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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)4926号 判決

【主文】

一  被告は、別紙目録記載の物件を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。

二  被告は、その占有にかかる前項記載の物件及びその製造用金型を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金七〇万九六九五円及び内金四一万八八二四円につき昭和五六年九月一日から、内金二九万〇八七一円につき昭和五七年六月一日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

六  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

【事実】

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨(ただし、別紙目録の説明中「脱衣籠」を「脱衣箱」に、「本体の四すみ外側に三角部を介して設けた挿入部を支柱の上部に嵌合させてこれらを着脱自在に組立て」を「載設してこれらを一体的に固定し」に各訂正し、「上縁部と屈曲部を除いて」を削除する)。

2  被告は、原告に対し、金九四五万円及び内金三七八万円に対する昭和五六年九月一日から、内金五六七万円に対する昭和五七年六月一日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(意匠権に基づく請求)

1 原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という)を有している。

出願 昭和五三年九月二五日(意願昭五三―四〇九九二)

登録 昭和五六年二月二七日(第五五三六七五号)

意匠に係る物品 乱れ箱

登録意匠 別紙意匠公報の記載のとおり。

2 被告は、別紙目録記載の乱れ箱(以下「イ号物件」という。ただし、別紙目録の説明中「脱衣籠」を「脱衣箱」に、「本体の四すみ外側に三角部を介して設けた挿入部を支柱の上部に嵌合させてこれらを着脱自在に組立て」を「載設してこれらを一体的に固定し」に各訂正し、「上縁部と屈曲部を除いて」を削除する。以下これを「原告主張の別紙目録」という。)を業として製造し、販売し、販売のため展示している。

3 イ号物件の意匠(以下「イ号意匠」という)は以下のとおり本件意匠の類似範囲に属する。

(一) 本件意匠の構成

(1) 上部に脱衣箱を有する本体及び二個の提手付洗濯籠の三者により不可分一体的に構成される脱衣収容具(乱れ箱)である。

(2) 縦方向の約二倍の横幅を有する横長長方形の支持台の下面の四すみに自在車輪を付設し、支持台の上面の四すみに自在車輪と連結する四本の支柱を垂直に立設し、この上面に深さが全高の約四分の一である無蓋の脱衣箱を載設してこれらを一体的に固定する。

(3) 前記支持台は

(イ) その左右の両辺に縦方向に高さが支柱の直径の約二倍の垂直壁面が形成される。

(ロ) 支持台の上面はその前後の両辺の周縁が横方向に縁取りされて、その内部に縁取り部から僅かに段落ちする平面台が形式される。

(ハ) 段落ち平面台の内部に左右に四個ずつ合計八個の縦方向の長方形の空隙が形式される。

(4) 支持台の段落ち平面台上でかつ前記縁取り部の内部に底面が長方形である二個の同一の上面開口状の提手付洗濯籠が段落ち平面台を横方向に二分するように並列、密着して載置される。

(5) 前記洗濯籠は

(イ) その高さは全高の約二分の一とする。

(ロ) 洗濯籠の前面壁の底辺から洗濯籠の高さの約三分の二の位置に前面の上部方向へ傾斜する傾斜壁を連成し、傾斜壁の長さは洗濯籠の高さの約九分の一とし、傾斜壁の上縁を背面壁及び両側壁の上縁より洗濯籠の高さの約四分の一下方に形成して衣服投入口を形成し、かつ傾斜壁の上縁を傾斜壁から若干張り出して形成する。

(ハ) 提手は、その両端を洗濯籠の左右側壁の上縁の中央に嵌合して起伏自在とし、左右側壁の一部及び背面壁の上縁に提手を収容する提手収容部を段落ち状に形成し、提手を背部に転倒すれば洗濯籠の背面壁及び左右側壁の上縁と一体となりかつ同一平面となるように配置形成する。

(二) イ号意匠の構成は、原告主張の別紙目録の説明及び図面のとおりである。

(三) 本件意匠とイ号意匠とを対比する。

(1) 前記(一)の(1)、(2)、(3)(イ)(ロ)、(4)、(5)(イ)ないし(ハ)はいずれも同一である。

(2) 前記(一)の(3)(ハ)について、本件意匠では支持台の空隙が左右に四個ずつ合計八個でありかつその形状が長方形であるのに対し、イ号意匠では支持台が縦方向に二分され、その前後及び左右に五個ずつ合計二〇個の空隙が形成されかつその形状は長円形となつている点が異なる。

