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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)8053号 1982年1月29日

原告

塔本吉治

原告

樋口竜夫

原告両名訴訟代理人弁護士

津田禎三

(ほか五名)

被告

財団法人 東大阪市環境保全公社

右代表者理事

伏見格之助

被告

東大阪市環境保全公社職員互助会

右代表者理事長

勝田武司

被告両名訴訟代理人弁護士

竹光明登

主文

一  原告両名の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告両名の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告財団法人東大阪市環境保全公社は、原告塔本吉治に対し金九万二四〇〇円、原告樋口竜夫に対し金九二万八六五〇円、及び右各金員に対する昭和五四年一二月二三日より支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告東大阪市環境保全公社職員互助会は、原告塔本吉治に対し金一七万四二五〇円、原告樋口竜夫に対し金二四万一三九九円、及び右各金員に対する昭和五四年一二月二三日より支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告両名の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する被告両名の答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告財団法人東大阪市環境保全公社(以下被告公社と略称する。)は、東大阪市域の環境を保全し、条件の整備をはかり、市民生活の安全と清潔とを確保するため必要な業務を効率的かつ適正に処理運営し、市民の福祉増進と同市の発展に寄与することを目的とし、その目的を達成するために、廃棄物を処理するに必要な処理業務、地域の環境及び公共施設の保全確保に必要な事業等を行なうことを目的とする財団法人であり、その寄附行為により、東大阪市長の職にある者が理事(長)となり被告公社を代表する。

被告東大阪市環境保全公社職員互助会(以下被告互助会と略称する。)は、会員相互の共済制度を確立し、それを実施することにより会員の福利増進、生活の向上、執務の公正と能率化を増進することを目的とする法人格なき社団であり、東大阪市環境保全公社職員互助会定款により、被告会社の事務局長の職にある者が理事長となり被告互助会を代表する。

2  原告塔本吉治(以下原告塔本と略称する。)は、昭和五一年七月一七日より昭和五二年三月三一日まで、被告互助会の事務長の職にあり、昭和五二年四月一日より同年一二月二九日(退職辞令の同原告への到達日)まで、被告会社の業務管理課課長の職にあった。同原告は、被告互助会の会員でもあった。

原告樋口竜夫(以下原告樋口と略称する。)は、昭和四七年一二月一五日より同年一二月三一日まで、被告公社の臨時職員、昭和四八年一月一日より同年四月一五日まで、被告公社の業務部庶務課長、昭和四八年四月一六日より昭和四九年三月二四日まで、被告公社の総務部総務課長、昭和四九年三月二五日より昭和五一年八月一九日まで、被告公社の総務部長、昭和五一年八月二〇日より昭和五二年一一月一日まで、被告公社の事務局次長の各職にあった。同原告は、被告互助会の会員でもあった。

3(一)  被告公社は、昭和五三年一月一日、ベースアップを昭和五二年四月に遡って実施したが、原告両名に対しては、原告両名が昭和五三年一月一日当時被告公社に在職しなかったことを理由に、右ベースアップにかかる差額給与を支給しない。

(二)  右ベースアップにかかる差額給与は、労働に対する対価であるから、原告両名の同意なくして、その支給をしないことは許されず、その旨を定めた被告公社の給与規程附則2項(<証拠略>)は無効である。

(三)  原告塔本は、前記のとおり昭和五二年四月一日より同年一二月二九日まで被告公社に勤務していたのであり、同原告のベースアップ率は三・八パーセントであったから、右差額給与は一二ケ月分で金九万二四〇〇円である。

(四)  原告樋口は、前記のとおり昭和四八年一月一日より昭和五二年一一月一日まで被告会社に勤務していたのであり、同原告のベースアップ率は三・八パーセントであったから、右差額給与は一二ケ月分で金一一万六四〇〇円である。

