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大阪地方裁判所 昭和57年(モ)8617号 判決

【主文】

一 申立人らと被申立人間の分庁昭和五三年(ヨ)第三三五六号不動産仮処分申請事件について、当裁判所が昭和五三年一〇月一九日になした仮処分決定はこれを取消す。

二 訴訟費用は被申立人の負担とする。

三 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

【事実】

第一  当事者の求めた裁判

一  申立人ら

主文と同旨

二  被申立人

1  申立人らの申立はいずれも却下する。

2  訴訟費用は申立人らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  申立の理由

1  被申立人は、申立人らを相手方として、当庁に対し、別紙物件目録記載(二)の建物(以下「本件建物」という)について執行官保管・申請人使用の仮処分申請をなし、当裁判所は右申請を認容して主文第一項掲記の仮処分決定(以下「原決定」という)をなした。

2  被申立人は、申立人らを被告として、右仮処分の本案にあたる占有回収の訴を提起した(大阪地方裁判所昭和五三年(ワ)第四三四一号、同裁判所昭和五四年(ワ)第二四九七号事件)ところ、同裁判所は昭和五六年三月二七日左記のとおりの主文の判決を言渡し、同判決は申立人らの控訴権放棄により同年四月一日確定した。

(一) 被告ら(申立人ら)は原告(被申立人)に対して本件建物を明渡せ。

(二) 訴訟費用は被告ら(申立人ら)の負担とする。

(三) この判決第(一)項は仮に執行することができる。

3  被申立人は右確定判決に基づいて、昭和五七年一月二二日本執行(昭和五七年(執ロ)第六三号、第六四号、以下単に「本執行」とあるのはこの本執行を指す)の申立をした。

4  しかるに、本件建物については、その後、株式会社近畿建物(以下「近畿建物」という)から被申立人に対し、別件の和解調書に基づく執行(昭和五七年(執ロ)第二九六号、第二九七号、以下「和解調書に基づく執行」という)の申立がなされており、被申立人は本件建物を明渡すべき義務を負つているのであるが、現在本件建物には原決定に基づく仮処分執行がなされていて、和解調書に基づく執行をなすには、まず本執行を終了させて原決定の仮処分執行を解くことが必要であるところ、被申立人は和解調書に基づく執行を妨害するために、昭和五七年四月二四日、本執行を拒否するに至つた。

従つて、被申立人は本執行の申立をしてはいるものの、実質的には申立をしていないのに等しく、保全執行申立権を濫用しているものであつて、保全処分による利益及び保全の意思を放棄したものというべく、もはや保全の必要性は失なわれた。

5  よつて、民事訴訟法七四七条一項にいう事情変更があつたものとして、本申立をする。

二 申立の理由に対する認否

1 申立の理由第1なしい第3項の各事実は認める。

2 同第4項のうち、和解調書に基づく執行が申立てられていること及び被申立人が昭和五七年四月二四日に本執行を拒否したことは認めるが、その余については否認ないし争う。

第三 疎明関係<省略>

【理由】

一申立の理由第1ないし第3項の各事実並びに和解調書に基づく執行が申立てられていること及び被申立人が昭和五七年四月二四日に執行官に対し本執行を拒否したことは当事者間に争いがない。

二1  <証拠>によれば、一応以下の各事実が認められる。

(一)  別紙物件目録記載(一)の土地(以下「本件土地」という)は被申立人の所有であり、また本件建物は被申立人(持分三分の二)及び木南株式会社(持分三分の一)の共有であつたが、被申立人及び木南株式会社(以下「木南」という)は本件土地及び建物に多くの抵当権を設定し、また大蔵省や大阪府及び大阪市から差押を受けていたところ、さらに強制競売の手続が進行し、本件土地及び建物は一旦は競落許可決定が出されるに至つた。

そのため被申立人及び木南は、とりあえず競落許可決定に対する抗告をなし、その間に近畿建物から融資を受けて債務を弁済してようやく競落を免れることができ、また、右融資を受けた金員で他の債務も弁済した。

(二)  しかし、その後被申立人及び木南は、近畿建物に対する返済が困難になつたことから、昭和五四年二月一六日、近畿建物との間で、概略左記のような内容の即決和解をした。

(1) 本件土地及び建物が近畿建物の所有であることを確認し、近畿建物は所有権留保のうえ金六億円にて本件土地及び建物を被申立人に売渡す。

(2) 被申立人は、前項の売買代金を年一割の利息金と共に左の通り六〇回に分割して支払う。

(イ) 売買代金元本の支払いは昭和五四年三月末日まで猶予し、本和解成立と同時に昭和五四年一月三〇日まで六億円に対する年一割の割合による利息金、一月及び二月の末日限り夫々金五〇〇万円の利息金を前払いする(但し二月分までは支払済)。

