大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)52号 判決 1982年3月10日

大阪市旭区新森二丁目二番一号

原告

中山象一

訴訟代理人弁護士

平正博

大阪市旭区大宮一丁目一番二五号

被告

旭税務署長

富永亀吉

訴訟代理人弁護士

森勝治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が昭和四九年一二月二六日付でした原告の昭和四七年分の所得税の更正処分(以下本件更正処分という)のうち、その総所得金額が六二一万六、〇五六円を超える部分、及びこれに伴う加算税(過少申告加算税と重加算税)の賦課決定処分(以下本件賦課決定処分という)を、いずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  原告は、不動産売買の仲介及びその他の事業を営む訴外内外興産株式会社(以下内外興産という)の取締役であるが、昭和四七年分の所得税について、別表(一)に記載のとおり確定申告をし、次いで、同表に記載のとおり修正申告をしたところ、被告は、同表に記載のとおり本件更正処分及び本件賦課決定処分をした。

原告がした異議申立及びこれに対する被告の決定、原告の審査請求及びこれに対する訴外国税不服審判所長の裁決の各経緯と内容は、同表に記載のとおりである。

(二)  しかし、本件更正処分及び本件賦課決定処分は、原告の昭和四七年分の所得金額を過大に認定した違法があるから、本件更正処分のうち総所得金額が六二一万六、〇五六円(被告主張の総所得金額から雑所得を控除した金額)を超える部分及びこれに伴う賦課決定処分の取消しを求める。

二  被告の答弁と主張

(認否)

請求原因(一)の事実は認め、同(二)の主張は争う。

(主張)

(一) 原告の昭和四七年分の総所得金額とその内訳は次のとおりであり、その範囲内でなされた本件更正処分は適法である。

総所得金額 四、四二一万六、〇五六円

内訳

(1) 不動産所得 四四万四、八八〇円

(2) 雑所得 三、八〇〇万〇、〇〇〇円

(3) 給与所得 五七七万一、一七六円

(二) 右の雑所得は、原告が転売利益を得る目的で別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を訴外中橋米一(以下中橋という)から取得し、これを訴外大登興産株式会社(以下大登興産という)に転売したことにより得た転売利益に基づく所得である。すなわち、

原告は、昭和四七年七月三〇日、中橋から本件土地を八、九三七万五、〇〇〇円で買い受け、売買代金として、同日、手付金五〇〇万円、同年八月二日、中間金五〇〇万円、同年一〇月四日、残金七、九三七万五、〇〇〇円を支払った。そして、原告は、同年一二月七日、大登興産に本件土地を二億二、〇〇〇万円で売却(転売)した。右買入代金残金七、九三七万五、〇〇〇円は借り入れして支払ったと推認されるので、借入期間を三か月(同年一〇月から同年一二月まで)とし、商事法定利率年六パーセントを適用して見込み計算すると、支払利息は、一一九万〇、六二五円になる。

<省略>

したがって、原告の昭和四七年分の雑所得の金額は、計算上、大登興産に対する売却代金から中橋に対する取得代金と支払利息とを控除した一億二、九四三万四、三七五円になる。

220,000,000円-(89,375,000円+1,190,625円)=129,434,375円

ところで、原告は、本件土地の売却による収入を別表(二)に記載のとおり定期預金等に資産化して保有しており、その合計は四、八〇〇万円である。

したがって、少くとも右四、八〇〇万円から原告が手付金及び中間金として支払った合計一、〇〇〇万円を控除した差額三、八〇〇万円は、原告の昭和四七年分の雑所得金額となる。

(三) 前項につき補足すると、次のとおりである。

1 原告は、中橋から本件土地を買い受ける際、当初買主を訴外巽泰三(以下巽という)とする契約書を作成したが、巽は名義だけで真の買主は原告であった。

2 原告が中橋に支払った売買残代七、九三七万五、〇〇〇円は、別表(三)に記載のとおり、原告の発行依頼した小切手と現金によるものである。

3 原告は、後日、中橋からの買主を訴外東大阪観光株式会社(以下東大阪観光という)とする契約書に差し換え、さらに、本件土地を大登興産に売却する際も、売主を東大阪観光とする契約書を作成したが、東大阪観光は名義だけである。

