大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)2588号 判決
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【説明】
建物の建築請負工事において、完成した建物の所有権は、請負人側が材料を調達した場合には、特約のない限り請負人に帰属し、引渡によつて注文者に移転するというのが従来の通説判例であるが、近時、これに修正を加えようとする傾向が出てきた(吉原・契約法大系Ⅳ一三五頁以下、栗栖・契約法(法律学全集)四六六頁、東京高判昭50.9.25本誌三三五号二二二頁、大阪地判昭49.9.30判時七七一号六七頁など参照)。
本件は、下請人が、全部材料を調達したが、一方、注文者の方もこの完成前に大部分の請負代金を請負人に支払つたという事案について(請負人は下請人に代金を完済せず倒産)、建物の所有権は請負人に帰属せず、下請人から直接注文者に移転したもので、多少珍しい事例であるといえよう。
【判旨】
建物の建築請負工事において、注文者がその建築工事に必要な材料の全部又は主要な部分を提供して工事を完成させた場合には、原則として、右建築した建物の所有権は原始的に注文者に帰属し、また、これと反対に、請負人が右建築工事に必要な材料の全部又は主要な部分を調達して工事を完成させた場合には、原則として右建築完成した建物の所有権は一旦請負人に帰属し、その引渡によつて注文者に移転するものと解すべきところ、注文者が現実にその材料を提供しなかつた場合でも、建築工事の完成前にその工事代金の全額を支払つたとか、工事代金の大部分を支払つたような場合には、注文者がその材料の全部又は主要な部分を提供した場合に準じて、注文者はその所有権を取得するものと解するのが相当である(大審院昭和一八年七月二〇日判決・民集二二巻一五号六六〇頁、最高裁判所昭和四四年九月一一日判決・判例時報五七二号二五頁各参照)。これを本件についてみるに、<証拠>を綜合すると、次の如き事実が認められる。すなわち、原告と訴外藤田興産との間に締結された本件建物の建築工事に関する請負契約では、当初は、本件請負工事の五〇パーセントが完成し検収された翌月末に工事代金の三〇パーセントを、本件請負工事の七五パーセントが完成し検収された翌月末に工事代金の三〇パーセントをそれぞれ支払い、工事代金の残額四〇パーセントは本件工事完成後に支払う約定であつたこと、ところが現実には、原告は、訴外藤田興産に対し、昭和五一年二月一八日に本件工事代金の内金三〇〇万円を支払つた外、同年三月二日に同じく金四五〇万円を、同年四月五日に同じく金七〇〇万円を、同年五月一四日に同じく金三〇〇万円を、それぞれ支払い、結局本件建物の建築工事の完成引渡前に、追加工事を除く当初の請負工事代金二二〇〇万円の約八〇パーセントに当る金一七五〇万円を支払つたこと、また、訴外藤田興産も、その下請人の訴外日八住工に対し、本件建物の建築工事の完成引渡前の昭和五一年二月二〇日から同年五月一五日までの間に、その下請代金二二七〇万円の約七七パーセントに当る合計金一七五〇万円を支払つていること、以上の如き事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はないから、本件建物の建築工事については、その注文者である原告は、その請負人の訴外藤田興産に対し、また訴外藤田興産はその下請人の訴外日八住工に対し、それぞれ本件建物の建築工事の完成引渡前に、本件工事代金の大部分を支払つたものというべきである。してみれば、本件建物の建築請負工事の注文者である原告とその請負人である訴外藤田興産及びその下請人である訴外日八住工との間では本件建物の所有権はその完成と同時に原告に原始的に帰属し、訴外藤田興産や同日八住工には帰属しない関係にあつたものというべきであるから、前記の如く、訴外日八住工が被告に本件建物の建築工事を下請けさせ、さらに被告は訴外浜田組にその下請けをさせ、右浜田組が自らその材料を調達して本件建物の建築工事を完成させた上、これを被告に引渡したことにより、本件建物の所有権が当初訴外浜田組に帰属し、ついで被告に移転したものというべきであるが、その後被告が本件建物を訴外日八住工に引渡したからといつて、訴外日八住工において、本件建物の所有権を取得する余地はなく、被告から訴外日八住工に本件建物が引渡されると同時に本件建物の所有権は、被告から直接原告に帰属(移送)したものというべきであつて、以後引続き現在まで本件建物は原告の所有であるというべきである。
(後藤勇)