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大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)53号 判決 1982年3月10日

大阪市旭区新森二丁目二番一号

原告

内外興産株式会社

代表者代表取締役

中山象一

訴訟代理人弁護士

平正博

大阪市旭区大宮一丁目一番二五号

被告

旭税務署長

富永亀吉

訴訟代理人弁護士

森勝治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告会社

被告が昭和四九年一二月二六日付でした原告会社の昭和四六年五月一日から昭和四七年四月三〇日までの事業年度(以下第二期という)及び昭和四七年五月一日から昭和四八年四月三〇日までの事業年度(以下第三期という)の法人税についての更正処分(以下本件更正処分という)及び重加算税賦課決定処分(以下本件賦課決定処分という)を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

主文と同旨の判決。

第二、当事者の主張

一、原告会社の請求原因

(一)  原告会社は、不動産売買の仲介及びその他の事業を営むものであるが、第二期及び第三期の法人税について、別表(一)に記載のとおり白色申告により確定申告したところ、被告は、同表に記載のとおり本件更正処分及び本件賦課決定処分をした。

原告会社がした異議申立及びこれに対する被告の決定、原告会社の審査請求及びこれに対する訴外国税不服審判所長の裁決の各経緯と内容は、同表に記載のとおりである。

(二)  しかし、本件更正処分及び本件賦課決定処分は、原告会社の第二期、第三期(以下係争年度ともいう)の所得金額を過大に認定した違法があるから、その取消しを求める。

二、被告の答弁と主張

(認否)

請求原因(一)の事実は認め、同(二)の主張は争う。

(主張)

(一) 原告会社の第二期、第三期の所得金額及び算定の内訳は、別表(二)、(三)に記載のとおりであり、その範囲内でなされた本件更正処分は適法である。

(二) 不動産取引に関連する収入金及び原価(別表(二)の<1>、<4>及び別表(三)の<1>、<6>)について

1 訴外株式会社大林組(以下大林組という)及び訴外株式会社トーメン(以下トーメンという)は、昭和四五年末ころ、販売用住宅地開発のため別表(四)の各土地(以下本件各土地という)を含む周辺地の買収を企図し、訴外明宝広告株式会社(以下明宝広告という)に対し本件各土地の地主らからの土地買付けを依頼した。

明宝広告は、更に前記買付け業務を他に依頼するに際して、当時明宝広告の代表取締役であった中山象一は、その依頼先として妻中山芳子が代表取締役をしている原告会社を選定した。

そこで、原告会社は、買付け交渉の相当者に取締役をも兼任していた中山象一をあてた。その際原告会社は、土地買付け資金を必要に応じて買付依頼者である明宝広告に要求して受領し、その金員を本件各土地の地主らに支払い売買契約を締結して買付けを了した。

そして、原告会社が明宝広告から係争年度に受領した金員は、別表(五)のとおりであり、これに対し原告会社が各地主に支払った金員は別表(四)のとおりであるから、これが原告会社の係争年度における右取引に係る収入金(別表(二)の<1>)及び原価(別表(二)の<4>、別表(三)の<6>)となる。

なお、原告会社は、本件各土地の買付け事業については、明宝広告の単なる買付代行機関にすぎないものではなく、独立の取引主体であるとともに、収益の帰属者である。

2 収益計上時期について補足すると、次のとおりである。

(1) たな御資産の販売による収益は、原則として売買代金の完済時に当該資産の引渡しがあったものとしてその時期に計上すべきである。

(2) ところで、原告会社は、本件各土地について、第二期中に明宝広告から買付資金を受領するとともに、右地主らとの間に締結した売買契約書に基づき契約代金の総額を完済し、また、原告会社が買付けた右物件は第二期中に明宝広告を経由して大林組、トーメンに売り渡され、所有権移転登記(農地については所有権移転請求権仮登記)も終了している。

