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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)5047号 判決

一 請求原因1(本件特許権の存在及び消滅)、同2(一)(二)(本件特許権の目的及び特許請求の範囲)の各事実は当事者間に争いがない。

そして、右争いのない特許請求の範囲及び成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、本件発明の構成要件は次のとおり分説するのが相当である(ただし、一般式の説明は省略)。

(1) 融点が六〇℃以下で、分子量が六〇〇~五〇〇〇である水酸基末端ポリエステルを、一般式R(NCX)2で表わされる化合物の過剰モルと反応させて、末端に-NCX基を有する中間重合体を生成させること。

(2) 次いで該中間重合体を少なくとも等モルの一般式R´(NH2)2で表わされる有機ジアミン又は水と反応させ、実質的に、一般式

<省略>

で表わされる反復単位からなる実質的に線状のセグメント重合体を得ること。

(3) を特徴とする弾性セグメント重合体の製造法。

二 右特許請求の範囲の一般式において、RにP・P´メチレンジフエニル基、Xに酸素、R´にプロピレン基、P及びnに1、R(NCX)2を二モル、有機ジアミンを等モル選択すると、本件発明の実施態様(以下「本件実施態様」という)の構成要件は次のとおりになる(なお、被告は一般式R´(NH2)2で表わされる有機ジアミンにプロピレンジアミンが含まれないと主張して争つているがこの点はひとまずおく)。

(1) 融点が六〇度C以下で分子量が六〇〇~五〇〇〇である水酸基末端ポリエステル一モルと、P・P´メチレンジフエニル・ジイソシアネート(MDI)二モルとを反応させて、末端に―NCO基を有する中間重合体を生成させる。

(2) 次いで、該中間重合体を等モルのプロプレンジアミンと反応させ、

<省略>

で表わされる反復単位からなる実質的に線状のセグメント重合体を得ること。

(3) を特徴とする弾性セグメント重合体の製造法。

三1 被告が昭和五四年一一月ころより業としてエスパT七六〇を製造し、エスパルEP九〇〇〇なる弾性被覆糸の芯糸として使用している点は当事者間に争いがない。

2 原告はエスパT七六〇はイ号方法によつて製造された請求原因4項掲記の式で代表的に表わされる反復単位の線状セグメント重合体(イ号重合体)であると主張するに対し、被告は被告方法によつて製造されたセグメント重合体(被告重合体)であると主張する。しかして、右両者は、

(一) 製造方法から見るときは、第一工程の原料として、被告方法がイ号方法にはない水を加える点、第二工程におけるプロピレンジアミンの対中間重合体モル数の相違及び被告方法には、被告が第三工程と名づけるモノアミンの使用がみられることにおいて、(二)目的物質から見るときは、被告重合体にはイ号重合体にはない第一工程における水の使用に由来するウレイレン(尿素基)が存在し、第三工程の有無によつて末端構造に差異がある点で、それぞれ相違していることは当事者間にひとまず争いがない。

ところで原告は自らイ号方法を掲げて、エスパT七六〇の製造がこれにより行なわれている事実を主張しながら、その生成物がイ号重合体であるとして特許法一〇四条の適用を求めているが、前記のとおり、エスパT七六〇がイ号重合体であるか被告重合体であるかは、その製造がイ号方法であるか被告方法であるかに由来し、両者は裏腹の関係にあるものでもあるから、左に右二つの事実を併せた原告主張のエスパT七六〇がイ号方法によつて製造されたイ号重合体である事実を認め得るかどうかを判断するに、以下の事情及び弁論の全趣旨を総合すると、右原告主張事実は立証不十分であり、かえつてエスパT七六〇は被告方法によつて製造された被告重合体と認めるのが相当である。すなわち、

(一)(1) 被告は、昭和五四年一一月七日付の特許出願(弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第四号証)で、「1 融点が四〇℃以下で、末端水酸基を有する分子量一五〇〇~七〇〇〇のポリエステルを、対称性の芳香族ジイソシアネートと―NCO基/―OH基=二~四のモル比で反応させて中間重合体を製造するに際し、次式

