大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)7029号
原告
全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部
右代表者執行委員長
武建一
右訴訟代理人弁護士
西枝攻
被告
三ツ田保彦
被告
日下周三
右両名訴訟代理人弁護士
福本富男
被告
井手上正行
右被告訴訟代理人弁護士
土本育司
被告
円道信光
右被告ら四名訴訟代理人弁護士
鏑木圭介
同
戸田正明
主文
1 原告に対し、被告三ツ田保彦は、金四一万五一四一円、被告日下周三は、金二五万八三一五円、被告円道信光は、金一八万六三六五円、被告井手上正行は、金一六万三一四八円、及び、昭和五六年一一月二一日から各完済まで年五分の割合により金員をそれぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、関西地区の運輸関連事業に従事する労働者で組織された労働組合で、法人格を有している。
被告らは、原告傘下の滋賀交通豊中分会に所属する組合員であった。
2 被告らの所属する滋賀交通豊中分会は(以下、豊中分会と略称する。)、昭和五五年七月に結成されたが、右分会結成直後より、被告らが勤務する訴外滋賀交通株式会社(以下、訴外会社ともいう。)は、分会を忌嫌い、同年八月二〇日以降は分会員に対する配車を一切禁じた。
そこで、原告は訴外会社の右不当労働行為に対する闘争を組んだ。しかし、訴外会社は、右配車停止に伴い、分会所属員に対する賃金カットを行ったため、原告は、被告らに対し、「運輸一般関西地区生コン支部闘争支援犠牲者救援基金規定」(<証拠略>、以下、本件救援基金規定と略称する。)七条四項に基づき、被告らに対し、右賃金カットによる減給に伴なう生活保障の目的で貸付給付(以下、本件各給付金ともいう。)を左のとおり行った。
(一) 被告三ツ田に対し、
(1) 昭和五五年九月三〇日 四万六六一九円
(2) 同年一〇月三〇日 六万一一〇二円
(3) 同年一一月二九日 一万二〇〇〇円
(4) 同年一二月三〇日 五万九〇〇〇円
(5) 昭和五六年一月三〇日 七万九〇二二円
(6) 同年三月二日 五万二二五二円
(7) 同年三月二九日 一〇万五一四六円
合計 四一万五一四一円
(二) 被告日下に対し、
(1) 昭和五五年九月三〇日 四万五四六〇円
(2) 同年一〇月三〇日 六万七九一二円
(3) 同年一一月二九日 一万六〇〇〇円
(4) 同年一二月三〇日 六万円
(5) 昭和五六年一月三〇日 六万八九四三円
合計 二五万八三一五円
(三) 被告井手上に対し、
(1) 昭和五五年九月三〇日 一万四三二〇円
(2) 同年一〇月三〇日 七万〇八二八円
(3) 同年一一月二九日 一万一〇〇〇円
(4) 同年一二月三〇日 六万七〇〇〇円
合計 一六万三一四八円
(四) 被告円道に対し、
(1) 昭和五五年九月三〇日 二万四五四二円
(2) 同年一〇月三〇日 六万四八二三円
(3) 同年一一月二九日 一万五〇〇〇円
(4) 同年一二月三〇日 八万二〇〇〇円
合計 一八万六三六五円
3 ところで、右貸付の条件として、原告の支部規約三一条は、原告組合を脱退しようとする者は、「本組合に債務を有する場合は、その履行後でなければならない」と規定し、組合員は、原告脱退時に、原告に対して負担する債務の返済をしなければならないとしている。
そして、被告井手上は昭和五六年一月一〇日、同円道は同年一月二〇日、同日下は同年二月六日、同三ツ田は同年四月二〇日に、それぞれ原告を脱退したが、しかるに、被告らは、前記2の(1)ないし(4)の本件各給付金の返済をしない。
4 よって、原告は、金銭消費貸借契約の返還請求権に基づき、被告三ツ田に対し四一万五一四一円、同日下に対し二五万八三一五円、同井手上に対し一六万三一四八円、同円道に対し一八万六三六五円、及びこれらに対する最終の本訴状送達の日の翌日である昭和五六年一一月二一日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告らの主張
