大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)952号 判決 1980年2月29日
原告
株式会社浪速製作所
被告
新東工業株式会社
昭和53年(ワ)第952号特許権侵害差止等請求事件
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
1 請求の趣旨
1 被告は別紙イ号図面および同図面説明書記載の中子成型機を製造販売し、または販売のため展示してはならない。
2 被告はその所有にかかる前項記載の中子成型機の完成品および半製品を廃棄せよ。
3 被告は原告に対し金2415万円およびこれに対する昭和53年2月25日から支払いずみまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに第3項につき仮執行宣言。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
3 請求原因
(1) 原告は下記のとおりの2つの特許権を有するものである。
(1) 名称 シエルおよびホツトボツクス造型機
出願 昭和40年9月23日(特願昭40-58242)
公告 昭和45年7月27日(特公昭45-22213)
登録 昭和47年5月31日(第646785号)
特許請求の範囲
1 上金型と下金型とを1組とする合せ金型を有し、該上金型上方で吹込、離型機構を移動させ下金型のみを前記上金型に対し垂直方向に作動させる形式の加熱造型機において、固定されている上金型上方に吹排気弁を備えた吹込管作動ピストンを垂設し、台車に並設したブローヘツドと上金型押出装置を該上金型と吹込管との間に移動可能に懸垂することを特徴とする加熱造型機。
2 上金型と下金型とを1組とする合せ金型を有し、該上金型上方で吹込、離型機構を移動させ下金型のみを前記上金型に対し垂直方向に作動させる形式の加熱造型機において、固定されている上金型上方に吹排気弁を備えた吹込管作動ピストンを垂設し、台車に並設したブローヘツドと上金型押出装置を該上金型と吹込管との間に移動可能に懸垂し、かつ下金型の昇降に関係なく押上ピンの上下動を行いうる押上機構を下金型下降ピストンに内蔵することを特徴とする加熱造型機。
(以下、甲特許といい、特許請求の範囲第1項をその第1発明、第2項を第2発明という。ただし、単に甲特許というときは両発明に共通した事項に関する摘示または判示である。)
(2) 名称 吹込式鋳型造型機用吹、排気弁付圧着シリンダー
出願 昭和40年9月23日(特願昭45-39582、ただし、甲特許出願の分割)
公告 昭和47年8月19日(特公昭47-32485)
登録 昭和50年12月20日(第798089号)
特許請求の範囲
ピストンシリンダー内にピストンにより滑動自在に支持された中空圧着シリンダー桿と該中空圧着シリンダー桿に連通する吹排気弁とからなる吹込式鋳型造型機用吹排気弁付圧着シリンダー。
(以下乙特許という)
(2) 甲、乙各特許発明の構成要件およびその作用効果は次のとおりである。
(甲特許)
(1) 構成要件
(第1発明)
(イ) 上金型と下金型とを1組とする合せ金型を有し、(ロ)該上金型上方で吹込、離型機構を移動させ(ハ)下金型のみを前記上金型に対し垂直方向に作動させる形式の加熱造型機において(以上前提条件またはプリアンブル部分)、
(A) 固定されている上金型上方に吹排気弁を備えた吹込管作動ピストンを垂設し、
(B) 台車に並設したブローヘツドと上金型押出装置を該上金型と吹込管との間に移動可能に懸垂することを特徴とする加熱造型機。
(第2発明)
前記第1発明と同1構成要件のほか下記要件を加えたものである。
(C) かつ下金型の昇降に関係なく押上ピンの上下動を行いうる押上機構を下金型下降ピストンに内蔵する。
(2) 作用効果
甲発明に係る装置は前記の各構成要件からなることによつて合せ金型内に、例えばレジンサンドの如き造型物質を吹込造型するに際し、上金型と下金型の圧着堅締状態を、吹込開始時点から離型動作の開始時点迄上下方向より夫々確実に圧着保持せしめ金型の加熱に伴う歪の発生を極力防止し以つて正確な寸法精度を有する造型を遂行することができ、また、吹込管作動ピストンを吹込時のブローヘツド押圧と吹込に伴う合せ金型内への圧搾空気の送気を兼ね行わせることによる機構の簡略化、更には下金型に於ける離型押上機構の単独作動可能により押上ピンを下金型の昇降動作と関係なく任意に押上作動を行わせ、下金型の清掃、点検、離型剤の散布を容易とすること等の効果を有するものである。
(乙特許)
(1) 構成要件
(D) ピストンシリンダー内にピストンにより滑動自在に支持された中空圧着シリンダー桿と
(E) 該中空圧着シリンダー桿に連通する吹排気弁
(F) とからなる吹込式鋳型造型機用吹排気弁付圧着シリンダー。
(2) 作用効果
乙発明は前記の構成要件からなることによつて、吹排気弁と連通する中空シリンダーをピストンにより滑動自在に支持することにより造型材料の吹込みを行うため、吹込時の圧搾空気導入が、最も短かくかつ直線的に行なうことができ、圧搾空気の圧力低下等の欠点がなく効率の高い吹込が可能であり、また送気のためのゴムホース、パイプその他煩雑な設備を必要とせず、装置自体が簡潔かつコンパクトとなる等、種々の効果を有するものである。
(3) 被告は別紙イ号図面および同図面説明書記載の中子成型機(以下イ号機という)を業として製造販売し、販売のために展示している。
(4) イ号機は次のような構成および作用効果を有しているから、甲乙特許のいずれの技術的範囲にも属するものである。
(1) 構成
(イ)'上金型と下金型とを1組とする合せ金型を有し、(ロ)'該上金型上方で吹込、離型機構を移動させ(ハ)'下金型のみを前記上金型に対し垂直方向に作動させる形式の加熱造型機であつて、
(A)' 長孔25を有する支持腕24を上金型1に設け、固定側に取付けた釣部材27の軸を上金型支持腕24の長孔25に遊挿して上金型を懸垂し、さらに上金型1上方にストツパー30を設け、この上金型1上方に吹排気弁13を備えた吹込管作動ピストン11を垂設し、
(B)' 台車4に並設したブローヘツド2と上金型押出装置58を上金型1と吹込管12との間に移動可能に懸垂し、
(C)' 下金型16の昇降に関係なく押出ピン19の上下動を行いうる押上機構を、下金型昇降ピストン17に連設した中空箱状部(下金型クランプテーブル)23に内蔵していることを特徴とする加熱造型機であり、またイ号機はそのほか、
(D)' ピストンシリンダー28内にピストン11により滑動自在に支持された吹込管12と
(E)' 該吹込管12に連通する吹排気弁13と
(F)' からなる吹込式鋳型造型機用吹排気弁付圧着シリンダーをも備えている。
(2) 作用効果
イ号機は上記のような構成からなることによつて甲乙両特許発明の作用効果と同1の作用効果を有するものである。
(3) 対比
イ号機のプリアンブル(イ)'(ロ)'(ハ)'と(A)'(B)'の構成は甲特許第1発明のプリアンブル(イ)(ロ)(ハ)と構成要件(A)(B)を、同(C)'は第2発明の構成要件(C)を、また(D)'(E)'(F)'は乙特許発明の構成要件(D)(E)(F)をそれぞれ充足している。
したがつて、イ号機は前記のとおり甲乙両発明の所期の作用効果をすべて発揮するのである。
(5) そうすると、被告はイ号機を業として製造販売することによつて原告の甲乙両特許権を侵害している。