(3) 本件意匠の上部脱衣箱及び提手付洗濯籠はいずれもその四側面及び底面が一面の板状材料から成り空隙がないのに対し、イ号意匠では上部脱衣箱の四側面及び底面並びに提手付洗濯籠の四側面に縦横、斜めに交叉する細桟が形成され、これらが空隙を形成する点が異なる。

(4) 本件意匠の上部脱衣箱及び提手付洗濯籠の四側面はいずれもほぼ垂直であるのに対し、イ号意匠ではいずれも四側面は内部に傾斜し、ほぼ逆台形となつている点が異なる。

(5) 本件意匠とイ号意匠とを対比すると、部分的には(2)ないし(4)の如く形成上わずかな差異は認められるが、本件意匠の要部は上部に脱衣箱を備えた本体に衣類投入口及び提手収容部を有する二個の洗濯籠を並列載置して三者一体とした形状にあり、この点において両者は共通しており、したがつて意匠を全体的に観察するとき、明らかに両意匠は酷似している。

(6) また、イ号意匠は、本件意匠との対比において(2)ないし(4)のような差異は有するものの、いずれも微差と評すべきものであるが、少なくともその脱衣箱及び洗濯籠の四側面及び底面のメッシュ模様を除けば、イ号意匠が本件意匠に類似する意匠であることは明白である。そして、右の脱衣箱及び洗濯籠の四側面及び底面のメッシュ模様は、本件意匠又はこれに類似する意匠の基本的形状に対して付加された模様と解されるのである。

したがつて、イ号意匠を実施すれば、必然的に本件意匠又は少なくとも明らかにこれに類似する意匠を実施することになる関係にあり、イ号意匠は本件意匠又はこれに類似する意匠に対し利用関係にある。

意匠法二六条一項及び二項は、登録意匠又はこれに類似する意匠と先願の登録意匠等との関係を定めるが、この理は未登録の意匠についても当然類推されるものであり、したがつて、イ号意匠が本件意匠又は少なくともこれに類似する意匠を利用する関係にあることは明らかであることから、被告はイ号意匠を業として実施することはできないと解すべきである。

4 以上のとおり、被告がイ号物件を製造、販売、展示する行為は本件意匠権の侵害行為であり、その製品及び製造用金型は、侵害の行為を組成する物に該当する。

5 被告は、イ号物件の製造、販売が本件意匠権の侵害となることを知り又は過失によりこれを知らないで、昭和五六年二月前から同五七年五月までの間次のとおりイ号物件を製造販売したが、本件意匠権の実施に対し通常受けるべき金銭の額(実施料相当額)は次のとおりであり、原告は右実施料相当額九四五万円の損害を受けた。

(一) イ号物件の一か月あたりの製造販売個数 六〇〇〇個

(二) 一個あたりの販売価額 二一〇〇円

(三) 昭和五六年三月から同五七年五月までの総販売価額 一億八九〇〇万円

(2,100円×6,000個×15

=189,000,000)

(四) 実施料率 総販売価格の五パーセント

(五) 実施料相当額 九四五万円

(189,000,000×0.05=9,450,000)

(実用新案権に基づく請求)

1 原告は、次の実用新案権(これを「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有している。

考案の名称 家庭用の脱衣収容具

出願 昭和五三年一〇月九日(実願昭五三―一三八九一九)

公告 昭和五六年六月一七日(実公昭五六―二五五九〇)

登録 昭和五七年二月二六日(第一四一九六四一号)

実用新案登録請求の範囲

「1、支持台1の上方に適当間隔を隔てて脱衣箱3を配設し、この脱衣箱3を支持台1から立設した支柱2に支持させ、脱衣箱3と支持台1との間に上面開口状の洗濯籠4を出入れ自在に収容させ、この洗濯籠4の一側壁上部に衣類投入口8を形成し、この籠4に起伏自在に提手12を装着してなる脱衣収容具。

2、第1項に記載の脱衣収容具において、洗濯籠の衣服投入口8を斜め上向きの傾斜面に形成したもの。

3、第1項又は第2項に記載の脱衣収容具において、衣服投入口8の少なくとも下側縁9を、洗濯籠4の周壁から若干張り出して形成したもの。

4、第1項、第2項又は第3項に記載の脱衣収容具において、洗濯籠4の上面開口周縁11の一部に、提手12を収容する提手収容部11aを段落ち状に形成したもの。

5、第1項、第2項、第3項又は第4項に記載の脱衣収容具において、支持台1に自在車輪15を付設して、脱衣収容具を移動自在に構成したもの。」

2 本件考案の構成要件は次のとおりである。

(第1項)