1(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2の事実のうち、本件各給付金が生活保障目的の貸付金であること及び本件給付金が本件救援基金規定の七条四項に基づくとの点(但し、本件救援基金規定に基づくものであることは認める)は否認し、その余の事実は認める。
(三) 同3の事実のうち、支部規約三一条が原告主張の内容で存在すること、被告らが原告主張の日時に原告を脱退したこと、被告らが本件給付金を返済していないことは認めるが、その余の点は否認する。
(四) 同4の主張は争う。
2 原告主張の本件各給付金は、左のとおり、原告の指令に基づくストライキ等の組合活動に従事したために被告らが被った賃金カット分に対する原告よりの補償金であり、被告らは、その返還義務を負わない。
すなわち、
(一) 原告は、昭和五五年八月頃から、訴外会社に対する夏季一時金や不当配転問題を巡って時限ストライキを含む闘争を組織したが、その際、原告は被告ら分会員に対し、勤務日や就業時間中の組合活動について訴外会社は当然欠勤扱いにし、賃金カットをするだろうが、その賃金カット分については原告が補償するので年次有給休暇や公休をとらずに組合活動に参加するよう言明したので、被告らは、原告の指令、指導に基づき、賃金カット覚悟で訴外会社に対する抗議行動、団体交渉、情宣活動等に参加した。
(二) 本件各給付金は、右のとおり、被告ら分会員が原告の指令に基づき、欠勤扱い覚悟で組合活動に従事したため、賃金カットされた分を、原告から毎月右賃金カット分の補償として支給されてきたものである。
(三) しかも、本件各給付金の性格につき、原告は、被告ら分会員に対し、補償だから返還しなくてもよい、訴外会社からその分は獲得する旨明確に説明していた。また、被告らは、当時原告に対し毎月組合費のほか犠牲者救援基金も支払っていたのであり、当然本件救援基金規定の適用を受け得る立場にあった。それ故、被告らは、本件各給付金は返済を要しないものと思ってこれを受け取っていたのであり、返済を要するものであったなら当初から受領していない。
(四) さらに、原告は、昭和五六年五月、訴外会社と和解をなし、訴外会社から夏季・冬季一時金分六三〇〇万円を含む九五〇〇万円を解決金として獲得しているが、その中には当然争議行為により分会員の被った賃金カット等の損害に対する賠償金も含まれているはずであるし、さすれば、当然本件各給付金についても右解決金の中に計上されているはずである(仮に計上されていないとしたら、原告で右給付金分を負担する旨の合意があったとしか考えられない)。
(五) なお、原告は、本件各給付金が本件救援基金規定七条四項に基づく貸付金であると主張するが、右規定は、四条、五条で右規定の適用事例を一般的に規定するところ、右適用事例には「無償給付」が含まれていることは明らかであり、「貸付金」は、右規定の七条に規定されている事例に給付される。しかして、本件各給付金の事例は、右「貸付金」の規定が適用されるのか、「無償給付」の規定が適用される場合なのかは、その規定上は判然としない。
三 被告らの主張に対する認否等
被告らの主張はすべて争う。