したがって、本件各土地の売買による収益計上時期は原告会社の二期である。

(3) しかし、原告会社は、本件取引のうち訴外佐伯長蔵、林房治、中塚信夫、岡野武夫、佐伯長蔵外四名共有分の右地主らの物件については、当初の売買契約代金を超える金員を支払っており、右金員の支払原因は、右地主らとの売買契約書の特約条項である契約対象物件の公簿面積と実測面積との開差相当分に対応するいわば精算金としての性質を有するものである。そして、原告会社は、右精算金の支払いに際しても、右金員を明宝広告より調達しており、しかも本件では原告会社が明宝広告より受け取った金員が、右地主らに対して支払った金員より上回っているのであるから、その差額金が原告会社の収益となる。

しかし、実際の面積は、実測してみなければ判明せず、したがって実際の面積に対応する支払金員も確定しないのであるから、原告会社の右収益の計上時期については、当事者が契約時において予見不可能なものまで、当初契約分によるものと同一時期に計上すべきではなく、むしろ、右収益が現実に実現したとき、すなわち、原告会社が現実に明宝広告から右金員を受け取るとともに右地主らに支払った時の属する原告会社の当該事業年度の収益として前記差額金額を計上すべきである。

もっとも、右収益は、取引にともない発生したいわば附随的なものであり、本来の土地譲渡益とは区別すべきものであることはいうまでもない。

3 なお、原告会社は、後述のように、林房治との土地買付契約における支払金として、昭和四七年九月一八日二、四〇七万八、九三五円を同人に支払ったと主張しているが、これは、架空の支払いである。

すなわち

原告会社は、右金額を土地代金として手形で林房治に対し支払ったように仮装し、実際は原告会社の支配管理する架空名義預金である近畿相互銀行神戸支店の林房治名義普通預金に入金したものである。

(三) 支払手数料(別表(二)の<6>及び別表(三)の<8>)について

1 別表(二)の<6>について

原告会社の帳簿(仕入高勘定)に一、〇三五万円が計上されているが、これを証する資料はなく、右金額のうち二〇〇万円についてのみ支払を証する資料があるにすぎない。

2 別表(三)の<8>について

被告が調査したところ、支払手数料と認められるのは、別表(三)の<8>の金額である。

(四) たな卸土地(別表(二)の<7>及び別表(三)の<4>、<9>)について

被告が、原告会社の収入原価に計上したもののうち、係争年度末において原告会社がいまだ売却しておらず、公簿上保有している各土地は別表(四)のうち番号7、18の各土地の一部(分筆後の地番は別表(六)のとおり)及び17の土地の全部であるから、右各土地は税法上のたな卸資産に該当する。右各土地の取得価額(別表(四)の各支払金額の全部又は一部)を係争年度末のたな卸土地としたもので、これを表にすると別表(六)のとおりとなる。

(五) 受取利息(別表(二)の<11>及び別表(三)の<13>)について原告会社の第二期の受取利息の明細は、別表(七)のとおりであり、第三期のそれは別表(八)のとおりである。

(六) 支払利息(別表(二)の<12>及び別表(三)の<14>)について

被告が調査したところ、原告会社の係争年度の支払利息と認められるものは、別表(二)の<12>及び別表(三)の<14>のとおりである。

(七) 事業税認定損(別表(三)の<16>)について

被告は、原告会社の第二期の所得金額について、被告が別表(一)のとおり認定した金額二、八二五万六、三二九円と原告申告額三八一万五、〇一三円との差額に対し、原告会社が納付すべき税額を、当該年度の翌年度において認容したものである。

(八) 重加算税賦課決定の適法性

原告会社は、自己の会計帳簿に真実の取引に基づく経理処理を行わず仮装又は隠ぺいし、かつ仮装隠ぺいしたことに基づいて第二期及び第三期の確定申告書を被告に提出した。すなわち、

原告会社は、本件土地の取引に関して使用した銀行口座のうち、会社決算に関係のある富士銀行大阪支店の原告会社名義の当座預金及び普通預金口座、富士銀行垂水支店の原告会社名義の普通預金口座並びに大阪銀行森小路支店の原告会社名義普通預金口座につき、右各預金口座の入出金のすべてについて会計帳簿に計上せず、また、前述(被告の主張(二)3参照)のように、本件土地の地主である林房治に対し土地買付代金を支払ったように仮装するなどし、係争年度の所得の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい仮装し、更にこれにより過少の決算報告書を作成し、これに基づいて納税申告書を提出した。

