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大阪地方裁判所 昭和53年(ヨ)3130号

申請人

山口美幸

右代理人弁護士

吉岡良治

並河匡彦

被申請人

社会福祉法人 愛徳姉妹会

右代表者理事

村山美栄

右代理人弁護士

平田薫

主文

被申請人は、申請人を被申請人の従業員(聖家族の家の保母)として仮に取扱え。

被申請人は申請人に対し、昭和五三年六月以降本案判決確定まで、毎月二五日限り金一一万六七六五円、昭和五三年六月以降毎年六月一〇日限り金二〇万円、一二月一〇日限り金二七万円、三月二五日限り金五万円を仮に支払え。

申請人のその余の申請を却下する。

申請費用は被申請人の負担とする。

理由

(双方の求めた裁判)

一  申請人

被申請人は申請人に対し、聖家族の家の保母として仮に取扱い、かつ、昭和五三年六月以降本案判決確定まで、毎月二五日限り金一一万六七六五円、昭和五三年六月以降毎年六月一〇日限り金二二万一八五三円、一二月一〇日限り金三〇万三五八九円、三月二五日限り金五万八三八二円を仮に支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

本件申請を却下する。

(当裁判所の判断)

一  疎明によれば、被申請人は昭和二八年五月一日第一種社会福祉事業を目的として設立され、肩書地(略)及びその隣接地に養護施設として「聖家族の家」、乳児院として「聖母託児園」、肢体不自由児施設として「聖母整肢園」を設置していること、申請人は昭和五二年三月被申請人の養護施設「聖家族の家」(以下、単に施設ともいう)の保母として仮採用、三ケ月の試用期間を経て本採用となったこと、被申請人は申請人に対し昭和五三年五月一二日解雇を通告したことの各事実が認められる。

二  本件解雇に至る経緯として、疎明によれば次のとおり認められる。

1  申請人は昭和五二年五月ころ日本社会福祉労働組合聖家族の家分会(以下、単に分会という)に加入したこと

分会は昭和四五年一一月ころ結成されたが、当初から施設により分会員に対する分会脱退強要、退職強要、身分上の不利益な取扱、組合員と非組合員との交際の妨害等がなされ、昭和五〇年以降は分会の活動も停滞していたこと

2  分会には前記申請人の加入の後昭和五二年採用の新任保母ら数名がさらに加入して、組合活動も活発化の見通しがたち、申請人は分会機関紙担当となり、同年八月五日機関紙「しんらい」を発刊するに至ったこと

右機関紙には、この一年半余の沈滞を脱して今後の積極的な組合活動を訴えるくだり、新しい職場での疑問や問題点について積極的にとりくみたいとの新任職員の感想文(申請人が無記名で投稿)、養護問題研究会や学習会への参加のよびかけ、組合についての理解を求める宣伝文、組合掲示板を元の位置にもどそうとの決意表明文等が掲載されたこと

ところが、右発刊後まもない同月一一日申請人は施設事務長シスター小池に呼び出され、事務長は申請人に対し、「右掲載の新任職員の感想文が申請人の手になるものか。申請人が分会員であるか。分会員ならば今後あいさつもできない。施設の方針にあわなければ退職せよ。組合をやめるか施設をやめるか考えよ。」等と迫ったこと

そして、これをはじめとして同年九月末ころまでの間、施設側は事務長や主任が新分会員らを次々と呼び出し、直接組合脱退ないし退職を要求したうえ、その家族や出身学校にまで組合加入の事実を連絡してこれらを通じても組合脱退あるいは退職の圧力を加えたため、新分会員のなかには組合を脱退し、あるいは退職する者もあらわれたこと

このほか、設施側は非組合員職員に対しても、組合員との交際等を察知するや呼び出しては組合員との接触を禁じ、あるいは退職を迫る等したこと

なお、この時期同年九月一三日の施設における保母会で申請人の上司久米主任から申請人の保育について非難が為され、その後数日して申請人は右主任に呼び出され、「組合に入っているのか。他の新任職員で組合に入っているのは誰か。ここはキリスト教の精神でやっているのだから他の施設にかわったらどうか。」等と言われたこと

