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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)5755号 判決 1987年8月19日

原告 横山宏史

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 中山俊治

被告 株式会社 ダイフク

右代表者代表取締役 佐藤修

右訴訟代理人弁護士 小西敏雄

同 新宅隆志

右輔佐人弁理士 北村修

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告横山宏史に対し、金三六七三万円及びこれに対する昭和五八年八月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告ハンコウ興産株式会社に対し、金一三二六万円及びこれに対する昭和五八年八月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告横山宏史(以下「原告横山」という。)は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)にかかる考案(以下「本件考案」という。)につき、昭和四七年五月一九日実用新案登録出願をし、これについては昭和四九年二月一四日出願公開がなされたものであるが、同原告は、昭和五二年八月一日本件考案につき実用新案登録を受ける権利を原告ハンコウ興産株式会社(以下「原告会社」という。)に譲渡し、原告会社は、実用新案法九条二項が準用する特許法三四条四項の規定に基づき、同年八月五日特許庁長官に出願人名義を原告会社に変更する届出をして本件考案につき仮保護の権利(以下「本件仮保護の権利」という。)を取得し、次いで前記登録に伴い本件実用新案権を取得した。

考案の名称 ゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置

出願日 昭和四七年五月一九日

公開日 昭和四九年二月一四日

公告日 昭和五二年一月二〇日

登録日 昭和五六年七月三一日

登録番号 第一三九〇一九六号

実用新案登録請求の範囲

「ゴルフコースに沿って立設した多数の支柱上に、ゴルフバッグを運搬する自走車輛を前記ゴルフコースに沿って巡回走行させる軌条を敷設したゴルフコース用ゴルフバッグの搬送循環軌道装置。」

2  本件考案の構成要件及び作用効果は次のとおりである。

(一) 構成要件

ゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置であって、

(1) ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設してあること。

(2) 右支柱上に軌条を敷設してあること。

(3) 右軌条上をゴルフバッグを運搬する自走車輛を巡回走行せしめるようにしてあること。

(二) 作用効果

(1) プレーヤー又はキャディがゴルフバッグを楽にしかも安全にコースに沿って巡回搬送できる。

(2) プレー可能なゴルフコース芝生面を十分に確保できる。

(3) ゴルフコースの芝の育成、保全管理に要する労力、費用を軽減できる。

(4) プレーヤー自身においてゴルフバッグを搬送することができるから、この場合はキャディを必要とせず、したがって人件費の節約になる。

3  被告は、業として別紙被告製品目録記載のゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置(以下「被告装置」という。)を製造・販売した。

なお、被告装置とは、自走車輛を含めたゴルフバッグ搬送装置全体を指すものである。けだし、本件考案はゴルフバッグを巡回搬送するため、ゴルフコースに沿って巡回敷設した軌条上を自走車輛を走行せしめるのであるから、自走車輛なくしてはその目的を達成できない。

4  被告装置は、

(1) ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設し、

(2) 右支柱に軌条を敷設し、

(3) 右軌条上をゴルフバッグを運搬する自走車輛を巡回走行せしめるようにしたゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置であり、本件考案の構成要件をすべて充足し、本件考案と同一の作用効果を奏するから、本件考案の技術的範囲に属する。

5(一)  被告は、本件考案の公開(昭和四九年二月一四日)後公告(同五二年一月二〇日)までの間に、被告装置を別紙被告販売目録番号1ないし9記載のとおり販売した。原告横山は被告に対し、昭和五〇年三月六日頃到達の書面をもって、本件考案の公開実用新案公報写を添付のうえ、同原告が本件考案につき実用新案登録出願中であって既に実開昭和四九―一七三五一として出願公開されていること、本件考案の実施をすると後日本件考案につき公告がなされたときには実用新案法による法的措置に及ぶ用意があることを警告した。

したがって、被告は原告横山に対し、実用新案法一三条の三の規定に基づき、実施料相当の補償金を支払う義務がある。

右実施料としては、被告装置の販売価格に五パーセントを乗じて算出したものが相当であるところ、別紙被告販売目録番号1ないし9記載の被告装置の販売価格は六億六三二三万二〇〇〇円であるから、これに五パーセントを乗じると三三一六万円(一万円未満切り捨て)となり、これが被告の原告横山に対し支払うべき補償金の額である。

仮に右のとおりでないとしても、右実施料の算出については、国有特許権方式に準拠して算定すべきものであり、これによれば右実施料は、次のとおり算定することができる。

すなわち、国有特許権実施契約書(官有特許運営協議会決定、昭和二五年二月二七日特総第五八号、改正昭和四二年五月二六日特総第五三三号、改正昭和四七年二月九日特総第八八号、特許庁長官通牒)の記載中「三、実施料算定方法」によると、国が普通財産として有する特許権の実施料の算出基準は、基本額を選定し、これに実施料率を乗じて得るが、実施料率は、

実施料率=基準率×利用率×増減率×開拓率

という算式により算定することとされている。

本件考案の場合、右の基本額は被告の被告装置の販売価格をもって選定すべきものであり、右の基準率としては、考案の実施価値が上のものは販売価格の四パーセント、中のものは三パーセント、下のものは二パーセントとされているので、本件では「中」を選択して販売価格の三パーセントをもって相当とすべきである。また、被告装置における本件考案の利用率は少なくとも八〇パーセントを下らないものというべきであり、増減率、開拓率については本件の場合これらを一〇〇パーセントとすべきものである。

したがって、本件考案の実施料率は、

実施料率=三%(基準率)×八〇%(利用率)×一〇〇%(増減率)×一〇〇%(開拓率)

という算式により算出すると二・四パーセントとなり、国有特許権方式に準拠して実施料を算定すべきとしても、これによる実施料相当額は一五九一万円(一万円未満切り捨て)となるから、被告が原告横山に対して支払うべき補償金の額は右金額を下回ることはない。

(二) 被告は、本件考案の公告(昭和五二年一月二〇日)後、原告横山から原告会社に本件考案の実用新案登録を受ける権利が譲渡される(同年八月五日)までの間に、被告装置を別紙被告販売目録番号10記載のとおり販売したから、原告横山に対し、同原告が被った実施料相当の損害を賠償すべき義務がある。

右実施料としては、被告装置の販売価格に五パーセントを乗じて算出したものが相当であるところ、同目録番号10記載の被告装置の販売価格は七一四〇万三〇〇〇円であるから、これに五パーセントを乗じると三五七万円(一万円未満切り捨て)となり、これが被告の原告横山に対して支払うべき損害の額である。

仮に右のとおりでなく、この場合の実施料の算出も前記(一)と同様国有特許権方式に準拠して算定すべきとしても、これによる実施料相当額は前記販売価格七一四〇万三〇〇〇円に実施料率二・四パーセントを乗じた一七一万円(一万円未満切り捨て)となるから、被告が原告横山に対して支払うべき損害の額は右金額を下回ることはない。

(三) 被告は、原告会社が原告横山から本件考案の登録を受ける権利を譲り受けた昭和五二年八月五日以後、被告装置を別紙被告販売目録番号11ないし15記載のとおり販売したから、原告会社に対し、同原告が被った逸失利益相当の損害を賠償すべき義務がある。

原告会社の昭和四九年四月から同五四年三月までの総売上高(五年間累計)は二四億〇三三五万円であり、そのうち九六・六パーセントに当る二三億二二三一万八〇〇〇円が本件考案の実施品の製造販売によるものであり、右五年間の各事業年度の売上高利益率(営業収益に対応する利益金の総売上高に占める割合)は一三ないし一六パーセントで平均一四・四パーセントであるから、原告会社の本件考案の実施品の売上による利益率は少なくとも一〇パーセントを下回ることはない。そして、同目録番号11ないし15記載の被告装置の販売価格は一億三二六五万三〇〇〇円であるから、これに一〇パーセントを乗じると一三二六万円(一万円未満切り捨て)となり、これが原告会社の逸失利益であり、被告は原告会社に対し右金額を損害として賠償すべき義務がある。

6  よって、被告に対し、原告横山は補償金三三一六万円及び損害金三五七万円の合計金三六七三万円、原告会社は損害金一三二六万円、並びに右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和五八年八月三一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、本件考案につき原告ら主張のとおり原告横山が実用新案登録出願をしたこと、出願公開、出願公告及び登録があったこと並びに実用新案公報記載の実用新案登録請求の範囲が原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は不知。

2  同2(一)の本件考案の構成要件の分説の主張は争う。

同(二)の作用効果の主張については、本件考案が原告ら主張の作用効果を有することは認めるが、本件考案の作用効果は右に止まらない。

3  同3のうち、被告が業としてゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置(被告装置)を製造、販売したことは認めるが、その構成が原告ら主張のものであることは否認する。被告装置の構成は、別紙「被告の製造販売に係る装置の目録」記載のとおりである。

なお、原告らは、被告装置とは自走車輛を含めたゴルフバッグ搬送装置全体を指すと主張するが、自走車輛は本件考案の対象ではない。本件考案は「ゴルフコース用ゴルフバッグの搬送循環軌道装置」を対象とするものであり、ゴルフバッグ運搬用自走車輛(カート)の考案でもなければ、カートを構成要件に含む考案でもない。このことは、本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載及び考案の詳細な説明の記載から明らかである。そもそもゴルフバッグ運搬用自走車輛(カート)そのものは、本件考案の出願前に既に公知であったものである。

4  同4の主張は争う。

5  同5(一)のうち、原告ら主張の書面がその主張の頃被告に到達したこと、国有特許権の実施料率の通牒があることは認めるが、その余は争う。

同(二)は争う。

同(三)のうち、原告会社の売上高、利益率等は不知、その余は争う。

三  被告の主張

1  本件考案出願前の公知技術

本件考案の出願日である昭和四七年五月一九日より前に、搬送軌条装置に関し左の公知技術が存在した。

(一) カートの循環搬送装置

ア アメリカ特許第三四七三六二三号

昭和四五年二月二六日我が国において、遠隔操縦により、プレーヤーに随伴しながらゴルフコースに沿って所定の箇所から箇所に巡回走行し、ゴルフバッグを運搬する自走車は公知であった。この構成は、特開昭四七―六二一二号公報によっても公知であった。