(一) 支持台1の上方に適当間隔を隔てて脱衣箱3を配設し、この脱衣箱3を支持台1から立設した支柱2に支持させる。

(二) 脱衣箱3と支持台1との間に上面開口状の洗濯籠4を出入れ自在に収容させる。

(三) 洗濯籠4の一側壁上部に衣服投入口8を形成し、この籠4に起伏自在に提手12を装着する。

(第2項)

(四) 洗濯籠の衣服投入口8を斜め上向きの傾斜面に形成する。

(第3項)

(五) 衣服投入口8の少なくとも下側縁9を、洗濯籠4の周壁から若干張り出して形成する。

(第4項)

(六) 洗濯籠4の上面開口周縁11の一部に、提手12を収容する提手収容部11aを段落ち状に形成する。

(第5項)

(七) 支持台1に自在車輪15を付設して、脱衣収容具を移動自在に構成する。

3 本件考案の作用効果は次のとおりである。

(一) 程良い高さに脱衣箱を設け、その下方空間を利用して洗濯籠を収納するので、少ない設置スペースに脱衣箱と洗濯籠とを整頓して置くことができ、比較的狭い場所を利用して設置することができる。

(二) 入浴時などに脱いだ衣服のうち汚れているものは分別して洗濯籠に収容することができるので衛生的であるうえ、洗濯籠の上方を脱衣箱で遮ぎつて、洗濯籠の内方を見えにくくするので見苦しさがなく、体裁よく脱衣を収容しておける。

(三) 洗濯籠の一側上部に衣服投入口を設けるようにしたので、衣服を側方から直接投げ入れることができ、脱衣箱と洗濯籠との間が狭い場合も、正立姿勢のまま簡単に投入することができる。

(四) 洗濯籠は脱衣箱と支持台との間に出し入れ自在であるうえ、提手を装着しているので、その取扱いが容易であり、また洗濯前及び洗濯後の洗濯物の運搬を楽に行うことができる。

4 被告は、別紙目録記載の脱衣等の収容具(以下「イ号物件」という。ただし同目録の説明については意匠権に基づく請求の請求原因2参照)を製造し、販売し、展示している。

5 イ号物件の構成及び作用効果は次のとおりである。

(構成)

(一)' 支持台の上方に適当間隔を隔てて脱衣箱を配設し、この脱衣箱を支持台から立設した支柱によつて支持させる。

(二)' 脱衣箱と支持台との間に上面開口状の洗濯籠を出入れ自在に収容させる。

(三)' 洗濯籠の一側壁上部に衣服投入口を形成し、この籠に起伏自在に提手を装着する。

(四)' 洗濯籠の衣服投入口を斜め上向きの傾斜面に形成する。

(五)' 衣服投入口の下側縁を洗濯籠の周壁から若干張り出して形成する。

(六)' 洗濯籠の上面開口周縁の一部に提手を収容する提手収容部を段落ち状に形成する。

(七)' 支持台に自在車輪を付設して、脱衣収容具を移動自在に構成する。

(作用効果)

イ号物件は前記の構成により前記3記載の作用効果を有する。

6 本件考案とイ号物件とを対比すれば、両者はその構成及び作用効果において全く同一である。したがつて、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属し、被告がイ号物件を製造、販売、展示する行為は、本件実用新案権に対する侵害行為であり、その製造するイ号物件及び製造用金型は、侵害行為を組成する物に該当する。

7 被告は故意又は過失により本件実用新案権を侵害したものであるから原告が受けた損害九四五万円(意匠権に基づく請求の請求原因5参照)を賠償する義務がある。

よつて、原告は、被告に対し、本件意匠権及び本件実用新案権に基づき、イ号物件の製造、販売、展示の差止及びイ号物件、製造用金型の廃棄を求めると共に、損害金九四五万円及び内金三七八万円(昭和五六年三月から同年八月までの分)につき不法行為の日の後である昭和五六年九月一日から、内金五六七万円(昭和五六年九月から同五七年五月までの分)につき不法行為の日の後である昭和五七年六月一日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める<以下、省略>。