このような施設側の攻勢に対し、分会は同月二七日日本社会福祉労働組合大阪支部と連名で、これを不当労働行為であるとして、施設に強く抗議を申し入れ、その中止と謝罪を要求したこと

この結果、施設側も分会員に対する組合脱退強要や退職強要のあったことを認め、同年一〇月一一日には「施設が新任職員に対して組合員であることをもって学校家庭を通じて不利益になるような発言行為があったことを認め反省する。今後一切組合員であることをもって不利益になるような行為は行わない。」等と記載した確認書を分会側ととりかわさざるを得なかったこと

3  同年一一月ころになると、分会は年末一時金闘争に向けて施設職員に対するアンケート調査を行い、あるいは分会結成当時からの懸案である児童の近隣幼稚園への通園問題の資料集めのため申請人をはじめとする分会員らが施設周辺の幼稚園を訪問する等その活動も活発となり、同月下旬ころには施設に対し、職員の増員、幼稚園児の他の幼稚園への通園、組合掲示板をもとの食堂に戻すこと等の要求をかかげて、ここ久しく為されていなかった団体交渉を申し入れたこと

ところが、同年一二月にもたれるようになった団体交渉も途中から施設長が病気とのことで施設側が応じなくなったこと

このころ施設では理事等の入れかえが行われ、昭和五三年一月には新しく理事副施設長に中田浩、理事に岩田仁孝、事務長に利見慶三がそれぞれ就任した旨分会に通知され、同月末には新理事ら紹介の場がもたれ、分会側からは奥山分会長、申請人、日本社会福祉労働組合大阪支部の林執行委員が参加したこと

しかしながら、分会側では施設の従前からの組合敵視の態度や新理事らの経歴等に照らし、新理事らが活発化する組合対策のため施設から招聘されたのではないかとの警戒の念を有していたこと

4  同年二月一八日ころ、申請人は久米主任から近く申請人担当のホームの件を話し合うための保母会を開く旨突然告げられ、さらに同日申請人と共に同一ホームを担当する田中保母(非分会員)から「今後申請人と一緒にやってゆけぬ。」等と言われ、同月二一日ころ開催の臨時保母会においてはシスター榊原と久米主任から申請人に対して保育方法や人格面について一方的に非難が為されたうえ、最後に申請人の保育についての問題は事務所の判断にまかせる旨決定されたこと

これをうけて同月下旬ころから申請人は中田副施設長や利見事務長から何度も呼び出されて長時間にわたる詰問調の事情聴取を受け、同年三月一一日、一三日、一四日には今回非難を受けたことについての弁明書等の提出を要求されたこと

これに対し、分会側では、本来保育について保母たちが話し合う保母会において事前になんらの弁明や言い分聴取の機会もないまま突然申請人に対する非難が一方的に為され、その後の事務所での事情聴取も当初から威圧的なもので公平な立場から事実関係を調査するものとは解し難いとして、これを組合対策のため理事らを一新した施設側による新たな分会攻撃の一端であり、主要活動家である申請人に対する不当な攻撃であるとの判断のもとに、申請人に右文書提出要求に応ずる必要はない旨指示し、申請人もこれに従い、同一四日には施設に対し組合の指示により報告を拒否する旨の文書を提出したこと

このような分会側の抵抗にあい、施設側はその後の分会側との話し合いを経て、結局申請人が今回の件につき反省しているとの文書を提出すればそれでよい旨提案し、これをうけて分会側も妥協し、同月二九日申請人は「施設に対しこれまで迷惑をかけたことを反省する。今後の職務に支障なきよう心がけるので御指導願う。」旨記載した文書を提出したこと

