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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)4133号 判決 1990年2月19日

原告 株式会社三景商事 ほか一名

被告 国

代理人 小宮山進 竹内健治 中嶋康雄 松下恭臣 山中恒和 山田一雄 西谷忠雄 西谷仁孝

主文

一  被告は、原告株式会社三景商事に対し、一一〇〇万円及びこれに対する昭和五五年六月四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、原告鄭政輝こと光田政輝に対し、一四〇〇万円及びこれに対する昭和五四年一〇月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告株式会社三景商事(以下「原告三景商事」という。)に対し、一億〇〇二〇万五〇二〇円及びこれに対する昭和五五年六月四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、原告鄭政輝こと光田政輝(以下「原告光田」という。)に対し、一億五一七八万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年七月二九日から支払いずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  損害賠償の対象となる公権力の行使―不動産登記簿における架空土地の現出

(一) 四六一七番三〇四の土地の分筆登記

大阪法務局枚方出張所(以下「法務局枚方出張所」という。)所属の登記官は、昭和四五年八月二八日枚方市氷室財産区(以下「氷室財産区」という。)の分筆登記嘱託に基づき、大阪府枚方市杉山手一丁目四六一七番一の土地(登記簿上の地積(以下同じ。)九万八七九九平方メートル)から同番三〇四の土地(一万〇七七六平方メートル。以下、地番のみをもって表示する。)を分筆する登記をした(以下「本件分筆登記(一)」という。)。

(二) 同番三〇四のその後の分合筆登記

(1) 同番三〇四は、昭和四五年九月八日藤原技研開発株式会社(以下「藤原技研」という。)に、所有権移転登記が経由され、藤原技研は、同月二九日右土地を、その所有する同番三(五五一平方メートル)に合筆する旨の登記を申請し、その旨合筆登記がなされた。

(2) 藤原技研は、右合筆後の同番三(一万一三二七平方メートル)を昭和四五年九月から同年一一月までの間に、六次にわたり九筆の土地に分筆する旨の登記を申請し、その旨分筆登記がなされた。右分筆の結果、同番三は、登記簿上その地積が三二平方メートルに減少した。

(三) 同番三の地積更正登記

藤原技研は、右分筆登記後の同番三について、昭和四五年一二月一〇日法務局枚方出張所に対し、土地家屋調査士大中剛彦を代理人とし、錯誤を原因として、地積を三二平方メートルから一万一〇一九平方メートルに増量する旨の更正登記の申請をし、法務局枚方出張所所属の登記官は、右同日、右土地について申請どおり地積を増量する旨の地積更正登記をした(以下「本件地積更正登記」という。)。

(四) 同番三二三ないし三二六及び三二八の分筆登記

藤原技研は、法務局枚方出張所に対し、右地積更正登記後の同番三を、昭和四五年一二月から昭和四六年一月までの間に、三次にわたり一〇筆に分筆する登記の申請をし、法務局枚方出張所所属の登記官は、昭和四六年一月二一日同番三(一万〇四三七平方メートル)から、同番三二三ないし三二六及び三二八の土地(以下「本件各土地」という。)を分筆する登記をした(以下「本件分筆登記(二)」という。)。

(五) 原告らの登記経由

(1) 原告三景商事は、本件各土地のうち、同番三二三(八八六平方メートル)については昭和五五年六月三日受付をもって、同番三二八(五四〇平方メートル)については昭和五四年八月二〇日受付をもって、いずれも代物弁済を原因として、藤原技研から所有権移転登記を経由した。

(2) 原告光田は、本件各土地のうち、同番三二四(七四六平方メートル)、同番三二五(七二八平方メートル)、同番三二六(六八六平方メートル)につき、いずれも昭和五一年七月二八日受付をもって、譲渡担保を原因として、藤原技研から所有権移転登記を経由した。

(六) 本件各土地の不存在

(1) 原告らが所有名義人となった本件各土地は、いずれもすべて現実には存在しない。

仮に、本件各土地がいずれかに存在するとしても、登記簿、地積測量図及び土地所在図等によって、これを発見することは不可能である。

(2) このように現実には存在しない本件各土地が図面上存在することとなったのは、本件分筆登記(一)の登記申請にあたり添付された地積測量図に、明白な誤りがあり、そこに記載された丈量結果の数値と図面に表示されたとおりの数値をもって丈量計算して出される数値とが食い違っていたことから、藤原技研が、これを利用して、右分筆登記の四か月後、右図面に表示された数値をもって丈量計算して出される数値が正しく、記載の丈量結果は計算間違いであったとして、錯誤を理由に、地積を増量する更正登記の申請をし、その旨の本件地積更正登記がなされ、そのため、隣接する同番一四二の土地に重複して実際には存在しない土地が図面上作出され、これが前記(四)記載のとおり、本件各土地に分筆登記(本件分筆登記(二))されたことによるものである。

2  被告の責任

(一) 登記官の調査義務

登記官の登記申請の適否の調査には、<1>形式的審査、すなわち、登記申請が不動産登記法(以下「登記法」という。)の規定からみて、もっぱら手続的に適法かどうか(たとえば申請書に記載されている事項が所定の要件に適合しているか、提出された書面が形式的にみて適法かつ真正なものであるかどうか等)の審査と、<2>実質的審査、すなわち、形式的審査にとどまらず、申請にかかる権利関係が実体的権利関係に適合するかどうか、申請書類が真正であるかどうか等を審査するために、提出された書類の外、実地調査等他に資料を求めてする審査の二つがある。

本件の前記分筆、地積更正各登記は、いずれも不動産の表示に関する登記であり、不動産の表示に関する登記は、これによって不動産の現況を公示し、取引の安全を図ろうとするものであって、全ての登記の基本であることから、できるだけ正確であることが要求される。また、不動産の表示に関する登記については、登記法五〇条が、登記官に実質的調査権を与えている。したがって、不動産の表示に関する登記の申請があった場合には、登記官は、右形式的審査のみならず、実質的審査をする義務がある。

(二) 登記官の過失

(1) 本件分筆登記(一)に関する登記官の過失

ア 昭和四五年八月二八日同番一から同番三〇四を分筆する登記が嘱託された際に登記法八一条の二に基づき<証拠略>の地積測量図(以下「A測量図」という。)が添付された。A測量図には、次のとおり、四つの明白な誤りがあった。

<1> 図面右上の三角測量をするための三角形は、高さ七九メートル、斜辺七二メートルの幾何学上ありえないものとなっている。

<2> 右三角形は、面積計算においては高さを九メートルと誤って計算されている。

<3> 図面左端の三角形の面積が加えられていない。

<4> 面積計算の足し算が間違っている。

そして、A測量図では、丈量結果が一万〇七七六平方メートルと記載されている(これが、藤原技研の氷室財産区から買い受けた土地の実測面積と思われる。)が、この図面の表示どおり面積を丈量計算すると、二万一七六三平方メートルとなる。これが、後の誤った地積更正登記を許す原因となった。

イ 形式的審査義務違反

A測量図の誤りは、登記官が通常の注意力をもって図面を精査すれば、書面審査のみで容易に発見することができる。

登記官は、このような法定の添付図面に形式的に明白な誤りがある場合には、申請書に必要な図面の添付がないものとして書面審理のみで申請を却下すべきである。本件登記官は、右審査義務を尽くさず、漫然と登記申請を受け付けた点において注意義務違反がある。