4(一)  原告樋口は、昭和五二年一一月一日、被告公社を退職し、退職金一四七万九〇〇〇円を受領した。

(二)  原告樋口の右退職は、被告公社の退職手当支給規程附則3項(<証拠略>)に定めるところの勧奨による退職であるから、被告公社の定める率に従った額を支給されるべきところ、当時、右率については定められておらず、慣例によって、退職時の本俸一ケ月金三〇万五五〇〇円を基準とし、それに在職年数五年を考慮した率七・五を乗じた額となり、それは金二二九万一二五〇円である。

(三)  従って、被告公社は、原告樋口に対し、右(二)の金額から(一)の金額を差引いた金八一万二二五〇円の退職金を支給すべき義務がある。

5  被告互助会が、前記ベースアップに伴い、原告樋口に支給すべき互助会給付及び貸付規程第五条(<証拠略>)に基づく脱退給付金の差額は金一七万六一六六円であり、企業共済年金(<証拠略>)に基づく企業退職年金の中途退職一時金の差額は金六万五二三三円である。

6  被告互助会が、原告塔本に支給すべき互助会給付及び貸付規程第五条(<証拠略>)に基づく脱退給付金は金二二万七二〇〇円、同原告が昭和五二年一〇月中頃から同年一二月二九日までの病気療養したことについての、前記互助会給付及び貸付規程第六条に基づく傷病見舞金は金二〇〇〇円、東大阪市勤労者福祉共済からの傷病見舞金は金一万円、前記被告互助会企業共済年金に基づく中途退職一時金は金二〇万八三四四円であり、被告互助会は、原告塔本に対し、右合計金四四万七五四四円を支払うべき義務があるところ、同被告は、昭和五三年六月三〇日、同原告に対し金二七万三二九四円を支払ったのみで、残金一七万四二五〇円を支払わない。

7  よって、原告塔本は、被告公社に対し前記3の(三)の金九万二四〇〇円、被告互助会に対し前記6の金一七万四二五〇円、及び右各金員に対する本件各訴状送達の日の翌日である昭和五四年一二月二三日より支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告樋口は、被告公社に対し前記3の(四)と4の(三)の合計金九二万八六五〇円、被告互助会に対し前記5の合計金二四万一三九九円、及び右各金員に対する本件各訴状送達の日の翌日である昭和五四年一二月二三日より支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告両名の認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、原告塔本の退職日が昭和五二年一二月二九日であることは否認し、その余の事実は認める。原告塔本の退職日は昭和五二年一二月二八日(電話による発令通知)である。

3  同3の(一)の事実は認める。

同3の(二)は争う。被告公社が、昭和五三年一月一日において職員でなかった原告両名に対して改定給料表を適用しなかったのは、被告公社の給与規程附則2項(<証拠略>)に基づくものであり、かつ、従来から被告公社における慣例となっていたものでもある。

同3の(三)は争う。

4  同4の(一)の事実は認める。

同4の(二)の事実は否認する。被告公社における勧奨退職は、組織の合理化などのための職制や定数の改廃、予算の減少に伴う廃職もしくは減員など、被告公社の側の一方的都合により退職を勧奨する場合のことを指し、その場合には、勤続年数五年の者を例にとれば、その退職金の額が本俸に七・五倍をした額となるが(<証拠略>)、原告樋口は、次のとおり、依願退職したのにすぎないのであって、勧奨による退職をしたのではない。原告樋口の依願退職の経緯は、同原告が被告公社の事務局次長兼料金課長の職にあった昭和五二年六月頃、(1)同原告の直属部下であった料金課長補佐家野茂次が約二一七六万円を、同じく料金集金員西尾公男が約二五五万円をそれぞれ使い込んだ事件で司直の取調べを受け、公訴を提起されるといった不祥事が発生したことから、同原告も監督責任を問われたこと、(2)原告樋口自身も、給与改定時に自己の給与だけ昇給させたり、経費の支出について不明朗な点があったこと、(3)原告樋口が昭和五二年九月一九日以降、病気欠勤するに至ったこと、以上のことから、被告公社において原告樋口に対し依願退職を打診したところ、同原告がそれに応じて、昭和五二年一〇月三日付で退職願(<証拠略>)を提出するに至ったものである。なお、被告公社は、右退職承認行為を昭和五二年一一月一日に遅らせて、同年一〇月中にそれをなすのに比して、一〇八万五二四三円多い退職金を支給できるような措置を講じた(<証拠略>)。