〔(芳香族ジイソシアネートのモル)-(ポリエステルのモル)〕×a

ここでaは〇・〇五~〇・三〇

で示されるモル量の水を添加して中間重合体を製造し、次いで得られた中間重合体と、該中間重合体中の残存イソシアネート基当量に対して〇・七〇~〇・九六当量に相当する量のジアミンを反応させて一般式

<省略>

および

<省略>

ここで、Rは対称性の芳香族基R´は末端水酸基を有する分子量一五〇〇~七〇〇〇で融点が四〇℃以下のポリエステルから水酸基を除いたポリエステル残基、R´´は二価の有機基を示す。

で表わされるセグメントを含む実質的に線状の重合体を得ることを特徴とするポリウレタン弾性体の製造法。」を特許請求の範囲とする発明を出願し、右発明はその後被告主張のとおり公告登録されている(成立に争いのない乙第二八ないし第三〇号証)が、被告方法の第一、二工程は右特許請求の範囲に含まれている。

ところで右被告発明はその原始明細書(乙第四号証)によると、本件発明等従前の方法によつて得られる弾性繊維にはなお伸長回復性及び溶液安定性に問題があつたので、これらを解消しようとするものであり(三頁一三行ないし五頁一九行目)、「水とジアミンを特定割合で使用すること」(八頁一七、一八行目)にこれを求めたところ、「優れた伸長回復率を有する弾性体を得ることができ」、また「本発明の方法によつて得られた弾性体の溶液はゲル化したり、チクソトロピー性を示すこともなく、また安定性も良好で粘度低下の問題もない等工業化における多くの利点を有する」(八頁一八行ないし九頁三行目)ことが判つたとし、具体的には水に関しては、「その添加量が本発明の範囲から逸脱するときは…………伸長回復率が低下する欠点を生じ」、これをその範囲内とすることによつて右は著しく向上し、更に「本発明の方法によつて得られた重合体の溶液はチクソトロピー性を示さず良好な流動性をもち、ゲル状になることもない」(一二頁三ないし一九行目)と、ジアミンに関しては、その加えられる量は「中間重合体に残存しているイソシアネート基当量に対して〇・七〇~〇・九六当量に相当する量であるべき」であり(一五頁一一ないし一四行目)、これを越えて加えても「重合体の粘度が上昇しないばかりでなく、過剰のジアミンによつて重合体の粘度がしばしば低下する欠点を有し」(一六頁一ないし四行目)、「このようにして得られた重合体溶液は安定であり、流動性も優れたものである」(同九、一〇行目)というものであり、結局被告方法第一工程における水添加と第二工程におけるジアミンの対中間重合体比モル数の本件発明との差がその発明の特徴として強調されている。そうして、右原始明細書には、実施例(なおそれには水添加の際の条件、たとえば実施例一では五〇度に加熱し六〇分間反応させる((一九頁一四、一五行目))の記載もある)及び右実施例の方法により製造された繊維の性能試験結果が記載されている。

また、被告は昭和三七年一〇月一五日「末端にイソシアネート基を有する線状重合体と当量ないしやや不足量の第一級または第二級の脂肪族ジアミンあるいはヒドラジンとを不活性溶済中約四〇℃以下の低温において反応させ、得られる線状エラストマー溶液に第一級または第二級の脂肪族モノアミンおよび有機酸あるいはこれらのアミン塩を添加することを特徴とする線状エラストマー溶液の製造方法。」を特許請求の範囲とする発明を出願し、右発明は公告されており(成立に争いのない乙第五号証、特公昭四一―三四七二号公報)、被告方法の第三工程は右特許請求の範囲後段に照らすと容易に実施できること。

(2) 一方前記1の当事者間に争いのない事実に証人山内吉信の証言及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は従来ポリエーテル系の弾性重合体を製造しこれをエスパT六六四とし、昭和五四年一〇月ころ被告から納入される芯糸に始めてT七六〇の番号が現われ、これを芯糸とした被覆糸をEP九〇〇〇と命名しだしたことが認められる。

