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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)6903号 判決 1981年4月27日

原告

桃山台マンション管理組合

右代表者理事長

葛原吉夫

右訴訟代理人

北尻得五郎

外六名

被告

日商岩井株式会社

右代表者

松村典

右訴訟代理人

宮崎乾朗

外五名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告の主位的請求について判断する。<省略>

二原告の予備的請求について判断する。

1まず、被告が立案作成した本件駐車場の使用関係に関する契約及び規約中の条項案と、右条項案作成の経緯及び被告の意図について検討するに、<証拠>によると次の事実を認めることができる。

(1)  被告は、本件マンションの建設分譲を企画するに際し、専用駐車場の使用関係に関する契約について、当初は専用使用権販売方式によることを検討していた。これは、業者が駐車場用地の専用使用権を留保してマンション及びその敷地を分譲し、駐車場の使用を希望する購入者に右専用使用権を販売する方式である。この方式によると、業者は、専用使用権の販売代金を収益とすることができるから、マンションの分譲価格をその分低く抑えることができ、業者にとつて賃貸借方式より有利である。また、駐車場用地を含む敷地全体がマンションの区分所有者の共有地となるから、マンションを増改築しあるいは再築する場合、建築基準法による建築面積等の制限について敷地全体を基準として算出することができ、購入者にとつて所有権留保方式(業者が駐車場用地の所有権を留保し、これを希望の購入者に分譲する方式)より勝つている。このような利点があるため、専用使用権販売方式は当時から一般にかなり普及していたが、反面、専用使用権の法的性格が明らかでなく、これが権利として法的に承認されるかについても定説がなかつた。そのため、被告は、本件マンションより約半年前に建設分譲したマンションでは賃貸借方式を採用するなど試行錯誤を繰り返した末、本件マンションの分譲においては、形式上は賃貸借方式によりつつ、実質的には専用使用権販売方式と同様の効果を生じうる方式を工夫考案し採用したのである。

(2)  被告が立案作成した本件駐車場の使用に関する条項は、それぞれ次のとおりである。

(イ) 本件マンション分譲契約

被告は本件土地の共有持分権と本件マンションの区分所有権を本件マンション購入者に売渡し、購入者はこれを買受ける(一条)。購入者は、被告が本件土地の一部を専用駐車場とし、保証金として四〇万円、管理費を含む賃借料として月額五〇〇円を支払う購入者に専用使用させることを認諾する(一六条一項本文)。

(ロ) 本件駐車場契約

被告は本件駐車場の一区画を本契約に定める条件をもつて本件駐車場利用者に賃貸し、利用者はその条件を承諾してこれを借受ける(二条)。利用者の利用権は賃借権である(一条)。利用者は賃借物件を自己が所有使用する自動車の駐車の目的にのみ使用することができ、その他の目的のために使用してはならない(三条)。賃貸借の期間は利用者が本件マンションに継続的に居住しなくなつた時、又は居住を継続するも駐車場が不要となつた時まで存続する(四条一項)。但し利用者が本契約の条項の一つにでも違反したときは即時、利用者が不誠実な行為をするなど被告が本契約の継続に重大な支障があると認めた場合は一か月の予告をもつて、被告は本契約を解約することができる(同条二項)。賃借料は月額五〇〇円とし、利用者はその月の賃借料を毎月末日に現金をもつて被告に持参し支払う(五条一項一文)。利用者は本契約の保証金として被告に対し四〇万円を差入れるものとし、被告は受取保証金に一切利息を付さないものとする(六条一項)。保証金は、本契約の終了時にその一割を差引き被告から利用者に返戻するが、返戻時期は、被告が新たな利用者と契約を締結し新規保証金を受領した時とする(同条三項)。被告は、本件マンションの竣工引渡し後その購入者より管理組合が結成されたとき、本契約に基づく権利義務等一切を管理組合に譲渡移転するものとし、利用者はこれを異議なく承諾する(九条一項)。右移譲の後は、本契約に定める被告の権利義務等は全て管理組合が承継し、利用者は管理組合に対し本契約上の権利義務等を有し、被告に対しなんらの権利も要求せず、なんらの義務も負担しないものとする(同条二項)。

(ハ) 本件マンション管理組合規約

組合員は、本件駐車場を特定の組合員に専用せしめることを認諾する(一七条一項)。本件駐車場の専用を希望する組合員は、その専用利用権の対価として別に定める保証金及び賃借料を支払うほか、本件駐車場契約の定めに従わなければならない(同条二・三項)。被告は、本件駐車場契約に基づく一切の権利義務を組合に譲渡移転することができる。この場合、組合及び組合員はこれを異議なく承認し、被告は組合及び組合員に対し金銭の支払義務等一切の債務を負担しないし、組合及び組合員は被告に対しなんらの請求も行使せず、組合は以後利用者に対し本件駐車場契約に基づく権利義務を有するものとする(同条五項)。

右のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

2次に、被告が立案作成した本件駐車場の使用関係に関する契約の性質について検討する。

(一)  本件駐車場契約の性質について、原告は賃貸借であると主張し、被告はこれを認めている。しかしながら、これらはいずれも契約の解釈に関する陳述であつて、法律の解釈と同様法律上の判断であり、両当事者の陳述が一致したとしても自白が成立する余地はないものというべきである。従つて、右陳述の合致に自白の拘束力を認めるとことはできない。

(二)  前示の本件駐車場の使用関係に関する各条項によると、右各条項において、本件駐車場契約が賃貸借である旨明記され、賃借料、保証金、賃貸人等の賃貸借に特有の法律用語が使用され、契約の性質が賃貸借であることを前提として全体の規定が構成されていることが明らかである。

(三)  右各条項に基づき発生する当事者間の権利義務関係は次のとおりである。

(1) 契約成立時

被告は、本件マンション購入者に対する関係において、被告に対し後記金員を支払う購入者に本件駐車場の一区画を専用使用させる権利を留保し、本件駐車場利用者に対する関係において、保証金名下に一時金として四〇万円、賃借料名下に一か月当たり五〇〇円の支払請求権を有し、管理組合、購入者及び利用者に対する関係において、本件駐車場に関する権利義務等一切を管理組合に無条件で譲渡移転しうる地位にある。購入者は、共有持分権を有する本件駐車場敷地部分を無償で利用者に専用使用させる義務を負う。利用者は、本件駐車場の一区画を専用利用する権利を取得するが、被告に対し前記金員を支払う義務を負う。

(2) 被告から管理組合への本件駐車場に関する権利義務の移譲時

被告は、管理組合及び購入者に対する関係において、保証金名下に本件駐車場利用者から受領した金員の引渡義務を含む右移譲に伴うなんらの義務をも負担しない(なお、原告は、管理組合規約案一七条五項後段について、保証金の引渡義務に関する特約とは解することができない旨主張するが、前示の右条項案作成経緯及び条項の文言からみて、保証金の引渡義務についても適用のある規定であることは明らかである。)。また、利用者に対する関係において、将来の賃借料名下の支払請求権は失うが、保証金名下に受領した金員は収益として取得しうる。管理組合は、利用者に対する賃借料名下の金員支払請求権を取得する。利用者は右権利義務等の移譲を受忍すべき義務を負う。

(3) 右移譲後における本件駐車場契約終了時

被告はなんらの義務をも負担しない。管理組合は、利用者に対し、利用者が納付した保証金名下の金員の九割相当額を返還すべき義務を負う。なお、返還時期については新規の保証金が入金されたときとする特約があるが、新規の利用者との契約は終了した契約とは別個の契約であり、新規の保証金もいずれは返還されるべきものであるから、右特約によつて管理組合が右返還義務を免れることはない。

ところで、賃貸借とは、対価を支払つて他人の物を使用収益する契約であり(民法六〇一条)、物の使用収益とこれに対する反対給付との間の対価関係が契約の根幹をなすものである。なるほど、本件駐車場契約においては、賃借料が月額五〇〇円と定められているが、<証拠>によると、被告は、賃借料名下に利用者から徴収する金員を駐車場の維持管理に必要な実費として五〇〇円と定め、保証金を駐車場利用の対価と考えていたこと、原告及び本件マンション購入者も賃借料名下の金員を管理のための経費負担たる管理費と認識していたことが認められ(右認定に反する証拠はない。)、右事実からすると、本件において賃借料名下に徴収される金員が利用者による駐車場の使用収益に対する対価といえないことは明らかである(民法五九五条一項参照)。また、前示のとおり、本件駐車場に関する被告の権利義務等が管理組合に移譲される際、保証金が管理組合に引渡されないから、保証金を右移譲後における使用収益の対価とみる余地はなく、保証金の授受をもつて賃貸借における対価と認めることはできない。従つて、前示各条項に基づき発生する当事者間の権利義務関係からすると、本件駐車場の使用関係に関する契約を賃貸借と解するには疑問があるといわなければならない。

