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大阪地方裁判所 昭和54年(行ウ)119号 判決 1982年5月04日

大阪市西淀川区御幣島一丁目一二番二二号

原告

田渕電機株式会社

右代表者代表取締役

田渕三郎

右訴訟代理人弁護士

中川一郎

太田全彦

同市同区野里西三丁目三番三号

被告

西淀川税務署長

河村昭三

右訴訟代理人弁護士

兵頭厚子

右指定代理人

高田敏明

西峰邦男

城尾宏

木下昭夫

右指定代理人

杉山幸雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五二年一二月二六日付でした、原告の昭和四九年七月二一日から昭和五〇年七月二〇日までの事業年度(以下、三七期という)分の法人税更正処分のうち、差引き納付すべき法人税額(以下、増差税額という)一〇一〇万九、三〇〇円をこえる部分並びに同期分の過少申告加算税賦課決定処分のうち税額五、四〇〇円をこえる部分を取消す。

2  被告が原告に対し昭和五二年一二月二六日付でした、原告の昭和五〇年七月二一日から昭和五一年七月二〇日までの事業年度(以下、三八期という)分の法人税更正処分のうち、増差税額二六八万六、〇〇〇円をこえる部分並びに同期分の過少申告加算税賦課決定処分のうち税額一三万四、三〇〇円をこえる部分を取消す。

3  被告が原告に対し昭和五四年九月二九日付でした、原告の昭和五一年七月二一日から昭和五二年七月二〇日までの事業年度(以下、三九期という)分の法人税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は電子機械器具及び部品の製造並びに販売等を目的とする株式会社であるが、三七、三八、三九期の確定申告、被告が原告に対してした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の内容は別表(一)のとおりである。

2(一)  右各確定申告における欠損金額(三七期)あるいは所得金額(三八、三九期)と右各更正、過少申告加算税賦課決定処分における欠損金額(三七期)あるいは所得金額(三八、三九期)との各差額のうち、寄付金の損金算入限度超過を理由とする金額は別表二(1)欄のとおりである。

(二)  右寄付金の損金算入限度超過分を算入しない場合における増差税額及び過少申告加算税額は別表(二)(2)、(3)欄のとおりとなる。

3  原告は、三七ないし三九期の確定申告に際し、原告が鳥取電子工業株式会社(以下、鳥取電子という)あるいは熊本電子工業株式会社(以下、熊本電子という)から受領する左記各経営指導料、技術指導料及び受取利息を、各期末日に右各社にそれぞれ返戻し、その返戻にかかる金額を原告の各期の雑収入(経営指導料、技術指導料)及び受取利息から減算した。

三七期

鳥取電子 経営指導料 九、七一七、七二九円

熊本電子 右同 一七、〇一四、六七二円

三八期

鳥取電子 経営指導料 一二、九二六、〇八二円

技術指導料 一一、八九四、七五一円

受取利息 九、八九五、七九三円

三九期

鳥取電子 経営指導料 二三、〇八七、八三五円

技術指導料 二四、九三四、八六一円

受取利息 九、六五二、五六五円

4  被告は、右返戻には合理的な理由がなく、返戻にかかる金額が法人税法三七条五項に定める寄付金に該当するとしてその金額のうち同法三七条二項、同法施行令七三条により計算した寄付金の損金算入限度額を超える金額を前記寄付金の損金算入限度超過額とし、本件各更正処分等をした。

5  しかし、前記返戻にかかる金額は、以下の理由により法人税法三七条五項に定める寄付金にあたらない。

(一) 原告は、昭和四一年以降の高度経済成長に伴い増産体制を実現する必要にせまられたが、大阪市及びその近郊における地価の高騰、労働力の不足のため、他地方に工場を分散建設しなければならず、当時の労組対策(各地に適応した労働条件で雇用するため)、不動産の獲得、労働力の確保、地方税の減免を得るためには分工場の設置よりも子会社設置の方が有利であつたため、昭和四二年二月鳥取電子、昭和四四年八月熊本電子を設立し、そのほか岡山電子、田渕電子(栃木県)、静岡電子が設立された。

