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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)1462号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

1 被告は、昭和五〇年ころからその運営する短期大学の学生定員の増員を計画し学校用地を物色していたところ、原告は、昭和五五年一二月、被告理事小司専一(以下、「小司理事」という。)から右用地を探してほしい旨の依頼を受け、本件土地を候補地の一つとして小司理事を介して被告に紹介し、昭和五六年一月二〇日、被告理事長代行小川一磨(以下、「小川理事長代行」という。)ほか四名の理事及び被告事務局長山本栄一(以下「山本事務局長」という。)を本件土地に案内した。

2 小司理事、山本事務局長及び被告事務局長次長小川道雄(以下、「小川次長」という。)は、昭和五六年三月六日、訴外会社を訪れ、被告において本件土地を買受ける意向のあることを伝えるとともに、訴外会社に対し譲渡意思の有無を尋ねたが、確約は得られなかつた。

3 被告理事会は、昭和五六年四月一三日学校用地の候補地を本件土地に一応絞り、予算一〇億円で買収交渉をすることを了承した。なお、被告は、小司理事から、被告が本件土地の買収を真摯に検討していることを訴外会社に示すために必要であるとして同日の議事録の交付を求められ、これに応じて正式の議事録(乙第四号証)とは別に予算額の記載のない議事録(甲第二号証)を作成して小司理事に交付した。

4 原告は、訴外会社と折衝し代金額を調整した結果、訴外会社は、昭和五六年五月一九日、被告に対し、本件土地を代金一二億円で譲渡する旨記載した「証明書」(甲第三号証)を交付し、これをうけて、被告は、同月二〇日、理事会において契約の条件等の詳細は別途検討するものの、本件土地を一二億円で買い受けることを基本的に了解し、訴外会社に対し、本件土地を代金一二億円で買い受け、契約日を国土法通知後一週間以内とする旨記載した「買付証明書」(甲第五号証)を交付し、訴外会社と被告は、本件土地の売買契約を締結する意思を有していることを相互に表明し確認した(なお、被告と訴外会社間で右証明書が交換されたことは、当事者間に争いがない)。

5 被告は、昭和五六年五月二〇日、理事会において、原告に対し本件土地買受の媒介を正式に依頼し、原告の右媒介により売買契約が成立したときは、宅地建物取引業法に基づいて建設大臣の定めた告示による報酬を支払うことを決議し、原告に対しその旨約した。

そして、山本事務局長は、原告の求めにより、同月二二日、三菱銀行茨木支店宛に売買契約完了後原告に対する報酬を同行の原告名義の預金口座に振込む旨の証明書を発行した(この事実は、当事者間に争いがない。)。

6 原告は、訴外会社及び被告を代行して、昭和五六年五月二七日、国土法に基づき、大阪府知事に対し土地売買等届出書を提出していたところ、同年六月二九日同府知事から同法二四条一項による勧告をしない旨の通知があつたので、被告と訴外会社は、契約日を同年七月六日、決済日を同月一三日(なお、決済日は後に同月一七日に変更された。)と予定した。そして、その頃、両者の間で契約内容の細目を記載した土地売買契約書案(乙第八、第九号証)が交換されたが、被告作成の契約書案(乙第九号証)には「昭和五六年一二月三一日までに本件土地を運動施設として開発するための関係官公庁の許認可が得られ、かつ造成工事に着手できること」との条件が付されていた。

7 被告は、以上のように原告の媒介により本件土地買受の手続を進めていたが、他方、被告が本件土地売買に関して原告から提供を受けた資料は、不動産登記簿謄本、地積図及び「グランド用地調査報告書」と題する書面(乙第七号証)のみであつたので、被告は、原告に対し再三にわたり開発許可、地元住民との調整、水利問題などの説明と資料を求めていたが、原告からは、格別問題はないとしてそれ以上の説明・資料が得られなかつたので、小川次長(なお、同次長は昭和五六年七月一日事務局長に就任した。)と被告参与平井正吾(以下、「平井参与」という。)は、同年七月三日、訴外会社を訪れ、同社の担当者と面接したところ、右の諸問題は被告において解決処理することになつているとの説明を受け、原告の被告に対するそれまでの説明と喰い違いがあることが判明した。

また、被告は、事務局を通じて株式会社熊谷組に対し、本件土地開発の技術問題について調査を依頼していたところ、昭和五六年七月二日、同社から「本件土地を造成しても平坦地としての使用可能面積は二分の一以下であること、右造成工事には約一〇億円の費用を要すること、水道引込工事に約五〇〇〇万円の費用がかかること及び造成工事に相当長期間を要すること」との報告を受けた。そこで、小川理事長代行、小川次長及び平井参与は、同月六日、訴外会社を訪れ、契約締結の延期を求めその了解をえた。

8 被告は、昭和五六年七月七日、訴外会社に対し、本件土地に関する「開発申請に伴う確認事項について」と題する文書(乙第六号証)をもつて前記7の問題点に対する回答を求めたが、訴外会社は、原告から、これらの点はすべて被告において解決する旨の説明を受けているとして回答をしなかつた。

