大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)4304号 判決 1979年4月26日
原告
友利達夫
ほか四名
被告
三菱興業株式会社
ほか二名
主文
原告友利達夫に対し、被告三菱興業株式会社、同松本康は、各自一九一一万二二七五円およびうち一八一一万二二七五円に対する昭和五〇年九月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を、被告加藤忠明は、一六六六万二二七五円およびうち一五八六万二二七五円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
原告友利達夫のその余の請求および原告友利ムツエ、同友利有輝枝、同友利誠一、同友利秀雄の各請求をいずれも棄却する。
訴訟費用のうち、原告友利達夫と被告三菱興業株式会社、同松本康との間に生じた分はこれを一〇分し、その一を同原告の、その余を同被告らの負担とし、原告友利達夫と被告加藤忠明との間に生じた分はこれを一〇分し、その二を同原告の、その余を同被告の各負担とし、原告友利達夫を除くその余の原告らと被告らとの間に生じた分はすべて同原告らの負担とする。
この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告友利達夫(以下、原告達夫という。他の原告らについても同じ。)に対し二一一八万三二〇五円およびうち一九六八万三二〇五円に対する昭和五〇年九月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告ムツエに対し一六〇万円およびうち一五〇万円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告有輝枝、同誠一、同秀雄各自に対し、いずれも八〇万円および七五万円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者間の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五〇年九月二一日午後三時五〇分頃
(二) 場所 大阪市大正区小林町一一三番地先路上(以下、本件事故現場という。)
(三) 事故車 営業用普通乗用自動車(タクシー、登録番号大阪五五あ七五三六号、以下、甲車という。)
右運転者 被告松本康(以下、被告松本という。)
自家用普通乗用自動車(登録番号泉五五ら五四八号、以下、乙車という。)
右運転者 被告三菱興業株式会社、同松本補助参加人兼被告加藤忠明(以下、被告加藤という。)
(四) 被害者 原告達夫(乙車の助手席に同乗)
(五) 態様 本件事故現場の道路(片側三車線)の第二車線(中央車線)を北から南に進行中の甲車が、道路西側歩道上にいた乗客を拾うため、進路前方の横断歩道上の中央分離帯の切れ目から対向車線内に進入しようとして右転回を開始した直後、折から現場道路の第三車線(中央分離帯寄り車線)を同一方向に進行してきた乙車と衝突(衝突部位は甲車の右後部と乙車の前部)し、乙車がその場に転覆した。
2 責任原因
(一) 運行供用者責任(自賠法三条)
被告三菱興業株式会社(以下、被告三菱興業という。)は甲車をその業務用に使用し、被告加藤は乙車を所有し、それぞれ自己のために運行の用に供していた。
(二) 使用者責任(民法七一五条一項)
被告三菱興業は、被告松本を雇用し、同人が被告三菱興業の業務の執行中、後記(三)の過失により本件事故を発生させた。
(三) 一般不法行為責任(民法七〇九条)
被告松本は、本件事故現場が終日転回禁止の場所と指定されていたにもかかわらずこれを無視し、予め充分な距離をおいて右転回の合図をせず、しかも甲車の右後方第三車線上に乙車が進行してきているのを認めながら、乙車との車間距離および乙車の速度を充分確認せず自車が先に右転回できると軽信して右転回した過失により、被告加藤は、本件事故現場の道路の最高速度が時速四〇キロメートルに制限されていたのに、これを超える時速約七〇キロメートルで進行した過失により、それぞれ本件事故を発生させた。
3 損害
(一) 受傷、治療経過等
(1) 受傷
原告達夫は、本件事故により、右眼に外傷性角膜裂傷、外傷性虹彩炎、外傷性白内障、外傷性虹彩脱出、左眼に外傷性眼瞼裂傷等の傷害を負つた。
(2) 治療経過
原告達夫は、右傷害の治療のため、昭和五〇年九月二一日から同年一二月五日まで七五日間および昭和五一年三月五日から同年五月二九日まで八六日間大阪市立大学医学部附属病院(以下、大学病院という。)に、また昭和五一年七月九日から同月二八日まで一八日間聖母病院に入院し、さらにその後一六〇日間にわたつて大学病院、聖母病院、長谷川内科および永沢眼科に通院した。