これらの会社は法形式的には各独立の法人であるが、経済的、実質的にみれば、いずれも親会社である原告の分工場である。

すなわち、子会社は販売部門及び技術部門を持たず、原告の発注に基づく部品のみを、原告の指導に基づいて生産し、その全製品を原告に納入していた。また、これら子会社の株式の七九パーセントないし九六パーセントを原告が保有し、原告以外の株主もすべて原告及びその子会社の役員または従業員により占められ、原告が子会社に対する完全な支配権を握つており、子会社の銀行借入れについて原告が全面的に保証をしていた。

以上の原告及び子会社の経済的、実質的関係に鑑みれば、同一の経済主体ともいうべき原告と子会社間における金銭の授受が寄付にあたるということはありえない。

(二) 原告と子会社との間で、子会社は受注金額の二・七%を技術指導料、二・五%を経営指導料の名目で原告に支払うことが定められている。しかし、いずれの指導料も、文字どおりの意味内容、例えば、原告の出向社員の給料を原告が負担することの代償といつた意味を有するものではなく、実質的には発注価格の割引きにすぎない。

また、原告と子会社間の発注・受注価格は、原告の見積原価計算基準に基づいて設定され、一般の取引先に対するような価格の折衝もなく、営業年度中は、情勢の変化はあつても、原則として価格の改訂は行わない。これは、事前に原告と子会社との間において、年度内全般の情勢の変化の程度に応じて期末に一括して価格を修正することができることについて諒解されているからである。

三七、三八、三九期において、鳥取電子あるいは熊本電子の受注品の実際原価が著しく見積原価を上回る事態が生じた。これは、原告からの受注の急減によるものである。

そこで原告は鳥取電子及び熊本電子に対し、原価修正の意味において経営指導料及び技術指導料を免除することとした。これは形式はともかく実質は発注原価の値上げにほかならない。

したがつて前記返戻にかかる金額のうち経営指導料及び技術指導料にかかる金額は寄付金にあたらない。

(三)(1) 原告は、子会社から経営指導料、技術指導料、受取利息等収入を月次計算し、雑収入勘定又は受取利息勘定に収益として計上し、同金額を毎月子会社に対する原告の買掛金債務と相殺して決済していたが、三七、三八、三九期においては、各事業年度末日付で、雑収入又は受取利息の額から、当年度中に月次計上していたこれらの収入金合計額を減額し、鳥取電子及び熊本電子に対する原告の買掛金債務を同額だけ増額して収益の額を減額する会計処理をした。

このように月次計算のうえでは一応収益として計上しているが、係争事業年度末に返戻したのであるから、所得の期間計算が事業年度末を基準にすることを考えると、右の会計処理は一度弁済を受けた後新たに贈与等をしたものではなく、法実質的にみる限り債務免除にあたるというべきである。

(2) 偖務免除に関する法人税法の取扱いは、当該債権が債務者の支払不能により回収の見込のないことが確実となつた場合は、貸倒れとして当該事業年度の損失として算入するが(同法二二条三項三号)、右に至らない場合は寄付金として損金に算入しない(同法三七条五項)。

そして、法人税基本通達九-六-一には次のような税務取扱いが定められている。

法人の有する売掛金、貸付金その他の債権(以下、この節において「貸金等」という)について次に掲げる事実が発生した場合には、その貸金等の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。

(一)ないし(三) (省略)

(四) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

(3) 鳥取電子及び熊本電子の昭和四八年七月二一日以降昭和五五年七月二〇日に至る期間の資本金、売上高、有形固定資産、経常利益、繰越損失は別表(三)、(四)のとおりであつて、右会社はいずれも欠損の状態が相当期間継続し、原告に対する当該期の経営指導料、技術指導料、受取利息を弁済する能力がない状態であつた。