判旨そして、前示の本件駐車場に関する権利義務関係、とりわけ被告が希望購入者に本件駐車場を専用使用させる権利を留保して本件マンションを分譲し、購入者が利用者に対し本件駐車場を無償で専用使用させる義務を負うこと、賃借料名下に毎月徴収される金員が使用収益の対価ではなく管理費としての性格を有するうえ、被告が保証金名下に受領した金員を収益として取得しうること、被告の権利義務等が管理組合に移譲された後は、管理組合が契約終了時における保証金返還義務を負担することからすると、本件駐車場に関する契約は、駐車場専用使用権の設定・販売に関する契約及び駐車場管理委託契約であり、このように解することが右権利義務関係の実態に即した解釈というべきである。この視点に立つと、本件駐車場に関する契約は、次のとおり、再構成することができる。

(1) 被告は、本件マンションの分譲に際し、本件土地につき、駐車場の専用使用権を留保した共有持分権を購入者に分譲し、購入者は専用使用権の留保を承諾して右共有持分権を購入する。

(2) 被告は、本件駐車場の専用利用を希望する購入者に対し、右留保された本件駐車場の専用使用権を一区画当たり四〇万円で分譲し、これと同時に、利用者は、被告に本件駐車場の維持管理を委託して、被告に対し駐車場管理費として一区当たり月額五〇〇円を支払う。

(3) 本件駐車場に関する契約が終了した時は、被告は利用者から専用使用権を買戻すことができるが、買戻代金は分譲代金の九割相当額、買戻代金支払時期は新規の利用者から新規の分譲代金が入金した時とする。

(4) 被告は、本件駐車場に関する権利義務、すなわち専用使用権の買戻権と本件駐車場の管理受託者たる地位(利用者から管理費を徴収する権利を含む。)を管理組合に譲渡移転することができるが、管理組合及び組合員に対し右移譲に伴うなんらの義務をも負担しない。

(四)  このように、前示各条項による契約関係は、規定の構成等からすると賃貸借の外観を有するのに対し、右各条項に基づく当事者間の権利義務関係からすると、駐車場専用使用権の設定、販売及び駐車場管理委託に関する契約と解するほかないのであつて、内部に矛盾をはらんだものといわざるをえない。被告から本件マンション購入者に対する右各条項案の提示は、被告からの右各条項による契約の申込であつて、右のとおり、被告は、契約の性質について相矛盾する意思表示をなしたということができるが、契約に基づく当事者間の権利義務関係の内容が表意者の眼目であり、これに前に認定した右各条項案作成の経緯及び被告の意図を合わせ考えると、被告の真意は、右各条項に基づく権利義務関係に即した、駐車場専用使用権の設定・販売及び駐車場管理委託に関する契約とする点にあるものと認めるのが相当である。<中略>

(三)  以上のとおりであるから、本件駐車場の使用関係に関する前示各条項は、被告の前示真意にそう限度、すなわち、各条項が定める権利義務関係を内容とする範囲において、有効に成立したというべきである。そして、右有効に成立した右条項に基づく契約関係は、第2の(三)において再構成したとおりの駐車場専用使用権の設定・販売及び駐車場管理委託に関する契約であると解するのが相当であり、その内容は、被告が本件駐車場利用者に対し本件マンション分譲の際に留保した本件駐車場の専用使用権を販売し、その対価として利用者から保証金名下に金員を収受すること、原告が被告から右専用使用権の買戻権(契約終了時に買戻すべき義務を負うことからすると買戻義務でもある。)及び本件駐車場の管理権を譲受けるが、その対価は原告規約一七条五項後段により無償であること、原告が契約終了時には右専用使用権を買戻すことができるが、その対価として利用者に対し保証金の九割に相当する金員を支払うべき義務を負うことという法律関係になり、被告が利用者から保証金名下に金員を収受して自己の収益として取得すること、被告が原告に対し専用使用権の買戻権及び本件駐車場の管理権を無償で譲渡すること、原告が利用者に対し契約終了時において保証金の九割に相当する金員の支払義務を負担することは、いずれも有効に成立した右契約関係に基づくものである。従つて、被告が利用者から収受した保証金名下の金員を原告に引渡すことなく右金員を自己の収益として取得することには、法律上の原因があるというべきである。