(3) そして被告方法(水添加)によると目的物質(被告重合体)は、その中間重合体中に両端が芳香族環である尿素基に由来するカルボニル炭素が生成され、水添加のない本件発明では右カルボニル炭素が見られないところ(成立に争いのない乙第二号証)、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六号証及び弁論の全趣旨によれば、核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定解析から、原告が昭和五六年二月に入手した被告製品(ロツト番号「五一二一五二〇〇六四」)には両端が芳香族である尿素基に由来するカルボニル炭素の生成が認められる。

(4) 前記(1)(2)によれば、被告の乙第四号証発明が本件先願の存在にも拘らず特許登録に至つたのは、前記第一工程における水添加等に本件発明と異なる特許性ある特徴を有するものと認められることに因ると考え得るところ、被告において、その出願とほとんど時を同じくして業としての製造をも開始した本件エスパT七六〇は、前記原始明細書に表われた実験の結果もふまえ、その出願発明の実施としてなした結果の製品であろうことは、これを極く素直に受け容れてよい情況事実と思われるのであり、これと右(3)の事実に成立に争いのない乙第六及び同第一七ないし一九号証(一八号証は一、二)を照合すると、エスパT七六〇は原告主張の侵害行為期間を通じ、その第一工程で水添加されていたものであり、及びそのことから、その余の工程も被告主張の被告方法により製造された被告重合体とみることに無理はない。

(5) もつとも原告は被告方法はそれ自体実施不能の方法であるといい、成立に争いのない甲第三号証では、原告が被告方法を特公昭五二―三八五八八号公報記載の実施例二の条件で追試した結果(すなわち、第一工程で一一〇度で九〇分間不活性ガス雰囲気下で反応させた)、第二工程の段階でゲル化したことが記載されている。しかし右甲第三号証がその実験条件に採用した特公昭五二―三八五八八号実施例二に示される技術は、水酸基末端ポリエステルを水を添加せずにP・P´―メチレンジフエニルジイソシアネートと反応させて、中間重合体を得るというものであり、かつ前記乙第四号証明細書開示の実施例の実験条件とは異なるのであり、かえつて前掲乙第六号証によれば、被告方法の第一工程を五〇度、七〇分間の条件(前記明細書開示例にほぼ同じ)で反応させた結果重合体溶液を得ることができるというのであるから、右甲第三号証記載の追試結果は被告方法が可能であることを否定するものとはいえない。

また原告は、前掲乙第一七号証(プログラムリスト)、第一八号証の一(コーデイングシート)、同号証の二(割付表)、第一九号証(条件変更表)は、抹消部分が多く信用できないというけれども、たしかにそれのみで被告方法の第一工程を立証するには十分ではないにしても、被告方法の第一工程で水が添加されることを示す情況証拠となりうることは否定できない。

(二) ところで原告は、甲第六、第一三、第一五号証を援用して、昭和五五年一月ころ以前出荷のエスパルEP九〇〇〇の芯糸には、第一工程で水の使用された形跡はない旨、及び乙第一八号証の一の右下「55・5・28」の日付に徴すれば、仮に被告方法が行なわれたとしても、それは右日付の日からであると主張している。しかし右原告主張はいずれも認められない。すなわち、

(1) 前掲甲第六号証、いずれも成立に争いのない甲第一三、第一五、第一六号証、同第一七号証の一、二、検甲第一号証の一の内容物チーズに争いのない検甲第一号証の三、検甲第二号証の一の内容物チーズに争いのない検甲第二号証の四、証人山内吉信の証言及び検証の結果によれば、ロツト番号「五〇一二八〇一五七五」、「五一二一五二〇〇六四」「四一二〇七一〇九一五」「四一〇一三一〇三」の被告製品(右ロツト番号はマエダ繊維工業株式会社で付し、最初の数字が昭和の年、次の四つが月日を表わし、五〇一二八〇一五七五であれば昭和五五年一月二八日のもの)につき、C―13NMRスペクトルの測定では、「五一二一五二〇〇六四」には両端が芳香族環である尿素基に由来するカルボニル炭素を示すピークが観測されているが、後の三つには右カルボニル炭素を示すピークは観測されていないことが認められる。

