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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)4153号 判決

一 請求原因一の事実(原告が甲、乙権利の権利者であること、原告が丙権利を有していたが、右権利が期間満了により消滅したこと)は当事者間に争いがない。右争いのない甲、乙、丙考案についての実用新案登録請求の範囲の記載、及びいずれも成立に争いのない甲第一ないし第三号証の各三、第一四号証によると、甲、乙、丙考案の各構成要件は、それぞれ請求原因二1(一)、2(一)、3(一)のとおり分説するのが相当である(この点は当事者間に争いがない)。

請求原因二1(二)、2(二)、3(二)(甲、乙、丙考案の目的、作用効果)については、被告らにおいて明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。

請求原因三の事実(被告大谷が大谷製品を、被告タカヤマがタカヤマ製品を業として製造販売していること)は当事者間に争いがなく、右争いのない各イ号物件目録の記載によると、イ号物件(一)ないし(一〇)の構成は、それぞれ同目録(一)ないし(一〇)に記載のとおり分説するのが相当である(この点については当事者間に争いがない)。

イ号物件(一)ないし(一〇)の各構成を甲、乙考案の構成要件と対比すると、請求原因五1記載のとおり甲、乙考案の全構成要件を充足するか、あるいは少なくとも右各考案のいずれかの考案の全構成要件を充足すること、したがつてイ号物件(一)ないし(一〇)がいずれも甲考案の技術的範囲に、同物件(一)、(三)、(五)、(七)がいずれも乙考案の技術的範囲に属することは当事者間に争いがない。

二 被告らは、甲、乙、丙考案が公知技術を内容とするものであるとし、このような内容を持つ甲、乙、丙権利に基づき原告が差止請求権等を行使することは許されず、あるいはこのような内容を持つ甲、乙、丙考案について特許庁がなした実用新案登録処分は当然無効である、と主張する。

1 まず、丙権利が昭和五六年三月二四日期間満了により消滅したことは当事者間に争いがなく、本訴は差止請求であるから、被告らの主張一4の「丙考案に関するもの」については判示しない。

2 被告らの主張二(甲、乙権利の当然無効等)について

被告らは、被告らの主張二3において甲、乙、丙権利が当然無効である旨主張するところ、およそ、実用新案権の付与、無効等の処分は特許庁の専権に属するところであつて、いつたん特許庁がその専権に基づきある考案に実用新案権を付与した以上、それが実用新案法所定の無効審判手続(及びこれに続く行政訴訟)で無効にすべき旨の審決がなされその審決が確定しない限り、侵害訴訟裁判所においてみだりにこれを無効と判断し、無効を前提として訴えを断ずることは許されないというべきである。

しかるに、甲、乙権利について無効審決が確定したことの主張立証はないのであるから、被告らの前記主張は採用できない。

次に、被告らは、被告らの主張二1、2において甲、乙権利の権利行使が許されない旨主張するけれども、右主張は、その根拠が明らかでなく、しかも実質的に侵害訴訟裁判所に実用新案権無効の判断を求め、これを前提に権利行使を許さないとの結論を求めることに帰着するから、前同様に採用の限りでない。また、被告らの主張二4の主張は、実用新案法二六条が準用する特許法六九条二項の明文に反するものであつて、とうてい採用することができない。

被告らの「公知技術の存在による権利行使の不許又は権利無効」の主張は、右のとおり主張自体理由がないが、右主張で公知公用技術として挙示するものについては、以下3ないし8で検討するとおり、公知技術<1>、<2>のごとく、甲、乙考案の各構成要件をすべて備えたものでないか、甲、乙考案の公知公用技術であつた、との立証がないものであつて、結局甲、乙考案は、出願前その構成要件をすべて備えた公知技術の存在するいわゆる全部公知の場合に当らないから、被告らの前記主張は、いずれにしても採用の限りでない。

