大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)2048号
原告
選定当事者 六藤隆夫
選定者三八名(別紙<略>のとおり)
右訴訟代理人弁護士
河村武信
同
海川道郎
同
伊賀興一
被告
関西汽船労働組合
右代表者執行委員長
中西章雄
右訴訟代理人弁護士
畑良武
同
中迫廣
同
疋田淳
主文
一 被告は、原告に対し、別紙請求金額一覧表記載の各選定者につき、同表各選定者欄中(B)欄記載の金額、及び、同選定者欄中の(C)欄記載の金額に対する昭和五七年四月三日から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、別紙請求金額一覧表記載の各選定者につき、同表各選定者欄中(A)欄記載の金額に対する昭和五七年四月三日から同年八月三一日までの間の年五分の割合による金員、並びに、同選定者欄の(B)欄の(B)欄(ママ)記載の金額、及び、これに対する同年九月一日から完済までの間の右同率の割合による金員、を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、訴外関西汽船株式会社(以下、「訴外会社」という)の陸上従業員をもって構成する労働組合であり、全日本海運労働組合連合会に加盟している。
別紙選定者目録記載の選定者ら(以下「選定当事者ら」という)は、元被告労働組合の組合員であったが、昭和五七年一月二二日から同年二月四日の間に到達の書面で被告組合に対し脱退する旨の意思表示(以下「本件脱退」という)をした。よって、その組合員資格を喪失した。
2 被告組合は、関西汽船労働組合規約(以下「本件組合規約」という)六四条、七八条により特別会計罷業資金積立金運用規則(以下「本件運用規則」という)を設けており、右運用規則の定めによれば、被告組合は、右規約三、四条に定める被告組合の目的・事業を達成するため組合員の総意に基づき本件運用規則の定めるところによって罷業資金(以下「本件罷業資金」という)の積立と支払いを行うこととし(同規則一、二条)、その積立ては、組合費のうち特別組合費として徴収したものを全額本件罷業資金にあてるものとし(同規則四条)、右各組合員の特別組合費納入額と同額を各組合員別の明細を明らかにして組合が一括貯蓄してゆくことと定め(同規則五条)、これに対する利息は各組合員別の元金に応じて付するものとし(同規則八条)、本件罷業資金の払戻しは他の事由とともに「組合員の組合員資格喪失が確定したとき」(同規則九条二号)に、各組合員別の利息を含めた全額をなすこととされている(同規則一〇条)。
3 被告組合は、昭和三九年九月一日から本件運用規則を実施し、本件罷業資金を運用し、罷業資金積立金を大阪労働金庫大正支店に預託し、右金庫に各人別積立金明細作成事務及び利息計算事務を行わせている。
4 被告組合は、選定当事者らから、その各加盟以来前記脱退通知後まで引続き賃金の支払時期に特別組合費名下に本件罷業資金を徴収し(以下この徴収された各人の資金を「本件積立金」という)、これを一括して団体預金として前記金庫に貯蓄してきたが、選定当事者ら各人別積立金の元利合計は、昭和五七年二月二八日現在においては別紙請求金額一覧表の各選定者各人欄中請求金額(A)欄に記載のとおりであり、昭和五七年九月一日現在においては同表の各人欄中請求金額(B)欄に記載のとおりである。
5 そして、本件運用規則九条二号に脱退が含まれることは同規則の解釈上明らかであるから、被告は本件脱退時に即時当時現存する本件積立元利金を支払うべき義務を負担したというべきである。
よって、選定当事者である原告は、被告組合に対し、本件運用規則に基づき、選定当事者ら各自分として、別紙請求金額一覧表選定者各人につき、同各人欄中の請求金額(B)欄に記載の各積立金(合計一三三八万二八八四円)並びに同(A)欄に記載の各積立金(合計一二七一万四三五九円)に対する右弁済期後であり、おそくとも本件積立金元利金の催告に当る本訴状送達の日の翌日である昭和五七年四月三日から同年八月三一日までの間の、及び各(B)欄記載の各積立金に対する同年九月一日から完済までの間の、各民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否と主張