原告会社の右の行為は、国税通則法六八条一項に該当するから、被告の本件賦課決定処分は適法である。

三、被告の主張に対する原告の反論

(一)  被告の主張(一)は争う。但し、別表(二)のうち、番号<2>、<3>、<5>、<8>、<10>の各勘定科目と金額、別表(三)のうち、番号<2>、<3>、<5>、<7>、<10>、<12>、<15>の各勘定科目と金額は、いずれも認める。

(二)  同(二)について

1 同(二)の事実のうち、大林組及びトーメンが、昭和四五年末ごろ、販売用住宅地開発のために本件各土地を含む周辺地の買収を企図し、明宝広告に対し、本件各土地の地主からの土地買付けを依頼したこと、原告会社が明宝広告から受領した金員が別表(五)の第二期欄に記載のとおりであり(但し、昭和四六年八月一〇日の受領金額は二億六、二〇〇万円である)原告会社が各地主に支払った金員が別表(四)に記載のとおりである(但し、第二期欄1、15、17については、いずれも最終支払日の合計額である。また、第三期欄については、番号3の昭和四七年七月五日の支払金額は六、七〇〇万〇、八八五円であり、番号4の支払金額は被告主張のほかに、昭和四七年七月六日に二五〇万一、〇七〇円、同年九月一八日に二四〇七万八九三五円があり、番号11の支払金額は被告主張のものでなく、昭和四七年七月五日に一、八九三万六、九七〇円がある)ことは認め、その余は争う。

2 原告会社は、明宝広告が大林組やトーメンに対して本件各土地を地主から買収する義務を負っていたので、これを履行するために、明宝広告の代行機関ないしはダミーとして地主との折衝を進め売買契約締結の業務を担当したものであり、原告会社が明宝広告から独立して地主と売買契約を締結したうえ、さらに原告会社と明宝広告との間で売買契約を締結したものではない。すなわち、

前記契約締結時において、明宝広告の商業登記上の代表取締役は中山象一であり、原告会社の商業登記上の代表取締役は中山芳子であるが、いずれも登記のうえでのことにすぎず、明宝広告は、立川武衛の個人会社であり、代表取締役としての現実の職務執行は立川武衛が行っていた。そして、中山象一は立川武衛の経営する立川物産の一被用者の立場にすぎず、明宝広告の取締役として、同社から給与を受けて不動産業務を担当していたにすぎない。明宝広告の不動産業務の遂行に必要な資金は全て立川武衛個人又は立川物産が手当していたものであり、中山象一は、単に明宝広告の不動産業務中地主からの買収交渉及び立川武衛又は立川物産の用意する資金をもって地主に売買代金を支払うこと等の事務処理を実行していたにすぎない。そして、原告会社すなわち明宝広告の土地買収担当者であった中山象一は、不動産取引の仲介を行う業者に地元との買収交渉をさせ、地主との間に売買の合意が成立すると、そのおさえとして明宝広告から手付金の支出をうけて地主に支払い、地主との売買約定による売買代金の支払時期の到来を待って、順次地主に売買代金を支払い、逐次トーメン・大林組に所有権移転登記をする形態で業務を進めていた。したがって、原告会社が自己の負担と計算で地主から土地を買収し、それを明宝広告に転売し、明宝広告から更にトーメン・大林組に売り渡されたものではない。地主との買収事務は中山象一が担当し、本件各土地の買収については、地主との間では買主を原告会社としたものの、それは単なる名義上のことにすぎず、原告会社と明宝広告との間には何らの不動産売買契約はない。甲第八号証の一、二はいずれも、明宝広告と原告会社との間に不動産の売買契約が締結されたという実体があって作成されたものではない。

したがって、原告会社が明宝広告から交付を受けた金員は、いずれも土地買収の必要資金として明宝広告から預ったものにすぎず、仮受金として債務に計上しなければならないものであって、原告会社の所得となるものではない。