5  同5は争う。原告樋口には、前記3のとおり、改定給料表の適用がない。

6  同6の事実中、被告互助会が原告塔本に対して、脱退給付金二〇万二九五〇円、傷病見舞金二〇〇〇円及び一万円、中途退職一時金二〇万八三四四円の各支払義務があったこと、被告互助会が、昭和五三年六月三〇日、原告塔本に対し金二七万三二九四円を支払ったことは認めるが、その余の事実は否認する。

7  同7は争う。

三  被告両名の主張

1  消滅時効

原告樋口の退職に伴う退職金請求権(請求の原因4)は、被告公社の退職手当支給規程(昭和四九年九月四日規程第五号)第一四条(<証拠略>)により、同原告の退職事由の生じた日である昭和五二年一一月一日から満二年間を経過した昭和五四年一一月一日をもって、時効により消滅した。

2  相殺

被告互助会は、昭和五二年七月一三日、原告塔本に対し、被告互助会の退職金規程第七条(<証拠略>)により、勤続満一年未満の者として退職金の支払義務がないのに、誤まって同規程第五条を適用して退職金として金一五万円を誤払した。

被告互助会は、原告塔本に対し、右誤払金の返還請求債権を有するところ、昭和五三年六月二四日到達の内容証明郵便をもって、原告塔本の代理人辻本公一及び同山根宏に対し、右債権を自働債権とし、前記請求の原因に対する被告両名の認否6(請求の原因6)の残債務一五万円と対等額で相殺する旨の意思表示をした。

よって、請求の原因6のうち金一五万円の債務は、右相殺により消滅した(その余の債務はもともと存在しない)。

四  被告両名の主張に対する原告両名の認否

1  請求の原因に対する被告両名の認否4の被告両名の主張は争う。

2  被告両名の主張2は争う。被告互助会は、昭和五二年六月初め頃開催の理事会において、原告塔本が昭和五一年七月一七日より昭和五二年三月三一日まで被告互助会の事務長の役職を勤めた実績を評価し、被告互助会の退職金規程第七条の規定にもかかわらず、被告公社と被告互助会の各在職期間を通算して、退職金一五万円を支給する旨を決議したものである。

3  なお、原告樋口は、被告公社が同原告に対し退職金を割増すること及び再就職先を斡旋することを条件に依願退職願を提出したものであるところ、被告公社はそれらを履践しなかった。

第三証拠(略)

理由

一  請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  請求の原因2の事実中、原告塔本が昭和五二年一二月二九日にも被告公社の業務管理課課長の職にあったことを除いて、その余の事実は当事者間に争いがない。

三  請求の原因3の(一)の事実は当事者間に争いがない。

原告両名は、被告公社が昭和五三年一月一日にベースアップ(給与規程の改正)を昭和五二年四月に遡って実施したから、当時在職した原告両名にもそれを適用して、旧給与との差額を支給すべきである旨主張するが、原告塔本吉治の本人尋問の結果中、それにそう部分は、(証拠略)によれば、改正された新給料表は、昭和五三年一月一日に在職する職員について、昭和五二年四月一日から適用する(財団法人東大阪市環境保全公社職員給与規程の一部を改正する規程附則2項)ことが認められるのに照し措信できず、その他にそれを認めるに足りる証拠はない。なお、右給与規程の改正が原告両名の退職後になされたものであることは弁論の全趣旨により明らかであり、そうである限り、それがいつから(どこまで遡って)適用されるかや、いかなる時期に在職した職員に適用されるかを定めることを、被告公社において自由に定めうるものとしたからといって、その結果新給与規程を適用されなかったことになる原告両名の在職中に取得した権利をなんら奪うことにはならないから(換言すれば、新給与規程は、それが適用される職員に対し新たな権利を取得させることになるにすぎないから)、右附則2項の規定は、原告両名の同意の存否にかかわらずその効力を有するものと解される。

