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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)1897号 判決 1981年3月27日

甲事件原告(乙事件被告) 株式会社気泡材研究所

甲事件被告(乙事件原告) マルアイ株式会社

主文

(甲事件)

1  甲事件被告はその販売する浮子および浮子のカタログその他の印刷物に別紙表示目録記載の表示を使用してはならない。

2  甲事件被告は同事件原告に対し金二〇四万七五〇〇円およびこれに対する昭和五三年四月一一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  甲事件原告のその余の請求を棄却する。

(乙事件)

4 乙事件原告の請求を棄却する。

(訴訟費用の裁判)

5 訴訟費用は甲乙事件を通じこれを三分しその一を甲事件原告兼乙事件被告の、その余を甲事件被告兼乙事件原告の各負担とする。

(仮執行の宣言)

6 この判決の1、2項は仮りに執行することができる。

事実

第一申立

〔甲事件〕

一  請求の趣旨

1 主文1項と同旨

2 甲事件被告(以下単に被告という)は同事件原告(以下単に原告という)に対し金二一五〇万円および内金一〇〇〇万円については昭和五三年四月一一日から、内金一一五〇万円については同五五年七月一六日から支払ずみに至るまで各年五分の割合による金員を支払え。

3 被告は「日刊水産経済新聞」に本文の一・五倍の活字で別紙謝罪広告文案書記載のとおりの謝罪広告文を三回掲載せよ。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

5 仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

〔乙事件〕

一  請求の趣旨

1 原告は、「被告が製造販売する別紙表示目録記載の表示を付した漁業用浮子(商品名「パール」)は、原告が製造販売する漁業用浮子(商品名「ビニー」)と同一の品名表示を使用しているため、右原告商品と誤認混同を生ぜしめまたは生ぜしめるおそれがある。」旨を文書または口頭をもつて陳述流布してはならない。

2 原告は被告に対し金二〇〇万円およびこれに対する昭和五三年六月一三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は原告の負担とする。

4 2項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二主張

〔甲事件〕

一  請求原因

1 不正競争行為の差止請求

(一) (原告の営業とその商品)

原告は浮子(水中で漁網を所定の形状に保たせるための用具で従来は硝子球やコルク製のもの等が用いられていた)の製造販売を専業とする会社であり、昭和四〇年頃からはA・B・S樹脂を材料とする海中用浮子を製造し、これに「ビニー」ないし「VINY」なる商標(以下、単に「ビニー」と表記する)を使用して販売しているものである。

(二) (原告商品の表示とその周知性)

(1) ところで、原告の右「ビニー」商品には貫通式(球形)のものや楕円形のものなど大きさ、形状、性能(耐圧性)を異にする種々のものがあり、これら規格の異なる商品はそれぞれ区別して取引されるのでこれを簡単かつ的確に区別するための表示(名称)が必要である。そこで、原告は昭和四四年一〇月頃から右商品につきその大きさ、形状、性能(耐圧性)に応じて別紙表示目録記載の表示(以下、一括して本件表示という)を用いることにし、右商品のうち楕円形のものには同目録<1>の、貫通式(球形)のものには同<2>の表示を付し(以下、本件表示の付されたものを一括して本件商品という)、その趣旨を明確にするためこれを品名(品番)表示として表記したカタログ等を取引先に配布した。

(2) そして、右各表示の冒頭の数字は従来使用されていた硝子製浮子の大きさを尺貫法で表わしたときの数字をとつたもので(一尺を10としそれ以下の各寸を一桁の数字で表わしたもの。例えば、五寸径のものなら5となる)、その大きさの硝子製浮子と同じ浮力があることを意味し、次のアルフアベツト文字は各浮子の形状すなわちTは楕円形、Bは貫通式(球形)であることをあらわし、末尾のハイフオンを付した次に示す数字はこの浮子が耐えうる水深限度(耐圧限度)を一〇〇メートル単位で表示している(例えば、耐えうる水深の限度が五〇〇メートルなら5とする)ものである。すなわち、「4T-3」といえば、原告の「ビニー」商品のうち「四寸大硝子製浮子相当の浮力を有し楕円形で耐圧水深300メートルの浮子」であることを一言で表示しているのである。

(3) 右の如く、本件表示はその大きさ、形状、性能(耐圧性)に応じて多種類に及ぶ「ビニー」商品の中から特定の規格のものを一つの表示によつて容易に選択指定しうるよう原告が独自に工夫し作成したものであり同業他社においてもその商品を区別するための標章をそれぞれ考案し使用しているが、本件表示と同一の標章を使用しているものは存しない。

したがつて、本件表示は元来は右商品のうちの一定の規格のものを区別して表示するためのものではあるが、それと同時にそれ自体自他商品識別力(特別顕著性)または出所表示機能を有するものである。