3 被告らの主張一2(一)(1)(公知技術<1>)について

成立に争いのない乙第一号証によれば、公知技術<1>は、樋類受器に関するもので、甲考案の樋受主体に対応する受腕5と取付枠に対応する取着部12とが別体に構成されており、両者の取着方法は、受腕5の後端に備えてある上向きに屈曲した上向突出片3に外向の爪6を形成し、取着部12に下向きに屈曲して備えてある挿込片10に爪部6に対向してラツク状切込歯9を刻設し、筒状体8に、突出片3と挿込片10とを重合状に互いに逆方向から挿し込み、爪6とラツク状切込歯9を噛み合せて結合するものであることが認められる。

右事実によると、公知技術<1>は、受腕と取着部の結合方法において甲考案と異なり、少なくとも、甲考案の構成要件(d)「樋受主体1の折曲縁3は取付枠部2の垂直杆5に添接し、長溝孔6に挿通したボルトとナツトで両者を締着固定すること」を欠如する、というべきである。

4 被告らの主張一3(一)(1)(公知技術<2>)について

乙考案では、前判示のとおり実用新案登録請求の範囲において下向短突起が一個に限定されているのに対し、成立に争いのない乙第二号証によると、公知技術<2>において、明細書第3図、第5図には二個の爪が明示されており、明細書の本文中にも後記のとおり複数個の爪についての記載があつて、この点に相違がみられる。

のみならず、右明細書中の、「もしこのクランプを鈎形雨樋受けを固定するために屋根の縁端に使うのであれば、その屋根の縁端をブランチ8と9との間に嵌めこみ鈎形受けを長窓孔11の中でボルト締めにする。このクランプをクランプされる物件の上に固定するための固定の堅固さを増すために、ブランチ8と9との上に、12、13のような幾つかの爪又はその他の突起を設けてもよい。」(乙二号証の訳文六頁一〇行目ないし七頁一行目)との記載によれば、公知技術<2>の明細書は、樋受を屋根に固定するためにはボルト締めを必須とし、ただ固定の程度を増強するために副次的に複数個の爪その他の突起物を任意的に設けることを示唆するに止まるのである。

これに対し、前示甲第一四号証によると、乙考案の訂正公報には、「本考案は上記せる如き構造にしてこのスレート屋根用樋受金具にはスレート庇嵌入用「U」字状屈曲部3の上方板部4に下向短突起5が形成されているので、該「U」字状屈曲部3をスレート6の庇における波形の山頂に圧入し、完全に嵌合したところで上方板部4の短突起5が位置する部分を叩打することによつて短突起5がスレート6に所要の小孔7を容易に打抜き形成し、従つて短突起5は打抜き孔7に嵌入し、以て抜止めとなるのである。」(同公報二頁左欄一二行目ないし二一行目)と、また「尚短突起5は1つのみで充分に抜止めとなる…」(同公報二頁右欄八行目)と、更には「このように本考案はスレート屋根に取付けられるスレート屋根樋受金具の「U」字状屈曲部の上方板部4の幅方向に1個の下向き短突起を形成したことによつて、スレートの庇に圧挿すると共に該突起部分を叩打するという極めて簡単な方法で確実強固に装着し得るもので、従来のボルトナツト締結に比し少くとも10倍の能率を発揮し得る実益があり、更に従来のボルトナツト締結の際錐でスレートに穿孔するに当つて錐を打込むのに庇を支えることができないでスレートに亀裂を屡々発生せしめた事故は、本考案の場合片手で庇を支え、片手でハンマー打おろしが可能となり、従つて叩打によつてもスレートに亀裂を生ぜしめる如きおそれは全くないという効果も併用し…」(同公報二頁右欄二一行目ないし三四行目)とそれぞれ記載されている。右各記載によると、乙考案が構成要件(f)を採用したことによつてもたらされる作用効果は、一個の下向短突起5をスレートに打込むだけで、ボルトによる締結を要することなく、樋受金具を確実強固にスレート屋根へ装着し得る点にある、ということができる。

そうだとすれば、公知技術<2>は、樋受金具の庇への固定をボルトにより行い、ただその固定を強化するために爪を複数個設けて成る樋受金具に関するものであつて、乙考案の構成要件(f)を欠如する、というほかはない。