すなわち、本件考案出願前に、ゴルフプレーヤーに随伴して全ゴルフコースに沿ってゴルフバッグを循環搬送するという技術思想は公知であった。

イ 池田カンツリーのキャディカート専用路

昭和四〇年一月当時、クラブハウスを出発点とし、ゴルフコースの芝生内の芝生を削ってゴルフコースに沿って各ホールを循環し、帰着するように構成したキャディカート専用舗装道であって、カートを芝生内に入らせないように設置されていた。

(二) ゴルフ場又はゴルフ練習場における支柱上軌条搬送装置

ア 昭和四三年九月一日当時、ゴルフ場内において、谷を越えたり、急傾斜の荒地の樹木間を通過したりして、ゴルフバッグその他の資材人員等を搬送する多数立設支柱に架設の軌条で搬送する装置が使用され、公知であった。

イ 昭和四七年三月八日当時、ゴルフ練習場「成田ゴルフセンター」において、芝生が植生された練習場内の芝生の上に、多数の支柱を立設し、その支柱から横方向に延出した腕の先端に側面を固定された軌条を設け、同軌条上を原動機を搭載した牽引車がゴルフボール搬送用の荷台車を牽引してゴルフボールを搬送する構造の装置が公知であった。

ウ 昭和四三年か昭和四四年頃、道後ゴルフクラブにおいて、ゴルフバッグを積んだカートを、モノレールで運搬する装置が公知であった。

(三) 軌条を敷設した支柱

ア 支柱上に敷設した軌条

特許公報、昭四五―二〇三二五により昭和四五年七月一〇日当時公知であった。この構造は本件考案の構成要件である支柱上に敷設した軌条と技術思想において同一である。

イ 支柱の上端から横側方に延出された横腕の先端に側面を固定された軌条

特許公報、昭四六―三六五六二により、昭和四六年一〇月二七日当時公知であった。この構造は、被告装置の「支柱の上端から横方向に延出された横腕の先端に側面を固定された軌条」と同一である。

また昭和四六年一〇月当時設置されていた朝倉ゴルフセンターのモノレール装置においても、ゴルフコースに沿ってコースの芝生上に多数並設した支柱の上端から横側方に延出された横腕の先端に側面を固定された軌条の構造を有するものであり、軌条上を自走する運搬車に荷物を積んで運び適当な場所で運搬車を止めて芝生の上に荷物を降して用い、また、運搬車に積んで運び、これを繰返す装置が右当時公知であった。

2  本件考案の技術的範囲

(一) 公知技術の存在による限定

本件考案は、前記1記載の公知技術の寄せ集めにすぎず、これら公知技術に基づいて、出願前に当業者が極めて容易に考案することができたものである。特に、朝倉パブリック・ゴルフ場においてゴルフコースに沿って立設した多数の支柱に設置されたモノレール式運搬装置が用いられていた事実、道後ゴルフクラブでモノレール式運搬装置によってゴルフバッグ運搬カートを運搬していた事実、同ゴルフ場でキャディに代えてモノレール装置を設置する計画があった事実、同業者間でゴルフバッグのモノレール式運搬が常に話題となっていた事実等からみて、本件考案は公知であったといっても過言ではない。

このように公知技術に極めて近接した技術思想に関する実用新案登録請求の範囲については、その技術的範囲を極めて厳格に解釈すべきものであり、考案者が明確に認識し、かつ実用新案登録出願の明細書に明確に開示した技術に限定されるべきである。

(二) 本件考案の解決すべき課題

本件考案の実用新案公報(以下「本件公報」という。)には、「ゴルフコースにおいては、全コースに亘ってよく手入れをした芝が植生され、該芝生を最良の状態に保全管理するためには多大の労力時間および費用を必要としているにも拘らず、ゴルファのプレーに際しては、クラブを入れたゴルフバッグ運搬車(別名カートという)がゴルファとともにゴルフコース内を巡回しなければならないため、該運搬車は前記芝生上を牽引又は自走により走行移動するので、折角手入れされた芝生をその車輪によって著しく損傷している。そしてこの損傷した芝生を植生育成することは自然条件に委ねざるを得ないので相当の日数を要する。」(一欄三四行目から二欄七行目まで)と記載されている。すなわち、本件考案は、ゴルフ場内においてゴルフバッグ運搬車がゴルフコースの全行程に亘ってよく手入れされた芝生の上を巡回し、芝生を損傷させていた状況にあったことを前提とし、この状況に立脚し、この欠点を除去することを課題とするものである。

したがって、一部の軌条が、ゴルフコース内の全コースに亘ってよく手入れした芝生が植生されていないゴルフコース上に又はゴルフコース外に設置される装置は、本件考案の解決すべき課題を欠き、本件考案とは全く無関係である。

(三) 本件考案の作用効果

本件考案において考案者が認識し、かつ開示された作用効果は、ゴルフコースにおいて最も大切な芝生を全く損傷せず、ゴルフコースを最良の状態に保全してプレーヤーのプレーを快適にし、ゴルフコースの芝生の育成、保全管理に要する労力、費用等を著しく軽減するとともに、副次的に芝生の植生されているプレーグランドを増大し、ゴルフコースの芝生面を十分確保するというにある。右の、大切な芝生を全く損傷しないということが本件考案の作用効果の中心である。この点について、本件考案の補正に基づく公報には「自走車が直接芝生上を走行移動せず軌条上を走行移動するのでゴルフコースのプレーグランド全面に芝生を植生しても自走車の走行移動によって何等芝生に損傷を与えることがなく、また従来のゴルフバッグ運搬車の走行移動のためにゴルフコースの芝生を削りとってカート道等の専用舗装道を造成する必要もない」旨明確に記載されている。

(四) 本件考案の構成要件

本件考案は、前記の設定された課題を解決し、所期の作用効果を奏するものであるから、その構成は右課題解決手段としての制約に全面的に服する。

右の制約のもとに本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載を解釈し、構成要件を分説すれば次のとおりである。

(1) 全コースに亘って芝生を植生したゴルフコース上にその始点から終点に至る全行程に沿って多数の支柱を立設してあること

(2) 右多数の支柱の真上に軌条を敷設してあること

(3) 右支柱及び軌条を敷設するに当っては、ゴルフコースに植生されている芝生を損傷させないこと

(4) 右軌条は、その上をゴルフバッグを運搬する自走車輛を巡回走行させるようにしてある軌条であること

(5) ゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置であること

(五) 前記構成要件(1)について

(1) 本件明細書に開示された課題及び作用効果から、本件考案は「芝生を植生した全ゴルフコースに亘って支柱を設けた」構成であると解すべきであるが、明細書の考案の詳細な説明にも右のような構成しか開示されていない。

すなわち、本件公報の補正の公報には「自走車が直接芝生上を走行移動せず軌条上を走行移動するので、ゴルフコースのプレーグランド全面に芝生を植生しても自走車の走行移動によって何等芝生に損傷を与えることがなく」、また「コースに沿ってプレーヤーと随伴して巡回走行する自走車の操行移動を確保できるものである。」と記載されている。右は、プレーヤーのプレーする全面に芝生が植生されているプレーグランド内に支柱を設け、軌条を設置することを示すものであり、一部分にでも芝生の植生されていない場所に軌条を設置することを意味しないのは明白である。

また、本件公報には、前記のとおり「ゴルフコースにおいては、全コースに亘ってよく手入れをした芝が植生され……ゴルフコース内を巡回しなければならない」(一欄三四行目から二欄三行目まで)と記載され、さらに「自走運搬車を走行させ、特に該自走車11の車輪を直接ゴルフコースの芝生の上で移動させないから、ゴルフコースにおいて最も大切な芝生を全く損傷せず」(四欄三行目から六行目まで)と記載されているのである。この「直接ゴルフコースの芝生の上で移動させず」との記載の趣旨は、芝生の上方を自走車が走行するにあたり、芝生面から上に立設した支柱の上の軌条を介してその上に自走車が位置するように構成されているから、大切な芝生を全く損傷させないということを意味するものである。

さらに、本件公報の添付図面には、ゴルフコース内において地面から立設した支柱上に軌道を設けた図面のみが示されていて、それ以外の構成は全然示されていない。

右のとおり、明細書の考案の詳細な説明の項にも図面の中にも、どこにも、ゴルフコース内の芝生の上に立設された支柱以外の支柱を用いることについては、全然記載がないのはもちろん、何らの示唆すらもなされていない。

(2) 本件考案の原始明細書の実用新案登録請求の範囲の項には、「ゴルフコースの始点より終点に至る全行程に亘り、芝生の育成に支障を与えざる高さを保持する循環軌道を架設し、この軌道上ゴルフ用具類を入れたゴルフバッグを載せる搬送車を載架し、この搬送車には自走可能な駆動装置と自動又は手動による発進停止機構を具備させたことを特徴とする、ゴルフ場におけるゴルフ用具類をいれたゴルフバッグの搬送装置」と記載されてあり、考案の詳細な説明の項の二頁末行ないし三頁六行目には、「支柱群によって上記走行軌条を架空的に支持せしめ、この架空内に支持したる走行軌条を競技進行順序に沿って順次に各ホールを回り、ゴルフコースの始端より終端に至る全行程を一巡する一定の経路上に点々配設することにより、全コースを巡回する循環軌道Tを形成せしめる。」と記載されている。また、添付の第一図、第二図には、芝生上に軌条を敷設するものであることを明確に表示し、第四図には、全域にわたって芝生を植生したゴルフコースとその他の芝生を植生しないゴルフコース外の地域とを明確に区別して、軌条を芝生の上にのみ設置していることを表示している。

