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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)2364号 判決

第一 意匠権に基づく請求

一 請求原因1の事実(原告が本件意匠権を有すること)は当事者間に争いがない。

二 成立に争いのない(中略)及び弁論の全趣旨によれば、被告はイ号、ロ号物品(ただし別紙イ号、ロ号目録については後記のとおり)を業として製造販売し、販売のため展示していることが認められる。

別紙イ号、ロ号目録の意匠の説明及び図面は、説明中の「引出しの前面、左右側面及び後面が外側より見える様に形成していることを基本形状としている」、三段落中の「切欠部を形成している」、「切欠部」、三、四段落中の「僅かに」の部分を除き当事間に争いがない。そして、前記甲第五号証、前記検甲第一、二号証、前記乙第二四号証によれば、イ号、ロ号物品の意匠の説明のうち右争いのある部分は、「引出しの前面、左右側面及び後面が外側より見える様に形成している」と表現し、「切欠部」を「縁」と表現し、「僅かに」の部分は削除するのが妥当であると認められる。

三 イ号物品、ロ号物品が本件意匠に係る物品と機能及び用途を同じくする「衣裳ケース」であることについては前記の事実及び弁論の全趣旨により認められるので、以下イ号、ロ号意匠が本件意匠に類似するか否かにつき検討する。

1 成立に争いのない甲第一号証、同乙第三号証、原告の実施品であることにつき争いのない検甲第三、四号証によれば、本件意匠の構成は次のとおりであると認められる。

(1) 四隅部に縦方向の枠を形成すると共に、上端に天板を配し、中央部と下端の外縁に横桟を配することにより、上下二段とした箱枠体を形成し、この箱枠体に引出しを挿脱自在に挿入し、この引出しの前面、左右側面及び後面が外側より見える様に形成している。

(2)(Ⅰ) 引出しの前面は平坦面とし、その外周には僅かに前方に突出するリブが形成され、そのリブは中央下部に設けた把手部の縁まで延長されている。

(2)(Ⅱ) 引出しの前面中央下部には横長状の把手部が形成されている。この把手部は鏡板に下向きコ字形切欠部を形成し、切欠部の内方には底壁前縁が立上つており、この立上り壁でうつろを形成している。

(3) 箱枠体の左右側面の横桟は縦方向の枠より内側に配され、かつ横桟には横リブのある受段部を設けており、したがつて、引出し本体は受段部で僅かに浮いている。

(4) 天板上面は左右側縁をやや立上らせ、五本の僅かに隆起した凸部を前後方向に長く形成しており、

(5) 底面においても外縁を囲つている箱枠体の内側に引出しの底部が見える形状としている。

2 前記の別紙イ号目録の意匠の説明によれば、イ号意匠の構成は次のとおりであると認められる。

(1)´ 四隅部に縦方向の枠を形成すると共に、上端に天板を配し、中央部と下端の外縁に横桟を配することにより(この横桟は縦方向の枠よりやや外側に膨出している)、上下二段とした箱枠体を形成し、この箱枠体に引出しを挿脱自在に挿入し、この引出しの前面、左右側面及び後面が外側より見える様に形成している。

(2)´(Ⅰ)´ 引出しの前面外周には縦方向の枠より前方に突出するリブが形成され、そのリブが中央下部に設けた把手部の縁まで延長されている。また、引出しの前面の上部も広く矩形状に前方に突出しており、その結果、引出しの前面は、全体として縦方向の枠よりも前方に突出している。

(2)´(Ⅱ)´ 中央下部には横長状の把手部が形成されている。把手部は鏡板に下向きコ字形の縁をリブと同程度の位置まで前方に膨らみ状に突出していると共に、下向きコ字形縁の内方には底壁前縁が立上つており、この立上り壁でうつろを形成している。(3)´ 箱枠体の左右側面の横桟は縦方向の枠より内側に配されている。

(4)´ 天板上面は外縁よりやや窪ませると共に前後方向に二本の凹条を形成しており、

(5)´ 底面においても外縁を囲つている箱枠体の内側に引出しの底部が見える形状としている。

3 前記別紙ロ号目録記載の意匠の説明によれば、ロ号意匠の構成は、イ号意匠の構成(1)´の「上下二段」とした箱枠体」を「上下三段とした箱枠体」と訂正するほかイ号意匠の構成と同じであると認められ、これを(1)´´(2)´´(Ⅰ)´´(Ⅱ)´´(3)´´(4)´´(5)´´とする。

4 イ号意匠と本件意匠を対比すると、構成(1)´は構成(1)と同一である。しかし、本件意匠出願前の公知意匠に照らすと後述のとおり衣裳ケースの意匠として構成(1)はありふれたものであり、看る者はありふれた部分を把えて意匠の特徴とは考えず、それ以外の形状にその意匠の特徴を見いだすものと考えるのが妥当である。

すなわち、いずれも成立に争いのない乙第六ないし第一四号証によれば、本件意匠に係る物品と同一又は類似物品の意匠として次の各意匠が本件意匠出願前公知であつたと認められる。

