と同処理者の注文伝票が連続して発行されることはほとんど考えられないところ、四八年八月二九日付原告作成入金伝票によれば、「店売り」記載入金の納品書の伝票番号(〇六二五六一)と掛売り入金と見るべき「のんのん」の伝票番号(〇六二五六〇)とが連続していることが認められる。したがって入金伝票上「店売り」記載分は、むしろ会社店頭売りとみるより得意先個人売りとみる方が自然であり、入金伝票の上の「店売り」記載から直ちに当該取引を会社店頭売りと判断することはできない。

(エ) 前認定のとおり会社店頭売りでは、即時伝票作成入金手続が終了すべき取引形態であるから、被告主張のように多数の頻度でしかも相当日数の入金遅れが生じていたというのであれば、しかも、前掲各入金伝票には納品控伝票番号が(<証拠略>では取引日まで付記)記されているのであるから、当然に取引処理時に入金の欠缺が、また事後には入金遅れが、入金受領係や、上司から問題視されるべきであるのに、問題視されたことを認めるに足る証拠もなく、被告主張によれば、原告は即日入金すべき会社店頭売り代金を、わざわざ入金せず別表(6)記載の入金おくれの間流用し、しかも伝票上明白に右遅れを直ちに発覚されるような入金伝票記載を自らなして来たこととなり、通常人の行動としてはいかにも合理性に欠け、不自然の感を免れない。

以上(ア)ないし(エ)の諸点に加え被告主張の会社店頭売りの納品書控宛名、入金伝票処理の他の実例についての立証が全くない点を併せ考えれば、冒頭記載の証人前川の証言部分は根拠事実不足で到底採用できず、右入金伝票の「店売」から被告会社店頭売りを推認しえず、他に、被告の主張を認めるに足る証拠はない。

かえって、右(ア)ないし(エ)判示のところと原告本人の尋問結果(一、二回)を総合すれば、別表(6)の本件集金のうち、<16><17><20><24><29>を除く、その余の集金取引は、いずれも現金売りの一種である得意先個人売りと推認できる。

よって、入金伝票「店売」記載を会社店頭売りであり、即日集金の推認根拠とする本項被告主張は理由がない。

(4) 現金売りにおける集金不要の場合及び即日集金不能の場合とその頻度についてみる。被告は、現金売りは制度上即日集金する建前であり、この建前はほとんど守られている旨主張し、前掲証人佐藤、同前川は右主張に副う証言をなすが、(証拠略)及び右証人佐藤、同前川の各証言部分、原告本人の尋問結果(一、二回)の一部を総合すれば次の事実が認められる

(ア) 集金不要の場合として次の二種がある。

(a) 現金売りも継続的取引がなされると、そのなかで過剰入金となるときがあり、その際に新たな商品販売があっても相殺処理(正式には伝票処理上相殺処理をなすこととなるが、必ずしも右処理は履践されていなかった)により、集金が不要であり、入金伝票処理もない。別表(6)の<6>がこれに該当する。また、不要類例として、経理より一部集金指示があるときもあり、同<1>がこれに該当する。

(b) 全部又は一部のキャンセルがあるときにも、その分の集金は不要である。そして、この場合、一部のときは伝票を訂正するのが建前で、前同表<7>の未入金一〇〇〇円の商品がこれに該当する。全部のときは、原則として、課長等権限者が他の伝票と共に納品書控もすべて廃棄処理する建前になっている。しかし、右各キャンセルの原則的処理は必ず守られていたともいえず、特に後者のときは前記(1)(エ)のとおり納品書控は売上集計のため経理へ、出庫伝票は出庫係にそれぞれ回され散在するため、右両者が廃棄されないままになる可能性があり(これを否定する前掲証人佐藤の証言部分は措信できない)、右出庫伝票のみが残存しているときはキャンセルの疑があり、右同表<17><18><26>がこれに該当する。

(イ) 得意先個人売りにおいては、配達、集金担当者が客と会えなかったり、両者多忙等の事情により商品と引換えに代金の支払を受けられない場合がかなりあり(これをほとんどないとする前掲証人佐藤の証言部分は措信できない)、入金手続に至らず、さらにそのまま推移するうちに得意先の廃業やその従業員の退職等のため代金回収がほとんど不能となって放置されていることもあり、被告会社が昭和五〇年七月頃に過去一年間の不良債権調査をした結果、少くとも右例が八件判明しているところ、原告は本件集金当時、日常、日に三ないし四〇店まわり、そのうち一〇ないし一五店より集金する勤務状態であったため、得意先個人売りの客とうまく会えないこと、会えても両者の多忙のため予定の集金ができないこともかなりあった。

(5) 別表(6)<29>について領収書と入金伝票の各日付に間隔のあることは冒頭認定のとおりであるが、右(4)(イ)の事実と前掲証人佐藤の証言、原告本人尋問結果(二回)によれば、原告は集金日に、多忙のため、予め会社で領収日付も記入した領収証を作成しておき、集金にまわっていたところ、ビバの集金日は二〇日であったので右同様方法で領収書(<証拠略>)を用意しておいたが、ビバの都合で集金が一週間遅れたのに、右日付訂正を忘れたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

