大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)42号 判決 1979年9月27日
原告
フジテック株式会社
右代表者代表取締役
内山正太郎
右訴訟代理人弁護士
門間進
同
清水伸郎
右訴訟代理人弁護士
飯島久雄
同
角源三
被告
大阪府地方労働委員会
右代表者会長
川合五郎
右訴訟代理人弁護士
井土福男
右指定代理人
石野美恵子
同
西田博雅
被告補助参加人
総評全国一般大阪地連フジテック労働組合
右代表者執行委員長
沢田哲夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告補助参加人を申立人、原告を被申立人とする大阪地労委昭和五〇年(不)第一二四号事件につき、被告が昭和五二年四月一五日付でした別紙(略)命令書主文第一項の命令を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告補助参加人(以下参加人又は組合という)は被告に対し、原告(以下会社ともいう)を被申立人として不当労働行為救済の申立をしたところ、被告は昭和五二年四月一五日付で別紙命令書記載の命令(以下本件命令という)を発し、右命令書の写は同日原告に交付された。
2 しかしながら、本件命令は、原告が参加人組合員の職場離脱(以下離職ともいう)の理由を述べない離職に対し、昭和五〇年夏期及び年末各一時金協定に基づき二倍カットを実施したことのうち、昭和五〇年三月一四日以降の一六時(一五時三〇分)から一七時一五分までの分は、ビラ配布のための離職であることを原告が認識していたにもかかわらず無断離職と同様に取扱ったことをもって、原告が参加人のビラ配布を嫌悪し、組合活動に打撃を与えようとしたもので不当労働行為に該当すると判断しているが、これは事実の認定及び法令の適用を誤ったものであって、違法である。
3 よって、本件命令主文第一項の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認める。
三 抗弁(本件命令の適法性)
被告が本件命令において不当労働行為を認定した理由は別紙命令書記載のとおりであり、被告は別紙命令書記載のとおり事実上及び法律上の主張をする。これによれば本件命令は適法である。
四 抗弁に対する認否及び原告の主張
1 本件命令書理由第1に対する認否
(一) 1(当事者等)は認める。
(二) 2(組合活動のための職場離脱の取扱い)(1)、(2)は認める。
同(3)のうち「組合活動家の」、「組合員の」及び「これらをめぐって組合と会社の対立は険悪の度を深めていった」との部分は否認し、その余は認める。
同(4)のうち「これに対して組合は、同条項に反対であることを念頭においてほしい旨述べて」との部分は否認し、その余は認める。
同(5)は認める。
同(6)のうち「同人がその理由を明示しなかったとして」との部分は否認し、その余は認める(右否認部分は「同人がその理由を明示しなかったので」というのが正しい。)。
同(7)は認める。
同(8)のうち「昭和四二年一一月二〇日」及び「添付していた」との部分は否認し、その余は認める。原告が組合に対して組合活動に関する協定書案を送付したのは昭和四二年一一月一〇日であり、「異議がない場合は……」などと記載した文書は同月一五日に組合に送付している。なお、組合の回答書には、被告が認定する事実以外に「ただし、その場合当労組及び組合員に対する不当な差別、介入、干渉を直ちに中止すること及び現在裁判所、労働委員会で係争中の事件を解決すること、或いは解決の目処が明らかにされることが先決である」との条件がつけられていた。
同(9)のうち「その後本件審問終結時に至るまで、会社は組合に対して、団交の席上で四二年協定書案についての組合の対案提示を求めることがあった」との部分は認め、その余は争う。原告としては、組合活動のための職場離脱に関し、四二年協定書案に組合が反対なら組合が対案を提示し、離職に関する具体的協議を行なおうと申入れていた。
同(10)のうち「これに反対する組合と対立した」、「しかし、会社は組合が同条項を含む協定の締結に応じない限り同年年末一時金は支払わないとの態度を変えなかった」及び「三五年協定が効力を有している現状では、二倍カット条項の適用はあり得ない旨意見を表明して、やむなく」との部分は争い、その余は認める。
同(11)は認める。なお、昭和四二年年末一時金に関しても、組合が離職理由を述べなかった一件の離職については二倍カットを行なった。
(三) 3(本件離職)(1)のうち「昭和四〇年、会社は本社及び塚本工場の茨木市への移転を完了した」との部分、その後大阪支店等の機構改革及びこれに伴う従業員の配置転換を行なったこと、大阪支店においては保守常駐課に組合員が多かったこと、昭和四三年頃には、昭和三九年当時約一五〇名いた組合員が大阪支店保守常駐課及び神戸営業所等のみになったこと、当時の茨木工場の終業時刻は午後五時で残業が多かったこと、当時休職中の小沢ら一、二名の組合員が茨木工場門前でビラ配布を行なっていたこと及び茨木工場門前付近に柵を設けたことは認め、その余は争う。