右のとおり、本件考案は、「ゴルフコースの始点より終点に至る全行程に亘り、芝生の生育に支障を及ぼさざるよう循環軌道」を設置する構成であり、ゴルフコースを外れるか、又は芝生が植栽されていない場所に軌条を設置する構成は、原始明細書において考案者が念頭にすらおいていなかったことは明白である。

次に、本件考案者は、昭和五一年三月二九日付手続補正書により、実用新案登録請求の範囲を「ティーインググランド、スルーザグリーンおよびグリーンを有する単位ホールを多数ホール連設するとともに、各単位ホールを順次連絡する通路を有するゴルフコースに沿って立設した多数の支柱上に、ゴルフバッグ等の自走運搬車輛を前記ゴルフコースに沿って巡回走行させる軌条を敷設したゴルフバッグ等の搬送循環軌道装置」と訂正した。右の補正により、「ティーインググランド、スルーザグリーンおよびグリーンを有する単位ホールを多数ホール連設する」と、全ゴルフコースに亘って軌条を設置し、かつ芝生の上に軌条を設置する旨を登録請求の範囲に記載し、もって本件出願の要旨をより明確にしているのである。

したがって、考案者は、全ゴルフコースに亘ってよく手入れされた芝生の上に軌条を設置する構成のみを認識し、本件考案の構成をそのように限定したものであることが明らかである。

その後本件考案の出願明細書は、昭和五一年七月二六日付意見書に代える手続補正書によって本件公報記載のとおりに補正されたものである。

以上のとおり、本件考案の考案者は、実用新案登録出願にあたって終始一貫して、芝生を全面に植生したゴルフコースの全域に亘って軌条を設置する構成のみを開示したものであり、それ以外の構成については全く認識を欠いていたことは明らかである。

(六) 前記構成要件(2)について

本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載された「支柱上に軌条を敷設」とは、文字通り支柱の真上に軌条を敷設することと解すべきである。それは、文言の通常の解釈から導かれることであるし、以下に述べるとおり、従来技術との関係からも右のとおり解されるし、明細書全体の解釈からも右のとおり解されるのである。

本件考案の原始明細書の三頁には「走行軌条1上には台車4を載架するもので、この載架方法は例えば図の如く台車4の底部に2個の袖片4a、4aを突設して軌条を挾ませる如くなして台車を跨座せしめ、又袖片間には軌条の上下位置にコロ4bを介在させて、台車が軌条を抱持する如くなし、台車の安定にして円滑なる進退を行わせるようなす」と、本件考案の台車4が安定にして円滑なる進退を行わせるようになす旨特に述べている。そのため、添付図面第三図によると、軌条の真上に台車4を載架させ、台車4の底部に二個の袖片4aを突設し、上から軌条を挾むようにして台座を跨座させ、軌条の上下位置にコロ4bを配し、軌条を抱持することが図示されている。また、本件公報には「第2~3図に示すゴルフバッグを運搬する自走車11には、下面に軌条8を抱持する複数の車輪12があって、該自走車11が軌条8上を離脱することなく走行させ」(二欄二七行目から三〇行目まで)と記載されている。右の点は、台車4の安定確保になみなみならぬ配慮をなしていることを如実に示すものである。

さらに、この点について補正の公報は「また従来のゴルフバッグ運搬車(別名カート)をゴルフコース内又はカート道に沿って人力で操向移動させるときは、たとえカート道等に沿って自走車を走行移動させても特に起伏のあるゴルフコースに於ては勾配傾斜面等においては自走車の逸走、転倒等の事故がたびたび発生し、プレーヤー、キャディ及びコースの作業者等に不慮の危害を及ぼすことがあったが、本考案においては人力によることなく且つ軌条に案内されて常に正しい姿勢で走行しているので、逸走、転倒する恐れもなく、したがって人身事故につながる危険は全くなく、安全にコースに沿ってプレーヤーと随伴して巡回走行する自走車の操向移動を確保できるものである」と強調し、逸走、転倒等によりプレーヤー、キャディ及びコースの作業者等に不慮の危害を及ぼすことがないよう自走車の安全走行を確保する旨述べている。

かかる考案者が万一、支柱の上端から横方向に横腕を延出し、その横腕の先端に軌条を貫入固定する軌条設備の構造の採用をも考慮したのであれば、それに対する具体的技術を明示しているはずである。なぜならば、右の横腕に軌条を設置する方法は、支柱の真上に軌条を敷設する方法に比して、台車の荷重が支柱のセンターからずれているため偏心荷重となり、はなはだ不安定となり、逸走、転倒のおそれが考えられるのである。それ故、自走車の巡回走行の安全の確保が問題となり、この問題を解決するための解決手段として、自走車が軌条を把持する具体的方法が開示されていなければならないはずである。そうでなければ、前記の「逸走、転倒の恐れのない自走車の安全走行」は達成できないからである。

しかるに、かかる点についての記載は包袋資料中には一言半句も存しないばかりでなく、かえって本件考案の明細書添付の図面には支柱の真上に軌条を敷設し、この軌条上に自走車を跨座させ、自走車に設置した車輪によって軌条を把持し、自走車の走行の安全を確保する手段が示され、かつ、これについて前記のとおり考案の詳細な説明の項で説明している。

このことは、とりもなおさず、考案者は横腕に軌条を設置する方法を本件考案から意識的に除外したか、少なくとも全く認識していなかったことを示すものである。したがって、本件考案は、その出願前に既に公知であった支柱上(支柱の真上)に軌条を敷設する技術と、支柱の上端から横方向に延出した横腕の先端に軌条の側面を固定する技術の二つの公知技術の内から、特に支柱上(支柱の真上)に軌条を敷設する技術を選択したものである。

よって、本件考案は、支柱上(真上)に軌条を敷設してあることをその要件とするものと解すべきである。

(七) 前記構成要件(3)について

本件公報の補正の公報の末尾五行には「自走車が直接芝生上を走行移動せず軌条上を走行移動するのでゴルフコースのプレーグランド全面に芝生を植生しても自走車の走行移動によって何等芝生に損傷を与えることがなく……」と記載されている。すなわち、全コースにわたって植生されたよく手入れされた芝生に損傷を与えないことが本件考案の目的であり、必須要件である。

従来におけるゴルフカート道には、全ゴルフコース内にわたって循環的に芝生を削り取って作ったカート道も存在し、これが公知であった。本件考案においては、従来のように芝生を削り取ったり、芝生を損傷させたりすることがないようにするのを目的としたものであるから、コースの芝を一部分たりとも削り取って軌条を設けたものは、本件考案の技術的範囲に含まれない。

本件考案の原始明細書の添付図面にはゴルフコースの全面にわたってよく手入れされた芝生が植生されていることを前提とし、軌条はその芝生の上に設置されるものであることが明確に記載されている。よく手入れされた芝生が植生されていない部分にも軌条を設置するなどということは、包袋資料の中には全く痕跡すらない。これはとりもなおさず、本件考案の構成に対する考案者の認識も、よく手入れされた芝生が植生されていない部分に軌条を設置するなどは全くなく、考慮の外にあったことを示すものである。

それ故、本件考案にあっては、軌条を敷設する支柱は芝生面に限ってのみ設置されるものであり、芝生を削り取ってU字溝を設置したり、芝生の植生されていない道路等を横断するオーバーブリッジの支柱を設置したり、川、谷等を横断する橋梁の桁梁等に支柱を設置するなどは、本件考案の権利範囲外にあること明らかである。

3  被告装置について

(一) 被告装置は、ゴルフ場として立地条件の良くない土地を合理的に利用し、ゴルフバッグ運搬用軌条を用いながら、コース内の芝生の上に突出する軌条をできるだけ少なくして、安全で、かつ快適なゴルフプレーができるようにし、かつゴルフ場経営の効率化及び省力化を図ったものである。

すなわち、ゴルフ場の立地条件としては比較的平坦で、かつ広々としている地域が望ましいのであるが、我が国の現状ではかかる地域はそう多く残されていない。そこでこのような我が国の地勢的制約のもとにおいても、なおかつ快適なゴルフプレーが安価に、かつ安全にできるようにプレーの補助手段を提供することを課題とし、それを解決したものである。

(二) 被告装置の概要

被告装置は、起伏の激しい山、谷、道路、川、池等の点在する地域内において、快適でかつ安全なゴルフプレーができるように、ゴルフ場内をプレーヤーの移動に応じてゴルフバッグを循環走行させるように構成したものである。したがって、被告装置の構成の主眼は、山、谷、道路、川、池等の点在する比較的急峻な地域内においていかに快適かつ安全にプレーをさせ、そのうえ安価に軌条装置を設置するかにある。

それ故、被告装置は、樹木の茂っている森林、雑木林地域等ゴルフコース外におけるオーバーブリッジ構造及びアスファルト舗装、U字溝等ゴルフコース内に配置された各種の構造物を巧みに利用して、ゴルフコース内に植生されたよく手入れされた芝生をなるべく損傷させないで軌条を設置する構造等からなっている。

被告装置の構造は、別紙「被告の製造販売に係る装置の目録」記載の説明及び図面に示すとおりである。被告装置は、多種多様にわたるので総括的記述は困難であるが、本件考案に対応するように記載すると、概略次のとおりである。

