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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)267号 判決

【事実】

第二 請求原因

一  原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。

登録番号 第七一三七四一号

登録商標 別紙(一)商標公報のとおり

指定商品 第二八類 酒類

出願 昭和三九年六月六日(商願昭三九―二六〇四六)

出願公告 昭和四一年一月六日(昭四一―四四八)

登録 昭和四一年七月一九日

更新登録の出願 昭和五一年二月二四日(出願番号五一―二〇四七六八)

更新登録をすべき旨の査定 昭和五二年二月一五日

二  被告は、昭和四九年頃から、別紙(二)記載の標章を付した人蔘酒(以下「被告製品」という)を大韓民国所在の訴外株式会社眞露から輸入し、日本国内において譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示している。

三  本件商標と被告標章とは、ともに「こうらい」の称呼、観念を生じる点で共通し、また、多少字体を異にするが、外観も類似する。

四  よつて原告は被告に対し、人蔘酒及びその容器に被告標章を付したものの譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示、輸入の差止め並びに右人蔘酒及び容器の廃棄を各求める。

第四 被告の主張

一  被告は、「高麗」を単独に使用しているのではなく、普通名称たる高麗人蔘を焼酎などの酒精分に漬けたものの名称として、別紙(三)記載の「高麗人蔘酒」(以下「被告標章」という)を普通に用いられる方法で表示したものを使用しているのであるから、商標法二六条一項二号により被告標章には本件商標権の効力は及ばない。

「高麗人蔘」が普通名称であることは左記の事実により明らかである。

1  高麗人蔘は、韓国、中国東北部、日本などに産するウコギ科の多年草であつて、強壮薬として古来よりよく知られており、「高麗人蔘」の語は、以下のとおり、国語辞典、旅行ガイドブック、大衆向けの漢方薬関係の書物、週刊誌類当業者の製品パンフレットなどの登載例を見ても普通名称であることが明らかである。

(一)  別紙「高麗人蔘」用語登載例一覧表①ないし③には、「高麗人参(又は蔘)」を韓国土産品の筆頭に挙げている。

同⑰ないし⑳のとおり、韓国の観光会社の日本向け観光案内においても「高麗人蔘」を韓国のみやげ品の筆頭或いは代表的なものとして挙げている。

(二)  登載例⑤には、「古くから高麗人参の名声が高く」と記載されている。

同には、その題名として「高麗人蔘自強法」の記載があり、本文には、その薬効、歴史、販売量、産地などの記述に「高麗人蔘」、「高麗にんじん」の語が用いられている。

同、には、「高麗人参」が朝鮮人参の別称として説明されている。

同には、カネボウ薬品の販売する薬用参茸酒の宣伝広告中に「高麗人参配合」の宣伝文句が用いられている。右には、ロッテが医薬品として「高麗人参原形」の語を用いて宣伝広告を行つている。

同⑥にも「高麗人蔘」が掲載されている。

(三)  登載例④の中には、「強壮剤として古来よりその薬効がうたわれている薬用高麗人蔘」なる記載がある。

同⑦、⑧には、それぞれ「高麗人蔘」の名称を用いて、種類、産地、用法などが記載されている。

同には、「高麗人蔘」を「朝鮮人蔘」の別称として挙げ、産地、成分、効能などを説明している。

(四)  国語辞典類にも高麗人蔘の名称が掲載されている。登載例⑨、⑩には朝鮮人参の項目中にその別称として、それぞれ高麗人参、コウライニンジンを挙げている。同⑪には、朝鮮人参の項目中にその別称として高麗(こうらい)人参ともいうと記載されている。

(五)  同には、「近来、薬用人蔘も日本産人蔘のほか韓国産(高麗人蔘)……」とある。

2  高麗人蔘の語尾に「酒」と同様に「茶」、「粉末」、「濃縮液」等を付し、高麗人蔘を成分としていることを示す表示も普通に行われている。

(一)  同には、広告が掲載され、それにはカネボウ薬品が「高麗人蔘」の商品名で「顆粒状高麗人蔘エキス」を販売していることが示されている。

(二)(1)  同は、高麗人蔘濃縮液が医薬品であると判断した刑事判決であるが、その罪となるべき事実中には「高麗人参濃縮液」を普通名称として記載しているほか、弁護人の主張に対する判断中で「証人……の証言をまつまでもなく、高麗人参は朝鮮人参と同一に解され、古来漢方の伝承薬として一般人も薬効があると認識しているものであり、本件高麗人参濃縮液の成分……」とあるように、高麗人参が普通名称である旨の表現をしている。また同判決中の弁護人の主張に関する部分には、「高麗人参は、……に属する多年草で、強壮効果があることは広く知られ」と記載されている。

