大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)6183号 判決 1979年10月17日
原告 エーザイ株式会社
被告 澤井製薬株式会社
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一申立
(原告)
1 被告は、別紙目録(一)記載の方法により、dl―α―トコフエロールニコチン酸エステルを製造し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のために展示してはならない。
2 被告は、前項記載の方法により製造したdl―α―トコフエロールニコチン酸エステルを含有する製剤品「ケントンNカプセル」を製造し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のために展示してはならない。
3 被告は、第一項記載の方法により製造したdl―α―トコフエロールニコチン酸エステル、これを含有する製剤品「ケントンNカプセル」及びその半製品、ならびに「ケントンNカプセル」の記載のあるパンフレツト、能書、ラベル等の印刷物及び包装箱を廃棄しなければならない。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言。
(被告)
主文同旨
第二原告の請求原因
一 原告の有する特許権
(一) 原告は次の特許権(本件特許権)を有している。
発明の名称 ビタミンEニコチン酸エステルの製法
出願日 昭和三六年七月一五日(特願昭三六―二四七五四)
公告日 昭和三九年一一月六日(特公昭三九―二四九六八)
登録日 昭和四〇年六月一〇日(第四四七九三七号)
特許請求の範囲 ビタミンEにニコチン酸またはその反応性酸誘導体を反応させることを特徴とするビタミンE・ニコチン酸エステルの製法
(二) 本件特許発明は右特許請求の範囲から明らかなとおり、ビタミンEニコチン酸エステルを生産する方法の発明である。
右ビタミンEニコチン酸エステルは、化学構造式で表わされる物質であつて、ビタミンEのうちdl―α―トコフエロールを原料として使用した場合に生成されるdl―α―トコフエロールニコチン酸エステル(本件では以下主としてこれをVENと略称する)は、その代表的態様例である。
そして、その目的物ビタミンEニコチン酸エステルは本件特許発明者により創製された新規物質で、本件特許出願前に日本国内において公然知られた物質ではなかつた。
二 被告の本件特許権侵害行為
(一) 被告は昭和五二年二月初旬から引き続き業としてVENを製造し、これを含有する製剤品「ケントンNカプセル」を販売、拡布している。
(二) しかるところ、本件特許発明の目的物質であるビタミンEニコチン酸エステル、したがつてその代表的態様例である被告製造販売にかかるVEN(以下、単に被告のVENという)が本件特許出願前に日本国内において公然知られたものではない新規物質であることは前記のとおりであるから、右VENはほかでもない本件特許発明の方法によつて生産されたものと推定される(特許法一〇四条)。
(三) したがつて、被告のVEN製造方法は本件特許の技術的範囲に属する。
(四) そうすると、被告の前記行為はいずれも原告の本件特許権を侵害するものである。
三 結論
よつて、原告は被告に対し請求の趣旨(申立)1ないし3項のとおり本件特許権侵害の差止を求める。
第三被告の認否
原告の請求原因一項の(一)は認める。(二)の第一、第二文は認めるが、第三文は不知。
同二項の(一)は認める。ただし、被告のVENは本件特許発明方法における目的物質とは別異の物質である。すなわち、本件発明の詳細な説明(本件特許公報甲第二号証参照)によると、本件特許によつて生産されるVENは柴外線吸収スペクトルにおいて吸収強度(1%E1cm)五三・八を示すものである。これに対し、被告のVENのE値は八六・二または八八・〇を示すものであり、両者を同一物質ということはできない(乙第二〇号証)。このように被告のVENはそもそも原告の本件特許発明方法の目的物質と異なるのであるから、被告が本件特許権を侵害するということはありえないことである。
以上の点について、被告は、当初被告のVENが本件特許の目的物質と同一のものであることを認めたのであるが、右自白は錯誤に基づくものであり、かつ事実に反するからこれを撤回する。
同項の(二)ないし(四)は争う。
第四被告の主張
一(一) かりに被告のVENが本件特許発明の目的物質と同一であり、かつVENが原告が主張するような新規物質であるとしても、被告が現に実施しているVEN製造方法は別紙目録(二)(イ)のとおりであり、いまこれを本件特許公報記載の実施例に対応してさらに具体的な好ましい実施態様として開示すると同目録(二)(ロ)のとおりである(以下、この製造方法を、便宜、新法という)。このように被告は自ら被告のVEN製造方法を開示特定し、かつ右方法を現に実施していることについて立証できたので、被告のVEN製造方法については、いずれにしても特許法一〇四条の推定は覆えされている。
(二) 被告が新法を確立し、実施するにいたつた経過は次のとおりである。なお、被告のVEN製造販売は、具体的には、まず訴外株式会社市川化学研究所(東大阪市渋川町一丁目九番一一号所在)に製造指示書を発してVENの粗製品を製造させ、これを自社で精製し製剤化し、商品名「ケントンNカプセル」として販売するという方法をとつている。以下、右訴外会社を市川化学という。
(1) (昭和五一年九月研究着手、同五二年二月a法の開発と旧旧法によるVENの製造開始)
被告はVENの工業的製造法を確立すべく、昭和五一年九月頃から研究を開始し、ケミストリー・レターズ(CHEMI-STRY LETTERS)一九七五年、No.一〇第一〇四五―一〇四八頁(昭和五〇年一〇月五日発行)(乙第一六号証)の論文、すなわち、次の反応式に従つて、一―メチル―二―ハロピリジニウム塩(I)とカルボン酸とを塩基の存在下反応せしめてピリジニウム塩(II)となし、次いでこれにアルコール類を作用せしめてカルボン酸エステル(IV)を製造する反応を利用して、VENを製造できないかどうか研究を行つた。
かくして、被告は、前記一―メチル―二―ハロピリジニウム塩(I)として一―メチル―二―ブロモピリジニウムアイオダイドを使用し、これとdl―α―トコフエロール、ニコチン酸及びトリエチルアミンを反応させれば、殆んど常温で反応が進行して、収率よくVENすなわちdl―α―トコフエロールニコチン酸エステルが得られることを見出し、この方法(a法)を昭和五二年二月一〇日特願昭五二―一三七七二として特許出願した(乙第一七号証)。
ところが、前記a法には工業化上次のような難点があつた。
<1> 一―メチル―二―ブロモピリジニウムアイオダイドを製造するための原料であるヨウ化メチルが高価である。
<2> 目的生成物の精製に大量のベンゼン、エーテル、n―ヘキサン等を使用するカラムクロマトグラフイーを行わなければならない。
(なお、被告はこの頃すなわち昭和五二年二月初旬からVENの製造販売を始めたのであるが――この頃の被告の製造方法を旧旧法という――、旧旧法は現に実施しておらず、また旧旧法によるVENの在庫もないから、被告としては本件で旧旧法を具体的に開示する必要はない。)