従って、原告両名の請求の原因3の(三)及び(四)の各請求は、その前提を欠きすべて理由がない。

四  原告樋口は、昭和五二年一一月一日、被告公社を勧奨により退職したとして、それに応じた退職金が支給されるべきである旨主張するが、(証拠略)中、それぞれ右主張にそう部分は、(証拠略)に照し措信できず、その他にそれを認めるに足りる証拠はない。

なお、原告樋口は、依願退職届(<証拠略>)を提出するについて、被告公社が退職金の割増金を支給すること及び同原告の再就職先を斡旋することを条件としていた旨主張するが、(証拠略)中それにそう部分は、(人証略)に照し措信できず、その他にそれを認めるに足りる証拠はない。

従って、原告樋口の請求の原因4の(三)の請求は、その前提を欠き理由がない。

五  請求の原因5の請求は、前記三において検討したとおり、前記新給料表が、原告樋口には適用されないから、その前提を欠くこととなり理由がない。

六  請求の原因6の事実中、被告互助会が原告塔本に対し、脱退給付金として少なくとも二〇万二九五〇円、傷病見舞金として二〇〇〇円及び一万円、中途退職一時金として二〇万八三四四円の各支給義務を負担したこと及び被告互助会が原告塔本に対しそのうち金二七万三二九四円を支払ったことは当事者間に争いがない。被告互助会が原告塔本に対し支給すべき脱退給付金が右二〇万二九五〇円を超えて二二万七二〇〇円であることを認むべき確たる証拠はない。そこで、次に、被告互助会の相殺の主張について検討する。

被告互助会が、昭和五二年七月一三日、原告塔本に対し、被告互助会の退職金規程第七条に基づき、勤続満一年未満の者に該当するとして、退職金一五万円を支払ったことは、(証拠略)を総合して認めることができ、右に反する証拠はない。ところで、(証拠略)によれば、被告互助会の退職金規程第七条により、勤続期間が満一年に満たなかった原告塔本には、右退職金規程第七条により退職金が支給されないこととなっていたところ、被告互助会は、昭和五二年七月六日頃の理事の持回り決議により、原告塔本に対し、右退職金規程第五条二項(勤続年数の一年未満は端数六ケ月未満は切捨て、六ケ月を超えるときは、これを一年とする)を適用して、右退職金を支給したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。原告塔本は、右退職金は、右退職金規程第七条にかかわらず、理事会の格別の決議により支給されたものである旨主張し、(人証略)中に、それにそう部分があるが、そもそも、被告互助会の理事会に右退職金規程以外の退職金の支給を決定できる権限があったかはなはだ疑わしいのみならず、(証拠略)に照らすと、右(人証略)は措信できず、その他にそれを認めるに足る証拠はない。そうすると、原告塔本に対する右退職金の支給はなんら支給すべき根拠がないのにもかかわらず、被告互助会の手続上の過誤から支給されるに至ったものと推認されるから、被告互助会は、原告塔本に対し、その返還を請求できることになる。そこで、被告互助会が、昭和五三年六月二四日到達の内容証明郵便をもって、原告塔本の代理人辻本公一及び同山根宏に対し、右返還請求債権を自働債権とし、右脱退給付金、傷病見舞金及び中途退職一時金の残債務一五万円と対等額にて相殺する旨の意思表示をしたことは、(証拠略)を総合して認めることができ、右に反する証拠はない。そうすると、原告塔本の右脱退給付金等一五万円の債権は、右退職金が原告塔本に支給された昭和五二年七月一三日に遡って消滅したものというべきである。

従って、原告塔本の請求の原因6の請求は結局理由がない。

七  以上検討したところによれば、原告両名の本訴請求は、その余の点を検討するまでもなくすべて理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 草深重明)

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