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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)1682号 判決 1980年9月30日

原告

入江美江子

ほか三名

被告

柴田運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告入江美江子に対し金一六万五一六一円、その余の各原告に対し各金五〇万六二四一円宛および原告入江美江子の内金一三万五一六一円、その余の各原告の各内金四四万六二四一円宛に対する昭和五四年七月一七日から各支払済まで、各年五分の割合による金員を、各支払え。

二  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告入江美江子と被告らとの間に生じたものはこれを二〇分し、その一九を同原告の、その余を被告らの、その余の各原告と被告らとの間に生じたものはこれを四分し、その三を同各原告の、その余を被告らの、各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告入江美江子に対し金三二一万五八〇〇円、その余の各原告に対し各金二一五万円宛および原告入江美江子の内金二九六万五八〇〇円、その余の各原告の各内金二〇〇万円宛に対する昭和五四年七月一七日から各支払済まで、各年五分の割合による金員を、各支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの各請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五四年七月一七日午後一時四〇分頃

2  場所 東大阪市川俣一丁目東下六・〇キロポスト、大阪府道高速大阪―東大阪線

3  加害車 普通貨物自動車(大阪四〇え第五、六一四号)

右運転者 被告明石

右同乗者 訴外亡満

右所有者 被告会社

4  被害者 訴外亡満(本件事故当時、満五八歳)

5  態様 被告明石が、加害車を運転して東進中、加害車左前部を、前記高速道路の非常駐車帯東端側壁に衝突させ、さらに走行して、再び加害車前部を、左側々壁に衝突させた。

6  結果 第二頸椎脱臼骨折により即死。

二  責任原因

1  被告会社(運行供用者責任、自賠法三条)

被告会社は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

2  被告明石(一般不法行為責任、民法七〇九条)

被告明石は、加害車を運転して、時速約六〇キロメートルで進行中、助手席に同乗中の訴外亡満に話しかける等して、前方注視を怠つた過失(脇見運転の過失)により、右速度のまま、加害車左前部を、前記道路の非常駐車帯東端側壁に衝突させ、さらにそのはずみで暴走して、再び、加害車前部を、左側々壁に衝突させ、訴外亡満を転落の上、死亡させた。

三  損害

1  葬儀費

原告美江子が、葬儀費、金五〇万円の全額を支出した。

2  逸失利益

(1) 計算

イ 訴外亡満は、本件事故当時、被告会社に勤務し、本件事故の前年(昭和五三年)の一年前における収入(現実収入額)は、金一九五万三七五七円であつた。

ロ しかしながら、訴外亡満は、二、三年先に、長男の原告皇(訴外日栄工作所勤務)と一緒に、原告皇が右記工作所の全面的支援のもとに独立した後に、鉄工所を共同経営する予定であつたところ、原告皇の右記工作所における昭和五四年五月から同五五年四月までの一年間における粗利益は、金七五七万一〇〇〇円であつたから、訴外亡満の収入は、右記イの年収(現実収入額)は勿論の事、賃金センサスに基く収入すらも上回る額になつたであろうことは、疑いない。因に、自賠の査定要綱によると、「現実収入額と年齢別平均給与額(賃金センサス)のいずれか高い額」を基本に逸失利益を算定することになつている。そこで、第一次的に、同五二年度の賃金センサス(産業計、企業規模計、学歴計の年齢階級別平均給与)を一・〇五九倍(同五三年度のベース・アツプ分を見込んだ割合)した金額(月額金二四万四八〇〇円)を基礎にし、生活費の控除割合を三〇%、就労可能年数を九年間とした上、新ホフマン式により中間利息を控除し、次の算式により算出した、金一四九六万五七九九円を、逸失利益として請求する。

算式 二四万四八〇〇×一二×〇・七×七・二七八≒一四九六万五七九九

ハ 仮に右記ロが認められない時には、第二次的に、次の金額を請求する。すなわち、被告会社は、小規模とはいえ、毎年金一万円程度のベース・アツプを実施していたので、毎年のベース・アツプ分を金一万円と固定した上、これをボーナス分を除く給与分に対してのみの増額とみなして、生活費の控除割合を三〇%、就労可能年数を九年間とした上、中間利息を控除し、次の算式により算出した、金一二八四万四五五四円を、逸失利益として請求する。

算式

(ベース・アツプ分)

