大阪地方裁判所 昭和55年(行ウ)66号 判決 1983年3月18日
原告
山本元夫
原告
有限会社 松湯
右代表者
和田豊治
右原告ら訴訟代理人
佐伯照道
八代紀彦
西垣立也
辰野久夫
被告
大阪市長
大島靖
右訴訟代理人
千保一広
江里口龍輔
参加人
高津観光株式会社
右代表者
北川誠信
右訴訟代理人
林弘
中野建
松岡隆雄
主文
被告が、参加人の昭和五五年三月二一日付公衆浴場(特殊)営業許可申請に対し、同年七月一九日付大阪市指令環保第四〇二号をもつてなした営業許可処分を取り消す。
訴訟費用は被告及び参加人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
主文第一項と同旨。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
三 参加人
(本案前)
本件訴を却下する。
(本案)
原告の請求を棄却する。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは、各肩書地において、原告山本は「稲荷湯」、原告会社は「松湯」の名称で、いずれも被告の許可を受け公衆浴場を営む者である。
2 参加人は、昭和五五年三月二一日被告に対し、浴場名称高津サウナセンター、浴場所在地大阪市南区御蔵跡町二三―一、営業の種別特殊浴場(サウナ風呂)、申請の区分新設の公衆浴場営業許可申請をし、被告は、同年七月一九日、大阪市指令環保第四〇二号をもつて右営業を許可した。
3 右高津サウナセンターの浴場所在地は、原告山本の営む稲荷湯から六五メートル、原告会社の営む松湯から一三五メートルの間隔しかなく、公衆浴場法(以下単に法という)二条を受けて制定された大阪府公衆浴場法施行条例(以下府条例という)の定める「市の区域にあつてはおおむね二〇〇メートル」という既設公衆浴場との最低距離制限に違反するものである。
4 そこで、高津サウナセンターが普通の公衆浴場であれば、特殊事情のない限り営業不許可とされるべきところ、被告は、高津サウナセンターが特殊浴場であるとの理由により右距離制限にかかわらず右営業許可をした。
5 しかし、高津サウナセンターは、明らかに普通の公衆浴場と同等のものであつて、いわゆる特殊浴場ではなく、したがつて、本件営業許可は法及び右府条例に違反する違法なものとして取り消されなければならない。
二 請求原因に対する被告の認否
請求原因1ないし4は認め、同5は争う。
三 被告の主張
1 本件営業許可は特殊浴場(サウナ風呂)としてなされたものである。
2 被告の右許可は、大阪府副知事から昭和四一年八月一一日医第一六八五号をもつてなされた「公衆浴場法施行条例の解釈運用についての通知」(以下副知事通知という)により示された公衆浴場営業許可事務取扱方針と、これに基づき大阪市が定めた大阪市公衆浴場指導要綱(以下指導要綱という)により行つたものである。
3 右副知事通知は、トルコ風呂については配置の適正を欠くという理由で営業許可を拒否することが許されないとした大阪地裁昭和四一年四月一二日判決の、「設備、構造、営業形態等からみて、多数の国民の日常生活に必要欠くべからざる厚生施設として公共性を有する浴場と、かかる公共性を有しない営利性の強い浴場とがあり、公共性を有しない営利性の強い浴場には法第二条の適正配置に関する規定は適用されないものとするのが職業選択の自由、営業の自由を公共の福祉に反しない限り尊重すべきものとする憲法の精神に合する」との判断を尊重し、その論旨に従い、公衆浴場の許可事務運用について、法一条にいう公衆浴場を、同法二条三項、府条例二条に定めるいわゆる距離制限及び物価統制令による入浴料金最高額の規制を受ける「普通浴場」と、それらの適用を受けない「特殊浴場」とに区分して行うよう定められたものである。
そして、右通知は、普通浴場と特殊浴場とを、その利用形態、利用目的、施設、付帯設備により次のとおり区分、定義している。
(一) 普通浴場
白湯を使用し、通常男女各一浴室に同時に多数人が間断なく入浴できる施設であつて、その利用目的、利用形態が付近住民の日常生活にとつて健康の保持並びに保健衛生上必要不可欠な施設として利用されるもの。