(1) ゴルフ場内において、一部はゴルフコースに沿って、一部はゴルフコースを外れて山、谷、道路、川、池等を横断し、始点から終点に至る全行程に亘って、

(イ) 地上に多数の支柱を立設したり、

(ロ) 地上に多数のオーバーブリッジ用の支柱を立設したり、

(ハ) 地中に埋設されたU字溝の底部に多数の支柱を立設したり、

(ニ) 地中に埋設されたU字溝の片側壁から横腕を突設したり、

(ホ) 橋梁の桁梁の端部に多数の支柱を立設し、

(2) これらの支柱から横側方に延出させた横腕の先端に、

(イ) 通常の支柱の場合には、地上数十センチメートルの位置に、

(ロ) オーバーブリッジの場合には、地上約数メートルの位置に、

(ハ) U字溝に設置する場合には、U字溝の上縁と同一の位置に、

(ニ) 橋梁の桁梁に設置する場合には、桁梁から数十センチメートルの位置に、

それぞれ軌条を設置し、

(3) 右支柱及び軌条を設置するに当って、たとえゴルフコースに植生された芝生を損傷することがあってもU字溝を利用する地下式にし、軌条による美感の損傷を最少にし、また軌条をコースから外れてコース外側に迂回させ、プレーヤーの安全を確保し、かつプレーに支障のないかぎり軌条を最短距離に設置するようレイアウトし、

(4) 右支柱の横腕木の先端に、貫入固定(串刺固定)した軌条の上下両面の全面をゴルフバッグを運搬する自走車の車輪で挾み抱持し、自送車が安全に巡回走行する構造にし、

(5) ゴルフ場内を循環するように設置された軌条装置

(三) 被告装置の作用効果

右の構造により、被告装置は次のような作用効果を奏する。

(1) ゴルフコースを迂回してゴルフコース外に軌条を設置し、ゴルフコース内の芝生の上に突出して設けた軌条をなるべく少なくし、もってクラブのスイングやボールの飛翔の障害となることを少なくするとともに、プレーヤーと走行中の自走車との接触の危険を避け、安全でかつ快適なゴルフプレーを可能にした。

(2) オーバーブリッジ構造を採用したことにより、道路等の通行を阻害することなく軌条を設置でき、かつ森、雑木林等の樹木の間をも自由に通行できるようレイアウトできる。

(3) U字溝を利用する構造を採用したことにより、よく手入れされた芝生が植生されたプレーグランドを横断しても美観を損なうことがなく、道路との平面交叉も自由にレイアウトすることができる。

(4) 橋梁の桁に設置する構造を採用したことにより、谷越えが簡単となる。

以上により、被告装置は、我が国のように起伏に富み、必ずしもゴルフ場用地として適当でない地勢の場所においても、ゴルフプレー補助手段として自由にレイアウトすることができ、全ゴルフコース内における快適かつ安全なプレーを可能にし、コース内の芝生の管理を容易にし、軌条の全行程を著しく短縮し、製作費を安価なものとすることができるのである。

(四) 被告が被告装置を販売納入した別紙被告販売目録1ないし11記載の各ゴルフ場に設置されたコース、フェアウェイ、軌道の配置関係は別紙被告装置配置図1ないし11記載のとおりである。

4  被告装置と本件考案との対比

(一) 構成の対比

(1) 被告装置は、一部ゴルフコースに沿って設置されているが、その主眼とするところは、ゴルフコースを外れた山、谷、道路、川、池等の点在する地域に軌条を設置することにある。

一方、本件考案は、比較的平坦で、かつ十分手入れされた芝生の植生されているゴルフコースに沿って軌条を設置する構造であり、両者は異なる。その構造上の相違は次の点に顕著に現れる。

(2) 被告装置にあっては、支柱の設置場所はよく手入れされた芝生の植生されたゴルフコースにもあるが、その主眼とするものは、コースから外れた森、雑木林等の樹木の茂っている地域、道路を横断する地点、U字溝の設置されている地点、橋梁の設置されている地点である。

すなわち、本件考案にいうところの十分手入れされた芝生の植生されているゴルフコースとは異なるものであり、この点両者は全く異なる。

(3) 被告装置にあっては、軌条は芝生の上数十センチメートルの位置に設置される場合もあるが、その主眼とするところは、地勢の条件によって様々であり、谷、川を越える地点では橋梁の桁上数十センチメートルの位置にあり、樹木の間を抜ける場合には数メートルの位置にあり、U字溝の設置されている地点では地面すれすれの位置に設けられる。

一方、本件考案にあっては、すべてことごとく、よく手入れのされた芝生の上数十センチメートルの位置で、芝生の育生に支障のない程度の高さに設置されるのであり、この点両者は全く異なる。

(4) 被告装置にあっては、軌条を支柱に取付ける方法が支柱の上端から横方向に延出した横腕の先端に軌条を貫入固定(串刺固定)するものである。

一方、本件考案にあっては、支柱上(支柱の真上)に軌条を敷設するものである。

右の構造上の相違のため、本件考案の軌条及び自走車にあっては、重いゴルフバッグを乗せたカートが急勾配の斜面等を通過すれば、逸走、転倒等の事故を発生させるおそれがあるが、被告装置にあっては、偏心荷重に耐えるように支柱の埋め込み固定を強固にし、かつ、支柱、カートの部材を強固にし、自走車が軌条の上下両面を全幅で把持する構造を採用しているので、かかるおそれは全くない。この点両者は全く異なる。

(5) 被告装置は、右の横腕木方式を採用しているから、U字溝内の片脇に軌条を設置することとなり、雨水の排水の障害となることもなく、溝内の掃除も楽で、自走車の運行の障害となることもなく、長い距離に亘ってU字溝内に軌条を設置するに適している。

これに対し本件考案にあっては、そもそもU字溝内に軌条を設置する構成はその対象外であり、仮にU字溝の支柱上(支柱の真上)に軌条を敷設したとすると、U字溝内の中心部に支柱を設置することになり、この支柱付近に草木、土砂等が堆積し、雨水排水の障害となるとともに、自走車の運行の障害となる。右の点において両者は異なる。

(二) 解決課題及び作用効果の対比

(1) 被告装置の解決課題は、その主眼とするところのものが、起伏が激しく、かつ狭隘な我が国の地勢的制約のもとにおいても、なおかつ快適で安全なゴルフプレー楽しむことができるようプレーの補助手段を提供することにある。

それ故、被告装置は、ゴルフコースを外れた山、谷、道路、川、池等の芝生の全く植生されていないところに軌条を迂回設置したり、よく手入れのされた芝生の植生されたゴルフコースの芝生を削って、地下式(U字溝を設置する方式)にて横断する軌条を設置している。

すなわち、被告装置における解決課題は、ゴルフバッグ運搬自走車をして全コースに亘り、プレーヤーに随伴させながら巡回させ、ゴルフコースの全行程に亘って植生されよく手入れされた芝生の損傷を防ぐということとは直接的関係を有しない。

一方、本件考案にあっては、ゴルフバッグ運搬車が全コースに亘りプレーヤーに随伴して全コースを巡回することを前提として、ゴルフコースの全行程に亘ってよく手入れされた芝生の上を巡回し、芝生を損傷させていたという従来技術の欠点を除去するということを解決課題とするものであって、両者は全く異なる。

(2) 被告装置は、我が国ゴルフ場のうち起伏に富み、山、谷、道路、川、池等の点在するゴルフ場に適さない地勢の場所にあっても、なおかつ、オーバーブリッジ、U字溝、橋梁等を利用して、ゴルフプレーの補助手段たる被告装置を自由にレイアウトし、もって安価に、かつ安全にゴルフプレーを快適に行えるという作用効果を奏する。

一方、本件考案にあっては、比較的平坦な場所に造られたゴルフ場において、ゴルフバッグ運搬車をしてプレーヤーに随伴して全コース内を巡回させるものでありながら、この全コース内の芝生上に設けた支柱上に敷設した軌条の上を走行させ、芝生の上を直接に踏ませないことによって、ゴルフコースの全行程に亘って植生されているよく手入れのされた芝生を損傷せず、最良の状態に保全し、かつ芝生の育成保全の労力、時間、費用を節減するという作用効果を有するものであるが、しかしながら、全コース内の地面上に軌条が突設されるので、美観を害するのみならず、クラブスイング、ゴルフボールの飛翔に支障となり、危険があるばかりでなく、快適なプレーに差しさわるものである。右のとおり、両者の奏する作用効果は全く異なる。

(3) 被告装置においては、軌条は支柱上(支柱の真上)に敷設するのではなく、支柱の横側に設置されるので、軌条を強力に抱持できる。そのため、軌条は一本だけで十分であり、軌条費用が安価になるだけではなく、障害物として目立ちが少なく、ゴルフ場の景観を損う程度が少ない。

一方、本件考案においては、軌条は支柱上(支柱の真上)に敷設されるため抱持力が十分ではなく、実際のゴルフ場に適用するには軌条が一本では十分ではなく、上下二段の二本の軌条を採用しなければ実用に供することができず、障害物としての目立ちが大きく、ゴルフ場の景観をより大きく損なうものとなる。

(三) 以上のとおり、被告装置は、構成、解決課題、作用効果のいずれの点においても本件考案と相違するものであって、本件考案の技術的範囲外にある。

四  被告の主張に対する原告らの反論

1  公知技術の存在について

被告は、本件考案は公知技術そのものか、公知技術に極めて近接した技術思想に関するものであるから、その実用新案登録請求の範囲は、技術的範囲を極めて厳格に解釈すべきであり、考案者が明確に認識し、かつ実用新案登録出願の明細書に明確に開示した技術に限定されるべきであると主張している。

しかし、本件考案を目して公知技術そのものであるとか、公知技術に極めて近接した技術思想に関するものであるとかは、到底いえないものであって、公知技術の存在等を理由に本件考案の登録請求の範囲を限定的に解釈すべきであるとする被告の右主張の誤っていることは明らかである。

