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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)5671号 判決 1983年3月28日

原告

株式会社サンスターベンディングサービス

右代表者

近藤幸夫

右訴訟代理人

吉村修

久保田徹

松本理

中山正隆

久保精一郎

被告

株式会社ダイト

右代表者

木原一成

木原実

被告

株式会社大都製作所

右代表者

木原一成

木原一雄

被告

木原実

右被告三名訴訟代理人

林勝彦

山本隆夫

主文

一  被告らは原告に対し、各自金一七八四万一三三一円及びこれに対する昭和五三年一〇月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は七分し、その六を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金一億二四四八万六二三〇円(予備的に金一億一二六五万四五三八円)及びこれに対する昭和五三年七月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告はサンスター歯磨株式会社(現商号サンスター株式会社、以下「サンスター」という。)を中核とするサンスターグループ十数社のうちの一社であり、サンスター製品である旅行用歯磨・歯刷子をセットにしたトラベルセットや、旅行用シャンプー・整髪料・櫛をセットにしたヘアーセットを、全国のホテル、旅館その他の宿泊施設(以下「ホテル等」という。)に設置した原告所有の自動販売機(以下「自販機」という)により販売することを主目的とする会社である。

2  以下のとおりの経緯を経て、原告と被告株式会社ダイト(旧商号株式会社ダイトシンワ、以下「被告ダイト」という。)との間に、昭和四八年一一月一二日自販機用の商品売買基本契約書、同五一年一二月一日同様の売買基本契約書がそれぞれ締結された。

(一) サンスターと株式会社シンワ(以下「シンワ」という。)との取引

昭和四五、六年ころ、シンワは被告株式会社大都製作所(以下「被告大都製作所」という。)製の自販機を販売し、その中味商品の卸販売を行つていたが、自販機の販売が思わしくないうえに中味商品もいわゆる二流、三流商品の扱いがほとんどであつたため営業的に行き詰まつていたことから、サンスターとの提携を求めた。その結果、シンワとサンスターとの間でそのころ「自販機はシンワのものを全面的に取り扱い、トラベルセット、ヘアーセットに関してはサンスターのもののみを取り扱う」という基本的な合意が成立した。そうして、サンスターはシンワから自販機を購入し、これをホテル等に無償貸与してその所有権を自社に残し、サンスターのマークを貼付することにより他社の中味商品が売られることを阻止でき、中味商品の繰返し継続注文の確保が可能となつた。このような自販機の販売会社と中味商品メーカーとの提携に係り、無償貸与自販機による中味商品の販売形態により、シンワは自販機と中味商品の販売促進が図られ、サンスターは中味商品の販売利益を得ることができた。

(二) シンワから被告ダイトへの移行

シンワは昭和四八年に倒産したが、相前後して昭和四八年九月五日被告(当時の商号は株式会社ダイトシンワ)が設立されてシンワの営業を引き継ぐとともに、前記サンスターとシンワ間の合意及びこれに基づく取引も同様に引き継いだ。

(三) 原告と被告ダイトとの契約

(1) 原告は昭和四八年七月二日に設立されたが、これは従来サンスターの営業開発部が行つていた業務が独立したものであり、従来の自販機、中味商品に関するサンスターの契約関係もサンスターから原告が引き継いだ。その結果、原告と被告ダイトとの間で同年一一月一二日商品売買基本契約書が取り交わされた。

(2) 被告ダイトが昭和五〇年八月一日現商号に変更したこと、被告ダイトの代表者で連帯保証人であつた木原茂が死亡したこと及び原告の代表者が変更した事情があつて、昭和五一年一二月一日付け、商品売買基本契約書が、原告と被告ダイトの間で改めて取り交わされた。

3  原告と被告ダイト間の契約の内容

(一) 自販機による中味商品の販売は、ホテル等の自販機を顧客の利用しやすい場所に設置して行われる。原告にとつて営業の目的は中味商品の販売にあり、そのために被告ダイトから自販機を購入所有し、同被告にこれを無償貸与しているのであつて、自販機は中味商品の販売手段であり、これがホテル等に設置されて初めて原告の自販機所有の目的が達せられる。一方、被告ダイトも自販機の設置維持に努めることによつて自販機の販売が可能となり、中味商品販売による利益も上げられる。

(二) 本件各基本契約の中核は自販機をホテル等に設置しておくことにあり、その前提のもとに中味商品販売につき右各契約が締結されたのである。

したがつて、被告ダイトは、(1)原告との間の前記昭和四八年一一月一日付け、あるいは遅くとも同五一年一二月一日付けの明示又は黙示の契約により、(2)仮にそうでないとしても、(一)の原告の自販機購入所有の目的を十分認識していることから信義則上の義務として、新規に自販機を設置すべきホテル等を開拓し、原告に売り渡した自販機の設置台数の増加に努めるのはもちろん、既に設置済みの自販機は引き続きその設置を継続して中味商品の販売拡張に努めなければならず、また既に設置してあるホテル等から自販機の撤去を求められた場合には、その理由をただし、継続して設置し得るよう原告と協力して当該ホテル等の説得に最大限の努力を払わなければならない。

4  被告大都製作所及び同木原実は原告に対し、昭和五一年一二月一日前記基本契約上の被告ダイトの債務につき、それぞれ連帯保証をした。

5  原告ダイトは前記各基本契約に基づき、原告からその所有する自販機の無償貸与を受けるとともに、その中味商品であるトラベルセット、ヘアーセットを原告から継続的に供給を受け、昭和四八年一一月から取引が継続されてきた。

そして、被告ダイトは右自販機をホテル等に設置することによつて右各商品をホテル等宿泊客に販売する目的で、関東一円については被告ダイト傘下特約店の株式会社ピー・ブイ・エル(旧商号シャイコーポレーション株式会社、以下「ピー・ブイ・エル」という。)などを通じて、仙台地方については同じく被告ダイト特約店の株式会社東北シンワ(以下「東北シンワ」という。)を通じて、それぞれ別紙(一)の1、2自販機一覧表(一)(二)のとおり各ホテル等に自販機を設置してきた。