以上のとおりであって、右(1)ないし(4)にみたところに照らせば、現金売りの場合、代金引換え販売の建前は存しても、この建前が厳守できていないことは明らかであって、冒頭掲示の本件各集金対応根拠乙号証記載から直ちに、原告が別表(6)の「領収日」欄記載の日に、同「売上金額」欄記載代金の本件集金をしたことを推認することは到底できず、右乙号証と右建前「店売」なる入金伝票記載から右推認をなす趣旨の冒頭証人佐藤、同前川の各証言部分は到底採用できない。

ついで、右証人前川の証言及び弁論の全趣旨により成立を認める(証拠略)によれば、別表(6)<18>について、被告会社が商品販売主張の日より約三年後に現金支払い取引九五〇円の会社残高照会を買主ノンノンに対してなし、残高ない旨の回答をえていることが認められるけれども、前(4)(ア)(b)判示のとおりキャンセルの疑いがあるものである点そもそも三年前の現金取引について正確な回答がえられそうにない点に照らせば、右乙二八号証、右<18>の根拠乙号証及び、前記の現金売りの建前を総合しても、なお、右本件集金<18>を原告がなしたことを推認するに足りない。そして、他に、原告が被告主張の日に本件集金をそれぞれなしたことを認めるに足る証拠はない。

(四)  以上の次第で、別表(6)の本件集金については、<16>、<20>、<24>は、原告の担当販売であることが認められず、その余については、原告が、被告主張の代金を、同主張の日に集金したこと自体が、すべて認められないのであるから、その余の点に判断するまでもなく、本件売上金着服事件の懲戒事由の主張は理由がない。なお、被告は右事件の該当、就業規則規定として、四五条四号、同四四条三号をあげ、前掲乙二号証によれば、右就業規則四四条三号は「業務及び勤務に関する処理、報告及び手続を怠り、またこれに虚偽の事実ありたるとき。」と、同四五条四号は「重要な報告、申請を詐りまたは、業務上詐術を用いたるとき。」と各規定しているが、被告は、本件懲戒処分通告書(前掲乙一号証)及び本訴においても、右条項該当の具体的事実を主張していないので、判断に及ぶまでもない。

4  業務命令違反事件について

(一)(1)  原告が上司である安原部長から本件地図作成を命じられていたところ、昭和五一年一月二八日午前、右安原に対し同日午前中にグリーンフェリーに商品を配達しなければならない旨告げて右地図作成を中断して外出しようとし、これに対し右安原が他の者に配達させるから地図の作成をするよう指示したが、原告が外出したことは当事者間に争いがない。

(2)  原告が右昭和五一年一月二八日午前一〇時半頃被告会社の事務所に戻ってきたが、その際原告が安原に対し組合活動に入る旨申し入れ、さらに書面で組合活動の通告をし、以後同日は就労しなかったことは当事者間に争いがない。

(二)  ところで、労働者は、その上司の労務指示内容自体が違法であるなど特段の事情がない限り、上司の労務指示内容に従って労務を提供する義務があるというべきところ、本件において、原告が、前記安原の労務指示に従わなくてもよいための前記特段の事情は認めがたいので、前記原告の所為は、労務指示に違反した違法なものというべきである。

(三)  また、一般に就業時間中において、就労義務と抵触する組合活動をなすことは、これを認める労働協約又は労使慣行が存するなど特段の事情のない限り、許されず、就労義務違反となる外ない。

本件においてこれをみるに、原告は、口頭及び書面で組合活動をなす旨通知しただけで、午前一〇時半頃以降職場を離れて爾後終日就労しなかったものであり、原告は、当時事前に組合活動に入る旨通告すれば就労時間内に組合活動をなすことができる労使慣行が従前より存した旨主張し、元相被告岡部朗、原告本人(一回)の各本人尋問結果には、右主張に副う部分が存し、右両尋問結果及び(証拠略)、証人安原の証言によれば、昭和四八年頃以降、原告らは、就労時間内に組合活動をなす緊急の必要が生じたときは、口頭若しくは書面で組合活動に入る旨の通告をなしたうえ組合活動をなし、また、昭和五一年五月二五日にも、同日付書面で組合より被告会社宛に右同様の通告をなしていることが認められ、被告会社が右組合の通告に対し、昭和四九年末頃以前には明確に拒否していたことを認めるに足る証拠もない。しかしながら、他方、(証拠略)、前掲証人安原、同前川の各証言によれば、被告会社と組合間の、昭和四七年三月一四日以降有効な労働協約一一条は、組合活動は原則として就業時間外に行うべく、但し、支部大会、支部執行委員会及び職場委員会に出席するとき、外四個の場合で会社が承認したときに限り、しかも右各種委員会出席のときは賃金カットのうえで、就業時間内に行うことができる旨定めるに止まり、被告会社は、昭和四九年一二月三日、同五〇年五月八日、二六日(前認定書面通告に対し)に、右協約一一条違反行為として就業時間内の組合活動としてのビラ貼り、腕章着用、職場離脱に対して、しかも、右最後の行為者には処分権を留保して、それぞれ警告をなし、管理職は右通告による組合活動を組合の一方的行為と理解し、組合も、右最後の者の警告に対し抗議文を送付しているが、そこでは労使慣行の主張までなしてはいない、ことが認められる。この事実に照らせば、前掲証人岡部原告の各本人尋問結果は、到底採用できず、他に、前記原告主張を認めるに足る証拠はない。そして、また、本件で原告が組合活動通告をなして就労しなかったことにつき被告会社の承認があったことは証拠上認められないのであるから、右原告の不就労は違法な労務不提供という外ない。

