大阪地方裁判所 昭和52年(行ウ)59号 判決 1979年11月07日
東大阪市稲田一〇一九番地の二
原告
濱口工業株式会社
右代表者代表取締役
濱口今雄
東大阪市高井田一四九四番地
原告
濱口今雄
右両名訴訟代理人弁護士
葛井重雄
同
葛井久雄
東大阪市永和二の三
被告
東大阪税務署長
松村勝彦
右指定代理人
坂本由喜子
同
安居邦夫
同
奥山茂樹
同
城尾宏
同
杉山幸雄
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者双方の申立
原告濱口工業株式会社(以下、原告会社という)
被告が原告会社に対し昭和五〇年八月三〇日付でなした
1 昭和四八年分法人税についての更正処分ならびに重加算税の賦課決定処分
2 昭和四八年一二月分源泉徴収にかかる所得税についての納税告知処分ならびに不納付加算税の賦課決定処分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
原告濱口今雄(以下、原告濱口という)
被告が原告浜口に対し昭和五〇年九月四日付でなした昭和四八年分所得税についての更正処分ならびに過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
被告
主文と同旨
第二原告らの請求の原因
一 法人税および源泉所得税関係
(一) 原告会社は、機械製造を業としている。
(二) 原告会社は、昭和四八年分法人税について別表(一)の申告欄記載のとおりの確定申告をしたところ、被告は、昭和五〇年八月三〇日付で原告会社に対し別表(一)の更正欄記載のとおりの更正処分および重加算税賦課決定処分をなした。
(三) さらに、被告は、同日付で原告会社に対し昭和四八年一二月分源泉徴収にかかる所得税について源泉所得税額一、二六〇万円、不納付加税額一二六万円、合計税一、三八六万円とする納税告知処分および不納付加算税賦課決定処分をなした。
(四) 右各処分がなされた経緯は次のとおりである。
即ち、原告会社は、昭和四八年七月二日第一地所株式会社(以下、第一地所という)に対し大阪府泉南郡南海町箱作二八七四番の四〇および同番の四一の山林合計一万四、八七九m2(以下、本件土地という)を売却したところ、被告は、右売却代金が一億六、六九〇万六、八〇〇円であつたのに、原告会社においてこれを一億〇、三九〇万六、八〇〇円と偽り、所得金額の基礎となる事実を隠ぺいし、六、三〇〇万円を過少に申告したものと認定し、また、右六、三〇〇万円について原告濱口が原告会社より取得したもので、これが原告濱口に対する賞与となると認定し、前記各処分に及んだ。
(五) しかしながら、原告会社は、第一地所に対し本件土地を真実一億〇、三九〇万六、八〇〇円で譲渡したのである。
即ち、原告会社は、昭和四六年二月三日第一地所から本件土地を代金一億二、一五〇万円で買受ける約束をし、内金六、〇七五万円をその頃支払い、本件土地所有権の移転登記手続を受けた。そして、右代金の残金については昭和四七年末までに第一地所において本件土地を工場用宅地に造成し、道路、上下水道など付帯工事を完了し、諸官庁の許可を受けた後に支払うこととなつていた。ところが、第一地所が右契約を履行せず、右工事をしなかつたので、原告会社と第一地所が話合つた結果、右契約は合意解除されることとなり、前記支払の六、〇七五万円を返還すること、契約不履行による損害賠償として四、三一五万六、〇〇〇円を第一地所が原告会社に支払うことで、両者に和解が成立したもので、原告会社は右和解金として昭和四八年七月一〇日一億〇、三九〇万六、八〇〇円を受領した。
したがつて、原告会社が本件土地所有権の譲渡により受領したのは、右金員のみであり、原告会社の代表者である原告濱口が別途に六、三〇〇万円を受領した事実は全くない。
(六) よつて、前記(二)および(三)の各処分は、いずれも事実誤認に基づく違法なもので、取消されるべきである。
二 所得税関係
(一) 原告濱口は、昭和四八年分所得税について別表(二)の確定申告欄および修正申告欄記載のとおりの確定申告および修正申告をしたところ、被告は、昭和五〇年九月四日付で同表更正欄記載のとおりの更正処分および過少申告加算税賦課決定処分をなした。
(二) 右処分がなされた理由は、前記一、(四)のとおり、原告濱口が昭和四八年中に原告会社より賞与として別途六、三〇〇万円を受領したと認定され、これについて確定申告がなされなかつたことにある。
(三) しかしながら、前叙のとおり、右処分は、事実誤認に基づく違法なもので、取消されるべきである。
第三被告の答弁
一 請求の原因一、(一)ないし(四)は認める。
二 同一、(五)および(六)は争う。
三 同二、(一)および(二)は認める。
四 同二、(三)は争う。
五 事実は請求の原因一の(四)、同二の(二)に各掲記の被告認定のとおりであつて、原告ら主張のような事実誤認はないから、本件処分はいずれも適法である。
第四証拠関係
原告ら
1 甲第一ないし第五号証
2 原告会社代表者兼原告濱口本人