(3) 後遺症
しかしながら、原告達夫には、右眼失明、左眼兎眼症および視力低下(視力〇・六以下に低下)の自賠法施行令別表後遺障害等級表七級に該当する後遺障害が残存し、右症状は昭和五一年八月三一日固定した。
(二) 治療関係費 七八万七〇七〇円
(1) 治療費 五〇万一九八〇円
大学病院関係(入院ベツド差額金) 一五万一六六〇円
聖母病院関係 三一万七三二〇円
義眼代 三万三〇〇〇円
(2) 入院雑費 八万九五〇〇円
入院中一日五〇〇円の割合による一七九日分
(3) 入・通院付添費 四万三〇〇〇円
入院中一日二〇〇〇円の割合による二〇日分
聖母病院における通院および入・退院時の付添につき一日一〇〇〇円の割合による三日分
(4) 入・通院交通費 一五万二五九〇円
大学病院への入・退院および通院時分 二万一〇九〇円
聖母病院への入・退院および通院時分 一三万二六四〇円
長谷川内科および永沢眼科への通院時分 一六五〇円
(三) 逸失利益 二四四三万六一三五円
(1) 休業損害 二〇八万〇六三八円
原告達夫は、事故当時三六歳(昭和一四年七月二五日生)で、関西日産化学株式会社(以下、関西日産化学という。)に調合反応係員として勤務し、一か月平均一八万四五二〇円(年収二二一万四二四〇円)の収入を得ていたが、本件事故により昭和五〇年九月二二日から昭和五一年八月三一日まで三四三日間欠勤せざるを得なくなり、合計二〇八万〇六三八円の収入を失つた。
(2) 将来の逸失利益 二二三五万五四九七円
原告達夫は、前記後遺障害のため、その労働能力を五六%喪失したものであるところ、同人の就労可能年数は昭和五一年九月一日から三〇年間と考えられるから、その将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると二二三五万五四九七円となる。
(計算式) 二二一万四二四〇×〇・五六×一八・〇二九=二二三五万五四九七
(四) 慰藉料
(1) 原告達夫の慰藉料 九〇〇万円
入・通院慰藉料 二〇〇万円
後遺症慰藉料 七〇〇万円
(2) 原告ムツエ、同有輝枝、同誠一、同秀雄らの固有の慰藉料
合計 三七五万円
原告ムツエは原告達夫の妻、原告有輝枝、同誠一、同秀雄はその子であるところ、本件事故により一家の支柱ともいうべき原告達夫が前記のように重大な傷害を負い、しかも同人には前記後遺症が残存するに至つたものであるから、いずれも原告達夫の死亡に勝るとも劣らない精神的打撃を受けたものであり、従つて、これに対する慰藉料は、原告ムツエに対し一五〇万円、原告有輝枝、同誠一、同秀雄ら各自に対しそれぞれ七五万円が相当である。
(五) 弁護士費用
(1) 原告達夫につき 一五〇万円
(2) 原告ムツエにつき 一〇万円
(3) 原告有輝枝、同誠一、同秀雄につき 各五万円
4 損害の填補
原告達夫は、自賠責保険より合計一四五四万円の支払を受けた。
5 本訴請求
よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は本件不法行為の日から民法所定の年五分の割合による。ただし、弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。
二 請求原因に対する認否
(被告三菱興業、同松本)
1 請求原因1項の(一)ないし(四)は認める。同(五)は、衝突直前の甲車の進行状況を除き認める。甲車は、一旦右に転回しようとして右に進路を変更した直後これを断念し、体勢をたて直してそのまま直進すべく制限速度一杯の時速四〇キロメートルまで加速して進行中に、後方からきた乙車に追突されたものである。
2 同2項の(一)は認め、同(二)は過失の点を除き認める。同(三)は争う。被告松本にも何らかの落度があつたことは認めるが、本件事故は主として被告加藤が制限速度の約二倍近くの高速度で進行した過失によつて発生したものである。
3 同3項は不知。
(被告加藤)
1 請求原因1項の(一)ないし(五)はすべて認める。
2 同2項の(一)は認め、同(三)は争う。
3 同3項は不知。
4 同4項は認める。
三 被告らの主張
(被告三菱興業、同松本)
原告達夫は、被告加藤が制限速度を大幅に超える時速約七〇キロメートルで乙車を運転しているのを知りながら、これを制止しなかつたものであるから、本件事故発生については原告達夫にも過失があるというべきであり、損害賠償額の算定にあたつて斟酌されるべきである。
(被告加藤)
