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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)983号 判決 1983年3月29日

原告

凪泰宏

被告

巴タクシー株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、五五二万八二六九円及びこれに対する昭和五四年三月三〇日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その七を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告代理人は、「(一)被告らは、各自、原告に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五四年三月三〇日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。(二)訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告ら代理人は、「(一)原告の請求を棄却する。(二)訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

一  原告代理人は、請求原因として次のとおり述べた。

1  事故の発生

昭和五四年三月三〇日午前零時四五分ころ、大阪府高槻市大塚町一丁目二一番二号先の交差点(以下、「本件交差点」という。)において、南から東へ右折中の原告運転の普通貨物自動車(登録番号大阪四〇こ〇八―四一号。以下、「原告車」という。)左側部が、北から南へ直進しようとした被告服部信(以下、「被告服部」という。)運転の普通乗用自動車(登録番号大阪五五う四五―二四号。以下、「被告車」という。)左前部と衝突した。

2  責任原因

(一) 被告服部

被告服部は、制限速度を相当上回る速度で被告車を運転したうえ、本件交差点に進入するに際し、前方注視を怠り、反対方向から右折の合図を出しながら本件交差点に進入しようとした原告車を看過した過失により本件事故を惹起した。

(二) 被告巴タクシー株式会社

(1) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告巴タクシー株式会社(以下、「被告会社」という。)は、被告車を保有していた。

(2) 使用者責任(民法七一五条)

被告会社はタクシー業を営み、被告服部を雇用しているところ、同被告は被告会社の業務の執行として被告車を運転中、前記(一)記載の過失により本件事故を発生させた。

3  損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

原告は、本件事故により、左鎖骨々折、左前頸部打撲、第七頸椎骨折、脊髄損傷の傷害を負つた。

(2) 治療経過

昭和五四年三月三〇日から同年四月二四日まで野川病院、同日から現在まで星ケ丘厚生年金病院にそれぞれ入院。

(3) 後遺症

原告には、頸髄損傷のため、第六頸髄節以下の知覚、運動機能完全麻痺等の症状が残つた。

(二) 付添介護費 七〇一四万七三三四円

(1) 原告は、本件事故後昭和五七年五月三一日までの間の付添介護費用として、九三三万三五六四円を支出した。

(2) 原告の後遺症の内容、程度からすると、原告は昭和五七年六月一日以降も終生常時付添看護を必要とするところ、その付添介護には職業付添婦の雇入れ費用は一か月当たり二五万円を要し、また、原告の昭和五七年六月一日(当時四〇歳)における平均余命は約三六年であるから、原告の将来の付添介護による費用を、年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次のとおり、六〇八二万三七七〇円となる。

(算式)

二五万×一二×二〇・二七四五九=六〇八二万三七七〇

(3) 以上を合計すると原告の付添介護のために生じる損害は七〇一四万七三三四円となる。

(三) 逸失利益 五六一八万四七〇八円

原告は、本件事故当時高槻市大冠町二丁目一六番一二号所在の「高槻建設」に造園工として勤め、従業員のための寮に住み、住居費と食費を差し引いた上で一か月当たり平均一七万六四七五円の賃金を得ていたところ、住居費と食費の額は具体的に算定することができないので、原告の逸失利益算定の基礎となる所得額については、全労働者の平均賃金によるのが適当である。そして、昭和五四年度の賃金センサスによれば、小学又は新中学卒の三五歳ないし三九歳の男子労働者の平均賃金は三一一万六三〇〇円であり、原告は、本件事故による受傷及びその後遺症のために、本件事故時(当時三七歳)から六七歳までの三〇年間にわたり、一〇〇パーセントの割合で労働能力を喪失したものであるから、原告の受傷による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して求めると、次のとおり、五六一八万四七〇八円となる。

(算式)

三一一万六三〇〇×一八・〇二九三=五六一八万四七〇八

(四) 慰藉料 一五〇〇万円

原告は、本件事故による受傷のため、将来にわたり人間としての展望の全くない生活を余儀なくされ、その精神的苦痛は計り知れないものがある。原告の精神的苦痛を慰藉するには、少なくとも一五〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 三〇〇万円

被告らは、原告の前記損害金を任意に支払わないので、原告は止むなく弁護士である本件原告訴訟代理人に本訴提起を委任したが、弁護士に本訴提起を委任したことによる損害金は、三〇〇万円とするのが相当である。

(六) 損害の填補

原告は、本件事故に関し、被告会社の加入する自賠責保険から、治療費を除き、一四〇〇万円の支払を受けた。

4  よつて、原告は、被告ら各自に対し、右3の(二)ないし(五)の合計額一億四四三三万二〇四二円から、同(六)の填補額一四〇〇万円を控除した残額一億三〇三三万二〇四二円のうち、五〇〇〇万円及びこれに対する本件事故の日である昭和五四年三月三〇日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告ら代理人は、請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

