大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)1189号 判決
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原告 ベルサンテ株式会社
右訴訟代理人 村林隆一
外六名
被告 アンテ株式会社
右訴訟代理人 小倉武雄
外四名
〔主文〕
1 被告が原告に対し登録番号第一一三二三二二号実用新案権(実用新案出願公告昭和五〇年三四一三三号)に基づいて、別紙目録記載の折畳式美容健康運動具の製造販売使用の差止めを求める権利を有しないことを確認する。
2 被告は、原告が製造販売している前項の折畳式美容健康運動具が前項の実用新案権を侵害しているとの事実を広告その他の方法によつて第三者に言いふらしてはならない。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを二分にその各一を原、被告の負担とする。
5 この判決は2項にかぎり仮りに執行することができる。
【説明】
「第一 申立
(原告)
1 主文1、2項同旨。
2 被告は原告に対し金一一四万円とこれに対する昭和五二年三月一七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
主文2項同旨の請求と右2項の請求について仮執行の宣言。
(被告)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 主張
(原告)
一 実用新案権に基く差止請求権不存在確認請求について
1 原告は別紙目録記載の折畳式美容健康運動具(以下、イ号物件という)を業として製造販売している。
2 他方、被告は次の実用新案権を有している。
(一) 権利の特定
1 登録出願日 昭和四三年一〇月一二日
2 出願公告日と公告番号 同五〇年一〇月四日(昭五〇―三四一三三)
3 考案の名称 折畳式美容健康運動具
4 登録日と登録番号 同五一年六月一四日(第一一三二三二二号)
5 登録請求の範囲
金属等のパイプをもつて構成する支持台2は、水平の接地面より左右対称に立上がり上方に山形の彎曲部を形成して終る一対の脚2a及び2bとこれ等に対応する水平の接地部より左右対称の立上り部を形成して終る一対の脚2a'及び2b'とを、夫々端部に於てボルト3、3'によつて内側に屈折し得るように枢着し、更に脚2aと2a'、2bと2b'の彎曲部のや、下方内側には夫々チエーン5を取付け、脚2a'、2b'の接地部は角αを挾んで開閉自在となるよう止金4によつて連接し、別に金属等のパイプを対応する一対のコ字型1a、1bに形成して、その端部は互にボルト7、7'で上下に屈曲自在に枢着し、更にボルト7、7'の間には、U字型に折曲り下に突出したパイプ8をボルト7、7'に同軸に枢着しパイプ1a、1bの上に布9を張り渡して遊動部1を構成し、支持台2のボルト3、3'に取付けた鋼索6によつて遊動部の10の個所を夫々吊り下げた折畳式美容健康運動具」
【判旨】
第一実用新案権に基く差止請求権不存在確認請求について
一原告主張の請求原因中、1項(原告がイ号物件を業として製造販売していること)、2項の(一)と(二)の1(被告が本件実用新案権を有することおよびその技術的範囲を分説すると原告主張のとおり(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の構成要件となること)、3項の(1)(イ号物件の構成を分説すると原告主張のとおり(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の構成になること)はいずれも当事者間に争いがない(なお、被告は3項の(1)の(ロ)の構成中「乗り降りを容易にする」とある部分を争うので、以下、その当否を暫らくおき、(ロ)の構成は右の部分を捨象したものとして検討する。)。
そして、右当事者間に争いない本件実用新案の技術的範囲(構成要件)およびイ号物件の構成の各分説は相当であると認められる。
二そこで、右の分説を基にして原告のイ号物件が被告の有する本件実用新案権の技術的範囲に属しないか否かについて検討する。
イ号物件の(イ)と(ハ)の構成が本件実用新案の(イ)と(ハ)の構成要件を充足していることは原告も自認しているところであるからここではまず本件実用新案の(ロ)の支持台の構造に関する構成要件をイ号物件の(ロ)の構成と対比するに、両者には原告がその主張一4(一)(1)(Ⅰ)で主張するような相違があることは当事者間に争いがない。すなわち、本件実用新案の(ロ)の構成要件は「二対の脚体を正面逆W字形に枢支連結した構造の支持台」を選択特定してクレームしたものであるのに対し、イ号物件の(ロ)の構成は「一対の脚体を正面X字形に交差させその交点を枢支連結した構造の支持台」を採用している点で相違する。
そうすると、イ号物件の(ロ)の支持台に関する構成は本件実用新案の(ロ)の構成要件に該当しないものといわなければならない。