(2) 本件地積更正登記に関する登記官の過失

ア 前項の分筆登記の四か月後、藤原技研は、氷室財産区との実際の売買面積は一万一〇一九平方メートルであり、A測量図にも、丈量結果を一万一〇一九平方メートルと記載してあったが、同図にはその表示どおりに丈量計算をすると二万一七六三平方メートルとなるような数値が記載されていたので、これを利用して、図面表示の数値による丈量計算の結果が正しく、図面に起載された丈量結果は計算間違いであったとして、当時三二平方メートルとなっていた同番三の地積を、錯誤を理由として一万一〇一九平方メートルに増量する地積更正登記を受けた。この地積増量により、同地に隣接する同番一四二に重複する、実際には存在しない土地が図面上作出され、これにより、本件各土地である同番三二三ないし三二六及び三二八の分筆登記を許す原因を作ることとなった。

イ 形式的審査義務違反

右地積更正登記の申請には、A測量図が参考として添付された上、土地家屋調査士の実際に測量した結果が右図面のとおりであったという調査書が添付されていた。

しかしながら、前項のとおり、A測量図には、図面自体から明らかな四つの誤りが存し、右誤りは右地積更正登記の際においても、登記官が図面を精査すれば、書面審査だけで容易に発見できるものであった。

したがって、本件更正登記を担当した登記官は、右誤りを認識し、A測量図の正確性・真実性に疑問を抱いて、さらに正確な地積測量図の提出を求める等のことをすることができた。本件登記官は、右審査義務を尽くさず、右誤りを看過し、漫然と図面を受理した点において形式的審査における注意義務違反がある。

ウ 実質的審査義務違反

A測量図は、土地家屋調査士の資格のある者によって作成されたものではない。また、いわゆる求積図面であって、面積算出のため区切られた各三角形は、その三辺の寸法が記載されず底辺と高さのみが記載されているため、右図面によっては、分筆される土地の形状を正確に把握できない。さらに、右地積更正登記の申請書には、隣地との筆界を証明すべき書面、又は、現地の状況を証する書面は全く添付されていない。

以上のように、右登記申請書の添付書類によっては、地積測量図に表示された土地の形状や、現地における土地の範囲、物理的状況を把握できるものではない。土地家屋調査士作成の測量結果についての調査書が提出されているが、隣接地との筆界を証明すべき書面の添付がなく、測量の対象となる土地の筆界が明確でない以上、本件更正登記を担当した登記官は、土地家屋調査士作成の調査書を鵜呑みにすることは許されず、氷室財産区の担当者や、藤原技研の担当者から事情を聴取し、隣地所有者等関係人の立ち会いを求め、現地を調査する義務がある。本件登記官は、右審査義務を果たさず、漫然と地積更正登記をした点において登記官の実質的審査における注意義務違反がある。

(3) 本件分筆登記(二)に関する登記官の過失

ア 既提出の地積測量図と対比照合する義務違反

本件分筆登記(二)の登記申請の際に添付された地積測量図<証拠略>。以下「B測量図」という。)には、A測量図等と対比すれば、明白な問題があった。

すなわち、右図面を、A測量図及び<証拠略>の地積測量図(本件分筆登記(一)により分筆登記された同番三〇四を同番三に合筆した後の同番三から同番三一〇を分筆する登記申請の際法務局に提出された地積測量図。以下「C測量図」という。)と対比照合すると、B、C各測量図における同番三の外枠図と、A測量図における同番三に該当する土地の外枠図(同番三〇四を同番三に合筆した後の同番三の外枠図)とは、本来一致すべきものであるのに、全く一致しない。B、C各測量図においては、A測量図にない南西部の出っ張り部分が、同番三の土地につき作出されている。

右のような問題点は、登記官が実地の調査をしなくとも、図面を精査し、法務局に保管されている図面等と対比照合すれば、容易に発見できるものである。

本件登記官は、右審査義務を尽くさず、同番三につき机上で作成された図面を漫然と受け付けた点において形式的審査における注意義務違反がある。

イ 申請書に添付された地積測量図の不備を補正させる義務違反

分筆登記申請に際し添付する地積測量図には、「方位、地番、隣地ノ地番並ニ地積及ビ求積ノ方法」を記載することが必要とされる(登記法八一条の二、同法施行規則四二条の四第一項)。ところが、B測量図には、同番三の外縁が接する土地の地番の表示がほとんどなく、分筆される本件各土地が各々何番の土地に接しているのか極めて不明確なものである。右登記を担当する登記官は、通常の注意義務を尽くせば、このように隣接地も明確でない図面では分筆される土地の位置の確定さえも満足にできないことを容易に把握できるはずである。

したがって、本件登記官には、添付図面にある隣接地番という施行規則上必要な事項の記載に関する不備の補正を命じるべきであるのに、これを看過して、漫然、分筆登記を受け付けた点において形式的審査における注意義務違反があり、また、進んで土地の位置関係が不明確であるとして、その位置を識別することができるだけの図面の提出を求め、又は、実地調査をする等の調査をすべきであるのに、これをしなかった点において実質的審査における注意義務違反がある。

ウ 実質的審査義務違反

B測量図は、土地家屋調査士としての資格のない者が作成したものであるから、登記官は、その正確性・真実性について判断するにあたっては、より慎重を期す注意義務が課せられており、測量の結果を鵜呑みにすべきではなく、右のような登記申請については、登記官として現地を調査する義務がある。本件登記官は、右のような調査をしなかった点において実質的審査における注意義務違反がある。

エ 隣接地との筆界を明らかにする立会証明書の添付を求める義務違反

本件分筆登記(二)の申請書には、隣接地との筆界を証明すべき書面(立会証明書)が添付されていなかった。

右登記を担当する登記官は、本件分筆登記(二)のように添付の地積測量図において隣接地番の表示が不明確で、分筆土地の位置関係が明確でない場合には、隣地との筆界を明らかにする何らかの書面の提出を求める等して実質的調査を尽くす義務がある。本件登記官は、右のような調査をしなかった点において実質的審査における注意義務違反がある。

(4) 以上のとおり、本件分筆登記(一)、本件地積更正登記及び本件分筆登記(二)の各登記申請を審査するにつき、これを担当した登記官が、それぞれ右に述べた審査義務を怠り、そのために、現実には存在しないか、又は、その存在を確認することのできない本件各土地を、真実存在するものとして、登記簿に記載するに至ったものであり、原告らは、右本件各土地についての登記簿、地積測量図等を調査閲覧の上、これを信じて取引に入ったものである。したがって、被告には、原告らが被った損害を賠償すべき責任がある。

3  原告らの損害

(一) 所有権喪失と同等の損害

原告らが所有名義人となっている本件各土地は、現実には存在しない。原告らは、登記簿上これらの土地が存在することとなっているため、その表示を信頼して本件各土地の所有名義人となったが、実際はこれらの土地が存在しないため、所有権を喪失したのと同等の損害を被ることとなった。

本件各土地の時価は、原告光田が登記を経由した昭和五一年当時において、一平方メートルあたり七万〇二七〇円を下らない。

本件各土地の面積は、次のとおりである。

(原告三景商事が登記経由した分)

同番三二三 八八六平方メートル

同番三二八 五四〇平方メートル

(原告光田が登記経由した分)

