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大阪地方裁判所 昭和54年(借チ)38号 決定 1980年8月07日

申立人(亡中村文男手続承継人) 中村和子

右代理人弁護士 鈴木康隆

同 佐藤欣哉

相手方 筒井一良

右代理人弁護士 新地信重

主文

申立人が相手方に対し本裁判確定の日から三月以内に金二六万六〇〇〇円を支払うことを条件として、次のとおり定める。

1  申立人が別紙目録二記載の建物を取毀し、同目録三記載の建物を新築することを許可する。

2  申立人と相手方との間の別紙目録一記載の土地にかかる賃貸借契約の賃料を、本裁判確定の月の翌月から、月額金一万円に変更する。

理由

第一申立の要旨

一  亡中村文男は、昭和二二年頃、相手方からその所有にかかる別紙目録一記載の土地を、木造その他堅固でない建物を所有する目的で、期間を定めずに賃借し、右土地上に同目録二記載の建物を所有していた。

二  亡中村文男は、昭和五五年四月三〇日死亡し、申立人が本件土地賃借権を相続した。

三  右建物は、現在老朽化しており、これを補修するには多額の費用を要するので、申立人は、これを取毀し、別紙目録三記載の建物を新築することを計画している。

四  ところで、相手方は、本件土地賃貸借契約には無断増改築禁止の特約が存すると主張しているので、申立人は、相手方に対し、右改築についての承諾を求めたが、相手方は、これに応じない。

五  よって、前記改築について相手方の承諾に代わる許可の裁判を求める。

第二当裁判所の判断

一  本件の全資料及び審尋の全趣旨によれば、亡中村文男が、遅くとも昭和二六年頃迄に、別紙目録一記載の土地上に建築された同目録二記載の建物を、その所有者から買受け、右土地の所有者である相手方との間で、右土地について、借地条件を木造その他非堅固建物の所有目的とする賃貸借契約を締結したこと、及び申立の要旨二ないし四の事実が認められ、右事実その他本件の資料に現れた一切の事情をも併せ考慮すれば、本件改築は、土地の通常の利用上相当なものと認められ、本件申立は理由があるから、これを認容することとする。

二  付随処分

1  付随処分についての鑑定委員会の意見は、申立人に対し、本件土地の更地価格金五三二万七〇〇〇円の約一三パーセントに相当する金七〇万円を承諾料として相手方に給付することと、金二〇万円を敷金として相手方に交付することをそれぞれ命じ、賃料は、月額金一万円に、本件土地賃貸借契約の存続期間は、本裁判の日から二〇年間に各変更するのが相当というのである。

2  先ず、一時金(承諾料)の給付につき検討するに、鑑定委員会の意見は、高きに失し、採用できない。当裁判所は、従前の裁判例等を参酌し、通常の土地利用形態での全面改築の場合に給付を命ずべき一時金の額は、原則として、更地価格の三ないし五パーセントに相当する金額をもって相当とすると考えるものであるところ、本件については、前記認定の事実、とりわけ別紙目録二記載の建物の現況及び本件改築の内容並びにその他本件の資料に現われた諸般の事情を考慮し、本件申立許可の裁判に伴い申立人に対して給付を命ずべき一時金の額を、本件土地の更地価格と認められる金五三二万七〇〇〇円の約五パーセントに相当する金二六万六〇〇〇円と定めるのを相当と認める。

3  次いで、賃料の変更につき検討するに、当裁判所は、前記認定の事実に、本件の資料により認められる従前の賃料額及び本件土地賃貸借契約については、従前は地代家賃統制令の適用があった事実等を総合し、この点に関する鑑定委員会の意見を相当と認める。

4  敷金の交付については、前記認定の事実、とりわけ申立人及びその被相続人である亡中村文男が約三〇年間に亘って相手方から本件土地を賃借してきたものであることに、本件の全資料によっても、申立人の今後の賃料支払能力について特段の疑いを抱かせるに足りる事実は何ら認められないことを併せ考えれば、当裁判所は、申立人に対してこれを命ずべき必要性を認めないから、この点に関する鑑定委員会の意見は、これを採用しない。

5  ところで、前記のとおり、鑑定委員会の意見は、さらに、本件土地賃貸借契約の存続期間を変更(延長)するのが相当であるというのであるが、増改築許可の裁判は、当事者間の合意に基づく増改築禁止特約の拘束の一部を解き、許可された改築内容に関する限り、土地賃借人に対して、右特約が存しない場合と同様の地位を付与するものであるに過ぎないから、付随裁判によって、右特約が存しない場合における土地賃借人と比較してより有利な地位を付与することは許されない。これを言い替えれば、土地賃貸人から借地法七条に基づく更新阻止の機会を奪うことは、この裁判の目的を超え、許されないと解すべきであるから、当裁判所は、右意見を採用せず、本件土地賃貸借の存続期間は、これを変更しないこととする。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 四宮章夫)

<以下省略>

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