被告は、本件実用新案における考案の特徴は「対になつた脚をなすパイプをボルトで駆動自在に連結することによつて支持台を構成し一動作による支持台の開閉で簡易な組立て折畳みを可能とした」点にあり、これが(ロ)の構成に必須の要件でありかつこれで足りる(したがつて、本件実用新案で開示されている脚体の正面逆W字形構造はその一実施例を挙示したにすぎない)ところ、イ号物件の(ロ)の構成は、まさに右必須要件を充足しているとの趣旨を主張している。そして、成立に争いない甲第二号証(本件実用新案公報)によると本件実用新案の詳細な説明欄には「この考案の運動具は以上のような構成になつている為、平常極めて小さく薄くコンパクトに折畳め」「使用する場合や、使用後折畳む際に、面倒な組立作業や分解作業なども必要なく、殆んどワンモーシヨンで操作でき……」との記載がみえるから(公報の二頁左欄二二行目以下と二九行目以下)、本件考案が運動具について一動作による支持台の開閉で簡易な組立て折畳みを可能とすることを解決課題としたものであることはこれを認めることができる。しかし、他方、当裁判所に顕著な次のような事実すなわち物体を支持する脚体をなすパイプをボルトで枢支連結する支持台の構成として正面逆W字形のほかにX字形、逆V字形等を採用することは慣用の技術といえるものであつて、すでに本件実用新案出願前公知公用であつた事実(折畳椅子、ホームラツク等参照)に照らし本件考案の要旨を考えると、本件考案は前記のような課題を解決する方法としてまさにその支持台の構造を正面逆W字形とする技術を選択特定しこれをクレームしたところにその要旨があるものと解すべきであり、いま(ロ)の構成要件の解釈にさいしその文言を越え、被告の主張するようにこれを「対になつた脚をなすパイプをボルトで駆動自在に連結する支持台の構成」と解さなければならない合理的な理由は見出せない。被告の見解はもともと考案の技術的範囲は、その構成に欠くことのできない事項が記載されている実用新案登録請求の範囲の記載に基いて確定すべきであるという原則を超えるものである(実用新案法五条四項、二六条、特許法七〇条)。<証拠>によつて認められる原告主張の公知技術の存在は前記説示を支持するものであつても被告の見解を裏付けるものとはならない。
以上の説示に反する乙第五号証(弁理士大塚康徳、同中田和博の鑑定書)の見解は採用しない。また、以上のとおりであるから被告の均等の主張もその作用効果等について検討するまでもなく失当である。
そうすると、原告のイ号物件は爾余の点について検討するまでもなく、本件実用新案の技術的範囲に属しないことが明らかである。
三したがつて、原告が業としてイ号物件を製造販売することは何ら被告の有する実用新案権を侵害するものではないから、被告には原告のイ号物件製造販売を差止める権利はない。
第二虚偽事実の陳述流布差止請求と損害賠償請求について
一原、被告がともに折畳式美容健康運動具を業として製造販売するもので互いに競争関係にあること、しかるに被告が請求原因二2の(1)および(2)のような警告状を第三者に発したことは当事者間に争いがない。そして、前示の判断によれば、右各警告状の内容が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述流布するものであることは明白である。
また、原、被告の各弁論の全趣旨に照らすと、被告はなお同様の所為に出るおそれがあるところ、原告がこれに因つて営業上の利益を害せられるおそれのあることが認められる。
そうすると、原告は被告に対し不正競争防止法一条一項六号に基き右所為の差止を請求する権利がある。
二次に原告の損害賠償請求について検討するに、上記説示の点に原告代表者本人尋問の結果を総合すると、被告は過失によつて前記不正競争防止法一条一項六号所定の違法行為をしたこと、およびその結果訴外アサヒフアミリーニユース社が原告のイ号物件を広告販売することを拒否したことが認められる(なお、右ニユース社の広告販売拒否の事実自体は被告も認めて争わない。)。
しかし、右ニユース社のイ号物件(ヘルスウエル)の広告販売拒否によつて原告がその主張のような金額の本来得べかりし利益を失つたことを裏付けるに足る的確な証拠はない。すなわち、<証拠>を総合すると、アサヒフアミリーニユース社は朝日新聞の日曜日版の一面全面に番号を付して各種商品の宣伝をして葉書による購入申込を誘引してこれを売却する業務を行つているもので、原告のイ号物件もかつて一回だけ昭和五一年一一月二八日(日曜)の朝日新聞大阪版に広告されたことが認められるが、この場合、これによつて原告が幾何のイ号物件を販売できたかは明らかではない。したがつて、右広告拒否によつて失われた得べかりし利益を推認することは不可能であり、他にこれを証する資料もない。
そうすると、原告の損害賠償請求は失当である。
第三結論
よつて、原告の請求中、被告の差止請求権不存在確認を求める請求および虚偽事実の陳述流布の差止を求める請求は理由があるからこれを認容し、損害金請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(畑郁夫 中田忠男 小圷眞史)
別紙物件目録<省略>