6  被告ダイトの契約違反

(一) 被告ダイトは次のとおり原告との前記基本契約に違反する行為を行つた。

(1) 被告ダイトは、昭和五三年三月ころから自販機によるトラベルセット、ヘアーセットの販売分野に進出を企てるライオン製品株式会社(以下「ライオン」という。)との間で、被告ダイトがライオンの総発売元となる契約を締結し、それに伴いライオンに対し、被告大都製作所製の自販機DF―6型を大量にリースし、同年七月からライオンのトラベルセット、ヘアーセットの販売を開拓した。

(2) 被告ダイトはその傘下特約店と共謀のうえ右特約店に対し、自販機未設置ホテル等にライオンのDF―6型自販機を設置するよう指示したのみならず、右特約店を指揮して既に自販機が設置されているホテル等から原告に無断で原告所有の自販機を撤去し、その代わりにライオンの自販機を設置した。

(3) 被告ダイトの担当者は、自社及びライオン作成のパンフレット等を携行し、若しくは傘下特約店に携行させて、各ホテル等にライオン製品の販売及びライオンの自販機設置のための宣伝活動を行つた。

(二) トラベルセット、ヘアーセットはタバコ、ビール、ウイスキー等の嗜好品のように消費者の好みに応じて選択される性格の商品と異なり、複数の同種商品を並列して販売できない商品であり、さらにホテル等における自販機の設置スペースの関係でサンスターとライオンの二種類を並べることが不可能であつてその例もなく、ライオン製品を取り扱うことはサンスター製品が取り扱えないことを意味するので、被告ダイトの右各行為は前記基本契約に違反する。

(三) したがつて、被告ダイトは原告に対し、基本契約違反の債務不履行に基づき、原告の被つた損害を賠償する責任がある。

7  原告の損害

被告ダイトの前記昭和五一年一二月一日付け商品売買基本契約に違反する行為の結果撤去された原告所有の自販機の台数は、被告ダイトが自販機撤去を開始した昭和五三年七月以降本訴提起時の同年九月三〇日の間に別紙(一)の1、2自販機一覧表(一)(二)記載のとおり四二四台、本訴提起後判明したものが五六〇台、計九八四台である。その結果、原告は被告ダイトが右契約に従つて原告の自販機の設置維持並びに中味商品の販売に努めたならば得たであろう以下の利益を上げることができなかつた。

(一) 主位的主張

(1) トラベルセット、ヘアーセットの平均販売本数は、東京地区(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)において自販機一日一台当たり、トラベルセット3.29本、ヘアーセット1.01本である。

東京地区を除く地方都市のホテルの客室利用率は東京地区よりも若干下がることを考慮すれば、地方都市における自販機の利用率は東京地区の八〇パーセントと考えられる。よつて、地方都市の平均販売本数は自販機一日一台当たり、トラベルセット2.63本、ヘアーセット0.81本である。

(2) 撤去されたサンスターの自販機の一台当たりの平均的な中味商品の売上本数に撤去された自販機の台数を乗じ、これに中味商品の一本当たりの原告の得る利益額を乗じたものが原告の逸失利益と考えるべきであり、被告大都製作所製SN―3型自販機の耐用年数は五年以上である。五年分の売上高は別紙(二)計算書(一)記載(1)ないし(5)の計算により金二億六四四七万〇二四〇円となり、仕入原価を平均五〇パーセントとしてこれを控除すれば原告の荒利益額は金一億三二二三万五一二〇円となる。

(3) そして、右荒利益額から販売に要する諸経費を差し引くとすれば、控除すべきものは配送費(荷造運賃、保管料)であり、配送費の売上高に対する割合が平均1.65パーセントであるから、結局原告の被つた損害額は、別紙(二)計算書(一)記載のとおり一億二七八七万一三六一円である。

(二) 予備的主張

(1) 原告の被告ダイトに対する昭和五〇年一二月一日から同五五年一一月末日までの月別売上高は別紙(三)売上実績一覧表記載のとおりであり、このうち同五〇年一二月一日から同五三年六月三〇日までの売上高から別紙(四)記載のとおりのトラベルセット、ヘアーセット以外の商品の売上高八三万円を控除したものが右期間の本件中味商品の売上高となる。自販機が撤去されたため原告が喪失した売上高は、昭和五三年六月に被告ダイトが自販機を撤去し、又は撤去の指示をした後である同年七月一日からの期待し得べき売上高と現実の売上高の差額である。

(2) しかして、被告ダイトがサンスター自販機を無断撤去する暴挙に出なければ原告は同被告との契約を継続していたであろうし、この契約が終了したとしても、ホテル等に自販機を設置したままで原告が引き継ぐことにより、原告は自ら若しくは他の特約店を設定して自販機の設置を継続し、中味商品の納入を続けて販売利益を得ることができた。

原告としては、自販機を修理し、又は新機種に変更しながら長期にわたり利益を上げ得るのだが、本件においてはそのうち五年分を請求する。すなわち、被告大都製作所製SN―3型自販機の耐用年数は五年以上であり、これを販売した被告ダイトとしては、少なくともこの期間は原告との継続的商品売買契約が存続するものと予想していたし、また予想すべきだつたからである。

そして、最終のSN―3型機の購入は昭和五三年八月中であるから、五年経過の昭和五八年七月末日までの損害を、被告ダイトは賠償すべき義務がある。この間の原告の荒利益額は、利益率を五〇パーセントとすれば別紙(五)計算書(二)記載のとおり一億一六四九万九〇〇五円となる。

(3) そして、(2)の荒利益から販売に要する諸経費を差し引くとすれば、原告の昭和五一年度から同五五年度までの総売上高並びに諸経費は別紙(六)明細書記載のとおりであつて、被告ダイトに対する売上げにおいては右明細書のうち配送費のみを経費として考慮すべきである。右配送費を(2)の荒利益額から控除すると純利益は別紙(七)計算書(三)記載のとおり一億一二六五万四五三八円となり、これが原告の損害である。

8  よつて、原告は被告らに対し、連帯して、逸失利益の賠償として、主位的に金一億二七八七万一三六一円の内金一億二四四八万六二三〇円、予備的に金一億一二六五万四五三八円及び右各金員に対する被告ダイトの債務不履行の後である昭和五三年七月二四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2のうち冒頭の事実は認める。2の(一)のうち、原告主張のような基本的合意の成立は否認する。2の(三)の事実は認める。