原告は経営指導料等の回収の見込みがないことが確実になつたと考え、鳥取電子及び熊本電子に対する右債権を放棄したのであつて、これが貸倒れによる債務免除として右通達の(四)にあたることは明らかである。

したがつて、前記返戻にかかる金額は寄付金にはあたらず損金に算入されるべきものである。

(四)(1) 法人税における寄付金について、法人税基本通達には次のような税務取扱いが定められている。

(イ) 九-四-一

法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受その他の損失の負担をし、又は当該子会社等に対する債権の放棄をした場合においても、その負担又は放棄をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその負担又は放棄をするに至つた等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その負担又は放棄をしたことにより生ずる損失の額は、寄付金の額に該当しないものとする。

(ロ) 九-四-二

法人がその子会社等に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸付けた場合においても、その貸付が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するために緊急に行う資金の貸付で合理的な再建計画に基づくものである等その無償又は低い利率で貸付けたことについて相当な理由があると認められるときは、その貸付は正常な取引条件に従つて行われたものとする。

(2) 右各通達はいずれも本件係争年度後の昭和五五年に発遣されたものであるが、係争年度以降通達発遣までの間に寄付金に関する法人税法の改正や社会情勢の大きな変化がなかつたから、右通達は発遣前である本件係争年度においても、正しい法解釈を示すものとして妥当すると解すべきである。

(3) (1)(イ)の通達は、一般に親子会社間の法律関係を、独立した法人間の関係として把握せず、親会社存続のためには、子会社の経済的救済を必要不可欠の法律関係と観ているものと解すべきであつて、このことは子会社の解散、経営権の譲渡等の場合にのみ限られるものではない。すなわち子会社が解散するまでは、かつてのごとく、親子会社は全く別々の法人であるという立場に立ち、子会社の解散と同時にその立場を変更し、親子会社を一体と観る立場に立つことは認められず子会社の解散によつてではなく、子会社存続中より、親子会社を一体と観るべきであつて、これは親子会社の法律関係全般について妥当しなければならない。

また、(1)(ロ)の通達は、親会社が子会社に対して金銭を新たに無償または通常の利率よりも低い利率で貸付けた場合のみに限られると解すべきではなく、従前の通達の利率による融資にかかる利息を、業績不振の子会社に対し後に免除する場合も含む趣旨と解すべきである。

(4) 別表(三)、(四)記載のとおり鳥取電子及び熊本電子の経営及び資産状況は非常に悪く、仮に原告が経営指導料、技術指導料、受取利息の免除をしなければ、これら子会社はいずれも信用失墜による混乱から倒産に至ることは免れない状況であつた。

そして、原告の資本金は三億五〇〇〇万円であるが、子会社の銀行等金融機関からの借入れについてはすべて原告が保証しているので、子会社が倒産するようなことがあれば、原告の損失は子会社の資本金額を超えるため、原告も重大な経営危機に陥りかねない状況にあつた。

原告はそのような事態を避けるため、前記経営指導料、技術指導料、受取利息を子会社に返戻した。

したがつて、前記返戻にかかる金額は、(1)(イ)の通達の趣旨に合致し、寄付金にあたるものではない。

(5) また、鳥取電子の三八、三九期及びその前後における経営、資産状況が非常に悪く、倒産しかねなかつた状況にあつたことは(4)記載のとおりであり、原告は鳥取電子の倒産を防止する緊急の必要があつたため、前記受取利息を免除したのであつて、原告の右措置が(1)(ロ)の通達にあたることは明らかである。

したがつて、前記返戻にかかる金額のうち少くとも受取利息にかかる金額は寄付金にあたらない。

6  よつて原告は、本件各法人税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、請求の趣旨記載のとおり、前記寄付金の損金算入限度超過額に対応する部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1項、2項(一)、3項及び4項は認める。