【理由】

第一意匠権に基づく請求

一請求原因1の事実(原告が本件意匠権を有すること)、被告が過去にイ号物件(ただし、その説明については争いがある)を業として製造し、販売し、販売のため展示していたことは当事者間に争いがない。

別紙目録の図面については、被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。同目録記載の説明中、「脱衣籠」、「不可分一体的に」、「本体の四すみ外側に三角部を介して設けた挿入部を支柱の上部に嵌合させてこれらを着脱自在に組立て」、「背面壁及び左右側壁の上縁」、「上縁部と屈曲部を除いて」との点を除き当事者間に争いがない。そして、別紙目録の図面、によれば、別紙目録の説明のうち前記争いのある部分は別紙目録のとおり表現するのが妥当であると認められる。

二被告は、本件意匠が冒認出願に係り、したがつて本件意匠は拒絶理由及び無効事由を有しているから、右権利の行使は権利の濫用にあたると主張するが、およそ意匠権の付与、無効等の処分は特許庁の専権に属するところであつて、いつたん特許庁がその専権に基づきある意匠に意匠権を付与した以上、それが意匠法所定の無効審判手続(及びこれに続く行政訴訟)で無効にすべき旨の審決がなされその審決が確定しない限り、侵害訴訟裁判所はこれを無効と判断することはできず、したがつてまた、主張される無効原因の存在を前提としてその権利行使が権利濫用であるとして訴えを断じ、無効審決の確定を待たずして権利の絶対的失効を結果させることも、特段の事情のない限り許されないというべきである。

しかるに、本件意匠権について無効審決が確定したことの主張立証はない。

三イ号物件が本件意匠に係る物件と機能及び用途を同じくする脱衣等の収容具、すなわち「乱れ箱」であることについては、前記の事実と弁論の全趣旨により認められるので、以下イ号意匠と本件意匠の類否について検討する。

1  <証拠>によれば、本件意匠は次の構成を有することが認められる。

(1) 上部に脱衣籠を有する本体及び二個の提手付洗濯籠の三者により不可分一体的に構成される脱衣収容具(乱れ箱)である。

(2) 縦方向の約二倍の横巾を有する横長長方形の支持台の下面の四すみに自在車輪を付設し、支持台の上面の四すみに四本の支柱を垂直に立設し、この上面に深さが全高の約四分の一である無蓋の脱衣籠を載設してこれらを一体的に固定する。

(3) 前記支持台は

(イ) その左右の両辺に縦方向に高さが支柱の直径の約二倍の垂直壁面が形成される。

(ロ) 支持台の上面はその前後の両辺の周縁が横方向に縁取りされて、その内部に縁取り部から僅かに段落ちする平面台が形成される。

(ハ) 段落ち平面台の内部に左右に四個ずつ合計八個の縦方向の長方形の空隙が形成される。

(4) 支持台の段落ち平面台上でかつ前記縁取り部の内部に底面が長方形でその四側面が底面に対しほぼ垂直である二個の同一の上面開口状の提手付洗濯籠が段落ち平面台を横方向に二分するように並列、密着して載置される。

(5) 前記洗濯籠は、

(イ) その高さは全高の約二分の一とする。

(ロ) 洗濯籠の前面壁の底辺から洗濯籠の高さの約三分の二の位置に前面の上部方向へ傾斜する傾斜壁を連成し、傾斜壁の長さは洗濯籠の高さの約九分の一とし、傾斜壁の上縁を背面壁及び両側壁の上縁より洗濯籠の高さの約四分の一下方に形成して衣服投入口を形成し、かつ傾斜壁の上縁も傾斜壁から若干張り出して形成する。

(ハ) 提手は、その両端を洗濯籠の左右側壁の上縁の中央に嵌合して起伏自在とし、左右側壁の一部及び背面壁の上縁に提手を収容する提手収容部を段落ち状に形成し、提手を背部に転倒すれば洗濯籠の背面壁及び左右側壁の上縁に接合し、かつ同一平面となるように配置形成する。