すなわち、本件考案は、「ゴルフコースに植生された芝生を損傷させることなく、しかも人手を省いてゴルフバッグを運搬する」(本件公報一欄一九行目ないし二一行目)こと、換言すれば「ゴルフコースにおいては、全コースに亘ってよく手入れをした芝が植生され、該芝生を最良の状態に保全管理するためには多大の労力時間および費用を必要としているにも拘らず、ゴルファのプレーに際しては、クラブを入れたゴルフバッグ運搬車(別名カートという)がゴルファとともにゴルフコース内を巡回しなければならないため、該運搬車は前記芝生上を牽引又は自走により走行移動するので、折角手入れされた芝生をその車輪によって著しく損傷している。そしてこの損傷した芝生を植生育成することは自然条件に委ねざるを得ないので相当の日数を要する。」(本件公報一欄三四行目ないし二欄七行目)という従来のゴルフバッグ運搬車の欠点を除去することを主たる技術的課題としたもので、その構成要件及び作用効果は請求原因2記載のとおりである。

そこで、次に被告の引用する公知技術と本件考案との関連をみてみることとする。

(1) 果樹園などの小型貨物搬送用モノレール

本件考案の出願前から傾斜地のみかん園などにおいて、小型貨物搬送用モノレールが用いられていたが、これはみかん園などの樹間のレール上を自走式搬器を運行させて、農道や索道の基点から生産資材を運び上げたり、園内から収穫物を農道や索道の基点又は貯蔵庫まで降ろす装置で、その構成は、牽引車とトロッコ及びレールからなるもので、右装置の主な目的は、みかん園などの果樹園経営上最も労力割合の高い収穫の運搬作業を機械化することにより人力の負担を軽減することにあったものである。《証拠省略》には果樹園以外の各種分野にも小型貨物用モノレールが設置されはじめている旨の記載があるが、これも単なる荷物の運搬用のためのものにすぎなかったものである(《証拠省略》には、その他の用途として「……ゴルフ場……などの諸運搬」が記載されているが、該記載はゴルフコースの補修資材等の運搬を指すもので、土木工事現場としてのゴルフコースにおける用途であり、このことは《証拠省略》「日本工業新聞の記事」によっても明らかである。)。

したがって、右小型貨物搬送モノレールは、本件考案とは達成すべき技術的課題を全く異にしており、そもそも本件考案の「ゴルフコース用ゴルフバッグの搬送循環軌道装置」なる構成要件を充していない。

(2) 朝倉ゴルフセンターのモノレール

本件考案の出願前に朝倉ゴルフセンターには、モノレール運搬装置が設置されていたが、その主たる目的は芝補修の工事機材を搬送することにあり、モノレールの構成は支柱の側方で軌条を支持する方式のもので、自走車は動力車と台車からなっており、同センターゴルフ場は九ホールのショートコースから成り、軌条は、一番ホールのティーグランド後方にあるクラブハウスの上の道路を始点として、九番ホールのグリーン後方を、一番ホールのコースに沿って二番ホールのフェアウェイを通り、同ホールのグリーン右側方を通過し、三番ホールのティーグランドの後方に至り、この地点で軌条は二方向にわかれ、その一方は三番ホール、四番ホール、五番ホールのフェアウェイ及びグリーンに至って終末となっており、他方は六番ホール、七番ホール、八番ホールに沿い八番ホールのグリーン側方に至って終末となっており、一番グリーンは、クラブハウスに近接しかつ平坦なために、クラブハウスから芝刈機を運転してその手入れ補修を行い、二番以下はモノレールの台車に芝刈機・芝などを積載した上、適宜補修箇所にて機材を降ろして補修を行い、終末に至ると動力車を分岐点まで逆走運転した後、他方の軌条を走行して同様の作業を繰り返し、終末に至ると再度逆走して出発点に戻る手順で行われていたものである。

したがって、朝倉ゴルフセンターのモノレール装置も単なる資材の運搬用のためのもので、その設置場所がたまたまゴルフ場であったというにすぎず、本件考案とは解決すべき技術的課題を全然異にしており、かつ本件考案のごとくゴルフコースに沿って軌道が循環する構成を採るものでもないので、本件考案の構成とも全く異なっている。

(3) 成田ゴルフセンターのゴルフ練習場におけるゴルフボール搬送装置

本件考案の出願前に成田ゴルフセンターには、練習場フィールドから管理室に至る区間にモノレール形式の運搬装置が設置されていたが、これは練習場フィールドに散乱するゴルフボールを回収し運搬することを目的としたもので、練習場フィールド内に立設した多数の支柱上に単軌条を敷設し、同軌条上を原動機を搭載した牽引車がゴルフボール搬送用の荷台車を牽引して往復走行する構成を採っていたものである。

したがって、右装置もまた、本件考案とは解決すべき技術的課題を全然異にしており、本件考案のごとくゴルフコースに沿って軌道が循環する構成を採るものでもないので、本件考案の構成とも全く異なっている。

(4) キャディカート、カート専用道

本件考案の出願前にキャディカート、カート専用道が存在したが、本件考案は正にこれらの欠点の除去を解決すべき課題としたものであるから、本件考案とはその技術思想を全く異にしている。

(5) ゴルフリフト

本件考案の出願前から、一部ゴルフ場において、急傾斜地や谷越えの部分にリフトが設置されていたが、リフトはプレーヤーとキャディ及びゴルフバッグを運ぶためのもので、急傾斜地を登る労力の軽減と歩行距離の短縮を目的としていたものである。

したがって、右ゴルフリフトは、本件考案とは達成すべき技術的課題を全く異にしており、本件考案とは全然異質のもので、本件考案の技術思想と何の関連性も有していない。

(6) 空港内のゴルフバッグの軌条運搬車

本件考案の出願前から空港内で乗客用手荷物を運ぶ軌条運搬車が知られ、運搬する荷物にゴルフバッグも含まれ、その運搬手段に考案が施行されていたが、目的は空港内でのゴルフバッグの運搬であり、それ以上のものではない。

したがって、右ゴルフバッグの軌条運搬車は、本件考案とは達成すべき技術的課題を全く異にしており、本件考案の技術思想と何の関連性も有していない。

(7) 神戸地方裁判所姫路支部昭和五六年(ワ)第四九四号事件の米山徹郎証人の証人調書に散見するモノレール装置

右証人調書には、①昭和四三、四年頃、道後ゴルフ倶楽部においてグリーンからティーグランドまでの傾斜面の短区間にキャディバッグを乗せたカートをそのままモノレールに乗せて運ぶ装置が存在したこと、②昭和四三、四年頃、道後ゴルフ倶楽部において、照明設備を設置し夜間のゴルフを可能とする計画が立案され、同倶楽部の古茂田専務がモノレール製造業者の米山工業株式会社に対し、ゴルフバッグ搬送のためにゴルフ場にモノレール装置を設置することを提案し、これを受け同会社がゴルフ場へのモノレール装置の検討を進めていたところ、夜間照明設備の経費が高くつく等の理由で前記計画が中止されたこと、③昭和四四、五年頃、松山市内のモノレール製造業者の間でゴルフ場にゴルフバッグ搬送用のモノレール装置を設置することがしばしば話題にされたが、キャディの反対が予想されたり、ゴルフコースの美観を損なう虞れから一向に具体化にまで話が進まなかったことが記載されている。

しかしながら、右①は傾斜面の短区間においてキャディバッグを乗せたカートをそのままモノレールで運ぶものにすぎず、本件考案とは技術思想、構成要件を全く異にしていることが明らかであり、また、右②、③は右調書記載のとおりの事実があったかどうかも疑わしいが、かりにこれを肯定するとしても、公然と知られたものでもないうえ、いまだ具体化するための詳細も明らかでないから、考案としての具体性を欠くものであって、到底公知技術とは評価することができないものである。

被告の引用する公知技術と本件考案との関連は以上のとおりであり、いずれにしても被告の引用した公知技術は、いずれも本件考案の技術的課題を何ら示唆する点がなく、また具体的構成においても本件考案の構成とは明らかに相違するものばかりであるから、本件考案が公知技術そのものでないことはいうまでもないところであり、また本件考案がこれら公知技術から当業者が極めて容易に考案し得たとは到底言えないことも明らかなところである。

そもそも、本件考案の出願当時にあっては、現在ほどのキャディ不足はなく、したがって、手押しカートや電動カートによる搬送方法に満足していたゴルフ場が大部分であり、かつ、ゴルフ場の方針としてはいかにしてキャディを確保するかという面に努力が払われており、またゴルフコースにはなるべく人工構築物を設けない方がよいとの思想が根強く(プレーの障害となる)、このため、カート走行専用路を採用しているゴルフ場すら少なかったのである。

したがって、業界において、プレーヤーに随伴してゴルフクラブを提供するためのゴルフバッグ搬送手段について、その新規開発の必要性の認識がなく、したがってそのことを提唱する者もいなかったのである。

このように、従来のカート等の搬送手段の欠点が認識されることは一部にあっても、それよりさらに進んでこの欠点を抜本的、全面的に克服すべき技術的課題として積極的に捉えたことは本件出願当時には未だなかったにも拘らず、本件考案は初めてこれを解決すべき課題として正面から捉え、しかも前記各構成要件から成る構成を不可分有機的に結びつけたことによって、「芝生に損傷を与えないので芝生の育成保全管理に要する労力費用などを軽減できカート専用道を造成する必要がないからプレー可能な芝生面を充分確保でき、またゴルフバッグ運搬の省力化を図ることができ、ゴルフバッグを安全にコースに沿って巡回搬送できるなどのモノレール本来の利点に加えて、ゴルフ場特有の諸効果を奏すること」に顕著に成功したものであるから、本件考案を目して、全部公知であるとか、あるいは引用の公知技術から極めて容易に予測、考案することができたものであるとかいうことは到底できない。

以上のとおりであるから、公知技術の存在等を理由に本件考案の技術的範囲を限定して解釈すべきであるとする被告の前記主張が誤っていることは明らかである。

2  考案者の認識と開示された技術的範囲

被告は、考案者が認識し、かつ開示した本件考案の解決課題、作用効果、構成要件について被告の主張2(二)ないし(四)記載のとおり主張するが、右主張は要するに、本件考案においては、ゴルフバッグ運搬車がゴルフコースの全行程、全面に亘ってよく手入れされた芝生の上のみを巡回することを前提としているとするもので、立論のすべてはこの前提から出発している。