(4) そして、原告において昭和四四年一〇月頃から前記の如く本件表示を本件商品に付しあるいはその趣旨を説明したカタログ(甲第一、第二号証、第三七、第三八号証)を各取引先に配付するなどしてその宣伝と普及に努めた結果、日常の取引において本件表示が重用されてその自他商品識別力は益々顕著になり、後記三の如く被告が使用を始める頃までには本件表示は本件商品の特殊な色彩(朱色)とあいまつて原告の商品であることを示す表示として日本国内の取引者間に周知されるに至つた(ちなみに、原告の我が国における取引先は大手産業資材商社であり魚網メーカーである訴外モリリン株式会社をはじめとする総代理店および直接の特約店が各七社で、これら第一次取引先の全国各地の出先機関およびこれを通じての販売先をあわせると本件商品の販売店等は全国でおよそ一七〇〇余にも達しその販売網は広く日本全国に及んでいる。そして、かかる販売網を通じての本件商品の取引は全て本件表示を使用してなされており、原告の昭和四四年三月以降同五二年二月までの間の浮子の年間総売上高は約二億円から約六億五〇〇〇万円と順調に増加し、同五四年度においては「ビニー」商品の売上げだけで四億二六〇〇万円に達している)。

(5) 以上の次第で、本件表示が不正競争防止法一条一項一号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル」「他人(原告)ノ商標」ないし「他人(原告)ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当することは明白である。

(三) (被告商品の表示と混同惹起)

(1) 被告は昭和五〇年一一月頃からA・B・S樹脂を用いて原告の「ビニー」商品と同種同型の浮子を製造しこれに「パール」ないし「PEARL」なる商標(以下、単に「パール」と表記する)を用いて販売しているが、これにも大きさ、形状、性能(耐圧性)を異にする各種のものがあるところ、被告はこれを区別するための表示として本件表示をそのまま転用し、その楕円形のものには前記<1>の、貫通式(球形)のものには同<2>の表示を付し(以下、右表示の付されたものを一括して被告商品という)、かつ右表示を記載したカタログを取引先等に配付している。

(2) しかして、被告が使用する右表示が本件表示と外観上同一であることはもちろんであるが、その意味するところ(すなわち観念)も同一であることは両者のカタログを比較することによつて明白である。

(3) 上記の如く本件商品と同種同型の被告商品(その色彩も本件商品のそれと同じ朱色である)に本件表示がそのまま付されて販売されあるいはかかる表示を使用したカタログを配布されるとき両商品の出所について誤認混同が生ずることは明らかであり、現に混同の事実を生じている(なお、後記2(一)の事実も参照)。

被告の前記行為が前記法条項一号にいう原告の表示と「同一…ノモノヲ使用シ又ハ之ヲ使用シタ商品ヲ販売シテ…」原告の商品と「混同ヲ生ゼシムル行為」に該当することは明白である。

(四) (営業利益侵害の虞れ)

被告が以上の如き本件商品と誤認混同を生ぜしめる行為を継続する限り原告の営業上の利益が害せられる虞れあることはこれまた明らかである。

2 損害賠償請求

(一) 被告の不正競争行為(違法行為)と故意過失

被告が被告商品を販売するに際し、前記のように本件表示をそつくりそのまま使用していることが不正競争防止法一条一項一号所定の違法行為であることは前述のとおりである。

そして被告が本件商品と酷似する同種同型の商品を製造したばかりでなく、その販売にあたつて本件表示をそつくりそのまま転用し、かつそのカタログも原告のカタログをそのまま模倣して作成していること(ことにその英文のものの説明文は商品名やその極く一部を除き原告のそれと全く同じである)等からすれば被告が本件表示に化体されている信用を冒用しようとしていることは明らかである。

被告は前記行為が不正競争行為であることを知りながらあえてこれを行つているものであり、そうでなくとも同業者として当然これを知るべきである。したがつて、被告は故意または過失によつて不正競争行為をしたものとしての責任を免れず右行為によつて原告が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 原告の損害

しかるところ、被告は昭和五〇年一一月頃から同五五年二月末頃までの間本件表示を使用した浮子を販売して合計金八六〇〇万円の売上を得(その内訳は、昭和五四年一〇月までの四年間は毎年一一月から翌年一〇月までの間に各二〇〇〇万円、同五四年一一月以降同五五年二月までの間に六〇〇〇万円)、右金額の二五パーセントに相当する金二一五〇万円の利益を得ている。そして、被告が得た右利益額は原告が受けた損害と推定されるべきであるから(商標法三八条一項の類推適用)、原告は右利益額と同額の損害を蒙つたことになる。

3 信用回復措置(謝罪広告)の請求

被告は前記不正競争行為によつて原告商品と被告商品との間に混同を惹起せしめ、同業界に混乱を及ぼしたばかりか、被告商品が粗悪品であつたため原告がその代表者の先代から承継し長年にわたつて培つてきた信用を失墜したものであつて、これにより原告の営業上の信用は著るしく害せられた。右信用を回復するためには被告において別紙広告文案書記載の如き内容の謝罪広告を請求の趣旨3項記載の要領で広告することが是非とも必要である。

4 結論

よつて、原告は被告に対し(イ)不正競争防止法一条一項一号により前記請求の趣旨1項記載の行為の差止を、(ロ)同法一条ノ二第一項により前記損害金二一五〇万円および内金一〇〇〇万円に対する甲事件訴状送達の日の翌日たる昭和五三年四月一一日から、内金一一五〇万円に対する同事件訴変更申立書送達の日の翌日たる同五五年七月一六日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、(ハ)同法一条ノ二第三項により前記謝罪広告をなすべきことを、それぞれ求める。