同番三二四 七四六平方メートル

同番三二五 七二八平方メートル

同番三二六 六八六平方メートル

したがって、原告らの損害額は、

(1) 原告三景商事 一億〇〇二〇万五〇二〇円

(2) 原告光田   一億五一七八万六〇〇〇円

となる。

(二) 藤原技研等への貸付金の未回収額相当の損害

仮に、所有権喪失と同等の損害が原告らに認められないとしても、次のとおりの損害が原告らに認められる。

(1) 原告三景商事の損害

〔藤原技研等に対する貸付及び本件土地に対する根抵当権の設定〕

原告三景商事は、藤原技研、藤原紡績株式会社及び藤原利一に対し、次のとおり金員を貸し付け、いずれも利息を年一割五分、遅延損害金を年三割とする旨約した。

<1>昭和五〇年 九月三〇日    二六五〇万円

<2>昭和五〇年一二月一六日    一〇〇〇万円

<3>昭和五一年 三月 五日    一八〇〇万円

<4>昭和五一年 九月二七日    二〇〇〇万円

<5>昭和五一年 九月三〇日    二〇〇〇万円

<6>昭和五一年 七月一四日     五六五万円

<7>昭和五一年 九月二一日 三四二万五〇〇〇円

原告は、右全貸付金の返済を担保するため次のとおり根抵当権を設定した。

昭和五〇年一〇月一日付設定登記

泉南市信達大苗代七〇八番二外の土地

極度額 三二〇〇万円

昭和五〇年一〇月一四日付設定登記

四六一七番三二八(本件土地の一)外の土地

極度額 三二〇〇万円

昭和五〇年一二月一七日付設定登記

同番四一八外の土地

極度額 一五〇〇万円

昭和五一年三月八日付設定登記

同番三二三(本件土地の一)

極度額 二三〇〇万円

〔貸付金の回収状況〕

前記貸付金のうち<1><2><3>の貸付金合計五四五〇万円については、原告三景商事は昭和五一年一〇月二一日までに四五四四万八六〇七円の返済を受けたので、貸付残元本額は、九〇五万一三九三円である。

同<4>の貸付金については、原告三景商事は、昭和五二年三月二四日までに五〇九万七六九八円の返済を受けたので、その残元本額は、一四九〇万二三〇二円である。

同<5><6><7>の貸付金については、原告三景商事は、約定期日までに返済を受けなかった。

右を合計すると、原告三景商事の藤原技研ら三名に対する貸付残元本債権額は計五三〇二万八六九五円に達し、元利合計額は九三八四万七八七三円となる。

そして、原告三景商事は、昭和五四年八月一三日付和解契約によって代物弁済として藤原技研から譲渡を受けた土地三筆を売却して、計九六六万円を回収した。また、競売による配当金として一六一九万円三八〇九円を得た。

以上の結果、原告三景商事の未回収金額は、六七九九万三九七四円となる。

〔原告三景商事の損害額〕

ところで、原告三景商事が登記名義を取得した本件各土地(同番三二三 八八六平方メートル、同番三二八 五四〇平方メートル)が現実に存在するならば、原告三景商事は、この二筆の土地を売却することによって、前記貸付金残額を回収することができた。したがって、原告三景商事は、右未回収金相当額である六七九九万三九七四円の損害を被ったことになる。

(2) 原告光田の損害

原告光田は、藤原技研に対し、昭和五一年七月二一日に六〇〇〇万円を、同年九月六日に一〇〇〇万円を、いずれも弁済期昭和五一年九月二〇日、利息年一割五分、遅延損害金年三割の約定で貸し付け、右貸付金返済の担保のため、譲渡担保として、本件土地のうち同番三二四、同番三二五、及び同番三二六の三筆につき所有権移転登記を経た。

ところで、原告光田が登記名義を取得した右本件各土地が現実に存在するならば、原告光田は、この三筆の土地を売却することによって、右貸付金を回収することができた。したがって、原告光田は、右未回収の貸付金額相当の損害を被ったことになる。

4  結論

よって、原告らは、被告に対し、国家賠償法一条に基づき、原告三景商事については一億〇〇二〇万五〇二〇円及びこれに対する同原告が本件各土地につき登記を経由した翌日である昭和五五年六月四日から支払いずみまで、原告光田については一億五一七八万六〇〇〇円及びこれに対する同原告が本件各土地につき登記を経由した翌日である昭和五一年七月二九日から支払いずみまで、それぞれ、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因事実に対する認否

1(一)  請求原因1(一)ないし(五)の事実はいずれも認める。

(二)  同(六)の事実は否認する。

後記三1記載のとおり、本件各土地を架空の土地と断定する根拠はない。

もっとも、被告は、本件各土地の所在を現地において指示特定することはできない。

2(一)  同2(一)の事実のうち、登記官のする登記申請の適否の審査については形式的審査と実質的審査の二つの方法があること、本件各分筆登記及び地積更正登記がいずれも不動産の表示に関する登記であること並びに登記法五〇条が登記官に実質的審査権を与えていることは認めるが、その余の主張は争う。

登記官の審査義務に関する被告の主張は、後記三2(一)記載のとおりである。

(二)(1)ア 同2(二)(1)アの事実のうち、A測量図上に原告ら主張の誤りが存することは認め、その余は否認する。

イ 同2(二)(1)イの事実は否認する。

後記三2(二)記載のとおり本件分筆登記(一)についてこれを担当した登記官に過失は存しない。

(2) 同2(二)(2)アの事実のうち、本件更正登記が経由されるに至った経緯、同イの事実のうち、本件地積更正登記の申請書にA測量図と土地家屋調査士作成の調査書が添付されていたこと、同ウの事実のうち、A測量図の作製者が土地家屋調査士の資格のない者であること、右図面が求積図面のため各三角形の底辺と高さのみが記載されていること及び本件地積更正登記の申請書には隣地との筆界を明らかにする書面等が添付されていないことは認めるが、その余は否認する。

後記三2(三)記載のとおり、本件地積更正登記についてこれを担当した登記官に過失は存しない。

(3)ア 同2(二)(3)アの事実は否認する。

後記三2(四)(1)記載のとおり、登記官には申請書添付の地積測量図と既提出の地積測量図とを対比照合する義務はない。

イ 同2(二)(3)イの事実のうち、登記法、同法施行規則が原告ら主張のとおり規定していることは認め、その余は否認する。

後記三2(四)(2)記載のとおり、この点に関する原告らの主張は失当である。

ウ 同2(二)(3)ウの事実のうち、B測量図の作製者が土地家屋調査士の資格のない者であったことは認め、その余は否認する。

エ 同2(二)(3)エの事実のうち、本件分筆登記(二)の申請書に立会証明書が添付されていなかったことは認め、その余の事実は否認する。

後記三2(四)(3)記載のとおり、この点に関し登記官に過失は存しない。

3(一)  請求原因3(一)の事実は否認する。

(二)  同3(二)の(1)の事実のうち、原告主張の根抵当権設定登記が経由されていることは認めるが、その余は知らない。

(三)  同(三)の(2)の各事実は、いずれも知らない。

損害額については争う。

三  被告の主張

1  本件各土地の存在

(一) 本件各土地の分筆が適法になされていれば、地図による復元が困難であるというだけであり、本件各土地を架空の土地であると断定する根拠はない。

すなわち、土地登記簿表題部の各事項(地番、地積等)は、当該土地を特定するための要素に過ぎず、当該土地が現地のどこに位置し、その形状ないし区画がどのようなものであるかは、地図が最も的確にこれを表現できるから、これによって、明らかにされなければならない。そこで、昭和三五年法律第一四号によって改正された登記法一七条は、登記所に地図を備え付けるべき旨を規定する。このように地図の機能が発揮されるためには、登記によって観念的に示されている各筆の土地の区画線を現地において示すことができなくてはならない。そのためには、筆界点を求めるための基準である図根点が現地に存在し、それが図面上も表示されていること、筆界点が図根点からの距離と方向によって一定の精度で現地で示すことができること、現地における図根点が確実に保護されるか、図根点そのものが、より高次の別の図根点から復元することが可能なものであること等、いくつかの要件を具備することが必要である。そして、現在、右各要件を備える地図としては、土地改良法による確定図、土地区画整理法による換地図の外、国土調査法による地積図等が挙げられる。

