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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)5291号 判決 1983年11月16日

原告 巴バルブ株式会社

被告 株式会社奥村製作所

主文

一  被告は、別紙(一)記載の文書に別紙(五)記載の虚偽事実を記載して配布し、或いは右虚偽事実を陳述してはならない。

二  被告は、既に配布した別紙(一)記載の文書のうち右虚偽事実記載部分を回収せよ。

三  被告は、別紙(二)記載の広告を、幅六センチメートル二段の大きさで日本経済新聞、日刊工業新聞、日本工業新聞、バルブ産経、商経管材新聞の各紙に一回ずつ掲載せよ。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することとができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は別紙(一)記載の文書を配布し或いは陳述してはならない。

2  被告は、既に配布した別紙(一)記載の文書を回収せよ。

3  主文第三、五項同旨(ただし第三項につき、回数の指定なし)。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、バタフライ弁(バタフライバルブ又は蝶形弁)を専業として製造販売輸出し、被告はバタフライ弁をその一部門で製造販売しており、原、被告は、右バタフライバルブに関し競争関係にある。

2  被告は「営業技術資料」なるカタログ(三八頁)の末尾に添付する形で、別途一頁から五頁にわたり「オクムラの五一五型と他社製品の比較」「解説」なる見出しの文書(以下「本件文書」という、別紙(一)のとおり)を印刷して、大阪市内、東京都内を中心として、全国の主たる需要家及び原告代理店等のバタフライバルブ取扱業者に数多く配布している。

3  本件文書の内容は、被告の製品と原告を含む計四社の製品を実名で数多くの項目にわたり、比較検討しているものであるが、左のとおり原告製品について多くの虚偽、不正確、誤解を与える記載及び被告製品について需要者に誤解を与えるような不当に有利な記載がなされている。

(一) 本件文書一頁

(1) 製品重量比較の解説中「カタログ数値がトモエは四三・八%……大きい」との記載は虚偽である。

本件文書は原告のカタログ数値につき原告発行の総合カタログの記載を採用しているようだが、右はウオームギア式のカタログであり、本件はレバー式である。レバー式のカタログ数値との間にかかる大きな差はない。

(2) 前同「ギア部やエアシリンダー、電動装置をつけた場合は、軸トルクの関係でオクムラが軽量となる」との記載は虚偽である。

原告において調査した原被告双方の駆動部の重量比較は以下の表のとおりであり、右内容と明らかに異なる。

原告

被告

S型

E型

ギア式

7kg

(実測)

4.2kg

(実測)

5kg

(実測)

横型エアシリンダー(S)

9kg(実測)

10kg(カタログ数値)

原告が軽量

堅型エアシリンダー

AT―120型

左同

同一型式を使用したがつて同一重量

電動式

SRB―015

左同

上に同じ

(3) ステム径の解説中「オクムラのステム径は米国のAWWAC―五〇一規格に準じたもので」との記載は虚偽である。

被告製品のステム径は二二・九ミリメートルないし二五・八ミリメートル(尚、AWWA C―五〇四((本件五〇一は誤りである))規格はステム本体のすべてが二五・四ミリメートル以上であることを要求している)であるところ、曲げモーメントの一番大きくかかるのは、ステムが弁本体で支えられる上下二か所であつて、被告製品では二五・八ミリメートルと二二・九ミリメートルの二か所である。したがつて、被告製品が米国AWWA C―五〇四規格に準じたものとは言い難い。

(4) 前同「なかでもトモエは特に細く弱い」との記載も虚偽である。

被告以外のステム径を調査してみると原告のステム径は曲げモーメントを受ける中心部分はすべて二〇ミリメートルであるが、北沢バルブのステム径は一四ミリメートルないし約二二ミリメートル、新潟チクサンのそれは一六・三ミリメートルないし約二四ミリメートルの間で曲げモーメントを受けている。原告のステムの最大径が他のメーカーに比して細いのは事実であるが、他メーカーは二〇ミリメートル以下の部分が多く、このような段差のついたステムに於て、最大径だけでステムの強弱を判断することはできない。

(5) 前同「従つてウオーターハンマーに対する抗力ではオクムラは他社より一段優れている」との記載は虚偽である(ウオーターハンマーとは弁の開、閉時に発生する異常圧力のことで、身近な例では、水道の栓を開閉した時に水道管がガタガタ音を出して震える現象に見られる。)。

ウオーターハンマーに対する抵抗は弁棒だけで受けるのではなく、弁棒とそれを支える本体部分(ハブ部)がバランスよく構成されていることが必要である。ウオーターハンマーによるバタフライバルブの事故は、数年前被告製品で発生しているが、その際は弁棒が折れたのではなく、ハブ部が破損したことによつて発生したものである。本件文書は弁棒さえ太ければウオーターハンマーに対する抵抗力が強いと言つているようであるがそうではない。右記載は需要家に誤つた情報を与える以外のなにものでもない。

(二) 本件文書二頁

(1) 「配管後稼動中の全閉に要する軸トルク」、「開閉によるゴムシートの片寄り」、「流体の違いによる開閉トルクの変化」、「デイスクによるシートの摩耗」欄の原告製品の記載は虚偽であり、「シート構造」欄の原告製品の図は不正確である。また、被告製品の性能について語る点は不正確であり、需要家に対し品質を誤認させるおそれがある。

(2) 「開閉によるゴムシートの片寄り」

右欄には(「シート裏側の片寄り止めの有無参照のこと)」とあるが、片寄り防止装置はどこのメーカーでも行つていることであつて、被告も本件文書二頁「シート構造」の図でわかるとおり、ゴムシート裏面を凸状に形成して移動防止を図つている。

また、移動防止等の方策によつて、その結果現実の製品でどの程度片寄りが見られるのか公平に実測するのがかような文書を配布する者の責務である。原告側が行つた実測の結果では、両社製品に大きな差異は認められず、したがつて本件文書の右記載は虚偽である。

(3) 「流体の違いによる開閉トルクの変化」についても現実のデータに基づくものではなく何の根拠もなく虚偽である。

(4) 「配管後稼動中の全閉に要する軸トルク」「デイスクによるシートの摩耗」については本件文書四頁テストの結果についての箇所で主張する(後記(四)参照)。

(5) 被告製品の記載

シート構造欄には被告製品は「タツチする」だけですべて密閉できるように記載しているが現実には食い込まないと密閉はできない。また、最高使用圧力欄について被告製品には何ら条件を付さず、一二kg/cm2と表示しているが、標準仕様では一〇kg/cm2が被告製品の最高使用圧力である。無条件で記載するのはユーザーにとつて誤解を招く行為である。

(三) 本件文書三頁

(1) 「デイスクとステムの固定方法」の欄について

原告製品の固定方法がテーパーピンであるのは正しいが、その下に「ピンの頭障害物、流体の浸入→腐食」という説明は虚偽である。

ピンの頭が障害物となるというが、CV値(流量係数)は原告の方が大きく、性能的には全く影響のないことである。また、腐食の点も何ら根拠がない。

(2) 駆動部のサイズ、重量

本欄の記載も虚偽である。重量の比較については前述((一)(2)参照)したとおりであるがサイズについても原告の調査によれば次の表のとおりである。

寸法

重量

レバー式

原告=被告

原告<被告

ウオームギア式

原告≦被告

原告被告

横型エアシリンダー式

原告>被告

原告<被告

堅型エアシリンダー式

原告=被告

原告=被告

電動式

原告=被告

原告=被告

(3) 標準材質、選択

軸の材質について原告のみSCSとなつているが、他メーカーと同じSUSである。

シートの材質についても被告は三種類記載されているが、原告は七種類の内二種類しか記載されていない。原被告公平に扱うべきである。

(4) 「一五〇Aの軸径」「耐ウオーターハンマー」欄については前述((一)(3)(4)(5))のとおりであり、「その他」欄については後述する。

(四) 本件文書四頁

(1) 駆動トルク

駆動トルクの実験中、特に目をひくのは「6、配管状態において六四時間全閉を保持した後、“開”に要するトルク」についてのデータである。被告は、このデータから三頁「その他」欄におけるウオーターハンマーの記載に結びつけたり、或いは、自己のシート構造の優秀さを宣伝しようとしている(五頁中段)。原告は本件文書出現以来再三に渡つて自社テストを繰り返し、また、中立的な立場にある株式会社日本工業試験所(以下「訴外会社」という)に依頼してデータを積み重ねた。その結果、本件文書の前記記載は明らかに虚偽という結論に達した。訴外会社の実験結果は、甲第三号証にまとめられているが、その五頁によつてわかるとおり、原被告間の「長時間“閉”後の開トルク値」は、ほとんど差がない。また、右の結果は原告の自社実験によつても確認されている。