(2) (昭和五二年一一月b法とc法の開発)
そこで、被告は、右a法のヨウ化メチルに代えて、工業的安価に入手できるトルエンスルホン酸メチル又はジメチル硫酸を使用して、一―メチル―二―ブロモピリジニウムトシレート又は一―メチル―二―クロルピリジニウムメチルサルフエートを製造し、これをa法の一―メチル―二―ブロモピリジニウムアイオダイドの代りに使用する方法を検討し、次の結果を得た。
トルエンスルホン酸メチル法(b法)
二―ブロモピリジンとトルエンスルホン酸メチルとから一―メチル―二―ブロモピリジニウムトシレートを得る工程はほぼ良好に進行するが、これを使用してエステル化を行う工程の収率がやや低い難点がある。
ジメチル硫酸法(c法)
<1> 二―クロルピリジンとジメチル硫酸とから一―メチル―二―クロルピリジニウムメチルサルフエートを得る工程は簡単な操作で収率もほぼ定量的に進行し、しかも得られた一―メチル―二―クロルピリジニウムメチルサンフエートは一旦結晶として取り出すことなく、反応液のままエステル化の原料として使用できる利点がある。
<2> エステル化工程の溶媒として不燃性のジクロルエタンを使用することができる。
<3> 反応液はトリエチルアミン塩酸塩を濾別し、濾液よりジクロルエタンを回収し、残渣にn―ヘキサンを加えて攪拌すれば、副生物のn―メチルピリドン及び着色性の不純物が沈澱し、目的物のdl―α―トコフエロールニコチン酸エステルすなわちVENのみがn―ヘキサン層に移行するので精製操作が簡単である。
そこで、被告は、右b法及びc法について、昭和五二年一一月七日特願昭五二―一三三九八九として特許出願した(乙第一八号証の一及び二)。
(3) (昭和五三年一月初旬旧法によるVENの製造開始)
そして、被告は右c法(これは前記乙第一八号証の一、出願発明の詳細な説明欄記載の実施例1の方法にほかならない。)について「製造指示書」(乙第一号証)を作成し、昭和五二年一一月中旬市川化学に右c法の工業化と該法によるVENの粗製品の納入を依頼した。
その結果、市川化学は昭和五二年一二月頃その工業化を確立し、翌五三年一月から本格的な製造を行い(その製造記録が乙第四号証である。)、粗製VENをその都度被告に納品するようになつた。
このc法の実施例1に由来する方法が被告の旧法で、これを開示特定すると別紙目録(三)の(イ)(ロ)記載のとおりとなる。
(4) (昭和五三年六月新法によるVENの製造開始)
しかし、市川化学において旧法を実施している間に、現場から旧法には次の難点があることが指摘された(昭和五三年三月初旬)。
<1> 原料として毒性の強いジメチル硫酸を使用するため危険であるので、これをジエチル硫酸に代えられないか。
<2> 分離精製工程で、可燃性のn―ヘキサンを大量に使用するので危険であると共に、回収したn―ヘキサン中にジクロルエタンが含まれているので、循環使用できないので不経済である。
そこで、被告と市川化学は共同してその改良実験を行い(乙第一一号証及び乙第一二号証)、昭和五三年五月下旬に新法を確立して、昭和五三年六月一日「VEN製造(新法)指示書」(乙第一三号証)を作成し、同年六月五日より新法によるVENの製造を開始した(その製造記録が乙第一四号証、乙第二四号証の一ないし八である)。
右新法はいわばC改良法ともいうべきもので、旧法の一―メチル―二―クロルピリジニウムメチルサルフエートの代りに一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエートを使用する点、及び一、二―ジクロルエタンを使用せず、代りにトリエチルアミンを溶媒として使用する点において相違するのみであり、両者は技術思想としては同一である。すなわち、新法は前記乙第一八号証の一の出願発明の実施例として記載されてはいないが、右発明の特許請求の範囲には該当する方法と位置づけることができる。
このように、被告新法は化合物を製造する場合一般に経由する過程、すなわち、基礎実験→工業化の検討→工業化→改良実験→改良法の工業化なる自然の経過を経ているものである。
二 しかして、被告の実施している右新法が本件特許の技術的範囲に属さない別異の方法であることは明白である。すなわち、
(1) (特許方法)
本件特許請求の範囲の記載によれば、特許方法は、出発原料としてニコチン酸(II―a)を使用する方法(以下特許方法aという)とニコチン酸の反応性誘導体(II―b)を使用する方法(以下特許方法bという)の二つの方法に分けることができる。
そして、これらは次の反応式で示される(なお、以下dl―α―トコフエロールはR―OHと略して示す。)。
<1> 特許方法a
R-OH
(I)
+
(II-a)
―→
(III)
dl―α―トコフエロール(I)にニコチン酸(II―a)を反応せしめて、dl―α―トコフエロールニコチン酸エステル(III)すなわちVENを製造する。
<2> 特許方法b
R-OH
(I)
+
の反応性誘導体
(II-a)
―→
(III)
dl―α―トコフエロール(I)にニコチン酸の反応性誘導体(II―b)を反応せしめてdl―α―トコフエロールニコチン酸エステル(III)すなわちVENを製造する。
(2) (被告新法)
これに対し、被告新法は次の反応式で示される。
R-OH
(I)
+
(II-a)
+
(IV)
+2・(C2H5)3N
(V)
―→
(III)
+
(VI)
(C2H5)3N・HCl
(VII)
+
(C2H5)3N・C2H5SO4H
(VIII)
dl―α―トコフエロール(I)、ニコチン酸(II―a)、一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエート(IV)及びトリエチルアミン(V)を反応せしめてdl―α―トコフエロールニコチン酸エステル(III)すなわちVENを製造する。
(3) (被告新法と特許方法aとの対比)
両者を対比するに、特許方法aはdl―α―トコフエロール(I)とニコチン酸(II―a)を単に反応せしめる方法であるのに対し、被告新法は前記二つの原料〔(I)及び(II―a)の化合物〕の他に一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエート(IV)及びトリエチルアミン(V)を原料として使用する点において相違する。
そして、被告新法においては、前記(IV)及び(V)の化合物が存在しないとdl―α―トコフエロールニコチン酸エステル(III)すなわちVENは得られないものであるから(乙第七号証)、これらは被告新法においては必須不可欠のものである。そして、一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエート(IV)は反応の結果N―エチルピリドン(VI)に変化するものであるから単なる触媒でもない。
以上のとおり、被告新法と特許方法aとは原料において全く相違するものであるから、被告方法は特許方法aの技術的範囲に属するものではない。
(4) (被告新法と特許方法bとの対比)
両者を対比するに、特許方法bは原料としてニコチン酸の反応性誘導体(II―b)を使用しているのに対し、被告新法はニコチン酸(II―a)を使用している点において相違する。