(1) 昭和三六年六月一三日に特許された米国特許第二九八八四一一号明細書(乙第六号証、以下「公知意匠(1)」という。別紙公知意匠(1)に同じ。以下同じ。)

(2) 前同日に特許された米国特許第二九八八四一二号明細書(乙第七号証、公知意匠(2))

(3) 昭和三七年四月三日に特許された米国特許第三〇二八二〇七号明細書(乙第八号証、公知意匠(3))

(4) 昭和五一年一〇月一一日付の家庭日用品新聞掲載のヨドコウ組立式整理ケース(乙第九号証、公知意匠(4)。なお、右意匠は引出しの左右側面が外側から見えるか否か必ずしも明確ではない。)

(5) 昭和五二年五月一日付の同新聞掲載の押入れ専用のヨドコウ整理棚(D型)(乙第一〇号証、公知意匠(5))

(6) 昭和五二年一一月一一日付の同新聞掲載のキツチンテナー(乙第一一号証、公知意匠(6)。なお、右意匠は引出しの左右側面及び後面が外側から見えている。同一の意匠と推測される成立に争いのない乙第一六号証参照)

(7) 昭和五二年一一月二一日付の同新聞掲載のセキスイ押入れ収納シリーズの整理棚、衣裳函(乙第一二号証、公知意匠(7)の1、2)

(8) 昭和五〇年六月二七日公開の実開昭五〇―五三六三四号公報(乙第一三号証、公知意匠(8))

(9) 昭和四七年一二月一二日公開の実公昭五二―七五六号公報(乙第一四号証、公知意匠(9))

ところで、原告は前記認定の公知意匠に係る物品が衣裳ケースと同一又は類似物品であることを争つているが、公知意匠(4)、(5)、(7)の12が前記括弧内の各書証により衣裳ケースであることは明らかであり、公知意匠(1)については前記乙第六号証の「靴やセーター・シヤツなどの衣料品を保管するのに適したものについてである」との記載、公知意匠(2)については前記乙第七号証の「用途については限られていないので、いろいろな物を保管するものに使えると考えてもかまいません」との記載、公知意匠(3)については前記乙第八号証の「本発明は引出式の改良されたコンテナー(容器、入れ物の意味)に関するものである。」との記載及び各形態からそれぞれ衣裳ケースとして使用されることもありうるものと認められる。また、公知意匠(6)はキツチンテナー(乙第一一号証)、公知意匠

(8)は抽斗装置(乙第一三号証)、公知意匠(9)は引出し(乙第一四号証)の意匠であるが、何かを整理収納して入れ物として用いるという使用方法、使用状態については衣裳ケースと同じであるから類似物品ということができる。

なお、原告は一段単体の意匠は参考とすべきではないと主張するが、類似物品に係る意匠であれば参考とすることができるのであつて、原告のように解すべき根拠はみあたらない。

前記各公知意匠に照らすと、構成(1)については酷似あるいは似ている意匠(特に公知意匠(1)は一段式であるほかは同一、公知意匠(6)は三段式であるほか同一、公知意匠(8)は背面に横桟がないほかは同一、公知意匠(1)(2)は四隅部に縦方向の枠がなく、三段式であるほかは同一である)があり、むしろありふれた形状であつてさほど人の目を引くことはない。

5 更にイ号意匠と本件意匠を対比すると、構成(2)´(1)´と構成(2)(1)は、前方に突出するリブが形成され、そのリブは中央下部に設けた把手部の縁まで延長されている点は同一であるが、前者はリブが約一・一センチメートル突出し(検甲第一号証)、引出しの前面の上部も広く矩形状に前方に突出しており、その結果、引出しの前面は、全体として縦方向の枠よりも前方に突出しているのに対し、後者はリブの突出が僅かで(前記甲第一号証によれば右突出は正面図及び右側面図に表現されていないほどである)、引出しの前面が平坦面となつている点が異なつている。

構成(2)´(Ⅱ)´と構成(2)(Ⅱ)は、横長状の把手部が引出し前面の中央下部に形成され、底壁前縁が立上つてうつろを形成している点は同一であるが、前者は下向きコ字形の縁をリブと同程度の位置まで前方に膨らみ状に突出しているのに対し、後者は下向きコ字形切欠部を形成している点で異なつている。

そうすると、イ号意匠の引出しの前面は突出したリブや膨らみのある下向きコ字形縁により突出した印象を与え、前面の矩形状の突出部とあいまつて凸凹を形成し、立体的な構成美を作り出しているのに対し、本件意匠の引出し前面は平坦面であり、リブの突出も僅かであり、単純で平面的な構成美を生じさせている。

そして、本件意匠は意匠に係る物品を「衣裳ケース」とするから、本件意匠を構成する各部分のうちでも、衣裳ケースの正面部分、すなわち引出しの前面が通常最も人目につきやすい部分であると考えるのが相当である。このことに徴すると、この正面部分における両意匠の右のごとき形状及びこれによる美感の相違は、それぞれが両意匠の特徴としての要部を形成するものとみるのが相当である。