(6) 被告は、イ号機を業として製造販売することが原告の本件両特許権を侵害する違法な行為であることを知りながら、もしくは過失によりこれを知らないで、昭和52年3月から同53年にわたり上記イ号機合計7台を製造し、こられを1台金2300万円で訴外トヨタ自工に販売し、1台につき少くとも販売価格の15パーセント(345万円)合計金2415万円の利益をえたことにより、これと同額と推定される損害を原告に与えた(特許法102条1項)。
(7) よつて、原告は被告に対しイ号機の製造販売、販売のための展示の差止めと上記侵害行為を組成するイ号機の完成品および半製品の廃棄、ならびに損害金2415万円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和53年2月25日から支払いずみまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
4 請求原因に対する答弁
(1) 請求原因(1)ないし(3)項は認める。
(2) 同(4)、(5)項は否認する。
(3) 同(6)項のうち被告が原告主張の頃訴外トヨタ自工ヘイ号機7台を販売したことは認めるが、上記販売代金は1台1300万円である。イ号機に中子取出装置その他の装置を加えても1式2000万円であるから、いずれにせよ原告主張の代金額は過大で事実に反する。また。利益についても、当時は大型機械業界大不況の折りから遊んでいるよりいくらかましというていどのものであつたというのが実情で、被告には実質上利益はなかつた。また、乙特許は中子加熱成型機の1部分である吹排気弁付圧着シリンダーに関するものであるから、その権利侵害による損害額を甲特許権侵害の場合と同額とするのは極めて不合理である。その余は争う。
5 被告の主張
イ号機の構成はなんら甲乙各特許発明の技術的範囲に属するものではない。
(甲特許関係)
(1) 第1発明について
イ号機の構成が第1発明の構成要件中のプリアンブル部分を充足することは原告主張のとおりである。
しかし、(A)'(B)'の構成はいずれもなんら第1発明の構成要件(A)(B)を充足していない。すなわち、まず(1)第1発明の構成要件(A)にいう「吹込管作動ピストン」は吹込時のブローヘツド押圧と離型時の上金型押出装置押圧とを兼ねて行うようにされているものであると解すべきである(兼用ピストン型。なおここでいう兼用とは吹込時の吹込と押圧の兼用をいうのではない点留意のこと)。また、それゆえに論理必然的に構成要件(B)にいう「上金型押出装置」もその駆動が前記「吹込管作動ピストン」の押圧作用によつて行われるようになつているもので、押出装置自体は駆動部(ブローヘツド押圧用のピストンと別のピストン)を有していないもの(いわゆる他駆動型)であると解すべきである。しかるところ、イ号機においては、吹込時のブローヘツド押圧用のピストンと離型時の上金型押出用のピストンは別に備わつており、それゆえ離型機構はそれ自体上金型押出用ピストンを備えている自駆動型である。また(2)第1発明の構成要件(A)にいう「固定されている上金型」とは上金型が加熱によつて歪が発生するのを阻止する如く、しつかりと配置することすなわち固着されている状態をいうと解すべきである。しかるところ、イ号機における上金型はなんら上記の意味で固定されてはいない。
以下にそのゆえんを述べる。
(1) ピストン兼用型と他駆動型の点
① まず、上記の点について第1発明の要件を前記のとおり解するのが正しいと思われる理由は次のとおりである。
(イ) 先行公知技術との関係
第1発明のプリアンブル部分はそのクレームの仕方からみても明らかなとおり甲特許出願前公知の技術である。すなわち、上記のような技術はすでに昭和39年2月5日公告にかかる昭39-1001号の特許「成型方法ならびに成型機」(乙第6号証の1、以下A特許という)および同年6月20日公告にかかる特公昭39-11203号の特許「砂中子自動製造機械」(乙第7号証の1、以下B特許という)で開示されている。これを具体的に説明するに、上記各公報によると「上金型(A特許の第1図上型C、B特許では第4、5図等の上方中子型室20参照)と下金型(A特許の第1図下型185、B特許では第4、5図等の下型室24参照)とを1組とする合せ金型を有し、該上金型上方で吹込機構(A特許第1、5図の2重貯槽35、B特許第5、6、7図の容器18参照)、離型機構(A特許第1図のパンチアウトヘツド36、B特許第5図の中子ストリツパー構造物30参照)を移動させ(A特許第5図の往復台120、75、および連結リンク37、B特許第5図の台車90参照)、下金型のみを前記上金型に対して垂直方向に作動させる(A特許第1図の締付シリンダ22、B特許第5、7図のシリンダ220およびプランジヤー210参照)形式の加熱造型機」が開示されている。
次に、構成要件(A)のうち「上金型上方に吹排気弁を備えた吹込管作動ピストンを垂設する」構成は「鋳砂吹込装置」にかかる米国特許第2598621号の明細書(1952年5月27日特許、乙第8号証、以下C特許という)、同じく「中子吹込機」にかかる米国特許第2468672号の明細書(1949年4月26日特許、乙第9号証、以下、D特許という)に実質上開示されている(前者の第3図における赤斜線部分が吹込管。ピストン20、吸気弁59、排気弁83参照。後者の第1、2図におけるピストン15、ブローヘツド27、送気弁23参照)。そして、ここで留意すべき点は、上記C、Dの米国特許はいずれも、吹込時のブローヘツド押圧と離型動作をそれぞれ別の機構で行つており1つのピストンで兼ね行わせるという技術を何ら示唆していない点である。
また、構成要件(B)にいう「上金型押出装置」についても、そのうち自駆動型のものはすでに前記A、B各特許によつて公知である(A特許においては第5図で明らかなとおり上金型押出装置36はそれ自体ピストンシリンダ構体81と杆84を備え、杆84の往復動によつて、パンチアウトフレーム86を往復動させて離型を行うようにされており、また、B特許においても第5図で明らかなとおり上金型押出装置30はそれ自体空気シリンダー162とプランジヤー160を備えており、プランジヤー160の往復動によつて上型ストリツパー板148を往復動させて離型を行うようにされている。)。
そして、いま以上のような先行公知技術に照らし甲特許第1発明の構成要件を検討してみると、結局、甲特許の(A)の要件にいう「吹込管作動ピストン」は吹込時のブローヘツド押圧と離型時の上金型押出装置押圧の両機能を兼ね備えたもの、またそれゆえ(B)の要件にいう「上金型押出装置」は他駆動型に限定されると解するほかない。けだし、そう解さないと第1発明の新規性を見出すことができないことになつてしまう。これを換言すると、第1発明の構成のうち新規な点は上記のような2つの押圧兼用ピストンを備えたこと、したがつて離型機構が他駆動であることと後述のとおり上金型を固定したことの2点ということができる。その他の点は公知である。
(ロ) クレームの文言