しかしながら成立に争いのない乙第二五号証には、前三つのロツト番号の製品にも両端が芳香族環である尿素基に由来するカルボニル炭素のピークがみられ、原告製品には右ピークがみられないとの測定結果が記載されている。もつとも被告はこの点につき、当初は新製品(被告重合体)との比較テストのため被告方法のうち水を使用しない方法によるものを試作し、これをマエダ繊維工業株式会社に渡したことがあるので、同社が誤つて製品を出荷したものであろうと主張し、同社部長の山内吉信作成のロツト番号「五〇一二八〇一五七五」につき同趣旨の内容の陳述書(乙第一四号証)及び同人の証言を援用しておきながら、その後に右乙第二五号証を提出するなどまことに首尾一貫しないものはあるものの、同号証のチヤート上、三つの被告製品にはC―13NMRで前記ピークがみられ、原告製品には認められないのであつて、チヤートの読み方や測定条件に関する原告の主張(四―(四)参照)を考慮に入れても、同号証の測定結果をいちがいに否定しさることはできず、これと前記(一)認定の情況事実とに照らすと、前記甲第六、第一三、第一五号証の実験結果には疑問が生じ、その信ぴよう性につき更に立証のない本件においては、右甲号各証から直ちに被告方法の第一工程は水を使用しない工程であると認めることはもとより、昭和五五年初めころまでは水を加えていなかつたと認めることもむつかしく、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 乙第一八号証の一の指摘の日付はシートの印刷の日を表わすものと認められるから、これを以て直ちに被告方法開始の日と認めることはできない。

3 以上の次第であるから、原告主張の被告侵害行為期間中におけるエスパT七六〇は、被告方法によつて製造されたものと認められる(したがつてもはや原告が主張している特許法一〇四条は適用の余地がない)ところ、被告方法の構成要件は被告主張(三3(一)(二))のとおり分説するのが相当である。

四 原告は、本件発明出願当時の技術水準下において製造される水酸基末端ポリエステルには、被告方法で使用する程度の水分量を含有していることは当然予想されるところである旨主張するので以下検討するに本件記録中には水酸基末端ポリエステルの水分量につき次のとおりの資料が認められる。

1 鑑定人三川礼作成の鑑定書には、本件公報実施例一を追試して水酸基末端ポリエステルを合成し水分量を測定したところ三二・九ppmであり、右重合体106グラム当りのOH基は七〇五・五、七一八で実施例一の数値(OH基八六〇)を下まわつており、これは反応が若干過度になつたためと考えられ、実施例一どおりの重合体がえられれば水分率は三二・九ppmを上まわる旨記載されている。

2 成立に争いのない甲第七号証(英国特許第七八三六一五号明細書)中には「小量の水の存在は許される。反応混合部に対する重合比にして約〇・一%の水分率では反応は問題なく進んだ。」旨の記載がある。

3 弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第八号証では、前記鑑定と同様本件公報実施例一を追試し、その結果はOH基八二三で水分率は一九二ppmであり、水分率は約二〇〇ppmなると結論づけている。

4 前記乙第四号証には、「なお、実施例中で用いた溶媒、ポリエステルはいずれも乾燥により水分含有量を三〇ppm以下とした。」(一八頁一二ないし一四行目)旨の記載がある。

5 成立に争いのない乙第一二号証でも本件公報実施例一を追試し、OH基五六三で一一・三ppmの水分率の重合体を得たことが記載されている。

6 成立に争いのない乙第一六号証(特公昭三四―二九九四号公報)には線状重合体の発明につき、「得られた淡黄色の強粘性の油は硫黄二〇・四%、水〇・四%を含有し、水酸基一一六を示し、これは平均分子量九六五を持つていることを示す」(一〇頁左欄三三ないし三五行目)と記載されている。