(四)  そして、前掲乙二号証によれば、就労規則四五条二号が懲戒処分の一事由として「職務上の指示命令に従わず、上長に反抗し職務を放棄し、社内の秩序を乱したとき。」を規定していること明らかなところ、前記のところからすると、前記原告が昭和五一年一月二八日に上司の安原の地図作成の労務指示に従わなかったこと、その後組合活動のため外出した各所為は、いずれも右就業規則の条項に該当するという外ない。

5  補充的懲戒解雇事由について

(一)  抗弁2(五)の事実のうち、被告会社が遅くとも昭和五〇年一〇月までに検討表制度の導入をはかり、これに対し、組合が事前協議なしに右検討表制度を実施したとしてその実施の撤回を要求し、原告及び一部組合員が同年一〇月分の右検討表を提出せず、原告は、そのため同五一年一月一九日戒告処分を受けたが、その後も提出しなかったことは当事者間に争いがないので、以下懲戒事由となしえない旨の原告主張につきみる。

(二)  (証拠略)、前掲証人安原、同前川の各証言及び原告本人の尋問結果(一回)と弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。

(1) 組合と被告会社は、昭和四九年春闘来緊張関係となり、組合はしばしば争議や腕章着用闘争等で対抗し、会社は警告書を頻発してきていたところさらに同五〇年四月被告会社の新社内組織と人事が改正され、現代表者代表取締役前川、前記安原が取締役業務部長、営業部長に就任して以来、被告会社の労務管理が厳しくなり、同年春闘では、労使双方主張に固執し、組合は腕章着用闘争で対抗し、会社は警告書、通知書を頻発するなかで、同年五月三〇日春闘を妥結するに際し、被告会社は同年三月二五日付の原告ら組合三役に対する戒告処分、同月二一日から末日迄の組合宛警告書をすべて撤回すると共に、組合と共に共同名義で、「労使双方は従来からの労使関係を正常に回復させ、会社業績向上と生産性を高めるため双方努力、協力し、今後の労使円満関係を確立維持するため、(一)労働協約、諸協定、約束の遵守、(二)不当労働行為の誤解を与えるような行為をしないように処置、(三)諸案解決のため労使協議を基本として行いそのため事前協議を充分つくすようにする、三個の処置をするものとする。」旨の声明(以下「事前協議声明」という)を発表した。

(2) 同年六月、被告会社が運行表制度を導入しようとした際、組合、被告会社は、「営業に関する運行表その他社内で行うこれに類する調査の実施に当っては、専ら業務の不均衡是正、労使の負担軽減に資することを目的とし、ノルマを設定して個々人に過重な労働を課すことのないよう配慮し、また成績評価、賃金査定の基礎とせず、今後はその都度労使で協議して決定する。」旨確認したことがあった。

(3) 組合は、右(1)、(2)の経過のなかで、被告会社が営業員に従来毎日提出させていた業務報告書(日報)に替えて、新たに本件検討表を提出させることにしたことに対し、右検討表制度は、各担当者は会社から達成を求められた予算を達成できなかった点につき反省し、将来の努力方法についての決意表明をさせるものであったため、右制度導入はノルマを営業員に強要する新たな労働強化政策とみて反対し、組合代議員会決定に基づき、会社に対し、右制度導入について、右(1)の本件事前協議声明と(2)の確認に基づく事前協議を申入れた。

(4) 漸く、同年一一月七日、団体交渉がもたれたが、被告会社は、検討表制度は業務上の問題で、組合と協議すべき事項ではないとして、拒否する態度を示したため、結局、実質協議に入る前に物別れとなり、そこで、組合は、被告会社と話し合いがつくまで検討表の提出を一時保留するよう組合員に指示し、原告を含む組合員は、これを提出しなかった。これに対し被告会社は、検討表制度の一方的強行をはかって、昭和五〇年一一月一五日以後原告ら不提出の組合員に対し、提出方の通告書と警告書を発し、ついで翌五一年一月一九日、同五〇年一〇ないし一二月分の検討表を提出しなかった原告らを戒告処分に付し、さらに、原告を除く不提出者に対しては減給処分をなしたが、独り原告についてのみ本件懲戒解雇処分をなした。

