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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)7933号 判決

一 請求原因1の事実(日下義臣が本件商標の商標権者であつたこと)、同2の事実(日下義臣が本件商標について原告会社のために独占的通常使用権を設定したこと)、同3の事実(原告日下が本件商標権及びこれに付帯して発生の損害賠償債権を相続により承継取得し、本件商標権について登録を経由したこと)、同4の事実(被告会社が本件商標の指定商品に該当する和菓子・洋菓子の販売に際し、その容器等にイ号標章、ロ号標章を表示して使用していること)は、いずれも当事者間に争いがない。

二 そこで、被告会社によるイ号標章、ロ号標章の使用が本件商標権を侵害するかについて検討する。

右争いのない事実に、原告ら主張の物件であることについて争いのない検甲第一ないし第九号証、第一六ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし四、原告ら主張の店舗を撮影した写真であることについて争いがない検甲第一〇号証、原告ら主張の店舗を撮影した写真であることについて争いがなく弁論の全趣旨により原告ら主張の者がその主張の日に撮影したものと認められる検甲第二一号証の一ないし三により認められる、イ号標章、ロ号標章使用の態様をも考慮のうえ、イ号標章、ロ号標章と本件商標の同一性ないし類否について検討するに、イ号標章とロ号標章(1)は本件商標と同様漢字綴りであるが書体を異にし、ロ号標章(2)(3)はローマ字綴り、ロ号標章(4)は片仮名綴りである点において本件商標と相違するが、いずれも「そろり」なる呼称で一致し、講談本などに出てくる「曽呂利新左衛門」の「曽呂利」の観念を生ずるものであるから、右各標章が本件商標の指定商品と同一の商品に使用された場合には(右各標章の使用対象商品が本件商標の指定商品に該当することは前判示のとおり)、その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれのあることが明らかであり、右各標章は本件商標に類似するというべきであるから、右各標章の使用は、被告らにおいてこれを正当づける根拠の存しない限り、本件商標権に対する侵害行為と認めるべきである。

被告らは、被告会社によるイ号標章、ロ号標章の使用が被告会社の商号を通常の方法で表示したものである旨主張する。そして、被告河村が昭和三二年六月六日「曽呂利」について商号登記を経由したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、弁論の全趣旨によると、被告河村は、昭和四三年九月商号を「有限会社曽呂利」とする被告会社を設立して、それまで被告河村がなしていた和洋生菓子製造業を被告会社に引継ぎ、右「曽呂利」の商号を廃止して同年九月七日商号廃止の登記を経由したことが認められる。右のとおり、被告会社の商号は、「有限会社曽呂利」であつて、単なる「曽呂利」ではない。そして、前示検甲第一ないし第一〇号証、第一六ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし四、第二一号証の一ないし三に基づき、以下検討するに、被告会社の製造販売にかかる菓子の容器・包装紙(ビニール製風呂敷を含む)、栞・看板に印刷・表示されている「曽呂利の外郎」(検甲第一・二号証、第五号証、第一九号証、第二一号証の三)、「曽呂利のかすていら(羅)」(検甲第三ないし五号証、第九号証、第一九号証)「SORORI’S CASTILLA」(検甲第三号証)、「曽呂利の御菓子」(検甲第五号証)なる文字は、特にその商品の表示として一般の注意を惹くのに充分な態様において記載されていることが明らかに看取でき、被告ら主張のように単に被告会社の商号を通常の方法で記載したにとどまるものと認めることはできない。また、検第五号証中の枠で囲まれた「曽呂利」も、その書体及び同号証中の「曽呂利の御菓子」「曽呂利の外郎・かすていら」の文字と相まち、右同様、被告会社の商号としてでなく、右商品の表示として記載されているものと認めるのが相当である。ところで、右容器・包装紙・栞・看板のなかには、左下隅部、右下隅部、商品名の下部、裏面、店舗に「曽呂利」「SORORI」の文字が、「御菓子司」に住所と椿の図柄を加えたもの(検甲第二号証、第五ないし第九号証、第一七号証、第一九号証)、住所と椿の図柄を加えたもの(検甲第二〇号証の三)、「御菓子司」に住所を加えたもの(検甲第一号証、第三号証、第一六号証、第一八号証)、「御菓子司」のみを加えたもの(検甲第二一号証の一・二)、住所のみを加えたもの(検甲第二〇号証の一・二、同号証の四)とともに記載されているところ、被告会社の商号が「有限会社曽呂利」であつて単なる「曽呂利」でないことは前示のとおりであり、有限会社の商号中に有限会社の文字を使用すべき旨法定されていることは原告ら指摘のとおりであつて、単なる「曽呂利」は、これをもつて被告会社を想到するほど著名でないことを合わせ考えると、右検甲号各証における「曽呂利」「SORORI」は、被告会社が自己の商号を普通に用いられる方法で表示したものとは認め難いのである。被告ら主張のように、有限会社を省略した事例があるとしても、右判断を左右するものではない。

次に、被告らは、イ号標章、ロ号標章の使用について、本件商標の存在を知らなかつたし、また、商標法第二六条第二項所定の「不正競争の目的」を欠く旨主張するけれども、同法第三六条第一項所定の差止請求権の行使は、侵害行為が存すれば足り、侵害者の故意・過失を要しないものであり、また、同法第二六条第二項の規定は、同条第一項が自己の氏名・名称を普通に用いられる方法で表示する商標には及ばない旨定めていることを前提に、商標権設定登録後は「不正競争の目的」があるときは、同条第一項の規定を適用しないとするものであるから、自己の氏名・名称を普通に用いられる方法で表示しない限り、「不正競争の目的」の有無にかかわらず商標権の効力が及び、これを侵害することになるものと解すべきであるから、被告らの右主張は採用できない。