そこで、水分の量について検討するに、甲第七号証で使われるポリエステルは網状化構造の重合体を製造するためのものであり(成立に争いのない乙第一五号証、一二頁一二行目)、右水分率をそのまま目的物が実質的に線状の構造を有している本件発明で使われるポリエステルの水分率にあてはめるのは妥当でない。また、原告は三川礼作成の鑑定書中に三二・九ppmをこえる旨の記載から本件公報実施例一どおりのOH基八六〇を有する重合体の水分率は約四〇〇ppmになるものと計算している(成立に争いのない甲第一八号証)が、右数値は単に計算上のものであり根拠に乏しい。そしてその他の資料について水分の数値はまちまちでありいずれかに決めることは困難であるが、三川礼作成の鑑定書での追試の結果の水分率は三二・九ppmであり、その説明の「本鑑定実験の反応は実施例一に比べ若干過度になつていると考えられ」「実験終了時期を若干早めて実施例一通りの重合物が得られる実験では」との記載に徴し、実施例どおりの重合体の水分率が右数値をこえるとしてもさほど大きくはないものと推測され、また、他の資料の数値も後記数値より小さいことを考えると、水分率はどれだけ多くとも原告が甲第八号証を根拠として主張する二〇〇ppmはこえないものと認めるのが相当である。

そうすると被告方法のポリエステルの分子量は三〇〇〇ないし五〇〇〇であり、水分量を二〇〇ppmとすると六〇〇mgないし一〇〇〇mgとなり、被告方法で使用する水の量〇・一ないし〇・五モル(一八〇〇mgないし九〇〇〇mg)と比較するとかなり少なく、被告方法で使用する水分の量をもつて本件発明の水酸基末端ポリエステル中に含まれる水分量と同視することはできない。

五 そこで、原告は本件実施態様を前提として、被告の製造する方法が本件発明の技術的範囲に属すると主張するので以下判断する。

本件実施態様を前提とする本件発明と被告方法を対比すると次のとおりである。

1 原料化合物

被告方法は、本件発明の原料化合物のほか、水、モノアミンを使用する点で本件発明と相違する。

2 製造工程

(一) 第一工程

被告方法は水を使用している点で本件発明と相違している。

(二) 第二工程

被告方法では第一工程で生成された重合体に対し、〇・八五ないし〇・九一モルのプロピレンジアミンを反応させるのに対し、本件発明では等モルのプロピレンジアミンを反応させる点で両者は相違する。

(三) 第三工程

被告方法は第二工程の後モノアミンを反応させるが、本件発明では第三工程はない。

3 目的物質

被告方法の目的物質は添加水による両端が芳香族環である尿素基を含むMDI二分子を有するのに対し、本件発明の目的物質はこれを有しない点で相違する。

六 更に原告は右相違があつても被告方法は本件発明と均等方法であると主張するので、まず第一工程の均等につき検討する。

均等を認めるためには、少くとも本件公報中に被告方法の第一工程、すなわち原料化合物として水を使用することが明示又は黙示的に開示されていることが必要であるところ、

1 本件発明の特許請求の範囲には第一工程で水酸基末端ポリエステルと一般式R(NCX)2で表わされる化合物とを反応させることの記載があるのみで、第三物質を用いる旨の記載は全く存しないし、

2 本件公報の発明の詳細なる説明中にも、第三原料を用いる旨の記載は見当らないばかりか、「一般式R(NCX)2の化合物とポリエステルとの反応は普通の方法で行う。すなわちスチーム浴温度で無水の反応剤を混合(さ)せる」(五頁右欄一四ないし一六行目)と記載し、また、実施例一においてポリエチレンアジペートの製造方法として「エチレングリコール〇・九六モルとアジピン酸〇・八モルとの混合物を、大気圧下一八五℃において窒素雰囲気中で二四時間加熱し、次いで同じ温度で〇・一mm水銀柱の圧力下で二四時間加熱する。」(六頁右欄一七ないし二〇行目)と記載し、不純物として水が含まれていてもこれを排除する措置をとつている。

3 当時の技術水準としても、本件発明出願後の前記乙第五号証(昭和三七年一〇月一五日出願)でも線状エラストマー溶液の製造方法の発明において、「しかるにこの溶液は、その中に残存するイソシアネート基が溶剤中に微量に存在した水等の不純物あるいは熱等の作用を受けて」(一頁左欄下から一三ないし一一行目)と記載し、水は不純物とされており、原告自身キヤツピング工程の段階で水を存在させるのは避けるべきだとされている旨主張していた(原告第二準備書面四頁四、五行目)。