二  請求原因に対する答弁

(一) 請求原因1の(一)項のうち原告が「ビニー」なる商標を用いてその主張の如き浮子を製造販売していることは認めるがその余は不知。

(二) 同(二)項のうち原告が本件商品にその主張の如く本件表示を用いていることは認め、その余は不知。

(三) 同(三)項のうち、被告が被告商品にこれを区別するための表示として外観上本件表示と同一の表示を使用し、原告主張のカタログを印刷配布していることは認めるが、その余の事実および主張は争う。

(四) 同(四)項は争う。

(五) 請求原因2の(一)の主張は全て争う。

(六) 同(二)の事実は否認し、その主張は争う。

(七) 請求原因3の事実および主張は争う。

三  被告の主張

(一) 本件表示は不正競争防止法一条一項一号にいう「商標」ないし「商品表示」に該当しない。すなわち、同号にいう「商標」ないし「商品表示」とは、取引者または需要者が商品に付されている表示自体により特定人の製造販売にかかる商品であることを認識することができこれと他の第三者の商品とを区別するに足りるいわゆる自他商品識別力を備えている表示をいうものと解されるところ、本件商品には「ビニー」なる商標が付されており、これがまさに同号にいう「商標」ないし「商品表示」である。本件表示は原告も自認するように実際の取引において取引者ないし需要者が「ビニー」商品のうちから一定の規格のものを選別選択した際にこれを簡潔に表示しうるようにするための規格表示ないし品名表示に過ぎずそれ自身自他商品識別力を有するものではないし、本件商品には前記のとおり「ビニー」なる商標が付されており、該商標がまさに本件商品と他の商品を識別する機能を果しておりこれこそが同号にいう「商標」ないし「商品表示」なのであるから、前記目的のためにこれに付加して使用されているにすぎない本件表示がそれ自身として原告主張の如き自他商品識別力ないし出所表示機能を取得する筈がない。本件表示が同号にいう「商標」ないし「商品表示」に該らないこと明らかである。

なお、本件商品の形態や色彩はそれ自体で出所表示機能を果すほどの特異性や周知性を有するものではなく、商品の技術的機能に由来する必然的な結果にすぎないから、これらが同号の「商品表示」に該当しないことはいうまでもない。

(二) 被告が前記表示を使用して被告商品を製造販売しても原告商品との間には何ら誤認混同を生じない。

(1) 被告商品に「パール」なる商標が付され、原告商品に「ビニー」なる商標が付されていることは原告主張のとおりである。そして、右両商標こそがそれぞれの商品表示であり各自の商品を個別化しその出所を表示する機能を果しているものである。しかして、右両商標間には一見して明らかな如く何ら類似関係がなく右「パール」なる商標は当業界において広く認識せられているものであるから、本件商品と被告商品は右商標によつて明確に区別されるところ、被告は右「パール」なる商標をその商品自体のほかカタログや包装箱等の見易い個所に明示しているので、被告が被告商品に外観上本件表示と同一の規格(品名)表示を併用してもそのことによつて取引者、需要者間に本件商品との誤認混同を生ぜしめることはなく、また実際にも今までに両者の混同を生じた事実はない。ちなみに、被告が使用している右表示の意味は原告が本件表示を使用する際のそれとは異なり、冒頭の数字は当該浮子の大きさをインチで表わしたときのインチ数を意味し(4インチ径なら4と表示する)、次のアルフアベツト文字は形状を示し(Tは楕円形、Bは球形を意味する)、末尾の数字は使用条件を示す(三〇気圧のところで使用するものは3とする)ものである。

(2) また、右両商品が誤認混同されるおそれのないことは、両商品の流通経路および取引の実情等によつても明らかである。すなわち、右両商品はともに原、被告それぞれの総代理店ないし特約店を通じて販売され末端の需要者(エンドユーザー)によつて購入されるものであるが、右両商品の取扱業者はそれぞれ別個であつてそれぞれの販売網は判然と区別されており、かつ右業者は両商品を明確に区別しているから、業者間の取引においては前記規格(品名)表示で取引されることがあつても相互に誤認混同を生ずることはない。

また、エンドユーザーとの取引においても、これら取扱業者は両者の商品を明確に区別しているうえ、それぞれの商品には商品自体やそのケースに前記各商標が明記されているので相互に混同を生じることはありえない。また、一般需要者も、右各商品の品質等を慎重に検討したうえその銘柄(商品表示)を指定して購入しており、規格(品名)表示が同一というだけで原告主張の如き誤認混同が生ずる筈もない。

(3) 浮子業界において本件被告のように取引上、使用上の便宜のため他社商品と同一の規格(品名)表示を採用するような例は他にも存するが、従来そのことによつて商品間の出所の混同を生じあるいは問題を生じたことは皆無であつた。

(4) 被告が本件商品と競争関係にある被告商品に同一の品名表示を使用したのも取引者、需要者が容易に両者を比較しうるようにするためであつて、もちろん両者の出所の誤認混同を意図したものではない。だからこそ、被告商品やそのケースおよびカタログに「パール」なる商標を明記しているものである。