(2)  同、の各新聞は、右刑事事件の上告審判決に関する報道記事中で高麗人参濃縮液を普通名称として取り上げている。

(三)  その他高麗人蔘粉末につき登載例⑥、⑫、高麗人蔘(参)茶につき同⑦、⑬、、高麗人蔘濃縮液については同⑧、高麗人蔘(参)エキスについて同⑦、⑫、、ないしに記載がみられる。

また、東京コカコーラボトリング株式会社や利根コカコーラボトリング株式会社が製造している栄養飲料「リアルゴールド」はその商品説明において原材料として高麗人参エキスを記載している。

(四)  このように高麗人蔘の語尾に各種語を付して商品の普通名称にしたり、品質表示とすることはごくありふれたことであり、被告の高麗人蔘酒もこれらの例にすぎない。

3  被告が用いる「高麗人蔘酒」が高麗人蔘を焼酎などの酒精分につけたものの名称であることは、登載例⑭に記載されている。

本件被告製品以外にも、登載例⑮、⑯のとおり、日本国内において「高麗人蔘酒」の語を用いた販売例があり、これらは、高麗人蔘酒が高麗人蔘茶、高麗人蔘粉末、高麗人蔘濃縮液などと同様高麗人蔘を材料としていることを示す名称であることを表わしている。

4  以下のとおり、最近に至り「高麗」を頭に付した商標出願が食品部門その他で数多く特別顕著性なきものとして拒絶されており、右事実は本件登録商標が過誤登録であつたことを物語つている。

(一)  拒絶文字商標集(食品部門)には、二八類における「高麗人蔘酒」の商標出願(原告出願)が特別顕著性なしとして拒絶されていること(乙第一七号証の三)二九類においても「高麗真蔘茶」、「高麗蔘精ドリンク」、「高麗人蔘精茶」、「高麗人蔘茶」が、昭和四四年から昭和四五年にかけての出願においていずれも拒絶されていることが示されている(乙第一七号証の四)。また右商標集には、三〇類の昭和四二年出願で「高麗人蔘」が同様に拒絶されていることが示されている(乙第一七号証の五)。

(二)  また、拒絶文字商標集(食品部門)第2巻によれば、次のような商標が特別顕著性なしとして出願を拒絶されている。

高麗蔘糖(三〇類) 昭和四九年出願

高麗みそ(三一類) 昭和五〇年出願

高麗人参蜂蜜漬(三二類) 昭和四七年出願

(三)  同第3巻にも同様次のような拒絶例がある。

高麗カット(三〇類) 昭和五一年出願

高麗チップ(三〇類) 昭和五一年出願

高麗チョコレート(三〇類) 昭和五一年出願

高麗人蔘飴(三〇類) 昭和五〇年出願

高麗人蔘チョコレート(三〇類) 昭和五二年出願

高麗糖人参(三二類) 昭和五一年出願

高麗人参(三二類) 昭和五一年出願

高麗カット(三二類) 昭和五一年出願

高麗チップ(三二類) 昭和五一年出願

(四)  拒絶文字商標集<第4類>昭和五八年度でも、高麗浴蔘(昭和五三年出願)が拒絶されている。

二  被告製品の商標は「秘苑」である。

被告製品を他の商品と識別している表示は、「高麗」・「高麗人蔘酒」ではなく「秘苑」である。また、「高麗」の語をそれ自体独立して使用しているのではなく、「高麗人蔘酒」として一連に使用していることは、その使用態様(検乙第一号証)から明らかである。

「秘苑」には表示も付されており(検乙第一号証)、これが商標であることも明らかである。

それ故被告には本件商標権侵害の事実はない。

【理由】

一請求原因一(本件商標権の存在)の事実は当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、被告は、別紙(三)の標章(以下「被告標章」という)を外箱及び容器に付した被告製品を輸入し、日本国内において販売していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

三原告は、被告製品における被告標章が本件商標である「高麗」と「人蔘酒」とを連繋した合成語であるから、本件商標権を侵害している旨主張するのに対し、被告は、被告標章が薬用の人参の普通名称である「高麗人蔘」を材料としている酒であることを示す名称にすぎないから右侵害に当たらないと反論するので以下検討する。

1  まず、被告標章が「高麗」と「人蔘酒」とを隷書体にて一連に縦書き若しくは横書きしたものであり、それらを間隔を置いて表示したものでないことは、<証拠>により明らかである。