9 小川理事長は、平井参与らから本件土地についての調査結果の報告を受けた後、昭和五六年七月八日、本件土地を実地に見分したところ、傾斜面の多い本件土地は地形的に学校用地として適切でないと判断し、同月九日、緊急理事会を開催し、七名の理事のうち六名が出席して本件土地の買収を取止める旨の決議をし、同日、小川理事長らが訴外会社に赴きその旨を申し入れ、さらに被告は、同月一三日、訴外会社の要請に応じ「校地買収計画中止の理由書」(甲第八号証)を訴外会社に交付してその了解をえ、これによつて被告の本件土地買収計画は、白紙撤回された(なお、小川理事長が昭和五六年七月九日訴外会社に対し本件土地の買受を取止める旨申し入れ、被告が同月一三日訴外会社に対し、「校地買収計画中止の理由書」を交付したことは、当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められ<る。>

三そこで、まず原告の主位的請求について判断すると、原告は、その媒介行為によつて被告と訴外会社との間に本件土地について売買契約が成立した旨主張するけれども、右認定の事実によつては右主張事実を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない(また、本件全証拠によつても被告と訴外会社との間に本件土地売買の双務予約が成立したと認めるに足りない。)。したがつて、原告の媒介は不成功に終わつたとみるほかなく、原告の媒介による売買契約の成立を報酬請求権発生の停止条件とする主位的請求は、その前提を欠き、理由がないといわなければならない。

四次に、原告は、被告が信義則に反し故意に原告の媒介による売買契約の成立を妨げた旨主張する。

しかし、不動産仲介契約においては、仲介人が適当と思われる物件や取引の相手方を紹介しても、委託者はこれと取引するか否かの自由をもち、取引に応ずる義務を負うものではないから、委託者が紹介された相手方との取引を拒絶したために仲介人が報酬請求権の発生を妨げられたとしても、それは不動産仲介契約の特性に由来するものであり、委託者が仲介人に対する報酬の支払を免れる目的で仲介を排除してその後相手方と直接交渉して取引を成立させたなどの特段の事情がない限り、信義則に反するものということはできない。したがつて、このような場合には民法一三〇条は適用されないというべきである。

そして、本件において被告が本件土地の買受を取止めたのは、前認定のとおり、契約の交渉中に売買条件について仲介人である原告の説明と売主である訴外会社のそれとの間に喰い違いがあることが判明したうえ、報告の調査の結果、本件土地が傾斜面の多い地形であることから多額の造成費用を要し造成工事が長期化することなどが明らかとなり、被告において本件土地は学校用地として不適切であると判断したためであつて、右買受の中止には合理的な理由があるものということができる。また、本件全証拠によつても、被告が原告に対する仲介報酬の支払を免れる目的で本件土地の買受を取止めたものと認めることはできない。

したがつて、被告が信義則に反して故意に原告の媒介による売買契約の成立を妨げたものということはできないから、民法一三〇条に基づく原告の第一次予備的請求は理由がない。

五さらに、原告は、商人である原告がその営業の範囲内において被告のために本件土地買受の媒介行為をなしたものであるから、商法五一二条により相当の報酬請求権を有すると主張するので、この点につき判断すると、同条は、商人の行為は営利を目的とするのが通常であることから商人がその営業の範囲内で他人のためにある行為を行なつたときは報酬を支払う約定がない場合でも相当の報酬を請求しうることを規定したものであるところ、宅地建物の仲介を業とする者は民事仲介人であるが、商人である(商法五〇二条一一号、四条一項)から、商事仲立に関する商法五五〇条一項、五四六条が類推適用され、宅地建物取引業者が商法五一二条により不動産取引の仲介による報酬を請求しうるためには仲介業者の媒介によつて当事者間に契約が成立したことが必要であつて、所期の契約が成立しない場合には、仲介業者がいかに仲介の労をとり尽しても商法五四六条所定の手続を終わつたということはできないから、仲介業者は商法五一二条による報酬を請求することはできないといわなければならない。

これを本件についてみると、先に認定したとおり、原告の媒介によつて被告と訴外会社間に本件土地について売買契約が成立したことは認められないから、商法五一二条に基づく原告の第二次予備請求は理由がない。

六次に、原告は、被告代表者小川理事長が理事会の有効な決議を経ないで恣に本件土地の買受を中止し、その職務を行なうについて原告の報酬に対する期待権を侵害した旨主張するので、検討すると、原告は、前認定のとおり、被告との本件仲介契約により原告の媒介によつて被告と訴外会社間に本件土地売買契約が成立することを停止条件として被告に対し報酬を請求しうる権利を期待権として有していたものということができるが、被告は、四で説示したとおり、本来仲介物件の取引に応ずるか否かの自由をもつているうえ、先に認定したような合理的な理由に基づいて本件土地の買受を取止めたものであり、被告代表者小川理事長は、理事会の有効な決議を経て右買受の中止を訴外会社に申し入れたものであるから、これによつて原告が被告に対して報酬請求権を取得するに至らなかつたからといつて、小川理事長がその職務を行なうについて違法に原告の報酬に対する期待権を侵害したということはできない。

したがつて民法四四条に基づく原告の第三次予備的請求も理由がない。

(小野剛)

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