3  同3の事実は否認する。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実は認める。ただし、正確にいえば、被告ダイトは関東地区においては株式会社ウエスコ(以下「ウエスコ」という。)と代理店契約を締結し、原告から購入した商品の販売を行い、ウエスコはピー・ブイ・エルと自販機用商品売買契約を、ピー・ブイ・エルは自販機の設置場所であるホテル等と商品売買契約及び自販機設置契約を締結して右商品の販売を行つており、被告ダイトとピー・ブイ・エルは直接の関係はない。

6  同6の事実は否認する。原告主張のホテルから原告所有の自販機を取り外しライオン製品を入れた自販機を設置したのはピー・ブイ・エルであり、同社は設置先の各ホテルからの要請で右作業を行つたものである。

また、原告の主張事実は被告ダイトの契約違反行為の特定及びどの条項に違反するのか明らかでない。本件契約には他社との取引を禁止する約定は存在せず口頭の約束もないから、原告のほかにライオンとも取引を始めたことは何ら契約違反とはならない。

7  同7の冒頭の自販機の撤去台数は否認し、逸失利益の主張は争う。7の(一)のうち、原告の被告ダイトに対する一個当たりの商品納入価格については認め、その余の事実は否認する。7の(二)の事実は否認する。

三  被告の反論

1  原告主張の専属的特約店契約は存在しない。すなわち、原告と被告ダイトとの間ではその旨の明文規定や口頭の約束は一切ない。本件契約の規定からは原告の主張する解釈は不可能である。

そればかりか、原告と被告ダイト間の本件契約は甲第五号証の標題のとおり中味商品の売買に関する基本契約であり、被告ダイトの本件商品の発注とこれに対する原告の承諾によつて個別的具体的売買契約が成立するのであるから、基本契約が成立しても被告ダイトが原告に商品の発注をしなくなれば、事実上両者の契約関係は終了し、これに対し原告が被告ダイトに商品の発注を義務づけることはできず、被告ダイトが発注しないことから契約違反の問題は生じず、これを理由として原告が同被告に損害賠償を請求することはできないのであつて、契約に定める期間の終了又は解除により、将来にわたつて商品供給義務を免れるだけである。

2  被告ダイトとその傘下代理店との契約関係は原告と被告ダイトとの契約関係と同様の商品売買契約であり、本件取引において末端代理店は自己の名で自己の利益増大のため取引先のホテル等の開拓や取扱商品の拡充に努めており、被告ダイトにホテル等の開拓や自販機の設置台数の維持・増加を義務づけることは本件取引の契約関係及び実態を無視するものである。

また、自販機のホテル等への設置はホテル等が自ら行つており、その撤去も当然ホテル等の自主的判断で行われたものであつて被告ダイトは何ら関知しない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実は、<証拠>によりこれを認めることができる。

二原告と被告ダイトとの間の契約について

1  請求原因2の冒頭の事実及び同2の(三)の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  シンワは昭和四四年七月二五日に設立され、被告大都製作所製造の自販機の販売及びその中味商品の販売を行つており、昭和四五年四月一日にはシンワの営業面での大阪支店の役割と信用保証的役割とを兼ねさせるため大阪シンワを設立し、シンワと同様の業務を行わせた(大阪シンワとシンワとは事実上同一の会社であるから、以下両名を総称して「シンワ」という。)。

シンワの取り扱う商品は当初いわゆる二、三流商品といわれるもので売行きが思わしくなかつたため、その打開策として一流メーカーの商品を取り扱うことにより自販機と中味商品の販売高を増加する方針を決め、歯磨・歯刷子部門については一流メーカーであるサンスターと交渉を進めた。

サンスターは昭和四〇年ころから自販機による商品販売に着手し、昭和四三年には同社の営業開発部に自動販売機課を創設して本格的な開発を進めるようになつていたところ、シンワの右申入れに対して、被告大都製作所製のSN―3型の自販機が安価でしかも性能が良かつたことから、右販売機によつてさらに中味商品の販売拡張を期してシンワとの取引を開始することとなつた。

サンスターは当初、歯磨・歯刷子セットを一〇〇〇個買い上げるホテル等には自販機を一台無償譲渡するという方法を採つたが、一〇〇〇個買上げの条件がホテル等の負担となるばかりかサンスターにとつても自社商品の継続した注文の確保が図れないことが判明したため、シンワと協議のうえ、今度は自販機を無償貸与する方法に切り替えた。すなわち、被告大都製作所が自販機を製造し、これをサンスターが被告大都製作所の事実上の販売部門であるシンワから購入し所有権を自社に留保し右機械にサンスターのマークを貼付したうえでシンワに無償貸与し、シンワはそれを傘下の代理店に無償貸与し、代理店はホテル等に設置のうえ無償貸与する取引形態を採つた。そして、中味商品であるトラベルセット、ヘアーセットについては、サンスターが一次特約店であるシンワに販売し、シンワから代理店(二次特約店)に、代理店からホテル等に順次販売され、ホテル等がサンスター所有の自販機により、これを宿泊客等に販売するものであつた。シンワ傘下の右二次特約店としては、東京地区にはウエスコ(当初の商号は丸東産業株式会社)、千葉地区には佐々木商会、東北地区には東北シンワ株式会社があり、シンワと右各二次特約店間では代理店契約が、各特約店とホテル等の間では商品売買契約及び自販機設置契約がそれぞれ個別に締結されたが、サンスターは右各契約には関与していなかつた。そして右各契約に基づき昭和四五、六年ころから、サンスター所有に係る自販機が右各特約店傘下の各ホテルに設置され、右販売機によつてサンスター商品が販売された。右の如き取引形態によりサンスターはシンワの自販機を扱い、シンワはサンスターの中味商品を扱うことで提携し継続的に取引を行うことで相互に利益が図られることから、自販機による中味商品の販売形態ということが、両者間での取引の前提とされていた。すなわち、サンスター及びシンワ間において右販売形態を探ることにより、サンスターはシンワ以外から機械を購入しないこと、他方シンワもサンスター以外の商品を扱わないことが相互に期待されたが、契約書が作成されなかつたため、特約としてこれが明記されるまでには至らなかつた。