四  被告の主張に対する原告の反論

被告は本件商品には元来自他商品識別力および出所表示機能を有する商品表示として「ビニー」なる商標が付されており単にその規格(品名)表示にすぎない本件表示が出所表示機能を有する筈はないと主張している。なるほど、本件表示は元来被告のいうようにまず規格(品名)表示として使用されたものではあるが、その独自性のゆえにそれ自身としても自他商品識別力ないし出所表示機能を有するに至つていることは前記のとおりである。これとは別に本件商品に「ビニー」なる商標が使用されているからといつて被告のいうように本件表示が自他商品識別力ないし出所表示機能を有せずまた有し得ないと断ずべき理由はない。一つの商品に複数の商標が使用されそれがそれぞれに自他商品識別力および出所表示機能を有していることも稀ではない。

このことは、例えば、同じ「ナシヨナル」の営業商標のもとに販売される訴外松下電器産業株式会社のカラーテレビについてその規格によつて「クイントリツクス」、「WOODY」、「魁」のような表示(標章)が各別に使用されているが、これらの表示(標章)が「ナシヨナル」なる商標とは別にそれぞれ商品表示(商標)として自他識別力および出所表示機能を取得していることからも明らかである。

〔乙事件〕

一  請求原因

1 不正競争行為の差止請求

(一) (原、被告双方の営業と競争関係)

原告と被告はそれぞれ甲事件において述べたとおり漁業用浮子の製造販売を業としている会社であり、相互にその営業上競争関係にある。

(二) (原告による虚偽事実の陳述流布)

しかるところ、原告は被告に対し昭和五二年九月三〇日頃から甲事件において主張しているように被告が被告商品に本件表示を使用するのは不正競争防止法に違反するとして被告に対し右表示の使用差止を請求するに至つたが、その後さらに右表示の使用に関し次のような事実を陳述流布した。

(1) 原告は、昭和五二年一一月頃、多数の取引先、需要者に対し、「類似品の出現について謹告」と題する文書を配布したが、その中には、左記の記載(原文のまま)がなされている。

「≪類似品が現れました≫

最近ビニーの類似品が現れました。これらには上記ビニーの品番群の一部がソツクリそのまま使用されているのみならず、外観寸法はビニーと瓜二つであり、中には色さえもビニーと同色のオレンジが使われているものがあります。」

「≪現在警告中です≫

これらの類似品は商道徳の問題をこえて、ユーザーの誤認を招くおそれがあり、ブランド・メーカーの責任的立場から、警告中(52・九・三〇発)であります。」

「≪似て非なるもの≫

当社ではこの類似品のあるものについて性能テストを行いました。結果は『似て非なるもの』と申し上げておきます。」

(2) さらに、原告は、昭和五三年四月二四日頃、北海道漁業協同組合連合会函館支所外多数の取引先、需要者に対し、「ビニー浮子<ご使用ご販売>の皆様へ謹告」と題する文書を配布したが、その中には、左記の記載(原文のまま)がなされている。

「当社ではかねてよりマルアイ株式会社(愛知県渥美郡赤羽根町大字高松代表取締役福井愛二)に対し、同社が販売している「パール印浮子」の内、数多くの同浮子の品番表示(アラビア数字、アルフアベツト)等が、既に当社にて永年にわたり使用し、国内外に於いて当社商品を表示するものとして充分に知られている、当社製造販売にかかる「ビニー浮子」に使用中の品番表示等を模倣して全く同一である点に関し、これら同一品番表示等が、当社製品との間に誤認混同を招来するおそれがあるものとして、これらが是正方再三にわたつて警告して来ました。然るに、マルアイ株式会社は、現在に到るも、当社のこれらの警告を全く無視して、国内外に於ける販売を継続していますので、当社は昭和五三年四月三日に、同社の右行為が「不正競争防止法」に違反することを理由に、大阪地方裁判所に提訴いたしました。」

(3) 原告は、昭和五三年四月二四日週刊「北海水産」に、「ビニー浮子<ご使用ご販売>の皆様へ謹告」と題する前記(2)と同文の広告記事を掲載した。

しかしながら、被告が被告商品の販売に際し本件表示を使用することは、甲事件の被告の主張(一)、(二)で述べたとおり何ら不正競争防止法に違反するものではない。

したがつて、前記各文書および広告記事の記載内容のうち、「被告が製造販売する『パール』印浮子は、原告が製造販売する『ビニー浮子』と同一の品名表示を使用しているため、『ビニー浮子』との間に誤認混同を生ぜしめ、または生ぜしめるおそれがあり、原告の右行為は不正競争行為に該当する」旨の記載事実は、明らかに虚偽事実である。

しかして、右虚偽事件は、あたかも被告が不正競争行為をしている悪質な業者であるかの如き印象を需要者に与えるとともに「似て非なるもの」との前記表現とあいまつて被告商品の品質そのものについても中傷、攻撃を加え、もつて被告の営業上の信用を害するものである。

原告の前記行為は不正競争防止法一条一項六号の「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述シ又ハ之ヲ流布スル行為」に該当する。