(ロ) 売買代金元本の支払いは昭和五四年三月を初回として昭和五九年二月まで、毎月末日限り金一、〇〇〇万円宛と、当月該当支払日における残代金元本額に対する当該支払日から翌月支払日の前日まで年一割の割合による利息金を附加して前払いする。

(3) 近畿建物は、前項の分割金の支払期間中、被申立人並びに被申立人が代表取締役である場合に限り木南の両名についてのみ、本件建物の占有・使用(無償)並びに営業行為を承認する。

(4) 被申立人及び木南の両名は前項の期間中、本件建物において使用した電気、ガス、水道の各料金、本件建物ビルメンテナンスに必要な一切の諸経費並びに固定資産税を負担し、その支払期又は納付期に遅滞なく支弁しなければならない。

尚、近畿建物において本件建物(設備を含む)に対して付する火災保険の保険料並びに被申立人及び木南の両名の本件建物の使用に伴い、所有者として近畿建物が負担させられることのあるべき事故等による損害賠償について近畿建物の付する賠償責任保険の保険料の負担についても同様とする。

(5) 被申立人及び木南の両名は、近畿建物の書面による承諾なくして次の行為を一切してはならない。

(イ) 本件建物についての造作、改造、増築、模様替等原状を変更する一切の行為

(ロ) 本件建物の全部又は一部について第三者(木南の代表者の変更の場合を含む)に賃貸又は占有若しくは使用せしめること

(6) 被申立人が第(2)項記載の分割金の支払(同項(イ)の利息金の支払いも含む)を三回分以上遅滞したとき、被申立人及び木南の両名のいずれかが第(4)項の負担を怠つて本件建物所有者である近畿建物が請求を受け、被申立人及び木南に支弁方催告しても之が納入をなさず、近畿建物において納入を余儀なくされるに至ること二度以上に及んだとき、第(5)項に違背したとき、木南の代表取締役が被申立人以外の者に変更となつたとき若しくは第(7)項に違背したときは、第(1)項の売買契約は何等の通知催告を要せず即時解除となり、被申立人及び木南の両名は直ちに本件建物を原状に回復して近畿建物に明渡す。

(7) 被申立人が近畿建物の書面による承諾を得て本件建物の一部を賃貸しようとする場合は、必ず賃貸借契約締結に際し近畿建物を立会わせた上、被申立人が受領する賃貸借保証金全額を即時近畿建物に交付しなければならない。被申立人と近畿建物とは、近畿建物に交付した賃貸借保証金について、全額売買代金の内入金とすることに合意した。但し被申立人は、右内入金を理由として、第(2)項の支払金の支払いを延引することができないものとする。

(三)  被申立人は前記認定のように本件建物の占有回収の訴えで勝訴し、確定したのであるが、本執行の申立をすることを放置していたところ、申立人らから事情変更を理由とする取消の申立を起こされたため、取消されるのを防ぐために前記のように昭和五七年一月二二日に本執行の申立を行なつた。

(四)  一方近畿建物は、前記認定のように、前記第(二)項記載の和解調書に基づいて、被申立人及び木南の両名を相手方として、大阪地方裁判所執行官に対し、和解調書に基づく執行の申立をなした。

(五)  和解調書に基づく執行の申立を受けた佐藤執行官は、昭和五七年四月一四日に本件建物に赴き、同執行に着手したが、被申立人の使者大森正夫の中止要求に応じ、これを延期することにした。

(六) 佐藤執行官は、昭和五七年四月二四日に再度本件建物に赴き、和解調書に基づく執行を行なおうとしたが、本件建物については原決定の仮処分執行が残つていて、和解調書に基づく執行をするためには本執行を終了させて右原決定の仮処分執行を解くことが必要であることから、まず本執行に着手しようとしたところ、被申立人の復代理人である茨木三郎は本執行を拒否するに至つた。

(七) しかし、被申立人はその後も本執行の申立を維持している。

2  右各事実からすれば、被申立人は、一方では、本執行の申立がなされないことを理由に事情変更による取消判決が出されて原決定の仮処分執行の取消がなされ、その結果執行障害がなくなつて和解調書による執行が可能になることを防ぐために本執行の申立をし、他方では、本執行が終了してしまえば原決定の仮処分執行が解かれ、やはり執行障害がなくなつて和解調書による執行が可能になつてしまうことから、それを防ぐために本執行を拒否しているものと推認できるのであつて、もはや本執行の申立を維持するだけの正当な利益を有しているものとはいい難く、いわば申立権の濫用ともいえるのであつて、本執行を拒否した時点において本執行申立の効力は消滅し、被申立人は保全処分による利益及び保全の意思を放棄したものと認めるのが相当である。

3  よつて、本執行申立の効力が消滅したことにより、本件事情変更による取消申立の対象たる原決定の効力も復活したと解されるところ、前記認定のように、被申立人は保全処分による利益及び保全の意思を放棄したのであるから、保全の必要性が消滅したものと認められ、民事訴訟法七四七条一項にいう事情変更があつたものと解される。<以下、省略> (廣澤哲郎)

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