(5) 他方、被告会社の昭和五〇年七月決算において二〇〇〇万円にのぼる赤字が計上されたが、これは、同年にそれまでの決算期を七月に変更し、同決算において長期間放置されていた不良債権を一括して欠損処理したことや、被告会社の尼崎工場に高額な新鋭機械の設備投資をしたことが主たる原因であり、昭和四九年度のみの決算は黒字であったもので、昭和五〇年七月期において格別業績不良ではなかったものであり、さらに、原告を含む組合員らが本件検討表の提出を留保していた間も、原告らは従来から行われてきた業務報告書(日報)を作成提出していたのであり、したがって、被告会社としては営業実態を把握することが可能であったし、これにより不況や業績悪化対策につき営業担当者に具体的な指示をなすことができたものと考えられる。

(三)  以上認定の事実関係によれば、原告が本件検討表を提出しなかったのは、組合の一時提出留保の組織決定に基づきなしたものであって、右組合の組織決定は被告組合の正常な業務に支障を生ずる性質のものであるから、組合活動をこえ一種の争議行為とみるべきところ、右事実関係にみられる、右一時提出留保の目的、方法、態様、被告会社に生じた業務支障の程度に照らせば、他に特段の事情も認められないので、正当な争議行為とみられなくはない。そうだとすると、このような正当な争議行為とみられなくはない組合の組織的行動として、これに従ってなされた原告の本件検討表不提出行為は、その労組法七条三号による免責的効果に基づき懲戒理由となしえないものというべきである。したがって、前掲乙二号証によれば、右認定(4)の戒告処分は、就業規則四三条一号の譴責に処したものと認められるけれども、右処分は勿論、その後の右処分に拘らず、本件検討表不提出をつづけた原告の行為を、右就業規則四四条九号、若しくは、同四五条三号により問責できないことは明らかである。よって、本件右原告の行為を補充的懲戒解雇事由とする被告主張は理由がない。

6  以上の次第で、被告が本件懲戒解雇事由として主張するところは、結局、1の不正給油事件は原告に過失が存する限度で認められ、就業規則四五条一号、四四条七号に該当し、2の不正持出し事件のうち、本件コーヒー、紅茶、スポングミルを全部代金引換えによらず、右ミルを事前の伝票発行手順を履践せずして社員買いした所為の限度で認められ、右就業規則四五条一号、四四条九号に該当し、4の業務命令違反事件は全部が認められ、右就業規則四五条二号に該当することとなり、被告の抗弁は右限度で理由があり、その余は理由がない。

三  本件懲戒解雇の効力について

1  懲戒解雇権濫用の再抗弁について

(一)  前掲乙二号証によれば、被告会社就業規則四五条は八号からなる懲戒事由を列挙して、その一つに該当するときは、降格、昇給停止、出勤停止、諭旨解雇、または懲戒解雇に処する旨規定していることが認められる。

ところで、このように懲戒処分規定中に軽重複数の懲戒処分が定められている場合、懲戒事由該当所為に対し、いかなる処分を選択するかについて、使用者に裁量権があることはいうまでもないが、右裁量権の行使に当っては、懲戒解雇は極刑にも相当する重大な処分であるから、懲戒事由に該当する行為の動機、態様、損害の程度、使用者の業務に及ぼした影響等諸般の事情に照らし、その行為との対比において甚だしく均衡を失し、社会通念に照らして合理性を欠く等裁量の範囲をこえないよう、特に慎重な配慮を要するというべきである。

そこで、右の観点から、本件懲戒解雇権の濫用の存否につき以下検討する。

(二)  前示解雇理由たる各行為をめぐる事情についてみるに、前二項の個別判示の外、以下のとおりである。

(1) 不正給油事件については、前二項1で説示したところによれば、原告に給油代金を被告会社に支払わせる目的意図は認められず、原告が、被告会社、天満石油の信頼を裏切ったとはいうものの、過失に基づくものであって、これと天満石油及び被告会社の両名の落度が競合して偶発的に被告会社に損害を生ぜしめたものであり、右損害の発生には原告以外の右両名にも責任の一端があるものであり、被告の右損害の程度も約一年間に七回で合計二万二一八〇円であって額も過大ともいえず、また、発覚するまで二年間は経過しており、遅延損害金と共に原告より容易に弁償を受けて回復しうるものであり、また、原告本人尋問結果(一、二回)と弁論の全趣旨によれば、原告も右弁償意思は有するものの、本件解雇をめぐり原被告間に感情的対立が激しいことに加え被告会社が請求しないために弁償未了のままになっていることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(2) 不正持出し事件については、前二項2で説示したとおり、原告に責めるべき点が軽くはないが、他方安原も、当初から原告に対し、不正持出しの予断に基づき感情的、糺問的対応に終始したものであり、また、いずれも成立に争いない(証拠略)、前掲証人安原、同加藤、同小西、同前川の各証言及び原告本人尋問結果(一、二回)によれば、本件社員買い制度改正の第一の狙いは、従来のチェックオフによる掛売りの事務負担を省いて事務の合理化を図ることにあり、必ずしも代金支払と引換え方法をとることに重点があったわけではなかったこと、右制度改正は大阪支店長であった安原が、従業員や組合に対し、事前に何ら協議や相談をなすことなく独断専行的に、全社的なものとしてでなく被告会社大阪支店において社員買いをする場合のものとして断行したものであったこと、右制度改正後も、代金支払引換方法は徹底されておらず、管理職も含め多くの従業員によって厳守されず、約一年間に六一三件の違反例があり、この違反について、原告を除き、本件解雇までの間に問責その他何らかの懲戒処分がなされたことはなかったことが認められ、右認定を覆すに足る証拠もない。

