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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)2602号 判決

一 請求原因一(本件実用新案権の存在)の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載、及び成立に争いのない甲第一号証の二(本件実用新案公報、別添の実用新案公報と同じ)によると、本件考案の構成要件は請求原因二1のとおり分説するのが相当である(この点は当事者間に争いがない)。

二 前掲甲第一号証の二によれば、本件考案の解決すべき課題は、「従来から無端状の便座カバーは種々考案されているが、何れも便座の形状に適合するように便座と略々同形状に構成されているため、便座への装着に際して、カバーの形状を便座に合わせながら取付けを行わねばならず、又、取外しに際しても手数を要し、且つ縫成が複雑でコストが嵩む等の欠点があつた。」(本件実用新案公報一欄二一行目ないし二七行目)ことから、このような欠点をなくすることにある、と認められる。

前掲甲第一号証の二によれば、本件考案の作用効果は次のとおりである、と認められる。

(一) 「便座カバーの原形となる伸縮性帯状生地1は簡単な形状であるから伸縮性生地の歩止まりを良好にして容易に裁断することができると共に適宜長さを有する伸縮性帯状生地1の両端を縫合するだけで短筒状生地aが形成されるので、製作が極めて多量生産に適し、安価に供給し得る(本件実用新案公報二欄三一行目ないし三六行目)。」

(二) 「便座に取付ける際に硬質弾性芯材4を便座の裏面に当てがつて短筒状生地aを便座の上面を越えて裏面側に折り返すだけで簡単に取付けが行えるばかりでなく、生地aは便座の形状に合わせて裁断することなく略同一巾の帯状生地から短筒状に形成され且つ伸縮性生地よりなるので、便座の形状に対して前後、左右に位置付けを行う必要がなく便座の形状に応じて短筒状生地aが変形して種々の形状の便座に簡単に適合させることができ」る(同公報二欄三七行目ないし三欄九行目)。

(三) 「硬質弾性芯材4もその弾性によつて容易に変形して適合するものであり、その上、便座の裏面に当接した該芯材4を支点として短筒状生地を便座の内周縁から上面に密着させたのち便座の裏面側において伸縮性条体6を収縮させるように構成したので、短筒状生地aが硬質弾性芯材4と伸縮性条体6によつて周方向並びに巾方向に充分な張りを保持した状態で便座に密着し、使用中における妄動を確実に阻止できると共に短筒状生地aが多少変形しても使用後その伸縮力と条体6とによつて直ちに原形状に復帰することができ」る(同公報三欄九行目ないし四欄二行目)。

三 被告が被告製品を業として製造し、譲渡し、譲渡のために展示していることは当事者間に争いがない。

被告製品を説明したものであることにつき当事者間に争いのない別紙被告製品説明書の記載によれば、被告製品の構成は、便座カバーであつて、被告の主張三1(一´)、(二´)、(三´)のとおり分説するのが相当である。

四 被告製品の構成を本件考案の構成要件と対比すると、いずれも便座カバーであつて、被告製品の構成(二´)は本件考案の構成要件(二)を充足することが明らかである。

そこで、本訴の争点である被告製品の構成(一´)、(三´)がそれぞれ本件考案の構成要件(一)、(三)を充足するかどうかについて判断する。

原告主張の物件であることにつき争いのない検甲第一号証、第三、第四号証の各六、原告主張の写真であることにつき争いのない検甲第二号証の一、二、第三、第四号証の各一ないし五によると、被告製品にあつては、一側縁の両端隅角部を切除したパイル状メリヤス編生地<1>の両端を縫合して短筒状生地を形成してあるために、ポリプロピレン製芯材の設けてある開口端周縁はこれを平面的に見るとO字形をなしているけれども、他方の開口端周縁はこれを側面より見るとその縫合部において曲線の切込み状部分をなし、平面的に見るとU字形をなしており、更に、このU字形開口端周縁の切込み状部分の両端に突出したゴム条にはそれぞれフツクが設けられていることが認められる。これに対して、少なくとも文言の上では、構成要件(一)には「一側縁の両端隅角部を切除」する旨の記載はなく、また構成要件(三)には「フツク付ゴム条を設け」る旨の記載は見当らないのである。