しかしながら、まずゴルフコースの全行程、全面に芝生のみが植生されているゴルフ場なるものが、そもそも存在するであろうか。

通例ゴルフ場では、ゴルファは一番ホールからプレーを始めて一八番ホールまで各ホールを順次プレーして行くものであるから、ホールとホールとの間の連絡通路には芝生が植生されていないのが普通であるし、ゴルフコースをプレーを許されている全地域をいうとの意味にとるとしても、その意味でのゴルフコース内にもハザード、フェアウェイ、ラフが存在するのが普通であり、よく手入れされた芝生が植生されているのはそのうちのフェアウェイだけであって、ゴルフコースの全行程、全面に亘って芝生のみが植生されているゴルフ場などは実際にはどこにも存在しないのである。

本件考案の考案者も、実際のゴルフ場にはゴルフコース全行程、全面に亘って芝生が植生されていることはないのであるから、かかる架空のゴルフコースを前提に本件考案を考案したものでないことは明らかである。

被告は、本件考案では全面に亘って芝生の植生されたゴルフコースのみを前提とし、ゴルフバッグ運搬車もかかるゴルフコースの芝生の植生された部分のみを巡回するものであることが、本件考案の明細書の記載自体からも裏付けられると主張している。

しかし、本件考案の明細書に「軌条8はスルーザグリーン2の側方に沿設されているから、ゴルフのプレーに支障を与えることなく」(本件公報三欄二五行目以下)と記載されていることからも明らかなように、軌条は芝生の植生された部分のみならず、芝生の植生されていない部分にも設置されていることが明細書自体において明確にされている。

すなわち、明細書の右記載にあるスルーザグリーンとは、コース(この場合のコースとは、プレーが許されている全地域をいう。)のうちから、(イ)現にプレーするホールのティー及びグリーン、(ロ)コース内のすべてのハザードを除いた全地域をいい、フェアウェイ(スルーザグリーンの短く刈ってある地域をいう。)もラフ(雑草の繁るに任せた部分であり、芝生は植生されていない。)もともにスルーザグリーンに含まれているものである(以上のラフを除く用語の定義はすべて日本ゴルフ協会制定のゴルフ規則によるが、一般のゴルフ関係者においても同様の意味で理解されていることは公知の事実である。)。したがって、本件考案の明細書自体に軌条がラフを含むところのスルーザグリーンの側方に(それはしかもプレーに支障を与えざるほど遠方に)沿設されることが明示されているのであるから、軌条が芝生の植生されたフェアウェイのみならず、芝生の植生されていないラフ部分にも設置されることは、明細書自体において明示されているのである。

いずれにしても、明細書には、自走車輛は芝生の植生されていない部分をも巡回することが明示されており、芝生の植生された部分のみを巡回するなどとはどこにも記載されていない。

本件考案は、ゴルフコースには芝生を必要としない部分(例えばラフ地域、連絡通路、O・B区域)のあることも前提としたうえで、芝生を損傷させ、しかも人手を要した従来のゴルフバッグ搬送手段の欠点を除去することを解決すべき課題としたものであって、ゴルフコースの全行程、全面に芝生が植生されていることを前提にしてその芝生に損傷を与えないことを解決すべき課題としたものでも、該芝生上にのみ自走車を走行させながら芝生に損傷を与えないことを解決すべき課題としたものでもない。したがって、本件考案にいう多数の支柱の立設位置も、芝生の植生されたゴルフコース内はもちろんのこと、芝生の植生されていないゴルフコース外(O・B区域、連絡通路)であっても、或いはゴルフコース内の芝生の植生されていない部分(例えばラフ地域)であっても、およそゴルフコースに沿って(明細書でも「ゴルフコース内に沿って」ではなく、「ゴルフコースに沿って」とあるから、その内外を問わない意味であることは明らかである。)立設されている構成のものであれば、本件考案の構成に該当するのであって(かかる構成によって、ゴルフバッグをプレーヤーに随伴させるという目的も、ゴルフコースの芝生を損傷させないという目的もともに達成することができるのである。)、これらの解決すべき課題なり構成は、考案者が当然に認識し、かつ明細書中にも開示されているところである。

3  被告主張の本件考案の構成要件について

(一) 被告主張の構成要件(1)について

本件考案の解決すべき課題は前記のとおりであり、本件考案は、全コースに亘って芝生が植生されていることを前提にしてその芝生に損傷を与えないために考案されたものでも、該芝生上にのみ自走車を走行させながら芝生に損傷を与えないために考案されたものでもないから、「全コースに亘って芝生を植生したゴルフコース上に多数の支柱を立設してあること」は、本件考案の構成要件ではない。

(二) 被告主張の構成要件(2)について

本件考案は、その出願前に存した小型貨物運搬用モノレールをゴルフコースに沿って巡回するゴルフバッグ搬送装置に転用した点に考案性ありとして特許庁より登録を許されたもので、本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲はもとより考案の詳細な説明をみても、軌条の支柱に対する取付位置を被告主張のごとく限定すべき記載は見当らないし、軌条を支柱上端面の軸線上で支える構成を採ることによる特有の作用効果なるものについての記載も見当らないから、本件考案の「支柱上」とは、支柱の上端面はもとより、支柱の上部側面をも含む「支柱の上方」を指称し、したがって、「支柱上に軌条を敷設してあること」には、支柱の上部一側方で軌条を支えるものをも含むと解すべきである。

(三) 被告主張の構成要件(3)について

本件考案は、従来のゴルフバッグ運搬車が芝生上を牽引又は自走により走行移動するため、折角手入れされた芝生をその車輪によって著しく損傷していること、また、従来のカート専用道がカートの車輪によって芝生を損傷することは少ないものの、専用道部分だけ芝生面を減少させていることに鑑み、できるだけ芝生を損傷せず、かつできるだけ芝生を増大してプレー可能な部分を確保しようとして考案されたものである。

したがって、本件考案が従来のゴルフバッグ運搬車、カート専用道の欠点の克服のために考案されたものであることはいうまでもないが、それ以上に植生された芝生をたとえわずかでも絶対に損傷させないことまでをも所期したものではない。

そもそも、芝生上に多数の支柱を立設した場合には、支柱を立設した部分の芝生が必然的に損傷を受けることになるものであり、本件考案が芝生をたとえわずかでも絶対に損傷させないことを所期したものでないことは、この点からも明らかである。本件考案の所期する芝生の損傷防止、芝生面の増大確保ということも、要は従来のゴルフバッグ搬送手段との比較の問題である。被告の主張は極論にすぎず、「右支柱及び軌条を敷設するに当っては、ゴルフコースに植生されている芝生を損傷させないこと」などは本件考案の構成要件ではない。

したがって、たとえ芝生を削り取って設けたU字溝内の支柱や軌条の装置であっても、本件考案の技術的範囲に属する。

4  被告装置について

(一) 被告が被告装置を販売納入した別紙被告販売目録1ないし11記載の各ゴルフ場に設置されたコース、フェアウェイ、軌道の配置関係が被告主張のとおりであることは認める。

(二) 被告は、本件考案の真の解決課題、作用効果、構成要件を敢えて取り違えたうえで、さらに被告装置と本件考案とを対比し、その差異を種々強調している。

しかし、本件考案はいうまでもなく、その出願前に存した小型貨物運搬用モノレールをゴルフコースに沿って巡回するゴルフバッグ搬送装置に転用した点に考案性ありとして特許庁より実用新案権の登録を許されたもので、被告装置も本件考案と同じくゴルフコースに沿って巡回するゴルフバッグ搬送装置であることに何の変りもないものである。

また、被告は、被告装置が起伏の激しい山、谷、道路、川、池等も点在する地域内において快適でかつ安全なゴルフプレーができるように、ゴルフ場内をプレーヤーの移動に応じてゴルフバッグを循環するよう構成したものであるのに対し、本件考案はそうでないと主張している。

しかし、被告の右主張は本件考案の真の解決手段、作用効果、構成要件を敢えて誤ったことからする謬論である。本件考案もまた、起伏の激しい山、谷、道路、川、池等の点在する地域内において快適でかつ安全なゴルフプレーができるようゴルフ場内をプレーヤーの移動に応じてゴルフバッグを循環走行するよう構成したもので、この点でも両者の間には何の差異もない。

すなわち、本件考案の明細書でも「従来……ゴルフコースの途中に横たわる谷、河川又は湖沼等に架設された橋上に運搬車を走行させる軌道運搬装置があり、更にまた傾斜地の登降用に運搬車を昇降させる軌道運搬装置がある」(本件公報一欄二六行目以下)と記載されていることからも明らかなように、本件考案は、起伏のある山、谷、道路、川、池等の点在する地域にもゴルフ場が存在すること(むしろほとんどのゴルフ場がそうである。)、そしてこのようなゴルフ場においてもゴルフバッグ循環搬送装置を設けようとして考案されたものであることは、いうまでもないことである。

そして、今仮にこのような起伏の激しい山、川等の点在するゴルフ場に本件考案を実施しようとすれば、従来から存した谷、川等に架設された橋上に運搬車を走行させる軌道運搬装置、傾斜地の登降用に運搬車を昇降走行させる軌道運搬装置などと同じく、ゴルフコースに沿う循環軌道装置の一部区間において、

「(2) 歩道、車輛通行路等を横断する部分は、これらの上方にブリッジを架設して、これに支柱を立設し、或いは、これらの通行路を掘削してU字溝を埋設し、その溝底に支柱を立設し、またはU字溝側壁内に支柱を立設し、

(3) 谷間の架橋された橋梁部分は橋梁側方に適宜の横桁を取り付けて、これに支柱を立設」

することにより軌条を敷設することが必要となることがあるのは当然のことであって、このことは敢えてその構成の詳細につき本件考案の明細書中に記載がなくとも、一旦本件考案が考案されれば、自明のこととして採用されるところのものである。