(3) 業務命令違反事件については、前掲証人安原の証言部分、原告本人尋問結果(一回)と弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(ア) 原告は、昭和五〇年六月から従前の担当地区から三地区(Cブロック)に変わり、同地区の配達担当者井上の上司(主任)として、配達の応援、集金、クレーム処理等の業務に従事するようになったところ、従来右地区内の得意先のフェリー会社については夜間大阪南港停泊中の「グリーンフェリー」に就業時間外に配達していたのを右井上が安原部長の指示により同社と交渉の末、昼間に南港のフェリー専用切符売場に配達するようになったが、右南港が右地区の中で一か所だけ遠く隔っているため、主任である原告が井上に代って配達をすることがしばしばあった。そして、昭和五一年一月二八日(水曜日)朝、原告は、右井上から、定例職場集会のため夜間の配達が無理であったので昼間の南港事務所への配達代行の依頼を受け、早速、上司安原に、その旨告げ、営業用車輛のキーを手にして外出しようとしたところ、右安原は原告に対し、「地図を作れ。グリーンフェリーは井上に配達させろ。」と命じ、原告が右配達代行の必要性を説明しようとしたが、聞こうともせず、原告から無理矢理に右車のキーを取り上げてしまったものである。

(イ) 他方、前年の末の本件不正持ち出し事件以来被告会社は、代表者前川、安原部長が中心となって、原告に対し、被告主張内容の本件懲戒事由の嫌疑を次々いだき、昭和五一年一月一二日頃本件売上金着服事件について、原告の取調べをなしたのを手始めに、随時原告を呼び右各懲戒事由の嫌疑について取調べをなしていたところ、右両名は右同日頃から、随時、大阪市内詳細地図に喫茶店、酒店の所在位置を書き込むことを内容とする本件地図作成を命じたもので、それまで誰もこのような地図作成を命ぜられたこともなく、特に作成期限の指示もなかったうえ、原告解雇後は右地図作成の引継ぎを命じられたものもなく放置され、原告が作成途中であった未完成地図も活用された形跡がない。

以上のとおり認められ、右認定に反する前掲証人安原、同前川の各証言部分は俄かに採用できず、右認定を覆すに足る証拠もないところ、右事実によれば、却って、本件地図作成命令はそれ自体緊急性と必要性に乏しく、むしろ、原告取調べの便宜のために被告会社の都合のよいときに呼び寄せるべく命じられたものと窺われる。

そして、本件までに就業時間内に事前通告のうえ組合活動に入った組合員に対し、原告の外解雇など厳しい懲戒処分がなされたことを認めるに足る証拠はない。

(三)  次に、被告の本件懲戒解雇処分に対する全般的姿勢につきみる。

叙上認定の事実関係に加え、(証拠略)前掲証人加藤、同佐藤、同安原、同前川、証人那須豊樹の各証言、元相原告岡部、原告(一、二回)の各本人尋問結果と弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

(1) 昭和五〇年一一月頃は被告会社、組合は、本件検討表の提出をめぐって、前示の激しい対立状況にあり、組合では、原告が副委員長として積極的に行動しており、これに対し、被告会社は同月一五日以後、原告に対し、右組合の組織決定による行動であることを熟知しながら提出催告書、懲戒事由該当警告書を送付し、感情的にも対立していたなかで、同年一二月六日、本件不正持出し事件が発生したところ、安原は最初から商品不正持出しの予断を持って原告に当り、同疑念を伝票の記載を見て更に深めながら、作成した起票係が同席するに拘らず、その説明を求めることをその後一切せずに、原告の詰問に終始し、さらに、被告会社は原告解雇後、大阪地労委における社員買いの代金引換え方式が厳守されていなかった旨の原告の主張に関し、経理課には社員買いの伝票(<証拠略>)が一括して保管されているので、これに当り調査すれば一目瞭然であるに拘らず、組合員らを関連会社であるトリコロールの別室に呼び、右方式厳守の証明書を強引な方法で作成させようとし、さらに、今まで社員買いで量が多いとか、多量のため転売目的の、各問責された形跡がないに拘らず、独り本件についてのみ、しかも、本件懲戒解雇処分後に解雇理由として付加した。

