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大阪地方裁判所 昭和53年(モ)4575号 決定 1978年7月24日

申立人 実藤雍徳 外一一一名

主文

当裁判所昭和五三年(ワ)第二三一七号有害物質排出規制等請求事件について、申立人らに対し、いずれも訴訟上の救助を付与する。

理由

一  申立人らの本件訴訟救助申立の趣旨及び理由は、本件記録に編綴してある昭和五三年四月二〇日付申立書及び同年七月七日付申立補充書のとおりであるから、ここにこれを引用する。

二  当裁判所の判断

1  本件疎明資料によれば、申立人らは、いずれも大阪市西淀川区に居住し慢性気管支炎、気管支ぜん息又は肺気腫等の呼吸器系の疾病に罹患し、公害健康被害補償法による認定を受けた者又はその相続人で、本案訴訟について勝訴の見込みがないとはいえないものであることが疎明される。

2  そこで、申立人らが訴訟費用を支払う資力を有しないか否かについて検討する。

まず、民事訴訟法第一一八条にいう「訴訟費用」とは、文理上からも、同法上の規定の位置からも救助される訴訟費用、すなわち「民事訴訟費用等に関する法律」所定の費用と解するほかなく、ここにいう「訴訟費用を支払う資力」とは、右費用を負担しうる経済的能力をいうものと解すべきである。もつとも、訴訟を準備、遂行していくために必要不可欠な費用、すなわち訴訟提起準備及び遂行のための調査研究費、証拠収集費、通信連絡交通費、書類作成謄写費、弁護士に支払う費用等につき多大な出捐が予測される場合には、これが右訴訟費用を支払う資力に影響を及ぼすことは明らかであるから、これを慮外に置くことは相当でない。これを本件に即していえば、申立人らの本案訴訟は大気の複合汚染に対する差止並びに金銭賠償を求めるものであり、その訴訟活動は法律的にも科学的にも多くの未開拓の分野に及ぶものであつて、申立人らにおいてこれを維持遂行するためには、法定訴訟費用のほかに前記の如き訴訟準備遂行のための諸費用に多額の出捐を余儀なくされること、とりわけ最も早い発病の時期と主張する昭和二四年ごろにまで遡り、且つ、エネルギー源の変革が介在することもあつて、膨大な資料の収集を要するとともに、これが分析検討などの作業にかなりの設備と時間に加えて、高度の科学的知識を多量に駆使しなければならず、既に本件訴訟提起の準備段階で支出した相当多額の費用に止まらず、今後さらにこれらに要する費用が相当多額にのぼることは推測するに難くないところであつて、この点の申立人らの疎明は首肯するに足りるものである。そうだとすれば、これら諸費用が申立人ら、ことに後述のやや資力のある申立人らに無視できない負担を強い、ひいては訴訟費用を支払う資力を減殺するに至ることは動かし難い。

3  しかして、「訴訟費用を支払う資力なき者」とは、申立人本人及びその家族の必要な生活を害することなく訴訟費用を支払うことができない者をいうのであり、この判断に当つては、申立人の属する世帯の資力をも総合的に考慮しなければならないというべきである。以下この見地から検討する。

(イ)  まず、本件疎明資料によれば、申立人中川繁子、同戸田ツルエ、同東タヅル、同川久保益生の四名は、いずれも生活保護法による扶助を受けており、同平松ナラエについてはその夫が同法による扶助を受けていることが明らかであるから、右五名の申立人は、いずれも訴訟費用を支払う資力なき者と認められる。

(ロ)  次に、その余の申立人につき、それぞれ世帯を中心として考察すると、本件疎明資料によれば、申立人の世帯の大部分は収入がなく、また若干収入のある世帯が認められるけれどもその額が少額で生活を維持することができないか、又はようやく維持できる程度の者がほとんどであつて、例外的にやや資力があると判断される申立人らの世帯についても、前記2に記載した如く、本件訴訟遂行のための諸費用が膨大であるとの事情を考慮するならば、とうていその負担に耐えられないものというべきであるから、結局その余の申立人らもいずれも訴訟費用を支払う資力なき者と認められる。

4  以上の次第で、申立人らの本件訴訟救助の申立はいずれも理由があるのでこれを相当と認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 石田眞 島田清次郎 土屋文昭)

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