(6) 洗濯籠及び脱衣籠の四側面及び底面は凸凹や穴のない平坦面である。

2  ところで、意匠の類否を判断するにあたつては、両意匠を全体的に観察し、意匠の要部を対比してなすべきであり、まず本件意匠の要部について検討する。

<証拠>によれば、本件意匠に係る物品と同一又は類似の物品の意匠の公知資料として、実開昭五二―一三五九三九号公報の脱衣箱の意匠(以下「公知資料(1)」という、以下同じ)、実開昭五二―三五三四四号公報の脱衣籠の支持枠構造の意匠(公知資料(2))、実開昭五一―六一〇三五号公報の脱衣籠の懸架具の意匠(公知資料(3))、実公昭四九―三二五五号公報の物品収納袋付ハンガースタンドの意匠(公知資料(4))、実公昭三六―一六八五六号公報の整理箱支持棚の意匠(公知資料(5))、実開昭五三―四二〇五六号公報のバケツの意匠(公知資料(6))、実開昭五三―一一三一四六号公報の洗濯物および脱衣を入れるための籠の意匠(公知資料(7))、実公昭四〇―五六七七号公報の整理籠の意匠(公知資料(8))、実公昭四〇―一五九一四号公報の容器の意匠(公知資料(9))、米国特許第四〇〇三六一一号明細書の意匠(公知資料(10))が存在したことが認められる。

そして、意匠の要部は、公知意匠にない新規な部分であつて見る者の注意を強くひく部分にあると解されるところ、本件意匠につき右各公知資料と対比して本件意匠の要部を考えると、その要部は上部に脱衣籠を備えた本体に二個の洗濯籠を併列載置して三者一体とした形状(構成(1))にあると認められる。すなわち、前示公知資料と対比してみるに、本件意匠の構成のうち平坦面の把手付、投入口付洗濯籠(公知資料(6)、(8)ないし(10))や箱型脱衣籠(同(1)ないし(3)、(7))、車輪の連結された平面台に垂直に設けられた四本の支柱の上段に脱衣籠を設けること((1)、(4))、籠を二段に積み重ねること(同(1)ないし(3)、(5)、(7))は、同一あるいは似たものが従来から存しありふれたものであるのに対し、右各部分を組合わせて上部に脱衣籠を備えた本体に二個の洗濯籠を並列載置して三者一体とした点は前記公知資料には見られない目新しいものであり、本件意匠はかかる点に新規性があり、この点が見る者の注意を強くひく部分と認められるから本件意匠の要部ということができる。

3  イ号意匠の構成

前記の別紙目録記載の説明によれば、イ号意匠の構成は次のとおりであると認められる。

(1)' 上部に脱衣籠を有する本体及び二個の提手付洗濯籠の三者により不可分一体的に構成される脱衣等の収容具であり、

(2)' 縦方向の約二倍の横巾を有する横長長方形の支持台の下面の四すみに自在車輪を付設し、支持台の上面の四すみに四本の支柱を垂直に立設し、この上面に深さが全高の約四分の一である無蓋の脱衣籠を本体の四すみ外側に三角部を介して設けた挿入部を支柱の上部に嵌合させてこれらを着脱自在に組立て、

(3)' 前記支持台には

(イ)' その左右の両辺に縦方向に高さが支柱の直径の約二倍である垂直壁面を形成し、

(ロ)' 支持台の上面はその前後の両辺の周縁が横方向に縁取りされて、その内部に縁取り部から僅かに段落ちする平面台が形成され、

(ハ)' 該段落ち平面台の内部には前後左右に五個ずつ合計二〇個の縦方向の長円形の空隙が形成され、

(4)' 支持台の前記段落ち平面台でかつ前記縁取り部の内部に底面が長方形であり、かつ四側面が内部に傾斜した二個の同一の上面開口状の提手付洗濯籠が段落ち平面台を横方向に二分するように並列、密着して載置され、

(5)' 該洗濯籠は、

(イ)' その高さは全高の約二分の一とし、

(ロ)' 洗濯籠の前面壁の底辺から洗濯籠の高さの約三分の二の位置に前面の上部方向へ傾斜する傾斜壁を連成し、傾斜壁の長さは洗濯籠の高さの約九分の一とし、傾斜壁の上縁を背面壁及び両側壁の上縁より洗濯籠の高さの約四分の一下方に形成して衣服投入口を形成し、かつ傾斜壁の上縁を傾斜壁から若干張り出して形成し、

(ハ)' 提手は、その両端を洗濯籠の左右側壁の上縁の中央に嵌合して起伏自在とし、左右側壁の一部及び背面壁の上縁に提手を収容する提手収容部を段落ち状に形成し、提手を背部に転倒すれば洗濯籠の背面壁及び左右側壁の上縁に接合しかつ同一平面となるように配置形成し、