その他の駆動トルクについては被告のデータによつても前記甲第三号証によつても、原被告間に大きな差はない。むしろ、被告製品はゴムシートの中高構造を原告製品のようななだらかな山形にせず、急な傾斜面を形成する為、「閉」状態を保つ為には、その間弁体をずつと傾斜面に押しつける為のトルクをかけ続けなければならないという欠陥も判明した。したがつて、被告の実験によつて原告より若干少ないトルク値が得られたとしても、その被告の「閉」の状態は、閉トルクをかけ続けなければならないのであるから、それを考え合わせると、トルク値に関する性能面で被告が優れているとは言えないはずである。

したがつて、本件文書二頁「配管後稼動中の全閉に要する軸トルク」についても右実験結果からその記載は虚偽である。

(2) シート部気密圧力

これについても、甲第三号証五頁の実験結果と本件文書は異なつており、虚偽の内容である。

(3) 繰返しテスト

訴外会社の行つた繰返しテストの結果は、甲第三号証八頁に詳しい。右繰返しテストの実験条件は厳しいため原被告製品とも高圧力ではかなりの漏れを見た(自社テストも合わせ一二台の製品で実験したが、一五〇〇〇回テストで一四・五kg/cm2漏れなしという製品は一台もなかつた)。また、同一メーカーの各製品間においてもかなりのバラつきが見られた。しかしながら、原告製品は三台とも一〇kg/cm2以上の気密圧力を最後まで有していた。また、被告製品は一五〇〇〇回では三台とも一四kg/cm2以下の圧力で漏れを見た。

したがつて、原告製品が一〇kg/cm2以下で漏れたという記載及び被告製品が一四kg/cm2で漏れなかつたという本件文書の記載は、訴外会社六台の実験例とすべて異なり、虚偽の内容である。また、甲第三号証繰返しテストの一五〇〇〇回に至る途中のデータを見ても、原告製品が被告製品より優秀であるという総合判断は下せても、本件文書に記載したような極端な正反対の比較の出てくるはずがなく、被告の行つた実験の公平さに疑問を抱かざるをえない。なお、原告製品は日本でただ一社、米国における防火防災用部品等の品質保証機関であるUL社、FM社の品質検査に合格しており、右検査方法はいずれも流体中での繰り返し開閉テストを採用している。

したがつて、本件文書二頁「デイスクによるシートの摩耗」についても右実験結果からその記載は虚偽である。

(五) 本件文書五頁

(1) 駆動トルク測定

本欄の記載は四頁のデータの解説であるから、前述の原告の主張及び甲第三号証の実験によつて第二段落目以降は虚偽の内容であることは明らかである。

(2) 繰返しテスト

本欄も四頁のデータの解説であり、右同様に虚偽であることは明らかである。

4  被告の右行為により、原告製バタフライバルブの性能が粗悪であるかのごとき印象を需要家に与えられ、これにより原告の営業上の信用が害された。

そして、被告は現在も本件文書を配布しており、将来にわたつてこれを反復して行う可能性が大きく、このため、原告は営業上の利益を害されるおそれがある。

5  そして本件文書の虚偽の内容及び被告の悪質さ、更に、全国的に数多く散在している原告の販売先に対する本件文書による信用失墜の回復の必要性を考えると別紙(二)記載のとおりの謝罪広告を全国紙、その他需要家、或いは原告代理店らの業界紙上にその旨掲載させることが不可欠である。

よつて、原告は、被告に対し不正競争防止法一条一項六号に基づき本件文書の配布或いは陳述の禁止及び本件文書の回収並びに同法一条の二第三項に基づき営業上の信用、名誉を回復するために必要な措置として請求の趣旨記載の各紙面に別紙(二)記載の謝罪広告をなすことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、被告が営業技術資料及び本件文書を印刷した点は認め、その余は否認する。本件文書は社内資料であり、営業技術資料に対して加除自在となつており、特に要求のあつた特定の代理店、プラント、メーカーに対してのみ本件文書を添付した右営業技術資料を交付したものである。

3  同3の事実のうち、本件文書の内容が原被告を含む四社の製品を実名で数多くの項目にわたり比較検討していることは認め、その余は否認する。

4  同4の事実は否認する。

5  同5は争う。

三  被告の主張

1  本件文書作成、交布の経緯

(一) 被告はシート構造について新規で独自の開発をすべく、昭和五二年一〇月ころから技術部設計課の宮崎尹男が研究開発をすすめ、五一五型のシート構造を考案したが、右宮崎は右研究、開発者として考案にかかるバタフライバルブ五一五型がすでに販売されている各メーカーの品物と比べて実際にどの程度の位置にあるのか、販売しても十分寿命的に通用するのかを見極めるために他社製品との比較実験を行い、その結果を上司に報告した。

ところで、営業本部は五一五型のカタログを作成し配布していたが、更に被告製品の販売にあたる代理店やプラントメーカーに対して、右五一五型をより技術的な観点からバルブ全体の材質、構造、機能、特徴、性能について詳述するとともに据付け、操作等を説明する営業技術資料の作成及びその際営業担当者が代理店等に右営業技術資料を持参して説明するときの教育用のものとして本件文書の作成を企図し、会社に提出されている実験報告とカタログ作成のとき宮崎に作成してもらつた特徴の記載とを参考に営業本部独自で営業技術資料と本件文書を作成した。

(二) そして、被告の営業担当者が代理店等に行き本件文書に基づいて説明すると、時には右代理店から説明の資料とした本件文書の付いた営業担当者用の営業技術資料の交付を要求されることがあり、止むを得ず営業担当者用の本件文書が付加された営業技術資料を渡すことがあるが、この場合営業担当者は本件文書が社内用のものであるから、他に見せたりしないよう取扱いに十分注意してほしいと念を押している。被告が印刷した右営業技術資料は五〇〇部であつて、現在まで社外に出ているのは約三五〇部、そのうち本件文書を付加して代理店等に交付したのは約五〇部にすぎず、残りの約三〇〇部は本件文書の除かれたものである。

(三) 本件文書のような他社製品との比較文書は、営業担当者の説明用として原告をはじめ各メーカーがいずれも作成しているところであり、該文書が前同様の経緯で社外に出ることは避けられず、このようなことは原告も十分知悉しているところである。現に原告が社外秘扱としている他社との比較文書が社外に流れているばかりではなく、原告が営業担当者に他社製品を攻撃、中傷、誹謗させるための指導文書までもが、社外に出回つているのであつて、自己の行為を顧ることなく、被告のみを非難するのは失当である。

2  被告バタフライバルブ五一五型のシート構造と特徴

(一) バタフライ弁で最も重要なことは、弁がいかに小さいトルクで開閉するか、そして閉止時に流体を完全に密閉するばかりでなく、長時間にわたる頻繁な開閉繰返しにおいても完全密閉を維持することであり、このためシート構造に種々の考案がなされている。

シート構造の最も基本的なものは、新潟チクサンのように平坦なゴムシート中央部に弁本体(デイスク)先端部を食い込ませるものであり、これを改良したのが原告製品のようにゴムシート中央部に半円形の隆起部を形成し、その中央部にデイスク先端部を食い込ませるものである(本件文書二頁のシート構造の図)。

(二) 原告製品のシート構造では、弁の閉止位置においてシートの半円形隆起部中央にデイスク先端部が接触して流体を密閉するのであるから、デイスク先端部とシート部を強く接触させ流体の圧力に抗して完全に密閉する力はシート半円形隆起部におけるゴムの弾性によるのであり、そのためデイスクの外径をシート半円形隆起中央の内径より大きくして食い込ませることが必要となる。したがつて閉動作のため弁を回転させるとデイスク先端部がシート隆起部に接触した後、半円形隆起部表面と強く接触押圧して弾性歪を生じさせシート部に食い込みながら閉止位置まで移動するので、この大きな摩擦抵抗と弾性歪エネルギーに抗して弁を回転させるため大きな駆動トルクを必要とするのであり、開動作にあつてもゴムシートに食い込んでいるデイスク先端部を半円形隆起部から押圧変形させながら回転するため、前同様大きな駆動トルクを必要とし、更にシート隆起部に開閉の都度強い摩擦接触や弾性歪が生じるため、長期間にわたつて頻繁に繰返し開閉すると、シート部の摩耗や、ゴムの劣化による永久歪から気密性を欠く結果となるのである。

(三) これらの欠点を避けるため、被告は数年にわたつて研究開発をかさねた結果、五一五型を考案し、それはシート中央部に弁閉止位置においてデイスクが接触するテーパー状隆起部を形成し、弁を閉止位置まで回転したときデイスクが右シート中央部のテーパー状隆起部分に接触して流体物を止める機構としたので(本件文書二頁シート構造欄参照)、デイスク先端部が閉止位置に至るまでシートと摩擦接触をすることが全くなく、したがつてデイスクとシートとの間の摩擦抵抗が零となるばかりでなく、原告製品のようにシートの半円形隆起部における弾性歪エネルギーも全く生じないから、弁の開閉に要する駆動トルクは大幅に低減し、該シート部分の摩耗やゴムの劣化による永久歪の発生もなく長期間にわたつて気密性が保たれるのである。更に、弁体の全閉位置を九〇度プラスαにしてシート隆起部にデイスクをより強く押しつけることにより他のどのバタフライ弁よりも一段と気密圧力を高くすることができるのである。