ところが、同年四月一日申請人は事務長から「反省しているのはわかったが両親を呼びたい。」と言われ、これを拒否したところ、同月一六日さらに「反省文では意味がない。誓約書始末書を提出せよ。」と言われ、すでに施設側で「今回保母の資質の問題を組合問題と称して組合の介入を招き報告書の提出を拒否したことを反省し二度としない。」等と記載し準備した文書二通を示され署名を要求されたが、申請人はこれも拒否したこと

この間、施設は申請人の出身大学での学生時代の活動歴等について調査したうえ、同月下旬ころには副施設長と事務長が申請人の両親宅に赴き、申請人が職場の者にきらわれている、組合に入って人がかわった、このままでは赤軍派のようになってしまう等と組合を脱退させるよう働きかけたこと

5  一方、同年三月末ころ急に施設から就業規則改定の話がもちあがり、同年四月四日職員会議でその改定文が読みあげられたものの、分会員の発言は許されず、同月八日までに疑問があれば申し出るようにとのことであったが、分会としては改定内容が明らかでないのでこれを記載した文書を職員全員に配布することと意見提出期限を延期することを施設に対し文書をもって申し入れ、他方では、今回の改定手続が非民主的なものである等と記載した「組合ニュースNo.1」を職員に配布したこと

これに対し、施設は右申し入れ文書をつき返すとともに、右組合ニュース配布について同月一一日の保母会で分会を非難し、分会あてに施設長から文書で右組合ニュースの内容が事実に反し、大多数職員を煽動して施設業務を誹謗し施設を混乱せしむる目的のものであるとし、その取り消しと陳謝、将来かかる文書の配付をしない旨の誓約書を要求したこと

右の施設の要求に対しては、分会は同月二一日「しんらい3号」で反論して抗議文を掲載し、これを申請人ら分会員が職場等に配布したこと

しかしながら、すでに、就業規則変更届は、施行期日を同月一日とし、同日付の労働者代表による右変更について異議なき旨の意見書添付のうえ、同月四日労働基準監督署に提出されていたこと

6  同年五月一日午後七時ころ、申請人担当の女児が他児とけんかをしてスチームの角で額をうちけがをしたが、その際申請人はまもなく出血も止まったことやその女児の元気な様子等からたいしたことはないと判断し、バンドエイドや薬品を塗付したカーゼを傷口に貼付する等したに止まっていたところ、午後九時ころ交替に来た夜勤保母から医者にみせた方がよいと指摘され、そのとき傷口も悪化していることに気付いたこと

そして、翌日病院での診断により右女児のけがは五針の縫合治療を要する前額部切創であることが判明したこと

右幼児のけがの件について、申請人は同月三日副施設長や事務長に呼び出されてきびしくしかりつけられたうえ、けがの経過等の報告書の提出を命ぜられ、これに応じて報告書を作成し提出するも書き直しを命ぜられ、昼ころ書き直して提出すると、なおこれまでの心の動きを書いて提出するよう命ぜられ、その午後「心の動き」を書面にして提出したが、さらに先ほど提出した報告書をもう一度書き直すよう命ぜられ、同月五日書きあげて提出したところ、今度は副施設長が事情聴取をして調書を作成すると言い出したため、申請人もこのうえ何をするのかなどと抗議し、副施設長も調書作成は断念したこと

その日申請人は施設側からさらに呼び出されて、前記分会機関紙「しんらい3号」の配布について就業規則四四条一九項違反の行為であるとして今後施設の許可なく配布しないよう警告する旨の申請人あての警告書を手渡され、今後一週間は勤務に出ないよう指示されたこと

右申請人あて警告書は申請人が結局受け取りを拒否したため、同趣旨を記載した分会あての警告書とともに分会長に交付されたこと

そして、同月一二日申請人は副施設長から、就業規則第八章解雇第四七条(解雇基準)の部分をコピーして同条の左記条項にまる印をした文書を添付した解雇辞令及び退寮通告書を交付されたこと

