大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)9151号 判決
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【判旨】
二事故の発生等
右争いのない事実に、<証拠>によれば、次の事実が認められる。すなわち、
1 被告金光建設は、土木建築請負業を営む株式会社であるところ、建設省から、工事期間を昭和五四年一二月二〇日から同五五年三月三〇日までとして、国道九号線の道路拡幅の本件工事を請負い、そのうちの竹林の伐採、土砂の埋立、コンクリート工事等の土木工事を、土木建設工事を営む被告中山組に下請けをさせ、また、仮枠工事を、土木建設仮枠業を営む、訴外猪岡組に下請させた。
2 訴外杉栄は、かねてから被告中山組に雇われ土工として働いていたところ、前記の如く被告中山組が被告金光建設から下請した京都市樫原盆山一番の二の右国道九号線道路拡幅工事において、昭和五五年一月頃から、道路拡幅部分の竹材の伐採やダンプカーで運ばれてきた土砂を機械を使わないで、平らにならす作業に従事していたが、本件事故前日の昭和五五年二月一五日、被告中山組現場監督である訴外黒田博から、本件事故車である被告金光建設所有の大型特殊自動車(ドーザショベルの五トン車)の運転を頼まれ、その運転資格がないのに、翌一六日朝から、本件工事現場で本件事故車を運転し、作業現場に搬入された土砂をバケットですくい、これを低地に運んで平にする作業に従事していた。
3 ところで右杉栄は、右同日午前一〇時一〇分ころも、本件事故車のバケットに土砂をすくい、本件事故車を後退させて低地に運ぶ作業をしていたところ、その頃、後方約二二メートルの地点に、訴外猪岡組の作業員である亡久一が、仮枠の跡片附け等の作業をしていたのを認めたのであるから、右杉栄としては、引き続き本件事故車を運転して作業を続けるに当つては、亡久一の動静に注意すると共に、右作業現場は、埋立中の土砂の上であつて軟弱であつたから、本件事故車の後方を確認し、本件事故車が埋立中の土砂の端(路肩)に行き過ぎないようにするなどして、本件事故車を土砂の端から低地に転落させないように注意し、以つて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつた。
4 しかるに、訴外杉栄は、右注意義務を怠り、亡久一の動静に注意せず、かつ、後方の安全も確認しないまま、作業を続けて、本件事故車を時速八キロメートルで右土砂の端まで後退させ過ぎた過失により、本件事故車を右土砂の端(路肩)から低地に転落させてこれを横転させ、折から、その附近で前記跡片附けの作業をしていた亡久一を、本件事故車と前記コンクリート側壁との間に狭圧し、よつて、同人に対し顔面、胸部圧挫傷等の傷害を負わせ、そのころ右傷害により、同人を死亡させた。
以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
三被告らの責任
1 被告中山組
前記二に認定した事実によれば、被告中山組の被用者である訴外杉栄は、被告中山組の業務の執行中に、本件事故を起こしたのであり、かつ、本件事故の発生については、右杉栄に過失があつたものというべきであるから、被告中山組は、民法七一五条一項により亡久一及び原告らが本件事故によつて被つた損害を賠償する義務があるというべきである。
2 被告金光建設株式会社
(一) 被告金光建設が訴外堀正人を雇用していたことは、原告、被告金光建設間に争いがなく、右争いのない事実に<証拠>によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告金光建設の被用者である訴外堀正人は、本件工事における現場責任者であつて、本件工事中、現場事務所等において、本件工事を安全に実施するための配慮や、日々の作業の内容の指示、監督等を行ないその指示は、下請の現場責任者を通して各下請の作業員に伝えられていたこと、ところで、本件事故当日、亡久一が属する猪岡組が、その前日に残した仮枠工事と、被告中山組が本件事故車を運転して行う地ならし作業とが、同時かつ同一場所で行なわれ、しかも、本件工事現場の足場は必ずしも良好とはいえず、低地低部があり、本件事故車の運転を誤れば重大事故が発生することがありうることが一般的に予見されたから、現場監督の責任者である堀正人としては、被告中山組の従業員に本件事故車を運転させるにあたつては運転者の運転資格を確認することはもとより、その安全運転をするための指導や、安全運転のための誘導員の配置等をし、もつて、本件事故車が埋立中の土砂の端(路肩)に行き過ぎないようにして、右転落による事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠つて、漫然と訴外杉栄に本件事故車を運転させていたこと、以上の事実が認められる。
そして右認定の事実によれば、訴外堀正人は、本件工事の現場監督の責任者として、被告金光建設の業務の執行につき、その過失ある行為(不作為)によつて本件事故を惹起させたものというべきであるから、被告金光建設は、右の点で、民法七一五条一項により、本件事故によつて、亡久一及び原告らの被つた損害を賠償する責任を負う。
(二) また、一般に、元請負人が下請負人に対し、工事上の指図もしくはその監督の下に工事を施工させた場合において、右下請人の従業員が他人に加えた損害については、元請負人の指揮監督関係が下請人の従業員に対して直接間接に及んでいる場合の不法行為によるものに限つて、元請負人の事業の執行につきなされたものとして、元請負人は、民法七一五条の損害賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三七年一二月一四日判決・民集一六巻一二号二三六八頁、同昭和四五年二月一二日判決・判例時報五九一号六一頁各参照)。
これを本件についてみるに、<証拠>によれば、次の事実が認められる。すなわち、
(1) 被告金光建設は、前述のとおり、本件工事のうち、土木工事を被告中山組に、仮枠工事を訴外猪岡組に、それぞれ下請させたところ、被告金光建設は、その従業員の訴外堀正人を本件工事の現場監督の責任者として、本件工事の管理、監督や、工事の安全監理に当たらせていた。
(2) 本件工事現場近くには、被告金光建設の現場事務所が設けられており、被告金光建設の現場監督の責任者である訴外堀正人は、本件工事中、毎日本件工事現場に出ており、下請負人の被告中山組の責任者等を通じて、その作業に対し、毎日行なう作業の内容の指示をしていた外、作業工程(進行)の管理や現実になされた工事内容の監理監督(品質管理)等を行なつていた。
(3) そして、本件事故当日も、訴外堀正人は、朝から本件事故現場に出ており、作業開始前に、本件事故車の鍵を取りにきた訴外杉栄に対し、本件事故車を運転して行なう作業の要領を説明し、路肩(埋立てた土砂の端)は弱いので、本件事故車で路肩を踏まないよう特に注意を与え、さらにその後、訴外杉栄が現実に本件事故車を運転して始めた作業の状況を見届け、同人が本件事故車を運転して右作業を行なうことのできることを確かめた上、同人に対し、再度、気をつけて本件事故車を運転するよう注意を与えて、他の場所に赴いた。そして、その後本件事故が起きた。
以上の事実が認められ<る。>
そして、以上認定の事実からすれば、本件工事は、元請負人である被告金光建設が下請負人である被告中山組に対し、工事上の指図もしくはその監督の下に工事を施行させたものであり、かつ、被告中山組の従業員である訴外杉栄に対し、被告金光建設の指揮監督が直接間接に及んでいたもので、その際に、訴外杉栄による前記二に認定の不法行為がなされたものというべきであるから、被告金光建設は、右の点でも民法七一五条により、本件事故によつて亡久一及び原告らが被つた損害の賠償をする義務があるものというべきである。
(三) よつて、以上いずれにしても、被告金光建設は、民法七一五条により、亡久一及び原告らの被つた後記損害を賠償すべき義務がある。
(後藤勇 千徳輝夫 小宮山茂樹)