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大阪地方裁判所 昭和56年(モ)4649号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【主文】

一 申請人と被申請人間の当庁昭和五五年(ヨ)第五八七六号不正競争防止法違反仮処分申請事件について、当裁判所が昭和五六年四月九日にした仮処分決定を認可する。

二 訴訟費用は被申請人の負担とする。

【説明】

「一 申請の理由

1 申請人は、ハンガリーのエルノー・ルービック教授が考案した別紙第一目録(一)記載の回転式立体組合せ玩具(以下「ルービック・キューブ」という)につき、アメリカのアイデール・トーイ社より独占的販売権を取得し、昭和五五年七月一五日ころこれを我国に初めて紹介し、「ルービック・キューブ」と名付けて発売したところ、驚異的な人気を呼び、デパート・玩具小売店・アイデアショップなどに顧客が殺到し、その販売数量を割当制にする程の好評を得、一流週刊誌・新聞・テレビなどのマスメディアも広告としてではなく記事として、ルービック・キューブの爆発的ブームを伝えるまでとなつた。

ルービック・キューブが発売以来短期間のうちに一大ブームを呼んだのは、それ自体が創造性新規性を有していたことと、アメリカを始めとする諸外国で周知著名であつたことのほか、申請人がテレビ・ラジオ・新聞・雑誌等のマスコミ広告媒体に多額の費用を投じて積極的に宣伝に努めた結果でもあり、かつその製品についてはアメリカのアイデール社の指定した香港の工場で生産したもののみを販売するという厳正な品質管理を採つているからでもある。

2 ルービック・キューブの形態は別紙第一目録記載のとおりであり、同目録(一)記載の商品本体は次の五つの形態上の特徴を有している。

(1) 正六面体であること。

(2) 各面に独特の配色がなされていること。

(3) 各面が九個に細分されていること。

(4) 右各部分がそれぞれ縦・横に三六〇度回転すること。

(5) 操作のしやすい適度の大きさであること。

右商品本体は別紙第一目録(二)記載の容器に収められて販売されているが、右容器の形態の構成は次のとおりである。

(1) 直径約八センチメートル、高さ約八センチメートルの円筒型であること。

(2) 底部と蓋部からなり、いずれもプラスチック製で、底部は黒色であり商品を収納する窪みを有し、蓋部は中の商品が確認し易いように透明となつていること。

(3) 底部と蓋部をつなぎ合わせるように、幅約二センチメートルのラベルが円筒型腰部に貼付されていること。

(4) 右ラベルには、日本文字商品名の表示が一箇所、英語文字商品名表示が二箇所あり、製造国名・販売者名の表示と、商品の性質を示すキャッチフレーズが日本文字と英語文字で各表示されていること。

(5) 右表示のための文字は、黒地の部分は金扱きで、金地の部分は黒扱きで表わされていること。

ルービック・キューブは、右のような形態上の特異性を有していたことと、強力な宣伝及び報道により、その商品及び商品容器の形態自体によつて、申請人の商品であるとの出所表示機能を獲得するに至り、右表示は、昭和五五年九月ころには、申請人の商品たることを示す表示として周知となつた。

3 被申請人は、昭和五五年一〇月ころから、別紙第二、第三、第四目録記載の回転式立体組合せ玩具(以下、順次、「イ号商品」、「ロ号商品」、「ハ号商品」といい、これらを総称して「被申請人商品」という)を業として販売している。

4 被申請人は、我国内外においてルービック・キューブが大好評を博し周知著名であることを知悉しながら、ルービック・キューブの模造品である被申請人商品を販売し、申請人の形成した信用を冒用し、これに便乗している。

すなわち、被申請人商品は、ルービック・キューブの前記形態と同一ないし類似の形態を有しており、その商品表示機能を借用している。これを具体的にいえば、イ号商品、ハ号商品は、いずれも、その商品本体がルービック・キューブの商品本体と同一の形態上の特徴を有しており、ロ号商品は、その商品本体がルービック・キューブの商品本体と同一の形態上の特徴を有しているほか、容器の特徴も同一であり、使用された標章「マイ・キューブ」も類似している。

したがつて、被申請人が被申請人商品を販売する行為は、申請人の商品であるルービック・キューブと混同を生じさせるものであつて、申請人はこれにより営業上の利益を害されるおそれがある。

5 被申請人は、申請人が多大な労力と費用により取得したルービック・キューブの周知著名性に便乗して、その模造品を販売しているものであつて、その行為は極めて悪質である。このような傾向は玩具業界の一部に根強く存在するものであり、これを放置しておくことは、消費者・顧客に混乱・被害を招くばかりでなく、業者の真摯に研究・開発する意欲を喪失させ、業界の公正健全な競業秩序の確立を阻害する。

