大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)429号・昭54年(ワ)8300号 判決
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【説明】
本件脱毛機は、高周波電流をツイザー(毛をはさむ部分)を介して毛乳頭あるいは毛乳頭の存する下部毛包部分に至らせこれを乾固することにより毛の再生能力等を喪失させることを基本原理とするものである。Xらは、右脱毛機はYが販売時保証した永久脱毛の効果はもとより、原理的にも脱毛効果はなかつたとして、右機械の売買契約及びその使用方法に関する講習契約につき、①要素の錯誤による無効、②詐欺による取消、③瑕疵担保に基づく解除を主張し、売買代金及び受講料の返還のほか、右機械使用によつて火傷を負つたとして慰藉料、弁護士費用の支払を求めた。
本判決は、右機械に脱毛の効果がないと断定することはできないとしながらも、判旨のとおり、Yの保証したような性能を有するものではなかつたとして、Xらの右①の主張を認め、Yに対し、売買代金及び受講料の支払を命じた。なお、Xらの慰藉料、弁護士費用の請求は排斥されている。
【判旨】
二そこで、次にまず原告らの主張の錯誤の点について検討する。
(一) しかるところ、<証拠>によれば、請求原因二(一)の1ないし(4)の各事実が認められ、右事実によれば、被告は本件機械を販売するにあたり原告らに対し本件機械を指示された使用方法に従つて相当期間使用すれば永久脱毛が可能であり本件機械はそのような性能を有するものであると表示しかつこれを保証して販売したものであり、原告らはいずれも本件機械が右表示どおりの性能を有し原告らもこれを相当期間使用することによつて右にいうところの永久脱毛の効果を得られるものと信じて買受けたものと認めるのが相当である。
しかして、被告が行つた前記表示ないし説明に照らすと、右にいう相当期間とは常識的にみて数カ月ないしせいぜい一、二年までの期間をいうものと解するのが相当である。けだし、右被告の表示ないし説明(ことに、甲第一八号証のパンフレットにおける本件デピラトロン永久脱毛機を三年前に一年間一二〇軒の医院で十分なテストをしてから販売を開始した旨の記載、原告阿部に対する三回位使用すれば使用部分には毛は……生えてこない旨の説明、前掲甲第二三号証の週刊誌における毛をつまむだけで……こんなに簡単に永久脱毛ができる旨の記載のほか同号証における「だれでも、短時間でOK!!」の記載等参照)には永久脱毛の効果を得るためにはそれ以上の長時間を要することを示唆するところは全くなく、いかにも毛の発毛周期や個人差、使用状況の違いを考慮に入れても、右表示をみあるいは説明を受けた一般購入者が永久脱毛の効果を得るためには上記認定以上の長期間を要すると理解するとは到底考えられないからである。
そして、永久脱毛という点についても、その当否は別として一般に広告、宣伝においては対象物の性能や効果についてややもすれば誇張ないし過大な評価をする文言が使われやすいことに鑑みると右にいう永久脱毛を文字どおり「永久」を意味すると解すべきかどうかは問題であるが、少くとも「永久」脱毛という効果をうたう以上、それは本件機械を所定の使用方法に従つて右相当期間使用し脱毛処理を終つた後はかなり長期間脱毛処理を必要としない状態が継続することを意味すると解すべきである。けだし、そうでなければ、従来行われていた毛抜き等による脱毛の場合のように現在生えている毛を抜いてもその後の再生ないし新毛の形成を防止し得ない場合と区別して「永久脱毛」の効果をいう理由がないからである。
(二) しかるところ、<証拠>に照らすと、原告らはいずれも本件機械購入後三年位の期間にわたり本件機械を所定の使用方法に従つて使用し、日によつては二、三時間ないしそれ以上の時間を費やして主に脚部の脱毛を試み、その間原告森、同源島はその主張の如く被告のいうところに従つて本件機械を被告に修理して貰い脱毛に努めたが結局原告らが期待したような脱毛効果は得られなかつたことが認められ、右事実と被写体が原告阿部の脚部の写真であることについては争いがなくその余については<証拠>によると、原告らの脚(すね)部には昭和五五年ないし同五六年現在なお女性としては毛深いと評しうるすね毛が存すると認められることに照らすと、原告らは本件機械を被告により指示された方法に従い相当期間これを使用して脱毛を試みたが結局被告が保証しまた原告らが期待したような永久脱毛の効果は得られなかつたものというべく、他に特段の事由が主張、立証されない限り本件機械は原告らに対し被告が表示し保証したような永久脱毛を達成させ得る性能を有しなかつたものと推断せざるを得ない(なお、この点に関しては様式体