(二)  シンワは昭和四八年六月ごろから放漫経営と資金的なトラブルのため倒産したが、同年九月五日被告ダイトが設立され、シンワの営業一切を引き継いだ。

他方、昭和四八年七月二日にはサンスターの営業開発部が行つていた自販機及び中味商品に関する業務を独立して引き継いで原告が設立された。そこで原告と被告ダイトとの間で同年一一月一二日商品売買基本契約(甲第四号証)が締結され、従来シンワが営業していた地域及び代理店を同被告が引き継ぎ自販機と中味商品の販売を行つていくことが約束された。右契約は特約店契約とも称され、原告の特約店である被告ダイトは原告の営業方針に協力し商品の販売拡張を行い、特約店としてふさわしくない行為があつたときは原告は右契約を解除することができることが合意された。

そして、右契約に基づき原告から被告ダイトに従前どおり自販機が無償貸与され、同時に被告ダイトは原告からその中味商品を購入してきたが、昭和四九年七月以降、被告ダイトは自販機の貸与を受ける際に自販機設置同意書なる書面を原告に対して差し入れ、右書面において「自販機に納入する商品は指定商品以外のものは納入しないこと、右機械の取り外し及び移転には事前の連絡をすること、指定商品の売買契約が終了したときは直ちに原告に自販機を返還すること」等を約し、さらに昭和五〇年四月には被告ダイトは原告に対しお預かり自販機確認書なる書面を差し入れており、両者間の関係は従前に比して書面によつて一層明確となつた。

(三)  原告は昭和五〇年暮れごろ、被告ダイトが同年八月一日に株式会社ダイトシンワから株式会社ダイトに商号変更したこと、被告ダイトの連帯保証人となつていた同被告代表取締役木原茂が死亡し同年九月から被告木原実が被告ダイトの代表取締役に就任したこと、さらに原告の代表取締役も交代したことを理由として、被告ダイトに対し、昭和四八年一一月一二日付け契約の更新を申し入れた。これに対して、被告ダイトは、以前から原告がシンワ傘下の代理店とは直接取引をしないと口頭で約束していたにもかかわらず、被告ダイトの販売地域において、同被告の代理店と直接取引を行つたとの理由で、右契約更新の申入れを断つたため、右契約更新交渉は一時中断した。すなわち、原告は昭和五〇年一〇月ころ、被告ダイトの代理店の信越シンワがサンスター製品とは違う三流商品を流していたことから被告ダイトに対する不信感を抱き、信越シンワの代理店である片山商事と直接取引を開始し、中味商品を被告ダイト及び信越シンワを通さずに販売したことがあり、この事実が被告ダイトを硬化させる原因となつたが、原告はその後の昭和五一年七月ころにも被告ダイトの代理店の名古屋シンワが既に営業していた名古屋地区において、名鉄協商を原告の代理店として販売活動を開始し、さらに、原告は北海道地区では、昭和四八年八月一日から被告ダイトの代理店であつた株式会社桧山商店と直接商品取引を開始し、同商店が昭和五一年五月に倒産したあとは、被告ダイトに対する連絡なしに、被告ダイトの東京地区の代理店であるウエスコを北海道地区における原告の代理店としたうえで、被告ダイトを通さずに、中味商品の販売を行うようになつた。

これらについて被告ダイトから原告に抗議があつたため、昭和五一年五月ごろ、原告から被告ダイトに対して、被告ダイトの代理店である東北シンワ、中国シンワ、信越シンワ及びウエスコの育成並びに販路拡張のため相互に協力することを確認することを内容とする「拡売に関する覚書」の案が示された。しかし、この案においては、被告ダイトの販売地域を特定するものではなかつたこと、名古屋地区の代理店が掲げられなかつたこと及び原告が被告ダイトを通じないで販売しないことが明確化されなかつたことから、被告ダイトは契約更新をする内容として受け入れるに至らなかつた。

そこで原告と被告ダイトで協議のうえ、被告ダイトが提示した素案に基づいて、両者間に昭和五一年一二月一日付けをもつて商品売買基本契約書(甲第五号証、以下「本件契約」という。)が改めて取り交わされた。

右契約内容は従来の契約と基本的に変更はなかつたが、被告ダイトの強い申入れによつて、「第三条(販売地域)この契約にもとづく乙(被告ダイト)の商品の販売地域は、東北、信越、東京、名古屋および中国の各地区とする。ただし上記地域内と雖も、現に甲(原告)に於て納入している甲の得意先は之を除外するものとする。」と販売地域が明文化された。

それにより、同条ただし書において、原告が既に直接取引をしていた代理店、すなわち信越の片山商事、名古屋の名鉄協商、中国のニコニコ観光を除いては、原告は右五地域内において、被告ダイトを代理店とする以外に、自販機用中味商品の販売ができないこととなつた。

右の如く、被告ダイトの販売専権が確認されたことの代償として、被告ダイトの契約上の義務履行につき、次の如き条項が明文化確認された。

「第一条(本契約の目的)甲と乙とは相互信頼の精神をもつて、この契約を運営履行し、当事者双方の発展に寄与することに努め、乙は甲の営業方針に従い甲より提供された自販機を使用して商品の販売拡張を行うものとする。第六条(契約の解除)乙において次の各号の一に該当する事由あるときは、甲は何等の通知催告なしにこの契約を解除することができる。(1、2省略)3 その他この契約条項に違反し特約店としてふさわしくないものと認められる行為のあつたとき。第七条(契約の期間)この契約の存続期間は締結の日より満一ケ年とする。但し期間満了時に甲又は乙より契約終了の通知をしないときは、この契約は一年間延長されたものとし、以後もこれに従うものとする。」

(四)  右契約更新後、原告及び被告ダイトは従前どおりの取引形態によつて平隠に取引を継続しており、しかも自販機によるトラベルセット、ヘアーセットの中味商品の販売という分野には二、三流のメーカー以外は進出していなかつたため、原告はサンスター製品を扱う原告に対抗し得る他の大手メーカーの進出してくることは全く予測せず、その対策も検討されていない状態であつた。

以上の事実が認められ、<証拠>中、右認定に反する部分はにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  本件契約の解釈について