同(2)のうち「残業は皆無となり」、「その結果、小沢のみでは茨木工場従業員の多くの者にビラを手渡すことができないようになった」、「組合員森田甫を翌二〇日午後五時よりのビラ配布に従事させるために」及び「同月二〇日、森田はビラ配布を行った」との部分は争い、その余は認める。
同(3)のうち「ビラ配布のために」との部分は不知、その余は認める。
同(4)のうち「ビラ配布を目的とする離職について」及び「ビラ配布のための離職との旨述べるようになった」との部分は争い、その余は認める。組合が住沢支店長に対し常にビラ配布のための離職と届出るようになったことはない。
同(5)のうち「ビラ配布を目的としない離職について」との部分は不知、その余は認める。
同(6)のうち「ビラ配布のために離職し」たとの部分及び一覧表がビラ配布を行なった者に関するものであるとの点は不知、その余は認める。
2 原告の主張
(一) 原告は、昭和四二年一二月二日、組合との間で同年年末一時金協定書を締結したが、その中で未承認の一方的離職の場合の減額措置が初めて取決められた。そして、原告は、右一時金の支給に際し、未承認の一方的離職に該当する者一名の氏名を組合に通知した。右一時金の協定締結にあたっても、また、右通知をした段階においても、組合からは何の異議も述べられず、その後の各年の夏、冬各一時金協定の締結にあたっても昭和四二年年末一時金協定と同一の文言がすべて入っており、二倍カットの該当者は昭和四三年に二件、昭和四四年に二件あったが、組合からはこれらの二倍カットに対し何らの抗議も行われなかった。なお、昭和四五年から昭和四九年一二月頃までは、組合は組合活動のための離職を行なったが、いずれも離職理由を示して承認されていたので、二倍カットの適用を受ける者はいなかった。従って、被告が、昭和四二年年末一時金協定締結の段階で、二倍カット条項につき、組合と原告とが対立し、組合がやむなく同協定を締結し、その後も反対意見を表明していたという事実認定をしているが、右認定は全くの誤りであることが明らかである。
以上の経過をみるならば、昭和四二年年末一時金協定以後、組合としては、多くの場合、離職理由を明示して承認を得たうえで就業時間中の組合活動を行なっていたが、なかには離職理由を明示しない未承認の組合活動もあり、その場合には各一時金協定において締結されていた二倍カット条項の適用を甘んじて受けていたのであるから、被告が、本件労使間では、このような離職方法はすでに慣行として定着していたと判断したのは正当であるが、承認ということが明確に協定化されている以上、単に離職理由を認識していたか否かの問題ではなく、よって、住沢支店長においてビラ配布のための離職と認識していたものと被告が認めた昭和五〇年三月一四日以降の離職全部について、二倍カット条項を適用したことをもって不当労働行為にあたるとした被告の判断は誤りである。
右の点はおくとしても、被告は、昭和五〇年三月一四日以降の離職全部について、離職時間が一六時から一七時一五分までであったこと及び沢田委員長が離職通知書を住沢支店長に提出したとき、同支店長が「例のやつか」と言い、沢田委員長が「そうですよ」と答えたことの二点を根拠として、これらの離職全部を、住沢支店長がビラ配布のためのものであると認識していたと認定し、また、神戸営業所所属の組合員の場合も同様と推認しているが、この判断は著しい誤りである。
原告の調査によると、森田甫、広瀬忠教、森本修の昭和五〇年七月二四日の離職(森本修の分については、七月二三日と認定されているが、七月二四日の誤りと考えられる)は、いずれもビラ配布のための離職ではなく、資金カンパのための離職である。従って、離職の時間帯が終業時刻の一時間一五分前と同じであったとしても、必ずしも全部がビラ配布のためのものではなかったのである。また、住沢支店長が「例のやつか」と言ったのは、沢田委員長が持ってきた離職通知書による離職がすべてビラ配布のためと認識して述べたものではなく、離職理由を述べない例の一方的離職のやつかといった程度のものである。このことは、日数の間隔が非常に空いていること、なかにはビラ配布のためのものでないものもあったことなどから容易に窺われるところである。さらに、この「例のやつか」というのは、いつ述べられ、いつの離職の分に相当するのかも定かではない。それ故、前述した二点の根拠をもって住沢支店長がビラ配布のための離職であると認識していたとの被告の判断は、的確な証拠に基づかない認定であり、神戸営業所所属の組合員の分については何の証拠もない被告独自の推認にすぎない。
(二) 次に、被告は、沢田委員長がビラ配布のための離職と明示した場合でも、一切その離職を認めなかったが、これは、組合が離職理由を明示した場合には、上部団体の決起集会や民主法律協会の活動者会議への参加など広範に離職を認めてきたことに対比すると、著しく均衡を失すると判断しているが、この判断も著しい誤りである。