(二) 特殊浴場
観光、娯楽、保養又は休養を利用目的として、蒸気又は熱気を使用して公衆を入浴させる施設であつて、かつ構造設備が普通浴場における施設以外の特別な付帯設備を有し、又は特別なサービスの提供を行うもの。
4 右副知事通知に基づき、大阪市は、その指導要綱において、普通浴場つまり銭湯は脱衣室、浴室、玄関、便所、ボイラー室により形成されるのに対し、特殊浴場は、観光、娯楽、保養又は休養という利用目的にそう施設を有することが要求されるものとして、その最低基準として次の要件を備えるよう指導基準を設けている(なお、個室付浴場―トルコ風呂―も特殊浴場の一形態であるが、これは一室ごとに個室内に脱衣、入浴、化粧、マッサージ、休養の設備を設けるもので、風俗営業等取締法の規制を受ける)。
(一) 熱気(サウナ室)を主設備とすること。
(二) 普通浴場における設備(脱衣室、浴室)以外の付帯設備、すなわち化粧室、休養室、役務提供室(マッサージ室)等を設置すること。
(三) 施設の最低床面積として、おおむね二〇〇平方メートル以上を有すること。
5 参加人の前記許可申請内容は次のとおりであつた。
(一) 営業の種別
特殊風呂(サウナ風呂)
(二) 営業内容
(1) 入浴料金
Aコース(サウナ)金二五〇円
Bコース(サウナ・マッサージ)金二五〇〇円
(2) 従業員
男子二名、女子八名(内マッサージ師五名)
(3) 主施設内容(男性、女性用施設共)
浴そう(主浴そう、副浴そう、水浴そう)。脱衣場、サウナ室、マッサージ室、化粧室、休養室、その他(玄関ホール、便所、ボイラー室)
なお、その構造設備の概要、配置は別紙(一)(二)のとおりである(後にこれは、被告の指導により別紙(三)(四)のとおり訂正された)。
6 被告は、右許可申請内容を、副知事通知及び指導要綱に照らして検討したが、その結果本件高津サウナセンターは、構造設備において普通浴場にないサウナ室・役務提供室・休養室、化粧室を有し、それらは他と明確に区画され、設備も各室の用途に適合しており、これらはすべて指導要綱の定めた基準に合致するものであつたし、また、同所ではマッサージの役務提供を行い、利用目的別の料金制度を設けるという経営形態をとつており、これら構造、設備、経営形態からみれば、周辺住民が労働の疲れをいやし身体の清潔を維持するため日常継続反復して利用する普通浴場と異なり、保養・休養・娯楽のための利用者を対象とするものであると判断できるものであつた。
7 右のとおり、被告は、浴場の構造、設備、経営形態等を総合的に勘案し、高津サウナセンターを特殊浴場と判断したが、なお、特殊浴場の営業許可を悪用して普通浴場と競合することのないよう慎重に検討し、監督官庁である厚生省の環境衛生局担当者の指導をも受けた結果、入浴料金中サウナコースの料金を金三〇〇円とするよう申請内容を訂正させ、その他二、三の指導を行つた(その結果構造設備の概要及び配置は別紙(三)(四)のとおりとなつた)うえで、左記条件を付し、右条件に違反した場合、許可の取消又は営業の停止処分を命ずることがある旨付記して、本件営業許可を行つた。
(一) 許可時の構造設備を確保し、変更する時は特殊浴場の設備基準に適合するとともに、必ず被告の承認を得ること。
(二) 経営形態及び利用形態は、特殊浴場の目的とする娯楽、観光、保養又は休養等の目的に適応すること。
(三) 許可時の入浴料金を守り、一般浴場の料金改訂に際しては、一般浴場の料金改訂率を下回らない入浴料金を徴すること。
(四) サウナ設備等故障が起きた場合の修理期間中は営業しないこと。
(五) タオルは一客ごとに取り換え、清潔なものを必要数用意すること。
(六) 一般公衆浴場の経営と競合するような経営をしないこと。
8 以上のとおり、本件高津サウナセンターは、副知事通知、指導要綱による特殊浴場の基準に合致し、日常生活の用に供される原告ら経営の普通浴場とは設備、経営形態から明確に区別され、なんらこれらと競合関係にたつものではない。
したがつて、本件営業許可は、公衆浴場法上、取消さなければならない違法事由の全くない適法なものであり、原告らの請求は棄却を免れない。
