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大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)4号 判決 1978年1月27日

原告 加藤庄一

被告 西税務署長 ほか一名

訴訟代理人 辻井治 塩津英雄 ほか四名

主文

被告が昭和三九年四月三〇日丸善鋼材株式会社に対してした、同会社が昭和三四年から昭和三八年までの各五月支払いにかかる給与について源泉徴収すべき所得税の納税告知および源泉徴収加算税、不納付加算税の賦課決定はいずれも無効であることを確認する。

原告の青色申告書提出承認取消処分の無効確認の訴えを却下する。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを十分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  原告の申立て

1  被告が訴外丸善鋼材株式会社(以下訴外会社という。)に対し昭和三九年三月三一日した次の各処分が無効であることを確認する。

訴外会社の昭和三三年一一月七日から昭和三八年三月三一日までの五事業年度の各法人税に関する更正および過少申告加算税、重加算税の賦課決定

2  被告が訴外会社に対し昭和三九年四月三〇日した次の各処分が無効であることを確認する。

訴外会社が昭和三四年から昭和三八年までの各五月支払いにかかる給与について源泉徴収すべき所得税の納税告知および源泉徴収加算税、不納付加算税の賦課決定

3  被告が訴外会社に対し昭和三九年三月三〇日した青色申告書提出承認取消処分が無効であることを確認する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の申立て

(主位的申立て)

1 本件訴えをいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(予備的申立て)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  被告は、訴外会社に対し、昭和三九年三月三一日、訴外会社の昭和三三年一一月七日から昭和三八年三月三一日までの五事業年度の各法人税に関し、別表第一記載のとおり、更正、過少申告加算税、重加算税の賦課決定をした。

2  被告は、訴外会社に対し、昭和三九年四月三〇日、別表第二記載のとおり、訴外会社が昭和三四年から昭和三八年までの各五月支払にかかる給与について源泉徴収すべき所得税の納税告知および源泉徴収加算税、不納付加算税の賦課決定をした。

3  被告は、訴外会社に対し、昭和三九年三月三〇日、「売上除外による架空借入金及び架空支払利息計上により法人税法第二五条第八項第三号に掲げる事実に該当する。」として、訴外会社の青色中告書提出承認の取消しをした。

4  しかし、被告のいう「売上除外による架空借入金及び架空支払利息」はいずれも真実の借入金および支払利息であつて、このことは、国が、国が訴外会社に対し右各処分(以下本件各処分という。)のうち青色申告書提出承認の取消しを除く各処分に基づく国税債権を、当該国税の債務者(滞納者)である訴外会社が原告に対し五、六〇〇、二二〇円の不当利得返還請求権をそれぞれ有するとして、昭和四一年四月八日滞納処分として右不当利得返還請求権を差し押えたうえ、昭和四二年一一月一〇日原告に対し差押債権取立訴訟(大阪地方裁判所昭和四二年(ワ)第六二六四号差押債権取立請求事件、大阪高等裁判所昭和四九年(ネ)第七〇三号、昭和四九年(ネ)第八五九号差押債権取立請求各控訴事件、昭和四九年(ネ)第一九六三号反訴請求事件、最高裁判所昭和五二年(オ)第三三一号事件)を提起、追行したが、その各判決においても判示されているところである。

そうすると、被告のした本件各処分は、いずれも借入金および支払利息が架空であることを前提とするもので、重大で明白な瑕疵があるから、本件各処分は無効といわなければならない。

5  なお、訴外会社は原告が経営の実権を握つている法人であつて原告の個人企業ともいうべきものであり、しかも、原告は、右のように本件各処分が有効であることを前提とする差押債権取立訴訟を提起されたうえ、現に居住する土地、建物につき仮差押えの執行を受け、その結果、子の縁談に関しても支障が生じたのであるから、原告が本件各処分の無効確認を請求するについて原告適格を有することは明らかであるといわなければならない。