契約の性質、内容は契約書に表示された文言のみにとらわれず、契約締結に至つた当事者の利害得失、当事者間の取引方法などの諸事情を総合勘案して判断すべきものである。当裁判所は、原告と被告ダイトとの間には遅くとも昭和五一年一二月一日に、原告が被告ダイトから大都製作所製自販機を継続的に購入し、一方、その中味商品は原告から被告ダイトに継続的に売り渡す旨のいわゆる継続的供給契約が締結されたと認めるものであつて、被告ら主張のとおり原告と被告ダイト間において、中味商品についての売買基本契約書しか存せず自販機の売買及び貸与について明文の規定がないことは、右認定の妨げとなるものではないと判断するものである。この点について以下敷衍して考察を加えることとする。

まず、サンスターが自販機をホテル等に贈与するという形態を改めて、無償貸与するという方法に切り替えたのは、中味商品の繰返し注文や継続注文が図られるためであつたのであり、当時のサンスターとの取引先であつたシンワも、この自販機についての取引形態の変更の理由に関し、積極的にサンスターと打合せを行い、シンワが取り扱う自販機及び中味商品の量の拡大を図つたわけである。このことからすると、サンスターとシンワの間においては、自販機及び中味商品を継続的に、またさらに拡大して販売することが念頭にあつたことがおのずから明らかとなる。サンスターとシンワの取引関係を引き継いだ原告と被告ダイトの間の中味商品の取引においても、右のことが当然念頭に置かれていたこととなる。

次に、原告と被告ダイトとの間の商品売買基本契約において、東北・信越・東京・名古屋・中国の五地域については原告が現に納入している得意先を除き、原告は被告ダイト以外に中味商品を販売することができない旨約定されたことを考えねばならず、この約定の反面として、右五地域においては特に、被告ダイトは積極的に原告の取り扱う中味商品を継続的に購入し、かつ販路拡張に努めるべきことが約定されたものと認めざるを得ない。けだし、右五地域においても原告は本来一方的に被告会社以外の業者(ただし既取引業者は除く)とも自由に取引をすることができるところ、右のような原告の制約事項を契約で明文化したのは、右契約締結の段階で、被告ダイトを通さずに原告が中味商品を販売したことが表面化し、将来も同様の事態が起こることを被告ダイトにおいて懸念していたからである。そうであれば、被告ダイトとしては右販売専権を許された地域内では、忠実にその義務を果たすべきは当然であり、もし同被告が右義務を履行しないでもよいと解するときは、原告としては右地域内において全く販売権を失うか、又は敢えて契約違反をして自力救済を図らざるを得ないことになり、右契約の趣旨が没却されることになろう。

さらにまた、原告と被告ダイトの間の昭和四八年一一月一二日付け商品売買基本契約書(甲第四号証)と同五一年一二月一日付け商品売買契約書(甲第五号証)の頭書部分において、原告が発売する特定の商品を被告ダイトが販売するについて次のとおり特約店契約を締結すると記載されていることをあげるべきである。被告ダイトの右契約の被承継人であるシンワは、自販機を一流企業に取り扱つてもらうことを企図していたのであり、承継人である被告ダイトもこの企図を引き継いだものといわざるを得ない。そして、<証拠>によると、昭和五二年度に原告が被告ダイトから購入した自販機は約三八〇〇万円相当であり、これに対して原告が被告ダイトに販売した中味商品は同年度において約五五〇〇万円であつたことが認められる。このことからすると、被告ダイトにとつて原告に自販機を販売することは営業政策上相当重要な位置を占めていたということができ、原告(及びその被承継人であるサンスター)に継続して自販機を購入してもらうことの反面として、原告の取り扱う中味商品を継続して購入する約束をしたことは推察に難くないといわなければならない。当事者がこのような契約締結事情を念頭において契約書の頭書きにあるような特約店契約の文言を使用したこともおのずから推察できるところであつて、この特約店の約定は、一般の特約店の契約と細かい内容において異なることはあつても、大筋において異なるところはないというべきである。昭和四八年の契約書第八条及び昭和五一年の契約書第六条において、被告が特約店としてふさわしくないと認められる行為をしたときは原告は契約を解除できる旨約定されたのも、一般の特約店契約の約定を端的に表現したのにほかならないと考えられるのである。

右の次第で、本件契約における特約店契約なる文言が単なる一般的定義であつて具体的定義は別であるとか、単なる定型文言であると解することはできず、被告ダイトは原告の一次特約店として原告の扱う商品のみを扱い、その販売拡張に努力すべき商行為上の義務があるものというべきである。

三請求原因4、5の各事実は当事者間に争いがない。

四被告ダイトの債務不履行責任について

1  <証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は被告ダイトから一か月一〇〇台ないし三〇〇台の自販機を購入し昭和五三年五月三一日現在その総台数は一万七〇〇〇台強であり、同日現在被告ダイトに対する無償貸与に係る自販機は六〇〇台であつた。原告は右購入に係る自販機を一旦自社に送らせた上、特約店又はホテルにこれを送品し、自らホテルでこれを設置し、又は右設置に立ち合いこれに関与した。

(二)  ライオンは自販機による歯磨・歯刷子セット、ヘアーセットの販売分野への進出を企画し、昭和五二年七月ころ被告ダイトに対し右取引を申し入れた。

そのころ、被告ダイトは従来から原告に売り渡してきたSN―3型自販機が手動式で耐用年数五、六年程度のものであり製造開始から十数年経過しその間の機械の進歩から時代遅れとなつているとの認識のもとに、新たに被告大都製作所に新製品の開発を依頼してきたところ、同被告は昭和五二年春ころ電動式のDF―6型自販機を製作したので、被告ダイトは同年七月原告にその試作品を持参のうえ、採用購入するよう申し入れたが、原告は特別これを検討することなく、唯、費用がかかり五年間というSN―3型の機械の償却も終わつていないとの理由で右申出を拒否した。その後、同年一〇月の日本自動販売機フェアーの試作品出品についても原告から断られるに至つて、被告ダイトは、原告に対する不満が生じあるいは原告との取引が長期的にみて不安であつて、この際ライオンと提携する方が新開発の自販機の販売増進にもかなり自社の利益が上がると考えるに至つた。他方、ホテル側でも電動式の自販機を要望するホテルが増え始め、中には旧来のSN―3型の自販機の取り付けを拒否するホテルもあつた。このような状況下において被告ダイトはライオンとの提携を決定し、その結果、被告ダイトはライオンと交渉のすえ、昭和五三年三月ころライオンとの間でDF―6型自販機のリース契約及びライオン製品である中味商品の売買契約を締結するとともに、ライオン製品の総発売元となつた。