なお、原告が被告らに対し、本件各給付金の性格について、補償だから返さなくてもよい旨説明したことはなく、却って、本件各給付金は貸付金であり、原告を脱退する際には当然本件各給付金の精算をなすべきことの説明をしているし、現に、訴外会社との闘争期間中に原告を脱退した組合員の大半は、被告らを除いて、本件救援基金規定に基づく給付金の返済を終了している。また、被告らは、原告が訴外会社から取得した解決金により、被告らに対する本件給付金も回収している旨主張するが、しかし、原告が訴外会社と解決したのは、解決時の組合員に対しての賃金カット等を含めた補償であり、右解決時、既に原告を脱退していた被告らに支給した本件各給付金分については、訴外会社から取得していないし、原告が取得した右解決金も各組合員に支給し、その支給金から原告が各組合員に給付した給付金の返済を受けているものである。さらにそもそも、原告と訴外会社との間の闘争に被告らが参加したのは、被告らが所属していた滋賀交通分会の闘争として被告ら自身のためにしたものであり、原告のため、原告の業務としてなしたものでないことからしても、原告が被告らに対し、賃金の補償をすることはなく、本件各給付金は、被告らの生活保障のために貸付をしたものである。
第三証拠(略)
理由
一 当事者間に争いのない事実
1 原告が、関西地区の運輸関連事業に従事する労働者で組織された労働組合で、法人格を有していること、被告らは、原告傘下の滋賀交通豊中分会に所属する組合員であったこと、
2 被告らの所属する分会(滋賀交通豊中分会)は、昭和五五年七月に結成されたが、結成直後より、被告らが勤務する訴外会社(滋賀交通株式会社)は、分会を嫌い、同年八月二〇日以降被告らを含む分会員に対する配車を一切禁じたこと、そこで、原告は訴外会社の右不当労働行為に対する闘争を組んだが、訴外会社は、右配車停止に伴い、分会所属員に対する賃金カットを行ったこと、
3 原告は、被告らの右賃金カットによる減給に伴ない、本件救援基金規定に基づき、被告三ツ田に対し、昭和五五年九月三〇日に四万六六一九円、同年一〇月三〇日に六万一一〇二円、同年一一月二九日に一万二〇〇〇円、同年一二月三〇日に五万九〇〇〇円、昭和五六年一月三〇日に七万九〇二二円、同年三月二日に五万二二五二円、同年三月二九日に一〇万五一四六円、合計四一万五一四一円を、被告日下に対し、昭和五五年九月三〇日に四万五四六〇円、同年一〇月三〇日に六万七九一二円、同年一一月二九日に一万六〇〇〇円、同年一二月三〇日に六万円、昭和五六年一月三〇日に六万八九四三円、合計二五万八三一五円を、被告井手上に対し、昭和五五年九月三〇日に一万四三二〇円、同年一〇月三〇日に七万〇八二八円、同年一一月二九日に一万一〇〇〇円、同年一二月三〇日に六万七〇〇〇円、合計一六万三一四八円を、被告円道に対し、昭和五五年九月三〇日に二万四五四二円、同年一〇月三〇日に六万四八二三円、同年一一月二九日に一万五〇〇〇円、同年一二月三〇日に八万二〇〇〇円、合計一八万六三六五円を、それぞれ給付したこと、以上の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 本件各給付金が被告らに交付されるに至った経緯、方法、状況、原被告間の合意内容等
1 (証拠略)を総合すると次の事実が認められる。
(一) 被告らが勤務している訴外滋賀交通株式会社(訴外会社)では、昭和五五年七月以前から配転問題等で労使間に紛争が続いていたところ、訴外会社の豊中営業所に勤務する被告らを含む労働者で組織する労働組合は、昭和五五年七月一日、それまで加盟していた上部団体の全自交から原告全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部に組織移行し、原告の豊中分会となった。なお、これと同時期に、訴外会社の他の営業所の労働組合も原告に組織移行したり、個人加入したりした(以下、豊中分会を含めた総称として分会という)。
(二) 訴外会社と分会との労使間紛争は、同年七月二一日に右組織移行を公然化して以降、配転問題のほか、同年の夏季一時金問題等を巡ぐって激化し、訴外会社は、分会員らに対し配車停止に及び、これに対し、原告は、分会に対し、年次有給休暇や公休を取得せずにストライキをして組合活動するよう指令を発し、指導し、これに対し、所属分会は、訴外会社との争議を、自分自身のための闘争と理解し、自らの労働条件や生活は、自らの手で、自らの犠牲のもとに守らねばならないと位置づけ、豊中分会でも有給休暇をとらずに賃金カット覚悟で闘争することに意思統一し、同年八月頃からストライキを断続的に行い、訴外会社に対する抗議行動、情宣活動等の闘争をした。