組合員は、就業時間中にはいわゆる職務専念義務が存在するから、ストライキ等の労働義務が消失する場合を除き組合活動を行い得ないということが当然の事理である。ただ原告のもとにおいては、組合に組合専従者もおかれていない実態等から、組合に対する一種の便宜供与として、例外的に、組合が就業時間中に組合活動を行わなければ対外的事情等でどうしてもその目的を達成し得ないという緊急やむを得ない場合についてのみ、組合が事前に原告の承認を得れば、就業時間中の組合活動を認める措置をとってきているにすぎない。
原告としては、組合が就業時間外に原告の施設管理権を侵害しない方法でビラ配布を行うことについては何ら関知しないのである。従って、ビラ配布を就業時間中に離職して行わなければ、組合活動上どうしてもやむを得ないという緊急の必要性が認められない以上、この離職を承認せず、就業時間外に行うことを求めるのは当然のことである。
なお、被告は、原告が承認した上部団体の決起集会や民主法律協会の活動者会議への参加などとの対比を問題としているが、これらはすべて組合の上部団体の会合への参加であって、原告としては、その会合の内容などには関知しておらず、ただ沢田委員長が上部団体の役員等をしている関係上、上部団体の会合への出席などは対外的事情でやむを得ないものと判断して承認したまでであって、その他に被告が判断しているように広範に離職を認めてきた事例は皆無である。従って、原告が承認したこれまでの事例とビラ配布のための離職とは、本質的にその性格を異にするのであって、被告の判断するような著しく均衡を失するといった対比はできないはずである。
さらに、被告は、ビラ配布のための離職をあくまで認めない真意なるものをわざわざ判断しているが、原告の会社敷地内におけるビラ配布を禁止することや小沢らの配布の規制(妨害ではない)は、原告が有している施設管理権の建前からいっても当然のことであり、また、原告が組合員を大阪支店保守常駐課等に集中して他の従業員との交流を遮断した事実は全くなく、たまたま保守常駐課に組合員が多かったというにすぎない。従って、組合のビラ配布によって他の従業員に組合の影響力が及ぶことを嫌悪し、組合の同活動に打撃を与えようとしたものであるなどという被告の判断は、全く事実に合致しない独自の判断であって、失当たるを免れない。
以上のとおり、組合が承認の得られない組合活動を敢て就業時間中に行うというのであれば、各協定で合意された未承認の一方的離職に該当することはいうまでもなく、この条項を適用して二倍カットを行うのは当然りことであり、何ら不当労働行為を構成するものではない。
五 原告の主張に対する被告らの主張
(被告)
原告は、森田甫、広瀬忠教、森本修の昭和五〇年七月二四日の離職はいずれもビラ配布のための離職ではなく、資金カンパのための離職である旨主張するが、右主張は本件審問終結時までに何らの主張も疎明もなかった新たな事実の主張であるから、本件命令の取消しの原因とはなり得ない。
(参加人)
1 組合の団結権は憲法上保障されているのであるから使用者の市民法上の権利行使も一定の限度で制限されざるを得ないことは当然の事理である。その場合、原告は「対外的事情等で」という限度ママを行なっているが、そもそも組合の活動内容は組合自体が自主的に決定すべきであって、使用者からの干渉、介入を受けるべきものではないのであるから、使用者が就業時間中の組合活動を承認する場合に「対外的事情等で」などとその目的を限定すること自体が組合活動に対する支配介入である。従って、使用者が就業時間中の組合活動の申出を拒否し、或いはその変更を要求し得るとすれば、それは組合活動の内容いかんを理由とするものであってはならず、業務の正常な遂行に重大な支障をきたし、又は企業秩序が著しく破壊される場合に限られる。本件の場合、ビラ配布は、就業時間外に会社施設外で行うものであり、また、業務上の支障又は企業秩序を理由に申出が拒否されたことは一度もないのである。
2 四一年中労委命令確定後の昭和四二年一〇月二八日、森本修の離職について、組合が全国一般大阪地連中央委員会に中央委員として出席する旨口頭で述べたにもかかわらず、会社は一方的にこれを不許可とし組合に警告書を突き付けてきた。その後、同年一一月一〇日会社は前記中労委確定命令によるという協定書案を提示してきたが、これに対して組合が意見を述べたところ、会社はこれをそのまま放置し、昭和四二年年末一時金の回答書の中に未承認の一方的離職の場合は一日をもって欠勤二日とみなすとの文言を記載してきた。組合はこれに反対し抗議したが、会社は右文言を含む協定を締結しなければ同年年末一時金を支給しないという態度に終始したため、組合は確定した中労委命令に基づく協議も協定も行われていない以上、未承認の一方的離職という取扱いはあり得ないことを明確にして協定を締結した。その後、各年夏、年末一時金協定案に右文言が記載されていたので、組合はその都度会社の協定案の不当性を指摘し抗議してきたが、会社は協定書案は両労組(参加人組合と全フジテック労組)共通のものであり参加人組合のみ変更するわけにはいかないこと、協定を締結しなければ一時金を支給しないと主張したため、組合は中労委確定命令に基づく就業時間内組合活動の基準、手続に関して協定が成立しておらず、組合活動の理由を説明する必要がないことが明らかである以上、協定の二倍カット条項は無効である旨主張したうえで各一時金の協定を締結してきたものである。