1 仮に、被告加藤が原告ら主張のように時速約七〇キロメートルもの高速度で乙車を運転していたとすれば、その助手席に同乗していた原告達夫にはこれを制止すべき義務があつたことになり、従つて右速度違反を制止しなかつた同人にも過失があるというべきであるから、損害賠償額の算定にあたつて斟酌されるべきである。
2 仮に右1の主張が認められないとしても、原告達夫は、被告加藤の好意により乙車に無償で同乗していた、いわゆる好意同乗者であるから、その慰藉料額の二〇%ないし五〇%は減額されるべきである。
四 被告らの主張に対する原告らの認否および反論
1 過失相殺の主張は争う。すなわち、被告加藤の速度違反は、原告達夫の行為に起因するものでもなく、また本件事故現場の道路状況や交通量からすると、単なる同乗者であるにすぎない原告達夫において、積極的にこれを制止する義務を負わなければならないほど無謀なものでもなかつたから、右速度違反は、過失相殺において考慮されるべき被害者側の過失にはあたらないというべきである。
2 原告達夫が乙車の好意同乗者であつたことは認める。しかしながら、原告達夫と被告加藤は、同じ会社に勤務する同僚という以上に親密な関係でもなく、しかも原告達夫が乙車に同乗するに至つたのは、今回が最初のことであり、当日たまたま被告加藤ら同僚とともに大正区の野球大会に出場したことから、その帰りみち、他の同僚とともに同じく大正区内に住む被告加藤の運転する乙車に同乗させてもらつたにすぎない。従つて、右好意同乗を理由として慰藉料額を減額するのは妥当でない。
第三証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
請求原因1項の(一)ないし(四)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証の一三ないし一七、一九、二〇、二二、二三、三一ないし三九、四三、四四、原告達夫、被告加藤各本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
1 本件事故現場は、府道大阪八尾線の大正区役所前交差点から約五〇〇メートル南方に設置された横断歩道の北側直近の道路上である。現場道路は、ほぼ南北に通じる直線、平担なアスフアルト舗装道路で歩車道の区別があり、車道部分は、幅員が約二八メートルで、その中央には幅員約三メートルの中央分離帯が設けられ、これによつて南・北各行車線(各車線とも三車線に区分されている。)に分離されている。右分離帯は、高さが約二〇センチメートルで、コンクリート沿石によつて囲まれた島状をなし、さらにそのうえには高さ約八〇センチメートルの鉄製の安全柵が分離帯を囲むようにして設置されているが、前記横断歩道と交差する部分は、長さ約六・三メートルにわたつて安全柵がなく、分離帯の高さも約五センチメートルと低くなつている(以下、横断歩道と交差する部分を分離帯の切れ目という。)。なお、本件事故現場付近は、終日駐車禁止および転回禁止の規制がなされており、最高制限速度は時速四〇キロメートルである。
2 被告松本は、本件事故当時、本件事故現場の北方にある大正橋交差点を左折して府道大阪八尾線に入り、千島町交差点南詰で乗客を降ろしたのち、右転回して右府道を北上しようとしていたが、中央分離帯のため直ちに右転回できなかつたことから、右転回に適当な場所を捜しながら、そのまま南進を続けていた。そして、本件事故現場にさしかかり、同所の南行第二車線(三車線のうちの中央の車線)を時速約三〇キロメートルで進行中、自車右斜め前方の西側歩道(北方車線外側の歩道)上に、タクシー待ちをしているような男女二人連れの歩行者を認め、これに注意しながら進行していたところ、進路前方の横断歩道と交差する部分の中央分離帯に前記のような切れ目があるのを発見した。そこで、同所を通つて右転回し、北行車線内に進入しようと思い、減速しながら右転回の合図をし、同時に一瞬右サイドミラーで右後方の道路状況を確認したところ、第三車線(中央分離帯寄り車線)を進行してくる乙車を認めたが、同車の進行速度および同車との車間距離を充分確認しないまま自車が先に転回できると軽信し、そのまま右転回を開始した。ところが、その直後、分離帯の切れ目には、わずかながら前記のように段差があり、同所から北行車線内に進入することができないことに気付いたため、直ちに右転回を断念し、左にハンドルを切り直して甲車の体勢をたて直すとともに加速前進し、乙車との衝突を避けようとしたが間に合わず、後方から接近してきた乙車の前部に甲車の右後部を衝突させ、乙車をその場に転覆させた。