1 請求原因1の事実のうち選定当事者らが被告組合員資格を喪失した点は否認しその余は認める。
同2ないし4の事実はすべて認める。同5は争う。
2 被告組合の脱退者である選定当事者らにはもともと本件積立金の払戻し請求権はない。すなわち、
(一) 労働組合の組合員から納入された各種の名目の組合費は、当該労働組合が存続する限り、独立主体である当該組合の単独所有の一般財産として多数決原理により管理運営され、当該組合の団結権を維持し、その組合活動のために使用されるものである。従って、組合規約等に特に明定されていない限り、組合を脱退した組合員には組合財産に対する権利は認められないものと解すべきである。蓋し、団結とは逆方向である組合脱退者に対しては、個々の組合員から離れて既に形成された組合財産に対しては権利は認められないものというべきだからである。しかして、本件積立金は、特別組合費として徴収され、使途別管理がなされていても、単純な個人の預金等とは全くその性質を異にし、一般組合費により構成されている被告組合財産と何らその性質を異にするものではなく、被告たる組合の財産である。
(二) かりに本件積立金が被告組合の一般財産と性質を異にするものであるとしても本件組合規約八条所定の組合員資格喪失事由には脱退が定められていないから、脱退は本件運用規則九条二号の本件積立金払戻し事由に当らない。換言すれば団結権を侵害しない組合員喪失事由のときに限り払戻しがなされるものである。
三 被告の抗弁
選定当事者らの本件脱退は、以下のとおり、脱退の自由の濫用若しくは脱退権の濫用として許されず、その効力を生じない。すなわち、
1(一) 訴外会社の企業業績は、昭和四六年以降慢性的な赤字に陥り、昭和五六年の決算においては、累積欠損額が九〇億円に達し、企業そのものの存続が危機にさらされている状況にあり、被告組合としても、労働者の職場確保・労働条件の維持向上のため一致団結して労使協調路線に立って企業の再建策に取り組んでいかなければならない状況に置かれていた。
(二) 右のような状況下において、被告組合の昭和五七年度役員選挙が実施され、執行委員長候補として、訴外会社との闘争を主張する原告と訴外会社の再建と組合員の生活防衛のため民主的で現実的対応のできる組合作りを目指す被告組合の前執行委員長植山哲也が立候補したが、結局右植山が執行委員長に当選し、昭和五六年九月九日に新執行部が発足した。
(三) ところで、選定当事者らの労働組合に対する考え方は基本的には会社とは独立して斗って労働条件をよくしてゆくことであり、被告組合のそれと全く同じであり、したがって被告組合に組合員としてとどまれる筈であり、考え方の違いを理由とする脱退の必要もなかった。しかるに、選定当事者らは、前項選挙敗退を契機として脱退を決意するに至り、まず脱退を意図した策動として、同年九月一九日、突如関西汽船労働問題研究会(以下「労研」という)なる組織を作り、機関紙まで発行し他の組合員に対し直送する等して組合民主主義を全く無視して新執行部に対し不当な批判を加え、被告組合の団結力を弱め、団結権を内部から侵害する組織的分派活動を始めた。右選定当事者らの行為は、同人らが前記敗退迄組合執行部を組織独占していた際には、執行部に対する批判は一切認めない態度に終始していたのと著しく矛盾したものであった。
(四) これに対し、被告組合は、前記分派活動をやめるよう説得をつづけ、この間新執行部の下で昭和五七年度の定期全国中央委員会が開催されたが、そこにおいて原告ら旧執行部の作成した活動報告(案)と新執行部作成の運動方針(案)(労研等分派・分裂活動は許さないとの一項も含まれている)が上程され、審議の結果、右活動報告(案)は否決され、一方、右運動方針(案)は可決され、ついで、右各案件は各支部においても全組合員による総員投票に付されたが、同様の結果となった。