本件各土地一帯は、本件各土地を分筆した昭和四六年当時、右の土地改良地区等には指定されておらず、登記法一七条所定の地図は存在しない。やむを得ず登記法一七条所定の地図が整備されるまでの応急的暫定的な措置として、旧土地台帳付属地図を引き続き利用しているが、右地図は、前記要件を備えておらず、その作成された当時の仕組み、当時の技術、作成された目的からみて、せいぜい土地の位置関係、形状の大略を示すにとどまり、一般にその精度は低く、十分な信頼を置くことはできない。

以上のとおり、本件においては、単に地図による本件土地の復元が困難であるというに過ぎないのである。

(二) 仮に、本件各土地の分筆が不適法で、分筆無効が存するとしても、本件各土地は、昭和四六年一月二一日分筆の元地である同番三の土地内に所属籍を有することから、同土地内に存するはずであって、架空の土地とはいえない。

2  各登記官の過失の不存在

(一) 登記官の審査義務

(1) 形式的審査義務

登記法は、登記官が申請内容と一致した実体的権利関係の存在することにつき審査によって積極的確信ないしそれに近い程度の心証にまで到達することを要求するものではないことが明らかである。このような積極的心証を要求することは、訴訟手続や通常許されない行為を特別に特定人に許すような行政処分などにおいてみられるだけであって、本来自由な取引のために奉仕すべき登記手続法においては、当初から予想していないところである。登記手続法においては、むしろ、申請のあるところ、それに応ずる実体関係も有効に存するであろうとの推定に立ち、かかる実体関係の存在が特に疑わしいと思われる場合に限って申請を却下すべきものとされ、そして、特に疑わしいというのはどのような場合かについて、登記官の主観が混入したり、事務の単純・迅速が損なわれることがないように、登記法は、当該申請行為自体と既存の登記簿の記載という全く形式的な資料によって判定しうるいくつかの徴表を制限的に列挙して、このいずれかに該当する場合のみ申請を却下すべきものと法定しており、右登記官の審査は、原則として、申請にあたって提出された証拠とこれに関連する既存の登記簿とだけを資料として行われる一種の書面審理である。

(2) 実質的審査義務

登記法五〇条一項は、登記官が土地の表示に関する登記の申請に関する事項について調査する場合の「必要アルトキ」の意義について格別規定せず、これを解釈に委ねている。したがって、調査の必要の有無は、登記官の合理的な判断に委ねられているのであって、不動産の表示に関する登記について登記官に実質的な調査権があるからといって、常に必ずこれを行使しなければならないというものではない。

そこで、これを申請事件についていうならば、申請書の添付書類によっては不動産の物理的状況を把握することができないとか、あるいは当該申請にかかる登記事項の正確性・真実性に疑義があり申請登記事項の正確性・真実性が担保されているとは認め難い場合は別として、それ以外の場合においては、更に実質的調査権を行使して不動産の物理的状況を把握し、あるいは当該申請にかかる登記事項の正確性・真実性を担保しなければならないものではないというべきである。不動産の表示に関する登記は、不動産の物理的状況を表示することを目的とした制度ではあるが、分筆登記は客観的に存在する一筆の土地を土地の物理的状況には何らの変動もないままに登記簿上細分化して数筆の土地とするにすぎず、また、地積更正登記も客観的に存在する土地の地積を前提としてそれに登記簿の地積表示を合致させるべく変更するにすぎないのであるから、いずれも当該土地の権利関係、物理的形状を変更するものではなく、隣接地との境界、外延、範囲に変更を生じるものではない。また、不動産の物理的状況は当該不動産の現所有者が最もよく熟知しているものである。そして、登記所における事務処理能力には自ずから人的物的限界があり、ことに、土地台帳法は登記法の一部を改正する法律により廃止されたものの、同法附則二条にかかるいわゆる土地台帳と登記簿との一元化がなされ、表示に関する登記制度が発足したのは、枚方出張所においては昭和四二年二月二八日であり、原告ら主張の表示に関する登記はその直後の昭和四五年であったので、当時の登記所の事務処理能力には限界があったという事実が存するのである。

(二) 本件分筆登記(一)における登記官の過失の不存在

A測量図には、同番三〇四の土地の分割線が明確に図示されており、これをもって、右地積測量図の正確性・真実性は担保されており、分割線内の寸法の記入の誤りや記入漏れ、図面計算の誤算は、何ら右分割線の区画、形質を変更するものではない。したがって、分筆の申請に必要な図面の添付がないものということはできず、登記官に本件分筆登記(一)の申請を却下すべき義務はない。

(三) 本件地積更正登記における登記官の過失の不存在

本件地積更正登記の申請に際し、更正すべき地積の内容を明らかにするために添付されたA測量図は、官公署に準ずる氷室財産区が登記嘱託の際に提出した図面であるから、右地積測量図の正確性・真実性は一応担保されているものということができ、しかも、不動産の表示登記について専門家である土地家屋調査士が自ら図面上の土地の地積を測量し、その結果、同土地の地積は右図面のとおりで、同測量図は正確である旨を記載した調査書も添付されていたのであるから、右測量図の正確性・真実性は十分に担保されている。他方、右測量図に添付されていた求積のための計算には、右測量図に基づいて計算した地積との間に相違があったのであるから、担当登記官が申請にかかる登記事項を相当であると判断して申請どおりに更正登記をしたことにつき過失はない。

もっとも、右測量図には、三角形の斜線について幾何学上存在しえない長さの数値が記載されているが、前記土地家屋調査士作成の調査書によれば、右測量図は現地を実測して作成された測量図として信憑性があると認められ、三角形の面積は、その底辺と高さが判明していれば計算することができ、その斜線の長さは必要としないのであるから、右斜線の数値は単なる誤記であり、地積更正登記に際しても格別訂正する必要がないと認められるであって、この程度の瑕疵があることをもって右測量図の信憑性について疑義を抱かねばならないものではない。

また、右測量図は、測量士の資格のない者が作製したものではあるが、登記法上、表示に関する登記申請の際に添付すべきものとされている地積測量図の作製者は、測量士の資格のある者とは限定されておらず、測量士の資格のない者が作製したことをもって直ちに当該測量図の正確性・真実性に疑義があるとはいえない。そして、A測量図は、登記法施行細則四二条の四で地積測量図に記載すべきであると規定する内容のすべてが記載されていたのであるから、右測量図には、不備はない。