そして、特許方法bにおける反応性誘導体とは、本件特許公報第一頁左欄、下から第六~三行に記載のとおり、ニコチン酸クロライド(実施例1)又は、無水ニコチン酸(実施例2)であるところ、被告新法ではこのようなニコチン酸の反応性誘導体は使用しないから、両者は明らかに別異の方法であり、被告新法は特許方法bの技術的範囲に属するものではない。
(5) (結論)
以上のとおり、被告新法は本件特許出願当時知られていなかつた新規なエステル化法であり(乙第一五号証参照)、もとより本件特許の技術的範囲に属さない。
第五原告の反論
一 まず、被告の第三項における自白の撤回には異議がある。
被告の右自白の撤回は本訴提起後一年半も経つてからなされたもので、訴訟遅延を企図するものというほかない。後述するとおり、被告は本訴提起後被告方法なるものを開示すると称して、その主張を転々させ、これに対応する証拠を作成してきたが、その証拠自体不合理なものであり、かつ主張とも一致しないことが明らかになつてきた。自白の撤回はこのような情況の下で突如なされたのである。
被告のVENが本件特許の目的物質と同一であることは明らかであるから被告の自白はなんら真実に反していない。また、もともと被告は本件応訴を斯界の専門家である弁護士、弁理士に委任しているのであつて、その主張について錯誤があつたなどということは考え難い。
二 被告の開示する新法なるものはなんら現実に実施されているものではないから、被告は本件につき特許法一〇四条(推定規定)の適用を免れない。
(一) 被告開示のVEN製造方法は主張自体不合理である。
1 被告の主張によると、被告は昭和五二年二月以来VENの製造を始めたのであるが、その方法はその後短期間の間に旧旧法から旧法(昭和五三年一月)、新法(昭和五三年六月)へと三転したことになり、しかも旧旧法については理由を構えてその開示すら拒否している。右方法の変遷と本訴が昭和五二年一一月一日に提起されたことを併せて考えると、被告のこのような主張は本訴で敗訴することを免れるために意図的になされたものというほかない。
2 ことに旧法から新法に変えた理由は不明であり、かつ不合理であつて、はたしてこれらの主張が真実を述べたものかどうか極めて疑問である。被告が右変更理由として述べる旧法の難点二点(第四の一(二)(4)項の<1>と<2>)は当業者であれば何人も十分知つている事柄であつて、これを今更のように昭和五三年三月市川化学の粗VEN製造現場から指摘されて知つたと主張する部分は不自然極まりない。
(二) 被告がいうところの旧法なり新法なりをげんに実施していることを裏付ける資料として提出した書証は現実に実施している方法の過程足跡を記録したものではないから証拠価値がない。すなわち、市川化学作成の粗VEN製造記録である乙第三号証(旧法関係)、同第一四号証、第二四号証の一ないし八(以上新法関係)はいずれも要所をタイプ打ちしたもので、このような体裁からしてもおよそ化学物質の製造記録といえるものではない。この点について、市川化学は次のように弁明している。すなわち、市川化学にはVEN製造のための作業標準書もなく、製造過程で逐次記録する製造記録も作成せず、通常担当者がメモの形で記録するだけで固定したフオームを用いない。また、前掲各書証は右メモを後日整備しタイプ打ちしたものである、と(乙第九号証)。そうすると、前掲各書証は真の製造記録ではなく、裁判所に提出するために意図的に作成されたものである。
(三) のみならず、前掲各書証等の記載内容自体をみても不自然、不合理または実施不可能な事柄が記載されている(甲第一五号証)。
1 旧法によるVEN製造記録(乙第三号証)について
(1) まず、ここにはVENの収得量について事実としてありえないことが記載されている。すなわち、
乙第三号証最終頁に、「VEN二五四・一kg」、「純分八八・三%」と記載されているところ、これらの数値からはこの「製造記録」に記載された作業によつて収得される純VENの量は二五四・一kg×〇・八八三すなわち二二四・四kgになつているはずで、この量のVENの油状物としての体積は二二四・〇lである(甲第九号証の一。一頁)。
一方、右「製造記録」によれば、エステル化反応の反応混合物から溶媒ジクロルエタンを除いて得られた生成物の量は約八〇lであることとなるところ、この「製造記録」に記載された作業によつて、最終的に取得されるVENは、すべて右のエステル化反応の生成物中に含まれているものであるから、当然にその量は八〇l以下であるはずである。しかるに、この「製造記録」によれば、前述のごとくエステル化反応生成物の量八〇lより、はるかに多量の二二四・〇lというエステルが最終工程で取得されたことになつている(甲第九号証の一。一、二頁)。
(2) 次に、乙第三号証の最終頁二月一五日の欄に「温度九〇度、圧力一〇mmHg脱臭終了」と記されており、備考欄に「純分八八・三%」と記されている。この操作は、VEN中に残留している少量のn―ヘキサンを除去して、そのn―ヘキサンの臭気を除こうとするものであるが、n―ヘキサンは常圧においても温度が七〇度を越せば、ほとんど完全に溜去されるものである。したがつて、純分八八・三%程度の粗製VENを得るための条件として、「温度九〇度、圧力一〇mmHg」などという条件はあり得ないはずである。しかるに、乙第三号証では、かかるあり得ない条件で脱臭操作を行つたとして記載されている(甲第九号証の一。三頁)。
しかも、右「製造記録」には、「温度九〇度、圧力一〇mmHg」の操作で得られたVENについて、「純分八八・三%」と記載されている。前述のようにn―ヘキサンは常圧においても七〇度を越せば、ほとんど完全に溜去されるものであるから、右の如き操作を行つたとすれば、得られたVENにはほとんどn―ヘキサンは含まれていないことになるから、純分の数値は一〇〇%に近い値を示すはずであり、したがつて「純分八八・三%」などという粗製品は得られるはずがないのである。
(3) 乙第三号証が真実の記録でないことは、乙第五号証一ないし四(ニコチン酸トコフエロール精製作業日報)によつても裏付けられる。すなわち、右乙第五号証の一ないし四の仕込工程の欄には、いずれも「VEN含量八八・三%LotNo.VEN―一〇二」の記載が見られるところ、右仕込工程の欄の「VEN」は、前述の乙第三号証の「製造記録」で得られたことになつている「VEN」である。ところで、乙第三号証に記載されている「VEN」は、前記(2)で述べたように、すでに一〇mmHgという減圧条件でn―ヘキサンを溜去し脱臭終了していることとなつているのであるから、乙第五号証の一ないし四の蒸溜工程で右の減圧条件よりはるかに弱い一〇~一五倍の真空度「一〇〇―一五〇mmHg」で、さらに蒸留操作を行つてもその操作自体まつたく意味のないことを行つていることになる。しかも、乙第三号証において一〇mmHg条件下の強い真空度で蒸留操作を行つて純分八八・三%の数値を示している「VEN」が、乙第五号証の一ないし四でそれよりはるかに弱い真空度の一〇〇~一五〇mmHgの条件下で、突然に、純分(ニコチン酸トコフエロール含量)九七・二~九七・六%という数値を示す「VEN」になるということは、不合理も甚だしい(甲第九号証の一。三、四頁)。