(三) ところで、原告は、分会の組織移行に際し、その分会員らに原告の規約・規定集(<証拠略>)を配賦のうえ、原告の組合規約について説明し、合わせて本件闘争支援犠牲者救援基金制度についても説明し、その活用を勧めたが、その際、原告は、賃金カットに対する生活補償を用意している、これについては、争議が解決した段階で訴外会社から取るから返済については心配いらない、争議解決金で精算する、途中で脱退する者は、原告の規約三一条で全部返済してもらう旨説明した。
(四) 原告の本件闘争支援犠性者救援基金規定(<証拠略>)は、その一条で、本件救援基金は原告の闘争力を拡充強化し、争議などの有利な解決と組合活動のために犠性を被った場合の救援に資することを目的とする旨規定し、その三条ないし一〇条で、本件救援基金の適用対象、条件、救援基金の返還の要否・方法等について規定しているが、特に救援基金の支出につき、その五条で、原則として返還を要しない給付金の適用対象を、その七条で、貸付金の適用対象をそれぞれ規定している。そして、原告では、原告所属の分会員の争議等による賃金カットに対する生活補償については、右規定の七条を適用して救援基金の貸付給付とする運用がなされている。
(五) 分会員らは、同年八月頃から配車停止やストライキ等のため賃金カットを受け出し、そのための減収が目立ってきたため、原告に本件救援基金から生活補償の給付を求めた。そこで、これを受けた原告の執行委員会は、救援基金の財政状況と分会の要望、訴外会社における争議状況等を考慮して、本件救援基金規定七条を適用して、貸付給付することを決定し、豊中分会については、同年九月から、被告ら豊中分会員の一か月の手取り収入が一五万円を確保できるように、一五万円から訴外会社から支給される手取り賃金額を控除した差額にあたる金員を、同年一〇月からは、豊中分会の要望を入れて一六万円から右手取り賃金額との差額にあたる金員を、それぞれ給付したが、右給付を開始する際、豊中分会あるいは分会員は、本件救援基金規定が要求している「運輸一般闘争基金適用申請書」を原告に提出していないし、また、原告は、本件各給付金が貸金であるとかその返済の要否や方法、あるいは本件救援基金規定の何条に基づく給付金であるとかの本件各給付金に関する説明を改ためてはしなかった。
(六) なお、本件救援基金の資金は、組合員から毎月一〇〇円ずつ徴収するものと争議解決分会からの寄付金等でまかなわれており、被告らも原告に加入すると同時に毎月一〇〇円ずつ他の組合費と合わせて原告に納入し、また、被告ら豊中分会員も当然資金関係につき右の程度の事実は認識していた。
(七) 本件各給付金の交付の状況は、豊中分会においては分会員名とそれに対応する手取賃金額、並びに一五万円ないし一六万円から右手取賃金額を差し引いたところの本件救援基金からの給付金額を記載した一覧表(<証拠略>)を毎月作成し、これに基づき、豊中分会が毎月一括して原告から右給付金を受け取り、これを被告らを含む分会員に交付し、その際、分会員に右一覧表に受領印を徴した。
なお、豊中分会は、右一覧表のうち昭和五五年九月分から五六年三月分までのものについては、分会員への給付金につき、「負担額」、「保証」、「支部保証」と記載し、五六年四月分についてのみ、「支部貸付保証」と記載した。
(八) 豊中分会においては、その後昭和五六年一月に至るまでの間、本件各給付金の法律的性質や返還の要否について論議されたことはなかったが、同年一月二〇日に被告円道が原告を脱退した(円道が脱退したことは当事者間に争いがない)直後の分会において、本件各給付金が貸金であるかどうか問題となり、貸金であるから脱退者に対しその返還を求めるべきとの意見も分会員の中から出たが、その時点で原告に残っている豊中分会員の間では、団結を乱すことを虞れて脱退のことなど考えずに最後まで闘い抜こうということになった。