2(一)  そして、<証拠>によると、別紙登載例①ないし、ないしに記載してある韓国への旅行案内書、健康食品・漢方薬の紹介書、国語辞典類、新聞による報道、広告、週刊誌、薬用の人蔘の宣伝パンフレット、能書、薬用作物の研修会資料などには、被告の主張一1(一)ないし(五)記載のとおり、「高麗人蔘」の言葉を用いて、ウコギ科の多年草である薬用の人参の植物学的分類、生態、歴史、種類、産地、効能、用法、加工法などが掲載されており、また右登載例中には、被告の主張一2(一)、(二)(2)、(三)記載のとおり、薬用の人参の加工品として「高麗人蔘茶」、「高麗人蔘粉末」、「高麗人蔘エキス」、「高麗人蔘濃縮液」などと記載されているものがあること、更に同の刑事判決書には、被告主張一2(二)(1)の記載がされていること、そして、東京コカコーラボトリング株式会社外一社が製造している栄養飲料「リアルゴールド」には、その説明書に、原材料として「高麗人参エキス」と記載されていること、そのうえ、被告製品のほかにも、外箱に「高麗人蔘酒」、「開成高麗人蔘(蔘)酒」と記載された薬用の人参酒が韓国から輸入され我が国で販売されていること、被告の主張一4のとおり、「高麗人蔘」、「高麗人蔘酒」をはじめ、「高麗」を冠した商標出願(昭和四二年から昭和五三年までの出願)が食品部門その他で、商標法三条一項各号(自他商品の識別力を有しない商標)に該当するとして拒絶査定されていること、以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  右で認定したところによれば、「高麗人蔘」の用語及び「高麗人蔘茶(エキス・粉末・濃縮液)」の用語は、我が国において業者・一般人中相当数の人々によつて、それぞれ薬用の人参及びその加工品を表わす普通名称として使用されており、したがつて、薬用の人参を酒精分に漬け込んだものとしての「高麗人蔘酒」も普通名称化しているということができる。

(三)  もつとも、原告は、「高麗人蔘」の呼称が我が国において極めて特殊な呼び方であることの一根拠として辞書類などに朝鮮人参の別称として登載されているにすぎないことを挙げるけれども、「高麗人蔘」の言葉が薬用の人参そのものを表示する呼称として相当範囲の人々の間で了知されている場合には、たとえそれが別称としての了知であつても、普通名称と解することの妨げにはならないというべきである。

(四)  また、<証拠>を総合すると、一部の事典、辞書、雑誌類に「高麗人蔘」の記載がみられないこと、また、長野県における薬用の人蔘栽培農家、長野県、農林省(現農林水産省)などの公用文書、刊行物においては、太平洋戦争前から、薬用の人参の呼称として「薬用人蔘」、「人蔘」の用語を使用していることが認められるけれども、我が国における一部地域、或いは一部官公署において「高麗人蔘」の用語を使用していないからといつて前記結論を左右しない。

3  <証拠>によれば、(一) 被告製品本体の瓶側面上部の環状ラベルには「秘苑」と赤字で横書きされ、それに並んで「高麗人蔘酒」と、隷書体の黒字で横書きされており、「秘苑」には登録商標であることを示す表示が付されている。

また瓶中央のラベルには左上に「秘苑」と黒字で横書きされ、次いで「BIWON」と金文字で横書きされ、ラベル中央には、「高麗人蔘酒」と黒字の隷書体で横書きされ、「秘苑」には表示が付されている。

(二) 被告製品の外箱四側面中二面には、「高麗人蔘酒」と、黒字の隷書体で縦書きされ、その右上には「秘苑」と、赤字で縦書きしてあり、中央よりやや下には「BIWON」と、赤字で横書きされ、それにはが付されている。

そして、他の一面には、右(一)の表示を含む被告製品本体の天然色写真が掲載されている。

また、他の一面には、その最上部に「秘苑」と赤字で横書きされ、それに並列して「高麗人蔘酒」と黒字で横書きされており、「秘苑」には表示が付されている。以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

4 右で認定・説示のとおり、被告標章の「高麗人蔘酒」は、本件商標の「高麗」と普通名称「人蔘酒」とを連繋したものではなく、普通名称である「高麗人蔘」を酒精分に漬け込んだものを表わす普通名称として不可分一体となつて被告製品の内容物を示す表示として用いられており、商標として用いられているのは「秘苑」「BIWON」であるから、その「高麗」の部分が独立して自他商品の識別標識として用いられているとは到底いえない。

のみならず、被告標章を商標として見た場合にもその表示態様が右で認定のとおり、この種物品には、珍しくない隷書体であることによれば、被告標章は、商標法二六条一項二号にいう普通名称を普通に用いられる方法で表示したものとして、本件商標権の効力は及ばないというべきである。

(潮久郎 鎌田義勝 德永幸藏)

「高麗人蔘」用語登載例一覧表<省略>

別紙(一)

別紙(二)

別紙(三)

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