2 新法によるVEN製造指示書(乙第一三号証)及びその製造記録(乙第一四号証)について
乙第一三号証に記載された方法は、実施不可能な方法であることが判明している。
すなわち、右乙第一三号証に記載された「新法」の製造工程を追試していくと「一%苛性ソーダ液三〇〇lで三回洗滌し」の工程(同号証本文二頁二、三行)において、まつたく実施不可能な状態に至ることが判明した(甲第一〇号証の一)。これを詳細に述べると、右の工程の直前の段階で得られた「上層液」(上層のVENトリエチルアミン溶液、乙第一三号証本文一頁末行~二頁一行)に、前記の工程に従つて一%苛性ソーダ液を加えると全体が乳濁状態となり、この乳濁状態の液状物質は静置しても二液層に分離せず、目的とする洗滌を行うことがまつたく不可能な状態となることがわかつた(甲第一〇号証の一。二頁)。したがつて、右工程以降の操作はこれを行い得ない。
同様にして、乙第一三号証をうけた乙第一四号証も実施不可能な方法をあたかも可能であるかのように記載したもので、裁判所提出の目的のためにのみ机上で案出作成された書証であること明白である。
3 同じく新法によるVEN製造記録(乙第二四号証の一ないし八)について
(1) まず、乙第二四号証の一ないし八は市川化学が「新法」により粗製VENを製造した記録として提出されたものであるところ、右「製造記録」においては、被告のいう「新法」におけるn―ヘキサンによる抽出操作は何等記載されておらず、これに代えてD・C・E(註、ジクロルエタンの略称)による抽出操作が行われたこととして記載されている。
したがつて、乙第二四号証の一ないし八は、まず、右の点において、すでに被告のいう「新法」の実施の記録でない。
(2) のみならず、乙第二四号証の一ないし八も、現実に実施した記録ではなく、被告が事実に基づかず、机上で意図的に作成したものであること明らかである(甲一五号証)。
イ 右書証も乙第一四号証と同じように乙第一三号証(製造指示書)をうけて作成された新法によるVEN製造記録ということであるが、右指示書の内容に実施不能な事柄があることは前記のとおりである。したがつて、乙第二四号証の一ないし八もまた机上で案出作成されたものである。
ロ また、乙第二四号証の一ないし八には現実にはありえない不自然かつ不合理な事柄が記載されている。すなわち、
<1> 個々の作業の所要時間が製造規模と無関係に一定の時間となつており、しかも、作業の開始時刻、終了時刻も奇妙に一致している(甲第一号証の一、三頁六行~四頁二行)。
<2> 粗VENの純分の数値が、右粗VENを得た最終工程の「脱臭終り」の記載と矛盾している(甲第一一号証の一。四頁三行~同頁二二行)。
<3> 粗VENの収量の数値は、乙第二四号証の一ないし八の作成者が、まずVEN純収量の数値を机上で設定し、そのVEN純収量の数値から作出したものである(甲第一一号証の一。四頁下から三行~六頁一七行)。
4 補論
(1) なお、被告は、被告が旧法、新法を現実に実施していることを裏付ける事実として、市川化学が右方法の実施に必要な二―クロルピリジンを大量に購入している点を挙げているが(後記第六の(三))、右物質はなにも被告主張のVEN製造にのみ必要なものではないから、被告の右主張は首肯できない。右物質は抗ヒスタミン剤、殺菌剤、殺虫剤、農薬などの製造原料としても使用されるものである。
(2) また、被告は、被告のVENを分析したところ新法でなければ検出しないような徴標物質が検出した旨主張している(後記第六の(四))。しかし、被告のいう徴標物質なるものはいずれも人為的に容易に添加できるものであるから、徴標物質としての適性を欠くし、また、原告側が同じ手法の実験をしてみたところ、所論の徴標物質なるもの(N―エチルピリドンと二―クロルピリジン)を本来含有していない試料についてもあたかも右物質を含有している場合と同じような結果が出た(甲第一四号証)。したがつて、被告の試みた実験はなんら右徴標物質なるものの存在を証明するものではない。
三 かりに被告が自ら開示した新法を現に実施しているとしても、右新法なるものは本件特許の技術的範囲に属している。すなわち、新法は原料物質であるdl―α―トコフエロール(ビタミンE)とニコチン酸とを反応させて目的物質VEN(ビタミンEニコチン酸エステル)を生成するものであるから、これはまさに本件特許の特許請求の範囲に記載されている「ビタミンEにニコチン酸を反応させる」という要件をそのまま具備している(被告が第四の三(1)<1>でいう本件特許方法a参照)。
被告は、新法には原料物質として第三、第四の物質(一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエートとトリエチルアミン)が使用されている点を理由として新法は本件特許方法と異なる旨主張しているけれども、右第三、第四物質は目的物質たるVENの化学構造を構成する要素とはならない物質で、ただdl―α―トコフエロールとニコチン酸とが反応するさいにその進行を助けるだけの物質(縮合剤とか溶媒とか)であつて、原料ではないから、右の主張は失当である。また、被告は、新法は本件特許出願当時知られていなかつたエステル化法であることをも自己の主張の根拠としているが、そのような点は理由とすることはできないのであつて、ここで問題とすべきは、新法が本件特許発明の要件を具備しているか否かである。
第六被告の再反論(原告の第五の反論に対して)
原告は、被告の開示した方法があたかも架空のものであるかのように主張しているが、そのようなことはない。被告方法の変遷が化学物質の製造過程としては極めて自然な経過であることはすでに述べたとおりである。
(一) 被告が旧法の難点二点を克服し、これを改良した新法に変えた点には原告が主張するような不合理性はない。
第一に、被告においても右の二つの点は旧法の確立当初から認識していたところであるが、これが工場レベルで実施に移された場合の問題性についての認識はなく、合成専門業者である市川化学から報告を受けてはじめてこの改良の必要性を認識痛感したものである。第二に、右のような改良の必要性の認識とこの改良法を確立することとは別個の事柄であつて右改良法の確立は前記のごとき経過を経てはじめてなしえたものなのである。
(二) 市川化学に原告主張のような作業標準書がなく、その都度記載するような製造記録なるものもないことは事実である。しかし、原告の指摘は大企業の大工場については合理性ある言い分かもしれないが市川化学ていどの会社についてはあてはまらない議論である。すなわち、
市川化学は資本金二、二〇〇万円、昭和五三年度年商約七億五、〇〇〇万円、従業員数二四名うち研究開発部門七名、製造部門一四名である。製造品目はグルコサミン塩酸塩、イノシトールヘキサニコチネート、有機フツソ化合物、その他医薬品及びマイクロフアインケミカル製品であるが、従業員数・年商等と対比すればかなり多岐にわたる品目を手がけている(乙第二一号証ないし第二三号証)。