3 乙第一五号証の成立は知らない。第一六号証については、官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。その余の乙号証の成立(第三、第四号証、第八号証の一、二については原本の存在も)は認める。
被告
1 乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし六、第六号証の一ないし四、第七号証、第八号証の一、二、第九ないし第一六号証
2 証人岡島米蔵、同宮本敏雄
3 甲号各証の成立を認める。
理由
一 請求の原因一、(一)ないし(四)、同二、(一)および(二)については各当事者間に争いがない。
二 そうすると、本計の争点は、(1)原告会社から第一地所へ譲渡された本件土地の代金額如何、(2)もし右代金が被告の主張する金額であるとするなれば、原告らの主張する金額との差額六、三〇〇万円を原告会社が隠ぺいしたか否か、(3)右差額六、三〇〇万円が原告会社から原告濱口に対する賞与となるか否かということの三点に帰着する。
よつて、右の各点につき判断する。
三 成立に争いがない甲第二号証(裁決書謄本)、第三号証(不動産売買契約書)、第四号証(示談契約証書)、第五号証(再売買予約附不動産売買契約公正証書)、乙第一、第二号証(土地登記簿謄本)、第五号証の一、三、五、第六号証の一、三(大阪国税局の照会およびこれに対する各回答)、第七号証(確認書)、第八号証の一、二(メモ。原本の存在についても争いがない。)第一一、第一二号証(大阪府公報)、第一三号証(宅地造成に関する工事の検査済証)、第一四号証(開発行為に関する工事の検査済証)、証人岡島米蔵の証言の一部、証人宮本敏雄の証言ならびに弁論の全趣旨によれば、
(1) 岡島米蔵は、第一地所と第一地所販売株式会社(以下、第一地所販売という)の双方の代表取締役であり、原告濱口は原告会社の代表取締役でもある。
(2) 第一地所販売は、代表取締役である岡島の個人会社であるが、昭和四六年二月一日融資を受ける目的で、その所有する本件土地を再売買の予約付きで、原告会社に対し代金六、〇七五万円で売渡す旨の売買契約を締結し、同月三日その旨の公正証書(甲第五号証)を作成し、その頃右代金を原告会社より受領した。
(3) その際、原告濱口は、右取引から生じる原告会社の所得の一部を除外し、法人税を回避する意図で、岡島と謀り、昭和四六年二月三日、本件土地につき売主を第一地所、買主を原告会社とし、譲渡価格を一億二、一五〇万円(同日授受の内金六、〇七五万円を含む)とする仮装の不動産売買契約書(甲第三号証)を作成した。
なお、本件土地はもともと工場用地となすことのできない土地であつたが、右仮装の不動産売買契約書では、第一地所において本件土地を昭和四七年末までに工場用宅地に造成するとの条件が附されていた。
(4) 岡島は、前記公正証書に基づき再売買の予約完結権を行使し、第一地所名義で本件土地を買戻し、原告濱口に対し、昭和四八年七月七日現金で三、五〇〇万円を、同年同月九日現金で二、八〇〇万円を、同月一〇日小切手で一億〇、三九〇万六、八〇〇円を支払い、現金で支払つた右六、三〇〇万円については第一地所の会計処理として架空の外注費を設け、これを米原組米原文雄に支払つたことにした。
(5) 原告濱口は、昭和四八年七月二日付で、前記仮装の不動産売買契約書記載の条件に反する債務不履行があるので、契約は解約されたとし、右契約書に記載されている支払済内金の返還として六、〇七五万円損害賠償金の支払として四、三一五万六、八〇〇円、以上合計一億〇、三九〇万六、八〇〇円を原告会社が収受することを内容とする示談契約書(甲第四号証)を作成し、これが真実の如く会計処理をした。
(6) その結果、原告濱口は、右六、三〇〇万円をその頃取得した。
以上の事実が認められ、右認定に反する甲第三、第四号証の各記載ならびに証人岡島米蔵の証言部分、原告本人尋問の結果は前掲各証拠、就中甲第五号証、乙第七号証、第八号証の二の各記載ならびに証人宮本敏雄の証言に照らして採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。
右認定の事実によれば、原告会社から第一地所へ譲渡(売買)された本件土地の代金は一億六、六九〇万六、八〇〇円であつたもので、原告会社において右代金のうちの六、三〇〇万円の所得を隠べいしたことは明らかであり、また原告濱口が取得した右六、三〇〇万円が賞与として原告会社から与えられたものと認定されてもやむをえないと考える。
四 そうすると、本件各処分の基礎となつた所得金額および課税要件のうち、その余の点について各当事者間に争いがないことは弁論の全趣旨より明らかであるから、被告のなした本件各処分は、いずれも適法であり、結局原告らの請求はいずれも失当たるを免れない。
五 以上の次第で、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 井深泰夫 裁判官 市川正己)
別表(一)
<省略>
別表(二)
<省略>