(三) (営業利益侵害の虞れ)

原告の右行為により被告の「営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アル」(同条項柱書)ことはいうまでもなく、現に、原告の前記行為がなされた直後より、被告の得意先は被告が原告製品の品名表示を模倣して、不正競争をあえてしているのではないかとの疑いをいだくとともに右紛争事件にまきこまれることを懸念して被告に対しひんぱんに問合せをするようになり、被告との間の被告商品の取引について支障をきたすおそれが生じている。

2 損害賠償請求

(一) 原告の不正競争行為(違法行為)と故意過失

原告の前記行為が不正競争防止法一条一項六号所定の違法行為であることは前述のとおりであり、かつこれは原告の故意または過失に基づくものである。

したがつて、原告はこれにより被告が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告の損害

被告は原告の右行為によりその営業上の信用と名誉を著しく毀損せられたのであり、その無形損害は金二〇〇万円に相当する。

3 結論

よつて、被告は原告に対し(イ)不正競争防止法一条一項六号により前記原告の虚偽事実の陳述流布行為の差止を求めるとともに(ロ)同法一条ノ二、民法七一〇条により右損害賠償金二〇〇万円およびこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日たる昭和五三年六月一三日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

(一) 請求原因1(一)および同(二)のうち(1)ないし(3)の事実は認めるがその余の事実および主張は争う。

(二) 請求原因2の(一)、(二)項は全て争う。

(三) 被告による本件表示の使用が不正競争防止法一条一項一号に該当することは甲事件で詳述したとおりであるから、原告の前記行為は何ら虚偽事実を陳述流布するものではなく、不正競争防止法一条一項六号に該当しない。

第三証拠<省略>

理由

第一甲事件

1  不正競争行為の差止請求について

一  請求原因(一)の事実(原告の営業とその商品に関する主張事実)のうち、原告が「ビニー」なる商標を用いてその主張の如き商品浮子を製造販売していることは当事者間に争いがなく、成立につき争いのない甲第四号証と第八三号証および証人吉坂泰治の証言によればその余の事実が肯認される。

二  次に、いずれも成立につき争いのない甲第六ないし第一八号証、第二七号証、第七八ないし第八一号証、いずれもその様式体裁により真正に成立したものと認められる甲第一九ないし第二六号証、第三五号証の一ないし一三八、第三六号証の一ないし一七二、第四八号証の一ないし一四一、第四九号証の一ないし三二、第五二号証の一ないし七四、第五三号証の一ないし二〇、第六四、第六五号証、第六六、第六七号証の各一、二、第六八号証の一ないし八、第六九号証の一、二、第七〇、第七一号証、第七二、第七三号証の各一、二、第七四号証の一ないし三、いずれも証人吉坂泰治の証言により成立を認むべき甲第一、第二号証、第二八ないし第三二号証、第三七、第三八号証、証人柳瀬博文の証言により成立を認むべき甲第三三号証の一ないし一五二、証人松田謙一郎の証言により成立を認むべき甲第三四号証の一ないし二〇七、第五〇号証の一ないし一九四(ただし、一五七は欠番、第五四号証の一ないし一六一、証人坂東一衛の証言により成立を認むべき甲第四七号証の一ないし四、第五一号証の一ないし一七、証人小島治の証言により成立を認むべき甲第六三号証の一、二、証人蒲原員伸の証言により成立を認むべき甲第七五号証、原告代表者本人尋問の結果により成立を認むべき甲第三九ないし第四六号証、第七八ないし第八一号証、証人嶋田守数および上記各証人の証言と原告代表者本人尋問の結果ならびに原告主張の浮子であることについて争いのない検甲第一ないし第一五号証によると、請求原因(二)(1)ないし(4)の事実(原告商品の表示とその周知性に関する主張事実)を認めることができる(ただし、右事実中、原告が本件商品に本件表示を使用していること自体は当事者間に争いがない。)。そして、右事実によれば、本件表示は原告主張の如く被告が同じ表示を同じ商品浮子について使用し始めた昭和五〇年一一月頃には不正競争防止法一条一項一号所定の原告の商品たることを示す表示として我国における浮子の取引者間に認識せられるに至つていたものと認めるのが相当である。

被告は、右の点について(1)本件表示は元来規格(品名)表示に過ぎずそれ自身自他商品識別力(特別顕著性)ないし出所表示機能を有し得ない旨、および(2)本件商品には元来右識別力ないし表示機能を有する「ビニー」なる商標が付されているのであるから本件表示がこれとは別にかかる識別力ないし表示機能を取得する筈がない旨主張している。

しかし、当裁判所は次のような理由により右主張を採用することができない。すなわち、

なるほど、本件表示はもともと原告が「ビニー」なる総称的商標を付して販売し始めた商品浮子の規格(品名)表示として案出されたものであることは被告主張のとおりであり、このことは原告も自認しているところである。また、本件表示の構成要素である数字やアルフアベツトは一般には単に商品の品質、形状、大きさを示す表示として用いられていることも当裁判所に顕著な事実である(例えば、綿糸について80番手、針金について8番線、ペンについて18K、衣類についてL、LL、Mというような表示が使用され、これらはいずれも特段特定商品の自他識別機能を果しているわけではない。)。