被告は、被告装置の支柱、軌条につき、その大部分が、地上に多数の支柱を立設し、この支柱から横側方に延出させた横腕の先端に地上数十センチメートルの位置に軌条が設置されているものであることを認めながら、

「(ロ) 地上に多数のオーバーブリッジ用の支柱を立設したり、

(ハ) 地中に埋設されたU字溝の底部に多数の支柱を立設したり、

(ニ) 地中に埋設されたU字溝の片側壁から横腕を突設したり、

(ホ) 橋梁の桁梁の端部に多数の支柱を立設し、

(2) これら支柱から横側方に延出させた横腕の先端に

(ロ) オーバーブリッジの場合には、地上約数メートルの位置に、

(ハ) U字溝に設置する場合には、U字溝の上縁と同一の位置に、

(ニ) 橋梁の桁梁に設置する場合には、桁梁から数十センチメートルの位置に

それぞれ軌条を設置し」

ているものであるから、本件考案の構成とは異なると主張している。しかし、被告が主張する右支柱、軌条の設置形態は、本件考案を実施するうえで公知、公用の設置形態を用いるだけのもので、単なる設計上の微差にすぎないものであり、作用効果の点でも本件考案と何ら異なるものではない。

なお、被告は、「被告装置における解決課題は、ゴルフバッグ運搬自走車をして全コースに亘り、プレーヤーに随伴させながら巡回させ、ゴルフコースの全行程に亘って植生されよく手入れされた芝生の損傷を防ぐということとは直接的関係を有しない」と主張するが、被告装置が、ゴルフバッグ運搬車をして全コースに亘りプレーヤーに随伴させること、及びゴルフコースの芝生の損傷を防ぐことのいずれをもその直接の目的としていることは明らかである。すなわち、プレーグランド外或いはプレーグランド内であっても、芝生の植生されていないところに軌条が設置される場合であっても、軌条上のゴルフバッグ運搬車がプレーヤーに随伴しつつ巡回すること(なお、随伴ということの意味は、単にプレーヤーに密着してということではなく、ゴルフプレー中に所望のゴルフクラブが比較的近距離の歩行によってプレーヤーに入手可能になることをいう。)に何の変りもなく、また、従来のカート等と異なり芝生上を直接走行することがないので、芝生の損傷を防ぐことになることも、同様全く変りがないのである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1のうち、本件考案につき、原告ら主張のとおり、原告横山が実用新案登録出願をしたこと、出願公開、出願公告及び登録があったこと、並びに実用新案公報記載の本件考案の実用新案登録請求の範囲が原告ら主張のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》によれば、原告横山が昭和五二年八月一日本件考案につき実用新案登録を受ける権利を原告会社に譲渡し、原告会社は、実用新案法九条二項が準用する特許法三四条四項の規定に基づき、同年八月五日特許庁長官に出願人名義を原告会社に変更する届出をして本件考案につき仮保護の権利を取得し、次いで前記登録により本件実用新案権を取得したことを認めることができる。

二  前記争いのない実用新案公報記載の本件考案の実用新案登録請求の範囲並びに成立に争いのない甲第一号証の一、二(本件公報及びその補正の公報)によれば、本件考案の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。

(1)  ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設し、

(2)  右支柱上に軌条を敷設し、

(3)  右軌条は、ゴルフバッグを運搬する自走車輛を前記ゴルフコースに沿って巡回走行させるものである

(4)  ゴルフコース用ゴルフバッグの搬送循環軌道装置

三  前掲甲第一号の一、二によれば、本件考案の解決すべき課題は、「ゴルフコースに植成された芝生を損傷させることなく、しかも人手を省いてゴルフバッグを運搬する」(本件公報一欄一九行目ないし二一行目)こと、すなわち「ゴルフコースにおいては、全コースに亘ってよく手入れをした芝が植生され、該芝生を最良の状態に保全管理するためには多大の労力時間および費用を必要としているにも拘らず、ゴルファのプレーに際しては、クラブを入れたゴルフバッグ運搬車(別名カートという)がゴルファとともにゴルフコース内を巡回しなければならないため、該運搬車は前記芝生上を牽引又は自走により走行移動するので、折角手入れされた芝生をその車輪によって著しく損傷している。そしてこの損傷した芝生を植生育成することは自然条件に委ねざるを得ないので相当の日数を要する。」(本件公報一欄三四行目ないし二欄七行目)という従来のゴルフバッグ運搬車の欠点を除去することにある、と認められる。

そして、本件考案が少なくとも原告ら主張の請求原因2(二)記載の作用効果を奏するものであることは当事者間に争いがなく、右事実と前掲甲第一号証の一、二によれば、本件考案の作用効果は次のとおりであると認められる。

(1)  ゴルフバッグを搭載した自走車は、循環軌道を何らの人力を要することなく、全ゴルフコースに沿ってゴルフプレーとともに操向移動するので、プレーヤー又はキャディは、自走車の操向移動に対して労力および格別の注意力を全く払うことなく円滑かつ完全に操作することができる。そのため、プレーヤー自身によってゴルフバッグを自ら円滑に搬送しながら本来のゴルフプレーに専念でき、コースを巡回することが可能である。

(2)  自走車は、人力によることなくかつ軌条に案内されて常に正しい姿勢で走行しているので、特に起伏のあるゴルフコースにおいても逸走、転倒する恐れもなく、したがって人身事故につながる危険は全くなく、安全にコースに沿って巡回走行できる。

(3)  自走車は、直接芝生上を走行移動せず、軌条上を走行移動するので、ゴルフコースのプレーグランド全面に芝生を植生しても、自走車の走行移動によって何ら芝生に損傷を与えることがない。

(4)  ゴルフバッグ運搬車の走行移動のためにゴルフコースの芝を削り取ってカート道等の専用舗装道路を造成する必要もないから、芝生の植生されたプレーグランドは増大し、プレー可能なゴルフコース芝生面を十分確保することができる。

(5)  軌条は支柱によって架設されているから、地上障害物に阻害されることなく円滑に自走車を走行させることができる。

(6)  自走車の車輪を直接ゴルフコースの芝生の上で移動させないから、ゴルフコースにおいて最も大切な芝生を全く損傷せず、ゴルフコースを最良の状態に保全してプレーヤーのプレーを快適にし、さらにコースの芝の育成、保全管理に要する労力、費用等を著しく軽減する。

四  被告が業としてゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置(被告装置)を製造、販売したことは、当事者間に争いがない。

被告装置に自走車輛が含まれるか否かにつき当事者間に争いがあるところ、本件考案は前記のとおり「ゴルフバッグを運搬する自走車輛を……巡回走行させる軌条」が構成要件の一つとなっており、自走車輛が存在しなければ本件考案の目的を達成し得ないことも明らかであるから、自走車輛は本件考案の「ゴルフコース用ゴルフバッグの搬送循環軌道装置」の一構成要素であるというべきである。そして、《証拠省略》によれば、被告はゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置として軌条装置のみならず、自走車輛をも合わせて製造、販売しているものと認められるから、被告装置は自走車輛を含めて特定するのが相当である。

《証拠省略》によれば、被告装置のうち自走車輛を除く部分の構成は別紙「被告の製造販売に係る装置の目録」記載のとおり(ただし、同目録一の一行目に「約三五%ないし約五〇%に相当する部分」とあるのを「一部」と訂正する。)であり、自走車輛については別紙被告製品目録の図面第1図ないし第3図のとおりのものであると認められる。

五  そこで、被告装置が本件考案の技術的範囲に属するか否かにつき検討する。

1  被告は、本件考案は公知技術そのものか、公知技術に極めて近接した技術思想に関するものであるから、その実用新案登録請求の範囲は、技術的範囲を極めて厳格に解釈すべきであり、考案者が明確に認識し、かつ実用新案登録出願の明細書に明確に開示した技術に限定されるべきである旨主張する。

そこで、被告主張の公知技術について検討する。

(一)  カートの循環搬送装置について

《証拠省略》によれば、本件考案の出願前に、ゴルフコースに沿ってカート専用路を設けること及びゴルフバッグ搬送用自走車は公知であったことが認められる。

しかし、本件考案は、前記認定の解決すべき課題及び作用効果から明らかなとおり、従来よりゴルフコースに沿ったカート専用路やゴルフバッグ搬送用自走車が存在することを前提として、その欠点を除去するために、支柱上に軌条を敷設し、軌条の上をゴルフバッグ搬送用自走車を走行させる構成としたものであるから、右公知技術とは技術思想を異にすることが明らかである。

(二)  ゴルフ場又はゴルフ練習場における支柱上軌条搬送装置について

(1) 《証拠省略》によれば、昭和四一年頃から傾斜地のみかん園等果樹園において、収穫した果実の運搬用にモノレール方式を利用した搬送装置が使用されてきたことが認められる。

しかし、前掲甲第一号証の一によれば、本件公報には「従来、果樹園等における集果運搬手段として集果運搬車を走行させる軌道運搬装置があり」(一欄二四、二五行目)と記載されていることが認められ、本件考案は右のような軌道運搬装置の存在を前提として、これをゴルフコース用ゴルフバッグ搬送循環軌道装置に応用したものともいえるけれども、右公知の果樹園におけるモノレール方式の搬送装置は、運搬作業の省力化を目的とするもので、ゴルフ場とは何ら関係がなく、本件考案とは解決課題を異にし、本件考案の「ゴルフバッグを運搬する自走車輛をゴルフコースに沿って巡回走行させる軌条を敷設」する構成を開示するものでないことは明らかである。

(2) 《証拠省略》によれば、昭和四三年九月一日発行の荷役機械カタログ集にゴルフ場で使用されている双軌条のゴルフリフトの写真が掲載されていること、昭和四四年五月一日発行の「ゴルフ場セミナー」にも同様の写真が掲載されていることが認められるが、これらの写真によれば、右ゴルフリフトはゴルフバッグのみならずプレーヤーも運搬するものであり、しかもゴルフコースに沿って巡回するものではないことが明らかであるから、本件考案の「ゴルフバッグを運搬する自走車輛をゴルフコースに沿って巡回走行させる」という構成を開示するものではない。