3 一方、被告加藤は、乙車を運転し、本件事故現場の南行第三車線の左端を時速約七〇キロメートルで進行中、自車左前方の第二車線上を進行している甲車を認め、これを追抜こうとしてそのまま甲車に接近しながら進行していたところ、甲車が減速したのち、右転回の合図をするとほぼ同時に突如右にハンドルを切り、第三車線内に進入してくるのを認めたため、直ちに急制動の措置をとつたが間に合わず、自車前部を甲車の右後部に衝突させ、その衝撃で乙車をその場に転覆させた。
二 責任原因
1 運行供用者責任
請求原因2項の(一)は、当事者間に争いがないから、被告三菱興業、同加藤には、いずれも自賠法三条により、本件事故によつて生じた後記損害を賠償すべき責任がある。
2 一般不法行為責任
前記一で認定した事実によれば、被告松本には、本件事故現場が転回禁止の場所であつたのにこれを無視し、しかも自車の右後方には乙車が接近しているのを認めながら同車の速度および同車との車間距離を充分確認しないまま自車が先に転回できると軽信して右転回を開始した過失があり、本件事故は同人の右過失によつて発生したことが明らかであるから、被告松本には民法七〇九条により本件事故によつて生じた後記損害を賠償すべき責任がある。
三 損害
1 受傷、治療経過等
(一) 受傷、治療経過
成立に争いのない甲第四号証の四〇、四一、原告らと被告加藤間においては成立に争いがなく、原告達夫本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第六号証の一ないし七、原告らと被告加藤間においては原本の存在および成立に争いがなく、原告達夫本人尋問の結果および弁論の全趣旨により原本の存在と真正な成立および提出された写の正確性を認める甲第九号証の三、第一二号証の一、二、原告本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認める甲第一一号証の一部を総合すると、原告達夫は本件事故のため、右眼外傷性角膜裂傷、外傷性虹彩炎、外傷性白内障、外傷性虹彩脱出、左眼外傷性眼瞼裂傷の各傷害を負い、その治療のため昭和五〇年九月二一日から同年一二月五日まで七六日間および昭和五一年三月五日から同年五月二九日まで八六日間大学病院に、昭和五一年七月九日から同月二六日まで一八日間聖母病院にそれぞれ入院し、昭和五〇年一二月六日から昭和五一年二月二九日までの間に八日間および同年七月三一日大学病院に、昭和五一年六月二五日、八月一九日、一〇月一日、一二月一日および昭和五二年一月一四日聖母病院に、昭和五二年三月二日から同年四月三〇日までの間に五日間長谷川内科および永沢眼科にそれぞれ通院したことが認められる。右認定に反する甲第一一号証の大学病院への通院日数に関する記載部分は、右各証拠に照らし措信しない。
(二) 後遺症
成立に争いのない甲第二号証、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告達夫には前記傷害の結果、(1)右眼失明、左眼視力低下(視力〇・六で矯正不能)および(2)左眼兎眼症の自賠法施行令別表後遺障害等級表七級に該当する各後遺障害が残存し、右(1)の症状は昭和五一年八月三一日頃、右(2)の症状は昭和五二年一月一四日頃それぞれ固定したことが認められる。
2 治療関係費 七一万六一四〇円
(一) 治療費 四三万一三二〇円
前掲甲第六号証の一ないし七、第一二号証の一、二、原告達夫本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認める甲第七号証の一、二ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告達夫は前記入・通院治療のため治療費として合計三九万八三二〇円(内訳、大学病院における入院ベツド差額金一六二日分八万一〇〇〇円、聖母病院関係治療費三一万七三二〇円)および義眼代として三万三〇〇〇円の支払を余儀なくされたことが認められる。
(二) 入院雑費 八万九五〇〇円
原告達夫が合計一八〇日間入院したことは前記のとおりであり、弁論の全趣旨および経験則によれば、原告達夫は右入院期間中一日五〇〇円の割合による合計九万円の入院雑費を必要としたことが認められるから、そのうち原告達夫請求の一七九日分八万九五〇〇円は本件事故と相当因果関係ある損害であることが明らかである。
(三) 入・通院付添費 四万三〇〇〇円
原告達夫本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すれば、原告達夫は、前記入院期間中昭和五〇年九月二一日より同年一〇月一〇日までの二〇日間付添看護を要したため、妻である原告ムツエが付添つたこと、また聖母病院における初診時および入・退院時にも、いずれも付添を必要としたため、原告達夫の弟、同僚および妻である原告ムツエがそれぞれ付添つたことが認められるから、右の事実に弁論の全趣旨および経験則を総合すれば、原告達夫は右入院付添のため一日二〇〇〇円の割合による合計四万円の、通院付添のため一日一〇〇〇円の割合による合計三〇〇〇円の各損害を被つたものと推認される。