東大阪観光は、商業登記簿上昭和四五年六月一五日に設立されたことになっているが、設立以来法人税の申告もなく、本店が昭和四七年一二月八日に大阪市東成区大今里西二丁目一六番二三号から東京都渋谷区渋谷三丁目七番五号に移転しているが、同所には事業所も存在せず、何ら実体のない法人である。

4 大登興産が本件土地の売却代金として支払った二億二、〇〇〇万円は、別表(四)に記載の経過により、朝銀大阪信用組合新大阪支店の梶谷満名義通知預金五、二七〇万円(以下梶谷名義預金という)及び柳三秀名義通知預金一億円(以下柳名義預金という)になったが、梶谷名義預金は昭和四七年一二月一二日に引き出され、柳名義預金からは同月一四日一、七五〇万円、同月一五日一、〇〇〇万円が引き出されており、その時期からみて、これらが別表(二)に記載の定期預金等になったものと考えられる。

ちなみに、原告は、昭和四〇年三月から訴外明宝広告株式会社(以下明宝広告という)に、昭和四五年七月から訴外内外興産株式会社(以下内外興産という)にそれぞれ取締役として勤務し、それ以外に何らの事業も営んでいなかったものであり、右各会社からの原告の収入は、昭和四六年分が二二五万円、昭和四七年分が二九二万円であり、これによって別表(二)に記載の定期預金等がされたとは考えられない。

5 別表(二)に記載の定期預金の使途

原告は、原田安蔵名義の定期預金一、五〇〇万円を昭和四八年四月一二日解約し、うち一、三三八万円は、第一勧銀天六支店で自己宛小切手の取組みを依頼し、翌日右小切手をもって日興証券株式会社大阪松坂屋支店において原告名義で伊藤忠商事株式会社の株式二万株を取得し、残額一六二万円は、同日(四月一三日)原告名義の総武都市開発株式会社(太平洋クラブ口)に四八〇万円の一部として振り込んだ(乙第四〇号証、同第四一号証の一、二、同第五六号証の一、二、同第五七号証)。

宮脇健名義の定期預金二〇〇万円及び松本弘司名義の定期預金三〇〇万円は、昭和四八年六月五日解約し、第一勧銀天六支店で自己宛小切手の取組みを依頼し、右小切手をもって日興証券株式会社大阪松坂屋支店で原告名義で東洋ベアリング株式会社の株式五万株の取得代金一、四九九万五、〇〇〇円の一部に充てた(乙第四二号証、同第四三号証の一、二、同第四四号証、同第四五号証の一、二、同第五二号証、同第五三号証の一、二、同第五四号証、同第五五号証の一、二、同第五六号証の一、二)。

中山健輔名義の定期預金四〇〇万円は、昭和四八年七月三日解約し、原告が代表取締役をしている訴外大和観光株式会社の当座預金に入金した(乙第四六号証、同第四七号証の一、二、同第五八号証の一、二、同第五九号証)。

(四) 原告は、前述のように、本件土地の売買により多額の利益を得ているにもかかわらず、他人名義の契約書を作成し、その得た利益を仮名預金にするなどの方法により、その所得を故意にかくして申告しなかったものであるから、所得金額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい仮装したことは明らかである。

したがって、国税通則法六八条一項を適用してした本件賦課決定処分には何らの違法はない。

三  被告の主張に対する原告の認否と反論

(認否)

(一) 被告の主張(一)は争う。但し、(1)不動産所得、(3)給与所得が被告主張のとおりであることは認める。

(二) 同(二)のうち、原告が被告主張のとおり本件土地を買い受け、被告主張のとおり手付金及び中間金を支払ったことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 同(三)について

1の事実、原告が後日中橋からの買主を東大阪観光とする契約書に差し換え、本件土地の大登興産への売主を東大阪観光とする契約書が作成されたこと、東大阪観光が昭和四五年六月一五日に設立された法人であること、以上の事実は認めるが、その余は争う。

(四) 同(四)の事実は否認する。

(反論)