(四) 比較他三社のうち、北沢R型のシート構造は被告製品の構造に近く、新潟チクサン一二型は原告製品に近いものであつて、このシート構造の差異に基づく前述の作用、効果を理解するならば、本件文書に記載されている性能や繰り返しテスト等の比較実験、測定の結果が正しいものであることが容易に判明する。

3  本件文書に虚偽の記載はない。

(一) 本件文書一頁

(1) 製品重量の比較の項で、原告製品について製品全体合計一五・三キログラムだけでなく同上カタログ値二二・〇キログラムを記載したのは、原告の発行している巴式バタフライバルブ総合カタログ四頁の七〇〇S型寸法及び重量表に口径一五〇の重量二二キログラムと記載されているため、この数値を同上カタログ値として記載し、これに基づく解説をしたにすぎず、被告に悪意はなく、かかる記載を虚偽と言われる筋合はない。

(2) 前述のとおり、被告製品はシート部の構造から駆動トルクが小さいため、ギア部等も小型、軽量ですみ、被告製品にギア部やエアシリンダー、電動装置をつけた場合でも一七・三キログラムにすぎないのであつて、被告製品が軸トルクが小さくなる関係で全体がより軽量となることは明らかであり「ギア部やエアシリンダー、電動装置をつけた場合は軸トルクの関係でオクムラが軽量となる」との解説は正しく何ら虚偽ではない。

(3) ステム径について、被告製品がAWWA C―五〇四規格(五〇一はミスプリントであることは認める)に準じているとの記載は虚偽ではない。

AWWA C―五〇四規格の中の弁棒(ステム)に関し「全てのステムは弁軸受部及び弁体部を通じて第3表に示す最小径を有しなければならない」とし、第3表では弁径六インチの場合の最小径は一インチとされている。被告製品のステムは下方の弁軸受部と、弁本体を貫通する部分のうち曲げモーメントの小さい下方弁軸受部近くの一部だけを径二二ミリメートルとし、その他の径は二六ミリメートルと右規定の一インチより太くしてステムの安全をはかつているため、右規定に「準じたもの」と記載したのであつて、右規定に合格したものとか、適合したものと記載していないのである。したがつて右記載に何ら虚偽はないのである。

(4) 「なかでもトモエは特に細く、弱い」との記載はステム径の比較の項における解説であつて、原告製品のステム径は二〇ミリメートルと他三社に比して特に細いことは明白な事実であり、以下のことによつても弱いことは明らかであり、何らの虚偽もないのである。

バタフライバルブのステムには、曲げモーメント、剪断力及び捩りモーメントが作用し、これらの荷重に応じ安全な強度を持つように設計されている。

原告、被告のバタフライバルブは、ともにデイスクの穴にステムが嵌挿され、弁本体軸受部には若干の間隙があつて完全に固定されていないため、ステムは軸受部で両端が支持される両端支持梁と考えられ、中央部に最大曲げモーメントが働き、軸受支持部には最大剪断力が働く。

北沢バルブ、新潟チクサンは上、下のステムはともに片持梁であつて、支持部に最大曲げモーメントが働く。

捩りモーメントは軸を回転軸心のまわりに捩るとき生じるモーメントであつて、バタフライバルブはバルブを開閉するためにハンドル又はレバーでステムの上部を回転させるのでステムに捩りモーメントが発生し、捩りモーメントの大きさはステムの支持点からの長さに比例する。

ステムに作用する右荷重の応力に基づきステムの径が設計されるのであるから、ステムの強度を論ずるには、ステムの各部に作用する右の各応力にしたがつて個別に判断しなければならない。

前述のとおり、被告製品のステムに最大曲げモーメントが作用する位置は弁体の中央に該当するところで、該部の設計寸法は二六ミリメートルと太くし、曲げモーメントが作用せず捩りモーメントの小さい下方の軸受部の径だけを設計寸法二三ミリメートルとしたのであるから、ステムの各部に作用する各モーメントを総合すれば強度は大きく安全であることが判明する。

そして、北沢バルブ、新潟チクサンのステムは片持梁であつて、最大曲げモーメントは支持端である軸受部に作用するから、該部の径は北沢バルブが設計値二二ミリメートル、新潟チクサンは二四ミリメートルで原告製品の二〇ミリメートルよりも太いのであるから、強度は大きく安全であることは明らかである。

(5) 「従つてウオーターハンマーに対する抗力ではオクムラは他社より一段優れている」との記載も、前同様ステム径の比較の項における解説であつて、バルブ全体のウオーターハンマーについて述べたものではない。そして、ウオーターハンマーに対するステムについてだけの抗力を比較するならば、同一材質の場合ならば太いステム径を有する被告製品がウオーターハンマーに対する抗力の点で、他社製品より一段優れているといつても過言ではなく、これを虚偽の記載というべきではない。本件文書の交付先は代理店等の技術専門家に限られているのであるから、ステム径比較の項における右解説で、原告が主張するような誤つた解釈をするおそれはない。

(二) 本件文書二、三頁

(1) 二、三頁に記載している構造と性能の比較は、被告において比較三社の製品について構造を調査し、また、実験、測定を行つた結果に基づくものであつて虚偽や不正確な記載はない。

(2) 前記被告の主張2で述べたシート構造の差異に基づく作用、効果、特に被告製品と原告製品との構造上の差異と特徴から、「配管後稼動中の全閉に要する軸トルク」「デイスクによるシートの摩耗」がデイスク先端部をゴムシートに強く接触させ食い込ませる原告及び新潟チクサン型に大きいことは明白である。また「開閉によるゴムシートの片寄り」もシート中央部を半円形に隆起させ、この隆起部にデイスク先端部が強く摩耗接触し弾性歪を生じさせながら回転する原告製品に認められることは容易に判明するところである。

(3) 「流体の違いによる開閉トルクの変化」について、弁の開閉作動中にデイスク先端部がシート部に強く摩擦接触をする原告と新潟チクサン型にあつては、その摩擦抵抗は接触面の摩擦係数によつて大きく異なり、流体が油その他の潤滑性液体であるときは摩擦係数が小さく駆動トルクも小さくてすむが、水その他の非潤滑性液体や、更にガスや空気等の気体で摩擦面が乾燥し摩擦係数が大きくなると、摩擦抵抗が大きくなつて大きな駆動トルクを必要とすることは理の当然であり、本件文書記載のとおり原告と新潟チクサン型に「流体の違いによる開閉トルクの変化」が大きいことは明白である。

(4) 原告はシート構造の図は不正確であると主張するが、これはシート構造の相違を明らかにするための略図にすぎず比較製品のシート部を精確に製図したものではないからかかる性格の略図をもつて不正確と非難するのは失当である。

また、被告のシート構造においてもタツチだけでは密閉せず、現実には食い込まないと密閉はできない旨主張しているが、シートのテーパー状隆起部にデイスクの側部が接触(タツチ)すれば容易に密閉できるところであり、当該技術分野において接触して密閉するといえば、密閉するに必要とする力をもつて接触させることをいうのであつて、原告が想像するような少しの圧力や力が加われば離れてしまう羽毛のごとき軽いタツチをいうのではない。そして、右テーパー状隆起部にデイスクが流体を密閉するに足りる面圧をもつて接触したとしても、これを食い込みなどと言うことはなく、原告の右主張は採用できない。

(5) 固定方法

デイスクとステムの固定方法は、原告製品がテーパーピンとナツトであるのに対し、被告製品は三五〇ミリメートルまではセレーシヨン機構により、四〇〇ミリメートル以上はテーパーピンを使用している。

テーパーピンとナツトによる固定方法では流体の中にピンの頭とナツトが露出して流体の通過面積をせばめ流れの障害となるばかりでなく、パルプ等の繊維質の混入した流体にあつては、ボルト部分に繊維がひつかかつて流れを阻害することになる。小口径のバルブほどその影響は大きく、このため製紙業界、食品、薬品業界などで使用するバルブにおいてはバフ仕上を要求されることもある。また、ピン孔から流体が侵入し、腐食の原因となり、特に排煙脱硫プラントに使用する酸性ラインや海水などのラインに於てはしばしば間隙に腐食が生じるのである。

バルブの口径が大きくなると、テーパーピンの頭やナツトによる流路の障害は、小口径の場合に比して小さくなるので被告製品も四〇〇ミリメートル以上ではテーパーピンとナツトを使用しているのである。