なお、明宝広告が大林組やトーメンから依頼を受けた業務には、単に本件各土地の地主からの土地の買付業務のみにとどまらず、土地開発の計画に応じてあらかじめ開発に利害関係を持った者の開発同意を取り付けたり、開発によって生じる利害関係者との利害の調整をしたりすること(以下付帯義務という)が含まれており、原告会社が明宝広告から依頼された買付業務の中にも付帯義務が含まれているから、明宝広告から原告会社に交付された金員がすべて本件各土地の売上げとなることは到底あり得ない。

また、本件各土地の中には農地があり、農地については、知事の許可によってはじめて売買契約の効力が生じるから、売買代金の交付によって原告会社の収入や原価が確定するものではない。

そして、仮りに原告会社が係争年度に明宝広告から交付を受けた金員の全てが収入であるとするなら、原告会社が地主及び近隣住民に支払った金員の全額及び開発同意を受けるために将来地主及び近隣住民に支払わなければならない予定価格が仕入原価となるべきものである。

(三)  同(三)について

原告会社は、明宝広告から依頼されて本件各土地の買付けをするために、別表(二)の委託業者目録記載の業者(以下委託業者という)に一部分担を依頼し、第二期の期間中にそれらの委託業者に合計一、〇三五万円を支払ったので、第二期の支払手数料は一、〇三五万円である。

(四)  同(四)について

原告会社は、別表(六)記載の土地について、大林組及びトーメンの土地利用計画如何によっては、右両社に無償提供を余儀なくされていた。右両社における土地利用計画の確定を待って残地があれば、その限度ではじめて原告会社の所有となるにすぎず、係争年度においてはそれが未確定であった。

したがって、別表(六)記載の各土地は、係争年度において たな卸土地とみることができない。

(五)  同(五)について

別表(八)のうちの原告申告額一万一、七四一円のみ認め、その余は否認する。

別表(七)及び別表(八)に記載の受取利息(原告申告額の一万一、七四一円を除く)は、いずれも原告会社が明宝広告から土地買付資金として使途を特定されて交付された預り金を各地主に支払うまでの間銀行に預け入れたものに対する利息であるから、原告会社の受取利息となるものではない。

(六)  同(八)について

被告主張の預金は、原告会社の収入として受け入れるべきものではないから、原告会社の会計帳簿に記帳すべきではない。

また、林房治に対する支払は、同人との合意に基づいて支払ったところ、大阪国税局の調査の結果、林房治が原告会社宛に返送してきたものであり、原告会社はやむなく他人名義の預金として保管しているが、右預金は原告会社に帰属せず、林房治に帰属するものである。

以上のように、原告会社は、仮装や隠ぺいをしたことがない。

第三、証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、それをここに引用する。

理由

一、本件更正処分及び本件賦課決定処分の経緯

請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二、原告会社の係争年度の所得金額について

(一)  別表(二)のうち、番号<2>、<3>、<5>、<8>、<10>の各勘定科目と金額、別表(三)のうち、番号<2>、<3>、<5>、<7>、<10>、<12>、<15>の各勘定科目と金額は、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  不動産取引に関連する収入金及び原価について

1  大林組及びトーメンが、昭和四五年末ごろ、販売用住宅地開発のために本件各土地を含む周辺地の買収を企図し、明宝広告に対し本件各土地の地主らからの土地買付けを依頼したこと、原告会社が、明宝広告から別表(五)の第二期欄に記載のとおりの金員(但し、昭和四六年八月一〇日の金額は二億六二〇〇万円の限度)を受領したこと、原告会社が、各地主に対し別表(四)の第二期欄(但し、番号1、15、17については、いずれも最終支払日の合計額として)及び第三期欄(但し、番号3、11は除く)に記載のとおりの金員を支払ったこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

2  そして、右争いがない事実や成立に争いがない乙第三一号証、証人宮本敏雄の証言によって成立が認められる同第七号証の三ないし五、及び弁論の全趣旨によると、原告会社が明宝広告から別表(五)の第二期欄に記載のとおりの金員(昭和四六年八月一〇日には二億七、二〇〇万円)を受領したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