(四) 入・通院交通費 一五万二三二〇円
前掲甲第一一号証および原告達夫本人尋問の結果によれば、原告達夫は、前記入・通院治療を受けるため、交通費として合計一五万二三二〇円(内訳、大学病院への入・退院および通院交通費一万八〇三〇円、聖母病院への入・通院交通費一三万二六四〇円、長谷川内科および永沢眼科への通院交通費一六五〇円)を必要としたことが認められる。
3 逸失利益 二四四三万六一三五円
成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証、原告らと被告加藤間においては原本の存在および成立に争いがなく、原告達夫本人尋問の結果および弁論の全趣旨により原本の存在と真正な成立および提出された写の正確性を認める甲第八号証の一、二、原告達夫本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告達夫は、本件事故当時満三六歳(昭和一四年七月二五日生)で、危険物取扱主任者等の資格を有して関西日産化学に製造工(化学薬品製造の技術職である調合反応係員)として勤務し、昭和四八年には一五一万八九〇七円(基準内賃金月額六万〇四九四円の二五・一倍)、昭和四九年には二二一万四二四〇円(同月額七万五五五〇円の二九・三倍)の各収入を得ていたこと、ところが、本件事故のため昭和五〇年九月二二日から昭和五一年八月三一日まで三四三日間連続して欠勤しなければならなかつたほか、昭和五一年九月一日に一応職場復帰はしたものの、その後も通院治療等のためしばしば欠勤せざるを得ず、また、前記後遺障害とそれに起因する睡眠不足から疲労が甚だしく、時間外労働は一切できない状態となつたこと、しかも前記後遺障害のため従来の調合反応係員としての作業を続けることは不可能となり、製造現場から分析室に配置換えされ、以後掃除等の雑役や分析の下準備等極く簡単な作業にしか従事することができなくなつたこと、そのため、基準内賃金は昭和五〇年には月額一〇万四〇四六円、昭和五一年には同一一万九五四五円、昭和五二年には同一三万一七〇七円、昭和五三年には一四万二四六八円にそれぞれ増額された(その間の増額の割合は、他の従業員のそれとほぼ同等である。)ものの、右各年における賃金支給総額(年収)は、それぞれ一八六万七八九四円(基準内賃金の一七・九倍)、三三万二七八一円(同二・七倍)、一八八万〇八六〇円(同一四・二倍)、二一九万二三八五円(同一五・三倍)に止まつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、原告達夫は、本件事故に遭わなければ毎年少なくとも二二一万四二四〇円を下らない収入を得ることができたというべきであるから、昭和五〇年九月二二日から昭和五一年八月三一日まで三四三日間欠勤したことにより、合計二〇八万〇六三八円の収入を失つたことになる。そして、前記認定の後遺障害の程度、内容からすれば原告達夫はその労働能力を五六%喪失したものと認められ、同人の就労可能年数は昭和五一年九月一日から三〇年間と考えられるから、その将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、二二三五万五四九七円となる。
(計算式) 二二一万四二四〇×〇・五六×一八・〇二九=二二三五万五四九七
そうすると、原告達夫の逸失利益は、その主張どおり合計二四四三万六一三五円となる。
ところで、被告加藤は、損害額は、被害者の職業と傷害の具体的状況により、被害者に現実に生じた額を算出すべきところ、原告達夫が、職場復帰後、(1)給与の受給総額においては、昭和四九年度のそれと比較して、同五二年度にはその八五パーセント、同五三年度にはその九九パーセントを得ており、また、(2)同五二年度には病欠日数一七日、欠勤日数二五日であつたのが、同五三年度には病欠日数無し、欠勤日数一三日となつているところから、原告達夫の労働能力喪失率を長期間にわたり一率に五六パーセントとすることは妥当でないと主張する。そして、右(1)の点は、前認定の事実から計算上明らかであり、右(2)の事実は、前掲乙第一号証によつて認められるところである。