9 なお、原告らは高津サウナセンターを普通浴場とみるべきものである旨主張するが(後記原告らの反論3)、高津サウナセンターが特殊浴場にあたるか否かは、法、府条例、副知事通知及び指導要綱により決定されるべきものであり、原告ら主張のサービスとしてサウナ室等を設置している一部普通浴場との対比、あるいは事後の利用状況などから判断されるべきものではない。個々の点についての反論は次のとおりである。
(一) サウナ室について
そもそも普通浴場にはサウナ室の設置は要求されていないところ、高津サウナセンターにおいてはサウナ室は必須の設備として要求されているものである。原告らは、サウナ室を併設した普通浴場の増加及びサウナ室を併設した一部普通浴場との対比から高津サウナセンターの特殊性を否定するが、大阪市環境保健局にサウナ室設置を届け出た普通浴場は昭和五五年八月三一日現在で全体の6.3パーセントと極く一部にすぎないし、また、公衆浴場法及び府条例が保護している普通浴場の形態は、通常の浴そうと脱衣場程度を備えたものに限られ、サウナ室等を併設したものまでをも保護しているものではない。
したがつて、サービスとしてサウナ室等を併設した普通浴場との比較において高津サウナセンターが特殊でないとする立論は誤つている。
(二) 特別な付帯設備について
高津サウナセンターのマッサージ室等はいずれも他と区画され、各用途に適合したものとなつているし、マッサージ師については、利用者の希望に即応できる体制にあれば、常駐まで必要とは考えられない。
(三) 料金について
参加人が高津サウナセンターの料金を当初二五〇円として許可申請をし、被告がこれを三〇〇円とするよう指導したことは原告ら主張のとおりである。
しかし、普通浴場との競合の有無は料金のみで判断されるものではなく、構造設備、経営形態等すべてを総合的に勘案して判断すべきものである。被告は、右観点にたち、高津サウナセンターの構造設備等を考えあわせた結果、最低三〇〇円位の料金とするのが妥当であるとの結論を得たので、右のとおり指導した。
(四) 経営形態及び利用目的について
高津サウナセンターの設置場所に従前特殊浴場として営業許可を受けた浴場が存在していたこと、同浴場の営業廃止にあたり住民運動が組織されたことは認めるが、その余は争う。
なお、原告らは利用者が高津サウナセンターを普通浴場と同じように利用していると主張するが、同浴場が施設自体として特殊浴場の設備を備え役務提供を行つている以上、利用者がこれをいかに利用するかまでは被告において関与できない。
四 被告の主張に対する原告らの認否と反論<以下、省略>
理由
一請求原因1ないし4並びに被告の主張1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。
二まず、原告らの原告適格について判断する。
法は、公衆浴場が多数の国民の日常生活に必要不可欠なものとして多分に公共性を有するものであることから、その偏在により国民の日常の利用に不便を来したり、またその濫立により収益性の低下からひいては衛生設備の劣化を招くことのないよう、公衆浴場の営業を許可制とし、かつ、既設浴場との間に一定の距離をおくことを許可の一要件としているものである。したがつて、右規制が主として国民保健及び環境衛生の確保という公共の福祉の見地から定められたものであることは明らかであるが、他面法は、公衆浴場の濫立を防止することによつて公衆浴場を過当競争から保護し、これをもつて右公益を確保しようとしているのであるから、右適正な許可制度の運用により保護されるべき既存公衆浴場経営者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず、法によつて保護されるべき法的利益であると解するのが相当である(最高裁昭和三七年一月一九日第二小法廷判決・民集一六巻一号五七頁参照)。
そうすると、原告らは本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するから、原告適格に欠けるところはない。
三次に、参加人は右距離制限規定の違憲無効を主張する。