3  また、成立に争いがない乙第五号証、同第八ないし第一〇号証及び弁論の全趣旨によると、原告会社が明宝広告から別表(五)の第三期欄に記載のとおりの金員を受領したことが認められ、この認定に反する証拠はない(昭和四八年二月二日の五七〇万円は、原告会社を経由すべきところ、明宝広告から直接岡野武雄に支払われたものであるが、前判示のとおり右金員が原告会社から岡野武雄に支払われたとすることについては当事者間に争いがないので、その前提として原告会社が明宝広告から右金員を受領したということになる。)

4  次に、右争いがない事実や成立に争いがない甲第九号証の二の三、乙第一一号証の四ないし六、同第一二号証の三によると、原告会社が各地主に対し別表(四)の第二期欄(但し、番号1、15、17については、いずれも最終支払日の合計額として)及び第三期欄に記載のとおりの金員を支払ったことが認められる。

第三期について、原告会社が佐伯長蔵外四名に対する支払(番号11)として主張する昭和四七年七月五日の一八九三万六、九七〇円は、佐伯長蔵に対する支払(番号3)であることが前掲乙第一二号証の三により明らかであり、原告会社が林房治に対する支払(番号4)として主張する昭和四七年七月六日の二五〇万一、〇七〇円は、佐伯長蔵他四名に対する支払(番号11)であることが前掲甲第九号証の二の三により明らかであり、また、原告会社が林房治に対する支払(番号4)として主張する昭和四七年九月一八日の二、四〇七万八、九三五円は、これを認めることができる証拠がない。かえって、成立に争いがない乙第五号証、証人宮本敏雄の証言によって成立が認められる同第六号証、同第二四号証の一、同第二五ないし同第二九号証及び同証言によると、右支払は、原告会社が林房治に対し、先の領収証(甲第九号証の二の四)を紛失したと偽って、領収証の再発行(同第二二号証の一)を受けたうえ、近畿相互銀行神戸支店の原告会社が管理する林房治名義(架空名義)の普通預金口座に入金して、支払を仮装したものであることが認められる。

5  成立に争いがない甲第二号証、同第九号証の一ないし一六の各一(但し、二の一については別紙特約条項を除く)、同第一三号証の一、二、同第二四号証の一ないし三、同第二九、三〇号証の各一、二、乙第一号証の一ないし三、同第二ないし第四号証、同第一一ないし第一三号証の各一、同第二〇二一号証、同第三一ないし第五一号証、原告会社代表者の本人尋問の結果によって成立が認められる甲第三号証、同第四号証の一、二、同第五号証の一、二、四、五、同第六号証の一、三、同第八号証の一、二、証人豊永誠の証言によって成立が認められる同第二三号証、証人宮本敏雄の証言によって成立が認められる乙第二二号証の一ないし四、同第三〇号証、証人豊永誠、同高井春美、同宮本敏雄の各証言、原告会社代表者の本人尋問の結果(一部)及び弁論の全趣旨(訴状末尾添付の別紙)を総合すると、次の事実を認めることができ、この認定に反する原告会社代表者の本人尋問の結果の一部は採用できないし、他にこの認定の妨げとなる証拠はない。

(1) 大林組及びトーメンが、昭和四五年末ころ、本件各土地を含む周辺地の買収を企図し、明宝広告に対し本件各土地の地主らからの土地買付けを依頼した。

(2) 明宝広告は、これを受けて、代表取締役中山象一の妻中山芳子が代表取締役をし、中山象一自身も取締役をしている原告会社に、地主との買取り交渉を依頼した。地主との現実の交渉は、中山象一が担当した。

(3) 本件各土地及びその周辺地に関して、明宝広告を売主、大林組及びトーメンを買主とする土地売買契約が別表(九)に記載のとおり締結された(以下、同表の<1>、<2>の契約を第一次契約、同表の<3>、<4>の契約を第二次契約、同表の<5>、<6>の契約を準第二次契約という)。準第二次契約は、第二次契約のうち別表(四)の9の岡野武雄の土地について改めて契約したものである。

(4) 一方、原告会社は、各地主との間で、別表(四)に記載の各土地につき、別表(十)に記載のとおりの契約を締結したが、別表(四)の1、2(ア)の各土地は第一次契約で売買の対象とされた土地の一部であり同表の2(イ)、3ないし14(但し、7については一部)は第二次契約で売買の対象とされた土地である。