3 茨木工場門前でのビラ配布は、数名の保安員が監視する中でほぼ全従業員が退社するまで行われたのであるから、その都度会社は本件離職がビラ配布のためのものであることを確認しているのであり、また、茨木工場門前でのビラ配布の同日には、大阪支店門前でもビラ配布が行われ、配布状況は支店長席から丸見えであり、住沢支店長はいつもほぼビラ配布が終わる頃まで在席していたのであるから、一六時以降の離職が茨木工場へのビラ配布であることは住沢支店長において充分承知していたものである。さらに、その後組合が茨木工場へのビラ配布という理由を述べるようになっても、会社はこれを不許可としていること、茨木工場門前、大阪支店でもしばしばビラ配布の妨害が行われ、ビラ配布は会社が最も嫌悪する組合活動であることなどからすれば、会社が二倍カットを行なったのは、その離職の理由不明示だからではなく、教宣活動のための時間内組合活動であるからである。従って、本件二倍カットが不当労働行為にあたることは明白である。
六 被告らの主張に対する原告の反論
1 行政訴訟は、行政命令のいわゆる事後審ではなく、また、独禁法のような特別規定のない本件訴訟においては、新たな事実の追加主張はできるのであって、その結果行政命令が違法となれば取消され得るのであり、この点に関する被告の主張は理由がない。
2 本件訴訟は、要するに、住沢支店長が組合の無断離職についてビラ配布のためのものと認識していたか否かにかかわる問題であって、一般的な二倍カットはすべて違法であるという問題ではなく、また、補助参加人はあくまで被告を補助すべき地位にあるから、被告より独立して被告の判断を攻撃することができないところ、被告も理由不明示の離職については二倍カットを認めているのであるから、二倍カット違法論を前提とした参加人の主張はそもそも失当である。また、一般的にいっても、使用者が当然に組合の就業時間内における組合活動を受忍しなければならない法的義務は全く存在しないのであるから、参加人の主張は独自の主張にすぎない。
第三証拠(略)
理由
一 本件命令
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 当事者等
当事者間に争いのない事実と(証拠略)によれば、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
原告(従前の商号は富士輸送機工業株式会社、昭和四九年二月現商号に変更)は、茨木市に本社及び茨木工場を、大阪市等に支店を、全国各地に営業所等を置いて、エレベーター等の製造販売を行なっている会社であり、大阪地労委における本件審問終結時(昭和五一年七月九日)の従業員数は約一四〇〇名で、そのうち本社及び茨木工場には約七五〇名、大阪支店には約一五〇名がいる。
参加人組合(その前身は昭和三四年二月九日結成した富士輸送機工業労働組合、会社の商号変更に伴い昭和四九年一〇月現名称に変更)は、会社従業員一二名(大阪支店八名、神戸営業所三名、休職中の者一名)で組織する労働組合であって、総評全国一般労働組合大阪地方連合会に加盟している。
なお、会社の従業員が組織する労働組合には、参加人組合のほか、全フジテック労働組合(組合員数約八五〇名。)がある。
三 本件紛争前における組合活動のための離職の取扱いについて
当事者間に争いのない事実に、(証拠略)を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 会社は、昭和三五年六月一六日、組合との間で「今後組合活動のため離職した場合は賃金カットを行うが事故扱いとしない(皆勤手当其他労働条件に支障しない)」との協定(以下三五年協定という)を締結したが、離職する場合の手続等については何らの協定もされなかった。組合は、右協定締結以降、組合員が就業時間中に組合活動のために離職する場合には、当該組合員の所属課、氏名、離職の日時を、文書で事前に会社に通知することによって就業時間中の組合活動を行なっていたが、右通知は、緊急の際には、口頭で離職当日に行われたり、また、事後に行われたりしたこともしばしばあった。これに対して、会社は、離職者の毎月の基本給から離職時間相当分の賃金カットを行なった。
このような離職方法について、会社は組合に対し、離職の通知を必ず事前に行なってほしいとか、或いは、離職を会社の承認制に変更したいとかの旨の申入れをしたことがあったが、組合のいれるところとならず、その後も右と同様の離職方法が昭和三九年一月まで行われた。
2 会社は、昭和三九年一月二二日組合に対し、離職する場合には事前に文書で申請し許可を受けなければこれを認めない旨通告した。これに対して、組合は、右通告は会社の一方的措置であるとして会社に抗議するとともに、同年二月、右通告内容が支配介入にあたるとして被告に対し、不当労働行為救済申立(昭和三九年(不)第一一号事件)を行い、さらに、この件について会社に団交開催を申入れたが、会社は係争中であるとしてこれに応じなかった。