しかして、右に例示したような表示の場合は当該商品の取引上何人にとつても必要な表示として自由使用を保障する必要があり、これを特定人の独占的使用にゆだねることは公益上も妥当でないと考えられる(商標法三条一項三号の趣旨参照)。

しかし、前記認定事実によつても明らかなとおり、本件表示は普通に用いられている方法で浮子の形状等を表示しているのではなく、原告が独特の工夫をこらして案出した表示であるから、もともと右のような事例と異なり、本来的に、商品の自他識別力(表示力)を有しうる記号、文字(すなわち、不正競争防止法一条一項一号所定の商品表示)として許容しうる表示と解すべきである(商標法三条一項三号の「普通に用いられる方法」なる要件参照。簡単な数字、記号、アルフアベツトからなる結合標章が商標法上登録要件あるものとして扱われている事例は枚挙にいとまがない。例えば特許庁の昭和四六年審判第八八〇七号事件にかかる昭和五一年一月二一日審決によると、指定商品を一一類電気機械器具等として「2INI ツーインワン」なる商標が登録すべきものとされている。)。したがつて、本件表示については、かりに結果として原告の独占使用を認めたとしても、特段前記のような公益上の支障はないと考えられる。現に、前掲証人吉坂泰次の証言により真正に成立したと認めうる甲第二八ないし第三二号証および右証人の証言によると、当業界ではかねてから同業他社においても同じ商品浮子に関して、総称的商標のほかに、本件表示と同じような規格表示ひいては識別表示としての機能を果すサブシリーズ表示をそれぞれ独自に工夫し使用していることが認められる(例えば、三信化工(株)では「ライタツク浮子」についてLTG―3等、宇部樹脂加工(株)では「サイコラツクフロート」についてCT―125等、内外ゴム(株)では「ターフロート」についてAF410等、トウキヨウカケン(株)では「フロトン」についてTK―370等、ムサシ工業(株)では「PLA―V」についてA―10等)。

また、ある表示の創案動機が単なる規格識別にあつたからといつて、当該表示を、これを超え、又はこれとは別に、自他商品識別機能を有するものと認めることを否定すべき合理的な理由もない。

しかるところ、前記認定事実によると、本件表示は被告主張のような規格識別機能を果していることもちろんではあるが、さらに、原告がこれを永年浮子市場で独占的継続的に使用してきたところにより、主商標「ビニー」とともに、又はこれとは別に独立して、取引上、特定の原告製浮子を示す表示として運用定着させてきたことも明らかであつて、これらの事情を考えると、本件表示は、使用により、単なる規格表示としての機能のほか、これを超えて独特の商品識別表示としての機能をも具有するに至つたものと解すべきである(セカンダリミーニング。商標法三条二項参照)。ことに、本件表示の一つ一つは互いに他の表示との関連で全体として一連のシリーズ商品を示す表示機能(互いに他の姉妹品であることを容易に連想させる機能)をも有しており、各表示は集合体の一つとして独特の相応に強い自他識別力をも生じさせている点にも想到すべきである。

以上のとおりであるから、被告の前記主張は失当である。

三  また、前掲甲第一、第二号証、第三七、第三八号証、成立につき争いのない甲第三号証、第七六号証、前掲各証人および証人鈴木充、同金子正幸、同福井恒雄の各証言、前掲検甲第一ないし第一五号証、原告主張の写真であることについて争いのない検甲第一六ないし第三〇号証、被告主張の浮子であることについて争いのない検乙第一ないし第一五号証によると、請求原因(三)(1)、(2)の事実(被告商品の表示と混同惹起に関する事実)および(3)原告の浮子「ビニー」取引の実際は、それがデイーラーかエンドユーザーであるかにかかわらず、「ビニー」と特定するのを省略し、単に本件表示によつて特定することもしばしば行われ、これで足りてきたこと、(4)そのため、原告のほか被告の浮子を取扱うようになつたデイーラーにおいては両社のいずれであるか紛らわしいことも生ずるようになつたこと、以上の事実を肯認することができる(ただし、右事実のうち被告が自社の浮子商品「パール」に本件表示と外観上同一の表示を使用し原告主張のカタログを印刷配布していることは当事者間に争いがない。また、(2)の事実中、両表示観念同一をいう点は除く。)。

以上の事実関係によると、被告が昭和五〇年一一月頃から使用し始めた被告表示は、原告の本件周知表示と同一であることが明白である。少くとも、外観、称呼が同一であるから全体として類似性の存することは疑いを容れない(被告は、被告表示中の各数字、アルフアベツトの意味するところは原告の用法と異なる旨主張しており、一見、観念の同一性を争つているように思われるか、本件表示のようなものに果して通常いわれるような意味での何らかの観念が生ずるのか疑問もあり、いずれにせよ両者に類似性があること前記のとおりである。)。また、それが故に、両社の商品について取引上現実に誤認混同を生ずるにいたつていることも明らかである。