そして、本件文書におけるような概括的な比較表においては、その特徴、欠点の原因を指摘すれば足り、口径や頭の大きさによつて個々に異なる障害の詳細なデータまでの記載を要求されるものではない。

(6) また、三頁の「駆動部のサイズ/重量」、「標準材質・選択」(これは原告のカタログに基づいて記載したものである)、「一五〇Aの軸径」、「耐ウオーターハンマー」も前述のとおり不正確とか虚偽とか非難される理由はない。

(7) 「その他」の欄における原告製品についての記載は、被告が行つた実験と測定の結果に基づくものである。即ち、四社の製品について六四時間全閉状態を保持した後、開方向への配管状態におけるトルク(kg―m)を実験し測定したところ、本件文書四頁駆動トルク欄6記載のとおり被告一・六、原告一二・五、北沢パルプ三・七、新潟チクサン八・八の数値を得たのである。このように原告製品の右トルクが被告製品の約七・八倍、北沢バルブの約三・四倍となつたことは、前述のシート構造から、密閉時にデイスク先端部が深く食い込んでいるシートのゴムの硬化と歪によるものと認められ、また類似したシート構造の新潟チクサンよりも大きくなつていることは、隆起部に深く食い込んでいることと、半円形状の隆起部が平担なシート部よりも硬化しやすいためではないかと考えられるのである。また、原告製品は右のように強力な駆動トルクを必要とし、この強い駆動力をもつて弁を開けると急激に弁が開くのでウオーターハンマーを発生するのである。

(三) 本件文書四頁

(1) 四頁に記載している駆動トルクその他の数値等は、前同様被告が実際に比較実験を行つて得た測定結果であつて虚偽の記載はない。

(2) 繰返しテストは、測定条件3に記載したとおり、空気中で差圧は〇、大気圧のもとにおいて繰返し開閉テストをしたものである。なお、流体の中には液体と気体とがあり、バタフライ弁が油その他の潤滑性液体、水その他の非潤滑性液体、更にガスや空気等の気体という三種類の性質の異つた流体に使用され、原告も原告カタログ三頁の適用流体の中に空気、ガスを記載しており、特に最近は公害プラント、空気輸送ラインに多く使用されることからも、流体を空気とする繰返しテストは非常に重要である。

(3) そして、実験の結果、原告製品にだけ漏れが認められたのは、すでに繰返し述べているとおり、原告のシート構造がゴムのシート中央部を半円形に隆起させ、この隆起部にデイスク先端部を強く接触させ、深く食い込んで開閉するため、繰返し開閉すると半円形隆起部が摩耗しやすく、かつ右隆起部のゴムが劣化して硬くなり永久歪を生じるためであると推考できるのであつて、原告の本件文書の記載が虚偽であるとの主張は失当である。

(4) 原告は、米国のUL社、FM社の品質検査に日本でただ一社合格している旨述べているが、右UL、FM両社は米国における防火防災用部品等の品質保証機関ではなく、これら部品等の調査、テスト機関にすぎず、しかも原告製品の中で右二社が定める規格に適合しているのはバタフライバルブ七〇〇U―二〇U型シリーズのうちの口径五〇ミリメートルから三〇〇ミリメートルまでの九サイズにすぎないのであつて、比較対照としている原告製品七〇〇S型は右両社の規格に適合していない。

(四) 本件文書五頁

五頁記載の解説は、本件文書一ないし四頁の実験、測定結果からの総括であつて、右実験、測定の結果が前述したとおり正しいものであるから、これに基づく解説は妥当であつて、これを虚偽とする原告の主張は理由がない。

4  株式会社日本工業試験所作成の中心形バタフライ弁性能試験(甲第三号証)について

(一) 右訴外会社は私企業である株式会社であり公的な試験所ではない。また、右性能試験は、被告がなしたテスト結果を批判するためのものであるから、被告がなしたのと同一の条件でテストしなければならない。テストの条件が違えば結果もおのずから異なつてくるのであつて、違つた条件でテストした結果により被告の実験結果を非難するのは失当である。

(二) 駆動トルクの測定

被告の駆動トルクの測定は、新品の納入直後はゴムシート部に油分が塗布してあるため、デイスクの開閉による抵抗は小さく、したがつて駆動トルクは比較的小さいが、これは実際の稼動状況ではないため測定結果にあまり大きな意味はなく、また塗布された油分の量によつてもトルク値は異る。このため被告はゴムシート部の油分を蒸気洗浄して、ゴムシート面より油分をほとんど除去して駆動トルクを測定し、繰返しテストを行つているのである。

しかるに、甲第三号証の比較試験においてはゴムシートの潤滑は市販状態のままで測定しているのであるから、かかる測定値をもつて被告の前記条件のもとにおける測定値と比較して論ずることはできないのである。

(三) 気密性

被告製品は、デイスクをゴムシートの隆起部により強く押しつけることによつて更に高い圧力レイテングに対しても完全シヤツトが可能であり、この場合デイスクの回転角度を九〇プラスα度にセツトする必要がある。このように、被告製品は高圧で使用するときには高圧に応じて微調整できる構造になつている。これに対し、原告製品はゴムシートの内方に突出した円弧状中高部の頂部に圧接したときの圧力以上に調整することはできないのである。

そして、被告製品の市販品は最高使用圧力一二kg/cm2用に対し一〇kg/cm2に調整してあるので、両者の製品で気密性を比較するのであれば、高圧に応じて調整可能な被告製品で右の最高使用圧力以上の気密性をテストする場合は、当然テストする高圧に応じて調整しなければならない。しかるに、甲第三号証の測定方法は微調整もせずに被告製品に高圧をかけ、カツト面から漏れが認められるとしているのであつて、かかるずさんな比較試験の結果をもつて被告テストを非難することは失当である。

(四) ゴムシートの片寄り

甲第三号証のゴムシートの片寄り測定方法は、ゴムシートの片寄り測定というよりもゴムシートの弾性により測定値が大きく変ることが考えられゴムシートの片寄りの測定方法として適切ではない。原告製品にゴムシートの片寄りが生ずることは中北対策と題する文書(乙第一〇号証)の中で原告自らが認めているところである。

(五) 繰返しテスト

前述のとおり、被告製品は使用圧力に応じて調整する機構であり、このことは営業技術資料に明記されているので原告はこの事実を知悉している。また一般に機械技術者であれば被告製品のシート構造を見れば右の事実は容易に知り得るところであり、甲第三号証の測定方法にわざわざ「購入状態のままで微調整はしていない」とことわつていることからも試験担当者は被告製品が使用圧力に応じて調整できることを知悉していたものである。

このように使用圧力によつて調整可能な被告製品に、その標準の最高使用圧力以上で繰返しテストをして漏れを測定するのであれば、当然その試験する圧力に応じた調整をして試験をしなければならないのであり、最高使用圧力一〇kg/cm2用に調整されている被告製品に一八kg/cm2もの高圧をかけて繰返しテストをなし漏れが認められるからといつて、かかる試験に何の意味もない。

(六) 以上のとおり、この試験は圧力によつて調整可能な被告製品に試験をする高圧に応じた調整もしないという初歩的なミスを犯しており、かかる初歩的なミスを行う試験担当者によつて行われた甲第三号証の結果を信用することはできない。

5  本訴請求について

被告は、本訴が提起された後自発的に本件文書の交布を停止し、今後そのままの形で交布する意思はない。よつて、本件文書配布差止請求は理由がない。

また、本件文書に誤記はあるものの、他は宮崎がなした測定、実験結果並びにこれに基づく解説であつて、右誤記によつて特に原告の業務上の信用が毀損されることはない。原告は本件文書の陳述禁止を請求しているが、具体的にいかなる処分であるのかその内容が明らかでなく、執行法上の問題もありかかる請求自体失当である。更に右のとおり誤記は僅少であるから、配付先に正誤の訂正をすれば足り、記載のほとんどが正確、妥当である本件文書全部の陳述禁止や回収の請求は理由がない。

更に謝罪広告についても本件文書は一般に流布する文書ではなく、また誤りは僅少であり過失も軽微で、しかも原告は本訴提起の記事を日刊工業新聞などに掲載させ、右記事を印刷した宣伝誌を多数作成し業界に広く配布していることなどを考慮すると謝罪広告を求める請求も理由がない。

四  原告の反論

1  本件文書の背部分は袋とじ状に、黒いテープがまかれ、また、右営業技術資料の最初には「新たに他社競合品との公正な立場での技術的な比較も試みております」と記載されており、本件文書は営業技術資料と一体の文書である。また、その配布方法も一般販売店に配布するのと変りがなく、やむを得ず渡しているものではない。原告の比較文書は専属代理店であつた訴外旭交易株式会社に営業資料として渡したが公表を許さなかつたものであり被告の本件行為とは異なる。