(2) ついで、被告代表者は、右不正持出し事件に基づき、自己の経験によれば、このような不正をなす従業員は一〇〇パーセント間違いなく現金にも手を付けているに違いない旨の予断をいだき、自ら原告についてのみ、過去三年間に遡って、伝票、帳簿類を丹念に徹底的に調べ上げて、別表(6)の嫌疑事実を拾い出したものであるところ、右を懲戒事由とするについては、原告が弁解するために金銭出納帳の開示を求めたのに拘らず、充分に検討の機会を与えることもなく(証人前川は、原告に改ざんのおそれがあるので手交しなかったと証言するが、仮にそうであるとしても、複写機で写をとるなどして原告に検討の機会を与えることはできたものと考えられる。)さらにまた、当時の原告の上司であった佐藤勇司に対しては勿論のこと、伝票上の「現収」の意味、会社店頭売り、得意先個人売りの当時の実状について、起票係や他の営業担当者にあたって十分調査した上でなした形跡がなく、そして、昭和五〇年七月頃被告会社がなした昭和四九年度の一部現金売り取引も含む不良債権売掛金不 (ママ)合発生調査においても、原告は注意されたことはなく、他方、前記佐藤は、原告の上司として平素の集金状態を注意監督していたが、原告に対し、集金に関し特段の注意をなしたこともなく、むしろ、集金着服の疑いすらもったことがなかった。

(3) 引続き昭和五一年一月一九日頃、前川部長は、前示のとおり原告の不正給油の嫌疑の調査した際、天満石油の従業員から事情を聴したが、そのとき同人は、前記石飛が「個人分を会社にまわしておけ。」と言ったことは肯定したが、原告が右同旨のことを言ったことは肯定していないのにも拘らず、前川部長は、「岸田と石飛が個人の分を会社へまわしていたと証明してほしい。」「一札入れてほしい。」と依頼して、断わられている。

(四)  本件懲戒事由類似の処分例について、弁論の全趣旨により成立を認める(証拠略)及び前掲証人前川の証言によれば、(1)昭和五一年一月一六日付で石飛邦夫総務課長が、約一〇万の不正給油、約五万円の飲食代着服、約二〇〇万円以上の未払金改ざん、(2)同月二二日付で、堺営業所の寺田正男が約五万円の売掛金着服、(3)同年一月二九日付で、岡山営業所の藤原満が、約五万円のデパート店現金売上げ着服、(4)同五四年二月一四日付で彦根出張所長前田法三郎が約一〇〇万円の売掛金着服、(5)同五六年五月一一日付で橘修一が約二万五〇〇〇円の着服、に各基づき、それぞれ懲戒解雇処分を受けていることが認められ、他に類似例を認めるに足る証拠もない。

2  以上のとおりであって、本件懲戒事由のうち、認められる、本件不正給油事件の一部、不正持出し事件の一部社員買い手順不履践、業務命令違反事件全部の各個別事情は、前二項1、2、4及び三項1(二)判示のとおりであって、これに三項1(三)(四)及び本件認定事実に現われた全事情を総合して考慮すれば、原告の右懲戒解雇事由たる所為は、従業員特に主任のものとしては種々問題があるにしても、これに対処するに、懲戒手段として、原告を企業外に放逐せねば企業秩序が維持しえない程度の非違行為とは到底いえず、本件解雇処分は、懲戒裁量権の行使を誤ったものという外なく、懲戒権の濫用として無効といわざるをえない。

よって、原告の再抗弁1は理由がある。

四  解雇無効に基づく金銭請求について

1  解雇後の賃金、一時金請求権の存否について

(一)  以上のとおり、本件解雇は無効であるから、原告は本件解雇がなされた昭和五一年二月九日以降も被告の従業員として雇用契約上の権利、義務を有するというべく、被告が同日以降原告の就労を拒否しつづけていることは当事者間に争いがないところ、叙上の本件解雇無効の事情に照らせば、その有効に固執して右就労拒否をなすことは、結局右原告の労務提供債務は債権者である被告の責に帰すべき事由により履行不能に帰したというべきであるから、原告は民法五三六条二項本文に基づき不就労に拘らず賃金請求権を取得することはいうまでもない。

