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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)4373号 判決 1983年3月28日

原告

新居正美

右訴訟代理人

西岡芳樹ゼ・ホンコン・エンド・シャン

被告

ハイ・バンキング・コルポレーション

日本における代表者

中島昭夫

右訴訟代理人

岡本秀夫

主文

一  被告は、原告に対し、金七六万四三〇〇円、及びこれに対する昭和五五年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一当事者等

被告は、いわゆる在日外国銀行であり、香港に本店を、東京、大阪にその営業所(支店)を有していること、原告は、昭和五二年六月一六日から訴外関西明装株式会社の社員として、被告大阪支店に出向し、メッセンジャーとして勤務していたところ、昭和五三年一二月七日、被告との間に、臨時従業員雇用契約を締結して被告の従業員となると同時に、勤務年限としては、右昭和五二年六月一六日から被告に勤務していたものとしての取り扱いを受けることとなつたこと、原告は、昭和五三年、外銀労に加入し、その組合員となつたこと、なお、被告の東京支店及び大阪支店には、外銀労の外に従業員組合があること、以上の事実は、当事者間に争いがない。

二原告の退職金請求権の発生

原・被告間の臨時従業員雇用契約では、原告の労働条件については、被告の就業規則のうち疾病に関する項目を除く部分の準用を受けるとともに、被告と外銀労との間の諸協定のうち、少なくともその支給時において効力を有する諸協定の準用を受けること、原告の雇用期間は、昭和五四年六月三〇日までとされていたが、昭和五八年六月三〇日までの間は一年毎に雇用契約を更新することが可能とされており、その後現実に一年毎に更新されて現在に至つているところ、原告の退職金の支給については、昭和五五年六月三〇日に退職(事務行員の場合の停年退職に相当)したものと看做して、同日に支払うものとされていたこと、以上の事実についても当事者間に争いがない。

従つて、原告は、昭和五五年六月三〇日の到来と共に、被告に対し、所定の退職金の支払を請求し得るものというべきである。

三退職金の額

1  被告の従業員に対する退職金の支給については、被告の就業規則(甲第四号証「四 退職金」の項に、「支給時の退職金協定による。」と規定されていること、被告と従業員組合との間で昭和五〇年六月二六日に、退職一時金及び退職年金の支給に関する退職金協定が締結されたところ、その内容は、原告主張の請求原因2の(二)に記載のとおりであること、ついで、被告と外銀労との間で同年七月二九日に、右と同一内容の退職一時金及び退職年金の支給に関する退職金協定(本件協定)が締結されたこと、被告は、その後、被告と従業員組合との間で締結した前記退職金協定の写を被告の就業規則変更届に添付して大阪中央労働基準監督署に届けたこと、本件協定は、昭和五三年一二月末日までは有効に存続していたが、右同日限り失効したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

そうとすれば、本件協定が失効した昭和五三年一二月末日までは、被告の従業員で外銀労に属する者に対しては、本件協定によつて、その退職金の額が定まる関係にあり、本件協定の準用される原告についても同様であつたものといわなければならない。

2  次に、本件協定が昭和五三年一二月末日限り失効したことは、前記のとおり当事者間に争いがないところ、その後被告と外銀労との間で、退職金に関する新たな協定が結ばれておらず、右同日以降、被告と外銀労との間では、退職金に関する協定が存在していないことは弁論の全趣旨から明らかである。

ところで、労働協約の失効後のその余後効の有無については、明文の規定のないところから、種々議論の存するところであるが、少なくとも、労働協約のうちで、賃金(退職金を含む)や労働時間その他個々の労働者の労働条件に関する部分については、その労働協約の適用を受けていた労働者の労働契約の内容となつたものと解するのが相当である。けだし、労働協約の余後効を認めず、かつ、右のようにも解さなければ、労働協約の失効後は、これに代る新たな労働協約が締結されない限り、従前、適用されていた賃金、労働時間その他の労働条件について、これを律する根拠がなくなつて不合理であるのみならず、これを実質的にみても、労働協約によつて、賃金、労働時間、その他の労働条件が定められた場合には、右労働協約の存続中、当該労働組合所属の労働者は、これに従つて労務を提供し、賃金等の反対給付を受けていたのであるから、右労働協約に定める労働条件は、実質的に個別的な労働契約の内容となつていたものと認めるのが合理的であるからである。従つて、労働協約が失効した後でも、そのうち、賃金、労働時間、その他の労働条件に関する部分は、これを変更する新たな労働協約が締結されるか、又は、個々の労働者の同意を得ない限り、そのまま個々の労働者の労働契約の内容として使用者と労働者とを律するものというべきである。これを本件についてみるに、被告と外銀労との間で締結された退職一時金及び退職年金に関する本件協定は、前記当事者間に争いのない内容自体に照らし、外銀労に属する被告の従業員の退職一時金、退職年金の受給資格、その計算方法等退職金の額等を具体的に定めたものであつて、個々の右従業員の労働条件に関するものというべきであるから、本件協定で定めた右退職一時金、退職年金の受給資格、その計算方法、額等は、本件協定が有効に存続していた間、外銀労所属の被告の従業員であつたものについては、個々の労働契約の内容となつていたものというべきである。

従つて、被告が従業員組合との間に締結した退職金協定の内容をそのまま就業規則の一部とする旨の就業規則変更の届を大阪中央基準監督署に提出したことにより、外銀労に属する被告の従業員に対しても、原告主張の如く右就業規則の適用があるか否かの点は暫く措くとして、少なくとも、被告は、外銀労との間で締結した本件協定が失効した後も、被告と外銀労との間で、退職金等に関する新たな労働協約を締結するか、個々の従業員の同意を得ない限り、外銀労に属する被告の従業員に対し、本件協定によつて定められた計算方法によつて計算した退職金を支払わなければならないものというべきである。

3  そして、前記当事者間に争いのない事実に、<証拠>によれば、被告の臨時従業員である原告については、原告と被告との雇用契約により、被告と外銀労との間で締結され、その支給時において効力を有する協約の準用を受けるものとされていることが認められ、また、本件協定は、前述の通り、原告が退職金を受け得る昭和五五年六月三〇日当時において失効し、その効力はなかつたのであるが、原告は、本件協定が有効に存続していた昭和五三年一二月七日に被告の臨時従業員として雇用されたから、当時効力を有していた本件協定は、当然原告にも準用され、従つてその退職金については、本件協定の定める計算方法によつて計算した額が支払われることがその雇用契約の内容となつたものというべきである。

よつて、原告についても、右労働契約の効力として、本件協定の失効にも拘わらず、その退職したものと看做された昭和五五年六月三〇日の時点において、本件協定によつて定められた計算方法によつて計算した額の退職金の支給を受け得るものというべきである。<以下、省略>

(後藤勇 千川原則雄 小宮山茂樹)

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