(3) 勤務成績著しく不良又は労働能率が著しく不良であるとき

(7) 施設の経営方針に背反する行為をしたとき

(8) 施設職員としての自覚に欠けるもの

(9) 規則紊乱のもの

(10) 施設の社会的信用を保持する上において適当でないもの

以上のとおり認められる。

三  ところで、被申請人は解雇理由として次のとおり主張する。

1  児童の健康生命身体の安全に対する配慮の欠如

申請人は、児童の身体生命健康に対する注意配慮に全く欠け、次に述べるような失態や不誠実な態度が度重なってはもはや単なる一過性の不注意や過失としてすますことはできず、事柄が生命身体に関することだけに、申請人を排除しなければ、施設としても責任ある養護保育が不可能なところまでたち至った。

(一) 申請人は、昭和五二年九月九日、目の上を負傷し医師により安静を命ぜられていた三歳の女児の寝ている寝台へ、日常動作の活発な男児が望むからというだけの理由で行かせ、寝台の上で遊ばせていたことがあり、主任がみとがめて注意したが反省の態度は示さず、「ここでは子供の安全安全といって何もできない。」などと右注意が不当であるかのごとき開き直りの発言をした。

(二) 申請人は、昭和五二年七月二四日ころ、施設で児童たちを連れて舞子キャンプに出かけた際、付添っていた一名の児童(他の保母は二、三名に付添)を駅のホームから転落させるという大失態を演じたにもかかわらず、ほとんど反省の色を示さず平然としていた。

(三) 申請人は、昭和五三年三月ころ、かぜをひいた児童に半ズボンをはかせたまま放置し、主任が注意しても申請人は「長ズボンがなかった。」などと言って平然としていた。(施設には長ズボンは常備している。)

(四) 申請人は、昭和五三年五月一日、担当の女児が他児と争ってスチームの角で額を打って長さ約一五ミリメートルの五針の縫合を要する前額部切創の傷害を負ったが、隣室の上司にも廊下で出会った施設長にも報告せず、女児の額にバンドエイドを貼っただけで放置し、幸い夜勤保母が発見して応急手当をし、その後病院で縫合治療したため大事に至らなかったものの、申請人は負傷女児を主任が病院に連れて行くとき、非番を理由に同行を拒否しあるいは積極的に同行を求めることもなく、その後の施設側の事情聴取の際にも真摯な反省の態度はみられなかった。

(五) 申請人は、昭和五二年一〇月ころ、担当児童数名を三方が自動車の往来する道路で囲まれている児童公園に連れ出した際、保母が終始付添って監視していなければ危険であるにもかかわらず、児童達をおき去りにしてひとり施設に帰ってきた。

(六) その他申請人は日常保育の場で児童らを危険にさらすような安全上問題のあるやり方を重ね、上司同僚の注意指導にもかかわらず改まらなかった。その一端を列記すると左のとおりである。

(1) 児童がタンスの上にのぼりテーブル上のテレビを押し倒すようにして遊んでいる危険な状態を放置した。

(2) 寝室の二段ベッドの上で二人の男児があばれておもちゃを螢光灯に投げつけたりしているのを下で他の児童が遊んでいるにもかかわらず放置していた。

(3) 火をつけたオーブンを開閉していたずらしている児童がいても平気であった。

(4) 児童におもちゃを持たせて寝かせると口に入れるなどして危険であるのにこれを許していた。

2  施設の対外的信用の毀損

昭和五二年一二月ころ、申請人は施設の使者を装って近くの幼稚園を訪問し、施設内の幼稚園が閉鎖的で不備であるかのように誹謗中傷の発言をするなどして施設の対外的信用を傷つけた。

3  自覚の欠如した品性下劣な行為

早出遅番の保母は児童と食事をともにして保育にあたることになっており、給食指導手当をうけているが、申請人は食券を講入することなく子供用の食事をごまかして横取りしていた。