被申請人は、当初、製造者・発売元などを表示せず、被申請人商品を販売した。このような被申請人に対し、申請人が口頭又は書面で差止めを求めたり本案訴訟を提起しても、ひそかに在庫商品の移動・投売り行為をするなどの公算が大きく、本案判決に至るまでに申請人が多大の損害を受けるおそれがある。

6 よつて、申請人は被申請人に対し、被申請人商品の譲渡の差止を求める理由と必要があり、また、被申請人商品の占有を解いてこれを管轄裁判所執行官に保管させる必要がある。

したがつて、本件仮処分決定は正当であるから、その認可を求める。」

【判旨】

一<証拠>によると、次の事実を認めることができる。

(1) ルービック・キューブは、別紙第一目録に記載のとおりの回転式立体組合せ玩具で、各面の配色をいつたん崩し再び各面を同一色で揃えるパズルゲームであつて、その商品本体は同目録(一)記載の形態を有し、右商品本体を同目録(二)記載の円筒形プラスチック容器に入れて保持してあり、なお、右容器には、ベルの形状の中に申請人の頭文字Tを配した図面商標やルービック・キューブなる文字商標が付され、申請人の登録商号が記載されている。

(2) ルービック・キューブは、もともとハンガリーのエルノー・ルービック教授の考案にもとづき、昭和五四年イギリスを中心とするヨーロッパ、アメリカで流行品となつていたもので(ハンガリーで考案されたことは当事者間に争いがない)、我国においては、アメリカのアイデール・トーイ社と輸入販売契約を結んだ申請人により、昭和五五年七月二五日ころ初めて発売されたが、発売と同時に驚異的人気を呼び、同年九月末ころまでに十数万個の売上げを記録するほどのブームとなつた。

(3) 申請人は、発売以来ポスターを取扱業者らに配布し雑誌・週刊誌などに広告を掲載するとともに、三〇億以上の組合せのあるこのパズルを解いた者に認定書を交付するとして、購買意欲をそそる宣伝を積極的に行つたが、ほかに、新聞・週刊誌・月刊誌に右ブームの模様を伝える紹介記事がルービック・キューブの写真と輸入発売元の申請人名を明記して掲載され、テレビでも同様の放映がされたことにより、昭和五五年九月末ころまでには、ルービック・キューブは、ハンガリー人のエルノー・ルービック教授の考案にかかる世界的なブームを呼んでいる玩具であつて、我国では申請人が輸入・販売している商品であり、その商品本体及び容器が前記のような形態を有していることが、玩具業界及び一般消費者の間に広く認識されるに至つた。

右事実によれば、昭和五五年九月末ころまでには、ルービック・キューブの商品本体及び容器の形態は、申請人の販売する商品であることを示す表示として広く認識されるに至り、今日でも同様に認識されているということができる。

被申請人は、ルービック・キューブの形態が申請人の商品たることを示す表示となりえず、不正競争防止法の保護の対象とならない旨主張し、その理由をるる述べるがいずれも採用できない。

すなわち、右形態が技術的機能に由来する旨の主張については、ルービック・キューブの本体及び容器の色彩、形状の大きさ・素材等は技術的機能に由来するものではなく、また申請人のみがルービック・キューブの正当な出所者であるとの評価を受けることが保護を受ける要件である旨の主張については、ルービック・キューブはアイデールトーイ社の商品で申請人はこれを輸入販売するにすぎないけれども、一個の商品表示は必ず一個の出所を表示する機能しか持ちえないと解さなければならない合理的は理由はなく、また周知性獲得は正当な宣伝・販売によることが必要である旨の主張については、申請人販売のルービック・キューブが我国で広く認識されるに至つたのは、前認定のとおり申請人のなした宣伝・広告のほか新聞・週刊誌・月刊誌・テレビで紹介されたことによるものであるから、申請人の右宣伝・広告のなかで一部不当とされる部分があつたとしても、これがために周知性を否定すべき事由とするのは相当でない。

二イ号・ロ号・ハ号の各商品がそれぞれ別紙第二、三、第四目録記載の回転式立体組合せ玩具であり、ロ号商品が被申請人の商品であることは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、被申請人は、昭和五五年一〇月ころからハ号商品を、次いでイ号商品を、同年一一月ころからロ号商品を販売していること、イ号商品は、その商品本体が別紙第二目録(一)記載の形態を有し、右商品本体を同目録(二)記載の正四角形の紙箱(その各面に商品本体の各面を模して九個の小正方形を黒色の縁取りで描き、これに種々の色彩をほどこしてあるもの)に収めてあり、ロ号商品は、その商品本体が別紙第三目録(一)記載の形態を有し、右商品本体を同目録(二)記載のプラスチック製円筒容器(その上部中央に「W」のマークの描かれたラベルが貼付され、側面に「micube MADE IN JAPAN」と横書きの文字の記載されたラベルが貼付してある)に収めてあり、ハ号商品は、その商品本体が別紙第四目録(一)記載の形態を有し、右商品本体を同目録(二)記載の正四角形の紙箱(その各面に商品本体の各面を模して九個の小正方形を黒色の縁取りで描き、これに商品本体に模した色彩を施したもの)に収めてあることが認められる。