(五) このような状況下にあって、昭和五七年一月二二日原告、選定者太田浩聖、同簗瀬繁の三名が全日本港湾労働組合関西地方阪神支部の藤本執行委員長及び同藤田副委員長ほか数名と同伴して被告組合本部を訪ねて口頭で原告(選定当事者)ほか六名の脱退を申し入れ、ついで同年二月四日までに選定当事者らの本件脱退に至った。
(六) 本件脱退の結果、従来被告組合員全員が被告組合の運営秩序にあったものが、訴外会社の各職場で被告組合員と選定当事者らとが相反目し、分裂するという異状な状態となり、そのため、各職場での従業員同士の融和がはかれず規律も乱れ、訴外会社の再建業務の遂行に多大の悪影響を及ぼすこととなった。
2 前項経緯と影響に照らせば、選定当事者らの本件脱退は、単に前記選挙における敗退のみをその原因、理由とするものであり、身勝手でかつ被告組合の組織及び団結の破壊のみを目的としたものであることは明らかであって、まさしく、権利ないし自由の濫用として許されないものである。なお、かりに原告主張の組合選択の自由の行使であるとしてもかかる憲法二一条一項に由来する自由は同法二八条に基づく被告組合の有する一旦形成された団結権には優先しえず、自ずと制限されるものであるから、右権利等の濫用該当性に消長をきたすものではない。
四 被告の主張に対する原告の認否と反論
1 (二2に対し)
(一) 本件積立金は、名目は特別組合費として徴収されたものが当てられているが、本件運用規則中請求原因に掲げた各規定に照らせば、組合員が組合員たる資格を有する間、所定の目的のため所定の方法により運用することを被告に委託した組合員個人の積立預託金としての性質をもつ個人財産であって、一般組合財産と同一視することは許されない。
(二) 本件運用規則九条二号には脱退が含まれることは明らかである。
すなわち、まず脱退は、組合規約の定の有無に関係なく憲法上当然の自由として許されるものであるから右二号の組合員資格の喪失事由に含まれるというべく、また、本件組合規約八条、四八条、本件運用規則九条、一一条によれば、被告主張に反し団結権侵害の典型である除名処分による組合員資格喪失の場合ですら本件積立金の各組合員別預金元金相当額を必らず払戻さなければならないとされていることと対比すれば任意な意思による資格喪失である脱退が右運用規則九条二号の払戻事由に含まれないとする合理的理由はない。
2 (抗弁に対し)
(一) 被告主張事実中訴外会社が経営危機に陥ったこと昭和五六年夏の被告組合役員選挙において植山哲也新執行委員長が当選し、原告が落選したことは認めるがその余は争う。
(二) 憲法二八条が保障する団結権は、労働者がそれまで加入していた労働組合から脱退し、新たな労働組合を結成し、もしくは別の労働組合を選択加入する権利を本質的に含むものであるから、基本的に労働者の労働組合脱退の自由は制約し得ないものである。ただ、当該脱退が争議中になされ争議権を不当に侵害するような場合で、その脱退の目的と態様が使用者に利益を与えるような場合に限り、脱退の自由が権利の濫用となる余地があるに過ぎず、被告の主張自体右の場合に当らない。
(三) 却って、選定者らの被告組合からの脱退は、以下に述べるように、団結権、労働組合選択権の正当な行使であって、何ら非難されるべきものではない。
すなわち、訴外会社は、昭和四九年以来の経営危機の下で、原告が執行委員長であった被告組合を敵視してきたが、昭和五三年に経営権を来島グループの坪内寿夫に移譲してからは、坪内式労務政策として被告組合への強引な不当介入、人べらし合理化案の発表等を行ってきた。さらに、昭和五六年夏の被告組合の役員選挙において、いわゆる会社派組合員を動員するとともに職制をして会社派組合員が被告組合執行部を組織できるよう強引な介入を行った。その結果、当時の被告組合の執行委員長であった原告の落選をもたらすに至った。