2  ステム径と強度

曲げモーメントについては、少なくとも、ウオーターハンマーの生じるような事態下では、弁体、ステムはかなりの高圧力を受け、両端は軸受部に制約され、固定されている状況にあり、かかる状況下では、ステムは両端固定梁の状態となる。したがつて、曲げモーメントの働く地点は別紙(四)記載のとおりとなる。そううすると、北沢バルブ、新潟チクサンのステムの一八ミリメートル、約一九ミリメートルの地点に曲げモーメントがかかり、二〇ミリメートルのステムで曲げモーメントを受ける原告製品がこれらより弱いとされる理由はない。更に北沢バルブ、新潟チクサンのステムには段差があり、段差部分に荷重が集中し、段差のないステムより弱いことが判明している。

なお、その余の荷重、特に剪断力については、北沢バルブのステムは一四ミリメートルの径部分で弁体を支えており、剪断力は右部分にかかり原告製品のステムに比べはるかに弱いと言わざるを得ない。

したがつて、被告主張のようなステムの一番太い部分で比較することは全く無意味である。

3  宮崎の実験について

宮崎の実験は一台のサンプルで一回の実験しか行わなかつたものであり本件文書が原告製品の性能を正しく表示していると言う為のデータとしては不十分である。

しかも実験データから本件文書作成に至るデータ処理の過程についても矛盾がある。例えば乙第六号証の原告製品数値は、七三五九回のデータと三二九九回、五五七七回のデータ間では矛盾があるし、一三九六〇回のデータと九四八六回、一一八〇〇回のデータ間で矛盾がある。通常ならば回数が多くなるにつれて気密圧力も低下するものであるから、かかる矛盾のあるデータは実験方法に何らかのミスがあつた訳で、そのままの形では使えないはずであるし、その矛盾を充分補充するための実験がさらに必要である。

それにもかかわらず、被告は、矛盾がみられる三二九九回、五五七七回のデータを補充実験なしで本件文書の根拠資料として使つたものと考えられ、七〇〇〇回の項では、乙第六号証の「七三五九回、一二kgでもれ」のデータを無視して「七〇〇〇回、一〇kgでもれ」と本件文書に記載している。

4  本訴請求の必要性

本件文書は原告の信用を害する文書であつて、一旦害された信用は配布が停止されたからといつて回復するものではなく、何らかの是正措置が必要である。しかも本件文書のひどさは一部を修正してすむものではなく全面的に回収するほか方法はない。まして、被告と関係の深い三吉バルブ株式会社のパンフレツトは本件文書とほとんど同じ内容であり、被告が将来本件文書を配布する可能性は高い。

本件文書の配布は五〇部であると被告は主張するが、原告にはその配布先すら正確につかめておらず、また、バルブ業界の広さから考えれば、五〇部というのはかなりの数量である。しかも本件文書を除いた三〇〇部についてその配布にあたつては営業担当者が説明のため本件文書を付加した営業技術資料を所持し、本件文書を見せ、或いはその内容を説明した上で配布していたことがうかがわれ、それらによる原告の営業上の信用回復については、被告が認めたものでも三〇〇部という多数に及ぶ以上、新聞広告をおいてほかにない。しかも、本件は過失によつて虚偽の事実を流布したのではなく、故意によるものである。

第三証拠<省略>

理由

一1  請求原因1の事実(原告被告はバタフライバルブに関し競争関係にあること)、被告がバタフライバルブ五一五型についての営業技術資料及び別紙(一)記載の文書(以下「本件文書」という)を印刷したこと及び本件文書の内容が原被告を含む四社の製品を実名で数多くの項目にわたり比較検討していることは当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一号証、同じく乙第一号証、証人奥村政信、同山中徳男の各証言及び弁論の全趣旨によれば、本件文書は被告の営業担当者が代理店、商社、プラントメーカー、エンドユーザーに対する説明の際使う資料であり、社外秘という取扱いをするよう指示が出されているものの、必要に応じその内容を口頭で説明し、代理店やメーカーから要求があつた場合には文書そのものを渡すこともあること、営業技術資料は五〇〇部印刷しておりそのうち社外に出ているのは約三五〇部あり、前記のようにして本件文書が添付されたまま社外に出たものが既に五〇部程度あること、被告の代理店のうち約二〇社は原告と競合代理店であることが認められる。そうすると被告の右行為は本件文書の内容を陳述し、流布しているものということができる。

3  ところで、被告は原告も同様のことをしており被告のみを非難するのは失当である旨主張し、成立に争いのない乙第一〇ないし第一三号証、証人万木義則、同山中徳男の各証言及び弁論の全趣旨によれば、原告においても他社との性能比較文書を社外秘として作成したことがあること、右文書を被告が入手していることが認められるが、社外秘として他社との性能比較文書を作成し、それが社外に漏れること自体は問題ではなく、その内容が虚偽であるか否かが問題とされているのであるから、原告の右行為をもつて原告の本訴請求を妨げようとする被告の前記主張は失当である。

4  前記甲第一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六号証、証人山中徳男の証言により真正に成立したと認められる甲第八、九号証、前記乙第一号証、証人山中徳男、同万木義則、同宮崎尹男、同谷村清剛、同奥村政信の各証言によれば、

(一)  本件文書は被告営業部が作成したものであり、その内容は別紙(一)記載のとおりであつて、被告五一五型(以下「被告製品」という)、原告七〇〇―S型(以下「原告製品」という、なお、本件文書中一部に七〇〇―Eとあるのは七〇〇―Sの誤りである)、北沢R型、新潟チクサン一二型を対比したものであり、一頁の「1CV値」の黒枠内、同「2製品重量」の黒枠内(ただし、「同上カタログ値」の記載を除く)、同「3ステム径」の黒枠内及び四頁の黒枠内全部については被告製品の開発に従事していた宮崎尹男によつてなされた前記四社の各バルブの比較テストのデータに基づいて記載されたものであつて、原告主張の個所に主張の記載が存する。

(二)  被告と提携している三吉バルブ株式会社の技術資料中には他社製品との比較の記載があり本件文書とほぼ同じ内容の記載がなされている。

(三)  そして、バタフライバルブとは弁を開閉することによつて流体の通過(全開)、遮断(全閉)することを目的とするものであつて、その構造は別紙(三)記載のとおりであつて、右バルブを開閉するための駆動部としてロツクレバー式、ウオームギア式、回転シリンダ式などの種類があり、従来バタフライバルブには弁体とシートリングの関係で平坦な所にバルブを食い込ませる方法(新潟チクサンのバルブ)、シートリングの中央を高くし、バルブを食い込ませる方法(原告製品)、偏芯型のタイプ(北沢のバルブ)があつたのに対し、被告は右従来の型式とは別に被告製品(本件文書二頁シート構造図参照)を開発した。なお、北沢R型のシート構造は被告製品に近く、新潟チクサン一二型のそれは原告製品に近い。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  そこで、本件文書中原告主張の各個所の記載について順次検討する。

1  本件文書一頁

(一)  製品重量比較の解説中「カタログ数値はトモエは四三・八%……大きい」との記載について。

成立に争いのない乙第九号証、証人万木義則の証言によれば原告総合カタログ四頁の「寸法および重量表」の「呼び径」一五〇の「重量(kg)」には「二二」と記載されているがこれはギア式のバタフライバルブの重量であり、本件文書の対象となつているレバー式のカタログ数値は約一七キログラムであり、製品重量との差は約一・七キログラム(約一一パーセント)であることが認められ、したがつて右認定に反する前記記載は虚偽ということができる。なお、前記甲第八、九号証によれば前記三吉バルブ株式会社の資料からは右記載は削除されていることが認められる。

(二)  前同「ギア部やエアシリンダー、電動装置をつけた場合は軸トルクの関係でオクムラが軽量となる」との記載について。

前記甲第一号証、同第六号証、前記乙第一号証、証人万木義則の証言によれば、原告被告製品のエアシリンダー、電動装置は同一メーカー、同一タイプ、同一サイズで、ギア部も寸法重量はほとんど変らないことが認められ、証人奥村政信の証言中右認定に反する部分はにわかに措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

もつとも、被告は、被告製品はシート部の構造から駆動トルクが小さいため駆動部も小型、軽量ですむ旨主張するが、実際には前記のとおり原、被告製品の駆動部はほぼ同じ重量、サイズであつて被告の主張とはくいちがつており、駆動部に差がでるほど被告製品の駆動トルクが小さいことを認めるに足りる証拠もないのであるから右主張は前記の記載をなしたことの根拠とすることはできない。