このていどの従業員数及び人員構成からすれば、新規化学品の製造においては、研究開発部門の実験担当者が直接製造現場に入り、そのメモ等によりながら現場担当者と協議して生産にあたるのが普通であり、研究開発部門において作業標準書なる書類をあえて作成し生産現場の他の従業員がこれに基づき生産にあたるというがごとき大工場における分業体制はとらない。かえつて、多岐にわたる製造品目につき、予め一定の製造記録用紙を準備して生産に入るという体制をとることは実務上不適切であり、新規製品については最良の結果が得られるような現場データが確立し固定したフオームによる製造記録用紙が作成されるまでの間は、まず製造メモの形で記録するのがより実際に適しているのである。
(三) 市川化学は、新法、旧法の実施には必要で本件特許方法の実施には不要の原料物質二―クロルピリジンを多量に調達購入している。すなわち、昭和五二年一二月五日(旧法確立当時)から同五三年九月一八日までの間に四回にわたり合計一二〇〇キログラム(乙第一九号証の一ないし四)、同五四年一月一一日に四〇〇キログラム(同第二五号証の一)、同年二月二日に二〇〇キログラム(同号証の二)の二―クロルピリジンを仕入れている。
ところで、右昭和五四年初期の合計六〇〇キログラムの二―クロルピリジンは計算上約二二〇〇キログラムの粗製VENを製造できる量である。そして、実際に、市川化学は昭和五四年一月三一日から同年三月まで、新法によりロツト番号VEN二二五~二三二の八ロツトで合計二、一七五kgの粗製dl―α―トコフエロールニコチン酸エステルを製造し(乙第二四号証の一ないし八)被告に納品しており、これは前記の計算に符号している。
原告は、二―クロルピリジンは他にも用途があると主張しているが、市川化学はこれを被告のVEN製造以外に使用したことはない(乙第二三号証)。
(四) 新法においては、原料として一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエートを使用するが、この化合物は反応の結果N―エチルピリドンに変化する(乙第一一号証、同一六号証)。また右の一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエートは、二―クロルピリジンを原料として製造される化合物であるから(乙第一三号証)、新法によつて製造されたdl―α―トコフエロールニコチン酸エステルの原末中には、(イ)原料たる一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエートに未反応物質として残留している二―クロルピリジン、及び(ロ)新法の反応そのものの副生物たるN―エチルピリドンが微量含有されていることが当然予測される。したがつて、右二物質は新法の徴標物質であるといいうる。
しかるところ、新法で生産した粗VENの各精製原末とこれから製造したケントンNカプセルにつき、前記徴標物質(二―クロルピリジン及びN―エチルピリドン)の含有量を定量したところ、いずれの原末にも右二物質が確認され、またケントンNカプセル中にもN―エチルピリドンはいずれにも確認され、二―クロルピリジンは一検体を除くほか、すべてに確認された(乙第二七号証)。
第七証拠<省略>
理由
一 請求原因一項の(一)(原告が本件特許の権利者であること)及び(二)の第一、第二文(本件特許がビタミンEニコチン酸エステルを生産する方法発明であること、及びVENすなわちdl―α―トコフエロールニコチン酸エステルが本件特許の目的物質の代表的態様例であること)は当事者間に争いがない。
証人貴島静正の証言により真正に成立したと認める甲第七号証に右証言を総合すると、本件特許発明方法の目的物質であるビタミンEニコチン酸エステルは本件特許出願前日本国内において公然知られたものでなかつたことすなわち新規物質であつたことが認められ、他に反証はない。
次に、被告が市川化学に依頼してその粗製品を製造させ、自社において精製している被告のVENが本件特許発明方法の目的物質と同一であることも当事者間に争いがない。被告はのちに右自白を撤回し、両者は同一でない旨主張しているが、右主張が真実であるとの確証がないから、右自白の撤回は許されない。かえつて、被告の右主張は、本件特許明細書の実施例の記載中に、得られたビタミンEニコチン酸エステルの性質として「
E
1%
1cm
=53.8(264mμ)
」とあるが、被告のVENのE値はこれと異なるという点に根拠を置くものであるところ(成立に争いない甲第二号証本件特許公報二欄二二行目と三九行目参照)、前掲証人貴島静正の証言によると、本件特許明細書記載のE値(紫外線吸収スペクトルの吸収強度)は得られた物質につきクロマトグラフイーを行ない精製する前のE値を誤つて記載したものにほかならないこと、正確には被告のVENのE値86.2または88.0(乙第二〇号証参照)と同程度であることが認められる。
そうすると、被告のVENは本件特許発明の方法によつて製造されたものと推定することができる(特許法一〇四条)。
二 しかるところ、被告は、現に実施している自社のVEN製造方法を開示特定し(別紙目録(二)(イ)(ロ)記載のいわゆる新法)、右新法を行つていることも立証したから前記法条による推定は覆えされた旨主張するのに対し、原告は、右新法は被告が本訴での敗訴を免れるため机上で考えたものにすぎず、被告は実際にはなんら新法を実施していない旨及びもともと新法は実施不能である旨主張しているので、以下、新法は実施可能であるか否か、また被告が現に新法を実施しているか否かについて検討する(なお、ここで摘示する甲、乙各号証のうち相手方によつてその真正成立を不知とこたえられたものについてはすべてその様式体裁と弁論の全趣旨に照らし真正に成立したと認めたものである。)。
(一) 当裁判所は、以下に認められる事実を彼此総合すると被告はおおむねその主張のような研究開発経過を経て昭和五三年六月頃新法によるVENの製造を開始し現在にいたつており、もとより右新法は実施可能であつて、このような被告の新法にいたるVEN製造方法の研究開発過程は一つの化合物質の生産方法を工業化する過程の事例として十分首肯することのできるものであると考える。
すなわち、本件においては次のような事実が証拠によつて、または当裁判所に顕著な事実として認められる。
1 (被告のVEN製造方法研究開始について)
<イ> 原告の本件特許の出願公告後である昭和五〇年一〇月発行にかかるケミストリイ・レターズ(一九七五年一〇号 PP.1045~1048 社団法人日本化学会が外国向けに発行する英文の化学研究雑誌)所収の東京大学ムカイヤマテルアキ他の論文「カルボン酸エステルの合成のための便利な方法」によると、新規なカルボン酸とアルコール(フエノール)とのエステル合成法として一―メチル―二―ハロピリジニウム塩の触媒的作用と塩基性物質(トリ―n―ブチルアミン)の縮合促進剤的作用とを利用する方法が可能であること(事実欄第四被告の主張一(二)(1)に記載の反応式参照)、及び右方法の特徴は<a>カルボン酸を反応性酸誘導体に変えることなく、直接アルコールと等モル反応によつてエステル合成が可能であること、<b>一般に収率が良好であること、<c>立体障害のあるカルボン酸あるいはアルコール(フエノール)からのエステル合成にも適用できること等の点にあることが報告されており(乙第一六号証の一)、右東大論文の内容は権威あるものとして信用できるものである。