しかし、右(1)の数値は、被告加藤も自認するように、貨幣価値の変動等を度外視したものであつて、そのまま採用しうる数値ではない。むしろ、右認定の事実により、被告加藤主張の観点から計算するのであれば、昭和五三年一二月までの分については、原告達夫は本件事故に遭わなければ毎年基準内賃金の二五倍程度の収入を得ることができたものと考え、同人は昭和五〇年には基準内賃金の七・一倍分、昭和五一年には同二二・三倍分、昭和五二年には同一〇・八倍分、昭和五三年には同九・七倍分程度の収入をそれぞれ喪失したものとみるべきこととなろう。そして、右の方法で右各年における逸失利益の事故時における一時支払額を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると五七七万二〇〇七円となり、それは、むしろ原告ら主張の方法による右の期間内の逸失利益の額を上回るものとなることは、計算上明らかである。
(計算式)(一〇万四〇四六×七・一)+(一一万九五四五×二二・三×〇・九五二三)+(一三万一七〇七×一〇・八×〇・九〇九〇)+(一四万二四六八×九・七×〇・八六九五)=五七七万二〇〇七
次に、昭和五四年一月以降の逸失利益の算定について、右被告加藤主張の点を、右と同様に、賃金の年間受給総額が当該年度の基準内賃金の何倍となつているかという観点から見るとすれば、それは、昭和四九年度の二五倍に対して同五二年度は一四・二倍(五六・八パーセント)、同五三年度は一五・三倍(六一・二パーセント)にとどまるのであるが、なお、同五三年度は同五二年度と比較して一・一倍(四・四パーセント)回復していることになる。そして、前掲乙第一号証によれば、原告達夫は、昭和四九年度には病欠・欠勤日数はともに無く、六九五時間の時間外労働をしているのに、同五二・五三両年度には全く時間外労働をしていないことが明らかであるから、右両年度の収入の減少、右両年度間の四・四パーセントの収入の回復は、勤務日数、労働時間の減少、回復によるものと考えられる。一方、前記認定の後遺障害の程度、内容、および、本件事故前と職場復帰後とにおける原告達夫の従事する作業の性質、内容、就労状況等の差異に原告達夫本人尋問の結果をあわせ考えると、将来、原告達夫の努力によつて欠勤日数を減らすことはなお可能であるとしても、事故前に従事していたような性質、内容の作業に従事し、時間外労働をすることができるようになるところまで回復するであろうことは、到底認めがたいところであり、また、従事する作業の性質、内容の変化にもかかわらず原告達夫の基準内賃金が減額されることなく他の従業員のそれとほぼ同等に増額されてきているのは、多分に、原告達夫が関西日産化学の野球部に所属していた関係で同僚の車に同乗して本件事故に遭遇するに至つたものであることを考慮した、恩恵的な措置であることがうかがわれるのである。以上のような諸点から考えれば、昭和五四年度の基準内賃金(それは、前掲乙第一号証により、一四万八九三八円であると認められる。)の二五倍を基準とするのであれば、本件事故による収入減少の割合を三五パーセント程度で将来それ以上に逓減するものとは認めがたいものとみて、将来の逸失利益を算定するのも、一つの方法であるということになろう。しかし、それには、将来とも原告達夫が現職にとどまり、その基準内賃金が現状維持ないし増額されることを確実に期待しうることが前提となるところ、原告達夫本人尋問の結果によれば、将来とも前記のような恩恵的な措置を確実なものとして期待することは不可能であり、また、原告達夫自身も、関西日産化学における就労に自信が持てないため、真剣に転職を考えていることがうかがわれるのであつて、近い将来、原告達夫が途中退職を余儀なくされることも充分予想されるところであるから、右の方法は採ることができない。
結局、本件における逸失利益の算定にあたつては、より不確実な要素が少なく、結果においてより控え目な金額を算定することになる原告ら主張の方法によるのが相当であり、以上検討してきたところから考えても、その場合、現在における労働能力喪失率が五六パーセントであつて、それは将来逓減するものではないとみるのが相当であるというべく、したがつて、前記被告加藤の主張は採用することができない。
4 慰藉料 被告三菱興業、同松本に対し七五〇万円、被告加藤に対し五二五万円