以上の帰結は、第1発明のクレームの文言自体からも是認されうる。すなわち、第1発明のクレームは前述のとおり、プリアンブル部分と(A)(B)両要件とからなつているが、このようなヨーロツパ型クレームにおいては前者は一般に公知事項を掲げるだけであり、後者(要件(A)(B))こそ当該発明の新規な特徴事項を規定していると解されている。ところが、第1発明では、(B)要件の「上金型押出装置」を前記のとおり他駆動型のみに限定しないと、(B)要件は実質上プリアンブル(ロ)の「該金型上方で吹込、離型機構を移動させ」るという部分と同じことを繰り返し定めた過剰定義をしただけにとどまる結果になる。また、元来プリアンブルにいう「離型機構」は(B)要件の「上金型押出装置」の上位概念であると考えるのが当然であるところ、上記のような考え方と整合させるためには、要件(B)の「上金型押出装置」は上位の「離型機構」のうちの他駆動型を指すと解するのが極めて適切である。この点について、原告は、離型機構を上金型押出装置と昇降ピストン17を含む下金型下降装置との両者を含む概念であると考えればその上位概概念は維持できる旨主張しているが、この主張は、「該上金型上方で吹込、離型機構を移動させ」と規定するプリアンブルの記載と矛盾しているから採るに足りない。
(ハ) 出願経過
さらに、叙上の見解が正しいことは甲特許の出願経過からみても明らかである。すなわち、
1 原告は本件甲特許の拒絶理由通知に対する昭和43年12月13日付意見書(乙第5号証)において、引例とされたB特許との相違に触れて「本願において、吹込管作動ピストンをして吹込時にはブローヘツドの上型への圧着及び吹込或いは造型物の離型に際しては上金型押出機構の作動を兼用させるようにしたことの特徴点について御引用例には全くその記載をみることができません。従つて本願においてのみ期待し得る機構簡略化、経済性についての効用を御引用例では奏しえないこと明らかであります。」と述べている(3頁12ないし20行)。
2 また、その後第3者から甲特許に対する異議申立があつたのに対し、昭和46年3月8日付特許異議答弁書(乙第3号証)においても「(異議申立人引用の)B特許およびC米国特許では吹込管を有する作動ピストンによる吹込時のブローヘツドの上型への圧着、吹込あるいは離型に際しては上金型押出機構の作動を兼用させる点が全く記載されていない。従つて、機構の簡略化、経済性について本発明の如き作用効果は全く奏しないことが明白である」と述べている(6頁12ないし19行)。さらに同じ答弁書の別の部分でも「(異議申立人は第1発明の構成要件(A)は前記Cの米国特許明細書に照らし公知であると主張している。)しかし乍ら該特許明細書に記載された吹込弁は造型材料の吹込みのみに利用できるものであり、本発明の如く造型シエルの押出、離型には全く利用できないものである。」と明言している(7頁16行ないし8頁4行)。
このように、原告は甲特許(第1発明)の出願過程において繰り返し第1発明の新規性がピストン兼用型である点、いいかえれば離型機構が自らは動力を備えていない他駆動型である点にあることを強調しているのである。
3 このようなわけで、特許庁においても、昭和47年1月10日上記特許異議を理由なしとした決定で、その理由として「(異議申立人の提示した書証には第1発明のような構成要件(A)(B)の結合については何ら記載されてなく、またこれを示唆する記載もなされていない。)そして、本願のものはこの構成により、吹込管作動ピストンによつて吹込管が吹込時のブローヘツド押圧、離型時の上金型押出装置への押圧作用を兼用するという特有の作用効果を有するものと認められる。」と説示している(乙第4号証)。
② しかるに、イ号機は前期のとおりピストン兼用型ではなく、またそれゆえ離型機構も他駆動型でなく自駆動型である。すなはち。イ号機における上金型離型機構58には上金型押出に要する押出ピン6およびこれを駆動するための押出シリンダー10およびピストン29が別個に備えられているいわゆる自己駆動型である(そもそも、イ号機では離型機構58と吹込管12との間に台車4を往復動させるためのシリンダー21のピストンロツド59が介在しているため吹込管12を下降させて押出ピン6を突出させるという役割りを果させ、いわゆる兼用ピストンとすることはできないようになつている。)。
そして、イ号機は上記のような構成を有することによつて第1発明特有の作用効果である「機構全体の簡略化」をもたらすことはないが、その代り第1発明にない有利な効果、すなわち、押出ピン6をバネの復元力だけに頼らず確実に引込めて、押出ピンが上金型のピン孔にひつかかつたまゝ台車を移動させてしまうという不注意によつてもたらされる重大な事故を阻止することができ、また、ピストンロツド59の先端を台車4の中央部に連結できるという効果を奏する。
(2) 上金型固定の点
① この点に関する被告の前記第1発明の解釈が正当であることは次の点によつて明らかである。すなわち、構成要件にいう「固定されている上金型」が何を意味するか明細書からは必らずしも明らかではないが、ただその第1、3図によると、上金型をフレームにしつかり固定しているボルトの頭を看取でき、被告の主張に合致する。げんに、原告も前記意見書(乙第5号証)において「本願が、上金型と下金型の圧着堅締状態を吹込開始から離型動作の開始時点まで上下方向から確実に圧着保持せしめ金型の歪み発生を極力防止し寸法精度の高い中子造型を行うよう、上金型を固定式とし」と説明している。
② ところが、イ号機における上金型は上金型支持腕24の長孔25に挿入された釣部材27によつて支持され、釣部材27のまわりに揺動自在、かつ釣部材27に対して上下移動自在に懸吊されており、さらに一対の支持板26・26の間で横方向にも移動自在になつているのである。
そして、イ号機は上記のような構成をとつた結果、第1発明のように上金型を完全固定した場合に生ずるであろう上金型の反りにより下金型とのピン合わせが困難になることを避けているのである。
(2) 第2発明について
第2発明に関する被告の主張は要件(C)について次のとおり述べるほかはすべて上来主張の第1発明に関する意見と同一である。
第2発明の構成要件(C)は、押上機構が下金型下降ピストンに「内蔵され」ていることを定めている。しかるに、イ号機においては下金型押出ピン19を昇降させるためのシリンダー68およびピストン18はU字形の下金型回転機構64に取り付けられており、下金型16の上面が手前に傾くようになつており、上記にいうような内蔵関係は見出せない。したがつて、イ号機は上記構成要件(C)をも充足していない。
そして、イ号機は上記のような構成を採用していることによつて、下金型の清掃、点検、離型剤の散布が格段に容易となる等顕著な作用効果を奏する。
(3) なお、被告は予備的に原告の甲特許権行使は禁反言の法理に抵触し、権利の濫用である旨主張する。すなわち、原告は甲特許出願の過程で前記のような点をとる強調しようやく権利を取得したにもかかわらず、本訴においては不当にその権利範囲を拡大すべくこれと全く異なる主張をしているのであるが、このようなことはとうてい許されることではない。
(乙特許関係)
(1) 乙特許については、(1)その構成要件(E)にいう「中空圧着シリンダー桿に連通する吹排気弁」の意味はシリンダー桿の中空部と吹排気弁の送気口とが最も短かくなるようにかつ直線的に連通されていることであると解すべきであり、(2)同(F)にいう「とからなる」の意味は「実質上、中空圧着シリンダー桿と……吹排気弁とだけで構成されている」と解すべきであり、(3)同じく(F)にいう「吹込式鋳型造型機用吹排気弁付圧着シリンダー」の「付」の意味は吹排気弁と圧着シリンダーとが当業者の通念において一体化されていると考えうるていどに統合されていること、換言すればユニツト化されていることを指していると解すべきである。しかるところ、イ号機はなんら上記のような構成を採用していない。
以下そのゆえんを述べる。
(1) 構成要件の解釈
(イ) 「連通」の意味について