さらに、隣接地との筆界を証明すべき書面の添付がなかった点についても、確かに地積更正登記の処理については、本件更正登記申請当時から現行の筆界証明書と同旨の地積更正登記承諾書(印鑑証明書付き)の添付を求めて処理する取扱いであった。しかし、本件地積更正登記は、更正にかかる土地の地積を新たに測量したことに基づくものではなく、先行の分筆登記申請の際に測量して提出された地積測量図の求積計算上の誤りを正すための申請であったものであるから、特に隣接地所有者の承諾書の添付を求める必要性のある事案ではなかった。

以上のとおり、本件地積更正登記を処理した登記官には何らの過失も存しない。

(三) 本件分筆登記(二)における登記官の過失の不存在

(1) 既提出の地積測量図と対比照合すべき義務について

前記形式的審査義務の消極性、書面審査の原則の趣旨から、本件分筆登記(二)に際しての登記官の形式的審査は、申請書及び同添付書類と登記所に備付けの登記簿、地図とだけを資料として行い、既存の地積測量図と添付の地積測量図とを対比照合する義務まではない。しかも、本件においては、添付のB測量図そのものに疑問となる点がなく、所定の要件を具備していたのであるから、登記官において先に提出されている地積測量図を調査する必要はない。

したがって、この点につき登記官に何らの過失もない。

(2) 本件分筆登記(二)申請書添付の地積測量図の不備を補正させる義務について

B測量図につき、これと既存の地積測量図とを比較して、隣接地の表示が少ないことをもって、土地の特定が不明確であり、図面自体に不備があるとの原告らの主張は、登記官に既存の地積測量図と対比照合する義務があることを前提にする主張であるところ、前記(1)項のとおり、登記官には既存の地積測量図との対比照合義務がないのであるから、主張の前提を欠き、失当である。

(3) 隣接地との筆界を証明すべき書面(立会証明書)の添付を求める義務について

現在、分筆等の登記申請に際しては、隣地所有者の立会証明書を添付する取扱いとなっているが、本件各土地の分筆が行われた昭和四六年当時は、分筆登記につき、かかる取扱いはなされておらず、地積測量図に記載する隣接地番の表示は、旧土地台帳付属地図(公図)と照合した結果、当該土地が特定される程度で足り、必ずしもすべての隣接地番を記載する必要はなかった。

B測量図には、分筆地に接する隣接地番及び方位が記載されており、当該土地が特定されているものと判断できることから受理したものであって、この点につき、登記官に何らの過失もない。

3  登記官の過失と損害との因果関係の不存在

法務局枚方出張所では、本件各土地が、図面上隣接する同番一四二の土地に重複し、右土地内に現実に存在すると誤信させるに足る図面等の資料を備え付けたり、閲覧に供したりしたことはない。したがって、原告らが、法務局枚方出張所備え付けの資料により、本件各土地が同番一四二の土地内に現実に存在する土地であると誤信し、もって損害を被ったということにはならない。

4  過失相殺

仮に、登記官に過失があり、被告に損害賠償義務が認められるとしても、原告らにも次のとおりの過失があった。

原告らは、それぞれ藤原技研に対し、高額な金員を貸し渡したのであるから、その担保として本件各土地を取得するにあたっては、現地を調査し、これらが実在することを確認する必要があったにもかかわらず、これを怠り、本件各土地の登記簿、地積測量図及び土地所在図等を確認しただけで右金員の貸し渡しをした。

したがって、これによって原告らに損害が発生したことについては、原告らにも相当の過失があったものというべきであるから、原告らの損害額の算定においては、相当の過失相殺がされるべきである。

四  被告の主張に対する認否

いずれも争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1(一)ないし(五)の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因1(六)(本件各土地の存在)について

原告らは、それぞれ自己名義の登記を経由した本件各土地が、現実には存在しない架空の土地であるか、または発見することが不可能な土地であると主張するのに対し、被告はこれを争うので検討する。

本件各土地の分筆登記時の所在は、<証拠略>の各地積測量図(なお、<証拠略>(B測量図)は、同番三から本件各土地を分筆登記する際に添付された地積測量図であり、<証拠略>は、これをもとにして同一人が作製した図面である。それぞれ昭和四六年一月一六日、同月二〇日作製。)には図示されているが、右図面には筆界点の位置を求めるための基準となる図根点が記載されていないばかりか、隣接地番の記入がほとんどなく、これらの図面のみでは現地でその所在及び位置関係を確認することはできない。また、<証拠略>によれば、B測量図は、勝村泰智によって作製されたものであるところ、同人は現地を実際に測量せず、藤原技研の代表者藤原利一に指示されるままこれを作製したことが認められ、右測量図の正確性に疑問がある。そして、その後に作製された付近の地積測量図(<証拠略>。これらの図面は、弁論の全趣旨により原告ら主張の図面と認められる<証拠略>と対比することにより、同番三の土地の形状をほぼ正確に記載したものと認められる。)には、本件各土地の記載がなく、また、これらの地積測量図に、B測量図に示された本件分筆にかかる各土地を同一縮尺をもって投影してみると、本件各土地はこれら地積測量図上に記載された同番三の外枠をはみ出した位置に存在することになり、これら地積測量図によっても、本件各土地の所在及び位置関係を確認することができない。また、前掲<証拠略>の各地積測量図とを照合してみても本件各土地の所在は明らかにならない。すなわち、<証拠略>は昭和五九年四月二三日土地家屋調査士合田洋一作製にかかる本件土地付近の土地所在図であり、<証拠略>は昭和四六年撮影の本件土地付近の航空写真、<証拠略>は同じく昭和五四年撮影の航空写真であるが、これら現地の状況を正確に投影した図面、写真と右各地積測量図とを照合してみても、本件各土地の所在を確認することはできないのである。さらに、<証拠略>は、原告光田が、同番一四二の土地所有者を相手に、現地の土地を、同番三二四ないし三二八の土地の一部であるとして、その所有権を争った土地所有権確認請求控訴事件の判決書であるが、同判決は、その理由中で、同番三二四ないし三二八の土地又はその一部が本件土地に該当するはずはなく、これらが存在するとすれば本件土地よりも更に南西に位置すると考えざるをえないが、その南西の土地は藤原技研が開発して既に他に分譲済みのものと、枚方市氷室財産区所有の土地で両者との境界も明らかであり、右同番三二四ないし三二八が割り込んで存在する余地はなく、結局右土地は藤原技研所有の同番三の分筆、合筆を繰り返す際登記上の過誤によって生じた架空の土地の中から分筆登記することによって作出されたものに外ならなかった旨認定していることが認められる。

また、<証拠略>によれば、本件各土地のうち同番三二三ないし三二六は、いずれも昭和四九年四月一〇日にいったん同番三に合筆されながら同年一〇月二六日に合筆錯誤となり登記用紙回復の措置がとられたが、右合筆直前に幸福相互銀行を権利者とする所有権移転請求権仮登記、根抵当権設定登記が抹消されていることが認められる。これら一連の措置は、藤原技研が融資を得る目的で架空であることを承知で本件各土地の分筆登記を申請し、本件各土地を作出したうえこれを担保として融資を得、弁済後に右架空であることを秘すためこれを合筆して右各土地を登記簿上から抹消したものとみることも可能である。