そして、訴外会社は、被告組合執行部を会社派組合員で組織させるや、労使協調路線に全労働者を従わせるべく被告組合執行部をして働きかけ、訴外会社に批判的組合員であった選定当事者らに対し、昭和五六年末には不当配転を強行して被告組合の中心的活動家たちを全国に分散させたうえ、昭和五七年一月には、大量の従業員を来島グループに出向させるという人員削減計画を発表し、被告組合に対し右計画への白紙委任を求めた。これに対し、被告組合は、労使協調路線が企業再建の唯一の道であるとして、労働者の雇用と労働条件を切り捨てる訴外会社の恣意的な右再建計画を白紙で受け入れ、労働組合としての当然の任務である使用者に対する自主性の堅持、労働者の権利・利益の擁護を放棄した。ここにおいて、選定当事者らは、労働組合の自主性、労働者の権利・利益を擁護しつつ訴外会社再建に尽力するため、被告組合を脱退して、全日本港湾労働組合関西地方本部阪神支部に加盟し、関西汽船分会を結成するに至ったものである。
第三証拠
証拠関係は本件記録中証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1のうち本件脱退の効力の点を除くその余の事実、同2ないし4の事実はすべて当事者間に争いがない。
二 本件積立金の性質と払戻し事由について
1 被告は右積立金は規約に特に定めがない限りもともと組合員に払戻し請求権のない被告組合の一般所有財産であり、そうでなくとも脱退は払戻し事由でない旨主張するので、以下まず本件罷業資金積立金の性質につき検討する。
(一) 前記争いのない事実に加えて、(証拠略)によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件積立金は、本件運用規則上の本件罷業資金として徴収されたもの(この点当事者間に争いない)であって、同規則は昭和三九年九月一日から実施され、右罷業積立金は被告組合規約七三条に定める争議を行ったため組合員の生活が困窮する場合に、これを救済して強力な闘争推進を可能ならしめるために生活費の支払いを行うことを目的とし(本件運用規則三条)、被告組合会計規定七条、八条により、収入科目のうち組合費のなかで基本組合費、臨時組合費とは別に特別組合費という名目で賃金から差引いて徴収され、その額は毎月基本給に一パーセントから一・五パーセントを乗じた金額へと推移して来た。
(2) 本件運用規則の定めによれば、被告組合は、(イ)自ら、若しくは預託取扱い金融機関に委託して各組合員別の積立金明細表を作成し、積立年月日別積立金額及び積立金合計額と、これに利息を加えたものを常に明らかにしておかなければならず(同規則一二条、一三条)、(ロ)本件罷業資金に対する利息は、各組合員別の元金に応じて付し(同規則八条本文)、ただ組合総会において四分の三以上の承認を得て、利息を組合の闘争資金勘定に組み入れる措置を執ることができ(同条但書)、(ハ)本件罷業資金の払戻しは原則として各組合別の利息を含めた全額を払戻し、右組み入れ措置を執った期間の利息については払戻さず(同規則一〇条)、(ニ)右資金の払戻しは、<1>闘争委員会が議決によって払戻しを必要と認め、会計監査にその旨通知したとき、<2>組合員の組合員資格喪失が確定したとき、<3>組合が解散を決定したとき、に行われる(同規則九条一ないし三号)とされている。
(3) 被告組合の本件組合規約においては、組合資格喪失事由としては脱退は定められていないが、除名は定められ(同規約八条、その事由、手続につき、同四八条、四九条)、被告組合においては、本件運用規則九条二号の資格喪失事由には右規約八条の除名が当然含まれ、除名を受けた者も罷業積立金の払戻しを受けることができるものと一般に理解されている。