原告は、右のように一側縁の両端隅角部を切除したものも本件考案の構成要件(一)にいう「略一定巾」の要件を充たし、また構成要件(三)にいう開口端周縁の伸縮性条体をフツク付ゴム条を設けたものにすることは当業者の常套的慣用手段である、と主張し、被告がこれを争うので、以下、被告製品が(一´)、(三´)の構成を採ることにより本件考案と同一の作用効果を奏するかについてみることとする。

別紙被告製品説明書の記載、前掲検甲第一号証、第三、第四号証の各六、弁論の全趣旨により被告主張の写真であると認められる乙第三号証によれば、被告製品を便座に装着するには、切込み状部分を便座蓋体蝶番の箇所に位置させ、便座の内側周縁の裏面にポリプロピレン製芯材(硬質弾性芯材)を当接させた上、U字形周縁を便座の内周縁に沿つて上方に引き出し、便座の上面を越えて便座の外側周縁の裏面に折り返した後、更に、便座蓋体蝶番の裏面でフツクを係合させてゴム条(伸縮性条体)を収縮させることが必要である、と認められる。

右事実からすると、被告製品は、前認定の本件考案の作用効果(二)、すなわち、便座に取り付ける際に前後、左右に位置付けを行う必要がない上に、硬質弾性芯材4を便座の裏面に当てがつた短筒状生地aを便座の上面を越えて裏面側に折り返すだけで取り付けが行える、との作用効果を奏し得ないことが明らかである。

右作用効果のうち前後、左右の位置付け不要の点は、本件考案の構成要件(一)を採ることによつてもたらされる。このことは、前掲甲第一号証の二によつて認められる本件考案の明細書における、「生地aは便座の形状に合わせて裁断することなく略同一巾の帯状生地から短筒状に形成され且つ伸縮性生地よりなるので、便座の形状に対して前後、左右に位置付けを行う必要がなく…」との記載に照らして明らかである。そうとすれば、構成要件(一)の短筒状生地とは、右作用効果を奏するために、切込み状部分の形成されていない、側面から見てほぼ一直線をなすO形開口端周縁を有するものを意味し、したがつて、右構成要件の「略一定巾」には、一側縁の両端隅角部を切除したものは含まれない。と解するのが相当である。また、前掲甲第一号証の二により認められる、本件考案の明細書に記載の「便座に取付ける際に硬質弾性芯材4を便座の裏面に当てがつて短筒状生地aを便座の上面を越えて裏面側に折り返すだけで簡単に取付けが行える」との作用効果、及び前後、左右の位置付け不要の作用効果を奏するためには、構成要件(三)の伸縮性条体6は、フツクなどによる係合を要することなく、他方の開口端周縁の全体にわたり、環状に設けられていることを要する、と解すべきである。

原告は、前記作用効果(二)における「便座の形状」とは便座の蝶番部以外の平面形状部分を指す、と主張するが、本件考案の登録請求の範囲、発明の詳細な説明の前掲記載に照らし、右のように蝶番部を除外すべきものと解する理由は認められないから、右主張は採用できない。

右のように解すべきものとすれば、被告製品の構成(一´)、(三´)が、それぞれ右判示の本件考案の構成要件(一)、(三)を具備せず、これにともない前記作用効果を奏しないことは前認定の事実により明らかであるから、被告製品は本件考案の技術的範囲に属しないというべきである。

五 以上のとおりであつて、被告が業として被告製品を製造、譲渡、展示することは、なんら本件実用新案権を侵害するものではないから、右侵害を前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がない。

よつて、原告の本訴請求をいずれも失当として棄却することとする。

〔編註その一〕本件登録実用新案に関する事項は左のとおりである。

一 原告は、次の実用新案権(以下これを「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有している。

考案の名称 便座カバー

出願    昭和四三年三月九日(実願昭四三―一八五五六)