(5) 各地主に対しては、売買契約金額が別表(四)の第二期欄に記載のとおり支払われ(但し、中塚信夫については契約金額を超過している)。別表(十)の登記又は仮登記の日欄に記載のとおり大林組又はトーメンに所有権移転登記ないしは持分移転登記(農地については所有権移転請求権仮登記)が経由された(但し、同表の<7>、<18>については一部が原告会社に、<17>については原告会社に、<15>については明宝広告にそれぞれ所有権移転登記が経由された)。

そして、右代金の完済又は登記のころに、登記名義を取得した各買主に本件各土地が引き渡されたものと推認される。

(6) 農地の転用届出の効力が生じたのは、昭和四九年六月二五日以降であるが、当事者が売買の対象にしたのは農地引渡請求権であった。

(7) 原告会社と明宝広告は、昭和四七年三月一八日付で売主を原告会社、買主を明宝広告、売買代金を六億二、五三一万七、八六〇円、昭和四八年一二月七日付で同じく売買代金を一億三、〇八七万九、三四四円とする売買契約書を作成したが、これらの契約書には売買物件が個別的に表示されていない。

(8) 原告会社は、本件各土地の売買代金や追加清算金の収支を、第二期、第三期の損益勘定に計上し確定申告をした。

訴状末尾添付の第二期売上明細の申告額中、土地売上六二五、三一七、八六〇(これに受取手数料一〇、〇〇〇、〇〇〇を加えると六三五、三一七、八六〇になる)と仕入六一五、一一七、三六〇とは、乙第一号証の一の下段の額に対応するが、右売上明細の計二二、八三六、六六〇は原告会社の第二期の確定申告書に添付の損益計算書の売上高に一致し、また、訴状末尾添付の第三期売上明細の申告額中、土地売上一四四、五〇〇、〇〇〇と仕入一四二、二一一、五一〇との差二、二八八、四九〇は、乙第二二号証の一の第二次売上差益二、二八八、四九〇や同号証の二の損益勘定二、二八八、四九〇の記載と一致するし、同号証の三、四の合計七、二九三、一〇九は、原告会社の第三期の確定申告書に添付の損益計算書の売上原価にはほぼ合致する。

(9) 明宝広告は、本件取引に関して原告会社に支払った金員を、その支払ごとに自己の帳簿の土地、建物勘定(乙第八号証、同第三一号証)に計上している。

(10) トーメンは、昭和四九年五月二〇日の時点で、第一次契約、第二次契約、準第二次契約の全取引が完了していることを確認している。

(11) なお、原告会社は、本件審査請求の段階で、本件各土地の売買につき買主であると申述していた。

6  以上認定の事実によると、原告会社は、別表(四)に記載のとおりの各土地につき、各地主から所有権(農地については土地引渡請求権)を買い受けて、これ(但し、別表(六)に記載のものは除く)を明宝広告に売り渡したものというほかはなく、右売買は、各地主への契約代金の支払と登記(農地については仮登記)の完了、土地の引渡しによって、一応完結(権利確定)したものであり、別表(五)に記載の各金額は、いずれも右不動産の取引によって原告会社に生じた収入金額であるというべきである。

原告会社は、原告会社が明宝広告の代行機関ないしはダミーとして地主との売買交渉をしたものであって、独立の契約主体ではなく、したがって、明宝広告から交付を受けた金員は仮受金にすぎないと主張するが、本件各土地の売買につき地主と取り交わした売買契約書の買主はいずれも原告会社であり、さらに、原告会社は明宝広告との間で本件土地に関して売買契約書を取り交わし、原告会社の帳簿には本件各土地の売買につき仕入及び売上の扱いをし、これを損益勘定に計上したうえ確定申告したほか、本件審査請求の段階でも原告会社が買主であると申述していたものであり(なお、原告会社は、本件においても、当初、原告会社が買主であることを争っていなかったことは、当裁判所に顕著な事実である)、これらの事実に照らすと、原告会社の右主張は、到底採用することができない。