被告は、同年一二月一七日右請求内容を棄却する命令を発したが、組合はこれを不服として中労委に再審査申立(昭和三九年(不再)第四六号、同第四七号事件)を行い、中労委は昭和四一年三月一六日付命令書主文第二項で会社に対し「就業時間中における組合活動……について承認制を運用するにあたっては、その基準および手続に関して組合と協議しなければならない」と命じた(以下四一年中労委命令という)。これに対して会社は東京地裁に右命令の取消しを求める訴訟を提起した。
3 会社は、昭和四〇年一一月組合に対し、同年年末一時金の回答を行なったが、その回答書の中に「休職、無給休暇及び職場離脱についてはその期間は支給対象より除外する」と記載した。これに対して、組合は、右条項に反対であることを念頭においてほしい旨述べて会社との間に右一時金協定を締結した。会社は、右一時金支給対象期間内の離職時間については右一時金支給対象から除外した。
4 会社は、昭和四一年七月組合との間で同年夏期一時金協定を締結した。同協定書の欠勤控除欄には「(1)欠勤一日につき一五〇分の一を控除する。(2)(略)。(3)無届欠勤については一日をもって欠勤二日とみなす」との条項が含まれていた。会社は、右一時金の支給に際し、離職者から離職一日につき一五〇分の一の割合の計算に基づく控除(以下一倍カットという)を行なった。
同年年末一時金についても、同年一二月、右条項を含む協定が締結された。会社は右一時金支給に際し、右一時金支給対象期間内に生じた組合の沢田委員長の離職については、同人が組合活動の具体的内容まで述べなかったことをもってこれを無届欠勤として扱い、「無届欠勤については一日をもって欠勤二日とみなす」との条項を適用して一倍カットの倍額の控除(以下二倍カットという)を行い、また、他の離職者については一倍カットを行なった。
そこで、組合は、右一倍カット及び二倍カットについて被告に対し不当労働行為救済申立(昭和四一年(不)第一四四号事件)を行い、被告は昭和四三年七月、同事件について組合の請求内容を認める命令を発し、中労委、東京地裁、東京高裁もこの初審命令を支持し、最高裁も会社の上告を棄却した。
5 会社は、昭和四二年四月中労委事務局審査第二課長名の四一年中労委命令に関する確認書を受取った。右確認書は、四一年中労委命令後、会社が右命令の解釈について中労委に質問していたことに対して出されたものであるが、これには四一年中労委命令の「趣旨は、同命令書理由のとおりであって、就業時間中の組合活動……について会社の事前承認制を前提としたものであるが、組合、会社間にその基準および手続に関して取決めがないのでその協議を命じたものである」と記載されていた。
会社は、右確認書によって、組合員が離職する場合には会社の事前承認を要するとの会社の主張を四一年中労委命令が認めたものであることが確認されたとして、東京地裁に提訴していた四一年中労委命令の取消訴訟を取下げた。
会社は、右確認書を契機として、昭和四二年一二月一〇日、組合に対し組合活動に関する協定書案を送付した。右協定書案の中には次のとおり記載されていた。
第三条 組合活動は就業時間外に行わなければならない。
ただし、次に掲げる場合で会社の承認をうけたときはこの限りでない。
一 労使双方の出席する各種協議会、委員会への出席
二 大会(臨時大会については年一回限り認める)に出席する執行委員並びに代議員が旅程の都合上、就業時間中に出発するとき
三 直属の上部団体の大会(臨時大会については年一回限り認める)への出席(代表者一名)
四 官公庁への出頭
第四条 前条ただし書第二号ないし第四号の活動を行う場合は、組合は次に掲げる事項を記載した所定の離席申請書を正副二通提出し、会社の承諾を得なければならない。
一 期間及び時間
二 不就業者の氏名
三 具体的事由
前項の申請書は(中央)執行委員長名をもって総務部長宛実施の二日前までに提出する。
第五条 組合活動のための不就業に対しては欠勤、遅刻もしくは早退の扱いとしない。
同じく第三条第一号の場合を除いて一切の賃金並びに賞与は支給しない。
そして、同月一五日、会社は組合に対し「組合活動に関する協定について」と題する書面を送付し、右協定書案について異議がない場合は早急に調印願いたく、もし話合いの機会をもつ必要があるのなら希望日時を連絡して下さいと申入れた。
これに対して、組合は同月二〇日会社に対し、右協定書案は組合を会社の支配下におこうとするものであるとして、右協定書案には反対であるが、組合及び組合員に対する不当な差別、介入、干渉を直ちに中止し、現在裁判所、労働委員会で係争中の事件を解決すること或いは解決の目処が明らかにされることを先決として、会社が組合活動の自由を保障する内容を含む協定を結ぶ意思があるならば交渉に応じる旨記載した回答書を送付した。
その後、会社は組合に対し、団交の席上で四二年協定書案についての組合の対案提示を求めることはあっても、離職に関する協議の申入れを行なったことはなく、一方、組合も、四一年中労委命令が承認制を運用するにあたってはその基準及び手続に関して組合と協議しなければならない旨会社に命じていることから、自らすすんで協議の申入れとか対案を提示する必要はないと判断して、会社の協議申入れを待つとの態度に終始した。その結果、現在に至るまで会社と組合との間で離職について承認制を実施運用するにあたっての基準及び手続に関する取決めはなされていない。