そして、被告においても、現地において本件各土地を指示特定することはできない旨述べるところである。

以上にかんがみると、確かに、土地の分・合筆登記ないし地積の更正は、これが現実に存在する土地を前提とする以上、当該土地の物理的形状を変更、確定するものではなく、隣接地との境界、外延、範囲に変更を生じさせるものではないから、観念的には、現実に存在する分だけ、分・合筆ないしは地積の更正の対象となった土地上に、右分・合筆ないしは地積更正の際の資料を参照することによって、新たに分・合筆された土地の境界を定めることは可能というべきではあるが、現実には、本件各土地については、地図等による復元が著しく困難で、現地の現状に照らしても発見不可能な土地であると認めざるを得ない。

ところで、前記認定の事実によれば、本件各土地の表示登記は、昭和四六年一月二一日の本件分筆登記(二)によって新たに創設されたものであるが、<証拠略>によれば、本件分筆登記(二)とその前提となる本件分筆登記(一)及び本件地積更正登記は、A測量図(<証拠略>)、B測量図(<証拠略>)の各図面に基づいてなされたことが認められる。そして、右各図面は勝村泰智が作製したものであるところ、同人は右各図面の作製にあたっては藤原技研の代表者藤原利一に指示されるまま作製したもので、現地での測量を行っていないことは前記認定のとおりである。そうであるとすれば、前記認定のとおり、本件各土地を現地で発見することができないのは、右各分筆図面が現地に即さず机上でのみ作図されたいわば架空の図面であったことに起因するものと認めるのが相当である。このような架空図面の現出により原告らが損害を被ったと認められることは、後記のとおりである。

そこで、進んで、右各図面に基づき、本件分筆登記(一)、(二)及び本件地積更正登記がなされ、その結果、本件各土地の表示登記が創設されるに至った過程において、登記官に過失を認めうるか否かについて検討する。

三  請求原因2(被告の責任)について

登記官の登記事務処理上の注意義務として、原告ら主張のような形式的審査義務及び実質的審査義務のあることは当事者間に争いがない。

1  本件分筆登記(一)に関する登記官の過失の有無

(一)  登記官の形式的審査義務について

登記法は、登記官が形式的審査の方法により登記申請を却下すべき場合として、一一の場合を限定列挙し、そのうちの一として、「申請書ニ必要ナル書面ヲ添付セサルトキ」と規定する(同法四九条八号)。そして、その審査は、提出を必要とする書面が外形上提出されているか、その書面の作成名義の真実性につき外形上明白な疑義がないか否か等に限られ、提出書面の記載内容の実質的真正については、記載の字句等の書面の外形から、論理必然的にその虚偽性が明らかとなる場合を除き、原則として、形式的審査の対象とならないものと解される。

(二)  これを本件分筆登記(一)の登記嘱託についてみると、右登記嘱託に際し提出されたA測量図に、原告ら主張のような誤りがあることは当事者間に争いがない。しかしながら、同書面には、分筆に必要な同番三〇四の土地の分割線が一応外形上は明確に図示されており、その他の記載内容についても、分割線内の寸法の記入の誤り、図面求積の誤算等はあるものの、これらの誤りは、これをもって右図面の真実性を疑わせる程に程度の重いものとはいえず、右図面の添付をもって、分筆の申請に必要な図面の添付がないものとまでいうことはできないから、担当の登記官が右申請を受理した判断は不相当とはいえない。

したがって、本件担当の登記官の本件分筆登記(一)の申請に関する形式的審査について注意義務の違反があるとはいえない。

2  本件地積更正登記に関する登記官の過失の有無

(一)  形式的審査義務違反の有無

<証拠略>によれば、本件登記申請には、A測量図の写し<証拠略>が参考として添付されている。原告らは、この図面に前記のような明白な誤りがあることから、本件担当の登記官が、さらに正確な地積測量図の提出を求める等すべきであったにもかかわらず、これをしなかった点に形式的審査における注意義務違反があると主張する。しかしながら、右図面は、本件分筆登記(一)の嘱託書添付の地積測量図に求積違いのあったことを示して、本件登記事項である更正すべき地積を明らかにするための参考として添付されたものであるから、担当登記官が、右地積測量図に誤りがあり、申請書どおりの求積違いがあるとして、申請にかかる更正登記を相当であると判断してもこの点について注意義務違反があるとはいえない。

もっとも、右図面をもって更正後の地積測量図(登記法八一条の五、八一条二項)とするには、右図面に、幾何学上存在しえない三角形となる斜線の長さの数値の記載がそのまま残る点が問題となるが、右斜線の数値は、求積上必要なものではないから、単なる誤記として扱っても不相当とはいえず、右の誤った記載が残ることをもって、外形上更正登記に必要な測量図の添付がないものとまでみることはできない。

(二)  実質的審査義務違反

(1) 登記官の実質的審査について

登記法五〇条一項は、登記官が、不動産の表示に関する登記の申請につき「必要アルトキハ」当該不動産の表示に関する事項について調査することができる旨を、また、同法四九条一〇号は、申請書の掲げる不動産の表示に関する事項が右調査の結果に符合しない場合には登記官は申請を却下しなければならない旨をそれぞれ定めている。そして、登記官が同法五〇条一項に基づきいかなる場合に調査を行うかは、担当登記官の合理的な裁量に委ねられているものと解される。不動産の表示に関する登記の申請書の添付書類等により、不動産の現況を把握することができ、当該申請にかかる登記事項が右把握した不動産の現況に照らして十分正確であると認められる場合には、登記官が重ねて当該不動産の表示に関する事項について調査する必要はないというべきであるが、右申請書の添付書類等によって、不動産の現況を把握できないときは、当該不動産の表示に関する登記事項が不動産の現況に照らして正確なものとなるよう、進んで自ら調査を行う義務があるというべきである。

(2) これを本件更正登記についてみると、その申請に際し、更正すべき地積内容を明らかにするための添付書類等として、土地家屋調査士大中剛彦作成による調査書及び地積測量図が添付されている。右調査書(<証拠略>)には、右大中自身がトランシット及び平板外を併用して地積測量し、図面については昭和四五年八月二八日に嘱託された本件分筆登記(一)の地積測量図(A測量図)と同じであるため省略する旨の記載があり、参考として右地積測量図の写しが添付されている。そして、右調査書とA測量図の写しとを参照すれば、前回の本件分筆登記(一)の申請における地積の計算において乗ずべき数値を誤るなど申請人が単純な計算違いを犯し、これを登記官が看過したことを一見明白に認識することができ、前記認定のとおり、A測量図自体には分筆に必要な図面としての要件が外見上備わっており、かつ、右申請書には、正しく計算した結果把握された地積の数値は、土地家屋調査士が現地においてトランシット等を使用して測量した結果把握された数値と一致する趣旨の右土地家屋調査士作成の調査書が添付されており、右調査書は、資格を備えた者が作成したものとして、外形上高い信憑性を備えていると認められたのであるから、結局、本件更正登記は、登記官が前回看過した計算上の誤りを訂正するに過ぎず、かつ、その訂正は実際の地積にも合致すると一応考えられたのである。したがって、担当登記官としては、本件地積更正登記の申請につき、右申請書の記載内容からさらに実質的審査まで進むことをしなかったとしても、なおその義務を怠ったものとはいい難いのである。

3  本件分筆登記(二)に関する登記官の過失の有無

(一)  形式的審査義務違反の有無

〔既提出の地積測量図と対比照合すべき義務〕

原告らは、登記官の形式的審査の方法として、既に法務局に提出ずみの地積測量図と当該申請書に添付された地積測量図とを対比照合すべき義務があり、本件分筆登記に際しては、登記官はこの点の審査を怠った過失があるという。