また、原告会社は、付帯義務があるので、明宝広告から受領した金員を土地の売上による収入金額とみることはできないと主張するが、大林組やトーメンが明宝広告に対する関係で本件各土地についての契約が完了したことを確認しているのであるから、原告会社としても本件各土地の売買に関する収益は確定したというべきである

7  損益の帰属時期について

別表(五)の第二期欄に記載の金額は、原告会社が各地主に売買代金として別表(四)の第二期欄に記載の金額の支払をするために、明宝広告が原告会社に支払ったものと推認され、右売買は、そのころ、登記と土地引渡しとが同時に完了したものであるから、別表(五)の第二期欄に記載の金額は、原告会社の土地の売買による収入金額として第二期の収益に計上するのが相当である。

そして、別表(四)の第二期欄に記載の金額は、右収益に対応する原価として原告会社の第二期の損金に計上すべきである。

ところで、別表(四)の第三期欄に記載の金額は、いずれも原告会社が第三期に各地主に支払ったものであるが、第二期に売買代金の支払をしたのと同一の売買契約に基づく物件に関して支払をしたものである。したがって、第二期の収益に対応する原価として計上すべき余地がないわけではない。しかし、右支払は、当初の契約代金を越えるものであり、また、当初の契約時点では右支払が確定していたわけではないから、売上原価の計算の基礎となる費用にすることができない(法人税基本通達二-一-四参照)。

そうすると、別表(四)の第三期欄に記載の金額は、その支払義務が明確になった時期である原告会社の第三期の損金に計上すべきものとする。

そして、別表(五)の第三期欄に記載の金額は、原告会社が各地主に別表(四)の第三期欄に記載の金額の支払をするために、明宝広告が原告会社に支払ったものであると推認されるので、別表(五)の第三期欄の金額は、原告会社の第三期の収入金額として収益に計上するのが相当である。

8  なお、原告会社は、付帯義務について、第二期、第三期及び将来にわたり出費があると主張するが将来の出費(原告会社の主張は、第二期、第三期中に債務が確定したと主張するものではないと解される)については、係争年分の損金となるものではないから主張自体失当であり、原告会社が第二期第三期中に他にも相当の出費をした旨の原告会社代表者の本人尋問の結果は採用できず、他にこれを認めることができる的確な証拠はない。

9  まとめ

原告会社の右不動産取引による収入金額は、別表(五)に記載のとおり、(したがって、別表(二)の<1>、別表(三)の<1>に記載のとおり)であり、その原価は、別表(四)に記載のとおり(したがって、別表(二)の<4>別表(三)の<6>に記載のとおり)となる。

(三)  支払手数料について

1  別表(二)の<6>について

原告会社は、第二期の支払手数料が一、〇三五万円であると主張するが、成立に争いがない甲第九号証の一二の三、四、及び原告会社代表者の本人尋問の結果によると、第二期の支払手数料が二〇〇万円あることが認められるものの(もっとも、被告も二〇〇万円の限度で認めている)、原告会社が委託業者に対しそれ以上の仲介手数料を支払った旨の原告代表者の本人尋問の結果は採用することができず、他にこれを認めることができる証拠はない。

2  別表(三)の<8>について

被告主張の六二五万九、六二〇円は、原告会社の申立額を上回るものであり、原告会社は明らかに争わないから自白したものとみなす。

(四)  たな卸土地について

前記認定の事実や前掲乙第二ないし第四号証、同第四一号証、同第五〇号証によると、原告会社の収入原価に計上された土地のうち、係争年度末に原告会社が公簿上保有しているものは別表(六)に記載のとおり(別表(四)のうち7、18の各土地の一部及び17の土地の全部)であり、各土地の取得価額を面積に応じて按分計算すると同表の取得価額欄記載のとおりであることが認められる。