(二)  解雇後の賃金のうち、昇給額、一時金についてみる。

当事者間に争いない請求原因4(二)(三)のうち、定期昇給、一時金が、いずれも、被告会社と組合間に毎年妥結するべき定期昇給協定、一時金協定において、前者についてはベースアップ部分、定期昇給部分、評価部分が、後者については、本給比例部分、査定部分が各協定され、この協定に従い各組合員の昇給、一時金額が定まる方式によってした事実に、別表(3)(4)各(二)欄記載と前掲乙二号証、成立に争いない(証拠略)及び原告本人の尋問結果(一、二回)を綜合すれば、被告会社の給与規定(就業規則)では、勤続満一ケ年以上の社員につき、昇給については、原則として年一回(四月)に行う旨(右規定八条)、一時金というべき賞与については、原則として、規定欠格者(右規定二五条三項)を除き、毎年夏期(七月)、年末(一二月)の二回、会社の業績と社員の勤務評定に基づく貢献度によりその都度算定する旨(前同条一、二項)定められ、本件解雇よりかなり以前より、右賃金規定の定めを前提として、組合との協定による前記方式が励行されてきており、右解雇後も同様であることが認められる。右事実によれば、原告はおそくとも本件解雇の当時には定期昇給、一時金について給与規定の定めと、被告会社において労使慣行となっていると認めるべき右協定による方式に基づき査定、評価部分を除く部分(以下「一律部分」という)につき、その額、支払時期はその都度妥結の従業員所属組合との労働協約の定めによる旨の定期昇給、一時金請求権を取得していたものというべく、査定、評価部分については、右協定妥結後の被告会社の個別労働者に対する査定、評価の裁量権の具体的行使をまってはじめて取得し、他方、それ以前は協定妥結と共に右査定、評価を受くべき権利を有するものというべきである。しかして、本件において被告会社は、後記のとおり、右定期昇給、一時金協定妥結分についても、解雇の有効を主張して原告に対する個別査定、評価をなしていない。ところで前項判示のとおり、本件解雇は、被告会社が解雇告知で主張する解雇理由の大半の重要部分が欠けていたうえ、懲戒解雇権の濫用のために無効であり、しかも、右判示によれば、右解雇理由の欠と濫用の事情は、前判示のとおり、少くとも、被告会社において使用者に課せられた注意義務をつくせば、当初から容易にその存在を認識しうべき性質、態様のものであったというべきである。そうだとすると、本件解雇は少くとも原告に対する過失に基づく不法行為を構成するものというべきである。

したがって、また、原告は右不法行為に基づく逸失利益の損害賠償として、前記査定評価部分について本来解雇なかりせば受けうべきであった査定、評価額相当金の請求権を有するものというべきである。

よって、右同旨の原告の主張は理由がある。

(三)  つぎに、昭和五八年夏季については協定未締結であることに当事者間に争いがなく、同年冬期については協定成立を認めるに足る証拠がないところ、原告は右未締結状態が組合に対する不法行為に当る旨主張するが、全証拠によるも、右両年の未締結状態が、被告会社の他組合と組合を差別してその経済的困窮を狙った組合に対する支配、介入意図に基づき、作出された事実をいまだ認めるに足りない。したがって、右各一時金については、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求原因主張は理由がない。

2  解雇後の昇給賃金、同相当損害金の額について

(一)  そこで、以下、原告が本件解雇後受くべき、賃金、一時金の一律部分及び査定評価部分相当損害金(以下、両部分合計を単に「賃金、同相当損害金」、「一時金、同相当損害金」という)の額につき検討する。

まず、本件解雇当時の昭和五一年二月九日の原告の賃金月額が基本給一一万〇七二〇円、諸手当一万円の合計一二万〇七二〇円であったことは当事者間に争いがない。

(二)  被告会社においては原告所属の組合と被告との間で毎年春開かれる賃金引上げについての団体交渉で基本給の増額(ベースアップ、定期昇給、評価部分の各アップ)と諸手当の増額が決定され、これがその年度の四月から実施されてきていることは当事者間に争いがない。

(三)  ところで、原告は基本給の賃上げのうち評価分につき従業員平均の賃上げ率と額によるべき旨主張するが原告が本件解雇以前において、従業員平均の賃上げ率と額の賃上げを受けてきたこと、さらに本件解雇なく原告が通常の就労をしたとすれば、右賃上げ率額につき従業員平均の査定を受けえたこと、については、前示のとおり、本件解雇前においても、懲戒事由に該当する行為を度々なしている点を併せ考えれば、これを推認することは到底できず、右各事実を推認せしめるに足る証拠もない。

つぎに、原告が別表(1)(2)各A表、同(3)(一)で請求する賃金額は、その算定すべき算定方式、その基礎事実の具体的主張、立証がない。

よって、以上の原告主張は理由がない。

(四)  ところで、昭和五一年度から、同五九年度までの各年度の原告のうべかりし基本給の賃上げ額が、別表(3)(二)の「基本給」欄の各前年度の金額との差額であること、昭和五一年二月から、同六〇年一月分までの交通費を除く各月額賃金及びその明細が、右同表(二)各欄記載の金額であること、の限度においては被告の自陳するところである。したがって、原告の解雇後の昇給賃金、同相当損害金の額は、結局、右自陳限度である別表(3)(二)の各欄明細により積算される「基準内給欄」記載の各金額であり、昭和六〇年二月現在の原告の基本給月額は同表(二)記載のとおり月額一七万〇七二〇円、基準内給額は一九万四二二〇円であると認めざるをえず、右基準内給合計は一七二六万六六八〇円となる(被告は、同表(二)記載の諸手当についても、本件解雇が無効となることにより、原告に回復されるべき賃金の一種と自陳しているものであることは明らかである。)。

よって、原告の主張はこの限度で理由がありその余は理由がない。

3  一時金、同相当損害金の額について

(一)  被告会社では、毎年夏季、冬季の各一時金支給について、その都度従業員平均として基本給の何箇月分を支給するかその支給率を決定し、これを更に一律部分と査定部分に分けて定める協定によってきており、昭和五一年以降五七年までの各夏季、冬季、同五九年夏季の各一時金について、被告会社と組合間に一時金支給に関する協定が妥結し、そのうち昭和五九年夏季を除くその余の場合の月数が別表(4)(二)「月数」欄記載のとおりであったことは当事者間に争いがない。