4  指示命令違反

昭和五三年三月ころ、申請人の同僚保母及び主任保母から申請人の保育態度、協調性、保母適格性に疑問があり、到底これ以上ともに同一ホームを担当しえない旨の申出が施設になされ、施設としては責任ある運営を行ってゆくために事情を正確に把握し適切な方針を出す責務があり、当事者である申請人から事情を聴取しようとしたところ、申請人は「子供にお祈りをさせる必要はない。信教の自由である。」旨述べたほかには不当にも一切の報告説明を拒否し、同月一四日には「組合の指示により報告は拒否する。」旨の文書を提出した。

5  施設の方針に背反した不適格な保育と非協調性

キリスト教の精神に基き暖い愛情と平和な雰囲気の中で日常生活全般にわたり児童を厳しく指導してしつけるという施設の方針に対し、申請人はこれに従おうとせず、児童を自由放任にすることが個性をのばすなどという施設の方針に反する不適切な考え方を吹聴し、現場で勝手にその考え方を実行し、上司同僚からの注意指導によっても改めようとせず、協調することもなく、施設の運営に障害と混乱をもたらした。左にその一端をあげる。

(一) 施設はキリスト教の博愛精神を基本として、児童養護を行い、国及び市も宗教的な雰囲気の下で保育にあたることを認めているもので、その旨職員採用の際に明かにし、新任職員研修の際も宗教教育が実施されており、食前就寝前には児童らにお祈りをさせることは施設の方針であるにもかかわらず、申請人は児童らにお祈りをさせないことがあり、「信教の自由があり、お祈りは必要ない。」などと発言し、明かに施設の保母としての不適格を示している。

(二) 申請人担当の児童がひきだしから折紙の束をもち出して中庭にまきちらかしていたので、施設長が申請人に注意したところ、反抗的な表情を示し、「構わないと思う。」などと発言した。

(三) ひるね時間中担当児童が騒いだり、他のホームに出かけて遊ぶのを放置してしつけをしないばかりか、他のホームに迷惑をかけ、注意されると「子供がひるねをいやがるなら別にさせなくてもよいと思う。」などと述べた。

(四) 雨の日、児童らが戸外で裸足で走りまわっているのを放置した。

(五) 児童が食事中に立って食べたり、客(ボランティア)の食事を奪ったりして食事の態度が乱れているのを放置した。

(六) 部屋中足の踏み場もないくらい散乱していても平気であり、かたづけようともしない。

(七) 本を読む時間、テレビをみる時間等に一部の児童が走り回って騒いだり、水道で水遊びをし、床を水びたしにしても平気であった。

(八) 児童が洗面台の中に両足を入れ、そのふちに腰をかけて歯をみがいているのを放置した。

(九) 貴重品や危険物等が入っており、児童らがあけてはいけない場所を児童らが開けても平気であった。

(一〇) 児童らが脱いだ服シャツは裏返ったまま、パンツズボンは裏返しでしかもくっついたままというように脱ぎっぱなしであるのに、注意して整頓を指導しようともしない。

6  児童福祉施設としての機能を十分に果たすべき被申請人施設としては、右に述べたような申請人の行為の累積を前にしては、申請人には到底施設の保母としての適格がなく、雇傭関係を継続することは困難と判断せざるを得ず、就業規則第四七条三、七、八、九、一〇の各号に該当するとして解雇せざるを得なかったものである。これ以上申請人との雇傭関係を維持した場合、被申請人としては児童の生命身体の安全、しつけ等に関し、責任は持ち得ず、職員協調のうえ保育教育の実をあげることは到底できないという状況にたち至って止むを得ず行われたのが本件解雇である。

四  そこで以下検討する。

1「児童の健康生命身体の安全に対する配慮の欠如」について

(一)  疎明によれば、申請人がけがをして寝ている女児の寝台に男児を同行したことがあるやに窺われるも、これをもってただちに児童の健康に対する配慮が欠如しているものとはいい難く、その他前記三1(一)の事実を認めるに足る疎明はない。