したがつて、以上の説示により前記記載は虚偽といわざるをえない。

(三)  ステム径の解説中「オクムラのステム径は米国のAWWA C―五〇一規格に準じたもので」との記載について。

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二号証、前記甲第一号証、乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告製品、原告製品、北沢バルブ、新潟チクサンのステム径の最大値は二六、二〇、二二、二四(単位はミリメートル、以下同じ)と本件文書のとおりであるが、その最小値は二二・九、一六、一二、一五・九(前記と同じ順、以下同じ)であること、原告主張の曲げモーメントの作用する部分のステム径は二二・九及び二五・八、二〇、一八及び一八・二、一八・九及び二三・九であること、米国のAWWA C―五〇四(C―五〇一は誤記である)規格は、「すべてのステムは弁軸受部及び弁体部を通じて第3表に示す最小径を有しなければならない」とし、第3表では弁径六インチの場合の最小径は一インチ(二五・四ミリメートル)とされていることが認められる。

被告のステム径の最小値は二二・九ミリメートルで米国AWWA C―五〇四規格に適合していないが、本件文書の記載は被告製品がAWWA C―五〇四規格に適合しているとは言つておらず、単に準じたものと記載され、モーメントの関係でも一部分は適合しているのであるから、かかる記載を虚偽とまで認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  前同「なかでもトモエは特に細く弱い」との記載について。

ステム径の最小値には原告製品より小さい他社の製品があり、モーメントの関係でも原告より細いステム径の製品もあることは前記認定のとおりであり、原告製品のステムが弱いことを示す具体例も証拠に表われてきていないことに照らすと、原告製品が特に細く弱いわけではないことが認められ、したがつてこれに反する前記記載は虚偽と言うことができる。なお、前記甲第八、九号証によれば前記三吉バルブ株式会社の資料から「なかでもトモエは特に細く弱い」との記載は削除されている。

(五)  前同「従つてウオーターハンマーに対する抗力ではオクムラは他社より一段優れている」との記載について。

右記載はステム径の項(解説)中にあつて、「従つて」との接続詞で結ばれているから、被告製品はステム径が太い故にウオーターハンマーに対する抗力が優れているとの意味に理解できる。

しかし、ステムに作用するモーメントは前記認定のとおり必ずしもステム径の最大値部分にかかるものではなく、また、証人宮崎尹男は証言の中で弁軸が太いところが一番強いと証言する一方で、実験結果でもウオーターハンマーについてどのバルブが一番強いかは分からない旨証言しており、被告製品が他社より一段優れているとはいえないことが認められ、したがつて右認定に反する前記記載は虚偽ということができる。なお、前記甲第八、九号証によれば、前記三吉バルブ株式会社の資料からは右記載は削除されていることが認められる。(原告は、被告製品についてウオーターハンマーによるバタフライバルブの事故が発生したことがある旨主張するが、成立に争いのない甲第五号証、証人万木義則の証言によつて真正に成立したと認められる甲第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一〇号証、証人谷村清剛、同万木義則、同奥村政信の各証言によれば、かかる事故があつたものの、右製品は五〇五型で、本件で問題とされている五一五型とは型式が異つていることが認められ、前記記載の判断資料足りえない)

2  本件文書二頁

(一)  「シート構造」欄について。

原告は右構造図は不正確であると主張するが、右図は略図でありシート構造を理解しやすいように記載されたものであつて、必ずしも正確と言えないものであつてもこれを目して虚偽とまで言うことはできない。

また、被告製品のシート構造図の下には「タツチする」と記載され、原告を含む他の三社の構造図の下には「食い込む」と記載されている。

被告はタツチとは密閉するに必要とする力を持つて接触させることを言うと主張するが、前記甲第六号証(一一、一八頁)によれば、流体の流れを止めるためにはシートリングの反発力に抗し弁体をゴムシートに押し続ける必要があり、単に接触するだけでは足りないことが認められ(証人奥村政信の証言中五一五型でゴムが破損した事故がある旨の証言もかかることをうかがわせる)、構造的に近い北沢R型については「食い込む」と表現しており、以上の事情に照らすと被告製品についても北沢R型と同様に表現するのが妥当であり、「タツチする」との表現は被告製品の性能について需要者に被告製品があたかもシートの摩耗、バルブの開閉に要するトルクなどの点で他社製品より優れているかの如き誤つた印象を与えるものであり虚偽というべきである。なお、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三号証には、被告製品は三ないし五kg/mの閉トルクを加え続けなければ漏れを生じるとの記載がなされている。

(二)  「開閉によるゴムシートの片寄り」欄の被告製品は「なし」、原告製品は「あり(シート裏側の片寄り止めの有無参照のこと)」との記載について。

前記乙第一〇号証、証人宮崎尹男、同奥村政信の各証言によれば、被告製品はシート部裏面に本体凹部とかみあうような凸部を設け片寄りを防止しているが、原告製品についてもシート部裏面を粗面にして片寄りを防止していることが認められ、右事実から原告被告製品に片寄りについて差のないことが推認され、証人奥村政信の証言中右認定に反する部分及び実験していると思うとの証言はにわかに措信しがたい。

そうすると右認定に反する前記記載は虚偽ということができる。なお、前記甲第三号証の中には原被告双方の製品について無視してよい程度の片寄りが認められるとの記載がなされている。

(三)  「最高使用圧力」欄の被告製品は「12kg/cm2」、原告製品は「10kg/cm2」との記載について。

成立に争いのない乙第二号証によれば、被告カタログには被告製品は最大一二kg/cm2まで完全シールであるものの、一〇kg/cm2以上の使用の場合はその旨連絡するよう注意書がしてあることが認められ、本件文書には右注意書の部分の記載はされていないが、前記記載はカタログ数値を並べたものであつて、原告製品につき一〇kg/cm2より大きな圧力に対し使用不能とまで記載したものではないから、被告製品につき右注意書の記載を欠いたからといつて、直ちにこれを虚偽の記載とまでは言えず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  なお、「配管後稼動中の全閉に要するトルク」「流体の違いによる開閉トルクの変化」「デイスクのシート摩耗」については後述する。

3  本件文書三頁

(一)  「デイスクとステムの固定方法」欄中原告製品につき「ピンの頭障害物、流体の侵入→腐食」との記載について。

前記甲第一号証、同第六号証、前記乙第一号証、弁論の全趣旨によれば、原告製品の弁棒は弁体にテーパーピンで固定されているが、流体係数のCV値は原告製品が一五二〇、被告製品が一三六〇であつてピンの頭が障害物とはなつていないこと及びピンが腐食したこともないことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

被告は、パルプ等の繊維質の混入した流体に於てはボルト部分に繊維がひつかかつて流れを阻害するとか、ピン孔から流体が侵入し腐食の原因となるなど主張するが、いずれも抽象的なものであり原告製品につき現実に障害あるいは腐食したとの具体例の立証もなされていない以上、かかる理由によつては右記載を根拠づけることはできない。

したがつて、右説示からすれば、前記記載は虚偽と言うことができる。

(二)  「駆動部のサイズ/重量」欄中被告製品は「小/軽」、原告製品は「大/重(駆動トルクの大小による)」との記載について。

前記二1(二)記載のとおり右記載は虚偽と言うことができる。

(三)  「標準材質・選択」欄中原告製品は「<軸>SCS四〇三、シートNBR、EPDM」との記載について。

前記乙第九号証及び証人万木義則の証言によれば、原告製品の弁俸はSUS四〇三を使用していること(カタログにもその旨記載されている)、またシートには原告カタログにはNBRしか記載されていないものの実際にはCRも使用していることが認められる。そうすると弁俸の材質の記載は明らかに誤りであるが、シートのそれについてはCRは原告カタログに記載のないものであり、これを本件文書に記載していないからと言つて直ちに虚偽記載であるとは認められず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  「一五〇Aの軸径」欄中原告製品は「二〇mmφ(AWWA規格に準じていない)」との記載について。

前記二1(三)記載のとおり右記載は虚偽とまでは言えない。

(五)  「耐ウオーターハンマー」欄中被告製品は「強い」、原告製品は「弱い」との記載について。

前記1(五)記載のとおり、ステム径の太さで判断するものでもなく、どの製品が強いのかわからないのであるから右記載は虚偽と言うことができる。

(六)  「その他」欄については後述する。

4  本件文書四頁など

(一)  四頁は実験のデータが記載されている。

(二)  前記甲第一号証、前記乙第一号証、証人宮崎尹男の証言により真正に成立したと認められる乙第四ないし第八号証、証人宮崎尹男、同万木義則の各証言によれば、

(1) 宮崎は原告(原告製品は七〇〇―S型である)、被告など四社のバルブ各一台で性能比較実験をなし、実験の順序は駆動トルクのテストをした後、シート部気密圧力、繰返しテストの順であり、実験はすべて同じ一台の製品で行つたこと、そして実験メモ(乙第七、八号証)を作成し、それを清書し(乙第四ないし第六号証)、上司に提出した。

(2) 乙第七号証の実験メモから清書して乙第五号証を作成する際、数値の誤記入があり、例えばシートテストの北沢バルブは「一五・〇」が「一六・〇もれず」となつている。

