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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)9265号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一3 よつて、以下、正当事由の存否につき判断するに、<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は昭和四九年ごろまで本件建物に居住していたが、そのころ神戸市の現住所に建物を新築したので、将来本件建物を長男の静一の住居として使用させることとし、長男の婚姻までの間、他にこれを賃貸することとしたが、将来、容易に返還を受けられるために社宅として賃貸する旨の新聞広告を出した。

(二) 被告は当時訴外尾上工業株式会社の嘱託であつたが、右新聞広告をみてこれに応募し、原告と交渉した結果、昭和四九年四月一七日に、賃貸人原告、賃借人訴外会社、連帯保証人被告とし、賃貸期間二年、賃料月額金五万円、敷金一五〇万円、使用目的社宅とする賃貸借契約が成立した。その際、原告は被告が事実上本件建物に入居し、右賃料及び敷金を出捐することを知つていたが、被告に対し、本件建物は前記の如く将来長男静一に使用させる予定であるので、実際の賃貸期間として五年を目途とし、五年経過後はこれを明渡してもらいたい旨告げ、被告もこれを了承した。

(三) 昭和五一年四月一六日の契約更新に際し、原告は被告に対し訴外会社との間の契約書の交換を求めたところ、被告は現在は株式会社尾上商事の取締役であるので右尾上商事との契約にしてほしい旨申出たが、原告はこれを拒否したため、契約書が作成されないまま従前の契約が更新され、賃料は月額金六万円に増額された。

(四) 昭和五三年三月、被告は前記尾上商事も退職し、尾上工業とも関係がなくなつたので、これを知つた原告は尾上工業に本件建物の明渡を求めたところ、同会社は被告とは関係がないとして右交渉に応ぜず、一方、被告は原告に対し、音楽大学在学中の長女のピアノ練習及び中学生の長男の進学期をひかえているとして、被告に対する賃貸方を求めるので、原告はやむなくこれに応じ従前の約定をそのまま引継ぐ形で本件賃貸借契約を締結するに至つた。

(五) 昭和五四年三月、原告の長男は大学院を卒業し、高知県庁を経て昭和五五年五月から大阪府庁に勤務するようになつたので、原告はそのころ被告に対し、長男の婚姻予定及び大修繕を理由として本件解約の申入れをなした。一方、被告は当時、本件建物に妻、音楽大学四年の長女、高校二年の長男と居住し、長女は通学の傍ら本件建物でピアノレッスンをして収入を得ていた。

以上の事実が認められ<る。>

右認定事実によれば、昭和五五年五月当時の原告の本件建物使用の必要性を肯認できないではないが、被告側の必要性と対比すれば、これを上廻るものではなく、未だ正当事由があるものと認め難い。

4 してみれば、前記解約申入れは無効であるから、右を理由として被告に対し本件建物の明渡等を求める原告の主位的請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

二予備的請求について

1 予備的請求原因1の解約申入れの事実は弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

2 <証拠>によれば、原告は訴外前田建設工業に勤務し、月収約三四、五万円、長男、長女(未婚)がそれぞれ月収各約一四、五万円を得ており、原告の妻、次女(大学生)と、昭和五六年三月に結婚した長男の妻の合計六名が現住所で居住し、長男夫婦は次女と共に二階六畳、七畳、四畳半等を使用しているが、長男夫婦は別居して本件建物に居住したい意思を有していること、一方、被告は現在建設機械販売の会社を経営し、月収約二五万円を得ており、長女は音楽大学を卒業し、ピアノの出張教授(週四日)三、四名を持つて収入を得ているが、本件建物では自らのレッスンをするのみで授業はしていないこと、長男は昭和五七年三月、高校卒業の予定であることが認められ<る。>

右認定事実によれば、原告の本件建物使用の必要性は長男の結婚によつて現実化したのに対し、被告自身は本来、他に移転する資力はあるところ、長男は高校を卒業したことにより今後就学上の障害はなく、長女もいずれ結婚し独立していくものであつて、ピアノの設置場所の確保もさほど困難ではないものと思料されるから、原告において右ピアノの設置場所確保のための特別の費用を上乗せした移転料を被告に提供するならば、その正当事由は補完されるものと認められ、しかして右移転料相当額は諸般の事情を総合すると、金五〇〇万円をもつて相当と認める。

3 してみれば、前記解約の申入れは、原告において被告に対し金五〇〇万円を提供することにより有効というべきであるから、本件賃貸借契約は昭和五七年七月二五日限り終了し、被告は同月二六日以降原告から右金員の支払を受けるのと引換えに本件建物を引渡す義務がある。しかして、右は将来の給付を求める訴えであるが、諸般の事情を考察すれば、右認定の限度でその必要性を肯認することができる。 (久末洋三)

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