(二)  疎明によれば、申請人担当児童がキャンプに出かける途中駅で電車に乗る際ホームと電車の間に一瞬足をとられたことがあることは認められるも、転落したとか、これが大失態であるとして問題になったとか、申請人の付添能力が劣るとか、申請人が反省の色もなく平然としていたとかの事実はこれを認めるに足る疎明がない。

(三)  疎明によれば、申請人が早朝おもらしをした児童に着替えをさせ、長ズボンがみあたらなかったので、とりあえず半ズボンをはかせていたことが認められるものの、長ズボンの管理等その場の状況が判然とせず、申請人の処置の適否をにかわに断じ難く、主任の注意に対し申請人が平然としていたことを認めるに足る疎明もない。

(四)  昭和五三年五月一日午後七時ころ申請人担当児童が幼児とけんかをしてスチームの角に頭を打ち五針の縫合を要する前額部切創を負ったことは前記二6のとおりであり、この事実関係からすると、申請人にはけがの発生とその程度の判断の過誤により児童にいちはやく適切な治療を受けさせられなかった点において、落度があり、その責めを負うべきである。

しかしながら、疎明によれば、申請人が翌日久米主任が右児童を病院に連れて行く際同行しなかったのは、申請人が同行を申し出たのに同主任に固く拒否されたためこれを断念したことによるものと認められ、申請人が非番を理由に同行を拒否した事実はないし、積極的に同行を求めなかったとして非難すべきものともいい難い。

また、その後の施設による申請人に対する事情聴取のありさまは前記二6のとおりであって、申請人は調書作成は拒否したものの、経過報告書や心の動きと称する文書の提出には何度も応じており、提出された文書が不備なものであったとの疎明もなく、その他申請人に真摯な反省の態度がみられなかったことを認めるに足る疎明はない。

(五)  申請人が担当児童を公園に置き去りにしたとの前記三1(五)の事実については、久米悦子の陳述録取書中にはこれに沿う部分が存するけれどもただちに採用し難く、他にこれを認めるに足る疎明はない。

(六)  前記三1(六)(1)ないし(4)に列記された児童の行動は、保母の目のとどかない場合をとらえれば、いずれも育ちざかりの幼児たちならしでかしても不思議でない悪戯のたぐいとも考えられ、もちろんその危険な部分については十分な監視としつけを要することは当然ではあるものの、これら児童の行動が申請人の保育のせいであるとか、申請人がことさらこれらを放置し、上司同僚の忠告を無視して指導を怠ったとかの事実を認めるにはいまだ疎明が足りないし、その他申請人が児童を危険にさらすような安全上問題のある保育を重ねたことを認めるに足る疎明もない。

(七)  また、右(一)ないし(六)のうち(四)を除く外は、従前施設側によって、個々に問題とされたり処分の対象とされたりした形跡は疎明によっても認められない。

ただ、前記二2、4のとおり、昭和五二年九月と昭和五三年二月の保母会で主任らから申請人の保育に対して非難がなされたことは認められるけれども、後記四4認定の保母会に至る経緯や前記二4のとおり、この件を施設が同年三月末ころ申請人に反省文を提出させて一応の結着をつけたこと、その後同年四月中旬ころに施設側がさらに申請人に署名を要求した始末書の記載内容あるいは申請人の両親宅での事務長らの言動がいずれも組合を意識したものであったこと、そして問題となった保育現場に対して何らの措置もとらなかったことからすると、申請人の失態や不誠実な態度が度重なり放置しえない事態にあったとはいい難いし、施設もそうは考えていなかったというべきである。