(九) その後昭和五六年五月八日、滋賀県地方労働委員会の斡旋で、原告と訴外会社との間に和解が成立し、原告は訴外会社から未払の一時金分等を含めた解決金として総額九五〇〇万円を取得し、分会員らに交付すべきその中の一部で、原告が本件救援基金規定七条に基づき分会員らに支給していた給付金の返還請求権と相殺した。
以上の事実が認められ、被告円道信光、同日下周三各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 右認定の事実によれば、原告は、本件救援基金規定七条に基づいて本件各給付金を貸付給付することに決定し被告らにこれを支給したものであることは明らかであるが、前記認定の原告が被告らを含む豊中分会員に本件救援基金規定を説明した状況、本件各給付金の支給状況等に加えて、(証拠略)によれば、被告円道は、昭年五五年度冬季一時金が未支給だったところから、右一時金に充てるため同年一二月二七日に原告から一五万円の交付を受けたが、これについては明確に借受金として受け取り、原告を脱退した後に右金員を返還していることが認められ、これらの事実に照らすと、被告らは、本件各給付金の交付開始当時これが貸金であるとは必ずしも明確には認識していなかったことが窺われる。
しかしながら、前記認定の事実によれば、被告らは、本件各給付金は争議解決金をもって精算されるものと認識していたもので、いかなる場合にもその返還を要しないものと認識していた訳ではないうえ、そもそも、原告が金員を給付した主な目的は、労働争議によって生ずる経済的窮迫による脱落者の出現を防止し、原告の闘争力を拡充強化することにあるものというべく、その限りで分会員に対して当面する生活補償を行ったものと解せられるのであって、このような場合には生活補償自体無条件のものではなく、あくまで闘争力の拡充強化というより高度の目的に奉仕する範囲でなされるべきものといわねばならない。従って、金員の給付を受けた分会員が、原告を脱退するなど闘争力の拡充強化の目的に反する行為に及んだときは、既に受領した金員についても遡って返還すべきことが当然予定されていたものと解することができる。そして、前記認定の事実に照らして、被告らを含む豊中分会員も右のことは十分認識していたものと推測され、従って、被告らは、いずれも本件各給付金の受領に際して、右の要請を了承していたものというべく、この意味で、少なくとも本件各給付金の受領に際して原告を脱退するなど闘争力の拡充強化の目的に反する行為に及んだときには既に支給を受けた本件各給付金を返還する旨の暗黙の合意があったものというべきである。
そうとすると、被告らは、本件各給付金が貸金であることを明確には認識していなかったにしても、少なくとも本件各給付金は争議解決金をもって精算されるものであり、また、原告を脱退するなど闘争力の拡充強化の目的に反する行為に及んだときには既に支給を受けた本件各給付金を返還することを合意していたものというべきである。
三 もっとも、
1 被告らは、原告の指令に基づき、欠勤扱い覚悟で組合活動に従事したため、賃金カットされた分を原告から毎月賃金カット分の生活補償として本件各給付金が支給されたものであるうえ、原告は、本件各給付金は補償だから返還しなくてもよい、訴外会社からその分は獲得する旨明言していたし、また、被告らは、当時原告に対し毎月組合費のほか犠牲者救援基金も支払っていたのであり、当然本件救援基金規定の適用を受ける立場にあったものであって、その返還の義務を負わない旨主張する。
なるほど、被告らを含む豊中分会員が原告の指令や指導のもと、有給休暇をとらずに賃金カット覚悟で闘争したこと、これに対し原告は、訴外会社から獲得するから返還については心配しないでよい旨説明して本件各給付金を支給したこと、被告らは、毎月一〇〇円ずつ犠牲者救援基金を支出していたこと前記のとおりであり、また、前記認定の事実によれば、本件各給付金が争議期間中における被告ら分会員の生活補償の性質を有することは明らかである。