(三)  右契約に基づき被告ダイトは昭和五三年六月ころから、被告大都製作所のDF―6型自販機を製品化し、所有権留保のまゝライオンにリースしたうえ、被告ダイト傘下の代理店を通じてホテル等に設置し、ライオン製品のトラベルセット、ヘアーセットをその中に入れ中味商品の販売を開始した。

その際、被告ダイトあるいはライオンは、DF―6型自販機及びその中味商品であるライオン製品の販売促進を図るため、代理店やホテル等向けにパンフレットやダイレクトメールを作成して宣伝活動に努めた。その内容は、新型のDF―6型と旧型のSN―3型の各自販機の機能比較あるいはライオン製品とサンスター製品の商品比較を行うもので、なかには不正確、不適切な内容部分もあつて、いずれもDF―6型自販機及びライオン製品の長所を強調し、その採用を促すものであつた。被告ダイトらの右宣伝活動によつて代理店又はホテルは右宣伝文言を信用し、DF―6型自販機及びライオン製品への切り替えを申し出た。

また被告ダイトは、サンスター製品の販売においてウエスコの傘下の代理店であつたピー・ブイ・エルにライオン製品の販売を勧め、昭和五三年六月被告ダイトの代表取締役で被告の木原実がピー・ブイ・エルの取締役に、同年八月ピー・ブイ・エルの代表取締役安達義久が被告ダイトの取締役にそれぞれ就任し、ピー・ブイ・エルをウエスコと並ぶ被告ダイトの代理店として相互の信頼関係を確立した。

被告ダイトの代理店である東京地区におけるウエスコ、ピー・ブイ・エル、千葉地区における佐々木商店、東北地区における東北シンワは、昭和五三年七月ころから被告ダイトの指示及び積極的な応援のもとにホテル等向けの新型自販機DF―6型機の設置及びライオン製品の二〇〇円用歯磨・歯刷子セット、ヘアーセットの販売に努めホテル等の同意を得て、既にサンスターのSN―3型自販機が設置されている別紙(一)の1、2記載の各ホテル等を始めとするホテル等から原告あるいはサンスターに対する連絡や同意なしに右自販機を取り外しその場所にライオン製品販売のためのDF―6型自販機を設置し、その他従来自販機を設置していなかつたホテル等や新たに開業したホテル等にも右同様にDF―6型自販機の設置を勧めていつた。

以上の事実が認められ、<証拠>中、右認定に反する部分はにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  さらに<証拠>によれば、原告の取り扱うトラベルセット、ヘアーセットはほかに自販機で売られている商品、例えばタバコ、ビール、ウイスキー、清涼飲料などの嗜好品が消費者の好みに応じて選択され得る製品であるのに比べて、複数の同種製品の競合選択になじまない性格の商品であり、ホテル等において販売する場合でも他社の製品と並行販売されることはまず考えられず、実際にも新宿の厚生年金会館でその例があるにすぎないこと、サンスターとライオンは歯磨製品分野での大手メーカーで両社の商品が市場の八〇ないし八五パーセントを占めていること、以上の事実が認められ右認定に反する証拠はない。

3  以上の被告ダイトの行為が、前判示の原告との契約に照らして債務不履行に当たるのかどうかの点について検討する。

原告と被告ダイトの間の契約は、さきに判示したとおり、中味商品についての継続的供給契約であり、いわゆる特約店契約とも目すべきものである。そして右契約の趣旨は被告ダイトに対してサンスターの中味商品の競争品を取り扱つてはならないことを求めており、右競争品が二、三流メーカー製品にとどまらず、一流メーカーの製品に及ぶことは明らかであり、むしろ競争力の強い一流メーカー品に対する規制はより大であると推認されるところである。しかるところ、被告ダイトの前記所為は原告に無断で原告の中味商品を排除し、そのあとに競争品であるライオン製品を中味商品とする自販機を設置し、且つライオンの総販売元となつて右商品の販売拡張に努力していたというのであるから、被告ダイトの右所為は原告及び被告ダイト間の前記契約書第六条の「特約店としてふさわしくない行為」に該当することは明らかであるといわざるを得ない。

そこで進んで、被告ダイトの右所為にその責に帰すべからざる事由が存在するか否かにつき検討するに、被告ダイトは原告からの中味商品を代理店に販売するとともに、被告大都製作所から自販機を購入してこれを原告に供給することによつて利益を図つているのであるから、被告大都製作所とともに自販機の改良・モデルチェンジに意を払うべきことは当然であり、本件においても、原告に供給した自販機SN―3型の改良機として被告大都製作所とともにDF―6型を開発したわけである。そして、この改良機を売り込んだのに対して、原告はこれを採用しなかつたことから、原告の競争者に対してこれを宣伝し、結局ライオンの採用するところとなつた。原告は被告ダイトの右申出に対し、自己の購入した旧型の自販機の償却にのみ気を奪われ、ホテル側の需要の推移、機械の改良等を考慮せず、ただ自己の採算上の見地のみから右申出を簡単に拒否しているものであり、継続的商取引上はこれが独立して債務不履行と目されなくても、当を失した行為といわざるを得ず、右行為が被告ダイトの債務不履行の誘因となつていることを否定することができない。しかしながら、原告側に右の如き当を失する行為がありこれが被告ダイトの前記所為の誘因になつたとしても、このことの故に被告ダイトの所為が当然に正当化されるものではない。すなわち、旧型であるSN―3型機の耐用年数が五年であることは、本件契約締結に当たつて、原告と被告ダイトの間で前提とされたことがおのずから推察されるのであるから、本件契約が存続する限り、被告ダイトがこれに拘束されるのは当然であり、本件契約の契約期間が満了するか又は自販機の償却期間が経過するまでは旧SN―3型の自販機が当初設置されたホテル等に継続して置かれることを前提にして、被告ダイトは原告に同自販機を供給したはずであつて、この間は、継続して原告の取り扱うサンスター製品の中味商品の供給を受けなければならないことが義務づけられているものといわねばならないのである。したがつて、被告ダイトとしては、前記所為に出る前に原告との間で右契約条項の改訂を求めるか、これに正当な理由なく応じない場合は右契約の解約を求めるか、少なくとも事前にライオンからの申出を原告に告知してその善処方を申し出るべき商取引における信義則上の義務がある。ところが、被告ダイトは唐突に原告の不知の間に前記所為に出て、サンスター製品の自販機が設置されているホテル等に対しても、新型のDF―6型機の長所のみを殊更に強調して宣伝し、さらには、サンスターの自販機を取り外し、ライオン製品用のDF―6型機を新たに設置する行為に出たものであつて、反面においてこれらのホテル等において販売が予定された原告供給の中味商品の販売を積極的に排除したものということができる。