一年目の逸失額―一万×一二×〇・九五二=一一万四二四〇

二年目の〃―二万×一二×〇・九〇九=二一万八一六〇

三年目の〃―三万×一二×〇・八六九=三一万二八四〇

四年目の〃―四万×一二×〇・八三三=三九万九八四〇

五年目の〃―五万×一二×〇・八〇〇=四八万

六年目の〃―六万×一二×〇・七六九=五五万三六八〇

七年目の〃―七万×一二×〇・七四〇=六二万一六〇〇

八年目の〃―八万円×一二×〇・七一四=六八万五四四〇

九年目の〃―九万×一二×〇・六八九=七四万四一二〇

小計 四一二万九九二〇

四一二万九九二〇×〇・七=二八九万〇九四四

(右記イの年収=金一九五万三七五七円=に基く分)一九五万三七五七×〇・七×七・二七八=九九五万三六一〇

(合計)

九九五万三六一〇+二八九万〇九四四=一二八四万四五五四

(2) 原告らによる権利の承継

原告美江子は、訴外亡満の妻(法定相続分三分の一)として、その余の各原告は、その子(法定相続分、各九分の二宛)として、訴外亡満に帰属した右2(1)記載の損害賠償請求権を、各相続した。

(3) したがつて、各原告の各金額(但し、第一次的請求分のみ)は、次のとおりとなる。

原告美江子の分―金四九八万八六〇〇円

その余の各原告の分―各金三三二万五七三三円宛

3  慰藉料

訴外亡満は、終戦後福岡の炭鉱で働いた後、昭和三七年頃大阪に出て来て、実弟と共に大阪遊技場組合連合会の仕事を約八年間し、次いで被告会社に一年余勤め、その後ゴルフの練習場の仕事を約二年間手伝い、同四九年から再び被告会社に勤務するようになつた者で、子供達の成長を見守ることを唯一の楽しみとし、殊に、長男の原告皇と一緒に鉄工所を経営することを期待していた。そのような、訴外亡満の苦労した人生がやつと実を結ぼうとしていた矢先に、本件事故に遭遇するに至つたもので、訴外亡満の無念さおよびそのような夫ないし父を失つた原告らの心情は、誠に筆舌に尽くし難いものがある。然るに、本訴に先立ち、被告会社の関係者らは、原告らに向つて、「収入の低い満氏であつたにも拘らず、会社側が色々苦労して、自賠責から二〇〇〇万円もらつてやつた」等述べていたものである。そこで、これらの事情を、慰藉料額の算定にあたつて考慮すると、次の金額が相当となる。

原告美江子の分―金四五〇万円

その余の各原告の分―各金三〇〇万円宛

4  弁護士費用

原告美江子の分―金二五万円

その余の各原告の分―各金一五万円宛

5  合計

原告美江子の分―金一〇二三万八六〇〇円

その余の各原告の分―各金六四七万五七三三円宛

四  損害の填補

1  自賠責保険より、原告美江子は、金七〇二万二八〇〇円を、その余の各原告は、各金四三二万五七三三円宛を、各受領した。

2  したがつて、残損害額は、次のとおりとなる。

原告美江子の分―金三二一万五八〇〇円

その余の各原告の分―各金二一五万円宛

五  本訴請求

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(但し、遅延損害金は、本件不法行為の日である昭和五四年七月一七日から支払済まで民法所定年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する認否

請求原因一項の事実全部、二項1の事実、同項2中の「暴走」以外の事実、三項2(1)イ、(2)の各事実(但し、金額の点を除く。)、四項1の事実をいずれも認めるが、その余の各事実はいずれも不知。

第四被告らの主張

一  原告ら主張の損害額に対し

1  訴外亡満の収入が、極く近い将来に高額になつたのであろうという確実な見込みは、存しなかつた。したがつて、訴外亡満の逸失利益は、本件事故直前の収入を基礎にして算定されるべきであり、このことは、実損填補の見地からみても至当というべきである。

なお、実収入の立証が可能である場合には、賃金センサスに基く必要は、存しない。自賠の査定の仕方は、別途の配慮に依るもので、同一に考えることはできない。

因に、訴外亡満の被告会社における年収額は、訴外亡満が、昭和四七年五月に満五一歳で被告会社に入社し、一般事務職についたが、約一年後に自らの都合で退職し、さらに約一年後の同四九年九月に本人の希望により再入社するに至つたこと等(すなわち、訴外亡満の年齢、仕事内容、中途入社等)に照らして考えると、世間的にみて、決して低いものではない。