乙特許の明細書の発明の詳細な説明欄にはその作用効果として「吹込時の圧搾空気導入が、最も短かくかつ直線的に行うことができ、圧搾空気の圧力低下等の欠点がなく効率の高い吹込が可能であり」(同公報2欄27行目から30行目まで)との記載がみられるのであるが、いまもし、「連通」の意味をただ通じていればよい趣旨に解すると上記の作用効果が生じない結果となる。すなわち、「連通」を前記のように解してこそ上記の作用効果に関する記載をよく理解しうるのである。
原告はこの点について、上記作用効果の記載の意味は、乙発明ではブローヘツドに送気するために中空圧着シリンダーとは別のゴムホース、パイプ等を必要としないので、吹排気弁からブローヘツドまでが最も短かくなり、直線的に送気することができる点を述べているのであると主張しているが、中空圧着シリンダーと別にゴムホース等を備えない構成をとつたからといつて、必らず吹排気弁からブローヘツドまで最も短かく直線的に送気できるとはかぎらないという一点を考えただけでも上記の主張が妥当でないことが明白である。
また、原告は、「最も短かくかつ直線的に」というのは、中空圧着シリンダー桿内の送気についてだけの説明であると主張しているが、これも正当でない、仮りにそのような解釈が正当だとしても、その場合には中空圧着シリンダー内には送気流に対する障害物が存在しないことが要請され、備えるべきフイルターは送気流を乱さないような構造のもの、すなわら、中空圧着シリンダー下方開口面に平面的にフイルターを配置することが要請されてしかるべきであろう。
(ロ) 「からなる」の意味について
一般に、クレームにおいて「XとYとからなる」という場合XとYとで構成されているとの趣旨のほかさらにZ等他の構成物を排除する趣旨も含んでいるのであつて(consisting ofの意味。したがつて、comprising, containing, including, havingと異なるのであつて、)、合金に関するクローズ型クレームにその例が多い。本件でも、「からなる」はシリンダー桿と吹排気弁以外の他の構成物すなわち送気のためのゴムホース、パイプ等を排除していると解すべきである。そのように解してこそはじめて詳細な説明中の他の作用効果に関する記載部分すなわち「送気のためのゴムホース、パイプその他煩雑な設備を必要とせず」(公報2欄30行目から32行目まで)との記載がよく理解できるのである。
原告は、上記作用効果に関する記載の趣旨は、送気のためにシリンダーのほかこれとは別にゴムホース、パイプなどを必要としないという意味であるかのように主張しているが、これは原告独自の見解である。「送気のためのゴムホース、パイプを必要とせず」というのはまさに発明の対象である「吹排気弁付圧着シリンダー」について述べているのである。げんに、乙特許出願前の技術として圧着シリンダーとは別にブローヘツドに送気するためのゴムホース、パイプ等を備えていないものがすでに存在していた(乙第8、9号証参照)。したがつて、もし原告のように解すると、このような公知技術についてわざわざ作用効果を述べたことになり不当である。
(ハ) 「付」の意味について
乙特許の詳細な説明欄には乙発明の作用効果として前示の2点に続き「装置自体が簡潔かつコンパクトになる等、種々の効果を有する。」と説明しているが、このような効果はシリンダーが吹排気弁と一体化、ユニツト化されているからこそ発揮されることである。
また、乙発明の公報の第1、2図でも装置自体が一体化、ユニツト化されている。ところで、乙特許は甲特許出願から分割出願されたものであるところ、甲特許出願の明細書にはその公報の第1、3図に掲載された図面(乙特許公報の第1、2図と基本的に同じもの)以外に、乙特許発明について語るところはなく、かつ前記作用効果は乙特許出願のときにはじめて追加記載されたものである。そして、かような追加記載が要旨変更にならないのは、原明細書に開示された構成自体から当然に出てくることが自明な作用効果であるからである。したがつて、乙特許発明を理解するにつき、甲特許公報の第1、3図、したがつて乙特許公報の第1、2図に示された構造と、前記追加記載された作用効果とは十分に重視する必要があるのであつて、そうすれば、被告の「付」という用語についての解釈が正当なものであることが理解できるであろう。
さらに、また一般にクレーム上「付」なる用語はそれまでバラバラであつたものを統合化、一体化したという趣旨で使用されることが多い(「消しゴム付鉛筆」その他乙第11号ないし15号証の例参照)。
(2) イ号機の構成の対比
しかるところ、イ号機中の乙特許に関係する部分をみるに、ここでは、吹込管12を内蔵するピストンシリンダー28は上方フレーム52に取付けられているのであるが、他方吹排気弁13は圧搾空気供給タンク81に取付ける構成になつている。そして、吹込管12と吹排気弁13とはボルト80、77によつて取外し可能な3回折曲りパイプ54によつて通じている。
してみると、イ号機は乙特許中の「連通」、「からなる」、「付」のいずれの構成要件をも具備しておらず、また、それゆえ前述の乙特許発明の作用効果を奏さない。
ことに、「連通」の点について附加すると、イ号機の吹込管12内には邪魔板100とフイルター101とが備えられており、吹込空気は吹込管12中を直線的に進行するわけではなく、上記邪魔板100を迂回して曲げられてフイルター101を通過する。したがつて、仮りに原告がいうように「最も短かくかつ直線的に」という作用効果が圧着シリンダーの中空部内の効果だけをいつていると仮定しても、被告のイ号機は、「最も短かくかつ直線的に」送気するものではないから、乙特許所期の効果を発揮しないのである。
かえつて、イ号機は前記のような構成をとり、乙特許のような構成をとらなかつたことにより次のような有利な効果を発揮するものである。すなわち、圧着シリンダーは加熱された上金型の上方に位置するから加熱され過酷な条件で繰返し作動される(そのため、水冷ジヤケツトを備えているほどである。乙第16号証参照)。したがつて、吹込管12とピストンシリンダー28に備えられている11個のシール部材を交換する必要があるのであるが、この場合、イ号機ではボルト80、77を取外し、3回折曲がりパイプ54をピストンシリンダー28とピストン吹排気弁13から取外すと、シリンダー28だけを上方に引抜くことができる。もし弁とシリンダーが一体であれば必らず弁も取外す必要があり、そのためにさらに空気導管71ないし74を取外さねばならない。また、弁がシリンダーと一体であるため加熱がひどく、ために弁に内蔵されているシール部材の寿命を早めてしまう。
(2) かりにイ号機が形式的に乙特許の構成要件に該当する構成を有しているとしても、イ号機は乙特許所期の作用効果を全く奏しないこと前記のとおりである。このような場合は、結局、イ号機は乙特許の技術的範囲に属しないと解すべきである。
6 被告の主張に対する原告の反論
(甲特許関係)
(1) 第1発明について
(1) 兼用ピストンと他駆動の点
被告は、第1発明は吹込管作動ピストンがブローヘツド押圧と上金型押出装置押圧を兼行するものであること、したがつて上金型押出装置は他駆動型であることを必須の要件とするものであるかのように主張するが、そのような限定解釈は以下述べるとおり無理である。
① そもそも第1発明の要件(A)はピストンについて「吹排気弁を備えた吹込管作動ピストン」としているだけであり、発明の詳細な説明の項記載の実施例においても、ピストンの構造については「ピストン11により上下動することのできる吹込管12を垂設し、該上部には適宣吹込弁13を連結する」とあるだけで、その構造がやゝ詳しく記載されているにとどまる。もとより、第1発明は「吹込管作動ピストン」に上金型押出機構の作動をも兼行させることを排するものではないが、これが第1発明の必須要件でないことは争う余地ないほど明白である。