(4) 一方、被告組合は罷業積立金とは別に本件組合規約六四条、七八条により定める特別会計闘争資金積立金運用規則(以下「本件闘争資金運用規則」という)に基づき、規約七三条に定める争議の準備、開始、遂行のための必要経費として、闘争資金積立金(以下「本件闘争資金」という)の蓄積と支出を行うこととして(本件闘争資金運用規則一、三条)、現に右闘争資金を積立てているところ、右闘争資金は右運用規則、組合会計規定によれば、本件罷業資金と同じく被告組合の資金科目上「積立金」とされ、特別会計処理がなされるが(会計規則一六条)、財務部において最も有利に蓄積できるよう努力がなされ、一般会計に準じ会計監査に服する(本件運用規則六条、一三条、本件闘争資金運用規則五条)が、他方、同じ積立金でありながら、本件罷業資金と異なり、本件闘争資金は、特別組合費以外の収入からなる一般会計より毎年一定額の繰入れにより蓄積され、その処分は組合解散時に限り、それ以外は一切しないものとされ(前同規則四条、八条、組合会計規定六条、本件運用規則四条)、本件闘争資金積立金、各組合員個人とのつながりを示す規定は全くない。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) そこで本件罷業資金積立金の法的性質をみるに、それは、一般に労働組合の各種規約の趣旨、或いは組合と組合員との合意により各場合において認定されるべきものであるところ、本件においては右合意についての主張立証もないので、前認定の事実関係及び他に特段の主張立証もない点を総合すれば、就中、本件運用規則上、積立目的が窮極的には強力な闘争推進を可能ならしめるためというものの、直接的には、そのための争議中の組合員の生活困窮救済を目的とし、そのため、当初から払戻しを予定している点、個人別会計処理とその状況明示、払戻し以外の処分は利息のみについてしかも総会の特別の多数の承認により、闘争資金勘定への組入れに限られている点、と同じ積立金とされる本件闘争資金運用規則との対比によれば、本件罷業資金積立金は、被告組合員が組合員たる資格を有する間、本件運用規則所定の目的のために所定の方法限定で運用処分することを被告組合に委託した組合員個人の積立預託金としての性質をもち、従って、預託目的終了時には原則として組合員個人が預託金残金の返還請求権を有するものとみるべく、被告主張のように、また、本件闘争資金の例にみられるように、同じ積立金であっても、その原資である組合員個人の拠出組合費(特別組合費以外のもの)とのつながりが当初からなく、組合独自の運営、処分に委ねられ、従って組合員個人に右原資である拠出費の返還請求権がもともと生じえない組合帰属の一般財産とみるべきものとは性質を異にするとみるのが相当である。なお、右性質判示に反する(人証略)は特段の事実根拠に基づかない単なる意見にすぎないから採用できず、他に右判示の妨げとなる事情は証拠上認められない。よって、この点の被告の主張は理由がない。
2 つぎに、本件罷業積立金の払戻し事由につき検討する。
(一) まず、被告の主張(一)(事実第二、二、2、(一))は、本件罷業積立金が一般組合財産の性質をもつことを前提とするもので、右性質は前示のとおりであるから、その主張の前提を欠き理由がない。
(二) つぎに被告の主張(二)(前同(二))につきみる。(証拠略)によれば、本件運用規則九条は本件罷業資金積立金払戻し事由として二号に「組合員資格喪失が確定したとき」と規定し、右規定の本則に当るべき本件組合規約の組合員資格喪失事由の規定(八条)には除名が定められながら脱退が定められず、他方、被告組合と訴外会社間の労働協約七条にはユニオン・ショップ協定に基づく解雇事由と手続を定め、そこに脱退を除名と併規していることが認められるので、右規定相互の文理解釈上は被告主張のように本件運用規則九条二号所定の資格喪失事由には脱退が含まれないかのようであるが、しかしながら、一般に労働組合の組合員は本来脱退の自由を有することは後記のとおりであるから、そもそも本件組合規約八条は限定的に解釈しえないというべく、また、(人証略)及び原告本人の尋問結果によれば、本件運用規則制定の際に制定に関与した被告組合執行部は脱退を特段念頭に置いておらず、本件罷業資金を組合員個人の金で資格がなくなれば返還すべきものと認識していたこと、現に本件脱退時の被告組合代表者も脱退についてこれが組合として承認しうるときには払戻し事由となる旨理解していることが認められ、他に証拠上本件運用規則九条二号を限定解釈すべき特段の事情も認められない。