1  請求原因1記載の事実は認める。

2  同2の(一)記載の事実は争う。

被告服部は、被告車を運転して本件交差点を直進するに際し、対面信号の青色表示に従い、かつ、制限速度を遵守して時速四〇キロメートルの速度で本件交差点を直進しようとしたところ、対向車線を進行して来る原告車を認めたものの、方向指示も出さず、また、一旦停止をする気配もなかつたのでそのまま原告車が直進するものと思いそのままの速度で進行したもので、このような状況下では、被告服部には、原告車がいきなり対向車線を右斜めに横切つて進行することまで予見すべきものということはできないのみならず、原告車が右斜めに進行して来るのを認めた時点では、もはや急制動、左転把の措置により、衝突を回避することはできなかつたのであるから、結局、被告服部には、本件事故発生に関し、過失はない。

3  同2の(二)の(1)記載の点は認める。

4  同2の(二)の(2)記載の事実のうち、被告会社がタクシー業を営み、被告服部を雇用していること、同被告が被告会社の業務の執行として被告車を運転中に本件事故を発生させたことは認め、その余の事実は争う。

5  同3の(一)ないし(五)記載の各事実は知らない。

6  同3の(六)記載の事実は認める。

三  被告ら代理人は、抗弁として、次のとおり述べた。

本件事故は、原告が飲酒酩酊のうえ、方向指示器も出さず、いきなり被告車の進路を横断進行した一方的過失により発生したもので、被告服部には何らの過失もないことはもとより、被告会社にも、被告服部の選任監督、当該車両の点検整備等について過失はなく、かつ、被告車には構造上の欠陥又は機能上の障害もなかつたから、被告会社には損害賠償責任がない。

四  原告代理人は、右抗弁に対する答弁として、「争う、」と述べた。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1記載の事実は、当事者間に争いがない。

そして、右争いのない事実に、成立に争いのない乙第一、第二号証、同第三号証の七、同第四号証、撮影者と被写体については争いがなく、撮影年月日については弁論の全趣旨により原告主張のとおりであると認められる検甲第一ないし第四号証、被告ら主張のとおりの写真であることに争いのない乙第五号証、証人阿辻嘉邦、同稲田剛の各証言、原告、被告服部信の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる(ただし、原告、被告服部信各本人尋問の結果中、後記信用しない部分を除く。)。

1  本件交差点は、いずれも、歩車道の区別があり、アスフアルト舗装された、ほぼ南北に通じる国道一七〇号線(以下、「南北道路」という。)と、西方へ延びる道路(以下、「東西道路」という。)とがT字型に交わる信号機によつて交通整理の行われている交差点で、付近の道路状況は別紙図面のとおりであること、そして、南北道路は、平たんかつ見通しの良い直線道路で、車線部分は、中央分離帯及び車両通行帯境界線により、南行車線及び北行車線各二車線に区分されていること、本件交差点の各入口付近の路面には、同図面記載のとおり、白色ペイントで横断歩道及び一時停止線が引かれ、また、同図面の位置には対車両用の信号機が設置されていたこと、南北道路の東端には、車道とは段差のある、幅員約二メートル、アスフアルト舗装の歩道が設けられ、その車道側には金属製の柵が設置されていたが、自動車の通行に供する必要上、金属性の柵も、歩車道の段差もない部分があつたこと、本件交差点の東側には二四時間営業の中華料理店「大玉」の駐車場があり、同図面の位置に看板が立てられ、その南側に駐車場の入口が設けられていたこと、右駐車場の北側はブロツク塀を隔てて同図面記載のとおり、私道になつていたこと、そして、右駐車場及び右私道の西側には、自動車の通行のため歩道上の柵が設置されず、歩車道間に段差のない部分があつたこと、本件交差点付近の南北道路の制限速度は時速四〇キロメートルに規制されていたこと、事故当時、強い雨のため自動車用運転者の見通しは必ずしも良くなく付近路面はずぶ濡れの状態であつたこと、また、当時、本件交差点付近を運行する車両はほとんどなかつたこと、なお周辺は、南北道路の東西両側の歩道上の街燈や、前記「大玉」の駐車場内の照明により、幾分明るい状態であつたこと。