なお、原告らは、ベース・アツプを云々するが、被告会社が中小企業であること、右記のとおり、訴外亡満が満五〇歳過ぎの中途入社者であること等に照らして考えると、その蓋然性に疑義が存する。

最後に、既に、原告らに対し、労災保険より遺族年金が支給される旨決定済であることを、事情として考慮されたい。

2  慰藉料の総額は、金八〇〇万円ないし金一〇〇〇万円が、相当である。

因に、本訴以前に、被告側が特段に不誠実であつたことはない。尤も、原告らは、示談交渉の過程で、保険会社の職員の発した言葉尻で感情を害したものの様であるが、要するに、その程度のことにすぎない。

二  弁済の抗弁

被告会社は、原告美江子に対し、訴外亡満の葬儀費、金五〇万円を支払つた。

三  過失相殺の主張

1  訴外亡満は、本件事故当時、加害車の助手席に同乗しながら、被告明石と話をしており、自らは勿論の事、被告明石に対しても、前方注視を怠らないよう注意を促す等の措置を講ずる事をしなかつた。また、訴外亡満および被告明石共、高速道路上の走行であつたにも拘らず、座席ベルトを装着していなかつた。よつて、若干の過失相殺を主張する。

2  なお、過失相殺にあたつては、自賠責保険より原告らに対し支払済のため、本訴請求外となつている、治療費の金一八万九九八〇円を、総損害額に算入されたい。

第五被告らの主張に対する原告らの答弁等

一  被告らの主張二(弁済の抗弁)、三2(本訴請求外の治療費が支払済の点)を各認め、三1は争う。

二  本件事故の原因は、被告明石の脇見運転にあり、訴外亡満に話しかけたのも、被告明石の側であつた。高速道路上を相当のスピードで走行していながら、助手席にいた訴外亡満に話しかけ、そのために前方注視を欠くに至つた、被告明石の過失は、極めて重大である。これに反し、話しかけられた訴外亡満にとつて、果して、被告明石に対して、注意を喚起する機会や時間的余裕が存したかどうか、極めて疑しい。

なお、座席ベルトは、本件事故当時、天井側に結んだまま放置されていたもので、運転免許を有しなかつた訴外亡満が、右記ベルトを装着しなかつたとしても、これを過失と目することはできない。むしろ、運転手である被告明石が、訴外亡満に対し、装着を指示しなかつたことこそ、過失というべきである。

第六証拠〔略〕

理由

第一事故の発生および責任原因

請求原因一項、二項1の各事実、同項2中の「暴走」以外の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

因に、成立に争いのない甲第二ないし第四号証、同第六ないし第一〇号証、被告明石敏治本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。すなわち、被告明石は、第一回目と第二回目の衝突(争いのない事実)の間、格別に減速の措置を講ぜず、時速約六〇キロメートルのまま(因に、制限速度は、時速六〇キロメートル)、走行していた。なお、本件事故は、被告明石および訴外亡満が、緊急書類を得意先に持参する途次において、発生したもので、本件事故発生の直前において、被告明石は、訴外亡満に対し、書類等を小分けせずにまとめて運べるようになれば助かるとか、オイルシヨツク等について、話しかけており、訴外亡満は、これに対し、合槌を打つていた(なお、以上の時間は、約二、三分)ものである。なお、被告明石および訴外亡満は、共に、本件事故当時、高速道路上を走行していた(争いのない事実)にも拘らず、座席ベルトを装着しておらず(道交法七五条の一〇、二項参照)、訴外亡満は、そのために、車外に転落するに至つた模様である。因に、被告明石が、訴外亡満(運転免許を有しなかつた。)に対し、座席ベルトを装着する旨指示したことは、なかつた様である。

以上の事実を認めることができ、これに反する程の証拠はない。

そうすると、被告会社には、自賠法三条により、被告明石には、民法七〇九条により、いずれも本件事故に基く各原告の各損害を賠償する責任がある。

第二損害

1  葬儀費

被告会社代表者池田家栄本人尋問の結果および弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証、同第四、第五号証の各一ないし四、同第六号証の一ないし五、原告入江美江子、同入江皇、被告会社代表者池田家栄各本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、請求原因三項1の事実を認めることができないではなく、これに反する程の証拠はない(なお、前記金五〇万円は、相当額である、と考える。)。尤も、被告らの主張二項(弁済の抗弁)の事実は、当事者間に争いがない。そうすると、結局、訴外亡満の葬儀費は、既に、支払済であり、原告美江子の前記葬儀費の請求は、理由がないことに帰する。