2  同5項(一)は争う。但し、原告がその主張する子会社の株式の七九パーセントないし九六パーセントを保有していたことは認める。

3  同5項(二)は争う。但し、(二)(1)の事実のうち子会社が原告に対して経営指導料及び技術指導料を支払うことになつていたことは認める。

4  同5項(三)は争う。但し、(三)(1)の事実のうち原告と子会社間の経営指導料、技術指導料、受取利息についての会計処理の方法、(三)(3)の事実のうち別表(三)及び(四)記載の資本金、売上高、有形固定資産、経常利益の額は認める。

5  同5項(四)は争う。但し、(四)(1)の通達の存在及び(4)の事実のうち、原告が子会社の銀行等金融機関からの借入れについてすべて保証をしていたことは認める。

三  被告の主張

1  会社間の取引について当該各会社が、全体として統一した経営意思により経営されていたり、利害関係を共にしたりあるいは親子会社等の特別な関係がある場合であつても、法に特別の規定がない限り特別な取り扱いは許されない。

原告とその子会社とは別個の独立した法人格を有し、それぞれの目的に従つて独立の法主体として、法律行為、取引あるいは経済活動を行つているものであるから、これらの法人を一括して同一の経済主体とみることはできない。原告が子会社との間に原告主張の如き実質関係があつたとしても原告が別個独立の法主体の形態をとつた以上、その形態に応じた法的効果を受けるのは当然である。原告は、子会社を独立法主体とすることの利益を肯定し、親子会社間の取引法律関係の存在、各会社の収益の分離、法人税の個別申告を是認しながら係争年度の指導料等についてのみ両者間の独立性を否定するのは論理の矛盾である。

2  子会社には技術部門、販売部門がなく製造のみを担当し需要品、需要先等の市場、競争者等に関する調査、その他販売営業に関する事項を担当する部門及び製品の開発、製造管理等を担当する技術部門は、経営、品質等の統一のため親会社たる原告が一手に担当し、子会社へ指導等により授与している。

したがつて、子会社は、本来ならば当然要する製品製造のための技術開発、製造管理等に要する費用及び販売、営業等に要する費用を要しない。子会社が技術部門、経営部門の指導を受けることの対価が技術指導料、経営指導料である。

したがつて、技術指導料、経営指導料が実質的に発注価格の割引きということはないし、それらの返戻が実質的な発注価格の値上げということもありえない。

3  原告は、子会社から三七、三八、三九期中、毎月経営指導料、技術指導料、利息を受領し、収入として計上していたものを、右各事業年度末日に子会社に返戻した。

債務免除(あるいは権利の面からいえば債権放棄)は債権が存続している間に免除をして消滅させるものであり、本件の如く既に支払が完了し、弁済により消滅しているものに対して免除はありえない。本件の如く弁済による消滅後の当該弁済額の返戻は新たな金銭又は経済的利益の贈与又は無償供与そのものである。

4(一)  法人税基本通達九-四-一、同九-四-二はいずれも本件係争年度後の昭和五五年に発遣されたものであり、本件に適用はない。

(二)  法人税基本通達九-四-一は「債務の引受、その他の損失負担、又は債権放棄」をした場合に限られるのであつて、原告がした経営指導料、技術指導料、受取利息の返戻は前述のとおり新たな金銭又は経済的利益の贈与又は無償供与であり、右通達にあたらない。

(三)  以下に述べる事情から明らかなとおり、鳥取電子及び熊本電子は、当該期の経営指導料、技術指導料、受取利息の返戻を受けなくとも、倒産するという状況にはなかつたし、原告も重大な経営危機に陥るという状況にはなかつた。