2  被告服部は、乗客阿辻嘉邦を乗せ京都府八幡市の男山団地方面へ向う途中、本件道路南行第二車線上を時速約四〇キロメートルの速度で進行し、本件交差点付近に至つたこと、そして、本件交差点の対面信号の青色の表示を確認した後、別紙図面<1>の位置で、対向車線上の同図面<ア>付近の位置をゆつくりと北進する原告車の前照燈の光を認めたこと、被告服部は、原告車の位置や同車が方向指示器による右折の合図を出していなかつたこと等から原告車が直進するものと思い込み、原告車の動静に格別注意を払うこともないまま同一の速度で進行したところ、同図面<2>の位置に至つたとき、原告車が南行車線を横切るような形で同図面<イ>の位置まで進行しているのに気付き、直ちにハンドルを左へ切ると共に急制動の措置を措つたが、及ばず、同図面<3>の位置で被告車の左前部を原告車の左側部の前方部分に衝突させ、被告車は同図面<4>の位置に停車したこと。

3  原告は、深夜空腹を感じ、食事のため、当時の勤務先の高槻建設所有の原告車を運転して南北道路を北進し、本件交差点に至つたこと、原告は、対面信号の青色の表示を確認したうえ原告車を減速させながら本件交差点に進入した後、本件交差点東側の中華料理店「大玉」の駐車場内に設置されている看板を認め、同駐車場に入るために右に転把し、南行車線を横切ろうとしたが、別紙図面<ウ>の位置に至つたとき、前記2で認定したとおり、折から南行第二車線を南進してきた被告車の左前部と原告車の左側部の前方部分が衝突したこと、原告車は衝突の衝撃により路上を南の方へ滑走し、同図面<エ>の位置に停車したこと、なお、事故当時、原告は酒気を帯びていたこと。

以上の事実が認められ、被告服部信の本人尋問の結果中の、本件交差点の東側には中華料理店「大玉」の駐車場への入口はなく、歩道上の別紙図面の位置の信号機の付近から本件交差点南側横断歩道付近まで金属製の柵が切れ目なく設置され、この間では歩車道の段差が続いていた旨の、原告本人尋問の結果中の、本件交差点内で一旦停止した旨の、交差点内で右折した際、方向指示器による右折の合図を出した旨の、また、衝突地点は別紙図面<ア>の位置の東側の南行車線上である旨の各供述は、いずれも前掲各証拠に照らし、にわかに信用できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  責任原因

1  被告服部の責任

前記一で認定した事実によると、被告服部は、被告車を運転して本件交差点を北から南へ直進しようとして時速約四〇キロメートルの速度で本件交差点に接近したとき、対向車線を減速して進行して来る原告車に気付き、しかも、本件交差点の東側には中華料理店の駐車場の入口や私道の入口があつたのであるから、原告車が右各入口方向に向うため、南行車線を横切ることも有り得ると予測して、原告車の動静に十分注意を払いながら進行すべきであつたといわなければならないところ、被告服部は、これを怠り、原告車が直進するものと思い込み、原告車の動静に格別の注意を払うこともないまま同一の速度で進行した過失により、原告車の動向を把握できず、本件事故に至つたものと認められるので、結局、被告服部には本件事故の発生に関し、過失があつたものといわざるを得ない。

したがつて、被告服部は、民法七〇九条により、本件事故によつて原告が被つた後記損害を賠償する責任がある。

2  被告会社の責任

(一)  請求原因2の(二)の(1)記載の点は、当事者間に争いがない。したがつて、被告会社は、自賠法三条本文により、同条但書所定の免責の主張が認められない限り、本件事故による損害を賠償する責任がある。

(二)  そこで、被告会社の免責の主張について判断するに、被告車を運転していた被告服部には、前記1で述べたとおり本件事故を惹起した過失があると認められるので、その余の点について判断するまでもなく、被告会社の免責の主張は理由がない。

したがつて、被告会社は、自賠法三条本文により、その余の判断をするまでもなく、本件事故によつて原告が被つた後記損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  受傷、治療経過等

成立に争いのない乙第三号証の二、六、九、一〇、一七ないし二四、弁論の全趣旨により成立を認められる甲第六号証、証人凪晃平の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

原告は、本件事故により、左鎖骨々折、左前頭部打撲裂創、脊髄損傷、第七頸椎骨折等の傷害を負つたこと、原告は、昭和五四年三月三〇日から同年四月二四日まで守口市内の野川病院に、同日から枚方市内の星ケ丘厚生年金病院にそれぞれ入院して治療を受けたが、第六頸髄筋以下知覚運動完全麻痺、両肩関節拘縮、神経因性膀胱の症状が残り(昭和五四年九月一二日症状固定)、受傷以来、両肘の屈曲運動以外には両上下肢の自動運動を行うことも、また、自力で排泄を行うこともできないため、常時付添看護者を必要とする状態が続いていて、このような原告の症状は将来回復する可能性はないこと、自賠責保険の関係では、原告の後遺症状は後遺障害等級表一級八号に該当するとされたこと、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  付添介護費