しかしながら、登記官の形式的審査は、申請にあたって提出された書類自体と申請の登記事項に関連する登記簿とのみを資料として行われれば十分であり、特に提出された書面が外形上実体と符合しないことを疑わしめるものであることが明白な場合は別として、提出書面以外の他の書面と対比照合してまで提出書面の内容の正確性を確認する義務があるわけではない。本件分筆登記(二)の申請にあたり提出されたB測量図(<証拠略>)は、それ自体特に実体と符合しないことを疑わしめるものであるとは認めらず、右地積測量図と法務局に既に提出ずみの他の地積測量図等とを対比照合すべき義務まであるものということはできない。したがって、本件担当の登記官に原告ら主張のような注意義務違反は認められない。

〔申請書添付の地積測量図に地番の表示がほとんどない点を指摘すべき義務〕

また、原告らは、分筆登記に際し添付する地積測量図には、「方位、地番、隣地ノ地番並ニ地積及ビ求積ノ方法」を記載することが必要とされるところ、本件登記申請の際に添付されたB測量図(<証拠略>)では、同番三の土地の外枠が接する土地の地番の表示がほとんどなく、右施行規則上必要な事項の記載に不備があると言わざるを得ず、登記官は、その補正を命じるべきであるにもかかわらず、これを看過して分筆登記を受理した点に形式的審査における注意義務違反があると主張する。

そこで検討するに、登記法八一条の二、同法施行規則四二条の四第一項によれば、分筆登記に際し添付する地積測量図には、「方位、地番、隣地の地番及び求積の方法」を記載することが必要とされているところ、B測量図には、分筆の対象となる同番三の周囲及び分筆後の同番三二七の北側の各隣接の地番の表示が欠けていることが明らかであるから、担当登記官としては、右の不備を指摘してその補正を命ずるべきであったのであり、これを看過して本件分筆登記(二)を受け付けた点に形式的審査における注意義務違反が認められる。

(二)  実質的審査義務違反の有無

右認定のとおり、本件分筆登記(二)の申請を審査するについては登記官に形式的審査義務の違反が認められるが、これを登記官の実質的審査義務との関係でみると、B測量図には、一見して次のような問題点が存することが認められる。

<1> 分筆の対象となった同番三の周囲及び分筆後の同番三二七の北側の各隣地の地番の表示が欠けているため、同図面をもってしては分筆された本件各土地と同番三の周囲の右隣地との位置関係を把握することが困難であり、ひいて右図面を現地において投影再現することが可能であるか疑わしいこととなっていること。

<2> 同図面を作製した勝村泰智は土地家屋調査士の資格を持っていないことが図面上明らかであり、右図面が、土地の測量につきどの程度の知識、経験を有する者によって作製されたのか明らかでなく、この点において登記官としては、より慎重にその正確性等を審査すべきであると考えられること。

<3> 分筆された本件各土地を含む七筆の土地の地積は、登記簿上はほぼ均等である(登記簿上の地積は、分筆された七筆の土地の地積の合計が五一三〇平方メートルなのに対し、残地の地積は五三〇七平方メートルである。)のにもかかわらず、同図面に関する限り、残地として表示された同番三は余りにも広い土地として表示されていること(同番三の土地の登記簿をみれば、同土地については一月余り前に地積の更正登記がされていることを知りうるのであり、そうであれば、残地につきそのような縄延びが生ずることはありえない。)。

そして、以上のような問題点のうち、<1>は分筆登記の申請にあたって添付すべき地積測量図としては看過することのできない瑕疵であり、これに加えて右<2>及び<3>のような疑問点も存することを考慮すると、本件分筆登記の申請を受理した登記官がその職責を尽くし注意深く本申請書類を審査していれば、同図面の信憑性を疑うことが可能であったといいうる。そして、形式的審査の対象となる同番三の登記簿を参照すれば、容易に既存のA測量図の存在が明らかになることからすると、A測量図とB測量図とを対比照合することができたはずである。そうであるとすれば、本件分筆登記(二)の申請を担当した登記官は、その実質的審査権を行使して、右対比照合をなすべきであり、これを怠ったのはその合理的裁量を逸脱したものであって、その点において実質的審査における注意義務違反が認められる。

4  右のとおり、本件分筆登記(二)の申請を受理した登記官は、B測量図と既存のA測量図とを対比照合する義務を負っていたというべきであり、右登記官が右義務を履行していれば、B測量図が現地に符合しない不完全なものであることに気づきえたはずであり、その結果、現地において発見することが不可能な土地を表示する本件各登記が現出されることは避けえたというべきである。

よって、被告は、登記官が本件各登記を創設したことと因果関係のある損害については国家賠償法一条一項に基づきこれを賠償する義務がある。

そこで、進んで、原告らの被った損害について検討する。

四  請求原因3(原告らの損害)について

1(一)  <証拠略>によれば、原告三景商事は、昭和五〇年九月から昭和五一年にかけて、七回にわたり、藤原利一及び同人が代表者を務める藤原技研及び藤原紡績株式会社に対し、土地開発費の融資として、金員を貸し付け、同番三二八については昭和五〇年一〇月一四日極度額三二〇〇万円の、同番三二三については昭和五一年三月八日極度額二三〇〇万円の各根抵当権を設定したこと、その際、右本件各土地を法務局備え付けの登記簿等で確認するとともに、右藤原利一から現地においておおよその所在場所を指示されたこと、昭和五四年八月一三日付和解契約<証拠略>によって、右貸付金の残債権額が合計九三八四万七七八三円であると確認されるとともに、本件各土地である同番三二三及び同番三二八を含む七筆の土地が右債権の代物弁済として原告三景商事の所有に属するに至ったこと及びこれ以外にも三筆の土地を競売してその配当金から弁済を得ることが右和解契約により確認されたこと、競売による配当金として計一六一九万三八〇九円が、また、代物弁済により譲渡を受けた土地のうち三筆については任意売却により計九六六万円が回収されたが、なお未回収債権が六七九九万三九七四円あること、代物弁済により譲渡を受けた土地のうち本件各土地以外の二筆中、一筆は同番二九五の土地と重複登記を生じており、同土地の所有者と所有権をめぐって訴訟中であるところ、原告三景商事は控訴審においても敗訴して現在上告中であり、他の一筆についても真正な登記名義の回復を原因として株式会社りじん興業に所有名義が移転され、その所在地を確認できない土地であることから、いずれの土地からも、債権回収を図ることは困難であること、藤原紡績株式会社は、昭和五四年一〇月三日午前一〇時破産宣告決定を受け、藤原技研も倒産し、代表者藤原利一は現在に至るも行方不明であることから、右債権額を同人から回収することは事実上不可能であることの各事実が認められる。

(二)  <証拠略>によれば、原告光田は、和晃商事社長である新武督生を代理人として、藤原技研に対し、昭和五一年七月二一日に六〇〇〇万円を、同年九月六日に一〇〇万円を、いずれも弁済期昭和五一年九月二〇日、利息年一割五分及び遅延損害金年三割の約定で貸し付けたこと、右貸付金は原告光田から新武督生に交付され、原告光田は新武督生から右金員の領収書(和晃商事作成名義、<証拠略>)を受領していること、右貸金の担保のため、本件土地である同番三二四、三二五及び三二六に譲渡担保を設定して、所有権移転登記を経たこと、その際、新武督生が、本件各土地を登記簿で確認するとともに、藤原技研代表者藤原利一から現地において、図面(<証拠略>)とともに本件土地の所在場所を指示されたこと、その後、藤原技研が倒産し、代表者が行方不明となって、右貸金七〇〇〇万円の回収が事実上不可能となったことの各事実が認められる。