そして、脱退は、組合員の地位を自己の意思により一方的に終了せしめる意思表示と解すべきものであって、組合員の資格喪失事由に当ることは明らかであるところ、前示の本件罷業積立金の性質、目的から、組合員が資格喪失したときは組合としてはその積立の目的は終了し、被告組合が預託主である資格喪失した組合員に対し本来返還すべきことについて、本件組合規約ひいては本件運用規定九条二号所定の除名と脱退の間に区別をなすべき合理的根拠はない。なお、被告は本件罷業資金積立の目的が団結権の維持にある処から、団結権を侵害しない組合員資格喪失に限る旨主張するが、脱退は自由であって、当然に組合の団結権を侵害するものでないことは後記のとおりであり、さらに、本件運用規則九条二号に含まれる除名処分は、本組合規約四条によれば団結権侵害行為を理由とされることが十分考えられるものである点に照らし、到底被告の右主張は採用できない。
以上のとおりであるから、本件罷業積立金払戻し事由である本件運用規則九条二号には脱退は当然含まれるものと解すべきである。そして他に右解釈の妨げとなるべき特段の事情は証拠上認められない。よって、この点の被告の主張も理由がない。
三 本件脱退の効力について
脱退が組合員の地位を終了せしめる意思表示としての形成権の行使によりなされるものであることは前示のとおりであり、被告は、選定当事者らの本件脱退は権利の濫用ないしは脱退の自由の濫用に当り許されず無効である旨主張するので以下検討する。
1 ところで、脱退は本来自由であるべきものであり、また、他方労働組合が団結権を有すると同時に脱退組合員も、また組合選択の自由、または新たな別組合を結成するべき積極的団結権をも有するのであるから、たとえ脱退自体が労働組合の有する右団結権との関係で脱退の自由ないしは権利の濫用として制約を受けるとしても、脱退組合員の右自由若しくは権利は基本的に尊重されなければならないから、脱退の時期、態様、目的ないし意図などを総合して余程の事情がない限り、脱退の自由ないし権利の濫用とはいえないというべきである。
2 これを本件についてみるに、まず、本件脱退の経緯について、(証拠略)によれば次の事実が認められる。
(1) 訴外会社は、昭和四九年以降急速に業績を悪化し、経営危機の状態に陥ってゆき(この点当事者間に争いない)、企業再建が労使間の問題として顕在するに至った。そこで、訴外会社は人員削減、従業員の配置転換・出向などによりこれを乗り切ろうとし、一方、当時の被告組合は、経営者の経営責任の追求、雇用の確保、労働条件の維持等を目標に掲げて訴外会社と対峙したが、昭和五〇年八月、労使間において、人員削減、出向等を含む企業再建に関する各種協定が締結されて、一応の結着をみた。
(2) しかし、訴外会社は、昭和五三年に至り、企業再建のため右昭和五〇年締結の各協定を破棄して、被告組合の拘束を受けずに訴外会社が適宜な企業再建活動をなしうるようにする必要があると考え、その旨を従業員に訴え、被告組合は、これに抗議したが、被告組合員の一部に右訴外会社の訴えに賛同するものが現われ、企業再建を巡ぐる組合の対応につき、被告組合内部において意見の対立を生ずるに至った。
(3) その後昭和五三年七月頃、訴外会社の経営陣が株式会社来島ドックの坪内社長の下に移ったが、しばらくの間は訴外会社と被告組合との間に格別の対立紛争もなく推移したものの、昭和五五年に至り、争議行為に対する賃金カット、被告組合が職場に貼付したステッカーを訴外会社が撤去したこと、当時被告組合の役員であった選定者太田浩聖・同簗瀬繁に対する配転命令、さらには訴外会社が選定当事者らにおいて被告組合の切り崩し工作とみなした行為に出たことなどを巡って、にわかに訴外会社と被告組合(なお、当時の被告組合の執行委員長は原告であった)との間に紛争が生じ出した。