(一)  本件事故後昭和五七年五月三一日までの分 九三三万三五六四円

証人凪晃平の証言により成立の認められる甲第三号証の一ないし二五、同第四号証の一ないし三〇、同第五号証の一ないし一四、同第七号証の一ないし七、証人凪晃平の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故後昭和五七年五月三一日までの間継続的に職業付添婦及び近親者の付添介護を受けたことにより、少なくとも原告主張のとおりの右金額の損害を被つたことが認められる。

(二)  昭和五七年六月一日以降の分 二一八〇万九五五三円

前記1で認定した事実に、証人凪晃平の証言、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、前記認定のとおり、昭和五七年六月一日以降も星ケ丘厚生年金病院に入院しているが、職業付添婦による付添費用の支払ができないため、病院側と話し合つたうえ、病院の好意で暫定的に看護婦から排泄等の世話など介護を受けることが可能になつたものの(なお、原告は、手に装具を着用して食事だけは、無理をして一人で食べるよう努力している。)、近親者も交替で週一度、身辺の掃除、原告の衣類の洗濯等のため、病院にまで出向いていること、しかも、病院側の要請もあつて、いずれは、退院しなければならず、そうなると、原告は独身で妻子もいないところから、近親者あるいは付添婦の介護が必要となつてくることが認められる。

右認定事実によると、原告は、生涯にわたり付添看護を必要とする状況が続くものと認められるところ、将来いつまでも病院側の恩恵に浴することもできず、いずれは退院し、近親者あるいは職業付添婦の介護に頼らざるを得ないと認められるから、原告が昭和五七年六月一日現在四〇歳で、昭和五五年簡易生命表では、その平均余命は三五年程度となつていることをも勘案すると、原告の介護に必要な労働を得る費用は、昭和五七年六月一日以降余命期間を通じ、一日当たり三〇〇〇円と評価して算定するのが相当である。

したがつて、右費用を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、次のとおり二一八〇万九五五三円となる。

(算式)

三〇〇〇×三六五×一九・九一七四=二一八〇万九五五三

3  逸失利益 四八九九万八二二八円

証人凪晃平の証言により成立を認められる甲第二号証、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告は本件事故当時三七歳で、土木工事全般を行うことを業とする高槻建設に勤務し、昭和五三年度には住居費と食費を差し引かれたうえで一年間に二一一万七七〇〇円の給与を受け取つていたほか、住居費や食費の名目で差し引かれた分として、一か月当たり少なくとも五万円程度の収入を挙げていたことが認められるので、原告の逸失利益算定の基礎となる原告の年収は、二七一万七七〇〇円と認めるのが相当である。

そして、前記1で認定した事実によると、原告は、本件事故により、就労可能な六七歳までの三〇年間にわたり、その労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められるから、原告の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除し、本件事故当時の現価に換算すると、次のとおり四八九九万八二二八円となる。

(算式)

二七一万七七〇〇×一八・〇二九三=四八九九万八二二八

4  慰藉料 一五〇〇万円

本件事故の態様、原告の傷害の程度、治療の経過、後遺障害の内容、程度、その他諸般の事情を併せ考えると、原告の被つた精神的苦痛を慰藉するには、一五〇〇万円とするのが相当であると認められる。

四  過失相殺

前記一で認定した事実によると、原告は、酒気を帯びて原告車を運転したうえ、南北道路を北進し、本件交差点内で右折し、交差点東側の中華料理店「大玉」の駐車場に入ろうとした際、対向車線の交通の安全確認を怠り、被告車を看過して漫然と右折進行した過失により本件事故を発生させたものと認められるから、本件事故の発生については原告にも重大な過失があつたものといわざるを得ない。そして、原告の右過失のほか、前記認定の被告服部の過失の内容、程度、双方の車種、本件事故の態様等諸般の事情を勘案すると、過失相殺として、原告の損害額の八割を減ずるのが相当であると認められる。

そして、過失相殺の対象となる損害額は、前記三で認定したとおり、九五一四万一三四五円であるから、これから八割を減じて原告の損害額を算出すると、一九〇二万八二六九円となる。

五  損害の填補

原告が、本件事故に関し、自賠責保険から一四〇〇万円を受け取つたことは、原告において自認するところである。そして、前記四で認定した一九〇二万八二六九円から右填補分一四〇〇万円を差引いた残損害額は五〇二万八二六九円となる。

六  弁護士費用 五〇万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の額は五〇万円とするのが相当である。

七  結論

以上のとおりであるから、本件損害賠償として、被告らは、各自、原告に対し、五五二万八二六九円及びこれに対する本件事故の日である昭和五四年三月三〇日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、原告の本訴請求は右の限度で理由があるのでその限度で正当としてこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 弓削孟 佐々木茂美 孝橋宏)

別紙図面

<省略>

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