(1) 原告、鳥取電子及び熊本電子の昭和四八年七月二一日以降昭和五五年七月二〇日までの各事業年度の決算状況の内訳及び推移は別表(五)のとおりである。

(2) 企業の設備投資は生産力の拡充を目的とするものであり、好況下あるいは業績の良好なときに行われるのが一般であつて、不景気が長く続く見通し下にあるとき、あるいは事業が衰微して倒産等の危険があるときに行われることは通常考えられない。

鳥取電子は、別表(五)のとおり本件係争年度である三八期において建物、機械装置、工具器具備品の金額が増加し三九期及び本件係争年の翌四〇期においては建物、機械装置の金額が増加し、三八期から四〇期にかけて設備投資がなされたことが窺える(設備投資がないとすれば当該勘定科目の金額は減価償却により減少する)。

特に三九期においては、建物仮勘定として六九四万円が計上されており、右事業年度に相当程度の設備投資がなされた事実がある。

熊本電子についても、三八期において有形固定資産が増加している。

(3) 株式会社の役員は、株主から委託されて会社の経営をなすものであつて、経営責任を負うものである。したがつて、役員に対する報酬は会社の経営成績に影響され易い。

鳥取電子は原告代表者本人に対し非常勤役員として三七、三八、三九期にほぼ同額の一定した報酬を支払つており、熊本電子は三七期において原告代表者本人に対して非常勤役員報酬として前年度の二倍の額を支払つている。

また従業員給与についても鳥取電子は三七期において三〇パーセントないし四〇パーセントのベースアツプをしてている。従業員給与については経営理念の問題もあるが、倒産の危機にあるからと希望退職を求めて人員削減をしながら他方で三〇~四〇パーセントのベースアツプをすることは通常ありえないことである。

(4) 鳥取電子については最も赤字の多い三七期において一、〇〇〇万円の融資枠を拡大し、三八期において第一勧業銀行との取引開始及び中小企業金融公庫からの借入開始をしており、従来の取引先である鳥取銀行(地方銀行)から一流都市銀行等への切換をしているが、かかる一流都市銀行等への切換が可能であることは、むしろ銀行における信用が高いことを示すものである。

なお一般に金融機関は都市銀行、地方銀行、相互銀行、信用金庫等の順にしたがつて金利が高くなり、中小零細企業、業績の悪い企業ほど下位の金融機関との取引となる。

熊本電子については、三八期において賞与支払のための短期借入をし、順調に賞与の支給がなされており、倒産の危機にあつた翌年の状態といえるものではない。

また子会社に対する金融機関の貸付に伴う措置として金融機関から子会社に対し役員派遣の申入を受けたこともなく、子会社所有の財産の担保提供と原告の債務保証(人的担保)のほかに親会社たる原告からの物的担保の提供、原告代表者本人の個人保証を求められたこともない。右事実は、金融機関が子会社に対して深刻な危機感をもつていなかつたことを示すものである。子会社が真実、原告主張の如き倒産の危機状態にあつたならば、「石橋をたたいて渡る」といわれる金融機関は前記取引枠拡大もあつて、役員の派遣、親会社たる原告からの強力な担保の設定等を要請し、その措置をとつているはずである。

(5) 熊方電子は経営指導料の返戻を受けた三七期の翌期以降利益をあげている(特に三八期においては三六期を上廻つた大幅な利益である)とともに利益配当をしており、鳥取電子についても経営指導料等の返戻を受けた三九期および翌四〇期において利益をあげている。

右に応じて原告は、熊本電子については三八期から鳥取電子については四〇期から所定の指導料等を受領している。原告主張の子会社の欠損あるいは債務超過は一過性のものであり、子会社は企業としての回復能力を十分有していた。

(6) 一方親会社たる原告は三七期において欠損を生じているが、子会社からの指導料収入の減少した三八期以降において大幅な黒字を出している。特に三九期において本社工場社屋建設(設備投資)、増資を決議し、四〇期において二回に分けて増資、四〇~四一期にかけて設備投資を実行している(別表(五)の固定資産科目参照)。なお第一回目の増資は無償交付による増資であるが、無償交付による増資は準備金等現存資金を資本に組み入れるものであつて会社の財産的基礎が堅固であることを示している。