6 会社は昭和四二年年末一時金協定の締結にあたって、協定書の中に「(1)欠勤一日につき一五〇分の一を控除する。(2)無届欠勤及び未承認の一方的離職の場合は一日をもって欠勤二日とみなす(以下二倍カット条項という)。(3)(略)。(4)休職、無給休暇及び職場離脱についてはその期間を支給対象から除外する」との記載を含めることを求め、右二倍カット条項に反対する組合と対立した。しかし、会社は、組合が右条項を含む協定の締結に応じない限り同年年末一時金を支払わないとの態度を変えなかったため、組合は、三五年協定が効力を有している現状では二倍カット条項の適用はあり得ない旨意見を表明して、同協定の締結に応じた。
その後、会社と組合は、本件審問終結時までの間、二倍カット条項を含めた各一時金協定を締結したが、組合は各協定締結に際し、同条項については右のような意見を表明した。
7 組合は、右のとおり、二倍カット条項が各一時金協定の中に取入れられた時期以降は、二倍カットを避けるため、離職通知の際に口頭で組合活動をするための離職の具体的理由として「上部団体の会議に出席する」などと述べるようになった。これに対して、会社は、主として四二年協定書案にある承認基準を基として、上部団体の大会、執行委員会、決起集会、民主法律協会の活動者会議への参加などと組合が離職の具体的理由を述べた離職については、昭和四九年一二月頃までの間において、年平均二〇件ほどの離職を認め、それぞれの一時金から一倍カットを行い、また、昭和四二年一〇月二八日の組合員二名が上部団体の会議に出席する旨その具体的理由を述べた離職については一名で足りるとして森本修の離職について未承認とし、組合が離職の具体的理由まで述べなかった昭和四三年の二件及び昭和四四年の二件の離職については、それぞれの一時金から二倍カットを行なった。これに対して、組合は、右一倍カット及び二倍カットに対し抗議ないし返還要求を行なっていない。なお、会社は、会社が離職を承認するか否かの基準を組合に対し示したことはない。
以上のとおり認めることができ、(証拠略)のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
以上の事実によれば、組合は会社に対し、三五年協定締結以降しばらくの間、組合活動のため離職する場合には事前又は事後に、文書又は口頭でその旨を通告し、これに対し、会社は離職者の毎月の基本給から離職時間相当分の賃金カットを行なってきたが、昭和四二年年末一時金協定以降は、会社と組合は二倍カット条項を含む各一時金協定を締結してきたのであり、右各一時金協定締結にあたり組合は二倍カット条項について異議をとどめたものの、会社は、上部又は外部団体の大会への参加など組合活動の内容について具体的理由を述べた離職についてはこれを認めて一倍カットをし、昭和四三年から昭和四四年の間において右のように具体的理由を述べなかった四件の離職については無届欠勤にあたるとして二倍カットを行なったが、これに対して、組合は、抗議又は右賃金カット分の返還要求を行なってはいないというのであるから、会社と組合との間においては、組合活動をするための離職について、一倍カット又は二倍カットをする基準についての取決めがなされていないものの、上部又は外部団体の大会への参加などを組合活動の内容として述べた離職については一倍カットをし、単に組合活動のためというのみで右程度の具体的理由を述べなかった離職については二倍カットをするという慣行が定着しているものと認めるのが相当である。
四 本件離職について
まず、被告は、原告が森田、広瀬、森本の昭和五〇年七月二四日の離職理由について、本件審問手続において主張、立証しなかった事実を本訴において主張することは許されない旨主張するので按ずるに、労働委員会の命令に対して訴訟を提起した場合には、裁判所は、右命令の手続上の瑕疵の有無はもとより事実認定、法令の解釈適用などの当否を審査するのであるから、一般の行政処分の適否を判断する場合と同様に、労働委員会の審査の過程で提出されなかった新たな主張と証拠の提出を許容すべきであり、これに基づいて命令の当否を判断し得ると解するのが相当である。従って、この点の被告の主張は理由がない。
当事者間に争いのない事実、(証拠略)を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 会社は、昭和四〇年、本社及び塚本工場の茨木市への移転を完了し、これに伴い大阪支店等の機構改革及び従業員の配置転換を行い、大阪支店内においては、組合員をすべて保守常駐課に集中した。この結果、昭和四三年頃には、昭和三九年当時約一五〇名いた組合員は約三〇名に減少し、かつ大阪支店保守常駐課及び神戸営業所等に勤務するのみとなった。また、組合員が集中した保守常駐課は、大阪支店の他の課とは離れた場所に設置されていたため、組合員は、タイムカード打刻後は終日他の従業員と顔を会わすこともない状態になった。さらに、従来組合と共闘関係にあった茨木工場労組との共闘も全く行われなくなった。