(4) 右のような状況の中で、昭和五六年七月、昭和五七年度被告組合の役員選挙が実施されることとなり、執行委員長候補として被告組合の自主性を強調する原告(選定当事者)と労使協調などを目標として掲げる植山哲也が立候補したが、結局右植山哲也が執行委員長に当選し(この点当事者間に争いがない)、昭和五六年九月九日、いわゆる組閣方式により新執行部が発足し、また、同時期に実施された被告組合の各種役員選挙においても右植山に同調・支持する者らが役員に当選し、原告及びこれを支持する者ら(主に選定者ら)は、組合内少数派となるに至った。
(5) ついで同年九月半ば頃、選定当事者らは、原告が中心となって関西汽船労働問題研究会(労研)なる組織を作り、組合運営や労使問題について意見表明し、被告組合の新執行部の方針やあり方についても批判を加え始めたが、被告組合新執行部は、右活動を組合分派分裂活動であるとして再批判を加えた。このような中で、同年一一月末頃、定期全国中央委員会が開催され、原告が執行委員長を勤めていた旧執行部作成の一九八一年度活動報告(案)及び新執行部作成の原告らの労研活動を分派・分裂活動として組合として許さない旨の意思表明を含む一九八二年度運動方針(案)などが審議されたが、右活動報告(案)は否決され、一方、右運動方針(案)は可決された。次いで、右各案件は各支部において全組合員による総員投票に付されたが、同様の結果となった。
(6) その後同五六年一二月、訴外会社において大規模な配置転換があり、被告組合旧執行部当時の組合役員ら組合活動家も全国に転勤を命ぜられ、受命者及び原告らはこれを不当労働行為視したが、植山ら現執行部は社内苦情処理委員会への苦情処理申立てをなしたに止まり、労働委員会の救済申立てをしなかったため原告ら旧執行部の者らは、組合運動に危機感を覚えるに至った。さらに、翌昭和五七年一月、訴外会社から「関西汽船自立再建基本計画」(以下「再建基本計画」という)が発表され、これに関する協定書の調印を被告組合に求めた。この協定書は、組合が右計画に全面的に協力し、向う三ケ年間労使問題事項につき労使双方話合いによる解決に努力し争議行為に至らしめないよう最善を尽し、会社が再建のためになす異動、出向について全面的に協力する旨の約定を含むものであったが、選定当事者らは、右協定を締結することは、労働組合が労働者の生活を守ることを二の次にして、企業再建を自己目的とすることで、されば際限のない労働条件の切り下げは勿論解雇まで容認することは不可避であるとの見解に基づき反対を唱えたが、新執行部は、訴外会社に対し、右協定条項の変更すら求めることなく、同年一月二六日総員投票にはかり、選定当事者ら四四名の欠席下の右投票での圧倒的多数の賛成を経て右協定書に調印した。
(7) 前項の経過のなかで、原告を中心としてこれに同調する選定者らは、同五七年一月八日頃再建基本計画発表に続いて新聞紙上で訴外会社の大量人減らし、出向方針が報道されたのと相前後して、もはや、新執行部が標榜する労使共働主義思想とは基本的に相いれず、これを排して労働諸条件の維持確保を前提とした訴外会社の再建、換言すれば企業の民主的再建を要求して闘うべきもの、そして、そのためには、原告ら旧執行部の労研活動を特定思想に基づく集団で再建途上の企業には有害であるとして規制しようとしているものと選定当事者らがみなしていた新執行部のひきいる被告組合から脱退して別組合を組織して、前記訴外会社の民主的再建と真の組合民主主義の確立に尽力するほかないものと決意を固めるに至った。
(8) かくして、昭和五七年一月二二日、原告、選定者太田浩聖、同簗瀬繁らが被告組合本部に赴き、原告ほか六名の被告組合からの脱退を申し入れ、その後同年二月四日までに選定者らは、被告組合に対しそれぞれ脱退届を提出した。そして、右脱退者らは、全日本港湾労働組合関西地方本部阪神支部に加入手続を行い(加入の効力については暫くおく)、関西汽船分会を結成した。
(9) 右脱退届後、訴外会社の各職場で被告組合員と選定当事者らとが相反目し、分裂する事態が生じたが、被告組合では右脱退の効力を否認する一方、脱退者らを除名処分にしたり、訴外会社との間のユニオン・ショップ協定に基づく解雇要求したりせず、脱退者らの被告組合への復帰を待っている。他方、新執行部の執行委員長の前記植山は、本件脱退の理由は、本件再建基本計画に協力するか、別方法で訴外会社再建にとり組むかの方針の相違によるものとみている。