(一) 買主の地位の譲渡について

原告が中橋と締結した本件土地の売買契約の履行期(売買代金の決済日)は、昭和四七年一〇月四日であったが、原告は、売買代金の決済の保証として同日までは支払呈示をしない旨の約定のもとに、原告が取締役をしている内外興産振出の小切手を中橋に交付したところ、中橋は、右小切手の授受の約旨に反し右小切手を右履行期前に支払呈示したので、右小切手は不渡りになった。

原告も内外興産も、右不渡により信用を喪失し、原告としても同日に決済すべき資金手当が不能に陥った。そして、右売買代金の決済期日に売買代金の履行提供ができないことになれば、原告として前記手付金として中橋に交付した一、〇〇〇万円を没取されるおそれがあった。

そこで、原告は、丸商なる商号で金融業を営んでいた金福龍(以下金という)に対し、本件土地は、大登興産において宅地開発用地として買い付けを進めている土地の中に位置し、本件土地の買収ができれば大登興産にて買付けの目的を達し得ない場所であるから必ず大登興産が買い取らざるを得ない旨説明して協力を求めたところ、金は単なる資金融資には応じず、前記不動産売買契約に基づく買主の権利―本件土地の買主として中橋から所有権移転をうける地位―を金の経営にかかる東大阪観光に譲渡し、原告において本件土地が大登興産に売却できることを保証するのであれば、金にて一〇月四日に残金七、九三七万五、〇〇〇円を用意し、本件土地の買主の権利の承継者として中橋に支払うとのことであったので、原告は、それを承認した。

このように、原告が金の協力をうけるために金の提示にかかる条件を受入れたことにより、一方の契約当事者である中橋の承諾がないとはいえ、本件土地の買主の地位は、東大阪観光に移転した。

したがって、買主を東大阪観光とする契約書の差換えは、契約上の買主の地位を東大阪観光に譲渡した実体に基づいてしたものであり、原告の本件土地の売買契約を隠すためのものではない。

(二) 東大阪観光は、商業登記簿謄本(甲第三号証の三)によって明らかなとおり喫茶及び飲食店の経営、旅館及び遊技場の経営、不動産管理業等を事業の目的として設立された株式会社であり、本件土地の売買契約締結時の役員は次のとおりである。

金福龍(代表取締役)

円城栄祚(取締役)

十川紘一( 〃 )

福岡功一(監査役)

東大阪観光の事業所が見当らず税務申告がないからといって右会社を存在しない法人であるというのは暴論である。

(三) 大登興産への売却について

原告は、金に対し本件土地は大登興産が買い取らざるを得ない土地である旨保証したことにより、かねてから知合いの当時幸福相互銀行九条支店長訴外藤盛昭博に大登興産への紹介を依頼し、金ともども大登興産を訪ね、取締役訴外宮本秀雄を金に紹介したところ、金と宮本秀雄との間で本件土地の売買条件が交渉され、売買代金二億二、〇〇〇万円で東大阪観光から大登興産に売り渡されることになった。そして、右売買代金は、東大阪観光の代表取締役金が受領しており、原告は受領していない。

原告は、東大阪観光と大登興産の本件土地の売買契約の履行後、東大阪観光から原告が中橋に対して手付金として交付していた一、〇〇〇万円の支払いを受けたのみである。

このように、本件土地は、東大阪観光が大登興産に売却したものであり、原告が大登興産に売却するのに東大阪観光の名義を借りたものではない。

(四) 別表(二)に記載の預金について

原告は、昭和四七年度において、明宝広告の神戸市垂水区塩屋の土地の買付業務を担当していた関係上、明宝広告から、売買契約の締結に応じて随時地主に売買代金等が払いできるよう相当額の現金を預っていたところ、原告の兄から兄が勤める原田ローラという会社の取引金融機関に対する預金協力の依頼をうけた。原告は、たまたま地主に対して支払うべく明宝広告から預っていた現金があり、地主に対する支払を延期せざるを得ない事情が生じて保管していたことから、兄のため原田ローラの取引銀行に対する信用付加のため同社の社長原田安蔵以下同社の社員名にて預金協力することとした。それが別表(二)記載の預金であり、同預金の出所が被告の主張するような事由によるものではない。