4最後に、本件駐車場専用使用権に関する契約の有効性について判断する。

(一)  原告は、右専用使用権が物権であるとすると、物権法定主義に反するから、専用使用権に関する特約は無効である旨主張する。

そこで、本件における駐車場専用使用権の性質をみるに、右専用使用権は、本件駐車場利用者が本件マンションの区分所有者たる原告組合員の共有地である本件駐車場の一区画を専用使用しうる権利であつて、契約終了時には原告(但し前示の権利義務移譲前においては被告)に対し保証金の九割に相当する金員を請求しうる権利も含むが、使用目的が利用者の所有かつ使用する自動車の駐車に限定されており、前示甲二号証によると、利用者が自己の専用使用区画を無断で第三者に使用せしめることは固く禁じられている(本件駐車場契約七条一項)ことが認められるから(右認定に反する証拠はない。)、右専用使用権に関する法律関係は、利用者、原告、原告組合員の三者間に限局されるのである。このように、右専用使用権は、本件マンションの区分所有者間においてのみ認めれば足りる対人的権利であつて、対世的に対する直接の支配力を認めることは、必要でも適当でもない。従つて、右専用使用権は債権であつて、これを物権と解すべき根拠を欠く以上、原告の右主張は理由がない。

(二)  原告は、駐車場専用使用権の設定・販売に関する前示特約について、被告が過大な利益を得ることを企図し、本件マンション購入者が契約の内容やマンションの法律関係に無知で被告を盲目的に信頼しているのに乗じて締結した附合契約であるとし、右特約に従うと、各購入者は、被告から買受けた本件駐車場の敷地の共有持分権について、なんらの対価を受けることもなく、駐車場専用使用権による制限を受け、原告は、新たに保証金の返還債務を負担することになる一方、被告は、土地の分譲代金のほかに右専用使用権の分譲対価たる保証金を取得して、二重に土地の処分対価を利得することになり、不当かつ不公平な内容をもつから、右特約は公序良俗に反し無効である旨主張するので検討する。

なるほど、前認定事実によると、被告は、本件駐車場の敷地を含む本件土地の共有持分権を本件マンションの区分所有権とともに購入者全員に分譲しながら、これとは別個に、本件駐車場の専用使用権を一区画当たり四〇万円で分譲しているから、一見同一の土地により二重に利得しているとの疑いの生ずる余地はある。しかし、<証拠>によると、本件マンションが分譲される以前から、マンション分譲の業界における競争は激しく、業者は、コストを少しでも下げマンションの分譲価格をできるだけ低く抑えることにより顧客の購買意欲を高める必要性に迫られ、価格低減に腐心していたが、こうした中で駐車場専用使用権の設定・販売による方式が考案され、右方式は、昭和四八年ころまでマンションの分譲において広く採用されていたこと、被告は、本件マンションを建設分譲するに必要な総経費に相当の利潤を上乗せした総販売価格を算出し、これから駐車場専用使用権の総分譲価格を差し引いた残りを敷地マンション本体の総分譲価格として、各戸の分譲価格を決定したことが認められるのであり(右認定を覆すに足りる証拠はない。)、右事実によると、被告としては、本件駐車場の使用関係について本件のように駐車場専用使用権による方式を採用しても、専用使用権の分譲価格だけ各戸の敷地付マンション分譲価格を引下げ、専用使用権の分譲価格に相当する過大な利益を上げうる余地はなかつたというべきである。換言すれば、敷地付マンション本体の総分譲価格のうち、本件土地の分譲価格は、本件駐車場に対する専用使用権の負担が附着したものとして評価し算定されたものと考えられるのであつて、被告が右駐車場専用使用権を別個に分譲したことにより、同一土地から二重に利益を得たものと速断することはできないというべきである。また、本件駐車場に関する前示契約関係は、本件マンションを増改築又は再建築する際、あるいは本件駐車場敷地の用途を変更する際において、原告に駐車場利用者に対する買戻代金の支払義務を課すなど、将来に大きな問題を残す方式ではあるが、本件マンション購入者は、右のとおり、本件マンション購入時点において、敷地付マンション本体を駐車場専用使用権の分譲価格相当分だけ安く分譲を受けることができたのであり、しかも、前認定のとおり、被告立案作成にかかる前示各条項は当事者間の権利義務関係について比較的簡明に規定し、購入者は右条項を子細に検討しうる時間的余裕を有していたのであるから、右の事情により、本件駐車場に関する契約関係が原告及び購入者にとつて一方的に不利・不当でかつ不公平な内容であると断ずることはできない。そして、他に右契約関係について公序良俗に反するというべき事由があるとは認められない以上、原告の右主張は採用することができない。

(三)  よつて、本件駐車場に関する専用使用権の設定・販売契約は有効であるというべきであり、被告が本件駐車場利用者から保証金名下に収受した金員を自己の収益として取得しこれを原告に引渡さないことについて、法律上の原因があると認められるから、原告の予備的請求も理由がない。

(金田育三 森真二 中谷雄二郎)

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