5 被告らの主張一1(一)(三)について

被告らは原告が昭和四二年八月から昭和四三年三月までの間に甲、乙、丙考案の各構成要件をすべて備えた樋受金具を株式会社イヌイ商店等に販売することにより右各考案を出願前公知にした、とし、更に、訴外山本金一が昭和四二年一〇月から同年一二月にかけて甲、乙、丙考案と同一の構成要件をすべて備えた樋受金具を原告に販売したことにより公知となつていた、と主張する。

そこで検討するに、前者の主張に副うものとして乙第一五ないし第二八号証が存在するところ、右乙号各証の証明書は、いずれも証明書の作成年月日欄の日欄、公知公用であることの証明を求める樋受金具の購入年月欄の月欄、証明者欄を空白とし、二種の樋受金具の図面、証明事項がすべて予め印刷してある被告タカヤマ作成の「証明願」に、右作成年月日欄の日欄、購入年月欄の月欄に数字を記入し、証明者欄に記名押印して作成されており、証明の内容も、証明書作成日である昭和五七年二月一七日ないし二四日から約一四年前の購入製品の構造に関するものであることから、これにより被告らの主張を認めるには躊躇せざるを得ないし、後記事実に照らしても、にわかに採用し難い。後者の主張に副うものとして証人山本一郎の証言部分があるが、同証言部分は後記事実に照らしてにわかに採用し難い。他に右各主張を認めるに足る証拠はない。

かえつて、いずれも成立に争いのない甲第一六、第一七号証、証人松谷好子、同福本頼信の各証言を総合すると、原告が甲考案を考案したのは昭和四二年一二月中旬であり、昭和四三年二月初め山本樋受製作所の山本金一に右試作品の製造を依頼して同月二六日頃その納品を受けたこと、原告が丙考案を考案したのは昭和四三年三月一日であり、翌二日に弁理士に登録出願を依頼し、同月七日出願が完了したのを確認した上で、山本金一に対して、甲考案の試作品の製造を中止して丙考案の試作品の製造に切り替えるよう依頼していること、原告は、同年三月一〇日頃福本頼信から甲考案の実施品の注文を受けて同月二〇日頃丙考案の実施品を納品しているが、これが第三者に甲、丙考案の実施品を納品した最初であること、原告は、山本金一に対して甲、丙考案の各実施品の製造を依頼する以前に、何人に対しても甲、丙考案の内容を知らせたことがないこと、右の事実が認められるのである(右認定に反する証人小原邦光の証言部分は、前掲各証拠に照らして採用しない)。

6 被告らの主張一1(二)について

被告らは、昭和四二年九月甲、乙考案と同一の構成要件を備えた樋受金具が公然使用されていた、と主張し、右の立証として、乙第三〇号証の一ないし七を提出するところ、右乙号各証の成立の真正についての立証がないのみならず、右乙号各証の内容を検討するに、乙三〇号証の二の建築確認書添付の図面中、被告ら主張の建物A1の箇所にある「42、9建設部分」との書込み部分は、弁論の全趣旨により後日被告ら輔佐人によつてなされたものであることが窺われるから、右乙号証は、A1建物が昭和四二年九月に建築され、ひいては被告ら主張の樋受金具が同年月に設置されたことを証明する資料とすることはできない。同じく、乙第三〇号証の三には「42、9鉄工スレート〃(寺島工務店であることを示す)」の記載があるが、この記載によつて、右の頃被告ら主張の樋受金具を設置したことを証する資料とすることはできない。他に被告ら主張の樋受金具が昭和四二年九月に設置されたこと、その現存するものが乙第三〇号証の五、六の写真に示す樋受金具であることを証するに足りる証拠はない。

7 被告らの主張一2(一)(2)、2(二)、3(一)(2)について

右一2(一)(2)と3(一)(2)については、これに副うものとして、乙第一四号証の二(成立について争いがない)、証人奥津善三郎の証言部分が、右一2(二)についてはこれに副うものとして、乙第三三、三四号証が存在する。しかし、右証言部分及び乙号各証の記載部分は、前記5の認定事実及び後記事実に照してにわかに採用し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