かかる大規模な増資、設備投資は突然決定されるものではなく、過去の実績に基づき相当期間前から準備されるのが通常であり、原告とて例外ではない。しかるに原告主張の如く子会社が債務超過等で倒産の危機に瀕しており、その債務保証のためひいては親会社たる原告自身も倒産の危機に至る事態にあつたとすれば、三九期以前にかかる決定がなされ、翌期以降決定どおり実施されているはずはない。原告の右経緯は、原告が本件係争年度中にも発展拡充していく傾向化にあり、到底倒産の危機に至る状態にあつたとはいえないことを示すものである。

四  被告の主張に対する原告の認否と反論

1  被告の主張4項(三)(1)の事実は認める。

2  同4項(三)(2)のうち設備投資の事実は認めるが、金額的にみて設備投資といえるものではなく、むしろ現状維持という程度のものである。

なお設備投資のうち建物については三七期末頃鳥取電子の分工場(別会社)を閉鎖した際、分工場従業員七〇名中、希望退職者三五名を除く残三五名の従業員を鳥取電子の本社工場に吸収収容するため建物の改造及び増築等をなしたことによるものである。

3  同4項(三)(3)のうち従業員給与のベースアツプの事実は認める。しかし、従業員給与のベースアツプは当時石油シヨツクのため消費者物価が三〇パーセント以上もアツプしているような社会状況の中で行われたものであり、消費者物価の高騰を無視して給与のベースアツプをしないということは不可能であつた。役員賞与はともかく、役員報酬についても消費者物価の異常な上昇率に影響されざるを得ないことは従業員の給与改訂と同一である。

4  同4項(三)(4)のうち鳥取銀行から第一勧業銀行等への切換えの事実、金融機関から役員派遣の申入れを受けたことがないとの事実、子会社所有の財産の担保提供と原告の保証のほかに原告からの物的担保の提供、原告代表者本人の個人保証がされていないことは認める。

鳥取銀行から第一勧業銀行への切換え等は鳥取銀行が鳥取電子の経営につき極端に警戒心を抱き、融資を拒絶する旨通知してきたため、やむを得ず親会社のメインバンクである第一勧業銀行等への切換えを実行せざるを得ない状態となつたことによるものである。勿論、第一勧業銀行との取引開始に当つては親会社たる原告が連帯保証するとともに、原告が保証定期(金二、〇〇〇万円)を実行している。したがつて、鳥取電子の信用により都市銀行等への乗換えが可能となつたものではない。

また、金融機関の貸付に伴う措置としての子会社への役員派遣等は通常貸付規模が金二、〇〇〇~三、〇〇〇万円程度ではあり得ないことである。親会社の物的担保提供及び親会社代表者の個人保証は親会社の規模、信用度によつて左右されるものであり、零細企業においてならともかく、原告程度の規模の会社にあつては親会社の連帯保証で済まされるのがむしろ一般的である。

5  同4項(三)(5)の主張に関し、鳥取電子は経営指導料等の返戻を受けなければ三九期も赤字であつたことが考慮されるべきである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし八、第六ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証の一ないし三、第一四、第一五号証、第一六号証の一ないし三、第一七ないし第二三号証。

2  原告代表者本人。

3  乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一ないし第二二号証。

2  甲第五号証の一ないし八、第六号証、第一九ないし第二三号証の成立は知らない。甲第一三号証の一のうち、審査請求書部分の成立は認めるが、添付書類部分の成立は知らない。その余の甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

一  請求原因1項、2項(一)、3及び4項の事実は当事者間に争いがない。

二  本件各更正処分等が違法であるか否かの争点は、原告が三七ないし三九期の事業年度において、鳥取電子及び熊本電子から取得すべき経営指導料、技術指導料、貸付金利息を各期末日に減算する取扱いをしたことが、法人税法三七条五項にいう寄付金にあたるか否かである。