しかし、右規制は前記のとおり公共の福祉を確保する必要上設けられたもので、その趣旨及び理由によれば、右規制が憲法二二条に違反するものということはできない(最高裁昭和三〇年一月二六日大法廷判決・刑集九巻一号二二七頁参照)。
四ところで、法一条の定義する公衆浴場のなかには、いわゆるトルコ風呂の如く、公共性が希薄で営利性が強く、また一般の公衆浴場との関係においても、設備構造・営業形態等の相異からこれらとの競合が問題とならないものも存在するので、かかるトルコ風呂等の浴場については、法二条の適正配置に関する規定及びこれを受けた府条例の距離制限規定の適用は排除されると解するのが相当である(当事者引用の大阪地裁昭和四一年四月一二日判決・行裁集一七巻四号三五二頁参照)。したがつて、公衆浴場を右距離制限及び物価統制令の適用を受ける普通浴場と、それらの適用を受けない特殊浴場とに区分して取り扱うという副知事通知に基づく運用方針も、右趣旨にそう限りで相当ということができる。
そこで、右特殊浴場と認めるためには、当該浴場が性格及び料金を中心とする利用形態の面で普通浴場と明確に識別でき、同質性をもたないものであることが明確であることを要するとすべきであり、右副知事通知が、「特殊浴場とは、普通浴場と利用形態、利用目的、施設、附帯設備等が明確に区別されるもの」をいう(成立に争いがない乙第二号証)としているのもその趣旨にそつたものといえる。
五本件営業許可が特殊浴場に対するものとしてなされたものであることは当事者間に争いがないから、申請にかかる高津サウナセンターが右にいう特殊浴場に該当するか否かについて検討する。
1 <証拠>によると、
(一) 本件許可にかかる浴場の所在地である大阪市南区御蔵跡町二三―一には、もと昭和二九年大阪府知事の営業許可にかかる特殊浴場(トルコ風呂)があり(大阪高津トルコ風呂、のちに高津トルコ温泉と改称)、訴外荒木岩本が経営していたが、同人は昭和五〇年一一月ころ設備を一般普通浴場と同じように改装し、料金も普通浴場と同一に定めて営業し(大阪府下の共通入浴券も通用)、付近住民もこれをいわゆる一般の銭湯(普通浴場)として利用していた。
被告は、原告山本を含む付近の普通浴場経営者らの要請を受け、荒木岩本に対し再三設備復旧を勧告し、昭和五一年には営業許可を取消すべく公開聴聞の手続を進めるべく準備していた。
しかし、荒木岩本は昭和五一年七月三〇日原告山本らと和解し、高津トルコ温泉を昭和五四年一二月三一日までに営業停止し、被告あて廃業届を提出する旨を約したため、被告による同浴場の営業許可取消に至らなかつた。
(二) ところが、右高津トルコ温泉廃業を前に、従来これを銭湯として利用してきた付近住民らと同浴場廃業により街の活気が失われるとする地元商店主らが浴場存続を求めていわゆる住民運動を起こし、荒木岩本も右運動をささえに浴場存続を計ろうとした。
荒木岩本は結局昭和五五年一月五日右浴場を廃業したが、右住民らは、廃業に先立ち、地元市会議員の仲介をも得て、被告担当者に対し、町会で会員制の新浴場を設置したいなどの意向を表明して打診を行つた。しかし、被告は普通浴場の新設は距離制限規定により許可できないとの方針を示したため、右住民の代表ら及び高津トルコ温泉関係者らにおいて善後策を検討し、同温泉の建物所有者坂下禮子の実父で浴場経営の経験をもつ北川安(前記昭和五一年七月三〇日の和解契約に、物件賃貸人兼保証人として坂下禮子が、保証人として北川武志(北川安の長男)がそれぞれ関与した関係もあつて、北川安は右和解契約の内容を承知していた)を中心に会社(参加人)を設立し、同社が特殊浴場(サウナ風呂)として新設浴場の営業許可を取り付ける方針をとることとした。
(三) 右の経緯で昭和五五年二月一四日参加人が設立され、同年同月二六日参加人が坂下禮子から前記高津トルコ温泉の建物(大阪市南区御蔵跡町二三番地の一地上家屋番号同町三五一番)を賃借したうえ、同年三月二一日被告に対し本件営業許可の申請をしたが、被告の担当者の求めにより申請人側から出頭してきたのは前記北川安であり、同人が参加人の発起人にも役員にも名を連ねていなかつたため、被告側は参加人代表者からの委任状を提出させて北川安と折衝を重ねた(なお、同人の二男北川隆康、三男北川誠信は設立当初から参加人の取締役で、昭和五七年三月以降参加人の代表者は三男誠信である)。