以上のとおり認められ、(人証略)中右認定に副わない部分及び被告主張のうち、労研活動の性格付けと意図、原告ら旧執行部の新執行部に対する批判に関する態度の矛盾に関する部分は事実根拠必ずしも十分ともいえない意見のきらいがあり俄かに採用しがたく、他に右認定を覆すに足る証拠もなく、さらに右認定限度をこえた被告主張事実を認めるに足る証拠もない。
3 以上の事実関係を総合してみるに、選定当事者らによる本件脱退は被告組合内における労働組合としての基本的思想の違いないしは訴外会社再建に対する労働組合としての基本的取組み方の相違のために新たな組合を結成し、又はこれに加入するためになされたものというべきで、選定当事者らの団結権行使と何らかかわりない事情、例えば専ら被告組合の弱体化のみを狙ったなどとは到底認めることができず、未だ到底、本件脱退を以って権利の濫用ないしは脱退の自由の濫用ということはできない。
よって、被告の抗弁は理由がない。
四 本件積立金返還請求権の内容について
1 以上のとおりであるから選定当事者ら各自は、昭和五七年一月二二日から同年二月四日までの間に、それぞれ被告組合に対し書面による本件脱退の意思表示をなし、これが同組合に到達していること前記のとおりであるから、右到達を以って本件脱退は効力を生じ遅くとも同年二月五日以降いずれも被告組合の組合員資格を喪失したものといわねばならない。
そして、選定当事者らには本件運用規則九条二号に基づき、本件罷業資金として本件脱退の日迄に積立て済みの、及び同日以後積立てにかかる本件積立金の払戻し事由が発生し、その払戻しの範囲は、前記本件運用規則八条、一〇条によれば、元金残額全額及び既に闘争資金勘定に組入れ済みの利息を除くその余の利息残額全額の合計額というべく、その各自の元利金合計額が請求原因4記載どおりであることは当事者間に争いがない。
2 つぎに右元利金払戻し債務の付遅滞についてみるに、前同規則九条、一一条によれば、本件のように脱退による資格喪失のときは、元金については確定期限付債務とされ、その期限は資格喪失が確定したときと定めているものと解すべく、利息については、右運用規則に特に一一条のような弁済期に関する定めも見当らないので期限の定めのない払戻し債務という外ない。そうだとすると本件においては、特に法定重利に関する主張立証もないので、既発生の右利息金に対する遅延損害金の発生の余地はないというべきである。そして、右元利金の内訳についてみるに、請求原因4記載両時点の元利金の内訳を認めるに足る証拠はなく、ただ(証拠略)によれば、選定者各自の昭和五六年九月一日現在における残元金合計額が別紙請求金額一覧表の各選定者につき同表各選定者欄中の元金内金金額(C)欄に記載のとおりであることが認められるに止まる。
よって、請求原因5のうち、元利金主張は理由があるが損害金主張については、元金について、右認定額をこえる部分、利息についてはすべてが理由がないというべきである。
五 結語
以上のとおりとすると、被告組合は、選定当事者ら各自に対し、昭和五七年九月一日当時における本件積立金元利金として別紙請求金額一覧表記載の各選定者につき同表各選定者欄中の請求金額(B)欄に記載の各金員及び右元金のうち昭和五六年九月一日当時における元金である同各選定者欄中の元金内金額(C)欄に記載の各金員に対し、その弁済期である本件脱退の後であることが明らかな昭和五七年四月三日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるといわねばならない。そして、原告は、選定当事者らによりそのひとりとして選定当事者に選定されたことが一件記録により認められる。
よって、原告(選定当事者)の本訴請求は右各金員の支払いを求める限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉本昭一 裁判官 千川原則雄 裁判官 小久保孝雄)