そこで、組合は、この頃より、組合の主たる活動として、茨木工場従業員に対するビラ配布を、同工場の終業時から同工場門前で行うようになった。当時の同工場の終業時刻は午後五時であったが、残業が多かったため、まず会社から休職処分を受けていた組合員小沢佳代子が同工場の終業時刻にビラ配布を開始し、その後大阪支店及び神戸営業所の業務を終了(終業時刻はいずれも午後五時一五分)した組合員一、二名がこれに加わることによって行われていた。なお、会社は、小沢らのビラ配布の際、茨木工場門前付近に柵を設けるなどして同人らのビラ配布を困難にする種々の措置を行なった。
2 昭和四九年秋頃より、茨木工場での残業が始んどなくなったため、同工場従業員の大部分が定時に退勤するようになり、その結果、小沢のみでは同工場従業員の多くの者にビラを手渡すことができないようになった。そこで、組合は、組合員一、二名を就業時間中に離職させて茨木工場の定時退勤時刻に間に合うように同工場に赴かせ、同工場でのビラ配布に従事させることとした。
沢田委員長は、同年一二月一九日、組合員森田甫を翌二〇日午後五時よりのビラ配布に従事させるために、大阪支店長住沢龍雄に対し、森田の氏名のほか、離職日時を「一二月二〇日一六時から一七時一五分まで」と記載した通告書を手渡した。これに対して、住沢支店長は、沢田委員長に森田の離職理由をただしたところ、沢田委員長は、離職理由をいう必要はない、離職理由を述べることは組合が反対してきた会社の事前承認制の既成事実を作る、離職理由は明日になればわかる旨述べて、組合活動の具体的内容まで告げることを拒否した。このため、同支店長は森田の離職を認めなかった。しかし、森田は、同月二〇日、離職通知書どおり離職して茨木工場でのビラ配布を行なった。そこで、会社は、同月二三日、組合に対し、離職については事前承認制が前提である、会社が離職を承認するかどうかを判断するのに必要な範囲において離職理由の説明を求めているのであり、この点最近の慣行は定着している、今回の件については処分を留保する旨記載した警告書を送付した。
また、沢田委員長は、昭和五〇年二月一九日、住沢支店長に対し「(イ)沢田哲夫、片山和夫、二月二〇日八時三〇分より一七時一五分まで(ロ)森田甫、森本修、二月二〇日一六時より一七時一五分まで」と記載した通知書を手渡し、その際、口頭で右(イ)については上部団体の会議に出席する旨述べたが、右(ロ)については組合活動をするための離職理由(ビラ配布)を述べなかったため、同支店長は(イ)については、離職を認めたものの、(ロ)については離職を承認せず、その後右同様の経過をたどり、会社は組合に警告書を送付した。これに対して、組合は会社に対し同月二二日、右二回の警告書に反論し、離職問題に関しては、地労委、中労委の各命令及び裁判所の判決で明快な判断が出ており、警告書はこれに反する不当なものである旨記載した文書を送付した。
3 しかし、同年三月一四日、森田のビラ配布のための離職についてその理由を示さずに離職通知をして以降、昭和五一年三月までの間、組合が離職通知書に離職時間を「一六時から一七時一五分まで」と記載したものについては、離職通知の際、住沢支店長が沢田委員長に「例のやつか」とたずねると、沢田委員長が「そうですよ」と答えるようになり、同支店長は右離職を認めることはなかったものの組合に警告書を送付することはなくなった(ただし、三月一四日の森田の離職に対しては同月二四日付で警告書を送付している)。
また、組合は、神戸営業所所属の組合員(金場昭三、千崎伸一及び井沢日出夫)がビラ配布のために離職する場合には、離職通知書に離職時間を右時間帯のほか「一五時三〇分から一七時一五分まで」又は「一五時四五分から一七時一五分まで」と記載して住沢支店長に手渡し、右と同様の経過をたどった。
4 組合は、昭和五一年三月頃より、茨木工場でのビラ配布を目的とする離職について、住沢支店長への離職通知に際し、茨木工場でのビラ配布のための離職である旨述べるようになったが、住沢支店長は会社業務の支障の有無とは関係なしにこれを認めることはなかった。
5 昭和五〇年夏期一時金及び同年年末一時金の支給対象期間内に、組合員が茨木工場でのビラ配布のために離職し、これに対して会社がそれぞれの一時金から二倍カットを行なった離職者の氏名及び離職日時は、被告主張の離職してビラ配布を行なった組合員の氏名及び離職日時一覧表記載のとおりである。なお、組合は、右支給対象期間内において、ビラ配布を目的としない離職について、その理由を会社に述べないまま組合員を離職させたことがあったが、その離職時間帯はビラ配布を目的とする離職のそれとは全く異なっていた。
以上の事実を認めることができ、(証拠略)のうち右認定に反する供述記載部分及び証言部分は前掲各証拠に照らして信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