(四) 申請の当初示された構造設備は別紙(一)(二)のとおりで、入浴料金はAコース(サウナ)金二五〇円、Bコース(サウナ・マッサージ)金二五〇〇円、従業員数は男子二名、女子八名(内マッサージ師五名)であつた。
右料金については、付近住民らは普通浴場なみの料金(当時大人一六五円、中人六〇円、小人三五円、女性の洗髪は一〇円加算)を希望し、二〇〇円で許可するよう被告あて陳情もなされ、参加人側の担当者北川安も右住民らの意向にそいたい考えであつたが、被告担当者が二〇〇円では到底許可できないとしたため、やむなく二五〇円とされたものであつた。
被告は右申請内容を検討したが、その際特に料金を問題とし、監督庁である厚生省係官とも相談のうえ、三〇〇円未満では普通浴場との競合の恐れがあり許可不相当との見解をまとめ、その旨指導をした。付近住民らも参加人側の北川安も右指導には不満であつたが、結局はこれに従うこととし、参加人は昭和五五年五月ころ申請料金を三〇〇円と訂正した。
そこで被告は、同年七月七日付で浴場の構造設備の若干の変更を指示し、これを別紙(三)(四)のとおりと変更させたうえ、同年七月一九日付で本件営業許可処分を行つた。
なお、被告は右許可に際し、被告の主張7の(一)ないし(六)記載の条件を付し、右条件に違反した場合は営業許可の取消又は営業の停止を命ずることがある旨の付款を付けたが、申請入浴料金を三〇〇円に訂正させて間もない同年七月一〇日普通浴場の料金が大人一八〇円、中人六五円、小人四〇円と改訂されたことには特段の配慮をしなかつた。また、被告は、高津サウナセンターは特殊浴場(サウナ風呂)であつて普通浴場ではなく、したがつてこれを子供が利用することは考えられないとの建前から、小・中人用の入浴料金については特に確認も指導も行わなかつた。
(五) 本件許可にかかる高津サウナセンターの施設概要及び配置は別紙(三)(四)のとおりであつて、同浴場は、面積9.257平方メートルのサウナ室を男女別にそれぞれ設けているが、この面積は浴室部分全体の面積59.584平方メートルの六分の一に満たず、浴室の大部分を占めるのは、普通浴場の構成要素である主浴そう(4.90平方メートル)・副浴そう(7.025平方メートル)及び一八組のカラン(白湯と水の蛇口)を備えた洗場となつている。
また、同浴場は男女共各5.7平方メートルの化粧室、男子用16.638平方メートル、女子用7.725平方メートルの休養室、男子用11.956平方メートル、女子用10.81平方メートルのマッサージ室を設けているが、右化粧室は鏡台に椅子やドライヤーを付設したもの、休養室は応接セットやテレビを設置したもので、いずれも脱衣場に続いて設けられており、それぞれ別個独立の部屋となつている訳ではなく、また同所で美容術を施したり仮眠をさせるなどのサービスの提供はなされていない。そして、マッサージ室には男子用五台、女子用三台のマッサージ台がおかれているものの、マッサージ師は常駐せず、客の注文の都度近所のマッサージ派遣所に依頼することとなつていた。
(六) 大阪市においては、近時一般普通浴場でもサウナ室を併設するものが相次いでおり、最近ではその割合は半数近くに達し、本件申請時においても右割合は二割程度にのぼつていた。
そして、原告会社の経営する松湯も普通浴場でありながらサウナ室を併設しており、その施設配置は別紙(五)のとおりであるところ、松湯の設備はサウナ室を併設した一般普通浴場として特に目立つものではなく、また、高津サウナセンターのサウナ室に比べ面積的には差異のないものである。
(七) 本件許可後、参加人は、高津サウナセンターの入浴料(サウナのみ)を大人三〇〇円、子供一〇〇円(のちに一五〇円)と定め、子供については大人一人につき一人は無料とし、また飲物の無料サービスや割引回数券を発行するなどして実質料金の軽減をはかり、昭和五六年六月一〇日普通浴場の料金が大人について一八〇円から一九〇円に値上げされたにもかかわらず、前記許可条件である一般浴場料金改訂率を下回らない入浴料金を徴することなく経過している。被告は、子供についてもすべて正規の料金(三〇〇円)を徴収するよう再三指示し、また右普通浴場料金改訂時には条件に従い料金を値上げするよう求めたが、参加人は訴訟をも辞せずと明言してこれを拒否し続けている。