② また、原告は拒絶理由通知に対する意見書および特許異議答弁書において、吹込管をブローヘツド押圧と上金型押出装置の押圧を兼用させた場合の作用効果を記載しているのであるが、これは第1発明の構成をとることにより上記の両押圧作用を兼用させることもできるという付加的作用効果を記載したにすぎず、被告主張のように構成要件を上記のように限定した趣旨のものでもないし、特許庁も上記同様の趣旨を認めたものにすぎない。
③ 次に、第1発明の効果である「機構全体の簡略化」というのは吹込管作動ピストンを吹込時のブローヘツド押圧と吹込に伴う合せ金型内への圧搾空気の送気を兼ね行わせることによる機構の簡略化をいつているのであつて、ブローヘツド押圧と上金型押出機構の作動を兼行させることによる作用効果をいうものでないことは公報の記載に照らして明白である。
④ さらに被告の指摘する先行発明(公知技術)はいずれも第1発明が解決しようとした技術的課題の解決を目的としたものではなく、またそれゆえ全く異る構成を採用しているものである。したがつて、これらの公知技術を根拠とする被告の主張は理由がない。
⑤ さらに、被告が主張するイ号機の作用効果に関する主張も失当である。
1 まず、被告は、離型機構58は自己駆動機構を専有するので、「機構全体の簡略化」をもたらさないと主張する。しかし、前述したように第1発明の上記の効果は、吹込管作動ピストンを吹込時のブローヘツド押圧と吹込に伴う合せ金型内への圧搾空気の送気を兼ね行わせる構成と作用によるものであつて、上金型押出装置を他駆動型にしたための効果ではない。
2 次に、被告は、第1発明では上金型押出装置の押出ピン復帰をバネの復元力に頼るだけであるためピン折れ等の事故を招くというが、そのような欠点はバネの弾力を所要の強さにしておけばすむことで、このことを根拠にイ号機の優秀性をいうことはできない。
3 また、イ号機のように、ピストンロツド59の先端を台車4の中央に連結させたからといつて、特段これにより台車4が簡単かつ確実に往復動できるというような効果を生ずるわけではないから、このようなことによる効果をイ号機の特徴ということも誤りである。
(2) 上金型固定の点
この点についても、被告は第1発明は上金型が加熱によつて歪が生じるのを阻止するため上金型をしつかりと配置することを要件としているように主張しているが、この主張も誤つている。すなわち、
① まず、第1発明のクレームはもとより発明の詳細な説明においても上金型については「固定されている上金型」と記載しているだけで、上金型の固定方法、固定手段については特段記載もないのであるから、その意味については、発明の詳細な説明の項における発明の目的、構成、作用効果、拒絶理由通知に対する意見書、特許異議答弁書、出願当時の技術水準、当業者の技術常識等を斟酌して判断しなければならない。
② しかるところ、一般に機械部品、構造物あるいはレール等における「固定」というのは、当該技術分野において必要とされる諸条件に応じて若干の摺動、遊動、滑動、揺動等を許す取付を包含するものである(甲第6号証の1ないし3の「保線のはなし」、第7号証の1ないし3の「鉄道小事典」、第8ないし10号証の特許、実用新案公報、第11号証の1、2の「シエルモールド鋳造法と金型設計」、第12号証の1ないし3の「鋳物便覧」、第13号証の1、2の「シエルモールドニユース154号」参照)。
③ また、第1発明の公報に記載されている発明の構成(1欄27行目ないし2欄3行目)、作用効果(2欄6ないし10行)、造型操作の説明(3欄6ないし17行)、意見書(乙第5号証)、特許異議答弁書(乙第3号証)によれば、第1発明において上金型を固定されたものとしたのは、上金型と下金型との圧着堅締状態を吹込開始時点から離型動作の開始時点まで上下方向よりそれぞれ確実に圧着保持せしめ金型の加熱に伴う歪みの発生を極力防止し正確な寸法精度を有する造型を行うという効果を実現するためである。
したがつて、上金型はフレームあるいは固定部材等の固定側に取付け、下金型用の昇降ピストン17による上昇を阻止するようにしてさえあればよいわけである。むしろ、上金型は加熱による膨張収縮で生ずる歪によつて、下金型とのダボが合せにくくなるので、これを合せ易くするため取付部に若干の間隙を設けることは当業者の技術的常識に属する。
以上のとおりであるから、第1発明にいう「固定」がイ号機の上金型のような多少の動きを認めた固定を含む趣旨であること明らかである。
(2) 第2発明について
以上の第1発明に関する主張がそのまま第2発明についても妥当する。ただ、原告は要件(C)については次のとおり反論する。すなわち、
被告は、第2発明の要件(C)に関連してイ号機の下金型用押出ピン18がU字型の下金型回転機構64に取付けられており、下金型16の上面が手前に傾くようになつている点を強調するが、かかる構造は第2発明の実施にあたつての具体的な設計上の必要に応じて適宜付加できることにすぎない。しかも、かかる構造は原告が被告の実施より数年前からすでに実施していたところであつて、被告は原告の構造を模倣したものにすぎず、かかる付加的構造をもつてイ号機が第2発明の技術的範囲に属しないとすることはできない。
(乙特許関係)
乙特許の構成要件に関する被告の主張もすべて曲解である。
(1) 「連通」について
被告が主張するような限定は乙特許の特許請求の範囲にはもちろんその発明の詳細な説明にも記載されていないのであつて、被告はただ実施例の図面に公報記載の効果を無理にこじつけているにすぎない
(1) もともと「連通」というのは、ある程度距離がはなれ、しかも器の底部を連絡するように管が湾曲して通じていることを意味し、直線的でない場合に使用される用語である。乙特許が公報図面では吹排気弁を中空連結部7の頂部に固着しながら、クレームや発明の詳細な説明で両者「連通」と記載したのは、乙特許発明の技術思想が図面のような固着にとどまらず、前記のような意味での「連通」を考えていたからにほかならない。そして、このような意味でシリンダー桿と弁とを連通しておきさえすれば、吹込時のシリンダー桿内での圧搾空気導入が最も短かく、かつ直線的に行われ、また圧搾空気の圧力低下等の欠点もなくなり、効率の高い吹込が可能になるのである。
そして、イ号機の吹込管(圧着シリンダー桿)12と吹排気弁13とはパイプ54によつて「連通」されている。
(2) 「からなる」について
機械や装置における発明は、すべて構造の要部についての技術思想であつて、AとBとからなるといつても、ただこのAとBとだけで機械・装置として完成・実施できるものではなく、必要に応じて他の部品や機械要素を付加するものである。乙特許の実施例を見ても、中空圧着シリンダー桿と吹排気弁だけからなるものでないことは明らかであろう。
もともと乙特許がその作用効果としてゴムホース、パイプ等が不要であると述べているのは、桿と弁とを連通するためのゴムホース、パイプ等が不要であるという趣旨ではなく、従来技術が桿のほかに別にブローヘツドに送気するためのゴムホース、パイプ等を用いていたのに対比し、乙特許では桿が押圧と送気を兼行する関係上これが不要であることを述べたものである。
(3) 「付」について
「吹込式鋳型造型機用吹排気弁付圧着シリンダー」というのは乙特許の名称であつて、特許請求の範囲にも同記載の構成を有する圧着シリンダーの総称として記載したのにとどまり、その中の「付」なる一字に被告主張のような限定を加えたものではなく、単に吹排気弁の付いた圧着シリンダーという意味にすぎない。