被告は(1)被告商品には「パール」なる商標が付されておりこれによつて「ビニー」なる商標を付されている本件商品と区別されることおよび(2)両商品の販売ルートが別個になつており実際の取引は右商標を明記したケースに入れたままなされることが多く、かつ取引者、需要者は右商品が別のものであることを認識しているから、両商品について同じ本件表示が使用されても誤認混同は生じない旨主張するところ、前掲各証拠および一般的な経験則によると、右に主張するような場合もあることはもとより否みえないところではある。

しかし、右の如く「パール」なる商標が商品に付されあるいは商品ケースに表記されていることが誤認混同の防止に役立つのは現物やケースをみて取引する場合であつてこれをみないでなされるその他の取引場面(実際の取引においてはむしろこの方が多いと考えられる)には妥当しないし、一応被告商品と本件商品の販売ルートは別になつているとしても浮子の取扱業者の中には両商品を取扱うものも存すること前記認定のとおりである。したがつて、前記のような事実だけで、前示の判断を覆すことはできない。

かえつて前記認定事実を総合すると、被告は浮子の後発メーカーとして自社製品を売り出すにさいし、原告の一連の浮子「ビニー」商品の形状、色彩と同様のものを採用製造するとともに、その独特のサブシリーズ表示(本件表示)までそのまま転用し、もつて原告の創案努力やその実績にただ乗り(フリーライド)したものと評されてもやむをえないものと考えられ、これらの事情も本件における混同惹起の要件事実存在を肯定するにさいし無視できないところである。

四  被告が営業上本件商品と競合する被告商品に本件表示をそのまま転用して本件商品と誤認混同を生ぜしめるおそれのある行為を継続する以上、他に特段の事情が主張、立証されない限り、原告にはこのことにより営業上の利益を害せられる虞れがあるというべきである。

五  以上のとおりであるから、原告の本件差止請求は理由がある。

2  損害賠償請求について

一  被告の前記表示使用行為が前記法条項号所定の不正競争行為(違法行為)に該当することは前示のとおりである。

そして、上来説示の事実関係を総合し、かつ前掲甲第二号証、被告のカタログであることにつき争いのない訴状添付別紙(三)のカタログおよび証人福井恒雄の証言により認められる以下の事実すなわち被告は「パール」商品の製造販売を開始するにあたつて原告の商品である「ビニー」商品やそのカタログを参考にしたこと、ことにその英文カタログには原告のカタログの説明文の大部分をそつくり利用していることをもあわせ考えると、本件不正競争行為につき被告に故意又は少くとも過失が存したことを認めるに十分である。

二  そこで、次に被告の前記不正競争行為によつて原告が蒙つた損害の有無およびその数額について検討する。

まず、原告は被告が被告商品を販売して得た利益額をもつて原告の損害額と法律上推定すべきである旨主張している(商標法三八条一項の類推適用)。

しかし、右のような主張をそのまま肯認するためにはなお検討すべき点もあると考えられる((イ)もともと、このような法律上推定規定は極めて特殊な規定でありかつその適用の有無は当事者に重大な利害を及ぼすから、その性質上他のケースヘの類推は基本的には否定されるべきではないか。(2)少くとも相当の合理的理由のある極めて限られた場合に限られるべきではないか。(3)不正競争防止法一条一項二号等所定の他の類型の不正競争行為については拠るべき他の相当法条が見当らないこととの不均衡。(4)そもそも、不正競争防止法が工業所有権法、著作権法等のような損害額推定規定を設けていないこと自体このような推定を否定するのが立法趣旨に適うのではないか。等の疑念が存する。)。少くとも、本件に関しては以下の理由によりこれを肯認するのは相当でないと思われる。すなわち、既にるる説示したとおり、本件表示はもともと主商標としてではなく、副次的な規格表示として案出されたものであつて、いわゆる著名な商標やワンポイントマークないしキヤラクターのように当初から顧客吸引力を念頭において創案使用されたものでない、極く地味な表示であるから、本件の場合被告の得た前記利益の全部を被告が本件表示を使用して浮子「パール」を販売した結果であると解するのは経験則に反すること明らかである。むしろ、被告の売上利益に寄与した要素としては、その相当程度は自社の販売努力、経営努力等本来の企業努力によるものと解されるのみならず、いまこのことは別としても、その多くは、原告が本件で特段指摘し問責しようとしていない被告の浮子商品自体の形状、色彩、機能等と原告の商品のそれらとの同一性又は類似性によるものと考えられる(そして、このような事情は、本件においては、原告が類推適用を主張する商標法三八条一項所定の法律上推定を覆えす反証たりうるものと解する余地もある。)。

しかし、原告の本件周知表示は、不正競争防止法一条一項一号による保護を受ける結果、原告の独占的使用が認められたことになり、そのため一定の財産的価値を有するに至つているものと解すべきである。したがつて、被告がこれを無断使用したことにより原告が財産上直接的な損害を蒙つたことはこれを否定することができない。ただ、その損害額についてはその財産的価値が無体のものにかかわる関係上一見算定が困難であるように思われる。しかし、ひるがえつて考えてみると、その価値は全く算定不能というのではない。それは、いまもし原告が当該独占表示の使用を他人に許諾した場合に得るであろう利益又は対価額(商標権の使用許諾料に相当する対価)によつて直截的に表現されていると考えるのが経験則に照らして相当である(なお、この帰結が、原告の援用する商標法三八条の二項を適用した結果と同一になる点参照)。

