大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)739号 判決
一 請求原因1ないし5の各事実は当事者間に争いがない。
二 被告は、本件考案の実施品であるイ号物品は、原告、被告の共同開発に係るものであり、被告が日本リードに注文して販売しており、被告は先使用による通常実施権を有すると主張し、原告はイ号物品は貫孔式であるが、本件考案出願前に被告が販売していたのは滑車式であつたと主張する。
しかして、検甲第一号証の一、二(イ号物品とその写真)と原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)及び弁論の全趣旨によると、イ号物品は紐貫通孔を有する突出部分を備えた貫孔式であるが、原告主張の滑車式なるものは、その代りに滑車を用いたもので、イ号物品の構成(ニ)´(ホ)´(ヘ)´(本件考案の構成要件(ニ)(ホ)(ヘ))を欠いていると認められるので、争点は、本件出願前被告の販売したものが貫孔式であつたかどうかに存するところ、成立に争いのない乙第七号証(被告の一九六七年(昭和四二年)四月二四日発行のカタログ)、成立に争いのない乙第八号証(日本リード発行のカタログ、ただし日付はない)、証人高橋泰輔の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証(高橋末三郎商店の一九六七年四月発行のカタログ)、成立に争いのない乙第一二号証(日本リードと被告間の昭和四一年一一月二四日付「紐付きレジスター」についての製品売買契約書)、証人打土井正二の証言により真正に成立したと認められる乙第一四号証の一、二、同第一五号証(いずれも被告の昭和四一年度(昭和四一年四月一日から同四二年三月三一日まで)の帳簿で「紐付きレジスター」につき最高五〇〇〇個、合計六〇〇〇個余りの在庫の記帳がある)を提出し、証人高橋泰輔、同片田茂、同打土井正二の各証言中には、被告は昭和四一年夏ころ本件考案を原告に提案し、原告が図面を書いた旨、被告は昭和四一年末から日本リード製造にかかる紐付きレジスターを購入し(乙第一二号証)、昭和四二年三月末まで在庫が六〇〇〇個以上になつていた旨(乙第一四号証の一、二、乙第一五号証)、右紐付きレジスターは貫孔式であつてイ号物品と同一であり、昭和四二年四月ころ被告及び高橋末三郎商店が発行、配布したカタログ(乙第七及び第九号証)及び本件考案出願前に日本リードが発行したカタログ(乙第八号証)に掲出された紐付きレジスターはいずれも右貫孔式である旨、被告はイ号物品を大和技研に注文しているが、その金型は右日本リードが右紐付きレジスターの製造に用いていたそのものである旨、の各証言がみられる。
しかし、証人宮崎弘の証言、原告本人尋問の結果(第一ないし第三回)中には、日本リードは昭和四一年ころから原告考案に係る紐付きレジスターを製造したが始めは滑車式のものを製造していたところ、コスト高等の難点を解消すべく右滑車式に代え本件考案(貫孔式)を思いつき、昭和四二年六月ころから製造を始めるとともに、右滑車式に代え貫孔式とした点に新規性があると判断して本件出願に及んだこと、乙第八号証のカタログはその後同年八、九月ころ作つた旨の証言、供述があるところ、乙第七及び第九号証に掲出の紐付きレジスターの写真は、同書証自体から滑車式のものと視認し得ること、乙第八号証に掲出の紐付きレジスターは貫孔式のものと認められるが、貫孔式のカタログと滑車式のカタログが同時期に存在したとは考え難く、乙第八号証は昭和四二年四月から後のカタログであると考える方が自然であること、すると日本リードの倒産(八月)前に滑車式から貫孔式に変更していることになるから、その金型(後日大和技研に渡つたもの)が貫孔式のものであることは、乙第七及び第九号証に掲出のものが滑車式であることと何ら矛盾しないこと(なお証人宮崎弘の証言によると滑車式から貫孔式への金型の一部手直しは容易になし得ることが認められる)、成立に争いのない乙第一三号証、証人打土井正二の証言によれば、乙第一二号証の日本リードと被告間の売買契約書は金融機関から融資を受けるためのものであつて、必ずしも有効ではない旨の念書が当事者間で差し入れられていることからして、右売買契約書が存在するからといつて直ちに、被告が昭和四一年末ころから日本リードから貫孔式の紐付きレジスターを購入していた事実までは認められないこと、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四号証によれば、原告は工業所有権を相当有し、出願手続にも明るいと推測されること、以上の事情に照らすと、前項記載の被告の各証拠を直ちに採用することはできず、他に被告の前記主張事実を認めるに足りる証拠もない。
三 被告は、本件考案は出願前公知公用であつたから本件実用新案権は無効であり権利の濫用であると主張するが、本件実用新案権につき特許庁において無効審決がなされてこれが確定したとの主張立証のない本件においては、侵害訴訟裁判所としては本件実用新案権を有効として取り扱わざるをえないのであるから、かかる主張を採用することはできない(更に、本件考案が出願前公知公用であつたと認めることができないことは前述のとおりである)。