また、特許発明の技術的範囲は、公報の実施例に限られるものではなく、かえつて乙特許の請求範囲に「該中空圧着シリンダー桿に連通する吹排気弁とからなる」と記載されていることからも中空圧着シリンダー桿に吹排気弁を固着することに限定したものでないことは明らかである。
(4) その他
なお、被告が指摘するイ号機における吹込管12内の邪魔板100、フイルター101等は乙特許との関係では付加にすぎない。これらは吹込管12の下方に装着されているから、圧搾空気はその中空部内を直線的に流れる。
7 証拠
(原告)
1 甲第1ないし第5号証、第6、第7号証の各1ないし3、第8ないし第10号証、第11号証の1、2、第12号証の1ないし3、第13号証の1、2、第14号証、第15号証の1、2、第16号証を提出。
2 乙第16号証、第17号証の1、2の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。
(被告)
1 乙第1ないし第5号証、第6、第7号証の各1、2、第8ないし第16号証、第17号証の1、2を提出。
2 甲第16号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。
理由
1 請求原因(1)ないし(3)項(原告が甲、乙各特許権を有していること、その分説された構成要件および作用効果が原告主張のとおりであること、特に、甲特許第1発明の構成要件が原告主張のような(イ)(ロ)(ハ)のプリアンブル部分と(A)(B)の要件からなり、甲特許第2発明のそれが上記のほか(C)の要件を加えたものからなり、乙特許が(D)(E)(F)の要件からなつていると解されること、および被告がイ号機を製造販売してきたこと)は当事者間に争いがない。
2 次に、イ号機の構成を前記甲乙両特許の構成要件に対応させて分説すると下記のとおりになると解される。
(イ)'上金型と下金型とを1組とする合せ金型を有し、(ロ)'該上金型上方で吹込、離型機構を移動させ(ハ)'下金型のみを前記上金型に対し垂直方向に作動させる形式の加熱造型機であつて、
(A)' 長孔25を有する支持腕24を上金型1に設け、該支持腕を釣部材27によつて支持板26に遊挿して上金型1を釣部材27のまわりに揺動自在、かつ上下移動自在に、また、支持板26・26の間で横方向移動自在に懸垂し、該上金型上方に吹排気弁13を備えた吹込管作動ピストン11を垂設し、
(B)' 台車4に並設したブローヘツド2と上金型押出ピン6およびこれを駆動するための押出シリンダー12、押出ピストン29、押出シリンダー10を有する上金型押出装置58を該上金型1と吹込管12との間に移動可能に懸垂し、
(C)' 下金型16の昇降に関係なく押上ピン19の上下動を行いうる押上機構(シリンダー68、ピストン18、ピストンロツド87、)を、下金型回転機構64に回動可能に取付け、なお上記回転機構は下金型昇降ピストン17、ピストンロツド22、シリンダー60昇降テーブル61からなる下金型昇降機構と回転軸62 63によつて軸支されており、また、これは
(D)' ピストンシリンダー28内にピストン11により滑動自在に支持されかつフイルター組立体(邪魔板100、フイルター101、サポート102からなる)を装着した圧着兼用の中空吹込管12と
(E)' 該吹込管12は圧搾空気供給タンク81に取付けられている吹排気弁13と3回折曲りパイプ54(両端にフランジ78・79を有し、一方のフランジ78は複数のボルト77によつて吹排気弁13に、他方のフランジ79は複数のボルト80によつてピストンシリンダー28の上端部に取付けられているもの)によつて通じており、
(F)' 以上のような構成の吹込管12と吹排気弁13とを備えた吹込式加熱造型機用の吹排気弁を有する圧着用ピストンシリンダー28
をも備えている。
(なお、以上のうち、プリアンブル(イ)'(ロ)'(ハ)'の部分と構成(A)'(B)'は甲特許第1発明の構成要件に対応し、同じ(イ)'(ロ)'(ハ)'の部分と構成(A)'(B)'(C)'は同第2発明のそれに対応し、構成(D)'(E)'(F)'は乙特許のそれに対応するものである。)
3 そこで、以下イ号機の上記構成が甲、乙各特許の技術的範囲に属するか否かについて検討する。
(甲特許第1発明関係)
1 まず、イ号機の構成中、前記(イ)'(ロ)'(ハ)'の部分が第1発明の構成要件中のプリアンブルの部分(イ)(ロ)(ハ)にそれぞれ該当することは明らかで、この点については被告もこれを認めて争わないところである。
次に、(A)'の構成も、その上金型の取付方法が第1発明にいう「固定」であるか否かの点を除けば(この点については暫らくおく)、他の構成部分はすべて(A)の構成要件の文言に照らし一応(A)の要件を充足しているように思われる。また、(B)'の構成も(B)の構成要件の文言に照らし一応(B)の要件を充足しているかのように思われる。そして、このような一応の帰結が導かれるのは、要するに第1発明における(A)(B)の各要件が極めて上位概念をもつて定められているため、少くともクレームの文言を形式的に理解するかぎり、そのカバーする技術的範囲がいきおい広くなるからにほかならない。
2 ところが、被告は、クレームの解釈について上記のような形式的理解の不当性を主張し、(A)の要件にいう「吹込管作動ピストン」とは吹込時のブローヘツド押圧と離型時の上金型押出装置押圧を兼行する吹込管を作動させるピストンを指すものに限定して解釈すべきであり(したがつて、ここにいう吹込管は吹込時の送風という本来の機能とブローヘツド押圧と上金型押出装置押圧という2つの機能すなわち合計3つの機能を働らくものと解すべきであり)、それがゆえに(B)の要件にいう「上金型押出装置」(離型機構)はそれ自体押圧装置(駆動装置)を有しない他駆動型のものに限定して解釈すべきである旨主張している。
そこで、上記主張の当否について考察する。
(1) クレームの解釈上しんしやくすべき事情
(イ) 第1発明の出願経過
成立に争いない乙第3ないし第5号証によると、甲特許はその審査段階において特許庁審査官から一度拒絶理由通知を発せられ、意見書(乙第5号証)を提出し、出願公告後も訴外池上博明から特許異議を申立てられたので答弁書(乙第3号証)を提出し、やがて特許異議の理由なしとの決定を得て登録の運びとなつたものであるところ、出願人原告は上記意見書および特許異議答弁書において被告主張のとおりの応答をなし、特許庁も被告主張のような理由を付した決定(乙第4号証)をしていること(事実欄5被告の主張(甲特許関係)(1)(1)①(ハ)参照)が認められる。すなわち、原告は要するに上記の各書面において第1発明と引例であるB特許、C米国特許との関係について、これらの先行特許には、第1発明のように吹込管作動ピストンをして(1)吹込時のブローヘツドの上金型への押圧と(2)吹込、および(3)離型時の上金型押出機構の押圧を兼行させるという特徴点について全く記載がないこと、したがつて、これら公知の技術においては第1発明にのみ期待しうる機構簡略化、経済性についての効果を奏しえないことを繰り返し強調して第1発明の新規性を明らかにし、特許庁でもこれに応え特許異議決定において
「第1発明は(A)(B)の構成要件により、吹込管作動ピストンによつて吹込管が吹込時のブローヘツド押圧、離型時の上金型押出装置への押圧を兼行する特有の作用効果を有する」ものと認め、ここに第1発明の新規性を認め、登録査定したものであることが認められる。
(ロ) 第1発明出願当時の技術水準(公知技術)