以上の事実によれば、昭和四九年一二月二〇日の森田及び昭和五〇年二月二〇日の同人ほか一名のビラ配布のための離職について、会社がビラ配布のための離職であると認識し得なかったとしても、会社は事後に右離職した組合員が茨木工場でビラ配布を実施したことの報告を受けていたものと推認することができること(弁論の全趣旨。この点に関する<人証略>は信用することができない)、同年三月一四日以降のビラ配布を目的とする本件離職の時間帯は、右二回の離職のそれと同一であり(ただし、神戸営業所所属の組合員の離職については、茨木工場に行くためには大阪支店からよりも多少時間を要することから、離職時間の始期が右の離職時間帯よりも早まっている)、しかも、ビラ配布を目的としない組合活動の具体的理由を述べなかった他の離職の離職時間とも全く異なっていること、本件離職通知の際に、住沢支店長が「例のやつか」とたずね、沢田委員長が「そうですよ」と答え、それ以上のやりとりのなかったことを総合すると、住沢支店長は本件離職が茨木工場でのビラ配布を実施するための離職であることを認識していたと認めることができる。
五 不当労働行為の成否について
被告は、ビラ配布のための離職であることを原告が認識していた本件離職に対する二倍カットは、原告が組合のビラ配布を嫌悪し、組合活動に打撃を与えようとしたもので、労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為である旨主張するので判断する。
従業員は、労働契約に基づき就業時間中は使用者の指揮命令に従い労務を提供する義務を負うものであるから、ストライキ又は労働協約などによりあらかじめ容認されている場合を除き、右時間中は就業以外のことをすることが許されないというべきではあるが、組合の団結権が憲法上保障されている法意に鑑みれば、右容認されている場合以外は一切の就業時間中の組合活動が許されないと解するのは相当でなく、少なくとも、その組合活動をすることが組合の団結権を確保するうえで必要性があり、そのうえ、離職によって使用者の業務に支障を与えない場合には、使用者は右就業時間中の組合活動を受忍すべきであって、右の組合活動をしたことをもって当該組合員に対する不利益扱いをすることは許されず、組合に対する支配介入になるものというべきである。
これを本件についてみるに、組合は茨木工場門前においてビラ配布を行うために本件離職をし、会社に対し右離職の具体的な組合活動の内容まで告げなかったが、会社が、本件離職が茨木工場でのビラ配布を実施するための離職であることを認識していたことは前記のとおりであるから、本件離職は組合活動の内容を明示した場合と同視し得るということができる。
ところで、本件労使間においては、上部又は外部団体の大会への参加などを組合活動の内容として述べた離職については一倍カットをし、理由を全く述べなかった組合活動のための離職については二倍カットをするという慣行が定着していたことは前記のとおりであるところ、本件ビラ配布のための離職は、従来一倍カットされてきた離職が上部又は外部団体の大会への参加などという対外的関係において離職するもやむを得ないと解される事情が存する場合であるのに対し、対外的事情とは何ら関係のない組合の内部的事情によって支配される活動のためであることからすると、本件離職の理由が従来一倍カットされてきた離職の場合とはその性質が自ずから異なるのであり、本件離職が理由の明示された場合と同視し得るとしても、ビラ配布のためと明示した離職については従来慣行がないのであるから、右慣行の存在をもって直ちに本件離職を従来一倍カットされてきた離職と同様に扱うべきであるということはできない。
しかしながら、本件離職は、少数組合である参加人組合が会社従業員の約半数が勤務する茨木工場でビラ配布を実施するために、大阪支店又は神戸営業所から右工場までの最少の交通時間にあてられたもので、右ビラ配布は組合の団結権を確保していくうえで必要性が認められるうえ、本件離職をすることによって会社業務に支障を生じていない(本件では、支障を生じたとの主張もない)のであるから、本件離職は使用者において受忍すべき場合にあたるというべきであり、その後、組合がビラ配布のための離職であると明示した場合でも、会社は業務の支障の有無とは関係なしに一切これを認めていないこと、会社が昭和四九年秋までの間の小沢らのビラ配布を種々妨害していたこと、昭和四三年頃より組合員を大阪支店保守常駐課等に集中して他の従業員との交流を遮断していることをも総合すると、会社は、組合のビラ配布によって他の従業員に組合の影響力が及ぶことを嫌悪し、参加人組合の組合活動に打撃を与えようとして、本件離職に対し二倍カットを行なったものであると推認するほかない。
以上説示したとおり、本件離職に対する二倍カットの措置は、当該組合員を組合活動の故に差別し、同時に、組合の弱体化を企図したものと推認せざるを得ないから、労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為を構成することとなる。してみると、会社が本件命令主文第一項記載の参加人組合員に対し、昭和五〇年夏期一時金及び同年年末一時金から控除した金額のうち二分の一相当額(これに対する年五分の割合による金員を含む)を返還することが、本件における相当な原状回復措置であるということができる。
六 結論
よって、本件命令主文第一項の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 松山恒昭 裁判官 下山保男)