裁により真正に成立したものと認むべき<証拠>によると、大阪府立大学工学部島克教授が本件機械についてその電気的性能および結果からみて本件機械の性能に関し疑問がある旨の調査鑑定をしていると認められる点、また、被告会社の従業員で原告阿部に対する本件機械の販売を担当した前掲中濱証人および被告が販売するデピラトロン脱毛機などを使用して脱毛関係の営業に従事しているという浜口敬子証人はともに極く大雑把にいつてではあるがデピラトロン脱毛機をつかつて一応満足のいく程度に脱毛するには三年ないし五年は必要でないかと思う旨証言しており、そうだとすると、被告が販売していたデピラトロン脱毛機はそもそも前記相当期間内に永久脱毛を達成するような性能は有していなかつたのでないかとの疑問が生ずる点参照)。
もつとも、被告もいうように本件証拠上は原告ら本人が本件機械の使用前と使用後では毛深さが変わらないというのみで客観的にこれを裏づける資料はなく本件機械使用前における原告らの「毛深さ」の程度は明らかでないから、本件機械に被告のいう「毛深さ」を「薄く」する効果もなかつたかどうかは速断し得ないが、前記事実に照らせば被告が本件機械の販売に際し表示し保証したような効果をあげ得なかつたことは否定し難いというべきである。
判旨(三) 以上の認定事実および判断に照らすと、原告らが本件機械を購入しあるいは前記講習を受講するについては原告ら主張の錯誤が存し、かつ右錯誤は右各契約の要素に関するものであると認めるのが相当であり、右各契約は効力を有しないものであつたというべきである。
(四) なお、付言するに、<証拠>によると被告販売のデピラトロン脱毛機に関しその臨床例において永久脱毛の効果は認められないとする医療機関の存することは明らかであり、前記原告らの使用結果も参酌すると、右デピラトロン脱毛機がその広告、宣伝にいうほど簡単に誰れに対しても「永久脱毛」の効果をもたらす性能を有するものかどうかについては疑問なしとせず前記宣伝、広告や説明の仕方には批判の余地も存すると思われる。
しかし、<証拠>によると、右脱毛機は概活的にいえば高周波発信回路から発せられる高周波をツイザーを介して毛の下部(毛乳頭あるいは毛乳頭の存する下部毛包部分)に至らせその誘電加熱によつてこれを破壊し、これによつて脱毛を行うとともに毛の再生ないし新毛の形成を防止しようとするものであると認められるところ、原理的にこれを不可能と断ずるに足る証拠はない(<証拠>によれば、従来毛乳頭を完全に乾固できれば永久脱毛が可能と考えられていたのに対し、近時中部毛包―峡部、皮脂線部―を破壊することが永久脱毛につながるのであり下部毛包を破壊しても毛の再生がみられるとの見解が発表されていることは原告ら主張のとおりであるが、本件証拠上はそのいずれを正当とすべきかこれを断ずるに足る証拠はない)。
また、一一枚目別添B以下の部分の成立につき争いがなくその余の部分については<証拠>によると、昭和四九年頃から同五三年一二月頃まで同種脱毛機に関し永久脱毛の効果がない旨の苦情を受けて各種調査を行つた国民生活センターにおいてもこの種脱毛機の永久脱毛に関する有効性、無効性に関しては決め手となるべき確証は得られず、無効とまでは断じ得なかつたこと、そして、むしろ、同センターにおいて昭和五一年九月にデピラトロン脱毛機を使用して男性職員のすね毛を約一〇センチ平方メートルにわたつて脱毛した使用テストの結果では二カ月間の観察期間中ほとんど毛が再生せずその状態は昭和五四年九月の時点においても大差がないと認められること、さらにはデピラトロン脱毛機の脱毛処理をした結果生えてくる毛が少なくなりまた全体に薄くなつて効果があつた旨証言する証人も存すること(証人飯田イシ証人の証言参照)等の事情を考慮すると、同機に全く「永久脱毛」(前記の如き意味に解して)の効果がないとも断じ得ない。
三原告らは詐欺による取消を主張するが、被告が本件機械に「永久脱毛」の性能のないことを知りつつ原告らを欺いてその旨誤信させもつてこれを購入せしめたことを認めるに足る証拠はない(なお、前記二の(四)参照)。
よつて、右主張はその余の点の判断に及ぶまでもなく、理由がないというべきである。
判旨 四さらに、原告らは瑕疵担保責任をも主張するが、直接物の売買を目的とするものでない前記各受講契約についてはその理由のないことは明らかであり、前記各売買契約についても、本件の如くその要素に錯誤があり無効と認められる場合にはこれによつて処理すべきものと解されるので(最高裁昭和三三年六月一四日判決民集一二巻一四九二頁参照)、採用できない。
五以上のとおりとすると、被告は原告らに対し各主張の売買代金および受講料を返還すべき義務があるというべきであるが、原告らのその余の請求は理由がないというべきである。
(上野茂)