次に、成立に争いない乙第6号証、第7号証の各1(AB各特許公報。なお、各枝番2は上記公報図面の拡大図)によると、被告主張のAB両特許はいずれも第1発明出願当時公知であつたところ、①両特許はいずれも第1発明の構成要件中のプリアンブル部分に記載された形式の中子加熱造型機に関する発明であること、②A特許には第1発明の(B)要件に該当するような構成も開示されていること、すなわち、一体となつた往復台120、台車75にそれぞれ並設された二重貯槽35(ブローヘツド)とパンチアウトヘツド36(上金型押出装置)が、上金型と吹付ヘツド57(吹込管)との間に支持ローラー32を介して左右に運動して作動位置に入るように支持されている構造のものが開示されていること、ただパンチアウトヘツド36(上金型押出装置)の構造は第1発明の実施例とは異なり、それ自体駆動装置を備えているものであること(ピストンシリンダ81とその杵84を有しており、右杵84の往復動によつてパンチアウトフレーム83を、さらに右フレームに連設されたパンチアウトピン101を往復動させて離型を行うようにされている。特に第1、第5図、A特許明細書3頁1欄24行から2欄7行までの記載参照1)、③B特許でもおおむね第1発明の(B)要件に該当すると思われる機械が開示されていること(離型機構がブローヘツドと「台車に並設」されていない点に留意)、すなわち砂容器18(プローヘツド)および上型ストリツパー構造物30(上金型押出装置)が上金型と吹込管との間で移動可能に懸垂されているものが開示されていること、ただB特許の場合もストリツパー構造物30(上金型押出装置)の構造はそれ自体駆動装置を備えていること(空気シリンダー162、プランジヤー160を有し、該プランジヤー160の往復動によつて上型ストリツパー板148、これに付設された上型ストリツパーピン36を垂直に往復動させることによつて離型を行うようされていること。特に第8、9図、B特許明細書3頁1欄42行から2欄14行まで参照。)が認められる。
また、成立に争いない乙第8号証(C米国特許の明細書)によると、被告主張のC米国特許も第1発明出願当時公知のものであつたところ、ここでは、第1発明の要件(A)のうち「上金型上方に吹排気弁を備えた吹込管作動ピストン」が開示されているとみられること(明細書第3図において赤斜線部分が吹込管とみられる。そして、同図のピストン20、吸気弁59、排気弁83参照)、ところがここでも上記ピストンが離型時に離型機構押圧駆動を兼行するという技術思想は全く示唆されていないこと、以上の事実が認められる。
(2) 当裁判所の見解
以上の事実によると、原告は第1発明の特許出願にさいし、その過程において、一方では前示のような広範な表現によるクレームを請求しながら、他方では、第1発明はあたかもその吹込管作動ピストンが吹込時のブローヘツド押圧と吹込とのほか離型時の上金型押出装置押圧をも兼行することをも不可欠の要件としているかの如く述べて、上記のような構造部分の新規性を強調し、前示公知のB、C特許発明との作用効果上の相違を表明していること、そして、原告がこのような点を強調したことは前示のような公知技術の存在に照らすと無理からぬことであつたと思われること、現に特許庁でも特許異議決定にさいし原告の前記意見に同調していることが明らかである。
そして、以上のような事情は、第1発明の技術的範囲を確定するさいにとうてい無視することのできない点である。けだし、一般に特許権の特許請求の範囲は特許出願人の望む以上のものとして通用させる必要はないし、また、原告が第1発明の出願過程において前記のような意思見解を述べたことは何人もその記録(包袋)を見ることによつて客観的に確知できることであるのに、そのような見解のもとで取得した特許について、原告がその権利行使の段階ではこれに反する主張をすることは第三者にとつては著しく信義に反することになるからである(file-wrapper estopel)。
また、上記出願経過は次のように理解することも可能である。すなわち、いまひるがえつて前記原告の意見および特許庁の特許異議決定での見解を考えてみると、ここで問題にされている構造(ピストンの離型機構押圧兼行、したがつてまた離型装置の他駆動構造)は本来はクレーム自体とは直接関係のない点であり、またそのさい上記の構造からくる作用効果として挙げられた機構全体簡略化の点も本件第1発明の詳細な説明で述べられている作用効果とは異なるものであることが認められる(成立に争いない甲第2号証によると、第1発明でも機構簡略化がその作用効果として挙げられているのは事実であるが、それはピストンが吹込時にブローヘツド押圧と送気とを兼行することによる効果として述べられているだけで、ピストンの離型機構の押圧兼行のことまでは述べられていない。公報2欄10行目から13行目まで参照)。原告が本訴において出願経過に関する反論として「原告の見解はそのような兼行をした場合の作用効果について述べただけである。」と弁明しているのも上記のような認識に基くものとして理解できるところである。これを要するに、出願経過中における原告の応答と特許庁の判断は第1発明でクレームされた要件とは無関係な点に関する議論で終始したといえなくはないのである。このようにみてくると、原告としてはもしあくまで前記のような点を強調しなければ発明の新規性が保証し難いと考えたのであれば、本来適宜の段階でそのような要件を附加し、請求の範囲を減縮する補正手続をとるべきであつたと解される。
したがつて、第1発明は形式上は元のクレームのまま維持されながら実質上は前示のような趣旨の減縮補正をして登録を受けたと同じ結果になつているとも解しうるわけである。そして、このような経過もクレーム解釈上無視できないところである。
はたしてそうだとすると、本件第1発明の技術的範囲は単にそのクレームの形式的な文言解釈によるのではなく、前記のような事情をしんしやくしてその上位概念的な文言を実質的または合目的に制限解釈して確定すべきである。すなわち、これを具体的にいうと、第1発明のクレームにいう「吹込管作動ピストン」とは吹込時の作動のほか上金型押出装置の押圧機能をも兼ね行うもの、したがつて、ここにいう「上金型押出装置」は押圧につきそれ自体ピストンを備えない他駆動型であるものを指していると解するのが相当である(第1発明の詳細な説明記載の実施例参照)。
前記の見解に反する記載のある甲第16号証(弁理士森田哲二の鑑定書)は採用し難い。
3 しかるところ、前記2の(A)'(B)'によると、被告のイ号機の構成は、その吹込管作動ピストンが上金型押出装置の押圧を兼行するものではなく、またそれゆえ必然的に上金型押出装置は自ら駆動装置を備えたものであることが明白である。
4 そうすると、イ号機は爾余の点について検討するまでもなく第1発明の技術的範囲に属さないというべきである。
(甲特許第2発明関係)
第2発明の構成要件が第1発明のそれをそのまま含み、これに(C)要件を加えたものであること前示のとおりである。
そうすると、イ号機が第2発明の技術的範囲にも属さないことは上来の説示をそのまま採用することによつて明らかである。
(乙特許関係)
1 イ号機の吹込機構部分の構成を前記2の分説により検討すると、それはピストンシリンダー28内にピストン11により滑動自在に支持された圧着兼用の中空吹込管12(以上(D)'の構成)と、これに通ずる吹排気弁13(以上(E)'の構成部分)とを備えた吹込式加熱造型機用の吹排気弁を有する圧着用ピストンシリンダー28(以上(F)'の構成部分)によつて構成されていることが認められ、これを乙特許の(D)(E)(F)の各構成要件と対比してみると、かなりの部分において乙特許の構成要件を充足していることが窺われる。
