大阪地方裁判所 昭和56年(行ウ)12号 判決 1983年7月28日
原告
真崎哲彦
右訴訟代理人
東垣内清
永岡昇司
戸谷茂樹
被告
門真税務署長
右指定代理人
布村重成
外四名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因1、2の事実は、当事者間に争いがない。
二本件各処分の手続的違法事由
(一)、(二)について
1 課税処分は、一種の行政処分とはいつても、税法で定められた課税要件を充足する具体的事実の存在によつて既に発生した納税義務について、その課税標準及び税額を更に明確に確定する性質を有する行政処分である。したがつて、課税庁は、課税標準、法定の税率によつて自動的に算出される税額どおりの課税処分をしなければならないのであつて、課税処分をするに当つて裁量の働く余地は本来全くない筈のものである(この点において、課税処分は、個人タクシー事業の免許とはその性質を異にするといわなければならない。最判昭和四六年一〇月二八日民集二五巻七号一〇三七頁参照)。そして、通則法二四条所得税法二四三条ないし二三六条等に規定された税務調査の手続は課税庁が課税要件の内容をなす具体的事実の存否を調査するための手続に過ぎないのであつて、この調査手続自体が課税処分の要件となることは如何なる意味においてもあり得ないというべきである。しかも、もともと更正処分取消訴訟法は、客観的に所得の有無を争う訴訟と解すべきであるから、違法な手続によつて収集した資料に基づく行政処分であつても、右違法が極めて重大な場合は格別、そうでない限り、客観的な所得に合致する限度では、取消事由にならないと解すべきである。そうすると、仮に、税務調査の手続が違法であつたとしても、納税者は、それによつて損害を被つた場合に国に対して国家賠償を請求するのは格別、更正処分が客観的な所得に合致する限り、右手続の違法自体を理由として更正課税処分の取消を求めることはできないと解するのが相当である。
もつとも、課税処分においても、それがなされた経緯(必ずしも税務調査の手続に限らない)に照らして、権利の濫用に亘る場合が考えられ、その場合は例外的に、課税要件の存否以外の事由が、課税処分自体の取消事由になると解すべきである。
そうとすれば、本件更正処分をするための調査手続に原告主張のような違法があつたとしても、右程度の違法をもつて、直ちに本件更正処分の取消事由になるとは解し難い。
2 のみならず、本件更正処分をするための調査手続に原告主張のような違法があつたとの事実を窺わせる<証拠>はたやすく信用できず、他に右原告主張の違法を認め得る証拠はない。
却つて、前記一の争いがない事実に、<証拠>によると、次のとおり認められる。
(一) 原告は、被告に対し、別表(一)の確定申告欄記載のとおり、係争各年分の原告の所得税の確定申告をした。
(二) 被告は、昭和五四年五月ころ、右確定申告は過少申告の疑いがあるとして、部下職員に原告の所得税の税務調査を命じた。
被告の部下職員である訴外景山某事務官は、同月一八日、原告に事前に連絡せずに原告の事務所に臨場したところ、原告が留守だつた。そこで、景山事務官は、その後原告と電話で打ち合わせた上、同年六月四日原告の事務所を再度訪れ、身分証明証を呈示し、原告に対し、係争各年分の帳簿書類の呈示を求めて税務調査に協力するよう要請した。しかし、原告がこれに応じなかつたので、景山事務官は、同事務所内の壁に貼られていた原告の取引先、得意先、下請等の電話番号を記載したメモから取引先名と電話番号を写し取り、原告に反面調査を行う旨告げて原告宅を辞去した。
(三) その後、被告は、原告の取引先等の反面調査を開始し、これに基づいて原告の係争各年分の売上金額を算出し、門真税務署管内の原告の同業者(法人)をモデルとしてその所得率によつて係争各年分の原告の総所得金額を推計したところ、その総所得金額が原告の前記確定申告の総所得金額を大きく上まわることが判明した。そこで、景山事務官は、同年七月三日、原告事務所を訪れ、原告に対し、修正申告(国税通則法((以下、通則法という))一九条)をするよう原告に促したが、原告はその意思がない旨答えた。
(四) 被告は、同年七月六日、右税務調査の結果に基づいて、原告に対して本件処分をした。
以上の事実が認められる。
そして、一般に、所得税法二三四条の質問、検査については、現行法上事前に通知すべき旨を定めた規定はないから、必ずしも右質問、検査に当つて、事前にその旨を被質問検査者に通知する必要はないと解すべきであるし、また、右検査に際し、その具体的理由を告げなければならない旨を定めた明文の規定はないから、右具体的理由を告げる必要は必ずしもないと解するのが相当である。
従つて、被告の部下職員が行つた質問検査は、適法且つ妥当なものであつて、何らの違法はなく、更に、原告が税務調査に協力して帳簿類等を任意に提出しない以上、課税庁である被告が、いわゆる反面調査を実施して原告の係争各年分の売上金額を把握し、これをもとに同業者の所得率を資料として原告の係争各年分の所得を推計して本件各処分を行つたことに違法はないというべきである。そして、本件各処分がいわゆる他事考慮の行政処分であるとか、課税権の濫用であることについては、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、これを認めるに足りる的確な証拠はどこにもないといわなければならない。
よつて、原告の手続的違法事由(一)、(二)の主張は、いずれにしても理由がない。<以下、省略>
(後藤勇 八木良一 小野木等)
別表(一)ないし(七)<省略>