大阪地方裁判所 昭和58年(ヨ)5255号 1984年1月28日
申請人
田尻長次
被申請人
ダイハツ工業株式会社
主文
本件申請を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
理由
(当事者の求めた裁判)
申請人は「1被申請人は申請人に対し金四三万四三八〇円を仮に支払え。2被申請人は申請人に対し金七万〇一二〇円及び昭和五九年一月以降毎月二〇日限り金八一八〇円の割合の金員を仮に支払え。3申請費用は被申請人の負担とする。」との決定を求め、被申請人は主文と同旨の決定を求めた。
(当裁判所の判断)
一 被保全権利について
当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば以下の事実が一応認められる。
1 申請人は被申請人から昭和五二年二月八日解雇されたため被申請人を被告として解雇無効確認等請求訴訟を大阪地方裁判所に提起し(同裁判所昭和五三年(ワ)第三一二一号事件)、同裁判所は昭和五六年一一月三〇日前記解雇を無効とし、被申請人に対し金一〇六一万〇八三〇円及び将来の賃金として月額金一六万七二九〇円の支払を命じた。被申請人は右第一審判決を不服として大阪高等裁判所に控訴を申立て、現在同裁判所昭和五六年(ネ)第二五三七号事件として係属している。
2 被申請人と被申請人の従業員をもって組織する労働組合との間で昭和五八年度の定期昇給、特別昇給、家族手当の増額及び冬季一時金について別紙(略)一の一、二記載のとおり実施する旨の協定が成立し、申請人を除く他の従業員には定期昇給分については三月分の給与から、特別昇給、家族手当については五月分の給与からそれぞれ支払っており、冬季一時金については昭和五八年一二月九日に支給した。
3 申請人についてこれらを算出すると別紙一の三、四記載のとおり賃上げ合計は八一八〇円、冬季一時金は四三万六六〇〇円、三月分から一二月分までの賃上げ分の合計は七万〇二四〇円となるが、被申請人は現在も申請人にこれを支払っていない。
以上のとおりであるから申請人の主張する被保全権利については疎明されたものというべきである。
二 保全の必要性について
疎明資料等によれば一応申請人は昭和五七年度の定期昇給及び特別昇給分月額一万〇五〇〇円の支払を求め、大阪地方裁判所に対し仮処分申請をなし(昭和五七年(ヨ)第三〇一五号事件)、これが認容され、前記第一審判決の認容額と合わせて被申請人から毎月一七万七七九〇円の支払を受けていること、申請人の家族は妻のみであるところ、同人も私立宣真学園高校の教師として毎月約一九万円の収入と相当額の一時金を得ており、申請人夫婦の毎月の収入は約三六万七七九〇円となること、尚申請人の両親は弟夫婦と同居していることが一応認められる。
右認定事実によれば申請人が共稼ぎをしていることからそうでない場合より家計費が増加することを考慮に入れても右の収入の範囲内で申請人及びその家族の生活を維持した上弟夫婦と同居している申請人の両親に幾らか送金することも十分可能であって、本件において昭和五八年度の賃上げ分及び冬季一時金の全額の支払を受けなければ申請人及びその家族の生活が直ちに危殆に瀕するものと認めうる十分な疎明があるものとはいえない。
尚申請人の報告書(<証拠略>)には一〇〇万円近い借金があること、昭和五八年末に返済すべき借金につき他から借入れてこれを支払った旨の記載があるが、一〇〇万円近い借金についてはその明細及びその裏付資料も提出されていないからいまだその疎明が尽くされたものとはいえないし、新たな借入れは無利息であって早急に返済しなければならない事情も窺えず、右認定を妨げるものではない。
三 結論
してみれば本件仮処分申請は保全の必要性についての疎明を欠くものであり、しかも保証を以て疎明に代えることも相当とは認められないからこれを却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 大工強)