しかしながら、生活補償だからといって、直ちにいかなる場合にも返還を要しないとは言えないばかりか、前記認定のとおり、被告らは、原告を脱退するなど闘争力の拡充強化の目的に反する行為に及んだときには既に支給を受けた本件各給付金を返還する旨合意していたものというべきであるから、原告が訴外会社から獲得するから本件各給付金の返還については心配しなくともよい旨説明し、また、被告らが犠牲者救援基金を支出していたにしても、原告を脱退するなど闘争力の拡充強化の目的に反する行為に及んだ場合にも返還を要しないものとは到底いえず、右被告らの主張は採用しえない。
2 また、被告らは、原告が昭和五六年五月に訴外会社と和解をなし、その際訴外会社から受け取った解決金の中には当然本件各給付金分も含まれており、また仮に含まれていないとしたら、原告で右給付金分を負担する合意があったものというべきであるから、被告らには、本件各給付金を返還する義務がないと主張する。
なるほど、昭和五六年五月八日、滋賀県地方労働委員会の斡旋で、原告と訴外会社との間に和解が成立し、原告は訴外会社から解決金として総額九五〇〇万円を受領したこと前記認定のとおりであるが、しかしながら、後記のとおり、被告らは右昭和五六年五月八日の和解成立以前に原告を脱退しているうえ、(人証略)によれば、原告が本件争議に関連して原告所属の分会員に給付した貸付金のすべてを右解決金で回収出来た訳ではないことが認められ、これらの事実に照らすと、右解決金の中に当然本件各給付金分が含まれていたとも、また、原告で右給付金分を負担する合意があったともいえず、他に、右被告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
四 そこで次に、被告らの本件各給付金の返還義務について検討する。
いつまでに脱退した者に対し返還義務を認めるかは、前記本件各納付金の返還に関する合意内容から導びかれるべきものと解するところ、本件各給付金は、前記のとおり闘争力の拡充強化のためにする消費貸借契約類似の契約であることに照らすと、右の返還義務の具体的発生時期は、本件救援基金からの給付を必要とした争議状態が除去されるまでに原告を脱退した時と解するのを相当と認める。
そして、(証拠略)によれば、訴外会社の争議は、豊中分会等が昭和五五年七月原告に組織移行した後次第に激しくなり、昭和五六年二月下旬頃から反覆してストライキをするなど激化の一途をたどったことが認められ、同年五月八日、滋賀県地方労働委員会の斡旋で原告と訴外会社との間に和解が成立し、一応争議状態が除去されたこと前記のとおりである。そして、被告井手上が昭和五六年一月一〇日、同円道が同年一月二〇日、同日下が同年二月六日、同三ツ田が同年四月二〇日にそれぞれ原告を脱退したことは当事者間に争いがない。そうとすると、被告らが原告を脱退したのは、いずれも未だ本件給付金の支給を必要とした争議状態が除去されていない時期であるから、右時期までに脱退した被告らが本件各給付金の返還義務を負うことは明らかである。
そして、原告の支部規約三一条が、原告を脱退しようとする組合員は、原告に債務を有する場合には、その履行後でなければならないと規定していることは当事者間に争いがなく、右被告らの本件各給付金の返還義務が右支部規約三一条にいう債務に該当することは明らかであるから、右返還義務の履行期は、被告らが原告を脱退すると同時に到来したものというべきである。
五 以上のとおりとすると、原告が被告らに対し、本件各給付金の返還とそれに対する返還期日以降である昭和五六年一一月二一日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 千川原則雄)