(五) バー「エレファント」の保証金は、金から返還をうけた一、〇〇〇万円をもって充てたものであり、また、北野田開発の出資金は、原告名義で支出されているが、単なる名義貸しにすぎない。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、それをここに引用する。

理由

一  本件更正処分及び本件賦課決定処分の経緯

請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の昭和四七年分の所得について

(一)  原告の同年分の不動産所得が四四万四、八八〇円、給与所得が五七七万一、一七六円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  原告の同年分の雑所得について

1  原告の土地購入

原告が昭和四七年七月三〇日中橋から本件土地を八、九三七万五、〇〇〇円で買い受け、売買代金として、同日手付金五〇〇万円、同年八月二日中間金五〇〇万円を各支払ったこと、右買受けの際、買主を巽とする契約書を作成したが、巽は名義だけで真の買主は原告であったこと、以上のことは当事者間に争いがない。

2  原告の土地売却

(1) 原告が後日中橋からの買主を東大阪観光とする契約書に差し換え、本件土地の大登興産への売主を東大阪観光とする契約書が作成されたこと、東大阪観光が昭和四五年六月一五日に設立された法人であること、以上の事実は当事者間に争いがない。

(2) 右争いがない事実や成立に争いがない甲第四号証の一ないし五、乙第二号証、同第三号証の一、二、同第四号証、同第五号証の一、二、同第六、七号証、同第八号証の一、二、同第九号証、同第一〇号証の一、二、同第三〇、三一号証、同第四〇号証の一、二、同第四四号証、同第四五号証の一、二、同第四六号証、同第四七号証の一、二、同第四八号証、同第四九号証の一、二、同第五一号証の一、二、同第五二号証、同第五三号証の一、二、同第五四号証、同第五五号証の一、二、同第五七号証、同第五八号証の一、二、同第五九、六〇号証、同第六一号証の一、二、同第六二号証、証人久保浩の証言によって成立が認められる同第三二ないし第三九号証、同第六三ないし第六五号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第一一、一二号証、同第一三、一四号証の各一、二、同第一五号証、同第一六号証の一、二、同第一七号証、同第一八号証の一、二、同第一九ないし第二五号証、同第二六ないし第二九号証の各一、二、同第五六号証の一、二、証人鉄村俊夫こと金福龍(一部)、同藤盛昭博、同久保浩の各証言、原告本人尋問の結果(一部)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証人金福龍の証言及び原告本人尋問の結果の各一部は採用できず、他にこの認定に反する証拠はない。

(ア) 中橋に対する本件土地の売買残金七、九三七万五、〇〇〇円は、昭和四七年一〇月四日、小切手四通(合計七、〇〇〇万円)と現金九三七万五、〇〇〇円によって支払われたが、右小切手は原告が発行依頼した幸福相互銀行九条支店の自己宛小切手(その内訳は別表(三)に記載のとおり)であり、右現金は同日同支店の原告名義の普通預金から引き出された二、〇〇〇万円の一部である。

したがって、原告は、売買残金を支払ったことになる。

(イ) 右売買残金の支払が完了してから約一か月後に、中橋との間で取り交わした売買契約書(買主を巽とするもの)は、買主を東大阪観光とする契約書に差し換えられた(原告と東大阪観光との間には売買契約は取り交わされていない)。

(ウ) 本件土地は、大登興産が昭和四七年一二月七日に一発取引(手付金のないこと)で売買契約を締結し(売主を東大阪観光とする売買契約書が作成された)、大登興産は、同日、売買代金二億二、〇〇〇万円を幸福相互銀行船場支店の自己宛小切手で支払うとともに、登記手続関係書類(当時の登記名義人は中橋である)を受領し、翌日、所有権移転登記を経由した。

(エ) 大登興産との間で本件土地につき売買契約が成立した際、原告も金(当時宮崎と名乗っていた)も同席していたが、それまでに大登興産との取引交渉を進めてきたのは主として原告であった。