<ロ> 被告は昭和五二年二月一〇日「トコフエロール・ニコチン酸エステルの製造法」について特許出願しており(特願昭五二―一三七七二、特開昭五三―一〇一三七八)、これが登録されうるものであるか否かは別として、ここに開示されている実施例1は被告主張のa法にほかならず、これはカルボン酸としてニコチン酸を、フエノールとしてビタミンEを、触媒的物質一―アルキル―二―ハロピリジニウム塩として一―メチル―二―ブロモピリジニウムイオダイドを、塩基性物質としてトリエチルアミンを、溶剤としてジメチルホルムアミドを、それぞれ選択したもので、基本的には前記東大論文の方法と同様のもの(化学的類似方法)である(乙第一七号証)。これによると、被告の研究室では当時VEN製造方法の研究開発をすでに始めており、そのさい右東大論文を利用していることおよびa法は少くとも実験室の段階では実施可能であつたことが容易に推認される(ただし、被告が右a法の工業化を確立したとの確証はない。)。
2 (被告の旧法確立について)
<イ> 被告はさらに昭和五二年一一月七日前記1<ロ>と同名の発明について特許出願をしており(特願昭五二―一三三九八九)、これが登録されうるものであるか否かは別として、その明細書に記載されている実施例1が被告主張のc法にほかならない。そして、右c法はa法におけるヨウ化メチルに代えて工業的に安価に入手できるジメチル硫酸を使用しているほかは基本的にa法と同じ方法であり、したがつて前記東大論文の方法の化学的類似方法に相当するものであり、それゆえc法も実施可能であることが推認されうる(乙第一八号証の一、二)。そして、これをさらに具体化し特定したものが被告主張の旧法にほかならず、その工業的方法の詳細は後記被告会社生産部長作成のVEN製造指示書(乙第一号証)に記載されている。
<ロ> 被告は昭和五二年一一月一〇日付生産部長名義をもつて市川化学宛と思われる旧法による粗VEN製造指示書を作成しており(乙第一号証)、またその頃同名義自社製剤第一課長宛のVEN精製作業標準書も作成している(乙第二号証)。
また、これに対応して、市川化学では昭和五三年二月一〇日から同月一五日までの旧法による粗VEN製造記録が具体的に作成されており(乙第三号証)、また被告でも同年二月二八日から三月三日までのVEN精製作業日報が具体的に作成されている(乙第五号証の一ないし四)。
市川化学は被告に対し昭和五三年六月三日付をもつて旧法による同年二月一〇日から一五日までのVEN製造記録(乙第三号証参照)の詳細報告書を提出しているが、これには旧法による場合には必要であるが本件特許方法では不要な原料が市川化学の工場に存置されている場面やVEN製造場面を写した写真九葉が添付されている(乙第八号証)。
<ハ> 昭和五三年四月七日付をもつて被告会社研究員名義の実験報告書が作成されており、これによると旧法によつて現実にVENが得られたこと、旧法によるVEN製造過程で、dl―α―トコフエロール、ニコチン酸、一―メチル―二―クロルピリジニウムメチルサルフエイト及びトリエチルアミンの四物質は必須の物質であつてこれらの一つを欠くとVENは生成されえないことが実験によつて明らかになつた旨記載されている(乙第七号証)。
3 (被告の新法確立について)
<イ> 市川化学は昭和五三年六月二日付をもつて被告主張の新法によるVEN製造指示書を自ら作成している(乙第一三号証)。
また、これを受けて、市川化学では昭和五三年六月五日から八日までと、昭和五四年一月二二日から三月二三日まで新法によつて粗VENを製造したことを具体的に記載したVEN製造記録を作成している(乙第一四号証と乙第二四号証の一ないし八)。
右新法は旧法の一―メチル―二―クロルピリジニウムメチルサルフエートの代りに一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエートを使用し、同じく旧法の一、二―ジクロルエタンの代りにトリエチルアミンを溶媒として使用するほかは旧法と同様の方法であり、新法は旧法のように前記被告出願にかかる明細書(乙第一八号証の一)の実施例としては記載されてはいないが、もとより右出願発明の特許請求の範囲(クレーム)には属するものであつて、いわば旧法の改良法といいうるものである。
<ロ> ところで、右の事実によると市川化学は被告の指示依頼により旧法によるVEN製造を開始してから僅か半年足らずでその製法を新法に代えたことになるわけであるが、これは、旧法によるときの難点すなわち<a>可燃性溶剤であるn―ヘキサンを大量に使用する点、<b>毒性の強いジメチル硫酸を使用する点、<c>製造過程でn―ヘキサン中に一―二―ジクロルエタンが含まれるため、n―ヘキサンを溶剤として循環使用できない点が実際の生産過程であらためて認識され、その改良が望まれた結果、被告と市川化学が共同で新法を研究開発したことに基くものである(被告側の実験報告書乙第一一号証、市川化学側の経過報告書乙第一二号証)。
<ハ> 市川化学は昭和五二年一二月五日二〇〇キログラム、同五三年二月七日二〇〇キログラム、同年五月一三日四〇〇キログラム、同年九月一八日四〇〇キログラム、同五四年一月一一日四〇〇キログラム、同年二月二日二〇〇キログラムの二―クロルピリジンを光栄商事株式会社から調達購入しているが(乙第一九号証の一ないし四、乙第二五号証の一、二)、右物質は本件特許方法によるVEN製造には不要であるが、被告の旧法、新法によるVEN製造には必須のものである。
<ニ> 「既存化学物質データ要覧」第一巻一般化学品編五―一―一二頁(甲第八号証)によると、右二―クロルピリジンは他の用途として抗ヒスタミン剤、殺菌剤、殺虫剤、農薬の製造に使用されうることが記載されているが、被告は右のうち農薬を除く薬品を製造していないし、農薬については特別注文により一種類だけ製造しているがこれには二―クロルピリジンを使用してはいない(乙第二三号証)。
<ホ> 被告が新法によつて製造したというVEN(ロツト番号二二五ないし二三二のもの。乙第二四号証の一ないし八に対応)の精製原末及びこれを商品化した「ケントンNカプセル」をガスクロマトグラフ質量分析計により定量分析してみると、新法で使用する二―クロルピリジンの未反応残留分(ただし、「ケントンNカプセル」の一検体を除く)及びこれを使用した場合に副生するN―エチルピリドンが検出された(乙第二七号証)。そして、この結果は、必らずしも被告のVEN製造方法が「新法であり、かつ、他の方法ではない」ことまでを証明するものとはいえないとしても(原告の主張第五の二(三)4(2)と甲第一四号証参照)、それが「新法である」ことを示す一つの有力な情況証拠となりうることは否みえないところである。
<ヘ> 新法によつた場合のコストは、現在原告会社が本件特許方法によつてVENを製造している場合のコストに比し、キログラム単位一万円が一万七千円となるていどの余計の出費を要する。しかし、それは製造工程が単純か複雑か等の企業努力による結果であつて、新法による場合に必要な原料が格別に高価で採算が合わないといつたほどのことはない(証人貴島静正の証言)。すなわち、新法によるVEN製造は企業として十分採算にあうものである。
以上のとおりである。
(二) しかしながら、原告はもとより叙上のような帰結には反対で、被告の主張に対し詳細にわたつて反論しているので、次に、原告の主なる反論について検討する。
1 (被告方法の再三にわたる変遷自体の不合理性について)