2「施設の対外的信用の毀損」について

疎明によれば、養護の一環として近隣地域の幼稚園に施設の児童をかよわせてはどうかとの意見は従来から分会の主張するところであり、申請人が昭和五二年一一月ころ分会員として近くの幼稚園に調査資料収集のために赴いたことが認められ、かような行動が慎重な配慮を必要とする性質のものであることはもちろんではあるけれども、これをもってただちに申請人が施設の対外的信用を傷つけたとは為し難く、また、申請人が施設について誹謗中傷の発言をしたことを認めるに足る疎明はない。

3「自覚の欠如した品性不劣な行為」について

疎明によっても、申請人が子供用の食事をごまかして横取りしていたことを認めるに足りない。

4「指示命令違反」について

昭和五三年二月の保母会において申請人がその保育方法や人格面に問題ありとして主任らから非難を受けたことやその後の施設側の事情聴取の際報告を拒否して同年三月一四日組合の指示により報告を拒否する旨の文書を提出した事実は前記二4のとおりである。

しかしながら、疎明によっても、主任が保母会という公の場で申請人を非難する前に、申請人に対し組合脱退や退職をせまることはあっても、上司ないし先輩として十分な指導や助言をし、あるいは保育について十分話し合う場をもつといったことがなされた形跡がないこと、また、前記二4のとおり、事情聴取の状況やその後の施設側の分会敵視に類する言動等からすると、分会側が右保母会以後の事態を分会員である申請人に対する攻撃のためのものとして反発し抵抗したのもあながち首肯し難いものともいい難いこと、そして、この件については結局施設と分会との妥協により申請人が同月二九日反省文を提出することにより一応の結着をみたものと考えられることからみても、いずれにしろ、同月一四日時点の報告文書提出拒否等をもって指示命令違反として解雇の理由とはなしえないものというべきである。

5「施設の方針に背反した不適格な保育と非協調性」について

(一)  疎明によれば、施設がキリスト教の精神に基き、宗教的な雰囲気の中で養護保育にあたっていることや児童の生活指導やしつけの一環として食前就寝前に「お祈り」がなされていたこと、申請人は昭和五三年二月の保母会で保育方法等を非難される以前には、たまに担当児童らの様子に応じて、「お祈り」をさせないこともあったことが認められる。

しかし、疎明によれば、児童のそれぞれの状態に応じて「お祈り」をさせないことは申請人に限らず他の保母にも時にみられた現象であり、施設側が従来この件について今回のように厳しく対処した例はないことが認められ、ことの性質上からみても、対象が幼少児童であることからして個々の事態に応じた柔軟な対応が必要な場合もありうるのではないかとも考えられ、申請人が「お祈り」の件に関して右従来の慣例に反する態度に至っていたものとは認め難い。

しかも疎明によれば、申請人は前記保母会で問題にされて後は必ず「お祈り」を児童らにさせるようにしており、保母会前もほとんどの場合は「お祈り」をさせていたことが認められるので、申請人が「お祈り」についてことさら施設の方針に反する意図を有しているものとは認め難い。

なお、疎明によれば、右保母会等において施設側の追及に対し、申請人が「信教の自由があり、お祈りは必要ない」等と発言したことが認められ、かような発言が一般論としてなされたものとしても、キリスト教施設関係者に対するものとしては不必要に相手を刺激し、いささか不穏当のきらいがないではない。しかし、これも、右保母会等で突然一方的に非難をうけた申請人がこれを組合員であることを理由とする施設の不当な攻撃であるとして強く反発しての言辞であったものと考えられ、その後は児童に必ず「お祈り」をさせていること等からすると、右発言をとらえてただちに申請人を施設保母不適格者とはなしえない。

(二)  前記三5(二)ないし(一〇)について

ここに列記された児童の行動は、前記四1(六)と同様に、保母ひとりで一〇人前後の児童をかかえている状態で保母の目のとどかない瞬間をとらえれば、いずれもいたずらざかりの児童たちならありそうなことであり、必ずしも保母のせいとも言い難い面があるやに考えられるし、これらが申請人の施設の方針に反した不適切な保育によるもので、申請人がことさら放置し、上司の注意に反抗したと認めるには疎明が足りないというべきである。