(オ) 東大阪観光は、昭和四五年六月一五日、喫茶及び飲食店の経営、旅館及び遊技場の経営、不動産管理業を目的として設立された法人であり、昭和四七年一二月八日、本店を大阪市東成区大今里西二丁目一六番二三号から東京都渋谷区三丁目七番五号に移転したものであるが、設立以来法人税の申告がなく、新本店の所在地には事業所もなく、事業活動をしたこともなかった。

所轄税務署は、昭和五一年一一月、所在不明につき除却処理をした。

また、金が昭和四七年一〇月三一日東大阪観光の代表取締役に就任するまでは、訴外川上弘が名義上代表取締役になっていたが、川上弘は金(当時山中又は鉄村と名乗っていた)から頼まれて名義のみ貸していたものである。

中橋との売買につき買主を東大阪観光とする売買契約書(乙第三〇号証)は、東大阪観光の代表取締役川上弘の作成名義になっているが、川上弘はこの契約について何も知らず、同契約書に記載された東大阪観光の住所も商業登記簿上の住所と異っている。

(カ) 大登興産が本件土地の売買代金として支払った二億二、〇〇〇万円の小切手は、東大阪観光が現金化した後、別表(四)に記載のとおりの経過により、梶谷名義預金五、二七〇万円と柳名義預金一億円になり、梶谷名義預金は、昭和四七年一二月一二日引き出され柳名義預金は、同月一四日一、七五〇万円が、同月一五日一、〇〇〇万円がそれぞれ引き出されたが、金は、右の金の流れについて、銀行が勝手にしたものであろうと供述して、明確な説明をしない。

(キ) 一方、別表(二)に記載の預金は、いずれも次のとおり原告の資産である。

(a) 定期預金

被告の主張(三)5の事実が認められるので、別表(二)に記載の定期預金は、原告の仮名預金というべきである。

原告は、明宝広告からの預り金であると主張するが、右定期預金のその後の使途からみてそのようなものとは到底認められず、また、原告が右定期預金は内外興産が地主林房治に支払うために明宝広告から預った金であると弁明していたことも、内外興産と林房治の取引が昭和四七年夏ころには終了していることからみて信用できない。

(b) エレファントの保証金

原告が幸福相互銀行九条支店に発行依頼した自己宛小切手九〇〇万円等によって右保証金が支払われており、原告が右保証金を支払ったこと自体は争いがない。

(c) 北野田開発株式会社の出資金

原告は、原告名で右出資がされていることを承認したうえ、単なる名義貸しであると主張するが、その根拠が明らかでない。

(ク) また、原告は、明宝広告や内外興産の取締役として、昭和四六年分が二二五万円、昭和四七年分が二九二万円の収入が計上されたほかには、定収入がなかった。

(3) そして、右(カ)、(キ)、(ク)の事実から、時期的にも前記梶谷名義預金や柳名義預金が別表(二)に記載の定期預金等になったものと推認することができ、この推認の妨げとなる事情は見当たらない。

原告は、エレファントの保証金は金から返還をうけた一、〇〇〇万円を充てたと主張するが、これを認めることができる証拠はなく、却って、成立に争いがない乙第六六号証によると、原告は、原処分の際には、右一、〇〇〇万円は日興証券で株式の取得代金に充てたと供述していたことが認められる。

(4) 右(2)、(3)の事実によると、東大阪観光が中橋から本件土地を買い取り、これを大登興産に売渡した旨の売買契約書が存在し、大登興産からの売買代金も一応東大阪観光に支払われた形態をとっているけれども、中橋への売買残代金の決済は原告がしており、大登興産からの支払代金は、その後の経過からみて、実質的には大部分が原告の収入になっており、東大阪観光の実体がないから、大登興産への真の売主は原告であって、東大阪観光は形式的に名義人となり、暫定的に売買代金を受領したにすぎないというほかはない。