2 しかし、イ号機の吹込機構の構成が乙特許の構成要件のすべてを充足しているか否かについてはなお慎重な検討を要すると考えられる。ことに被告は、乙特許の(F)の要件にいう「吹排気弁付圧着シリンダー」とは吹排気弁を一体化しユニツト化した圧着シリンダーをいい、単に両者が連らなつているというだけでは足りず、こゝに「付」というのはさような意味が込められている旨、したがつて(E)の要件にいう「連通」も上記のような趣旨に解すべきである旨主張している。
そこで、以下あらためて上記の点について考察する。
(1) 成立に争いない甲第4号証(乙特許の公報)に前掲同第2号証(甲特許の公報)と弁論の全趣旨をあわせ検討すると次のような事実の認定および判断をすることができる。
(1) もともと乙特許は甲特許出願から分割出願されたものであるから、乙特許の発明の要旨は甲特許出願の最初の明細書または図面に記載されているはずのものと解さなければならないところ(特許法44条、41条)、甲特許の原始明細書には特段乙特許発明について述べられた部分はなく、ただその添付図面の第1、3図に吹排気弁(吹込弁13)がピストン11を備えたシリンダーの上方でこれと直結され一体化された構成のものが図示されている。そして、乙特許における明細書添付の図面にもこれと同一のものが示されている。
したがつて、これらの図面の示す構成は乙特許のクレーム解釈上十分しんしやくする必要がある(分割特許出願における発明の要旨は元の特許出願の最初の明細書または図面に記載されている該当部分の構成と全く同一でなければならないものではなくそれと均等の範囲内のものであればよいとも考えられるが、少くとも分割特許のクレーム解釈上のしんしやく事情として記載そのものをとりあげうることは当然のことである。)
(2) 乙特許の発明の詳細な説明には、乙特許発明の作用効果として「吹込時の圧搾空気導入が、最も短かくかつ直線的に行なうことができ、圧搾空気の圧力低下等の欠点がなく効率の高い吹込が可能であり、また送気のためのゴムホース、パイプその他煩雑な設備を必要とせず、装置自体が簡潔かつコンパクトなる等、種々の効果を有する。」との記載がある(公報2欄27行ないし33行目)。
このような作用効果の記載は、前記(1)の認定判断と相まつて、乙発明が中空圧着シリンダー桿に吹排気弁を直結し一体化することを要旨としたものと解したときはじめて十分首肯できる部分である。
原告は、上記作用効果のうち①「空気導入が最も短かくかつ直線的に行なうことができる」というのはシリンダーまたは中空シリンダー桿内部の作用のみを述べたもので桿と弁との間の導入状態について述べたものではなく、②また「ゴムホース、パイプその他煩雑な設備を必要としない」という効果も桿と弁との接続方法について述べたものではなく、従来技術では桿は専らブローヘツドの押圧のみに用いられ、空気導入吹込みは別途ゴムホース、パイプ等によつていたのに対比し、乙発明ではシリンダー桿を中空とし押圧と送気を兼用させたことによる作用効果として述べたものであると主張している。しかし、①シリンダーまたはシリンダー桿内部の送気が最も短かくかつ直線的に行ないうることは一般的には当然のことであつて、そのような趣旨の効果のみを述べたと解するのは全体としてはやや不自然と思われる。②また、本件に顕出された証拠によると、従来の公知技術として乙発明が採用したようなブローヘツド押圧と送気を兼行させる「中空圧着シリンダー桿」を示唆したものが見出せないことは原告主張のとおりである(成立に争いない乙第6、第7号証の各1、第8、第9号証のABCD各特許公報または明細書参照)。しかし、それとともに、弁とシリンダーとを直結しユニツト化した構造を示唆したものが見出せないのも事実である(前掲証拠によつても、弁はパイプまたはゴムホースを介し本体部分と通じる構造のみが公知である。)。したがつて、新規であるという点では上記両者は同様であり、かつ前示の作用効果は上記両者の構造のいずれによつても期待しうるものであること、むしろ両者相まつてこそ一層の効果が期待しうることが明白である。そして、また乙特許の詳細な説明中には特段原告指摘の点のみを乙発明の新規な点と説明した個所は見当らない。このような事情を彼此考慮すると、前示ゴムホース等の不要をいう作用効果は乙特許の発明対象である「吹排気弁付圧着シリンダー」そのものの新規な構成にかかる効果、すなわち吹排気弁とシリンダーとを直結した構造に関する効果を述べている(少くとも上記構造に関する効果をも含めて述べている)と解するのが妥当である。
(3) 文言の意味からしても、一般に「A付B」という場合は両者が密接に一体化していることを指すことが多いと思われる(「消しゴム付鉛筆」の例参照)。乙特許のクレーム用語としても、「中空(圧着)シリンダー桿」が「吹排気弁」と何らかの形で通らなつているのはその構造上いわば当然のことであるから、ここに「吹排気弁付圧着シリンダー」を弁とシリンダー内の桿とが何らかの形で連らなつているものをすべて含むと解するのであれば、すなわち原告主張のように解するのであれば「付」に特段の意味がないこととなる。もしこの語に意味を持たせるとすれば上来説示のような両者一体化を指すと解さなければならず、またこう解することは前示の一般的な語感にも適合する。換言すると、本件乙発明の要旨が原告の主張するような点にのみあるというのであれば、その発明の詳細な説明欄にその趣旨(ことにその点に関する作用効果)が明示されていて然るべきであると思われるし、またクレームの文言も少くともその(F)要件の部分は「吹排気弁付」を省略するか少くとも他の表現を用いられたと解するのが自然である。
(2) してみると、乙特許の構成要件(F)にいう「吹排気弁付圧着シリンダー」とは該弁とシリンダーがパイプ、ゴムホース等を介することなく直結し一体化した構造物を指し、またしたがつて要件(D)にいう桿と弁との「連通」も単に何らかの手段で通じているというのではなく、直接的につながつている趣旨であると解するのが相当である。
3 そこで、以上のような見解をもとに、ふたたびイ号機の吹込機構をみてみると、それは吹込管12を内蔵するピストンシリンダー28は上方フレーム52に取付けられており、一方吹排気弁13は上記ピストンシリンダーより離れて斜上方にある圧搾空気供給タンク81にボルト76によつて固設されている。そして、吹込管12と吹排気弁13とは、ボルト80、77によつて取外し可能な3回折曲りパイプ54によつて通ずる構造になつている(この点では従来技術を踏襲しているわけである。)。したがつて、イ号機の吹排気弁は圧着シリンダー桿と直接一体化されておらず、むしろ圧搾空気供給タンクに付属しているものであることが明白である。
4 はたしてそうだとすると、イ号機は爾余の判断をなすまでもなく乙特許の技術的範囲にも属しないといわなければならない。上記の見解に反する記載のある前掲甲第16号証は採用しない。
4 そうすると、被告が業としてイ号機を製造販売することはなんら原告の有する甲乙各特許権を侵害するものでないから、上記各特許権の侵害を前提とする原告の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなくすべて失当である。
5 よつて、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して主文のとおり判決する。
(畑郁夫 上野茂 中田忠男)
<以下省略>