6  よつて、原告は、被告に対し、前記のような裁判を求める。

二  被告の答弁

(本案前の主張)

本件各処分は訴外会社に対してされたものであつて、原告に対してされたものではない(加えて、青色申告書提出承認取消処分については、その無効が確認されたとしても、それによつて原告の法律上の地位になんら影響を及ぼさない。)から、原告は本件各処分の存否またはその効力の有無の確認を求めるにつき法律上の利益を有しない。

たしかに、原告の主張するような差押債権取立訴訟が提起、追行されたが、原告は、右差押債権取立訴訟において本件各処分の存否またはその効力の有無について争うことができ、現に右差押債権取立訴訟において本件各処分は効力がないと主張し、裁判所の判断を受けることができたのであるから、原告は本件各処分の存否またはその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができることとなり、結局、原告は、本件各処分の無効確認を求めるについて原告適格を有しないというべきである。

(本案についての答弁)

原告の主張する請求原因事実第1ないし第3項はいずれも認める。同第4項のうち原告の主張するような債権差押がされて訴訟が提起、追行され、その結果、原告の主張するような各判決がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。同第5項は否認する。同第6項は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  原告の主張する請求原因事実第1ないし第3項はいずれも当事者間に争いがない。

二  しかして、本件各処分のうち法人税に関する更正、過少申告加算税、重加算税の賦課決定、所得税に関する源泉徴収加算税、不納付加算税の賦課決定は訴外会社の国税の納付義務を確定させるものであり、また、源泉徴収による所得税の納税告知は訴外会社に対する所得税の徴収手続の一部をなすもので、その税額についての税務署長の意見が初めて公にされるものであり、さらに、青色申告書提出承認取消処分は訴外会社の青色申告書を提出することに伴う所得金額の計算上および納税手続上の特典を奪うものであるが、いずれも被告が訴外会社に対してしたものであつて原告に対してしたものではなく、もとより原告の権利義務に影響を及ぼすものではない(このことは、原告が主張するように、たとえ訴外会社が原告の個人企業ともいうべきものであつたとしても、訴外会社と原告とは互いに別箇の人格を有するのであるから、なんら選ぶところはないといわなければならない。)。

しかし、国が、国が訴外会社に対し本件各処分のうち青色申告書提出承認の取消しを除く各処分に基づく国税債権を、当該国税の債務者(滞納者)である訴外会社が原告に対し五、六〇〇、二二〇円の不当利得返還請求権をそれぞれ有するとして、昭和四一年四月八日滞納処分として右不当利得返還請求権を差し押えたことは当事者間に争いがなく、右差押の結果、第三債務者である原告は、訴外会社との間に右不当利得返還債務の消滅、その内容の変更を目的とする契約をすることが許されず、差押後に発生した訴外会社に対する債権、差押後に他から取得した訴外会社に対する債権を自働債権として相殺することを禁止されるなど、不利益な地位に立つことになつた。したがつて、原告は本件各処分のうち青色申告書提出承認の取消しを除く各処分に続く処分により損害を受けるおそれがあるといえるから、本件各処分のうち青色申告書提出承認の取消しを除く各処分につき無効確認の訴えを提起することができるものというべきである。

なお、青色申告書提出承認取消処分については、原告がその後続処分によつて損害を受けるおそれのある者にも、右取消処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者にも当るとは認められない。したがつて右取消処分の無効確認の訴えは不適法である。

三  そこで本件各処分のうち青色申告書提出承認の取消しを除く各処分の無効確認の請求について判断する。

<証拠省略>および弁論の全趣旨によれば、被告は訴外会社が請求原因事実第1項の五事業年度の法人税の確定申告をしたところ、訴外会社の森本周次および柳村信之からの昭和三三年一〇月二二日より昭和三四年三月三一日まで一二回にわたる借入金三二〇万円について、借入金であることを否認して売上除外による架空借入金と認定し、右借入金に対する各支払利息を架空経費とみて損金としての処理を否認し、これを訴外会社の代表者に対する賞与と認定して、請求原因事実第1項の法人税についての更正および過少申告加算税、重加算税の賦課決定、同第2項の源泉徴収による所得税の納税告知および源泉徴収加算税、不納付加算税の賦課決定をしたことが認められる。