<イ> 原告が昭和五二年八月被告に対し書面をもつて「被告のVEN製造方法は本件特許権を侵害するものである。」旨警告を発していること(甲第六号証の一、二)、原告の本訴提起が同年一一月一日であること等の経過を被告のVEN製造方法変遷の時期(旧旧法による製造開始が昭和五二年二月、旧法によるそれが同五三年一月、新法によるそれが同年六月)や、本訴でその必要性がないこと被告主張のとおりであるとしても、ともかくも、被告は旧旧法を開示していないこと等とあわせ考えると、被告側の再三にわたるVEN製造方法の変遷は前記のような原告側の動きに何らかの影響を受けた結果であると推論することは一がいに根拠のないものとして捨て去れない点がある。しかし、それがゆえに被告の方法変遷の事実自体を否定することはできない。被告における研究開発実施の変遷経過が一定の合理性を有していることはすでに説示したとおりである。当裁判所としては過去の変遷の動機縁由如何にかかわらず、口頭弁論終結時点における被告の実施方法自体を探究し確定するほかないわけである。
<ロ> 原告は、右の点に関連して、ことに旧法から新法への変遷の不自然さ、不合理さを強調しており、旧法には原告主張のような難点((一)3<ロ>参照)があることはその利用物質の公知の性質からして当業者には周知の事柄に属し被告にもかねてからわかつていたことは被告自身も自認している。しかし、この点については、被告も弁明しているとおり、そのような物質の物性を一般的に認識していることと当該物質を使用して具体的に工業化した段階で具体的にあらためてその難点を再認識し改良の必要性を自覚することとは一応別個の問題である。このことと、被告が前記のような情況下で旧法の確立を急がされたとの推論がもし許されるとすればそのこともあわせ考えると、原告の前記主張は必らずしも当を得たものとはいえないと考える。
2 (乙号証の体裁の不自然さについて)
(一)の事実認定で採用した乙号証のうちことに乙第三号証、第一四号証、第二四号証の一ないし八(いずれも市川化学の旧、新法による粗VEN製造記録)は主としてタイプで打たれており、実際の製造過程でその都度作成されたものでなく、後日作成されたものであること、及び市川化学には作業標準書もないことは被告も自認している。しかし、被告の弁明によると(乙第九号証)、前記製造記録は市川化学の従来の慣行どおり担当者のメモ(これが原告の主張している意味の製造記録に相当する)により後日整備したものであること、市川化学では実験担当者も製造現場に立ち会い直接製造現場担当技術者と協議し、製造にあたつては実験担当者のメモ等と現場技術者の経験によつているのが実情で、詳細なマニユアルを作成指示するようなことは普通しないことが認められ、右の実情は後記のような市川化学の事業規模からしても首肯できる。市川化学は年商七億五千万円(昭和五三年度)であるが、その従業員としては製造部門一四名、研究開発部門七名、事務部門八名を擁するていどの会社である(乙第二一、第二二号証)。
したがつて、前記のような書証の体裁だけをもつてそのVEN製造記録が実際の裏付けのない全く架空机上のものであるとすることは困難である。
3 (乙号証の記載内容自体の不合理さについて)
<イ> 原告の第五の二(三)1の主張関係
乙第三号証(市川化学の旧法によるVEN製造記録)の記載内容を検討してみると、原告が事実欄第五の二(三)1の(1)、(2)、(3)で指摘するように一部に首尾一貫せず、乙第五号証の一ないし四(市川化学で旧法により製造された粗VENを被告が精製したさいの作業日報)とも符合しないように思われる記載が認められる(甲第九号証の一ないし五と貴島証言)。しかし、被告の弁明によると(乙第二八号証)、VEN収得量の記載が前後で異なる結果となつている点はメモを転記したさいの誤記と思われる旨、粗VENから残留n―ヘキサンを除去し臭気を除くさいの温度、圧力条件に関する記載の非合理、矛盾点については、試験的にはたして真空度10mmHgにすると純分九六パーセント以上になるか確認したさいの条件を記載したものであつて、ただ実際に被告に納入すべき粗VENの純分は九〇パーセントていどと指定されていたので、これに再びn―ヘキサンを加え純度を下げ純分八八・三パーセントとしたうえ納品したことに原因する旨それぞれ述べており、これはこれで辻つまが合うこととなり、いずれにしても、右のていどの記載上の不手際または矛盾点の存在によつて乙第三号証の記載全体の信ぴよう性を全面的に否定することはできない。
<ロ> 原告の第五の二(三)2及び3の(2)イの主張関係
原告側で乙第一三号証(新法によるVEN製造指示書)によるVENの生成方法を実験的に追試してみたところ、反応混合物が上下二層に分離した時点で上層液(乙第一三号証でVENトリエチルアミン溶液というもの)のみを分離採取し、指示書の指示のごとく一パーセント苛性ソーダ液を加え洗滌を試みたが液は全体が乳濁状態となり、上下二液層に分離しなかつたため洗滌操作が行えなかつた(甲第一〇号証の一、第一二号証)。そこで、原告はこのことからして新法は実施不可能であると主張している。しかし、右洗滌はVENが生成された後の事後処理段階での操作であるにすぎないし、また、大阪府立大学応用化学教室の大辻吉男教授が同じような追試を右と同一の規模等により多数回行なつたところ、前記の洗滌は可能であつたことからすると(乙第二六号証、第二九号証)、前記原告側の実験結果は使用器具、攪拌や静置の時間、温度等の諸条件の一つまたは数個がたまたま適切でなかつたから生じたものと考えるほかない。
したがつて、右原告側の実験結果だけをみて被告の新法は実施不可能であると断定することもできない。
<ハ> 原告の第五の二(三)3の(1)及び(2)の主張関係(ただし、うち(2)イは前出)
(1)の点について。被告新法ではn―ヘキサンによる抽出操作が指示されているところ(乙第一三号証)、これを受けた市川化学のVEN製造記録(乙第二四号証の一ないし八)ではこれに代えジクロルエタンによる抽出操作が行われた旨の記載がみえる。そこで、原告は、右製造記録は新法による製造過程を記録したものではないと主張しているのである。しかし、被告方法において右両物質を使用するのはいずれにしても主たる反応が終つたのち、生成された粗VENの脱色をするさいの溶剤とするものにすぎず、それ自体新法を構成するものとはいえない部分である(これを特許出願するさいを想定した場合その特許請求の趣旨に含まれない、たかだか実施例として記載されるにすぎない部分である。)。したがつて、脱色溶剤としてn―ヘキサンに代えジクロルエタンを使用したからといつて該方法を新法ではないとはいえない。(なお、右の点については、すでに説示したとおり、被告会社で旧法の改良をはかつた時n―ヘキサン使用のさいの難点もすでに自覚されていたのであり、そのさいの実験報告書でも「脱色時の溶剤としては不燃性にこだわらなければn―ヘキサンが最良であるが、不燃性溶剤を使用する場合には一、二―ジクロールエタンが最良である。」ことが記載されており(乙第一一号証最終頁)、両者は併記されているわけで、被告方法における脱色溶剤本来の属性に着目すると両者均等物であると解される点も参照。)