三以上の認定事実にもとづき、ルービック・キューブと被申請人商品とを比較、対照すると、両者は、いずれも商品本体の形態上の特徴が酷似しているといいうる。

したがつて、被申請人商品を販売する行為は、申請人の商品であるルービック・キューブと混同を生じさせるものであるというべきであり、これにより、申請人は営業上の利益が害されるおそれがあるといえる。

被申請人は、ルービック・キューブと被申請人商品とは、商標・マーク・容器ラベルなどが異なることにより、また取引先が異なることにより、混同が生じないと主張する。

なるほど、前認定事実によれば、ルービック・キューブは、その商品本体が前記のような商標・商号の付された円筒型プラスチック容器に保持されているところ、イ号商品、ハ号商品は、その商品本体がいずれも前記紙箱に収められ、ロ号商品は、商品本体が収められた円筒型プラスチック容器に前記マーク、文字の記載されたラベルが貼付してあり、この点で相違しているということができる。

しかしながら、イ号商品の紙容器は一面同一色(黄緑色)で揃え他の面は商品本体の各面の配色を崩した状態を、ハ号商品の紙容器は商品本体の各面を同一色で揃えた状態をそれぞれ表わすことにより商品本体の色彩・形態を表示しているもので、いわば商品本体そのものとみることができるから、イ号商品・ハ号商品とルービック・キューブの商品本体との比較・対照によることとなり、これが酷似することは前判示のとおりである。また、ロ号商品の容器はその素材・色彩・大きさなどの形態においてルービック・キューブの容器と酷似しているのであつて、両容器に貼付のラベルもその形態からみて前示混同を妨げる機能を果すとはいえず、被申請人商品は全体としてルービック・キューブを模倣した商品であると認めざるをえない。

また、申請人と被申請人との取引先が異なるとしても、同一の玩具業界内であることに変わりなく、最終需要者(消費者)の段階で競合することが明らかであるから、前示混同の生じることに変わりはない。

四そうすると、申請人は被申請人に対し、被申請人商品の譲渡の差止及び廃棄を求める権利を有する。

そして、被申請人商品がルービック・キューブに酷似することは前認定のとおりであるところ、被申請人商品などの酷似品の販売を放置するときは、ルービック・キューブの有する商品表示の周知性が稀薄となり消滅に至るおそれも十分考えられるので、本案訴訟の確定を待たず、仮に被申請人商品につき譲渡の差止及び執行官保管をすべき必要性を認めることができる。申請人が輸入したルービック・キューブを売り尽くして品不足状態の時期があつたとしても、右必要性を否定する理由とはならないというべきである。

よつて、本件仮処分決定は正当であるから、これを認可する。

(潮久郎 鎌田義勝 徳永幸藏)

第一目録

(一) ルービック・キューブの本体

別紙図面及びその説明書のとおり

図面の説明書

一 縦、横、高さがそれぞれ5.5センチメートルの正六面体1である。

二 各面が各々均等な大きさの黒プラスチック製のブロック2に分割されている。

三 各ブロック2は色付シール3で貼付することにより、各面が地色である黒色の縁どり4に残して、赤色と茶色、青色と白色、緑色と黄色が対称位置に配されている。

四 該ブロック2はそれぞれ縦、横に三六〇度回転可能な立体色合せ玩具である。

(二) ルービック・キューブの容器

別紙図面(1)及び(2)並びにその説明書のとおり

図面の説明書<省略>

第二目録

(一) 被申請人商品イ号商品の本体

別紙図面及びその説明書のとおり

図面の説明書

一 縦、横、高さがそれぞれ5.5センチメートル正六面体15である。

二 各面がそれぞれ均等な大きさの黒色プラスチック製のブロック16に分割されている。

三 各ブロック16は色付シール17で貼付することにより、各面が地色である黒色の縁どり18を残して、赤色と桃色、青色と黄色、白色と緑色が対称位置に配されている。

四 該ブロック16はそれぞれ縦、横に三六〇度回転可能な立体色彩組合せ玩具である。

(二) 被申請人商品イ号商品の容器

別紙図面(1)及び(2)並びにその説明書のとおり

図面の説明書<省略>

<以下省略>

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