(3) 乙第五号証(清書したもの)と本件文書四頁のデータを比較してみると、駆動トルク2項新潟チクサンが「五・九」が「六・〇」と、シート部気密圧力の北沢バルブが「一六・〇もれず」が「一五・〇」と異なつている。また、繰返しテストについては乙第六号証(前同)では原告製品につき〇回「一四・五でもれ」、一三四〇回で「一二・〇でもれ」、三二九九回で「一〇・五でもれ」、五五七七回で「〃」(同じとの意味)、七三五九回で「一二・〇でもれ」、九四八六回で「七・〇でもれ」、一一八〇〇回で「七・〇でもれ」、一三九六〇回で「九・〇でもれ」、一五八〇〇回で「六でもれ」となつており、四頁の繰返しデータとは異なつている。

(4) 四頁記載のトルク測定のほか原告製品については他製品とは別にゴム表面の油除去を長時間かけた後トルクを測定しており、原告製品のシートリングはNBRを使用し、熱に弱く長時間の油除去によりNBRが変質劣化した可能性がある。そして、右実験は原告製品と構造の近い新潟チクサンの製品の数値が四頁の実験データで「2同上、配管後」では原告製品の方が小さく、「6配管状態において六四時間全閉を保持した後“開”に要するトルク」では逆になつていることからみると右6の実験の前であると推認される。

(5) また、原告製品の繰返しテストは完全に全閉になつていない状態でのテストであり、右実験結果も三二九九回で一〇・五の気圧で漏れているのに対し、回数の多い七三五九回では一二・〇で漏れとなつていたり、九四八六回で七・〇で漏れているのに対し、一三九六〇回では九・〇で漏れとなつている。

(6) 被告は右宮崎の実験テスト以外のテストをしたか否かについて何ら立証しない。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  被告は本件文書四頁に記載している数値等は宮崎が実際に比較実験を行つて得た測定結果であり虚偽の記載ではない旨主張する。なるほど右データは宮崎の実験に基づいて記載されたものではあるが、かかる故に右記載が虚偽ではないと速断することはできない。けだし、実験方法或いはデータ処理が誤つている場合には実験結果自体に客観的真実性を認めることができないのであるから実験結果のデータだけが公表されても、これに到る実験方法、データ処理などにつき十分信ぴよう性が担保されていない場合には、右実験結果(データ)そのものの客観的真実性の裏付けがないものとして、結局その実験結果は虚偽と評価せざるを得ないからである。

これを本件についてみるに、宮崎は原告製品につきゴムシートを他社製品より長時間蒸気による油除去を行つており、その後の実験は他社製品と同一条件下での実験とは言えず、また、繰返しテストの際原告製品を完全に全閉状態にしていないこと、宮崎の実験が各社一台のみの製品の比較であることを総合すると、他社製品より長く蒸気で油除去を行つた後の実験である配管状態において六四時間全閉を保持した後“開”に要するトルク、シート部気密圧力、繰返しテストの数値についてその信ぴよう性は担保されていないと認められ(原告製品のその余の数値及び被告ほか二社の製品の数値についてはそこまでは認められない)、しかも右結果は甲第三号証の訴外会社の実験データとも著しく異つている。

そうすると、右データの記載は実験方法、データの処理につきその客観的真実性を担保する裏付けを欠くものであつて、虚偽と言うことができる。

(四)  二頁の「配管後稼動中の全閉に要する軸トルク」欄の被告製品は「小」、原告製品は「大」との記載について。

右「全閉に要する軸トルク」とは、右欄の「稼動中」との記載自体から弁体を閉じるためのトルクのみならず、弁体を密閉しておくためのトルクも含まれているものと認められるところ、本件文書四頁の駆動トルクの1ないし5項の結果と前記甲第三号証の結果とは原被告製品についてトルクの大小が逆になつていること、前記甲第六号証により認められる、原告製品は弁体がシートに接触中の弁体移動過程で摩擦トルクを要するが、弁体の円周端部周囲がシートの中高部分に食い込んだ全閉位置では、右端部周囲に対しシートの中高部分は左右対称に変形し、右シートの左右対称の弾性反発力により弁体とシートの密閉状態がえられ、弁体に操作トルクを加える必要がないのに対し、被告製品は摩擦トルクは必要ないものの、密閉状態を保つためには弁体の円周端部の片側部分をシートの弾性反発力に抗して常時押し付けるための操作トルクを必要とすること、前記のとおり原被告製品の駆動部の重量、サイズはほぼ差のないことを考えあわせると全閉に要する軸トルクにつき被告製品が小で原告製品が大とまでは言えないことが認められ、したがつてこれに反する右記載は虚偽と言うことができる。

(五)  二頁の「流体の違いによる開閉トルクの変化」欄中被告製品は「小」、原告製品は「大」との記載について。

原告は右記載は根拠のない旨主張するが、右記載が虚偽であることを認めるに足りる証拠はなく、本件文書四頁のデータのうち4項の大気中の被告、原告製品の数値は六・八対九・二であり、水で濡らしたデータである5項のそれは五・四対六・七であることが認められ、流体が水から空気に変化した場合原告、被告製品に差のあることがうかがわれる。

よつて、右記載が虚偽であるとの主張は理由がない。

(六)  二頁の「デイスクによるシートの摩耗」欄中被告製品は「極小」、原告製品は「大(特にエアの時)」との記載について。

前記甲第三号証によれば原告製品について大気中の繰返しテストでは一五〇〇〇回でも円周面からもれていないことが認められ、右事実からすれば、被告製品が極小で原告製品が大(特にエアの時)であるとはいえないことが認められる。

なお、本件文書四頁の繰返しテストの実験結果が虚偽であることは前記のとおりであり、右結果を右記載の根拠とすることはできず、また、原告のシート構造からシートの摩耗が大であるとの被告の主張も、前記記載のような原告製品が極端に大きいとすることまでも根拠づけるものとは認め難い。

したがつて、右説示より前記記載は虚偽と言うことができる。

(七)  三頁「その他」欄の原告製品が「長時間バルブ閉の状態を続けた後、開にする時、ゴムシートの硬化により、強力な駆動トルクを要する。またその時は急激に開になるため、ウオーターハンマーを発生する」との記載について。

右記載は四頁駆動トルク6項の実験結果に基づいて記載されたことは明らかであり、前(二)(三)説示のとおり右実験結果が虚偽である以上前記記載もまた虚偽と言うことができる。

5  本件文書五頁

五頁は四頁の実験結果に基づく解説が記載されている。

そして、前4(二)(三)説示のとおり四頁のデータのうち原告製品の駆動トルク6項、シート部気密圧力、繰返しテストのデータが虚偽であるから右についての解説(トルク測定の第四段落四行目「また、実験の六四時間は」以降全部及び第五段落全部、繰返しテスト全部)は虚偽と言うことができる。

6  そして以上の虚偽事実はまとめると別紙(五)記載のとおりとなり、これらが原告の営業上の信用を害するものであることは明らかである(なお、右別紙(五)の記載中には、その記載だけに着目すれば、被告製品についての優秀性を示した個所も存するが、本件においては、それが他の原告製品に関する虚偽の記載と相俟つて、被告製品の誇大な事実の表明により原告製品との相対的優劣関係を歪曲して印象づけ、原告製品に対する信用が事実に反して相対的に低く評価される可能性があるから、右記載についても不正競争防止法一条一項六号の適用を妨げるものではない。)。

三  ところで、被告は本件文書の交付をすでに停止していると主張するが、証人山中徳男の証言に照らすとにわかに措信できず、更に、被告が本件文書の記載が一部の誤記を除き真実を記載した正当なものであるとの見解を有していることは弁論の全趣旨により明らかであり、これらを考慮すると、被告は将来も本件文書の陳述流布行為を反覆継続し、これにより原告の営業上の利益が害されるおそれがある、と言うことができる。

そして、本件文書のうち右虚偽記載の部分はこれを他の記載と分離することが可能であり(具体的には削除、抹消すればよい)、そのようにしても被告製品と北沢バルブ、新潟チクサンとの比較が可能で文書としての意味が失われるものではないから、本件文書のうち虚偽事実である別紙(五)記載の内容についてのみ配布或いは陳述を禁止するのが相当である。

また、既に配布された虚偽文書をそのままにしておくことは結局虚偽内容を陳述流布しているのと何ら変らないから不正競争防止法一条一項柱書「其ノ行為ヲ止ムベキコト」には虚偽文書の回収も含まれると解されるから、別紙(五)記載の虚偽部分の回収を求める限度で回収請求も理由がある。