そして、右構造設備及び料金から、高津サウナセンターは、付近住民らによりいわゆる銭湯として、老若男女の区別なく日常的・継続的に反復利用されており、ために原告ら経営の浴場は利用客の一部を奪われる結果となつている。
以上のとおり認められ、右認定に反する証人北川安の供述部分は前掲各証拠と対比して採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 右認定の事実、殊に従前の高津トルコ温泉の営業状況、その営業廃止と参加人設立の経緯、高津トルコと高津サウナセンターの場所及び建物の関係、参加人の役員関係及び右建物所有者との身分関係、本件許可申請にかかる構造設備及び入浴料金、許可後の営業の状況等に照らせば、高津サウナセンターは高津トルコ温泉と同様付近住民らのための銭湯(普通浴場)として利用されるべく企図されたもので、サウナ室、マッサージ室等の設備は特殊浴場の名のもとに距離制限規定を潜脱するために意図的に設けられたにすぎず、現に同浴場の主設備は普通浴場の構成要素たる白湯使用の浴そう及びカランを備えた洗場であつて、サウナ室は普通浴場がサービスないし付帯施設として設置するものと大差なく、マッサージ室、休養室、化粧室についても、これらが高津サウナセンターの本質的構成要素とはいえないのはもとより、これらとサウナ室とを総合関連づけてみても、いまだ高津サウナセンターをして一般普通浴場と本質的に異なる性格のものと認識させるに足りないものといわねばならない。
そして、右許可申請にかかる構造設備及び三〇〇円という入浴料金、高津トルコ温泉の廃業、同温泉との場所的関係等から、高津サウナセンターが普通浴場(いわゆる銭湯)としての性格を有し、近隣普通浴場と競合関係に立つものであることは容易に推認し得るものというべきであり、結局本件高津サウナセンターは、法二条の適正配置に関する規定及び府条例二条の定める距離制限規定の適用を排除されるべき特殊浴場に該当するものとは認められない。
3 被告は、本件高津サウナセンターは副知事通知及び指導要綱の定める特殊浴場の基準に合致していると主張し、参加人も右主張を援用する。
しかし、当該浴場が特殊浴場にあたるか否かは、四項説示のとおり法の趣旨に従つて決せられるべきことがらであつて、副知事通知や指導要綱の基準に形式的に合致しているか否かにより決せられるものではない。
のみならず、前記のとおり副知事通知は、特殊浴場を「普通浴場と利用形態、利用目的、施設、附帯設備等が明確に区別されるもの」という解釈運用の方針を示しており、また指導要綱も、特殊浴場について「熱気(サウナ室)を主設備とすること」を要件としている(被告の主張4の(一)。ただし右要綱(成立に争いがない乙第三号証)には右要件は明示されてはいない)のであるから、被告主張の副知事通知及び指導要綱に照らしても、なお高津サウナセンターを特殊浴場と判定することは許されないといわねばならない。
六以上のとおり、本件営業許可の申請にかかる公衆浴場(高津サウナセンター)は、法二条の適正配置の規定及びこれに基づく府条例二条の距離制限規定の適用を排除されるべき特殊浴場に該当しないから、右申請を受けた被告としてはその設置場所の配置の適正を検討しなければならないところ、原告らの経営する普通公衆浴場と申請にかかる浴場所在地の間隔が府条例で定められた距離(おおむね二〇〇メートル)がなく(この事実は当事者間に争いがない)、他に特殊事情により浴場の必要性があることを窺わせるものがないのに、被告は申請にかかる浴場が特殊浴場にあたるとして本件許可をしたのであるから、右営業許可処分は違法であり、取消しを免れない。
七よつて右営業許可処分を取り消し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条、九三条に従い主文のとおり判決する。
(志水義文 小島正夫 中川博之)
別紙(一)〜(五)<省略>