原告は、中橋に交付した手付金等一、〇〇〇万円を没取されることを回避するために、買主としての地位を東大阪観光に譲渡して手付金等一、〇〇〇万円を取り戻したにすぎないと主張し、証人金の証言や原告本人尋問の結果中には、右主張に副う供述部分があるけれども、前判示のとおり、中橋への代金決済は原告がしており、しかも、その後の大登興産への売込みの交渉は主として原告がしていることからみて、原告が差益のないまま買主の地位を東大阪観光に譲渡するというのは不自然であり、また、原告と東大阪観光との間には契約書が存在せず、中橋への代金決済が完了した後一か月ぐらいして中橋からの買主を東大阪観光とする契約書に差し換えられたことや東大阪観光の実体がないことに照らすと、原告主張に副う右供述部分はにわかに信用できず、原告の右主張は到底採用することができない。

(5) まとめ

原告は、昭和四七年一二月七日、大登興産に対し本件土地を二億二、〇〇〇万円で売却(転売)したとするほかはない。

3  雑所得金額

原告は、昭和四七年七月三〇日本件土地を八、九三七万五、〇〇〇円で買い受け、同年一二月七日これを二億二、〇〇〇万円で転売したものであるから、雑所得が生じたものというべきである。

そして、雑所得の金額は、その年中雑所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額であるから(所得税法三五条二項)、次のとおり計算される。

(1) 総収入金額 二億二、〇〇〇万円

右は転売代金である。

(2) 必要経費(次の(ア)+(イ)) 九、〇五六万五、六二五円

(ア) 取得代金 八、九三七万五、〇〇〇円

(イ) 支払利息 一一九万〇、六二五円

右は、取得代金のうち残代金七、九三七万五、〇〇〇円を原告が借り入れて支払ったものとすれば、借入期間三か月(昭和四七年一〇月から同年一二月まで)、商事法定利率年六パーセントを適用したときに見込まれる支払利息の金額である。

(3) 雑所得金額(右の(1)―(2)) 一億二、九四三万四、三七五円

ところで、原告が右の(2)以上に経費を支出しているとすれば、雑所得金額はより少くなる筈であるが、右以外の経費については明らかでない。

一方、前認定のとおり、別表(二)に記載の定期預金等合計四、八〇〇万円は原告が本件土地の転売により得た収益が資産化したものと認められるところ、原告が本件土地取得のために所持金一、〇〇〇万円(手付金と中間金)を支出したものとすれば、資産増減法的に原告の雑所得を算定すると三、八〇〇万円になる(資産増減法を適用する場合には、期首と期末の資産の内容と評価が正確になされていることを要するが、本件の場合には、増減の対象となる項目は現金であるから評価上の問題は生じないし、他の資産項目については変動につき争いがない事案であると考えられるので、資産増減法の適用が許容される場合に該当する)。

そうすると、原告の昭和四七年分の雑所得金額は、前記以外に経費が生じているとしても、少くとも三、八〇〇万円であると認めることができる。

(三)  まとめ

原告の昭和四七年分の総所得金額は、被告主張どおり不動産所得、給与所得、雑所得の合計四、四二一万六、〇五六円である。

三  本件更正処分は、原告の昭和四七年分の総所得金額を四、四二一万六、〇五六円とするもので、原告主張の違法はなく、適法である。

四  また、前記認定の事実及び前掲各証拠によると、原告は、本件土地の転売により少くとも三、八〇〇〇万円の利益を得ているにもかかわらず、他人名義の契約書を作成し、その得た利益を仮名預金にするなどして、その所得を故意にかくして申告しなかったものであることが認められるから、所得金額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい仮装したことは明らかである。そして、このことは、国税通則法六八条一項に該当する。

したがって、本件賦課決定処分にも何らの違法はない。

五  むすび

原告の本件請求は、理由がないから棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文ののとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 孕石盂則 裁判官 浅香紀久雄)

別表(一) 課税処分経過表

<省略>

別表(二)

<省略>

別表(三)

<省略>

別表(四)

<省略>

物件目録

(一) 神戸市垂水区名谷町字入野六九七番二の二六

山林 一、五八六平方メートル

(二) 同所同番二の二七

山林 一、五八六平方メートル

(三) 同所同番一六

山林 三五七平方メートル

(四) 同所同番二四

山林 一、二二九平方メートル

(五) 同所同番二の三〇

山林 一、五八六平方メートル

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例