公告    昭和五二年一一月一六日(実公昭五二―五〇五七四)

登録    昭和五五年三月二八日(第一三二二四四七号)

実用新案登録請求の範囲

「便座の形状に合わせて裁断することなく略一定巾と適宜長さを有する伸縮性帯状生地1の両端を縫合して短筒状生地aを形成し、該短筒状生地aの一方の開口端周縁に便座7の裏面に当接させる輪状の硬質弾性芯材4を設けると共に他方の開口端周縁にゴム条等の伸縮性条体6を設けてなる便座カバー。」

二 本件考案の構成要件及び作用効果は次のとおりである。

1 構成要件

便座カバーであつて、

(一) 便座の形状に合わせて裁断することなく、略一定巾と適宜長さを有する伸縮性帯状生地1の両端を縫合して、短筒状生地aを形成してあること。

(二) 短筒状生地aの一方の開口端周縁に、便座7の裏面に当接させる輪状の硬質弾性芯材4を設けてあること。

(三) 短筒状生地aの他方の開口端周縁に、ゴム条等の伸縮性条体6を設けてあること。

2 作用効果

(一) 便座カバーの原形となる伸縮性帯状生地は簡単な形状であるから、伸縮性生地の歩止まりを良好にして容易に裁断することができるとともに、適宜長さを有する伸縮性帯状生地の両端を縫合するだけで短筒状生地が形成されるので、製作が極めて多量生産に適し、安価に供給しうる。

(二) 便座に取り付ける際に、硬質弾性芯材を便座の裏面に当てがい、短筒状生地を便座の上面を越えて裏面側に折り返すだけで簡単に取り付けが行えるばかりでなく、生地は便座の形状に合わせて裁断することなく略同一巾の帯状生地から短筒状に形成され、かつ伸縮性生地よりなるので、便座の形状に対して前後、左右に位置付けを行う必要がなく、便座の形状に応じ短筒状生地が変形して種々の便座に簡単に適合させることができる。

(三) 硬質弾性芯材もその弾性によつて容易に変形して適合するものであり、その上、便座の裏面に当接した該芯材を支点として、短筒状生地を便座の内周縁から上面に密着させた後、便座の裏面側において伸縮性条体を収縮させるように構成したので、短筒状生地が硬質弾性芯材と伸縮性条体によつて周方向並びに巾方向に十分な張りを保持した状態で便座に密着し、使用中における妄動を確実に阻止できるとともに、短筒状生地が多少変形しても使用後その伸縮力と伸縮性条体とによつて直ちに原形状に復帰することができる。

〔編註その二〕本件に関する被告製品説明書は左のとおりである。

被告製品説明書

一 図面の説明

第1図は、第2図の短筒状生地を形成する前のパイル状メリヤス編生地<1>の平面図である。

第2図は、短筒状生地を示す基本構造斜視図である。

第3図は、短筒状生地の一方開口端周縁にポリプロピレン製芯材<4>を設け、他方開口端周縁にフツク付ゴム条<6>を設けた便座カバーの基本構造斜視図である。

第4図は、便座カバーの斜視図である。

第5図は、便座カバーを便座<7>にとりつける状態の斜視図である。

二 便座カバーの構成

次の1ないし3の構成を備える添付第1図ないし第5図に示すとおりの便座カバー

1 便座の形状に合わせて裁断することなく一定巾と適宜長さを有し一側縁の両端隅角部を切除したパイル状メリヤス編生地<1>の両端を縫合して短筒状生地を形成してある(切除した両端隅角部もほつれ止めの縫合がなされている。)。

2 短筒状生地の切除した隅角部があらわれていない開口端周縁に便座<7>の裏面に当接させる輪状のポリプロピレン製芯材<4>を設けてある。

3 短筒状生地の他方の開口端周縁にフツク付ゴム条<6>を設けてある。

<省略>

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