そこで、これを本件についてみるに、当裁判所は、原告が他人に本件表示の使用を許諾して得るであろう対価額は、当該他人即ち本件では被告が本件表示を付した浮子「パール」を販売して得た売上高の一パーセントの額(一般の商標権の使用料が三ないし五パーセントであることが当裁判所に顕著であること、および本件表示の前記のような特殊性を考慮した数値)をもつて相当と考える。

そこで、原告主張期間中における被告の本件表示を付した浮子「パール」の売上高についてみるに、前掲福井証人の証言によると、それは合計二億四七五万円と認められる(すなわち、右証言によると、被告の毎会計年度―八月決算―別の総売上高は、(イ)昭和五〇年九月から翌五一年八月分が約七億五〇〇〇万円、(ロ)同五一年九月から翌五二年八月分が約八億円、(ハ)同五二年九月から翌五三年八月分が約七億五〇〇〇万円、(ニ)同五三年九月から翌五四年八月分(言及せず不明)、(ホ)同五四年九月から翌五五年八月分が約一〇億円であり、従来はそのうちの約九パーセントが本件表示を付した浮子「パール」の売上高であつたが、本訴提起後被告において本件商品と規格を異にする新らしい品番のものを開発しその販売に努力した結果昭和五四年度における右商品の売上高は総売上高の約一・八パーセントにまで減少しているものと認められ、これにより前記売上高を算出すると上記のとおりとなる。)。

そうすると、その一パーセントにあたる金二〇四万七五〇〇円が原告の蒙つた損害額となり、原告の損害金請求は右の範囲でのみ理由がある。

3  信用回復措置(謝罪広告)請求について

前掲証人吉坂泰治の証言、原告代表者本人尋問の結果に原告の弁論の全趣旨を総合すると、原告が本件において謝罪広告を請求する趣旨理由は、本件の争点である被告の本件表示の不正使用もさることながら、むしろ、被告の浮子商品の形態、色彩自体が原告のそれと類似しているための誤認混同、被告商品が粗悪であること、被告がカタログ(ことに英文のもの)まで原告のそれを殆んどそつくりそのまま流用していること、あるいは被告のカタログ(甲第三号証)に実際には実施許諾を得ていない関係のない特許権を表示していること(成立につき争いのない甲第七七号証の一、二)等本来原告が本訴で主張している被告の不正競争行為以外の要素が中心になつているように思われ、いまこれらの点その他諸般の事情を総合すると、本件において被告をして原告主張のような謝罪広告をさせることは相当でないと考える。

第二乙事件

請求原因(一)および(二)の(1)ないし(3)の事実については当事者間に争いがない。

しかしながら、被告が被告商品の販売に際し本件表示を使用することが不正競争防止法一条一項一号所定の不正競争行為に該当することは甲事件について説示したとおりである。

したがつて、被告主張の各文書および記載内容のうちの被告指摘の記載事実は真実である。これらの記載事実が虚偽であることを前提とする被告の本件差止請求および損害賠償請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないこと明らかである。

もつとも、原告が前記文書(請求原因1(二)の(1)の文書)で被告の浮子について「性能テストの結果は『似て非なるもの』と申し上げ(る)」旨記載していることは、右文書全体の趣旨からみると穏当を欠くものと解されないではないが(性能上似て非なるものであることを裏付ける確証はない。)、右の記載部分も元来適法に被告の不正競争行為を非難することに関連して派生的に用いられた措辞にすぎないと解されるところであつて、全体として観察すると、右の部分だけを取り上げてその違法性(不正競争防止法一条一項六号所定の不正競争行為性)を認めるのは相当でない。

第三結論

以上のとおりであるから、本件甲、乙両事件は上来説示の範囲内でこれを認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畑郁夫 上野茂 中田忠男)

別紙表示目録

<1>4T-3、4T-8、5T-3、5T-8、8T-1、10T-1、12T-1

<2>6B-2、6B-12、7B-3、7B-8、7B-12、8B-3、8B-8、8B-12

別紙謝罪広告文案

おわび

当社は、当社が製造、販売するパール印深海用浮子、カタログ、その他の印刷物に四T―三、四T―八、五T―三、五T―八、八T―一、一〇T―一、一二T―一、六B―二、六B―一二、七B―三、七B―八、七B―一二、八B―三、八B―八、八B―一二の表示をしておりましたが、これらの表示は、貴社が先にビニー浮子の品番表示として使用され、周知されたものです。

しかるに当社は貴社の警告を無視してこれらの表示を使用し、貴社及びその販売ルート、漁業家の各位に多大のご迷惑をおかけいたしましたことは、まことに申訳なく、ここに深くお詫び申し上げます。

昭和  年 月 日

愛知県渥美郡赤羽根町大字高松字荒古弐番地

マルアイ株式会社

代表取締役 福井愛二

株式会社気泡材研究所

代表取締役 田中誠一 殿

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