被告ダイトの右行為は、公正な競争の範囲を越えて、一方的に自己の利益を図つたものであつて、その責に帰すべき事由に基づくものであり、明らかに本件契約、すなわち継続的商品供給契約・特約店契約の約定に違反するものといわざるを得ない。したがつて、被告ダイトは、右行為によつて原告が被つた損害を賠償する責任があるというべきである。また、被告大都製作所と同木原実は本件契約の連帯保証人として、被告ダイトと連帯して右損害を賠償しなければならない。

五原告の損害について

1  主位的主張について判断する。

(一)  まず、原告の被告ダイトに対するトラベルセット、ヘアーセット一個当たりの納入価格については当事者間に争いがない。

(二)  次に、被告ダイトにより撤去された自販機の台数は<証拠>によれば、被告ダイトが自販機の撤去を開始した昭和五三年七月以降本訴提起時の同年九月三〇日までの間に四二四台、その後判明したものが五七八台、計一〇〇二台であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  しかしながら、損害額についての原告の主位的主張は、撤去された自販機からの中味商品の売上個数を推計するのに、客観的・平均的な基礎数値を根拠にしたものということができず、むしろ恣意的に基礎数値を取り上げて計算したものであつて、採用することができないというべきである。すなわち、原告は逸失利益の算出につきサンスター自販機の一台当たりの中味商品の平均的売上本数を基準にすべきと主張し、右売上本数は東京地区では一日一台当たりトラベルセット3.29本、ヘアーセット1.01本とする。ところで、原告の主張によれば東京地区とは東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県をいうものでありながら、右地区の平均的販売本数は、前掲甲第四七号証では、東京都内の一三ホテルの平均を出しているにすぎないうえ右ホテルごとの販売本数も多いホテルと少ないホテルでは五倍近い開きがある。しかも、弁論の全趣旨から東京都内だけでもサンスター自販機の設置されている所は相当数あると推認されるところ、その中から右一三ホテルをいかなる基準で抽出したかについては、<証拠>によると一か月の消化本数のつかみ易いホテルを選んだのであつて、具体的なものではないこと、さらに同証言及び弁論の全趣旨によれば右一三ホテルの中には新橋第一ホテルや赤坂シャンビアホテルのように平均売上本数の算定に当たりサンスター商品のみかライオン商品の売上をも含めて計算されている所もあるなどからすれば、東京地区において平均的売上本数が原告主張のとおりとはにわかにいえない。

さらに原告は東京地区以外をその他の地方都市として平均的売上本数をその八〇パーセントとするが、<証拠>によれば、ホテル等の中には都市ホテル、リゾートホテルがありそれにより客室利用率も異なつていること、原告主張の自販機の撤去されたホテル等の中にはリゾートホテルも相当数含まれていることが認められる。そうすると、原告の主張する東京地区、地方都市の分類方法自体、平均的売上本数の算定に当たつては採用し難い。

いずれにせよ、原告の主位的主張は失当である。

2  予備的主張について判断する。

(一)  <証拠>によれば、本件契約の締結された昭和五〇年一二月一日から、前記認定のとおり被告ダイトの指示のもと、原告のSN―3型自販機がホテル等から撤去され始めた当時の昭和五三年六月三〇日までの間における原告の被告ダイトに対する商品売上高は一億四一七〇万七九六〇円であり、このうちシューシャンや自動ウガイ器といつた本件中味商品以外のものの売上高は右期間中に七八万円あり、本件中味商品であるトラベルセット、ヘアーセットの売上高は一億四〇九二万七九六〇円であることが認められ、甲第四二号証中右認定に反する部分は信用できない。

そうすると、右期間の中味商品の月平均売上高は四五四万六〇六三円(140,927,960円÷31月=4,546,063円)となる。

(二)  損害の発生期間について原告は昭和五八年七月末日までは本件契約が存続していたものと主張し、同日までの五年間の逸失利得の損害を請求しているところ、<証拠>によれば被告大都製作所のSN―3型自販機の耐用年数は五年以上あり壊れにくいものであることが認められる。

しかしながらさきに判示したとおり、本件で問われるべき被告ダイトの債務不履行に該当する行為は、SN―3型機の償却期間が終了し若しくは原告と被告ダイトとの間の継続的商品売買契約が終了するまでは、同被告は原告の取り扱う中味商品の供給を継続して受けなければならない契約上の義務があるのに、ライオン製品用の自販機をホテル等に設置してサンスター製品用のSN―3型機を取り外したという点にある。しかして、後記認定のとおり原告と被告ダイトの間の右継続的契約は昭和五五年一一月三〇日をもつて終了したのであつて、これより後は、被告ダイトは原告からの商品供給を受ける義務がなくなつたのである。したがって、原告は、被告ダイトがこれより後も商品供給を受けるべき義務があることを前提にした損害を同被告に求めることはできないものといわねばならない。

この点に関し、原告は、被告ダイトとしては、少なくともSN―3型機の耐用年数の五年間は継続的商品売買契約が存続するものと予想し、少なくとも予想すべきであつた旨主張し、これに加えて、被告ダイトがSN―3型機を無断撤去する暴挙に出なければ原告は同被告との契約を継続していたであろうし、契約が終了しても、ホテル等に自販機を設置したままで原告が引き継ぐことにより、自ら若しくは他の特約店を設定して自販機を継続し、中味商品の納入を続けることができた旨主張する。