右各土地は、他に売却された形跡がないので、原告会社の係争年度末のたな卸資産とするのが相当である。

原告会社は、右各土地が係争年度末に原告会社の所有となるのは未確定であったと主張するが、前記認定の事実に照らし、この主張は採用できない。

したがって、たな卸土地は、別表(二)の<7>及び別表(三)の<4>、<9>のとおりとなる。

(五)  受取利息について

成立に争いがない乙第一四、一五号証(同第一四号証については原本の存在も争いがない)、同第一六号証の二ないし六、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第七号証の三、証人杉山幸雄の証言によって成立が認められる同第一六号証の一、同第一七号証によると、原告会社の第二期の受取利息が別表(七)に記載のとおりである(但し、昭和四七年二月一七日八七五円とあるのは、同月一四日である)ことが、また、前掲乙第七号証の三、同第一四、一五号証、同第一六号証の一、同第一七号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第七号証の七、同第一八、一九号証、成立に争いがない同第一六号証の七、八によると、原告会社の第三期の受取利息が別表(八)に記載のとおりである(但し、昭和四八年一月二二日七、一五〇円とあるのは、同年二月一二日であり、昭和四八年三月二七日七二、七四七円とあるのは、同年二月二七日である)ことが認められ(もっとも、同表のうち原告会社の申告額一万一、七四一円については当事者間に争いがない)、この認定に反する証拠はない。

原告会社は、右各利息が明宝広告から使途を特定されて銀行に預け入れたものに対する利息であるから、原告会社の受取利息となるものではないと主張するが、右各利息の元本である預金が原告会社のものである以上、その利息が原告会社に帰属するのは当然であるから、原告会社のこの主張は採用できない。

したがって原告会社の受取利息は、別表(二)の<11>及び別表(三)の<13>のとおりとなる。

(六)  支払利息が別表(二)の<12>及び別表(三)の<14>のとおりであり、事業税認定損が別表(三)の<16>のとおりであることは、原告会社において明らかに争わないので、自白したものとみなす。

(七)  まとめ

原告会社の第二期の所得金額は、別表(二)に記載のとおり四、六二二万〇、七〇八円であり、第三期の所得金額は、別表(三)に記載のとおり三、九二六万五、八五五円となる。

三、重加算税について

前記認定の事実(二(二)4及び同(五)参照)や前掲乙第五、六号証、同七号証の三、同第一四、一五号証同第二〇、二一号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第七号証の二によると、原告会社は、本件土地の取引に関して使用した銀行口座のうち富士銀行大阪支店の原告会社名義の当座預金及び普通通預金口座、富士銀行垂水支店の原告会社名義の普通預金口座並びに大阪銀行森小路支店の原告会社名義の普通預金口座につき、右各預金口座の入出金のすべてについて会計帳簿に計上せず、また、本件土地の地主である林房治に対し、昭和四九年九月一八日二、四〇七万八、九三五円を支払ったようにして原告会社が管理する林房治名義(架空名義)の普通預金口座に入金して支払を仮装し、これにより過少の決算報告書を作成して納税申告書を提出したことが認められる。

右事実によると、原告会社は、係争年度の所得の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい仮装し、これに基づいて納税申告書を提出したものというべきである。

四、むすび

以上の次第で、本件更正処分は、原告会社の第二期、第三期のいずれについても所得金額の範囲内でなされたものであるから適法であり、原告会社の隠ぺい仮装に基づく納税申告は、国税通則法六八条一項に該当するから、本件賦課決定処分にも違法はない。

そこで、原告会社の本件請求は理由がないから棄却することとし、行訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 孕石孟則 裁判官 浅香紀久雄)

別表(一) 課税処分経過表

<省略>

別表(二) 第二期の所得金額内訳

<省略>

(注) 原告申立て額は、原処分庁の調査時のものである。

別表(三) 第三期の所得金額の内訳

<省略>

(注) 原告申立て額は、原処分庁の調査時のものである。

別表(四) 不動産取引の対象土地および収入原価明細(各地主への支払額)

<省略>

<省略>

別表(五) 不動産取引の収入金明細(明宝広告からの入金額)

<省略>

別表(六) たな卸土地明細

<省略>

別表(七) 第二期の受取利息の明細

<省略>

(合計一二九、三一二円)

別表(八) 第三期の受取利息の明細

<省略>

(合計六一〇、八七八円)

別表(九)

<省略>

別表(一〇)

<省略>

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