すなわち、証人福本頼信の証言により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、前掲甲第一六号証、右証言によると、福本頼信が甲考案の樋受金具をはじめて見たのは、昭和四三年三月初旬原告がその試作品を持ち込んだ時であつたこと、甲考案出願以前に業界に出回つていた樋受金具は、樋受主体と取付部とが一体形成され、取付部と樋受主体の間の上下幅が狭いものから広いものまでの五本が一組となり、樋に勾配を持たせる工夫のなされたいわゆる五丁流れであり、それ以前には甲考案の樋受金具は業界にはみられなかつたことが認められる(右認定に反する証人高山昌弘同藤野弘同藤野清美の各証言部分は、前掲各証拠に照らして採用しない)。

8 被告らの主張一3(二)、(三)について

右一3(二)については、これに副うものとして乙第三五号証が、一3(三)については、これに副うものとして乙第三六ないし第四〇号証が存在する。右乙号各証の証明書は、いずれも、証明書に当該被告から証明者に宛てた納品書と説明書付の戸樋受金具の図面を添付したものであるところ、証明書は、作成年月日欄の月日欄、証明者欄を空白とし、被告タカヤマ(乙第三五号証)、被告大谷(乙第三六ないし第四〇号証)から証明者に宛てた証明依頼部分、証明者の証明部分を予め印刷したものに、作成年月日欄の月日欄に数字を記入し、証明者欄に記名押印することにより作成されている。証明の内容も証明書作成日である昭和五七年三月末頃から二〇数年前を購入開始日とする製品の構造に関するものである。証明書に添付の戸樋受金具の図面の説明書は予め印刷されたものである。証明書に添付の納品書写しには、樋受金具の略図と考えられる図形を表示しているが、この図形の取付部の形状をみると、いずれも取付部の上下に突出した<省略>状の表示がなされており、これは乙考案の下向短突起と同じ止着部を表わしているというよりは、むしろボルトとナツトによる止着を表わしていると見受けられるのである。

右乙号各証は、右のとおりその記載内容自体、また後記事実に照らしにわかに採用できないし、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

前示甲第二号証の三、第一七号証及び甲第一七号証によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第二〇号証の一、二、証人福本頼信の証言によると、原告が乙考案を考案したのは昭和四三年四月初めであり、同月一〇日頃弁理士に出願の依頼をしたこと、乙考案出願以前のスレート用樋受金具として、樋受本体に続く直立部分の上端に、横向き「U」字形の屈曲部分を形成して、該「U」字状屈曲部にスレートの庇を嵌入挟着状とし、尚該屈曲部とスレート庇とをボルトナツトで締結する構成のものが存在したこと、原告は、右従来品の「U」字状屈曲部の上側先端を下方に曲げて突起を作つた乙考案の試作品を、昭和四三年五月中旬、高山昌照経営のタカヤマ樋受製作所に持参してスレートヘの打込み実験をし、これを機に、高山から、乙考案の権利を実施したいとの申出があり、同月下旬「専用実施権許諾書」、「製造販売契約書」と題する契約書の草案を受け取つたこと、その頃原告は、正規の契約書を交すことなく、高山昌照に乙考案の実施品の製造を依頼し、同年六月二〇日頃初回の納品を受け、ほどなく福本頼信に右新製品を見せていることが認められるのである。(右認定に反する証人高山昌弘の証言部分は前掲各証拠に照らして採用しない)。

三 被告らの主張三(先使用権の存在)については、前記二7・8で判示したとおり、被告らが甲考案又は乙考案の構成要件をすべて備えた樋受金具を考案出願前に製造販売していたとの事実が認められないから、採用の限りでない。

四 以上のとおりとすると、被告大谷は、イ号物件(一)、(二)、(四)、(五)、(六)を、被告タカヤマは、同物件(三)、(七)、(八)、(九)、(一〇)を、それぞれ業として製造販売することにより原告の甲権利を、また、被告大谷は、イ号物件(一)、(五)を、被告タカヤマは同物件(三)、(七)をそれぞれ業として製造販売することにより原告の乙権利をそれぞれ侵害しているのであるから原告は、被告大谷に対して大谷製品の、被告タカヤマに対してタカヤマ製品の各製造販売の差止めとその廃棄をそれぞれ求めることができる、といわなければならない。

よつて、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容する。

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