しかし、昭和五五年一一月三〇日の契約終了は、成立に争いのない乙第八三号証により明らかなとおり、本件契約に定める期間満了通知に基づくものであつて、被告ダイトの債務不履行に基づくものではない。原告自らの意思に基づく契約終了と評価すべきものである。また、契約終了後も、原告がホテル等との設置契約を引き継ぐことにより中味商品納入を続けることができるとの点も、前掲甲第四二号証には、過去にかような引継ぎの契約がなされたことがある旨の報告記載があるが、将来も同様の引継ぎがなされるかどうかは、原告とホテル等及び新たな特約店との契約締結の成否にかかつているのであるから、自動的に引継ぎがなされるものではないし、さらに、SN―3型より性能が改善されたDF―6型が市場に出ているのだから、原告が交渉する新たな設置契約等が旧型のSN―3型機についてなされる限り、右引継ぎがなされる予想について相当程度の蓋然性をもつて認めることができるとは到底いい難いのである。

結局、SN―3型機購入から五年経過までの得べかりし利益を被告ダイトが賠償すべきであるとの原告の主張は、前判示のとおり昭和五五年一一月三〇日までの分を除き失当である。

そして、被告ダイトがサンスター製品用のSN―3型機を取り外してライオン製品用のDF―6型機をホテル等に設置することを開始したのが昭和五三年七月であるから、原告としては、同月一日から昭和五五年一一月三〇日までの得べかりし利益についてのみ請求できるとみるのが相当であり、右同期間の期待売上高は一億三一八三万五八二七円(4,546,063円×29月=131,835,827円)である。そして前掲各証拠によれば、右同期間の実際売上高は、四四一六万三四四〇円であることが認められるから、期間売上高との差額八七六七万二三八七円(131,835,827円−44,163,440円=87,672,387円)は、原告が被告ダイトの自販機撤去のため喪失した売上高と認めるのが相当である。被告らは、原告の被告ダイトに対する本件商品の販売量の減少が直ちに原告の販売量の減少になるとはいえず、又右販売量の減少は被告ダイトの責任によるものではない旨主張するが、自販機の撤去はその限りで販売量の減少につながることは経験則上明らかであり、右減少原因について他に特段の事情が認められない以上、前記販売量の減少は被告ダイトの債務不履行に起因するものと認めざるを得ない。

(三)  原告は利益率が五〇パーセントであると主張し、<証拠>によれば、本件中味商品を含む原告の全商品売上高の荒利益率(売上総利益/売上高)は、昭和五一年度から同五五年度まで順次51.3パーセント、43.1パーセント、45.1パーセント、39.9パーセント、35.4パーセントであることが認められるが、ほゞ正常な営業状態であつたのは昭和五三年までであり、昭和五四年、五五年の利益率は大巾に落ち込んでおり異常な状態であるから右両年の数値を採用することは相当でない。そこで昭和五〇年から昭和五三年までの利益率の平均をとると46.5パーセントとなるが、本件自販機の撤去が昭和五三年七月以降から開始されていることを考察すると、本件利益率は右平均値をやゝ上廻る数値と認めるべきであり、結局四七パーセントと認めるのが相当である。そうすると、原告の荒利益は四一二〇万六〇二一円(87,672,387円×0.47=41,206,021円)となる。

(四)  そこで、右荒利益から諸経費を控除した純利益を算出するに、まず、商品配送費は当然必要経費として、得べかりし利益を算定するに当たつてこれを控除しなければならない。<証拠>によると、昭和五〇年一二月一日から同五五年一一月三〇日までの間の原告の配送費総合計が売上高総合計に占める割合が別紙(七)計算書(三)のとおり1.65パーセントであることが認められる。そうすると、昭和五三年七月一日から同五五年一一月三〇日までの間の本件中味商品の喪失売上高八七六七万二三八七円の1.65パーセントである一四四万六五九四円は前記荒利益四一二〇万六〇二一円から控除されなければならず、この控除の結果は三九七五万九四二七円である。

次に、得べかりし利益を考えるに当たつては、さらに配送費以外の一般諸経費のうち売上喪失分に必要とされる部分を控除しなければならない。原告は配送費のみが経費として考慮されるべきであると主張し前掲甲第四四号証には右主張に沿う部分がある。しかしながら、中味商品の継続販売においては、配送費のみにては販売は不可能であり原告の主張は取引の実態を無視した独自の主張であつて採用できない。

そこで、喪失売上高商品に対応して必要とされる配送費以外の一般諸経費の額について検討する。本件においてはこれを額において明確に認めるに足りる証拠はないので、甲第四三号証における原告の総売上高に占める諸経費の占める割合から推計するほかないところ、昭和五〇年一二月一日から同五五年一一月三〇日までの間に、売上高総合計の中で、配送費を除いた一般諸経費(マスコミ費・販売促進費などの販売費、人件費などの営業費、その他)が占める割合は、右甲第四三号証によると約三五パーセントである。しかし一般諸経費は、特定の売上げ商品に個別的に対応するものではなく、他の商品に必要なものとの間に融通性があり、売上げ商品が例えば二倍に増えたところで右経費も二倍必要となるというべきものではないし、右経費の中のマスコミ費、その他の経営指導料などは本件経費として相当ではない。このことに照らして考えると、総売上高総合計二〇億七一一九万六〇〇六円に対して必要な一般諸経費の割合三五パーセントに対応して、喪失売上高八七六七万二三八七円に必要な一般諸経費はこれの二五パーセントであると推計するのが相当である。

そうすると、前記三九七五万九四二七円から喪失売上高の二五パーセントの一般諸経費二一九一万八〇九六円を控除すると、原告の得べかりし利益は一七八四万一三三一円となる。

したがつて、原告は右同額の損害を被つたというべきであり、被告らはこの損害を賠償しなければならないというべきである。

六結論

以上の事実によれば、本訴請求は、被告らに対し、各自金一七八四万一三三一円及びこれに対する履行請求したことが当裁判所に明らかである訴状送達の日(昭和五三年一〇月二日)の翌日から支払済みまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項ただし書を、仮執行の宣言につき、同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(久末洋三 塩月秀平 中本敏嗣)

別紙(一)の1

自動販売機一覧表(一)<省略>

別紙(一)の2

自動販売機一覧表(二)<省略>

別紙(二)

計算表(一)<省略>

別紙(三)

売上実績一覧表<省略>

別紙(四)

トラベルセット、ヘアーセット以外の売上一覧表<省略>

別紙(五)

計算書(二)<省略>

別紙(六)

明細書<省略>

別紙(七)

計算書(三)<省略>

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