前掲甲第四号証の一七、一九、二〇、二二、二三、三二、成立に争いのない甲第四号証の二一、原告達夫、被告加藤各本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告達夫と被告加藤はいずれも関西日産化学の従業員であり、同時に同社の従業員有志で結成されている野球部の部員であつたが、両者の間に、それ以上の交際関係があつたわけではないこと、本件事故当日原告達夫および被告加藤を含む同野球部員らは、三軒家公園グランドで開かれた大正区野球連盟主催の野球大会に出場したのち、入浴のため会社まで戻ることになつたが、当日たまたま被告加藤を含め三名の部員が自家用車を運転してきていたことから、これら三台の乗用車に分乗していくこととし、原告達夫も他三名の同僚とともに被告加藤運転の乙車に無償同乗させてもらつたこと、ところで、本件事故当時同野球部には約一五名の部員がおり、そのうち四名が乗用車を所有していたことから、遠方まで試合に出かけるような場合には、時折このように同僚の自家用車に分乗していくこともあつたこと、しかしながら、普段の練習や大部分の対外試合等はいずれも市内で行なわれていたため、原告達夫が乙車に同乗したのは今回が最初のことであつたことが、それぞれ認められ(ただし、原告達夫が乙車の好意同乗者であつたことは、原告らと被告加藤に争いがない。)、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実に、本件事故の態様、原告達夫の傷害の部位、程度、入・通院期間および後遺障害の内容、程度等諸般の事情を考え合わせると、原告達夫が被告三菱興業、同松本に対して請求しうる慰藉料額は七五〇万円、被告加藤に対して請求しうる慰藉料額はその三割を減じた五二五万円とするのが相当である。
なお、原告ムツエ、同有輝枝、同誠一、同秀雄は、原告達夫の受傷による近親者固有の慰藉料を請求しているが、第三者の不法行為によつて身体を害された者の配偶者および子は、そのために被害者が生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたときにかぎり、自己の権利として慰藉料を請求できる(最高裁昭和四〇年(オ)第一三〇八号、同四二年六月一三日第三小法廷判決、民集二一巻六号一四四七頁)ものと解されるところ、既に認定した原告達夫の傷害の部位・程度およびその後の治療経過ならびに後遺障害の内容・程度からみれば、その配偶者および子において、相当程度の精神的打撃を被つたであろうことは推測するに難くないが、いまだ自己の権利として慰藉料を請求できる程度の精神上の苦痛を受けたものとまでは認められないから、右原告らの請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないというべきである。
四 過失相殺について
前記一で認定した本件事故の状況によれば、被告加藤にも制限速度違反の過失が認められ、右過失が本件事故発生の一因となつたことは否定できないところである。しかしながら、前記認定の本件事故現場の道路状況、事故発生に至る経緯および事故状況に右速度違反の程度、態様および前記認定の原告達夫が乙車に同乗するに至つた事情を総合勘案すれば、原告達夫に被告加藤の右速度違反行為を積極的に制止すべきことを要求することは酷であると考えられるから、原告達夫が右速度違反行為を制止しなかつたからといつて、同人に過失ないし不注意があつたということはできず、従つて、これを理由とする過失相殺も許されないというべきである。
五 損害の填補
原告達夫が、自賠責保険より合計一四五四万円の支払を受けたことは、原告らの自認するところである(ただし、右の事実は原告らと被告加藤間に争いがない。)。そうすると、原告達夫の前記損害額から右填補分を差引くと、同人の被告三菱興業、同松本に対する残損害額は一八一一万二二七五円、被告加藤に対するそれは一五八六万二二七五円となる。
六 弁護士費用 被告三菱興業、同松本に対し一〇〇万円、被告加藤に対し八〇万円
本件事案の内容、審理経過、請求額および認容額に照らすと、原告達夫が本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、被告三菱興業、同松本に対し一〇〇万円、被告加藤に対し八〇万円と認めるのが相当である。
七 結論
よつて、原告達夫に対し、被告三菱興業、同松本は各自、一九一一万二二七五円および弁護士費用を除くうち一八一一万二二七五円に対する本件不法行為の日である昭和五〇年九月二一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、被告加藤は一六六六万二二七五円および弁護士費用を除くうち一五八六万二二七五円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告達夫の本訴請求は右の限度で正当であるから認容し、その余の請求および原告ムツエ、同有輝枝、同誠一、同秀雄の請求はいずれも理由がなく失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 富澤達 柳澤昇 窪田もとむ)