(三)  ただ、疎明によれば、申請人が同一ホーム担当の同僚先輩の田中保母や上司の久米主任保母との関係がうまくゆかず、保育についての十分な指導や助言を受けあるいは話し合う機会ももたないほか、日常会話等においてもよそよそしい状態であった等幼少児童を預かり保育にあたる保母たちのチームワークにいささか問題があったことが認められる。

しかし、かような事態をまねいた原因については、前記のように申請人の保育や人格にのみに帰するにはいまだ疎明が足りないし、施設の組合敵視あるいは組合員と非組合員との交際嫌悪が保育現場の人間関係に影を落としていたことは無視しえないのである。すなわち、施設側から分会脱退や退職の強要を受ける等した申請人が、施設側の意を体した主任らに対し反感をもったであろうことは容易に推測できるし、学校を出たばかりで本来ならば先輩の指導助言により保母としての研鑚を積むべき申請人がこれを十分受けられなかったことによる保育面での未熟な点や至らぬ点がある程度存したであろうことも推察するに難くないのであるが、これらの点に対し主任らがことさら厳しい目を向けたとも窺われないではなく、前記解雇理由とされた各項目のうちかなりの部分それ自体がこのことの証左とも解されないわけでもない。

従って、保育現場の人間関係の改善は、施設及び何よりも児童らにとって急務というべきであるが、これを申請人に対する一方的不利益処分をもって為すべきものとは到底いい難いのである。

6 以上のようにみてくると、施設の主張する本件解雇理由のうち検討の余地のあるものといえるのは、せいぜい前記四1(四)で認定した申請人担当女児のけがの発生とその程度の判断の過誤により児童にいちはやく適切な治療を受けさせ得なかった点ということになるが、疎明によれば、申請人には従前右けがの件のような事故等特段の失態もみあたらず、また、このようなけがの発生は他の保母の担当児童にもたまに存し、けがの発生と事後処置の過誤を理由に報告書の提出を求められたり、まして、処分の対象となった例も従前全くなかったことなどからすると、右をもって申請人を解雇するのははなはだ酷というほかなく、解雇権の濫用といわざるを得ない。

のみならず、施設があえて右程度の理由をもって申請人を解雇したのは、前記二認定の解雇に至る経緯等を勘案すると、申請人が分会に加入し、積極的に活動したからにほかならず、申請人が分会員でなかったならば、本件解雇はなされなかったであろうと認められるので、本件解雇は不当労働行為にあたるものというべきである。

従って、本件解雇は右いずれの点からするも無効であって、被申請人の主張は採用できない。

五  そうすると、申請人は依然として被申請人聖家族の家の保母として従業員たる地位を保有し、被申請人に対し賃金請求権を有するものというべきである。ところで、疎明によれば、被申請人の従業員は被申請人から毎月二五日限り当月分の賃金の支払を受け、期末勤勉手当として少くとも毎年六月一〇日限り基本給の一・九ケ月分、一二月一〇日限り二・六ケ月分、三月二五日限り〇・五ケ月分位の金員の支払を受けており、申請人の本件解雇当時の一ケ月の平均賃金は金一一万六七六五円であったことが認められる。

右事実によれば、本件解雇がなければ、申請人は被申請人から少くとも主文第二項程度の賃金の支払を受け得たとみるのが相当である。

六  申請人が賃金のみによって生計を維持している労働者であり、他に資産のないことはこれを窺うに難くないところであるから、本案判決の確定を待っていては回復し難い損害をこうむるおそれがあるものというべきである。このことは申請人が独身の女性であり、両親が大阪府下に居住していることによっても何ら左右されるものではない。

七  以上の次第で、本件申請は主文第一、二項掲記の限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 矢延正平)

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