右のとおりとすると、被告会社が前記のとおりイ号標章、ロ号標章を用いることは、本件商標権を侵害するものとみなされるべきものである。

したがつて、原告日下の差止請求は理由がある。

三 そこで、原告らの損害賠償請求について考えるに、原告会社がその設立と同時に本件商標について独占的通常使用権の設定を受けたことは前判示のとおりであり、原告会社の有する独占的通常使用権が登録されたものであることの主張立証はないところ、原告会社のごとく独占的通常使用権を有する者についても、右権利を侵害する者に対する不法行為に基づく損害賠償請求を否定する理由はないというべきであるが、原告会社は、本件商標の使用料相当額を損害金として請求しているところ、原告会社のごとき独占的通常使用権者には、その権利の性質からして、当然に右のごとき請求をなしうると解すべき根拠を見出し難いので、原告会社の被告らに対する損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。

本件商標権者(日下義臣、権利承継人原告日下)に対する関係で、被告会社の前記侵害行為が不法行為法上の違法行為であることはいうまでもなく、右違法行為は、過失によつてなされたものと推定される(商標法第三九条、特許法第一〇三条)。

そうすると、原告日下は、被告会社の前記侵害行為により日下義臣及び原告日下の受けた損害の賠償として、商標法第三八条第二項に基づき、本件商標に対し通常受けるべき使用料に相当する額の金員を請求することができる。

進んで、右使用料に相当する額について考えるに、成立に争いのない乙第三号証の一ないし三、被告河村本人の供述によると、被告会社は、イ号標章、ロ号標章を付した和菓子・洋菓子(カステラを含む)を、請求原因8の(1)ないし(3)のとおり製造販売したことが認められ、同(5)のとおり右同商品を製造販売したことは当事者間に争いがなく、右各事実によると、同(4)(6)のとおり右同商品を製造販売したことを推認できるので、その販売金額の合計は金四億八四八〇万四五四一円となる。右事実のほか、被告会社がイ号標章、ロ号標章を使用するに至つた経緯等の前認定の事実に、被告河村本人の供述、弁論の全趣旨により認められる次の事情、すなわち、原告日下はもとより前権利者の日下義臣も、原告会社が設立された後はみずから本件商標を使用したことはなく、原告会社にのみその使用を許諾していること、原告会社はその本店所在地である大阪府堺市を中心に、被告会社はその本店所在地である山口県徳山市を中心に、それぞれ小規模の菓子製造販売業を営んでいること、したがつて、被告会社によるイ号標章、ロ号標章を使用しての営業は、原告会社の営業活動と競合しない地域でのものであること、そして、本件商標自体著名なものではなく、さほど顧客吸引力があるとは認められないこと、被告会社の右各標章の使用は、その代表者である被告河村が個人営業時代に屋号として使用していた「曽呂利」を利用したもので、本件商標の顧客吸引力を念頭に置いて採用したものではないこと、被告会社が前記商品売上を得、これにともなう営業上の利益をあげえたのは、長年にわたる被告会社の営業努力により、顧客に商品それ自体の価値が評価されたためで、本件商標と類似の右各標章を表示したためでないと推認されることの諸事情を合わせ考えると、本件商標に対して通常受けるべき使用料額は、前記販売金額のほぼ〇・三パーセント弱にあたる金一四五万円とするのが相当である。

被告らは、被告会社のイ号標章、ロ号標章使用によつて原告らに損害を与えることはないとし、被告会社の売上額を損害額算定の基礎とするのは不当であるとか、権利の濫用であるとか主張するけれども、原告日下の損害賠償請求は、商標法第三八条第二項に基づくものであり、右規定による使用料相当額は、現実に損害が発生していると否とを問わないのであるから、その損害の内容及び額を具体的に主張立証することを要しないのであり、右使用料相当額を算定するに当り、被告会社の販売額を基礎とすることもその一方法として是認されるべきであり、これを不当とすべき事由は認め難く、また、原告日下の右請求を目して権利の濫用とすべき事情を認めるに足る証拠はないので、被告らの右主張は採用の限りでない。

四 被告河村本人の供述、弁論の全趣旨によると、被告河村は、被告会社の設立以来その代表取締役であり、被告会社に前記侵害行為をなさしめたものであることが認められ、本件商標が昭和三一年一〇月二四日出願公告されて昭和三二年三月二八日登録され、その後更新されるとともに、権利者が日下義臣から原告日下に移転して、それぞれその旨登録されていることは前判示のとおりであるから、被告河村は、日下義臣次いで原告日下が本件商標権を有すること、イ号標章、ロ号標章の使用が本件商標権を侵害することを知らなかつたことについて少なくとも過失があると解すべきであるから、原告日下に対し、被告会社といわゆる不真正連帯の関係で、被告会社の前記侵害行為によつて生じた損害を賠償すべき責任を負担するものというべきである。

五 以上のとおりであるから、原告日下の差止請求は理由があり、同原告の損害金請求についても、三、四において判示したとおり、金一四五万円及びこれに対する被告らへの昭和五六年五月二二日付訴の変更申立書送達の日の翌日であることが記録上明らかな同年五月二七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるが、その余の部分は理由がなく、原告会社の損害金請求は理由がない。

よつて、原告日下の請求は、右の限度でこれを認容するとともにその余を棄却し、原告会社の請求はこれを棄却する。

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