2  逸失利益

(1)  計算

請求原因三項2(1)イの事実は、当事者間に争いがない。然るに、原告らは、訴外亡満が、将来(二、三年先に)、本件事故当時の収入額(現実収入額)は勿論の事、賃金センサスによる額をも上回る金額の収入を得られたであろうこと、また、自賠の査定要綱によれば、「現実収入額と賃金センサスのいずれか高い額」を基本に逸失利益を算定することになつていること、等を根拠に、第一次的に、賃金センサスに基いて、逸失利益を請求している。

しかしながら、賃金センサスに基いて逸失利益を算定するのは、原則として、事故当時の実収入額の立証が不可能な場合に限られ、本件の如く、事故当時の実収入額(現実収入額)につき当事者間に争いのない場合までをも含むものではなく、また、死亡者の逸失利益の算定に、二、三年先の「単なる見込収入額」まで、反映させるべきではない(いずれも、大阪地裁基準)、と解するのが相当である、と考える。なお、原告らの右記要綱を根拠とする主張は、右記要綱の実施要領(公知)が、被害者に重大な過失が存した場合にのみ過失相殺による減額を行うこと等の点において、種々、裁判所と取扱いを異にしている事実、に照らすと、これを採用するに由なきものである、と考える。そうすると、原告らの前記第一次的請求は、その主張自体(すなわち、証拠について吟味するまでもなく)、理由がない(尤も、前記将来の事情は、後記慰藉料額の算定において、別途考慮することにしたい。)ことに帰する。

次いで、原告らは、第二次的に、ベース・アツプ分も含めて、逸失利益を請求しているので、この点について、以下に検討する。成立に争いのない甲第一号証、同第六号証(但し、後記採用しない部分を除く。)、被告会社代表者池田家栄本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一号証、被告会社代表者池田家栄本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。すなわち、被告会社は、運送を営業目的とし、八尾市に本社、名古屋市と兵庫県に各一ケ所、大阪市に二ケ所、の各出張所、従業員合計一三七名、運送用車両四二台、連絡用車両八台を、各有し、日本油脂、ニツサン石鹸、東亜合成等の運輸部門を担当する会社であつたところ、訴外亡満(大正九年九月七日生=甲第一号証=)は、昭和四七年五月一〇日(この時、訴外亡満は、満五一歳)から同四八年六月二日までおよび同四九年九月二日から同五四年七月一七日(本件事故日)までの合計二回にわたつて、被告会社に勤務し、本件事故当時は、日報、タイムカードの各整理、荷物の受取および整理、高速料金の精算、ガソリン代の帳簿記入等の各仕事をしていた。ところで、訴外亡満の給与は、毎年一月に金二五〇〇円、七月に金七五〇〇円、各ベース・アツプされていたが、右記ベース・アツプが、果して、物価変動に応じて名目賃金を修正する純粋の意味でのベース・アツプに留まるものであつたか、あるいは、地位、能力、職務内容、経験年数等に対応する狭義の昇給の意味をも併せ持つものであつたか、また、被告会社に明確な昇給規定が完備し、賃金体系が整つていたものか否か、等については、いずれも定かとはいい難い。

以上の事実を認めることができ、これに反する甲第六号証の一部、同第八号証は、前掲証拠と対比し、採用せず、他に右認定に反する程の証拠はない。

そこで考えてみるに、右記事実によれば、被告会社は、中小企業の中では、相当程度の規模を有する会社であつたと一応はいい得るものの、昇給規定や賃金体系の存否ないし整備の有無、満五〇歳を過ぎて中途入社=しかも、二回目=した訴外亡満に対する右記ベース・アツプの性格(すなわち、果して、狭義の昇給に該当するものであつたか否か)等の点は、必ずしも明らかではなく、したがつて、原告らは、訴外亡満の右記ベース・アツプが狭義の昇給であり(因に、純粋の意味のベース・アツプについては、特段の事情が存しない限り、逸失利益の算定にあたつて、これを考慮するに由なきものである、と考える。)かつ右記昇給に相当の蓋然性が存した事実について、いまだ、立証責任を尽くしていないもの、といわざるを得ない、と考える(尤も、右記事実は、後記慰藉料額の算定において、別途考慮することにしたい。)。

以上の次第で、結局、原告らのベース・アツプ分に関する請求も、理由がないことに帰する。

そこで、請求原因三項2(1)イの事実(争いのない事実)を基礎に、生活費の控除割合を三〇%、就労可能年数を満五八歳から満六七歳までの九年間、新ホフマン係数を七・二七八二(小数点第五位以下切捨)と各した上、訴外亡満の逸失利益を計算すると、次の算式のとおり、金九九五万三八八三円となる。