(6)' 上部脱衣籠の四側面及び底面並びに提手付洗濯籠の四側面には縦横、斜めに交叉する細桟が上縁部と屈曲部を除いて形成され、これらが空隙を形成すると共に、上部脱衣籠の上面四すみに円形の穴詰め具を取付けている。

4  本件意匠とイ号意匠とを対比する。

(一) イ号意匠(1)'、(3)'(イ)’(ロ)’、(5)'(イ)’ないし(ハ)’の構成は、いずれも本件意匠(1)、(3)(イ)(ロ)、(5)(イ)ないし(ハ)の構成と同一である。

(二) 本件意匠(2)とイ号意匠(2)'を対比すると、前者は四本の支柱の上に脱衣籠を載設しているのに対し、後者は脱衣籠を本体の四すみ外側に三角部を介して設けた挿入部を支柱の上部に嵌合させている点に相違がみられるほかは同一である。

(三) 本件意匠(3)(ハ)とイ号意匠(3)'(ハ)’を対比すると、前者は平面台の内部左右に四個ずつ合計八個の縦方向の長方形の空隙が形成されているのに対し、後者は前後左右に五個ずつ合計二〇個の縦方向の長円形の空隙が形成されている点において相違するほかは同一である。

(四) 本件意匠(4)とイ号意匠(4)'とを対比すると、前者は洗濯籠の四側面は底面に対しほぼ垂直であるのに対し、後者は洗濯籠は四側面が内部に傾斜している点において相違するほかは同一である。

(五) 本件意匠(6)とイ号意匠(6)'とを対比すると、前者の洗濯籠及び脱衣籠は凸凹や穴のない平坦面であるのに対し、後者のそれは縦横、斜めに交叉する細桟が形成されており、本件意匠にはない上部脱衣籠の上面四すみに円形の穴詰め具を取付けている点において相違する。

5 右共通点、相違点をもとに、イ号意匠が本件意匠に類似するか否かをみるに、前記のとおり本件意匠の要部は上部に脱衣籠を備えた本体の二個の洗濯籠を並列載置して三者一体とした点にあるところ、イ号意匠が右要部を備えていることは前記のとおりであり、イ号意匠は本件意匠に類似するというべきである。

そして、前記相違点のうち、前項(二)の脱衣籠を本体の四すみ外側に三角部を介して設けた挿入部を支柱の上部に嵌合させた点、同(四)の洗濯籠の四側面が内部に傾斜している点、同(五)のうち上部脱衣籠の上面四すみに円形の穴詰め具を取付けている点はいずれも部分的なものであり、また前項(三)の平面台の空隙の数、形状の差も右は二個の洗濯籠の下になり通常見えにくい部分の差異にとどまり、いずれも顕著な差異とはいえない。

更に、前項(五)の脱衣籠の四側面及び底面、洗濯籠の四側面の細桟にしても、成立に争いのない甲第一九号証には中国の伝統模様として種々の幾何模様が掲載され、本件意匠出願前公知であつた実開昭五二―一三五九三九号公報には図面として四側面及び底面に無数のひし形の穴のあいた籠が掲載され、同米国特許第四〇〇三六一一号明細書には四側面及び底面に無数の長方形あるいは正方形の穴のあいた籠が掲載されている各事実に照らすと、脱衣籠、洗濯籠に細桟が形成され、空隙のあることはありふれたことであり、右イ号意匠が(6)'の構成をとることによつて、前記本件意匠の要部である三者一体による全体的構成を超脱して、これと別個の美感を起こさせるものとは認められない。

したがつて前記各相違点はイ号意匠が本件意匠に類似するとの判断を左右するものではない。

6  <反証判断略>

四以上の説示のとおり、利用関係につき判断するまでもなくイ号意匠は本件意匠の類似範囲に属し、したがつて、被告は、業としてイ号物件を製造、販売、展示することにより原告の本件意匠権を侵害したということができる。

被告はイ号物件を昭和五七年四月中旬から製造販売していないと主張するが、仮にそうであるとしても、イ号物件が本件意匠の類似範囲に属することを被告において争つていることは弁論の全趣旨により明らかであり、そうだとすると、被告において前同様の侵害行為をするおそれがあるものと認められる。