2  所有権喪失と同等の損害について

右1(一)及び(二)で認定した事実によれば、原告らは本件各土地の表示に関する登記に基づき、その表示にかかる登記事項の記載に沿うような土地が現実に存在するものと考え、本件各土地を担保として藤原利一、藤原技研もしくは藤原紡績株式会社に対し、金員の貸付けを実施したものというべきである。

そして、本件のように、登記官の過誤により本件各土地の登記が創設され、その結果、実際には発見困難な土地があたかも現地に存在するかのような外観を呈するに至った場合において、右外観を信頼して金員の貸付けを実施した原告らが賠償を求めうる損害は、右登記によって表示された土地を取得しえなかったことに基づく損害と解するべきではなく、右のとおり表示された土地が存在するものと信頼した結果被った損害と解するのが相当である。

よって、本件各土地の所有権喪失と同等の損害を求める原告らの主張は採用できない。

3  本件各土地の表示に関する登記を信頼したことに基づく損害について

以上によれば、原告らが本件各土地の表示に関する登記を信頼した結果被った損害は、原告らが、本件各土地の表示に関する登記に基づき本件各土地が現地に実在すると考え、その担保価値を信頼して融資をしたにもかかわらず、後にその存在が発見できなかったために融資の回収が不能になった金額と認めるのが相当である。

(一)  右の観点から原告三景商事の被った損害を考えると、前記認定の事実によれば、同原告は、同番三二三については極度額二三〇〇万円の、同番三二八については三二〇〇万円の各根抵当権を設定していることが認められ、同原告がこれらの土地の担保価値を信頼して融資を実施し回収不能に陥った金額は、右極度額の合計を限度とするものと認められ、結局、同原告は、本件各土地の表示に関する登記を信頼した結果、右極度額の合計である五五〇〇万円相当の損害を被ったと解するのが相当である。

なお、原告三景商事は、本件各土地については、昭和五四年八月一三日付の和解契約によって、これらを代物弁済として取得したから、その際の未回収債権が損害にあたるかのごとく主張するが、そもそも前記認定のとおり、本件各土地については、これを現実に確保しうる土地として取得することは不能であったのであるから、右主張は理由がないというべきである。

(二)  次に、原告光田については、前記認定の事実によれば、本件各土地の登記の表示によりこれらの土地の担保価値を信頼して七〇〇〇万円を融資し、その全額が回収不能となったことが認められるから、右金額相当の損害を被ったと解するのが相当である。

4  損害発生の時期

前記認定事実によれば、藤原紡績株式会社が破産宣告を受けたのは、昭和五四年一〇月三日であり、遅くともこの時には、原告らの前記貸付金の回収が不能であったことが明らかとなったものというべきであるから、原告らの右各損害も、この時には現実化していたものとみるのが相当である。

五  登記官の過失と損害との因果関係

被告は、登記官の過失と原告らの損害との間には因果関係がないと主張するが、原告らは、法務局枚方出張所に備え付けられた本件各土地を表示する登記を閲覧し、これにより本件各土地が現地に存在するものと信頼して、本件各土地を担保に藤原技研に融資したものである。したがって、本件分筆登記(二)がなければ、原告らが本件各土地を担保として藤原技研に融資することはなかったはずであるから、右分筆登記における登記官の過失と原告らの融資による損害との間には因果関係があるというべきである。そして、本件各土地の昭和五一年当時の時価は、<証拠略>によると、一平方メートルあたり七万円を下らないと認められ、しかも、<証拠略>によれば、原告らが根抵当権を設定し、あるいは譲渡担保契約を設定した時点では、本件各土地(ただし、同番三二八を除く。)には、先行する幸福相互銀行を抵当権者とする極度額六〇〇〇万円の根抵当権が存したことが明らかであり、これらの事実に照らすと、本件各土地につき右の程度の担保価値があると信じることは、あながち不相当とはいえず、右因果関係の相当性もまた肯定できるというべきである。

六  過失相殺

被告は、原告らにも過失があるから、その損害額からこれを相殺すべきである旨主張するので検討する。

1  原告三景商事について

<証拠略>によれば、原告三景商事は、昭和五〇年当時本件各土地を担保として藤原技研らに融資をなすにつき、登記簿の確認はしたものの、現地での土地の確認については、原告三景商事代表者が藤原技研の代表者藤原利一から現地の案内を受けた際、担保に入っている山林をあのあたりであると指示されたことがある旨述べるのみで、他に特別の現場の確認等したことはないもようであり、ことに、昭和五四年八月一三日付和解契約(<証拠略>)により、本件各土地が代物弁済として三景商事に譲渡された時点においても、何ら現地での所在の調査等していない。<証拠略>によれば、昭和五〇年当時は、すでに藤原技研による本件土地付近の分譲が終了し、付近の状況が現在とそれほど変わらない状態であったこと、この時点か少なくとも代物弁済として本件土地の譲渡を受けた昭和五四年当時に、現地調査を行い、本件土地の所在を確認する等の措置に出ていれば、本件土地が発見の不可能な土地であることを確認でき、前記損害の発生を回避することが十分にできたというべきである。

したがって、右事実を斟酌すれば、前記原告三景商事の損害の発生につき、原告三景商事には過失があると言わざるを得ず、その過失割合は、損害額の八割と定めるのが相当であるから、結局、被告が賠償すべき損害額は、前記損害額五五〇〇万円から右過失相殺をした一一〇〇万円となる。

2  原告光田について

<証拠略>によれば、本件各土地の現地での所在の確認は、新武督生が原告ら光田の代理人としてなしている旨別件証拠調べにおいて右新武自身が証人として供述しているところであり、本件土地の確認は、新武督生が、登記簿等による確認をなすとともに、現地において、藤原技研代表者藤原利一により、図面(<証拠略>)とともに本件土地の所在場所の指示を受けたことによりなされているといえるが、これはいずれも原告光田ではなく新武がしたもので、原告光田自身は何らの確認措置もとっていない。また、藤原技研の倒産後の貸金回収についても、原告光田は、専ら新武に任せきりであり、できる限り債権を回収して損害を最小限にくい止めるための努力を怠ったものといわざるを得ない。

したがって、右事実を斟酌すれば、前記原告光田の損害の発生につき、原告光田には過失があると言わざるを得ず、その過失割合は、損害額の八割と定めるのが相当であるから、結局、被告が賠償すべき損害額は、前記損害額七〇〇〇万円から右過失相殺をした一四〇〇万円となる。

七  結論

以上によれば、原告らの被告に対する本訴請求は、原告三景商事の請求については一一〇〇万円、原告光田の請求については一四〇〇万円並びにこれらに対する前記損害発生の後であることが明らかな日である、原告三景商事については昭和五五年六月四日から、原告光田については昭和五四年一〇月三日から各支払いずみまで年五分の割合による各遅延損害金の支払いをそれぞれ求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用し、仮執行宣言の申立てはその必要がないから却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 中込秀樹 西岡清一郎 野路正典)

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