大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)2649号 判決
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【判旨】
(二) ところで、被告らは、別表一の番号1、2、4ないし7の金員合計六一〇〇万円が原告に対する貸金であると主張するのに対し、原告は、これが原告と被告山名二郎、山名和夫の三名の農地造成並びに農場経営の共同事業の出資金として交付を受けたものであると主張するので、その点について以下検討する。
(1) 前記争いのない事実に<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められ<る。>
(イ) 原告の農場造成計画
原告は、前判示のスカールの卸売を副業とし、農業を本業としている者であるが、昭和五〇年頃茨木市所在の自己所有の農地一反位を売却し、その売却代金七、八〇〇万円で地価の安い山林等を購入して農地造成を行つて大規模な農場経営をしたいと思つていた。原告は自ら岡山県の津山の奥の五反田や他数ケ所の土地を購入したが、被告山名二郎に右計画を話し、この計画への協力を依頼したところ、被告山名二郎は戦前樺太庁本斗支庁の産業課長をしており、又原告と数年来のつきあいをしていたこともあり、これを承諾した。
(ロ) 本件土地の売買契約とその農地造成工事
原告は、昭和五〇年春頃被告山名二郎の郷里の三重県一志郡美杉村太郎生で農場造成の適地があるのを知り、被告山名二郎及び太郎生在住の被告山名二郎の本家筋にあたる山名和夫らの協力により地主から土地を買収しようとしたが、これは成功しなかつた。原告と被告山名二郎は、山名和夫に農場造成の適地の世話を依頼したので、山名和夫は、近くの奈良県宇陀郡御杖村に住み、不動産仲介業をしていた追分耕三(以下「追分」という。)に口聞きを頼んだ。そして追分の口聞きで同年七月二四日御杖村敷津の喜楽屋食堂で追分、地主側、山名和夫、原告、被告山名二郎らが土地の売買の交渉をし、森本から同人所有の森本英樹名義の別紙物件目録五の1、2の山林合計三七六八平方メートルを代金二五〇〇万円で、中川から同人所有の同目録六の1ないし7の山林合計五七六八平方メートル(以下別紙目録五の一、2、同六の1ないし7の山林を「本件土地」という。)を代金一三五〇万円でそれぞれ買主を原告として買受けることの合意をなし、その際必要となつた手付金二〇〇万円は、当夜原告がわざわざ茨木市内の自宅へとりに帰つて仕度したものであつた。
本件土地の農地造成工事は、注文主を原告名義として森本土建との間で請負契約を締結して施工することになり、同年八月頃から開始された(もつとも、同工事は、昭和五一年九月現地の洪水調節池の溢水事故のため中止された。)。
(ハ) 土地代・工事代の支払
被告らが本件土地の右売買の交渉及び契約締結をする際山名和夫に原告を紹介し、口聞きしたこと、森本土建が原告に土地代・工事代の支払を強硬に迫つただけでなく、昭和五〇年一〇月上旬からは原告から右支払が得られないため追分に指示して被告山名二郎に深夜何回も電話で土地代・工事代の支払を請求したり、被告ら宅に人夫を数人押しかけさせたりして強硬に支払を迫つたことなどから、被告らは、別表一の番号1、2、4ないし7記載の日に同表記載のとおり資金を調達して同表記載の金員を原告に交付した。原告は、被告らから交付を受けた金員を全て右の土地代と工事代の支払にあてた(原告が被告らから別表一の1、2、4ないし7記載の金員の交付を受けたことは当事者間に争いがない。)。
(ニ) 原告の行動
原告は、本件土地購入後、自ら右土地の評価額を鑑定させ、時価より相当高額で本件土地を買収したことになると考えていたが、又被告山名昭から別表一の番号2の金一五〇〇万円の交付を受けた際、同被告に同額の仮借用証(乙第二号証)を差入れた。そして昭和五〇年一二月一二日原告は農場の造成単価を計算し、更に大阪府から供託金二〇〇〇万円の交付を受けたならばこれを被告山名二郎の貸金の返済にあて、本件土地の所有権移転登記ができたら被告山名二郎に対し、抵当権設定登記を行う旨書面に記載し、(乙第一二号証)これを被告らに差入れた。
昭和五一年六月一一日、原告は、別紙目録三の土地につき同年四月三日代物弁済予約を原因として被告山名昭を登記権利者とする所有権移転請求権仮登記を経由し、同年七月六日被告山名昭に対し大阪府から供託金一九四〇万円の支払を受けたならばその全額を本件土地の土地代・工事代の貸金の返済にあてること、そして右の債務を担保するため当時原告所有名義の別紙物件目録二ないし四、五の1、2の土地に第一順位の根抵当権を設定する旨の文書(乙第八、第九号証)を差入れた。又原告は、同年一〇月二九日別紙物件目録一の土地につき被告山名二郎を登記権利者とする極度額一〇〇〇万円の根抵当権設定仮登記を経由し、同目録二の土地につき、被告山名昭を登記権利者とする極度額八〇〇〇万円の根抵当権設定仮登記を経由した。そして原告の妻の親戚にあたる柴田勝夫は本件土地の農場造成工事が中止された頃原告に代わつて金七〇〇万円を森本土建に支払つた。
(2) 右認定の各事実によれば、原告は、昭和五〇年頃から大規模な農場経営の計画を持つていて、被告山名二郎の協力により森本、中川から本件土地を購入し、本件土地の農場造成工事を森本土建に請負わせたこと、その土地代、工事代は主に被告らから交付を受けた金員によつて支払われたこと、そして原告が右事業の事業主であつて被告らに対し多額の債務を負担していることを前提とした行動をし、又原告の妻の親戚の柴田も原告が事業主であることを前提として原告に代わつて森本土建に七〇〇万円を代払いしたことが明らかであつて、以上の事実を総合すれば、本件土地の購入及び農地造成工事は原告個人の事業であつて、被告らから原告に対する右六一〇〇万円の出金は、被告ら主張のとおりの貸金であつたというべきである。
原告は、右金員は原告と被告山名二郎、山名和夫の三名の農地造成並びに農場経営の共同事業の出資金として被告らから交付されたものであると主張し、これに副う<証拠>があるが、右書証の記載内容及び同人らの供述は、前判示の事実関係及び次の理由からたやすく信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。即ち被告山名二郎は、これまで農業をしたことはなく、当時既に八〇才を超えた高齢者で都市に住んでいたものである(同被告本人尋問の結果により認められる。)から、仮に原告が主張するように、本件土地のようなかなり遠隔地の農場の共同経営に魅力を感じて同被告がこれに参加したものとすれば、その経済的負担も多額のものとなることとも相まち、右共同事業の合意には、代表者、各人の出資割合及びその内容、農場経営の内容については少なくともその基本的事項、利益分配の方法等についての取極めが文書等により明確になされているはずであると考えられるのに、これを認め得る証拠がないことに照らすと、<証拠>は到底信用できないし、甲第五号証もその作成名義人の森本土建の代表者森本、追分とも右書証の記載内容を的確な資料に基づいて作成したことを説明できず、結局、右書証は本件土地の土地代、工事代等の支払につき何らの根拠なく、原告と被告山名二郎の支払額を恣に区分したものであつて、右書証の記載内容も証拠価値の乏しいものといわざるをえない。
(井上清 熊谷絢子 大工強)