四 証人片田茂の証言、原告本人尋問の結果(第三回)によれば、本件金型が岩谷産業株式会社に譲渡担保に入れられた際、原告は、同社が右金型によりイ号物品の製造を許諾していたこと、同社は右金型を更に大和技研に譲渡したことが認められるものの、原告が、右金型の譲渡を受けた第三者の大和技研にまでイ号物品の製造を許諾したとまでは認め難く(仮に金型に譲渡担保権を設定しこれを引き渡したことが、右金型を使用して実施される実用新案につき通常実施権を設定したものと解せられるとしても、その金型の所有権の移転とともに移転を受けた不特定の第三者に通常実施権の移転を承諾する意思を有したものと速断することはできない)、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
五 以上で認定説示したとおり、被告の抗弁はいずれも理由がないので、被告は、業としてイ号物品を製造販売することにより、原告の本件実用新案権を侵害したものといわなければならない。
六 そこで、原告主張の不当利得の成否について検討するに、被告がイ号物品を製造販売した行為は、本件実用新案権の実施行為に当たり、これを被告が原告の許諾なしに行つたことは弁論の全趣旨により明らかである。
原告はイ号物品の販売により被告の挙げた利益額を不当利得額として主張するけれども、原告本人尋問の結果(第三回)によれば、原告は個人として本件考案を実施して製品の製造販売をしたことはないことが認められ(また、原告が個人営業であると主張する寺岡技術研究所あるいは寺岡技研株式会社において、本件考案を実施して製品を製造販売していた事実も記録上認められない)、かかる場合には、被告の販売利益そのものを直ちに不当利得額(原告の損失)とするわけにはいかず、結局被告がイ号物品を販売したことにより実施料相当の利得を得、そのため原告はこれと同額の損失を蒙つたに止まるものというべきである。
そして、本件考案の実施料率は、当裁判所に顕著な国有特許権実施契約書及び弁論の全趣旨に照らすと、販売価格の三パーセントをもつて相当と考える。
被告はイ号物品の販売数量、販売価格について請求原因に対する認否5記載の限度で自認している。
一方、原告は被告の販売数量につき別表第2記載のとおりであると主張し、証人宮崎弘の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)中にはこれをうかがわせる部分があるが、右数値を客観的に裏づけるに足りる証拠はなく、右証言及び供述を採用し難く、他にイ号物品の販売数量が被告の自認した数をこえることを認めるに足りる証拠はない。
また、原告は販売価格についても請求原因7(二)で種々主張し、成立に争いのない甲第七号証の一ないし三(中小企業経営指標の一部)を提出しているが、右数値は一般的な数値であり、右数値を直ちに被告に適用することはできず、他に販売価格が被告の自認した数値をこえることを認めるに足りる証拠はない。
したがつて、被告の自認したところにしたがつて実施料合計額を計算すると、次のとおりである(ただし、少数点以下切捨)。
119,254(個)×0.64(卸売りの比率)×〔1,300(円)×0.4〕(卸売価格)×0.03(実施料率)=1,190,631
119,254(個)×0.36(小売りの比率)×〔1,300(円)×0.45〕(小売価格)×0.03(実施料率)=753,446
合計 一九四万四〇七七円
(なお、原告は、本件において悪意の不当利得を主張するけれども、以上の認定説示から明らかなとおり、被告の不当利得の性格が原告に支払うべき実施料相当の金銭の支払いを免れたことによるもので、不当利得額は右支払いを免れた全金額というべきであるし、利息金の請求もしていないので、悪意について判断する要をみない。)
七 原告の不法行為に基づく請求は不当利得に基づく請求と選択的になされたものと解しえるところ、不法行為が成立するとしても原告の損害額は前記認定額を上廻ることがないことは前述のところから明らかである。
八 証人宮崎弘、同片岡茂の各証言、原告本人尋問の結果(第三回)によれば、大和技研が本件金型を使用している事実は認められるものの、大和技研が被告のために本件金型を占有していることまでは認められず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
よつて、その余の点につき判断するまでもなく本件金型の所有権に基づく請求は理由がない。
九 以上の事実によれば、本訴請求は、一九四万四〇七七円及びこれに対する訴状にかわる準備書面送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年一月二〇日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は失当であるから棄却する。