(3) 《証拠省略》によれば、昭和四三、四年頃松山市の道後ゴルフクラブにおいて、グリーンとティグランドを結ぶ傾斜地でゴルフバッグを乗せた電動カートをそのままモノレールに乗せて運ぶ装置が存在したことが認められる。

しかし、右装置も本件考案とは技術思想、構成を異にすることは明らかである。

また、《証拠省略》によれば、昭和四三、四年頃右道後ゴルフクラブにおいて、照明設備を設置し、夜間のゴルフを可能とする計画が立案され、同クラブの古茂田専務の提案により訴外米山工業株式会社においてゴルフバッグ搬送のためゴルフ場にモノレール装置を設置することを計画したが、夜間照明設備の経費の点で右計画が中止されたこと、昭和四四、五年頃松山市内のモノレール製造業者の間でゴルフ場にゴルフバッグ搬送用のモノレール装置を設置することが話題になったことがあったが、キャディの反対が予想されたり、ゴルフコースの美観を損なうおそれから具体化しなかったことが認められる。

しかし、右のような事実があったとしても、モノレール装置の具体的構成は明らかではなく、本件考案の構成を開示した公知技術として評価することはできない。

(4) 《証拠省略》によれば、昭和四六年一〇月頃高知市の朝倉パブリックゴルフ場において、傾斜地の多い山岳コースである同ゴルフ場の芝補修の機材等の運搬を主たる目的とするモノレール装置が設置されたこと、右モレノール装置は九ホールからなる同ゴルフ場の各ホールに右機材等を搬送できるよう軌条が敷設されていたが、循環式にはなっていなかったことが認められる。

しかし、右装置はゴルフバッグを運搬することを目的とするものではなく、ゴルフコースに植生された芝生を損傷させないことを解決課題とするものでもなく、軌条が循環式に敷設されていない点でも本件考案と異なることは明らかであり、本件考案の構成が開示されているものということはできない。

(5) 《証拠省略》によれば、昭和四七年三月頃千葉県成田市所在の成田ゴルフセンターにおいて、練習場のフィールドに散乱したゴルフボールの回収を目的としてフィールド内に立設した多数の支柱上に軌条を敷設し、フィールドから管理室まで右軌条上を原動機を搭載した牽引車にゴルフボール搬送用の荷台車を牽引させるモノレール形式の搬送軌道装置が設置されたことが認められる。

しかし、右装置もまた、本件考案とは解すべき課題を異にし、構成が相違することは明らかである。

(三)  軌条を敷設した支柱について

《証拠省略》によれば、軌条が、互いに平行な上下二本の水平パイプ及びその両端部の垂直パイプを一体に連結して形成したレール体を、右垂直パイプ下部に連結片に突設した二本の突軸を嵌挿することにより、連絡する構成から成るモノレール装置の発明が特許公報(昭和四五年七月一〇日公告)に開示されていることが認められる。

また、《証拠省略》によれば、下面にラックを有するレールをその上下両面において挾持するように複数組の車輪を配した自走式単軌道運搬装置(軌条は取付部材によって支柱の上部付近の一側方に支持される。)の発明が特許公報(昭和四六年一〇月二七日公告)に開示されていることが認められる。

しかし、これらの発明もモノレール装置自体についての改良発明にすぎず、本件考案のごときゴルフコース用ゴルフバッグの搬送循環軌道装置に関するものではなく、そのような技術的手段を示唆するものでもない。

(四)  以上のとおり、被告主張の公知技術は、いずれも本件考案とは解決すべき課題又は構成を異にし、せいぜい本件考案の構成の一部を開示するものにすぎないから、本件考案がいわゆる全部公知に該当するものと認めることはできない。

(五)  また、被告は、本件考案は公知技術の寄せ集めにすぎず、これらの公知技術に基づいて当業者が極めて容易に考案することができた旨主張する。しかし、特許権・実用新案権侵害訴訟において裁判所が発明・考案の進歩性の有無について判断することは、進歩性の判断が出願時の技術水準を把握したうえで公知技術から当該発明・考案を容易に(特許の場合)又は極めて容易に(実用新案の場合)予測できたものであるか否かを検討してなされなければならないことに鑑みると、その性質上通常困難であるといわざるを得ず、進歩性の欠如が明白であるような場合はともかくとして、一般には発明・考案の進歩性の欠如を理由にその技術的範囲を限定的に解釈することは許されないものと解するのが相当である。しかも、本件考案は、前述の構成をとることによって、先に列挙した公知技術にはみられない独自の作用効果を奏するものであり、従来の公知技術に基づいて当業者が本件考案の技術的課題及び全体の構成を極めて容易に予測できたことが明らかであるとは断定することができない。

よって、被告の前掲全部公知・推考容易による限定解釈の主張は採用できない。

2  本件考案の構成要件中「ゴルフコースに沿って」の意味について

(一)  本件考案は「ゴルフコースに沿って」多数の支柱を立設することを構成要件の一とするものである。

前掲甲第一号証の一によれば、本件公報の考案の詳細な説明には、「ゴルフコース」とは「単位ホールおよび多数の単位ホールを順次連結した連絡通路からなる」ものであることが記載(二欄一九、二〇行目)されていることが認められ、各単位ホールは、ティグランド、フェアウェイ、ラフ(フェアウェイとラフを合わせてスルーザグリーンと呼ばれる。)、ハザード、グリーンからなり、ティグランドとグリーンの中間では、よく手入れした芝生が植生されているのはフェアウェイであることは、公知の事実である。

ところで、前記認定の本件考案の解決すべき課題及び作用効果に照らせば、本件考案におけるゴルフバッグを搭載した自走車は、プレーヤーに随伴し、「全ゴルフコースに沿ってゴルフプレーとともに」巡回走行するものであるとともに、自走車の走行によって芝生に損傷を与えることもなく、しかも芝生を削り取って専用舗装道路を造成する必要もないものである。右のとおり、本件考案は、従来のプレーヤーに随伴して「ゴルフコース内を巡回」していたゴルフバッグ運搬車(別名カート)の欠点を除去し、これに代替することを目的とするものであるから、ゴルフコース中の芝生を植生、保全しておらず、したがってその損傷を防止する必要のない部分に自走車を走行させるのであれば、そもそも解決すべき課題を欠くことになるといわざるを得ないし、各ホールのコース外を走行させるときは、プレーヤーに随伴するともいい難くなる。前掲甲第一号証の一によれば、本件明細書の図面に示された実施例も、循環軌条がすべてスルーザグリーン(及び連絡通路)上のみに敷設された構成となっていることが認められる。

以上の事実からすれば、本件考案の構成要件の一である「ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設し」のうちの「ゴルフコースに沿って」というのは、各ホールのティグランドとグリーンの間においてはフェアウェイ上か又は少なくともフェアウェイとラフの境界付近を意味するものと解するのが相当である。

なお、原告らは、本件考案の明細書に「軌条8はスルーザグリーン2の側方に沿設されているから、ゴルフのプレーに支障を与えることなく」(本件公報三欄二五行目以下)と記載されているとして、軌条が芝生の植生されていない部分にも設置されることが明細書自体において明確にされていると主張する。しかし、前掲甲第一号証の一、二によれば、原告らの右主張部分の記載は公告公報には記載されていたが、出願公告決定後の補正により削除されたことが認められるから、原告らの右主張は失当である。

(二)  これを被告装置についてみるに、被告が被告装置を販売納入した別紙被告販売目録1ないし11記載の各ゴルフ場に設置されたコース、フェアウェイ、軌道の配置関係が別紙被告装置配置図1ないし11記載のとおりであることは当事者間に争いがない。右各図面に示された被告装置の軌条、したがって支柱が立設された位置は、各ホールのティグランドとグリーンの間においてフェアウェイ上ないしその側近の場合もみられるが、いずれにおいてもフェアウェイを離れ、さらにはOB線の外側を軌条を通過する部分も少なからず存在することが認められる。

3  本件考案の構成要件中「立設し」の意味について

(一)  本件考案の構成要件の一である「ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設し」のうちの「立設し」とは、その文言自体及び前記認定の本件考案の作用効果(4)、(5)のほか、本件明細書の図面をも参照すると(前掲甲第一号証の一参照)、支柱をゴルフコースの地表面より上方に突出させて設置することを意味するものと解するのが相当であり、土中に埋設されたU字溝の底部から支柱を立設したり、U字溝の片側壁から横腕を突設して軌条を支持したりする態様のものは、本件考案の考案者の認識限度を超えたもので、本件考案の構成要件にいう「立設し」にはあたらないものというべきである。そして、その支柱の立設は、前記「ゴルフコースに沿って」の要件と併せ考えると、前記各ホールのティグランドとグリーンの間に設置されるものはすべてゴルフコースの地表面より上方に突出させて設置するという態様で設置することを要するものと解すべきである。

(二)  被告装置は、前記認定のとおり、軌条の一部が別紙「被告の製造販売に係る装置の目録」記載の二の③、④のごとく土中に埋設したU字溝が使用されているものであり、右部分は支柱がゴルフコースの地表面より上方に突設されて設置されていることにはならない。前記の別紙被告装置配置図1ないし11によれば、被告が前記各ゴルフ場に販売納入した被告装置は、いずれも相当多数のU字溝設置部分(場合によっては連続して)が存在することが認められる。

4  したがって、被告装置は、本件考案の構成要件(1)「ゴルフコースに沿って多数の支柱を立設し、」を充足しないから、本件考案の技術的範囲に属するものとは認められない。

六  よって、原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 露木靖郎 裁判官 小松一雄 青木亮)

<以下省略>

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