四  原告製品につき虚偽部分が大部分であること及び被告営業担当者が約三五〇部販売の際代理店等に持つてまわり説明していること、うち約五〇部が社外に出まわつていることは前記認定のとおりであり、証人山中徳男の証言により認められる、業界におけるシエアは原告が六〇パーセント、被告が五パーセントであること、原告は本件文書により原告製品の値引或いは代理店の原告製品からの離反などの損害を受けていることなどを総合すると、本件において原告が営業上の信用を回復する手段として別紙(二)記載の内容の謝罪広告を請求趣旨掲記の新聞に掲載することを求める原告の請求は理由がある。

なお成立に争いのない乙第一五ないし第一七号証によれば、原告が本訴を提起したことが日刊工業新聞などに記事として掲載されたこと、原告は右記事を印刷した宣伝紙を作成し配布していることが認められるが、右事実の故をもつて前記謝罪広告の必要性を減少させるものではない。

五  よつて、原告の本訴請求は、被告に対し、本件文書に別紙(五)記載の虚偽事実を記載して配布或いは右虚偽事実の陳述の禁止、本件文書のうち右虚偽事実部分の回収及び謝罪広告の掲載を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条(ただし、謝罪広告掲載を求める部分の仮執行宣言の申立は相当でないので却下する)をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎 鎌田義勝 徳永幸藏)

解説

他社製品との性能比較で最も重要な点は公正な立場で比較を行うことである。従つて今回の一連の比較実験・測定はすべて全く、同一の条件で行つております。

一、駆動トルク測定

○各社とも新品の納入直後はゴムシート部に油分が塗布してあるため、デイスクの開閉による抵抗は小さく、従つて駆動トルクは比較的小さい。しかし、これは実際の稼動情況ではないため、測定結果にあまり大きな意味はない。また、塗布された油分の量によつてもトルク値は異る。

○これに対し、ゴムシート部の油分を蒸気洗浄すると、各社製品とも急激に駆動トルクが増加する。これはデイスクがゴムシートに食込むことによつて、シールする機構を採用している製品ほど大きな駆動トルクが必要となつている。

○さらに、この状態に加えてバルブを配管すると、バルブの面間よりゴムシートの面間が広く、配管時に相フランジによつてゴムシートが圧迫され、デイスクによるゴムシート面への食込み量が増加するため、それだけ大きなトルクが必要となる。

○一方、バルブを全閉の状態で六四時間保持した後、バルブを開にするために必要なトルクを測定すれば大きな格差が生じた。これはシール機構の違いとゴムシートの永久歪みによるもので、特にオクムラのゴムシートに当てるだけのシール機構では優れた性能を発揮することになつた。また、実験の六四時間はきわめて短時間であつて、実験の長時間の稼動状態ではもつと大きな格差が生じると考えられる。従つてトモエの場合、カタログにおける駆動トルク値でなく、実際の稼動情況における駆動トルクを想定してバルブあるいは駆動部を選択しないと問題をおこすことがある。

○また長期間バルブを閉の状態にした後、開にするには駆動トルクはデイスクに密着した硬化したゴムシートと摩擦抵抗に打ち勝つただけの強大なトルクを要するため、ある一定の開度までは瞬間的に開くことになり、これによりウオーターハンマーを生じ、配管ラインに事故を起すことがある。

二、繰返しテスト

○測定結果の示すごとく、トモエの七〇〇Eは三、〇〇〇回という最も少ない繰返し回数で、しかも一二kg/cm2で水玉のような漏れが発生した。

○また同様にトモエの七〇〇Eは一〇、〇〇〇回程度の繰返しを越すと定格の一〇kg/cm2以下で複数の個所から、かなりの漏れが生じた。

別紙(二)

「お詫び」

この度、当社が配布しましたバタフライバルブに関する「営業技術資料」の中で、多くの虚偽の事実を記載し、巴バルブ株式会社、並びに同社製品の信用を害し、多大の御迷惑をおかけしました。ここに深く陳謝致します。

別紙(三)<省略>

別紙(四) 各社の150A用弁棒寸法比較<省略>

別紙(五)

一 原告製品(トモエ七〇〇―S型、以下同じ)のカタログ数値は実際の製品重量より四三・八パーセント大きい。

一 ギア部やエアシリンダー、電動装置をつけた場合は軸トルクの関係で被告製品(オクムラ五一五型、以下同じ)が軽量となる。

一 原告製品のステムは特に細く、弱い。

一 ウオーターハンマーに対する抗力では被告製品は他社より一段優れている。

一 原告製品は、配管後稼動中の全閉に要するトルクが被告製品は小であるのに対し大で、開閉によるゴムシートの片寄りがあり、デイスクによるシートの摩耗が被告製品は極小であるのに対し大である。

一 被告製品の弁体はテーパー状隆起部にタツチする。

一 原告製品のテーパーピンの頭が障害物となつており、右部分から流体が侵入し腐食する。駆動部のサイズ、重量が被告製品は小型で軽いのに対し原告製品は大きく重い。原告製品の弁軸の標準材質はSCS四〇三である。耐ウオーターハンマーが被告製品は強く、原告製品は弱い。

一 被告製品、キタザワR型、チクサン一二型及び原告製品の比較実験で、配管状態において六四時間全閉を保持した後、開に要するトルク測定値が原告製品は一二・五であつた。またシート部気密圧力の測定値が一四・五であつた。更に繰返しテストで原告製品は〇回で一四kg/cm2で漏れなし、三〇〇〇回及び五〇〇〇回で一二kg/cm2でわずかの漏れ、七〇〇〇回及び一万回で一〇kg/cm2で漏れ、一五〇〇〇回で八kg/cm2でかなりの漏れがあつた。

一 右実験の六四時間はきわめて短時間であつて、実験の長時間の稼動状態ではもつと大きな格差が生じると考えられ、原告製品の場合カタログにおける駆動トルク値ではなく、実際の稼動状況における駆動トルクを想定してバルブあるいは駆動部を選択しないと問題をおこすことがある。

一 原告製品は長期間バルブを閉の状態にした後、開にするには駆動トルクはデイスクに密着した硬化したゴムシートと摩擦抵抗に打ち勝つだけの強大なトルクを要するため、ある一定の開度までは瞬間的に開くことになり、これによりウオーターハンマーを生じ、配管ラインに事故を起すことがある(別紙(一)記載の文書三頁その他欄を含む)。

一 原告製品は三〇〇〇回という最も少ない繰返し回数で、しかも一二kg/cm2で水玉のような漏れが発生した。また同様に原告製品は一万回程度の繰返しを越すと定格の一〇kg/cm2以下で複数の個所から、かなりの漏れが生じた。

別紙(一)

オクムラの五一五型と他社製品の比較

市場に出ている数多くのバタフライバルブのうち、いくつかの代表的なものとオクムラの新製品五一五型との構造、性能、繰返しテストなどについて、種々の技術的な比較を試みて関係者にその評価を仰ぐことにした。厳正に同一の条件で比較、実験、測定を行つたところ以下の表の結果が得られたのだが、それぞれのメーカーのカタログ、新聞、雑誌の広告における説明とはかなり違つた数値がでているのは興味深い。また、販売実績と性能には大きな格差が見られた。なお、実験については各社とも数値にバラつきがあつたが、公正を期するために複数の台数について検討し、その平均値を採用した。

比較(サイズ:一五〇Aでの比較)

メーカー/型式

項目

オクムラ

五一五

トモエ

七〇〇―S

キタザワ

R

ニイガタチクサン

一二

一、CV値

実測値

カタログ値

一三六〇

一五二〇

一〇八〇

※一〇八〇

一六〇〇

二〇二〇

解説

○島津製作所の実験装置を使い、同一条件で実測した値です。

○※キタザワのカタログ値は流量特性表から算出したもの。

○トモエは一六・五%、ニイガタチクサンは二〇・八%いずれも実測値はカタログより低い数値を示しています。

二、製品重量(kg)

本体+弁体+ステム合計

レバー+インジケーター合計

製品全体合計

同上カタログ値

一二・七

二・二

一四・九

一三・五

一・八

一五・三

二二・〇

一二・〇

一・二

一三・二

七・九

一・五

九・四

二〇・〇

解説

○製品全体合計ではカタログ数値がトモエは四三・八%、ニイガタチクサンが一一・三%いずれも大きい。

○製品の各部、全体のいずれもニイガタチクサンは他社より大幅に軽い。

○オクムラ、トモエ、キタザワの三社の重量は大差ないが、これはレバー駆動部をつけた場合の比較であり、ギア部やエアシリンダー、電動装置をつけた場合は輔トルクの関係でオクムラが軽量となる。

三、ステム径(mm)

実測値

二六

二〇

二二

二四

解説

○オクムラのステム径は米国のAWWA C―五〇一規格に準じたもので、他社はいずれも無視している。なかでもトモエは特に細く、弱い。

○従つてウオーターハンマーに対する抗力ではオクムラは他社より一段優れている。

オクムラの515型と他社製品の比較<省略>

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