そこで、以下原告の主張に従つて判断する。

三  原告は、子会社が経済的、実質的観点から原告の分工場であり、原告と同一経済主体であることを理由に、原告と子会社間の経営指導料等の授受について寄付金を問題にし得ない旨主張するが、原告及び子会社が別個独立の法人格を有し、それが各別に法律行為、経済取引をしている以上、その間にその形態に応じた法的効果を生じ、それが課税の対象として捉えられることがあることはいうまでもないから、単に経済的観点から同一の権利主体である者の間に寄付がありえないという原告の右主張は採用できない。

四  原告は、経営指導料及び技術指導料が実質的に発注価格の割引きであり、それらの減算は実質的な発注価格の値上げであるとして寄付金性を否定する。

原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、子会社には、いずれも技術部門、販売部門がなく、それらをすべて親会社である原告に依存しているため、原告が支出している技術開発、販売・営業等に要する費用の一部を子会社に分担させる目的のもとに技術指導料及び経営指導料の制度が設けられたこと、また原告は子会社に対する経営指導料、技術指導料の免除とは別個に、子会社からの製品買入単価の引上げという直截的な措置をもとつていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

したがつて、経営指導料及び技術指導料が実質的には発注価格の割引きであり、その減算が発注価格の値上げであるとはいえないから、原告の右主張は理由がない。

五  原告は、係争事業年度の経営指導料等減算の措置が債務免除であり、貸倒れの損失である旨主張する。

原告が子会社から取得すべき経営指導料、技術指導料及び利息について月次計算し、雑収入勘定又は受取利息勘定に収益として計上し、同金額を毎月子会社に対する原告の買掛金債務と相殺して決済する方法で会計処理をしていたこと、三七ないし三八期においては各事業年度末日付で雑収入又は受取利息の額から当事業年度中に月次計上していた鳥取電子及び熊本電子からの経営指導料等の収入合計額を減算し、両電子に対する買掛金債務を同額だけ増額して収益の額を減額する会計処理をしたことは当事者間に争いがない。

そして、本件においては他に反対の証拠がないから、原告の子会社に対する経営指導料等の債権と買掛金債務は右の月次会計処理と同様毎月相殺によつて処理され、それが原告の三七ないし三九期事業年度の各末日に鳥取電子及び熊本電子に返戻されたものと推認される。

したがつて、相殺によりすでに消滅している経営指導料等について改めて免除ということはありえないし、すでに相殺によつて回収ずみの経営指導料等が貸倒れの対象となることもないから、原告の右主張は理由がない。

六  原告は、鳥取電子及び熊本電子に対する経営指導料等の返戻が法人税基本通達九-四-一の子会社等を整理する場合の損失負担に凖ずる旨主張する。

本件係争年度後の昭和五五年原告主張の内容の通達が新設されたことは当事者間に争いがないがその内容は子会社の解散、経営権の譲渡に伴う損失の負担又は債権の放棄について寄付金性を否定するものであるから、本件のように親子会社が共に存続している場合について直接示達したものではない。

しかし、子会社の解散等に至らない場合であつても、親会社としてやむを得ず子会社に対する債権放棄等を余儀なくされる場合があり得るから、この点について検討する。

1  原告、鳥取電子及び熊本電子の昭和四八年七月二一日以降昭和五五年七月二〇日までの各事業年度における決算状況が別表(五)のとおりであること、子会社の銀行等金融機関からの借入についてすべて原告が保証していることは当事者間に争いがない。