そして、弁論の全趣旨によれば、イ号物件は射出成型の金型により製造されたことが認められ、製造用金型は本件侵害行為を組成したものということができる。なお、右金型がイ号物件以外の製品に転用可能であるとしても、どのような金型であれば転用可能であり、本件において被告に将来侵害行為をなすおそれの認められることに照らすと、右金型を組成物件と認めるのが相当である。

被告による右侵害行為が不法行為法上の違法行為であることはいうまでもなく、右違法行為は、過失によつてなされたものと推定される(意匠法四〇条)。したがつて、被告は原告に対し、右不法行為によつて原告の受けた後記実施料相当額の損害を賠償する義務がある(意匠法三九条二項)。

五そこで損害額について検討する。

1  被告が昭和五六年三月から昭和五七年四月までの間にイ号物件を一万一二六五個製造販売したことは当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によれば、被告はイ号物件を昭和五六年三月から同年八月までの間に六六四八個、同年九月から同五七年四月までの間に四六一七個、合計一万一二六五個を一個二一〇〇円で製造販売した事実が認められる。

原告は、被告の製造販売したイ号物件は月六〇〇〇個であると主張し、<証拠>中に右主張に副う部分もあるが、これを裏付ける証拠がないので採用し難く、他に被告が前記の数量を超えるイ号物件を製造販売したことを認めるに足りる証拠はない。

2  ところで、実施料率について原告は販売価格の五パーセントと主張し、被告は二ないし三パーセントと主張しているが、<証拠>によれば、わが国のプラスチック製品の実施契約における実施料率は三パーセントが最も多く、また原告は第三者に本件意匠を三パーセントの実施料で実施許諾していることが認められ、右各事実によれば、本件意匠の実施料率は販売価格の三パーセントと認めるのが相当であり、右数値を超えることを認めるに足りる証拠はない。

3  したがつて、実施料合計額は一万一二六五個×二一〇〇円×三パーセントの計算式により合計七〇万九六九五円となる(昭和五六年八月までの分四一万八八二四円、同年九月から同五七年四月までの分二九万〇八七一円)。<以下、省略>

(潮久郎 鎌田義勝 德永幸藏)

目録

別紙図面に示すように、上部に脱衣籠を有する本件及び二個の提手付洗濯籠の三者により不可分一体的に構成される脱衣等の収容具であり、縦方向の約二倍の横巾を有する横長長方形の支持台の下面の四すみに自在車輪を付設し、支持台の上面の四すみに四本の支柱を垂直に立設し、この上面に深さが全高の約四分の一である無蓋の脱衣籠を本体の四すみ外側に三角部を介して設けた挿入部を支柱の上部に嵌合させてこれらを着脱自在に組立て、前記支持台にはその左右の両辺に縦方向に高さが支柱の直径の約二倍である垂直壁面を形成し、支持台の上面はその前後の両辺の周縁が横方向に縁取りされて、その内部に縁取り部から僅かに段落ちする平面台が形成され、該段落ち平面台の内部には前後左右に五個ずつ合計二〇個の縦方向の長円形の空隙が形成され、支持台の前記段落ち平面台上でかつ前記縁取り部の内部に底面が長方形であり、かつ四側面が内部に傾斜した二個の同一の上面開口状の提手付洗濯籠が段落ち平面台を横方向に二分するように並列、密着して載置され、該洗濯籠は、その高さは全高の約二分の一とし、洗濯籠の前面壁の底辺から洗濯籠の高さの約三分の二の位置に前面の上部方向へ傾斜する傾斜壁を連成し、傾斜壁の長さは洗濯籠の高さの約九分の一とし、傾斜壁の上縁を背面壁及び両側壁の上縁より洗濯籠の高さの約四分の一下方に形成して衣服投入口を形成し、かつ傾斜壁の上縁を傾斜壁から若干張り出して形成し、提手は、その両端を洗濯籠の左右側壁の上縁の中央に嵌合して起伏自在とし、左右側壁の一部及び背面壁の上縁に提手を収容する提手収容部を段落ち状に形成し、提手を背部に転倒すれば洗濯籠の背面壁及び左右側壁の上縁に接合しかつ同一平面となるように配置形成し、上部脱衣籠の四側面及び底面並びに提手付洗濯籠の四側面には縦横、斜めに交叉する細桟が上縁部と屈曲部を除いて形成され、これらが空隙を形成すると共に、上部脱衣籠の上面四すみに円形の穴詰め具を取付けた脱衣等の収容具。

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