そして<証拠省略>によれば、右借入金三二〇万円は原告が森本周次、柳村信之という架空名義をもちいて訴外会社に貸付けたものであり、右支払利息は原告が右貸付金の利息として支払いを受けたものであることが認められ、右認定を覆えす証拠はない。

ところで、給与等の支払者の源泉徴収による所得税の納付義務は給与等の支払いの時に成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであるから、右認定のように利息の支払いが真実であつてこれが賞与の支払いに当らない以上、源泉徴収による所得税の納付義務は発生せず、したがつてその納税義務の存在を前提とする徴収処分たる納税告知は効力を有しないわけである。また、源泉徴収加算税および不納付加算税は、源泉徴収等による国税の納付義務の違反に対し課されるもので、その国税(本税)に附帯するものであるから、本税の納付義務が成立しない以上、右加算税の賦課決定は効力を有しないというべきである。そうすると、被告が訴外会社に対してした所得税の納税告知および源泉徴収加算税、不納付加算税の賦課決定はいずれも無効である。

次に、法人税についての更正および過少申告加算税、重加算税の賦課決定について、原告は被告が前記借入金および支払利息を架空のものと認めたのは重大で明白な誤りであるから、右処分はいずれも無効であると主張する。しかし、<証拠省略>および弁論の全趣旨によれば、訴外会社が右三二〇万円の貸主であるとした森本周次、柳村信之はいずれも架空の人物であること、西税務署職員糸井重郎は本件各処分がされるまで数回にわたり訴外会社の法人税調査のためその代表取締役岩田敞、経理担当者西田兼男と会い、右借入金について説明を求めたが、同人らは右借入金の貸主が架空名義人であると申し立てるのみで真実の貸主の氏名を明らかにせず、訴外会社のかような態度は昭和四一年まで変らなかつたこと、原告は請求原因事実第4項の差押債権取立訴訟の第一審口頭弁論期日(昭和四四年七月二九日)において、右三二〇万円は原告が架空名義で訴外会社に貸付けたものであるが、自己の所得税が増大することをおそれてこれを秘匿していた旨供述していることが認められ、これらの事実に徴すると、被告が右三二〇万円の借入金およびその支払利息を架空のものと認めたのは誤りであるけれども、本件各処分がされた昭和三九年三月ないし四月当時には、その誤認であることが明白であつたとは到底断じがたく、他にそれが明白であつたことを認めるに足る証拠はない。したがつて法人税についての更正および過少申告加算税、重加算税の賦課決定を無効ということはできない。

四  よつて、原告の本訴請求中、所得税の納税告知および源泉徴収加算税、不納付加算税の賦課決定の無効確認を求める部分は理由があるから認容し、青色申告書提出承認取消処分の無効確認の訴えは不適法であるから却下し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭 増井和男 西尾進)

別表第一

事業年度

(昭和年月日)

更正にかかる

所得の金額(円)

過少申告加算

税額(円)

重加算税額

(円)

33.11.7

~34.4.1

3,696,240

0

646,000

34.4.1

~35.3.31

1,630,310

0

89,000

35.4.1

~36.3.31

2,120,309

0

178,000

36.4.1

~37.3.31

△ 303,756

0

0

37.4.1

~38.3.31

4,248,889

5,900

102,300

合計

11,391,992

5,900

1,015,300

以上

別表第二

給与支払期

(昭和年月)

源泉徴収にかかる

所得税額(円)

源泉徴収加算

税額(円)

不納付加算

税額(円)

34.5

48,310

12,000

35.5

1,413,520

353,250

36.5

246,750

61,500

37.5

192,810

19,200

38.5

198,970

19,800

合計

2,100,360

426,750

39,000

以上

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