ところで、原告は査定部分につき従業員平均の査定を受けるべき旨主張するが、その理由がないことは前2(三)判示と同様であって、原告が右平均並みの査定を受けうべきであったことを認めるに足る証拠もない。

そして、原告が主張する別表(1)(2)各B表、同別表(4)(一)記載の金額の算定方式、その基礎事実の具体的主張、立証がないので、右主張は理由がない。

(二)  ところで、原告のうべかりし、昭和五一年以降同五七年までの各夏季、冬季の一時金額、その明細が別表(4)(二)各欄記載であることの限度においては、被告の自陳するところであり、右各季の一時金、同相当損害金は、結局、右自陳限度である別表(4)(二)の各欄明細により積算される同表「支給額」欄記載の各金額であり、その合計は四九三万一九七〇円である。

(三)  昭和五八年夏季、冬季分の原告主張が理由がないことは前1(三)判示のとおりである。

(四)  同五九年夏季一時金支給につき組合、被告会社間に協定が妥結したことは当事者間に争いなく、成立に争いない(証拠略)によれば、支給率が従業員平均二・八二か月分であることが認められ、同年度の原告の基本給月額が一七万〇七二〇円となすべきことは前2(四)判示のとおりである。

ところで、いずれも成立に争いのない(証拠略)、弁論の全趣旨(別表(4)記載)によれば、一時金の支給率のうち一律部分(本給比例分)は昭和五四年以来一貫して八〇%であり、査定部分は二〇%であり、そして、査定は、S、A、B、C、Dの五段階からなるが最低の査定であるDでも査定分の半分を少くとも下回ることはないことが認められるので、昭和五九年夏季一時金は本給比例分八〇%、原告の受くべかりし査定はDで、その額は残査定分二〇%の半分と推認すべく、結局四三万三二八七円〔170,720(円)×2.82(カ月)×(0.8+0.2×1/2)=433,287円〕となる。

(五)  昭和五九年冬季一時金については、組合、被告会社間に協定が未妥結であるが、被告会社が組合員に対し二・一六か月分を仮払いしていることは当事者間に争いなく、成立に争いない(証拠略)と弁論の全趣旨によれば、右仮払いは、本給比例部分に当るものとして被告会社、組合間の了解のもとになされたものと推認できるので、原告の右同季の一時金については、右了解限度で協約妥結と同様に考えるべく、したがって、原告は、右同率の一時金(一律部分)仮支給金を取得し、その額は三六万八七五五円(170,720(円)×2.16(カ月)=368,755円)となる。

(六)  以上のとおりで、結局原告の一時金、同相当損害金は、右(二)(四)(五)の合計五七三万四〇一二円の限度で認められることとなり、原告の主張は右限度で理由がありその余は理由がない。

4  交通費の請求について

被告会社の就業規則(給与規定)で従業員に対し自宅から被告会社までの交通費の実費が支給されることになっていること及び原告が本件解雇後現実に就労していないことは当事者間に争いがないところ、(証拠略)及び前掲証人前川の証言によれば、右給与規定上の交通費の支給は現実に就労した場合の実費の補償たる性質を有し、従業員としての地位にある間支払われる生活補助的な実質賃金の性質を有するものではないと認められるから、現実に就労していない原告に対し、被告会社は右給与規定上は交通費を負担すべき義務はないものというべく、他に就労せずとも特別の場合に右交通費を支払うべき根拠について主張、立証もない。

なお、原告は、被告会社に対し就労の意思を表明して出社しているのであるから交通費の請求権がある旨主張するが、現実に就労していない限り、前記交通費支給の性質に照らし、たとえ右主張どおりの事実があるとしても交通費請求権が発生しないことには変りがない。

よって、原告の交通費に関する主張は理由がない。

5  以上のとおりで、本件解雇が無効であるため、被告会社は原告に対し、結局、前記2(四)の解雇後の賃金、同相当損害金合計一七二六万六六八〇円、同3(六)の解雇後の一時金、同相当金合計五七三万四〇一二円の、総合計二三〇〇万〇六九二円の、右賃金、一時金債務と不法行為たる本件解雇に基づく損害賠償として右同各相当損害金債務を負担し、いずれも履行期到来済であり、また、被告会社は原告に対し、昭和六〇年二月以降、当事者間に争いのない賃金支払日である毎月二五日限り、被告の自陳する月額一九万四二二〇円の割合による賃金を支払うべき義務を有するというべきである。

五  結論

以上の次第であって、原告の本訴請求は、そのうち、原告が被告に対して原告が原・被告間の雇用契約上の従業員たる地位にあることの確認を求め、かつ、被告に対し、未払賃金一時金、同各相当損害金合計二三〇〇万〇六九二円及び昭和六〇年二月一日以降毎月二五日限り金一九万四二二〇円の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこの限度でこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉本昭一 裁判官 波床昌則 裁判官千川原則夫は職務代行期間終了につき署名押印することができない。裁判官 杉本昭一)

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