算式 一九五万三七五七×〇・七×七・二七八二≒九九五万三八八三(小数点以下切捨)

(2)  原告らの相続した分

請求原因三項2(2)の事実は、金額の点を除いて、当事者間に争いがない。したがつて、原告らは、訴外亡満の右逸失利益に関する損害賠償請求権を各法定相続分に従い、各相続したことになり、その各金額は、次のとおりとなる。

原告美江子の分―金三三一万七九六一円

その余の各原告の分―各金二二一万一九七四円宛

3  慰藉料

前出乙第一号証、成立に争いのない甲第七号証(但し、後記採用しない部分を除く。)、乙第八号証、原告入江皇本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一二、第一三号証、証人若山勇の証言(但し、後記措信しない部分を除く。)、原告入江皇本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。すなわち、原告皇は、訴外日栄工作所(スチール家具の製造所)に勤務し、昭和五四年五月からは、第二工場を任され、手伝の老人と共に、同工場で働いていたが、およそ三年後には、独立して、父の訴外亡満と一緒に共同経営をする予定であり、その際には、相当の利益が期待できた。ところで、訴外亡満は、同三七年から同四四年までは、遊技場連合組合の仕事をし、その後に、前記のとおり、二回にわたつて、被告会社に勤務するに至つたものである(但し、右二回の中間時には、ゴルフ場の仕事をしていた。)。なお、被告会社の者が、原告皇らに対し、「自賠より二〇〇〇万もおりたし、給料も少いのにもらい過ぎや」等と放言したことがあつた。因に、原告美江子に対しては、既に、労災上の遺族補償年金の支給決定がなされている。

以上の事実を認めることができ、これに反する甲第七号証、証人若山勇の証言の各一部は、前掲証拠と対比し、いずれも、採用ないし措信せず、他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実に、前記2(1)で認定したベース・アツプに関する事実、前記認定の本件事故の態様、訴外亡満と原告らとの身分関係、相続人の数(四名)、訴外亡満の年齢、その他諸般の事情を付加して、総合考慮すると、次の各金額が相当である、と考える。

原告美江子の分―金三八四万円

その余の各原告の分―各金二五六万円宛

合計―金一一五二万円(すなわち、約金一一五〇万円)

4  総損害額

原告美江子の分―金七一五万七九六一円(因に、前記葬儀費は、前記のとおり、既に、支払済なので、算入しなかつた。)

その余の各原告の分―各金四七七万一九七四円宛

第三過失相殺の主張について

前記第一で認定した事実によれば、本件事故の発生原因は、被告明石が、訴外亡満と会話中、脇見運転をした過失に基くもの(争いのない事実)であるが、右会話は、被告明石の側よりなされ、訴外亡満は、これに対し、合槌を打つていたにすぎず、また、訴外亡満のみならず、被告明石も、座席ベルトを装着せず、しかも、被告明石は、運転免許を有しなかつた(したがつて、道交法の知識に比較的乏しかつたものと推測される)訴外亡満に対し、その装着を指示した様子もなかつた、というのであるから、これらの諸点(特に、訴外亡満の右記挙動と被告明石の右記過失との対比)に、前記道交法七五条の一〇、二項の趣旨をも付加して、総合考慮すると、訴外亡満には、過失相殺に値する程の不注意は存しなかつたもの、と判断するのが相当である、と考える。

したがつて、被告らの主張三2については、これに触れるまでもないことに帰する。

第四損害の填補

請求原因四項1の事実は、原告らの自認するところであるから、各原告の各損害額から、右各填補分(原告美江子の分―金七〇二万二八〇〇円、その余の各原告の分―各金四三二万五七三三円宛)を差し引くと、各残損害額は、次のとおりとなる。

原告美江子の分―金一三万五一六一円

その余の各原告の分―各金四四万六二四一円宛

第五弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、次の金額が相当である。

原告美江子の分―金三万円

その余の各原告の分―各金六万円宛

第六結語

よつて、原告らの本訴各請求は、いずれも主文の限度で理由がある(なお、遅延損害金は、各弁護士費用を除外した各内金に対し、本件不法行為の日である昭和五四年七月一七日から各支払済まで民法所定各年五分の割合による。)から正当として認容し、原告らのその余の各請求はいずれも理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳澤昇)

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