6 更にイ号意匠と本件意匠を対比すると、構成(3)´と構成(3)は箱枠体の左右側面の横桟は縦方向の枠より内側に配されている点は同一であるが、後者は前者にはない横桟には横リブのある受段部を設けており、したがつて引出し本体は受段部で僅かに浮いている構成を有する点で異なつている。

構成(4)´(天板の形状)は構成(4)と異なつている。

構成(5)´(底面の形状)は構成(5)と同一である。

なお、衣裳ケースの場合、通常の使用状態は引出しを閉じた状態であり、また通常定置して使用するものであるから、内部の構成(構成(3))及び底面の構成(構成(5))は意匠を特徴づける外観ということはできない。

7 そこで、両意匠の外観を全体として観察して両意匠の類否を判断するに、前記のように正面の形状が最も看る者の注意を引きつける部分とみるのが相当であり、この正面形状から受ける美感は前述のとおり異なつたものであるほか、天板(構成(4))についても両意匠において明らかな相違があるから、イ号意匠が本件意匠と共通した構成部分を有するとしても、両意匠からは異なつた印象を受けるものとみるのが相当である。

四 以上のとおり、イ号意匠は本件意匠に類似しないというべきである。

また、ロ号意匠についてもイ号意匠が本件意匠に類似しないのと同じ理由により本件意匠に類似しない(なお成立に争いのない乙第二六号証によれば、ロ号意匠はすでに意匠登録がされている)。

第二 実用新案権に基づく請求

一 請求原因1、2の各事実(原告が本件実用新案権を有すること、本件考案の構成要件の分説及び作用効果)は当事者間に争いがない。

二 被告がイ号、ロ号物品を業として製造販売、販売のため展示していることは前記第一、二記載のとおりである(なおイ号、ロ号目録の構造の説明及び図面は当事者間に争いがない。)。

そして、右事実によれば、イ号物品及びロ号物品の構成は請求原因4(一)記載のとおり分説するのが相当である(この点は被告の認めるところである)。

三 そこで、イ号、ロ号物品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて考える。

1 構成(1)´、(2)´が構成要件(1)、(2)を充足していることは明らかである。

2 ところで構成(3)´は「上向きコ字形枠2a´、2b´と横桟3´は一体成形により形成されている」のに対し、構成要件(3)は「上向きコ字形枠2a、2bと横桟3の各接合部は夫々に雄雌の嵌合として嵌合状態でビス等により分解可能に固定し」ており、両者が相違することは明らかである。

原告は右相違は設計変更にすぎないと主張するので右につき検討するに、設計変更といいうるためには、まず作用効果が同一であることを要するところ、本件考案が構成要件(3)を採用した目的についてみるに、成立に争いのない甲第三号証(実用新案公報、別添実用新案公報に同じ)によれば、その考案の詳細な説明では、「本考案は意匠(「裳」の誤りと認める)箱の改良に係り、その目的とするところは多段の引出式とすることができると共に引出し以外の箱枠体を分解可能の組立式としてコストを低減し輸送運搬も便ならしめんとするものである」(第一欄三〇ないし三四行)、「本考案は上記せる如き構成であり、この衣裳箱は箱枠体と引出しからなると共に箱枠体を組立式とし且つ分解可能にしてあるので、所望多段にも容易に形成し得ると共にこのように多段にしても輸送運搬や格納の際は之を分解して小体積とすることができ、又成形も分割体毎に行い得るのでコストを著しく低減できるという効果がある」(第二欄二〇ないし二六行)と記載されており、本件考案が構成要件(3)を採用した目的はかかる点にあるということができる。なお、原告は本件考案の作用効果は箱枠体Aを多段に組立式とし、かつ分解可能にしたことによるものであり、上向きコ字形枠2a、2bと横桟3を組立式とし、かつ、分解可能にしたことによるものではない旨主張するが、本件実用新案登録請求の範囲第一項は一段式の箱枠体に関するものであり、その文言中にも「上向きコ字状(形の誤りと認める)枠2a、2bと横桟3の各接合部は夫々雄雌の嵌合として嵌合状態でビス等により分解可能に固定したことを特徴とする」と記載されていることからみても原告の前記主張は採用できない。

ところで構成(3)´は上向きコ字形枠2a´、2b´と横桟3´、を一体形成しており、箱枠体そのものは分解不可能であり、分解して小体積としたり、分割毎に成形しえないことは明らかであり、本件考案の前記目的を達成することができない。したがつて、前記相違をもつて設計変更と目することはできず、構成(3)´は構成要件(3)を充足しないといわざるをえない。

3 よつて、イ号、ロ号物品は本件考案の技術的範囲に属さない。

第三 結論

よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。

イ号図面

<省略>

<省略>

ロ号図面

<省略>

<省略>

<省略>

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