2  本件の係争年度である三七期の事業年度においては原告、鳥取電子及び熊本電子共に損失を計上し、三八期は鳥取電子のみ損失、他は利益を計上、三九期はいずれも利益を計上しているが(但し、鳥取電子については経営指導料等の返戻がなければ二七二四万一〇三九円の損失となる)これは原告代表者本人尋問の結果によると、昭和四八年一〇月のいわゆる石油シヨツク後の経済混乱に伴い受注量が急激に減少したことによるもので、特に鳥取電子が製造していた中型トランスの受注量の減少が著しかつたことと、当時鳥取電子では人員整理をめぐる労働争議が重なつたことによるものであることが認められる。

3  原告代表者本人は、原告が子会社に対し経営指導料等を返戻して子会社の当該期の経常利益を操作する措置をとらなければ、子会社はいずれも信用失墜による混乱から倒産に至つていたことは明らかで、右返戻措置はそのような事態を避けるため不可欠であつた旨供述する。

4  石油シヨツク後の経済混乱が業界全般を通じ異常であつたことは顕著な事実であり、経営者各位が業界で生き残るべく血みどろの努力を重ねられたことは想像するに難くないが、しかし、本件の経営指導料等が前認定のとおり月次計算では相殺処理されていたものを各事業年度末日に一括して返戻されていること、三七期においては鳥取電子及び熊本電子に経営指導料のみを返戻し両社から技術指導料及び貸付金利息についてはこれを取得していること、原告は三七期に九三〇〇万円余りの損失を計上したほか常に利益を計上し、同期を除いて一二ないし一五パーセントの株主配当を行つていること、鳥取電子及び熊本電子も徐々に経常利益回復の方向に向つていること等に鑑みると、原告の鳥取電子及び熊本電子に対する経営指導料等の返戻は、その事業年度の子会社の経常利益の損失を減少させるために安易恰好の手段として事業年度末日になされたもので、子会社の緊急事態を避けるためその都度やむを得ずにとつた処置とは考えられないし、また親会社である原告が経営危機に陥るというようなより大きな損失を被ることになることを回避するためやむを得ずにとつた処置とも認められないから、原告代表者本人の右供述は採用できない。

5  そして、他に経営指導料等の返戻が任意性を欠く程度にやむを得ない措置としてなされたことを認めるに足る証拠はないから、右返戻が子会社等を整理する場合の損失負担に準ずる場合であるとする原告の主張は理由がない。

七  原告は、鳥取電子に対する受取利息の返戻が法人税基本通達九-四-二の無利息貸付等にあたるから寄付金にあたらない旨主張する。

昭和五五年原告主張の無利息貸付に関する通達が新設されたことは当事者間に争いがないが、右通達は業績不振の子会社等に対し親会社等が金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸付けた場合の取扱いを定めたものであつて、貸付け金銭の利息で既に発生した利息債権の免除に関するものではないから(既発生利息債権の免除に関する基本通達九-四-一によるべきものと解され、それにもあたらないことは前判示のとおり)、原告の右主張は理由がない。

八  更に本件にあらわれた一切の事情を考慮しても、本件の経営指導料等の返戻がやむを得ないものとして社会通念上も妥当視すべき事情は認められないから、右返戻は子会社に対する経済的利益の無償の供与に該当するものといわざるを得ない。

九  以上の次第で、原告が鳥取電子及び熊本電子に返戻した経営指導料等が寄付金に該当するとしてななされた被告の本件各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に違法はない。

よつて、その取消しを求める原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 西野佳樹 裁判官井深泰夫は転補のため署名、押印することができない。裁判長裁判官 志水義文)

別表(一)

<省略>

単位は円。△印はマイナス。

別表(二)

<省略>

別表(三) 鳥取電子

<省略>

1.単位は円。 2.△印はマイナスを示す。

別表四 熊本電子

<省略>

1.単位は円。

2.△印はマイナスを示す。

別表(五)

<省略>

〔備考〕1.△印は損失を示す。

2.有形固定資産の金額はいずれも減価償却費控除後のものである。

3.役員報酬等の金額は、報酬と賞与の合計額である。

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