4 そして、本件発明の第一工程に水を使用したのみでは弾性体溶液を作ることはできず(甲第三号証参照)、使用する水の量、反応温度及び反応時間の選択が必要であること。

以上の事情を総合すると、本件公報には第一工程で第三物質として水を使用することは何ら開示されていないものといわざるをえない。

しかも、水を使用することにより被告方法の目的物質には添加水による両端が芳香族環である尿素基を含むMDI二分子が生成されるところ、被告方法による重合体溶液は、本件発明によるそれにくらべて溶液のチキソトロピー(重合体溶液の粘度を回転粘度計で測定する際、回転粘度計の回転数を順次増加していき、次いで元の回転数に減少させていつた時、最後の粘度が最初の粘度より見かけ上低い値を示す現象)が小さく、また弾性糸も被告方法による弾性糸の方が本件発明によるものより残留伸び率の値が小さく、弾性回復率が大きく(成立に争いのない乙第一一号証)物質的特性も異なる。

したがつて、被告方法の第一工程をもつて本件発明の第一工程と均等であるとすることはできない。

してみるとその余の点につき判断するまでもなく、被告方法は本件発明の技術的範囲に属さない。

七 よつて本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註〕 本件における特許は左のとおりである。

発明の名称 弾性重合体の製造方法

出願    昭和三四年一月九日(特願昭三四―一七六)

優先権   一九五八年一月九日アメリカ合衆国出願に基づく優先権主張

公告    昭和四二年八月二日(特公昭四二―一三六二九)

登録    第三二〇二〇五号

本件発明の目的、特許請求の範囲及び構成要件は次のとおりである。

(一) 目的

本件発明の目的は、加水分解安定性が良く低温弾性度が良くまた粘着温度の高い弾性繊維を作るのに適している実質的に線状のセグメント重合体を製造する方法を提供することにある。

(二) 特許請求の範囲

「融点が六〇℃以下で、分子量が六〇〇~五〇〇〇である水酸基末端ポリエステルを、一般式R(NCX)2で表わされる化合物

ここでRは縮合環を有しない二価の対称性芳香族基であり、Xは酸素原子または硫黄原子であつて、同じでも異なつてもよい。

の過剰モルと反応させて、末端に-NCX基を有する中間重合体を生成させ、

次いで該中間重合体を少なくとも等モルの一般式R´(NH2)2で表わされる有機ジアミン

(ここでR´は二価の有機基である)

または水と反応させ、

実質的に、一般式

<省略>

で表わされる反復単位、

ここでX、RおよびR´は上で定義されたものであり、Gは六〇℃以下の融点を有し、かつ分子量が六〇〇~五〇〇〇である水酸基末端ポリエステルから、該末端水酸基を除いた残基からなるポリエステルセグメントであり、

nは0(零)よりも大きい整数であり、

Pは0または1であり、

RおよびR´は、下記重合体

<省略>

が、またPが0の場合には、下記重合体

<省略>

が繊維を形成し得るような分子量範囲において二〇〇℃以上で融解するように選ばれる

からなる実質的に線状のセグメント重合体を得ることを特徴とする弾性セグメント重合体の製造法。」

(三) 構成要件

(1) 水酸基末端ポリエステルと過剰モルのR(NCX)2で表わされる化合物とを反応させて末端に―NCX基を有する中間重合体を生成せしめ、

(2) 次いで、この中間重合体にジアミン又は水を反応させることにより、中間重合体同志を結合させて、目的物質たる線状弾性セグメント重合体を得る方法である。

3 特許請求の範囲の記載の一般式において、RにP・P´メチレンジフエニル基(ジフエニルメタン基ともいう)

<省略>、Xに酸素O、R´にプロピレン基―CH(CH3)―CH2―、P及びnに1を選択し、R(NCX)2を二モル、有機ジアミンを等モルとした本件発明の実施態様の構成要件は次のとおりである。

(1) 融点が六〇度C以下で分子量が六〇〇~五〇〇〇である水酸基末端ポリエステル一モルと、P・P´メチレンジフエニル・ジイソシアネート(以下「MDI」と呼ぶ)二モルとを反応させて、末端に―NCO基を有する中間重合体を生成させ

<省略>

(2) 次いで、該中間重合体を等モルのプロプレンジアミンと反応させ

<省略>

<省略>

で表わされる反復単位からなる実質的に線状のセグメント重合体を得る方法。

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