(2)ロの点について。市川化学の新法による粗VEN製造記録(乙第二四号証の一ないし八)中にも、原告が指摘するような不自然さがあるのは事実である(原告の主張の第五の二(三)3(2)ロの<1><2><3>参照。甲第一一号証の一と貴島証言)。ことに、作業の所要時間がどのロツトでも一致している点、粗VENの収量の記載が机上で設定された一定の純収量を純分で除した数字に極めて近似する数量となつており(同じ製造規模の場合)、これは実際の製造工程にロスが少なく理論どおり極めて正確に目的物質をえられたことを示しているようにも思われるが、反面、このような正確さは実際上はかえつて不自然である。記録作成者の何らかの作為が入つている疑いを否みえないところである。しかし、当裁判所は先に製造記録の体裁の不自然さについて説示したと同じ理由により(2の項参照)、このような点を考慮したとしても、それがゆえに前記書証の信ぴよう性を全面的に否定し、被告が新法を現に実施していること自体を疑うことはなお困難であると考える。
4 (結論)
以上るる説示したとおり、本件紛争の経過や被告の提出した書証中には一部に不自然不合理なところもある点等を考えあわせると、原告が本訴において種々反論する趣意は理解に難くない。しかし、そのような紛争経過や書証上の個々の不備不自然不合理な点の存在を理由として被告の提出した書証がすべて何ら事実に基づかぬ机上で作成された虚偽記入文書であり、したがつて被告は現在新法を実施していないと論断することは、前記(一)で認定した事実関係に照らし、結局のところ、困難である。被告の提出した書証は大筋においては実際に行われた結果を記載したものと思われる。
三 そこで、すすんで被告が開示した新法が本件特許の技術的範囲に属するか否かについて検討すべきところ、当裁判所は、次の理由により、被告の新法は本件特許の技術的範囲に属さないと考える。すなわち、この点に関する被告の主張(第四の二(二))は正当である。ただ、いうところの特許方法aと新法との比較に関し左の二点を補足する。
(1) 右特許方法aの正確な技術的範囲如何については暫らくおくとしても(その実施例の開示が全くない点参照)、これはいずれにしてもいわゆる直接法をクレームしようとしているものと解されるところ、従来の概念としてカルボン酸とフエノールからエステルを生成する場合の直接法とは両者を直接反応させるか、せいぜいこれに脱水剤を用いて反応させるかの方法を指すものと解される(乙第一五号証の二参照)。しかるに、被告の新法においてはその出発原料としてdl―α―トコフエロールとニコチン酸(その反応性酸誘導体ではない)を使用する点では一見右直接法と共通しているようにみえるが、その他に一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエート及びトリエチルアミンをも使用するのであつて、しかもこれら四物質は新法によるVEN生成の反応過程上不可欠の物質であることは被告主張の反応過程からしても明らかであるから、新法は直接法ではない。
叙上の点について、原告は、右第三、第四物質は目的物質を構成するものでないから原料物質ではないと主張している。そして、「原料」を右のように定義づける限りにおいては原告の右主張は首肯できる。しかし、前示のとおり、新法においては、第三、第四物質も出発物質として不可欠なものであることには相違ないのであるから、原告の論法をもつてしても前記判断は左右されないと考えられる。
(2) また、上来認定の事実関係によると、被告新法は本件特許出願当時知られていなかつたエステル化法であることが認められる。したがつて、かりに新法が直接法であると解しても、本件特許方法a(直接法)の技術的範囲は、少くとも右新法を除外して狭く解するのが相当である(本件特許明細書には直接法の実施例の開示が全くない点も参照)。これと異なる原告の主張(第五の三)は採用しない。
そうすると、被告は前記推定の負担を免れ、その結果、被告の現に実施しているVEN製造方法はなんら本件特許の技術的範囲に属さないことが明らかである。また、それゆえ、被告はなんら原告の本件特許権を侵害するものではない。
四 よつて、原告の本件差止請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 畑郁夫 上野茂 中田忠男)
目録 (一)(原告主張の被告方法)
dl―α―トコフエロールにニコチン酸またはその反応性酸誘導体を反応させてニコチン酸dl―α―トコフエロールを製造する方法。
目録 (二)(被告開示の新法)
(イ) dl―α―トコフエロール、ニコチン酸、一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエート及びトリエチルアミンを過剰量のトリエチルアミンを溶媒として反応させてdl―α―トコフエロールニコチン酸エステルを製造する。
(ロ) トリエチルアミン一九〇kg、ニコチン酸五七・五kg及びdl―α―トコフエロール一六〇kgを順次反応釜に仕込み、攪拌してニコチン酸を完全に溶解させる。これに攪拌下内温が五〇℃を越えないようにして、一―エチル―二―クロルピリジニウムエチルサルフエート一二八kgを二~四時間を要して少つずつ加える。添加終了後更に約五〇℃で約二時間攪拌して反応を完結させる。反応液を室温まで冷却し、これに一〇%苛性ソーダ水溶液四〇〇lを加えて水冷しながら三〇分攪拌する。これを静置(三〇分以上)し、下層のN―エチルピリドン液を除去し、上層は一%苛性ソーダ水溶液二四〇lで三回洗浄後減圧下蒸留して可及的にトリエチルアミンを留去する。残留物をn―ヘキサン六四〇l中に分散させ、三%塩酸八〇lを加え痕跡のトリエチルアミンを塩酸塩として除去する。n―ヘキサン層は水二四〇lで二回洗浄し、活性白土五kgを加えて、五〇℃で三〇分間攪拌し、加圧濾過する。濾液は蒸留してn―ヘキサンを回収し、粗dl―α―トコフエロールニコチン酸エステル一九三kgを得る。
目録 (三)(被告開示の旧法)
(イ) dl―α―トコフエロール、ニコチン酸、一―メチル―二―クロルピリジニウムメチルサルフエート及びトリエチルアミンを一、二―ジクロルエタン中で反応させてdl―α―トコフエロールニコチン酸エステルを製造する。
(ロ) dl―α―トコフエロール一〇〇kg、一、二―ジクロルエタン一五〇l、ニコチン酸三五・七kg、トリエチルアミン五八・八kgを順次反応釜に入れ、二〇分間攪拌して、ニコチン酸を完全に溶解させる。これに、一―メチル―二―クロルピリジニウムメチルサルフエート八八kgを三〇℃以下の温度に保つて攪拌下約三時間一〇分を要して少しずつ加える。添加終了後室温で約三時間攪拌して反応を完結させる。反応液を遠心濾過してトリエチルアミン塩酸塩を除去し、トリエチルアミン塩酸塩は三〇lの一、二―ジクロルエタンで洗浄する。濾液及び洗液を合して濾液回収釜に仕込み、一、二―ジクロルエタンを減圧回収する。残渣をn―ヘキサン一一〇〇l中に加えて十分攪拌し、六~一〇時間放置する。下層のN―メチルピリドン層を分離し、上層のn―ヘキサン層を水で二回、重そう水で二回、次いで水で二回順次洗浄し、n―ヘキサン層は更に活性炭、活性白土で脱色する。
かくして得られた二回分のn―ヘキサン層を合し、n―ヘキサンを減圧回収して粗dl―α―トコフエロールニコチン酸エステル二五四・一kgを得る。